つけ届け

 今回はちょっと毛色のかわった話題です。

 私がいろいろと勉強させていただいている「ささえあい医療人権センターCOML」という市民団体が大阪市にあります。そこが年に九回ほど開いている「患者塾」という集まりがあって、「かしこい患者になりましょう」という趣旨でさまざまな立場の人たちが話し合っています。すでに八十回を越えていろいろなテーマで開かれていますが、「医者へのつけ届け」という話題も何度かとりあげられていて、そのテーマのときはいつも参加者が多く、また議論に熱がこもります。
 医者へのつけ届けが必要かどうかは、ずっと昔からあっておそらく将来にもわたって結論がでないことかもしれません。わが国の「贈答文化」も関係していると思われる、じつに根の深い問題のようです。

 普段からなにかと世話になっているかかりつけの医者に盆暮れの贈りものをする、これは「医者へのつけ届け」というより、世間一般の習慣のひとつのようなところがあって、そんなに目くじらをたてるほどのことではないかもしれません。

 いつも問題になるのは、

○教授や大病院の部長クラスを紹介してもらう
○大学病院で教授に診察してもらう
○病院に入院して担当の医師やその指導医が決まった
○手術を受けるまえ

などのさいに、なにがしか(とくに現金などを)つけ届けすべきかどうか、という点です。

 いろいろ聞いてみるとみなさんナンボか包んでいらっしゃるというし、もし自分だけがそれをしなかったら何か不利な扱いをされるのではないだろうかと心配だということで、けっきょく右へならってつけ届けするということが連綿と続いているようです。

 つけ届けしたけれどなんだか釈然としないし、どこそこの教授の相場はいくらだというような話を聞くと、本音ではちょっと変だと思う、そのようなことが患者塾での盛り上がりになっているのでしょう。

 で、つけ届けられる立場の側から申しますと、おそらくほとんどの医者はつけ届けのあるなしは診療と無関係だと思っているはずです。ソレをしなかったからといって不利になることはまずないと断定してよいでしょう。それどころか、おそらくどなたからいくらもらったかなんて、ほとんど覚えていないのが普通です。

 もっとも、とってもお金に執着する一部の医者がいるのも事実でして、税金のかからない実入りとしてアテにしているフラチなご同業もおられるらしいのですが、いずれにしても医者としての能力とは無関係ですから、そういう医者に何十万円もつけ届けてまで診てもらう値打ちがあるのかどうかきわめて疑問です。

 平然と受けとる医者と右へならえでつけ届ける患者さん、ニワトリとタマゴのような関係ですが、どこかで断ちきるようにしましょう。


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