GOEMON 戦国忍法秘録 五右衛門

コミック乱-TWINS-(リイド社)8月号〜07年1月号

『五右衛門』単行本表紙
〜リイド社 全1巻(2007.5.26初版発行)〜

戦国の世。天下統一を企む織田信長の軍が、突如として伊賀の忍の里を襲う。ほぼ皆殺しに等しい虐殺の中で、その超強力な肉体と手段を選ばぬ戦いぶりで生き残り、信長への復讐に挑む忍。その名は、「石川五右衛門」。伊賀の里を信長が狙った理由は?そのカギを握る巻物を巡って、下克上の戦国時代に武将から下忍までが入り乱れルール無用の闘いが始まる…。

…石川賢先生の最新単行本にして絶筆作品である。2007年4/26発売。

カバーイラストは本編中の印象的な絵から再加工されて制作されている。また、あとがきは盟友・永井豪先生によるモノ。『あばしり一家』に始まる石川先生にまつわる想い出や、『魔界転生』という転機、五右衛門が到達したであろう方向性などを語っておられる。豪先生自筆による五右衛門や賢先生の似顔絵は愛に満ち溢れたタッチだ。

この単行本収録分によれば、史実上では石川五右衛門を釜茹での刑に処した豊臣秀吉が、実は五右衛門と同じ忍の里の出であるコトが明かされる。蔑まれ、世の影にのみ生きる忍者の時代に終止符を打ち、自らを頂点とする忍が天下の時代を作ろうとしている。秀吉はそのために徳川家康と明智光秀と密談、そこへ幻術師・果心居士という大スターまで現れ、役者が揃ったところでの絶筆。

物語の重要な小道具となる巻物全2巻「万龍眼宙秘録」は未来への予言とそれを読み解くカギがそれぞれ記され、それらを読む能力のある人間以外には理解できない内容だ。世の仕組みが「読める」コトを望む勢力代表・秀吉とあくまで運命は自ら切り拓くのを是とする自由人・五右衛門の因縁がタテ筋として、戦国時代のトピックがいかに織り込まれていくのか、実に楽しみだった。ナニよりも、賢先生ご自身が、「自分と同じ苗字の五右衛門を描きたい」とあえて選んだ題材だったから。

2006年9月号、連載二回目にして表紙を飾った この作品において、主人公・五右衛門はほとんど肉体的には不死身の魔人である。どうやらラストのページで明かされた、背中の異様な曼荼羅模様の刺青がその理由を暗示していたようだ。忍びのルーツ、天下を治める何がしかの法則、運命、時間。それは『虚無戦記』にも連なりうる世界観。あるいは石川バイオレンス最初の頂点『魔獣戦線』にもつながる図式が垣間見える。不死身の主人公が復讐を糧に、宇宙・空間の全てを統べる「法則」ないし「神」に挑もうとするピカレスク・ロマンである。

人の生死や時間まで支配する神の誕生のキー・真理阿を手に戦う慎一の性格設定や行動原理は、非常に五右衛門に近い。頼るのは己の生き残る力、肉体唯一つである。ココに石川オリジナリティーを見出すとすれば、明らかに原点回帰を志向されていたのではないか。

五右衛門に襲い掛かる刺客の描写にもある共通性が見えて、主人公の運命を見るコトの出来る老人の死〜そこへ悲しむ暇もなく襲い掛かる敵〜その姿は羽根をまとった強大な男。意図的か無意識か、真の闘いのゴングは実に似たシチュエーションで開幕している。より、主人公の破壊力は上がっているが。

…だが、哀しいかな『五右衛門』で語られたのは、豪先生があとがきで語るようにプロローグである。恐らくは自己の作品を踏み台にして、枯れない・錆びない賢先生は更なる高みを目指していたのではないだろうか。より広くどこまでも拡げられる風呂敷はその結びを解いただけでその深奥を我々に見せないまま、先生は逝ってしまった。それでも、その端緒だけでも読んで色々と妄想する自由。賢先生がそれを下さっただけでも、ファンとしては良しとすべきなのかもしれない。


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