便秘

 不眠や腰痛とならんで、高齢の多くのかたが悩んでおられるのが「便秘」ではないでしょうか。とくに女性のかたは、若いころからお通じが悪く、歳をとるにしたがってそれがますますひどくなるという傾向にあるようです。しかしたかが便秘とはいえ、脳や心臓などの血液循環に悪い影響をおよぼすことがありますし、痔などの肛門の病気をきたしたり、悪くすると腸閉塞にまでなり、さらに最悪の場合は緊急の開腹手術を要することさえあります。

 ものの本によりますと、とくに六五歳をこえると急に便秘症のかたが増えるとあります(介護保険の第一号被保険者の年齢層と重なっているのは偶然なのでしょうか)。じっさい、私が勤務している介護老人保健施設に入所しておられるかなりの割合のかたに「通じ薬」を処方しています。

 便秘の原因としては、線維質の摂取不足や水分制限など食事の問題や、うつや痴呆などの精神的問題、体を動かさないことや衰弱などの身体全体の問題、さらにはトイレの配置や集団生活の不慣れ、日常生活リズムの乱れなどの生活上のことなどが考えられます。

 さらに、いろいろな薬剤の副作用としての便秘があります。もともと高齢のかたはいろいろな薬を服用されていますし、そのなかに便秘を引き起こす副作用のあるものが少なくありません。かといって、生命機能に直接関係するそういう薬をやめてしまうわけにもいきません。

 そして、なかにはそもそも便秘が症状である腸の病気が隠れていることもあります。とくに注意しなければならないのが大腸ガンなどの腫よう類です。便秘以外になにも症状がなく大きくなり、ついには腸を塞いでしまうということがあります。原因不明の腸閉塞で手術をしたらガンがみつかったということが少なくないようです。また、過去に開腹手術を受けておられるかたは、腸の癒着による習慣性の腸閉塞をおこすこともあります。

 あまりに多いので、医療者のほうも便秘という症状をなんらかの病気の側面からじゅうぶん検討するということをつい忘れがちです。患者さんのほうでもあまりにも気になる便秘だと思われるようなら、食事の内容や生活リズムのことも含め具体的な記録をつけるなどして専門医にご相談になる必要もあるでしょう。

 ところで話は変わりますが、前回(春号)のこのコラムで「付け届け」の話題を提供しましたが、最近これをテーマにした新書版の本がでています。ご参考までにご紹介しておきましょう。

           「医者と謝礼のいま―患者の損得を考える」富家孝著、光文社カッパブックス

現役医師である著者も書いておられるように、このテーマでの初めての本だと思いますし、謝礼のことをきっかけに「よい医療を受けるにはどうするか」というところまで話がおよんでいます。


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