私がブログに「殺せ」と書いた理由  長谷川豊さんに聞く

 

 

 元フジテレビアナウンサーでフリーとして活躍していた長谷川豊さん(41)は昨年9月、「自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ!無理だと泣くならそのまま殺せ!」と題してブログに投稿して批判が殺到、レギュラー8番組すべてを降板した。なぜ過激な言葉を使ったのか。本人に聞いた。


 ――ブログ炎上で仕事を失った。いまどう受け止めているか。

  スッキリした。アナウンサーだから、内容や言葉遣いがあまりに攻撃的で行き過ぎていたと悩んでいた。どこかで止めてリセットするチャンス、いい機会だった と思う。降板も自分への戒めとして受け入れようと思った。41歳、3人の子持ちでニート生活。仕事ゼロ。それでいいんです。多くの人に迷惑をかけたんだか ら、ペナルティーがないと。あんな文言を書いてページビュー(PV)稼いでいるやつが罰せられなかったら、まじめに記事書いているブロガーがかわいそうで す。


 ――なぜ激しい言葉を使ったのか。

  経費問題でフジを辞めた経緯についてブログで書くため、ネットの世界を見渡すと、局アナから見るととんでもない文言が並んでいた。最初はまともな言葉で書 いたが、全然読んでもらえない。(ネットの)先人に「過激なのがネット」「もっと過激な言葉で本音を書いたら」と助言された。かなりきつめの言葉を使った り、あえて人とバトルしている様子を演出したりしていくと、分かりやすくPVが伸びた。「バカだ、アホだ」なんて言葉を使う日が来るなんて、局アナ時代は 想像していなかった。「こんな表現していいのか」と思いながらも、エスカレートしていった。

  透析患者の問題は、社会保障給付費という何度も真剣に考えたテーマ。これを書くとき、「保育園落ちた日本死ね!!!」のブログを思い出した。とんでもない 言葉だけど、あの言葉だから国会に取り上げられたのも事実。「日本死ね」の過激な文言で周知されると選挙の争点になり予算が組まれる。結果、働く女性が助 かる。ネットでは信じられない(ような激しい)言葉だから刺さると思った。キャスターという立場なのに周りが見えなくなり、「少しでも拡散してもらいたい な」と。「死ね!」だとそのままになっちゃうから「殺せにしちゃおう」と単純に思った。いま思えば、ネットに完全にのまれ、マヒしていた。


 ――これまでに最も閲覧数が多かったのは?

  退社直後の19日間で2400万PVを集めた。そのあとブログは最終的に3300万PVに達した。僕はフジに出す領収書の費目を書き換えていたので、処分 されて当然だったと思いますが、一部週刊誌に「横領」と書かれた。「横領ではないから反論させてほしい。これでは子どもがいじめられてしまう」と会社に相 談したが、「言いたいことがあれば辞めてから言え」と言われて、フジを辞めた。その翌日から当時の人事担当とのやりとりのメールを公開し、経緯の説明を始 めた。

 ブログには1日2千件の応援メッセージがきて、(感激した)妻は泣きながら読んでいた。子どもたちがいじめられずに済んだ。ネットが救ってくれたという感謝の気持ちがある。


 ――今回の投稿による炎上は想定内だったのか。

  思った通り、お叱りという名の拡散が広がって「よし!これで少しでも知ってもらえる」と。ところが、この問題と関係ない一部の人間たちが、私の出演してい たテレビ番組のスポンサー攻撃を始めた。「透析患者は大半高齢者だから、僕のお父さんお母さんはまじめに働いてきた透析患者で何も悪くないんですと書くと 効果的(笑)」みたいなテンプレートが拡散した。テレビ大阪のスポンサーには、1日200件以上苦情が来たと聞いた。

  各局最初は静観していたが、企業がスポンサーを降りることになって、番組も慌てて僕の降板を決めた。「テレビ大阪、読売テレビは潰した。ラスボス(最終的 な敵)はMX(テレビ)だ」と拡散している人間の中では言われていた。彼らはゲーム感覚だから、いまはまったくさっぱり忘れている。クリアしたら終わりだ から。

 私の長男、次男、長女、妻の実名が入った殺害予告の脅迫メールも来た。警察がIPアドレスを追跡したが、ある関東近郊の公立図書館は30分に1回ログを消して追跡できないようになっている、しかもそのうち何台かは防犯カメラの死角。彼らはここから書き込んでいた。


 ――過激な文言だけを切り取られることを予見できなかったのか。

 人工透析患者は過去2回取材し、苦しみはよく分かっている。彼らを傷つけるような形で拡散するとは思わなかった。


 ――投稿の背景にはある種の「正義感」があったのか。

  それもあった。それ以上に子どもたちのこと。僕たちの世代は、親世代から良い日本を受け継いでいるが、小学生の子どもたちに渡す日本はどうなるんだろうと 思った。計算上、年金がもらえるわけがない。将来の社会保障や医療は今の水準で受けられない。算数でも分かる。この状態の日本を子どもたちに渡すのかと、 子どもの寝顔を見ながら思っちゃった。「かっこわるいな」と。

ごまかし続けて、この日本をそのまま渡す気かと思っちゃった。人工透析は、近年、医療費の中でも突出して増加率が高いという問題意識もあった。


 ――透析患者全員を社会で包摂しようとは思わないのか。

 先天性の方々は絶対みんなで最期までカバーしなくてはならない。一時自暴自棄になったりして、透析に至った人たち、反省している人たち、これはグレー。彼らも守ってあげるべきで す。一方で、取材した関東の透析専門病院では、5年も10年も医師の先生から言われたことを一切聞かず、処方された薬も使わずに暴飲暴食を繰り返し、最終 的に人工透析に至ったにもかかわらず、僕の目の前で「お前らこの病院がもうかっているのはな、俺らの透析のおかげだろうが感謝しろ」と言って看護師のお尻 を触る患者がいた。

  こういう一部のモンスターペイシェントが残念ながらいる。ある医師から「モンスターペイシェント2、3人のために、ほかの透析患者に手が回らない。実際、 お金は入る。それが病院の富になるのは確かだけど、これを若者たちの税金でまかなっていたら、国の医療費は絶対持たない」と聞いた。ほかの患者に迷惑をかけている人たちにはペナルティーを科す、それくらい考えなくてはいけないのではないかと思った。家に帰ってその怒りの温度感で書いてしまったのが、あのブログ。今考えると温度が強すぎた。誤解を招きかねない。良くなかった。


 ――その人たちにしても好きでそうなったわけではない。人間誰しもそうなる可能性はあるのでは。

 それでは、窃盗や殺人、覚醒剤なども全部心が弱いからということになってしまわないか。社会には一定の線引きは必要だと思う。それは他者に迷惑をかけているかどうかだ。彼らのせいで他の患者への対応に支障が出るなら、だったらペナルティーは必要だと。


 ――表現に抑制をかけることはできなかったのか。

  8本のテレビレギュラーと約30本のネット連載をかかえ、この3年で本を6冊出して、昨年34回の講演会に呼ばれた。しかも週に1回は取材に行った。子ど もと食事するのは月1回。朝、目が開かないうちにパソコンを開いていた。フジを辞めたら仕事は来ないと思ったら、次から次へと仕事が来て幸せ者だといいな がら、全部受けたらこうなった。3年半で休日は3日。睡眠は毎日1、2時間、多くて5、6時間。車も自分で全部運転して。最初は楽しかったけど、そのう ち、これ死ぬかもと思った。でも契約があるから辞められない。追い詰められる中で、冷静になれば誰もがこれはまずいだろうと分かることすらも分からなく なっていた。


 ――背景には、どんな欲望かあったのか。

 僕は高校時代、演劇集団を立ち上げて県で優勝したが、演出とか音響とか最後まで裏方。役者や女子アナには「人前で目立ちたいなんて変態だ」と言ってきた。僕は競馬の実況がやりたくてアナウンサーになった。

  世に影響を与えたいという潜在的な欲求は絶対あった。自分の作品を出すこだわり。なのでブログでも頑張って演出を利かせていたところはあった。自分のキャ ラクターでは使わない言葉を使えば見てもらえるんじゃないか、と。それは存在の承認欲求に近いんじゃないでしょうか。自分の作品をみて多くの人に議論して もらったり、助かったりする人がいる、ってのは遠回りの承認欲求だと思う。批判でもいい。批判も認めてもらうことですから。


(聞き手・木村尚貴、赤田康和)


2017年1月7日18時34分 朝日新聞デジタル


他人の立場にたって考えることができない人間が、大手メディアのアナウンサーになって社会の事象を斬っていた。これが、フジテレビ、ひいてはテレビ局のDNAだとおもうと、もうテレビを見ることは不可能にちかい。

テレビは視聴者の立場に立って放送しないからこそ、やらせ、ねつ造、過剰演出、ステマも起きるんだなと了解した。

やらせやねつ造をされると、視聴者が迷惑することくらい想像できるだろうに…



追記:

「殺せ発言は、フジテレビのDNA」長谷川氏


日経ビジネス:意図的に煽っていた部分があったのですか。
長谷川:そうですね。意図的に煽ることでエンターテインメントのような見せ方を狙っていたところがあったのだと思います。やっぱり僕はどこまでいってもテレビ屋で、フジテレビのDNAというか、楽しくなければ、面白くなければ発信しちゃダメだと考えているところがどこかにありました。真面目に書いた論文なんて誰も読まない。誰も読まない文章は発信していないのと一緒ですよと。僕は無関係の人に関心を持ってもらう努力はすべきだと思っています。サービス精神というか、それが走り過ぎた部分はありました。

2016年10月12日(水)日経ビジネスオンライン