ズバ蛮
〜週刊少年サンデー 1971.7/4〜12/26号連載〜

現行版:メディアファクトリー永井豪華版(全2巻)

朝日ソノラマ サンコミックス(全3巻)
朝日ソノラマ サンワイドコミックス(全2巻)


戦国時代、親も兄弟もなくたった一人で己の怪力無双を武器に闘って生きてきた豪傑・ズバ蛮の物語。ひとことでいうとソレだけのハナシなのだが、ストーリーだけで漫画読むヤツなんて豪ちゃん読んじゃいけない。

それにしても...


何故かこの作品、豪ちゃん自身を始め、豪評論関係にあまり現れない。1999年2月刊行開始の「永井豪華版」レーベル第一号を飾ったのはめでたい限りである。ある意味豪ちゃんらしい作品だと思うのだが。更に後、色々な作品へ現れるモチーフが含まれているにもかかわらず、である。

「豪ちゃんらしい」てのは、連載中に作者自身が思いもよらぬ方向へ興味を持ってしまい、暴走するところ。そのアドリブな展開に身を任せてこそ豪ファン!四の五の言うな!てカンジ。大体開始早々腹が減っただけで、

へっ!なにが武士らしくだ!ぐだぐだぬかすな!
生き方に理屈はいらねえ!
俺はおもしろく生きてやる!

なんつって腹減ったから足軽の弁当盗っちまうのである。こんな主人公最低である。OK!


で、豪傑ズバ蛮が闘いを共にする仲間と出会った頃から急展開。オルレアンの天使ジャンヌ・ダルク、春秋戦国時代に生まれたくてしょうがなかった関張飛・隠匿だコノヤロー!、アフリカ人・ゴロンゴと友のライオン・シンゴ、インド人・ヒモジー、ネイティブアメリカン・ジェロヤッコ、ズバ蛮の子分・チョンボ。

対するは非情の男・死臭丸率いる特殊能力集団「百鬼一族」!頭領死臭丸は実は、戦国統一を目指す武士・織田信長なのだ。

これにズバ蛮の命を狙う幼なじみ・風魔忍者の雪ちゃんコト雪丸なんて入ってきて、もう渾然一体。雪ちゃんはしかし、名前から想像できるように(笑)、脱ぎ専門だったりする。さっすが永井GO!

ジャンヌは巨大化するは、フェイクとはいえ雪ちゃん切り刻まれるは、源義経や武蔵坊弁慶達ゾンビ武将との決戦はあるは、ズバ蛮達は角生やされて百鬼に洗脳されるは...でとにかく飽きない。その驚愕の展開は、文字にしたところで10%も伝わらないので読んでくれいっ!としか言い様がない!

洗脳されたズバ蛮たちだが、ライオン・シンゴの野生の本能が主人・ゴロンゴの刃が向いたときに発揮される!サイコジェニーのようなテレパス脳味噌オヤジを倒すシンゴ。洗脳の解けたズバ蛮は目の前の憎き敵・死臭丸コト織田信長をたたっ斬る!

織田信長が死んだ! 天文20年10月 17歳の若さだった!

おおっ!豪ちゃん歴史を変えてしまったぞ!ソコからドトウの大展開!実はジャンヌは未来人。歴史を変えることが出来るかどうかという賭けに乗ったジャンヌは、宇宙一強い民族の赤ん坊をかっさらい、戦国時代に送り込む。果たしてそれで戦国地図は塗り変わるのか...?

ソレが強力無双のズバ蛮の秘密だったのだ!一人の女の思いつきで運命に翻弄されたズバ蛮は...!タイムパトロール・ヒモジーを倒し、自らが戦国時代に生きる!と宣言。

遠い未来を生きる親なんざ 赤ん坊を盗まれた親なんて関係ねえ
戦国は 戦国は

ズバ蛮の世界だあ〜っ!

舞台変わって現代。小学生が朗読する。1573年ズバ蛮が天下を統一。教科書が変わっていた。


「我々は焼け跡を待望をしていた。安保運動を起こした世代には『俺達だって焼け跡から始めてれば...』という思いがあった(大意)」とは映画監督・押井守の言葉。

戦後生まれの世代にとっては、毎年毎年夏休みに繰り返される「語り伝えたい戦争」なるものは年中行事でしかなかったと思う。高度経済成長は誰しもがハッピーハッピーで消費文化を右肩上がりの景気を、ノーテンキに楽しんでいたかのように言われるが、一方でそんな思いを抱いていたのも事実だ。

戦前戦中と苦労をしてきた親を見ている。戦争はいけない。それは確かだが、そうして「苦労知らず」のレッテルを貼られ、「戦争を知らない子供たち」と上の世代から甘ちゃん扱いされ...我知らずそんなルサンチマンを抱いていたのだ。

豪ちゃんの意図はどうあれ、『ズバ蛮』の正義ていうのは案外そんな無意識の投影にも見えてくるのは気のせいだろうか。戦国時代や幕末へのロマンなんて、そういうものではないか。「リセット世代」なんて揶揄を今のガキにする輩がいるが、「戦後生まれの日本人」はすべからくリセットを待望しているようにも思えるが。


関連作品

『仕事発見シリーズ19 漫画家』(実業之日本社)にて習作時代の原稿を見ると、戦国時代を舞台にした作品が見られる。手塚治虫が豪ちゃんのマンガ読みとしてのキッカケ作品であれば、白土三平が漫画家永井豪の原点なのだろうか。群雄割拠の時代、武士・忍者・百姓などの様々な階級・職業の人間がそれぞれの思惑で全体として流れを作り出すその劇作法、そして研ぎ澄まされた忍術合戦。

『本能寺異聞』
デビュー前作品。明智光秀に暗殺された織田信長は実は忍者で、燃え盛る本能寺から逃亡を図ろうとしていた...。明智の使う忍者達との技の応酬が内容のようだ。まだこの時は、白土の影響がありありなのだが、織田信長を「超人的な悪役」と捉えている視点に既に「らしさ」がかいま見える。

『黒の獅士』
この作品の方が『本能寺異聞』の直接的影響があるだろう。やはり魔王・信長ネタ。信長をボスキャラにしたのは豪ちゃんが初めて?他にズバリ同タイトルで原型作品がデビュー前の草稿にある。

『新デビルマン 魔界のジャンヌ・ダルク』
ストーリー協力・辻真先。まあ、ジャンヌが出てて、歴史をねじ曲げようとしてる程度の共通点しかないが。豪ちゃんファンの辻真先さんのこと、意識はしたと思うぞ。

『ガクエン退屈男』『魔王ダンテ』『デビルマン』『真夜中の戦士』『凄ノ王』
他にも永井豪作品でこのモチーフは探せる。キミもチャレンジ!ズバ蛮が実は戦国の快男児になるべくして送り込まれた存在であるという設定。主人公は運命にあらがえない。常に翻弄されているのみである。その現状を認識するにせよ拒否するにせよ、主人公は物語展開上被害者なのだ。ストーリーラインに主人公がアイデンティティを求めているが故にショッキングである。

『ゲッターロボG』
「百鬼一族」、このネーミングが初登場したのが「ズバ蛮」。ご本人に伺ったところではネーミング以上の関連はないようであるが、角を植え付ける描写に関連がかいま見える。そういえば、無数の猿に襲われるくだりは同じく石川賢作品『魔獣戦線』にインスパイアを与えた?


永井豪の部屋へ

[TOP]