聖 魔 伝
〜朝日ソノラマ・マンガ少年1976.9月創刊号〜79.1月号連載〜
(原作/桂真佐喜<辻真先>)

『魔獣戦線』を経た石川賢が原作者を得て、自ら「スト ーリーマンガの描き方を知った」という愛と憎悪の物語。絵柄、描写、スピー ド感ともに、石川賢最初の頂点がここにあるっ!


朝日ソノラマ・サンコミックス<マンガ少年傑作シリーズ>(全4巻)

1巻/1977.10/25初版発行
2巻/1977.12/26初版発行
3巻/1978.10/25初版発行
4巻/1979. 1/25初版発行

原作の桂真佐喜は「マンガ版デビルマン原理主義者」憎むところのアニメ版 『デビルマン』のメインライター・辻真先の変名である。コトあるごとに、冗談 混じりに原作がああ言う暴走をしたことについて「犯罪的」とつぶやいてらっし ゃるが、そんな因縁の<神と魔>のテーマに敢えて挑んだのがこの作品。

そして文庫版のあとがきによれば、石川賢もまた『デビルマン』の影響下にあって 自らのものにせん、と描いたものだと語る。

それゆえに、豪ちゃんが明と了の愛と憎悪の戦いにて相対化してみせた「善と悪」 の問題を、真正面から消化している!あまり記号化して論じると、マンガの持つ妙 が台無しになるが、あえて。

まず「聖魔伝」そのものが持つ世界観として、「ものみなうごかぬぜったいれいど」 との冒頭の言葉がある。長らくここでこの言葉を辻真先が選択した意味が分からなか ったのだが、ふと思うに「これぞ真理」と言う意味なのではないか。この作品で描かれる 果てこそが、唯一動かぬ原作者の信じるものだと。

純粋であるが、姿は醜く馬鹿力しか持たないユンク。頭脳明晰、妖しい魅力を放つ 超能力少女テレサ。二人は双子の姉弟である。二人の母・朝子は謎の海難事故に巻き 込まれ、意識不明のまま二人を産み、今も植物人間の状態で生きながらえていた。 刑事で朝子の父・剛造は彼らの面倒を見ながら暮らしている...。そんな謎を秘めなが らもつつましい生活から話は拡がり、学園マンガを経て、やがて神と悪魔達が繰り広げ る永劫の戦いに読者を巻き込んで行く。


朝日ソノラマ・サンワイドコミックス(全3巻)

1巻/1984.5/31初版発行
2巻/1984.6/25初版発行
3巻/1984.7/20初版発行
この段階で一こま1ページ単位で計3ページの加筆が成された。

ストーリーは現行単行本をマストゲットして頂くとして、構造の話である。 まず、朝子がユンクとテレサを産んだのは正に「処女受胎」である。また、 ユンクは堕天使ルシフェルのワナに掛かり、人間たちの手で自身の人間とし ての生涯を終える。神の一族として、甦るユンク。これはもちろん『新約聖 書』からの引用であろう。ただし、朝子(=聖母マリア)はユンクとテレサが 生まれるために事故に巻き込まれたに過ぎず、読者が幾ばくか期待を寄せて いる人類破滅に貢献する者ではない。「聖」でも何でもない存在なのだ。

ユンクとテレサは永遠の戦いを続ける神と悪魔の両頂点、天使ガブリエルと 悪魔リリスの愛の結晶であった。では憎悪の方はと言えば、神と魔たちの戦 いであり、人間同士の滅亡に向けたバカ騒ぎである。こと視点を人間に限っ て言うなら、ストーリーの中で黙示録的な形で終末を迎え、人間の生きる次 元そのものが消え失せてしまう。ここまではデビルマンと同じだ。

愛と憎悪は不可分であり、どちらかに生きることは出来ない。了が愛そうとも、 明は闘わずにおれないのだ。破滅のシナリオの中で愛に気付いた瞬間。それが デビルマンの幕切れである。だがそれを成就する間も、互いを癒す間もなく終 結してしまう皮肉こそがデビルマンという物語だった。

一方聖魔伝は、そこで終わらなかった。神と悪魔に分かれて、闘う二人。それは 「ぜったいれいど」の物語の中で逃れられない宿命だ。そこには福音も破滅から の救いもない。人間はルシフェルの仕掛けであっさりと絶滅するし、そのルシフ ェルすらガブリエルとリリスの戦闘に巻き込まれて死を迎える。そこには意味な ど拒否するかのような血まみれの闘いがあるのみだ。描かれるべきは破滅なのか?


朝日ソノラマ・サンスペシャルコミックス(全1巻)

1992.2/29初版発行

否、である。「業」として互いを憎むのも生きることなら、また「愛」も然り。 それは互いに存在するだけなのだ。一見非常に難解な形で描かれてはいるが、 この物語は最後には読者とともに過ごした時間をも相対化してしまう。ラスト を迎えた段階で、ガブリエルとリリス、ユンクとテレサが愛に生きるために 「どこかへ」向かうところで終わるのだ。それは時空をも超越した、純粋な愛 の世界である。が、それは闘いの終結を意味するものではない。別の時空間で は相変わらずガブリエルらもユンクらも、人間達も神も悪魔も血を流し続けて いる。己のエゴをむき出しにして。

あらゆる時空間にある愛と憎悪の形。それら全体が『聖魔伝』という物語すな わち「ぜったいれいど」である。それらに必要以上に隠された意味はない。善 も悪も愛も憎悪も何もかも融け合った混沌があるのみだ。


現行・講談社漫画文庫(全2巻)

1巻・1998.7/10初版発行
2巻・1998.7/10初版発行

タイトルが『セイントデビル -聖魔伝-へ。デビルマンブームの影響か?
2章のタイトル「逢間家の双生児」が「大間家の...」に変更され、
7章の聖書の上に打たれた写植「それは紀元1世紀半ごろ布教者ヨハネの描いた未来図 である...」が落ちた。


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