イヤハヤ南友



週刊少年マガジン1974.11.3〜76.4.28号連載 講談社KCコミックス 全7巻

KC以後、双葉社パワアコミックス(全7巻)、朝日ソノラマ サンワイドコミックス(全4巻)、扶桑社文庫(全5巻)にて単行本化 されている。

俺にとって、この作品に見出す価値は90%以上が弁天ゆりだ。

以前('00年の暮れ頃だったっけ)、「蜂-Bee-」という雑誌というか ミニコミ誌にて「ハレンチ」にまつわる豪ちゃんマンガのファントーク ってのをやったんだけども。その時に、エディターのねーちゃんからはじめに要請 されたのは、「ハレンチといえば永井豪、『ハレンチ学園』のエロを 聞きたい」ってなことだったのさ。で、俺は言外にそれを否定した。 『ハレンチ学園』だけを語るようでは永井豪論にはならないのだと。 例えば俺の愛する「ハレンチな永井豪」は別作品でしか語れないのだと。

『ハレンチ学園』の豪ちゃん、ってのは確かにある年代以上に浸透している 強力なイメージなんだけど(それゆえに読んだことないヤツまでもっともら しくそう言ってる)、豪ちゃんデビュー年に生まれ、異性に興味を抱く年頃 というヤツが『ハレンチ学園』から大きく遅れた俺にとっては、この『イヤ ハヤ南友』と『けっこう仮面』『へんちんポコイダー』がその入り口のドア を叩き破ってこじ開けて来て、その上引きずり出された、というのが正しい。いやまったく。

で、中でもこの『イヤハヤ南友』はダントツで思春期勧誘作No.1だった。 この作品について語るというのは、夢精に初めて気付いた日の話をするくらい こっ恥ずかしいことだったりする。

豪ちゃんに関する話としてよく語られるのが、「少年マンガにおける性的表現 の開拓者」的な表現であるが、 俺に関していえば、正にそれは正しく機能していたと言える。 最初に手に 取った号が何号だったかは忘れたが、多分オカルトの特集をしていた「少年 マガジン」を旅行のお供に買ってもらったのが、出会いだったんじゃないかと。

恐らく父兄参観日の試合途中だったのだが、何しろすっぽんぽんのねーちゃん が出ている。当時のマガジン(左は1975年8月3日号)の連載陣の中でも、 群を抜いて丸っこい、かわいい女の子が目だっていた(『三つ目がとおる』の 和登サンか豪ちゃんかってくらい)。今にして思えば、その「丸っこい女の子」 ってのは弁天ゆりと家早さよこ様だったんだろう。

もちろん既に『デビルマン』には出会っていたし、「永井豪とダイナミックプロ」 というブランドは、圧倒的にかっこいいヒーローを繰り出す集団だと意識して いた時期である。(当時『UFOロボグレンダイザー』『ゲッターロボG』はテレビで やってたし)…だが!俺を刺激したのは、かっこいいヒーローが敵を叩く爽快感 ではなく、それまでにない、別種のワクワク感であったのだ!

豪ちゃんの描く女性になければならないものがある。それは「恥じらい」だ。 物語の流れの中でそれが表現されているとともに、、ビジュアルでも的確に 表現されていた。その「恥じらい」とは何か…?

普段は表紙のみのアップにとどめ、作品内のコマ絵画像アップ は可能な限り控えている(か?)俺だが、これだけは! この週刊少年マガジン1975年12月7日(49)号の二色カラーで掲載された、弁天ゆり に全てがある!それは、「汗」であり「八の字眉」であり、目の下に描かれた 「タッチ」である!ある意味、豪ちゃん作品全ての中で、俺が最も愛するカットだ と言えよう。

この「こくん」で、俺は大人への階段を昇り始めたのだ。それまでもそりゃ、 「はだか」が恥ずかしいもので、上の神薔薇あけみ戦あたりで繰り返し、 見せるの見せないのをやっていた『南友』だったが、この弁天ゆり対テレヤ・ シャイ戦で更なる一歩を踏み出している。 その名も「八つ裂きテスト」。詳しくは作品に出会ってくれとしか 言いようがないが、何、テーマがどうとか、人間に対する警鐘がどうとか いう小難しいものではない。

この「八つ裂きテスト」は文字通り、四肢に鎖をつけられ、それぞれの方向へ 動物が引っ張る、というものである。 もちろんこの扉で分かるように、 すっぽんぽんで、である。餌食になった女の子は腕と股を閉じて、裸体を さらけ出さないよう必死に耐えるわけだ。

そして何よりもこのエピソードで大事なのは、「見えるか見えないか」という ことではない。これはもう俺の性的指向を白状するが、「見えてしまっ ては面白くない」ということ。加えて「過程が大事だ」ということ。 そのための仕掛けとして、豪ちゃんは素晴らしいアイデアを駆使している。

鎖を引く動物がエスカレートするのだ!まずは「犬八つ裂き=セントバーナード」。 犬っころとはいえ大型犬だから辛い、という。続いて馬。4馬力に引かれ、 テレヤは胸を見せてしまう。で、弁天ゆりは耐え切るのね。いやマンガだから。 こうなるとすっかり豪ちゃん悪乗り、バッファローからゾウへとエスカレート。

ゾウですら動かない二人に、ついにマタタビ粉末かけて、ネコになめさせる という凶悪ぶり。必死に耐える中、特殊能力も使って弁天ゆりは勝利するの だが、この辺り30男になった俺から見れば、二人の表情といい、コマの展開 といい、完全にセックスのそれである。だが、当時お子様だった俺はそこまで は分からなかった。ただただエスカレートする展開と、快感原則に乗っ取って 勢いが作られているページのリズムに身をゆだねていたのだ。

少年マンガにおいてセックスそのものは描けない。しかし 表現自体はできる!というこのゲリラ戦法。マンガはつくづくハダカ描けば エロというワケではないという証明である。…と、後年なるほどと思ったわけだが、 この時の不思議なグルーブ感というか、マンガの生み出す異様なリズムみたいな ものを体験すると同時に、「恥ずかしい」だけではない不可思議な表情がこの世に あるという事実に出会った、あるいは気付いたということが、 俺のヰタ・セクスアリスであり、豪ちゃんの虜になった大きな原因だとは言える。

いや、過程は大事だよ。楽しまないと。

(解説)つーわけで、すっかり俺の見所のみを語ってしまったが、『オモライくん』 (1972年連載)の後、久々のギャグ連載として週刊少年マガジン誌上に登場したこの作品。 その系譜として、オモライくん・おこもちゃん、コジ爺やドンケツ王、ポチ・アルフォンヌ コンビも登場。バイオレンスジャックの姿も見える。また、この作品のメインイベント・ 父兄参観試合の実況をしているイボ痔小五郎と小屋椰子は、この後、豪マンガの実況シーンに 常にレギュラーで現れる。また、ヒロイン家早さよことともに戦う女の子達「イヤハヤ十人衆」 は後に『凄ノ王』にも登場。敵キャラに講談師が出てくるなど、豪ちゃんの趣味も爆発。

一方で『デビルマン』の流れに位置する作品でもある。正確にいうと、サタン・飛鳥了の インサイドストーリーとも言えるだろう。南友は堕天使であり、記憶を失い人間の姿を つぶさに見つめている。しかし人間は愚かしく、滅亡するしかなかったのだ。『デビルマン』 のラストでは悔恨のまま終わったサタンだったが、今回は自ら理想の地球を作るために 人間となる。『デビルマン』では描かれなかった神の側が描かれている数少ない作品とも言えよう。

ラストの「エデンの園」はそのまま豪ちゃんの「理想郷」なんだとか。

(ストーリー)ふらりと大金持ちの家早(いやはや)家に現れた少年は、間違いで一族の 一員・家早南友になってしまう。南友の入学した学校は、学校内の二つの派閥、戦前から続く 由緒ある家早派と、戦後の成金財閥・果扨(はてさて)派に分かれ、常に争っていた。 そんな中、恒例行事の「父兄参観日試合」が執り行われ、二つの派閥の戦いはエスカレート。 ついには日本を二分する全面戦争へと発展。

最後は何と南友くんがホームレス(コジキと今言っちゃいかんのだと)の王子様だと判明。 しかししかしそれも仮の姿で、本当は地球をより良い方向に導くために、神から派遣された 天使だったのだ。だが地球に落ちたショックで、記憶を失っていたのだった。激しい戦争は 核戦争へと発展、地球を滅亡させる。そのおろかな姿に怒る神だったが、南友は平和を 愛する新たな地球を作りたいと提案。南友がアダムで、イヤハヤ十人衆がイブたちという 新たな地球の歴史が始まる。


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