「末梢神経(まっしょうしんけい)障害」

 このシリーズも今回で二十回になるようです。いろいろなテーマで書いてきましたが、さすがにぼつぼつネタ探しが難しくなってきました。今回はちょっと難しい言葉になっていますが、末梢神経の障害、とくに運動の「まひ」についてお話したいと思います。

 脳や脊髄(せきずい)を「中枢(ちゅうすう)神経」といいます。中枢神経系から分かれた神経は、一部は複雑な経路をとるものもありますが、最終的には各部位に枝分かれして末梢神経となります。そしてそもそも神経は、脳や脊髄もふめくめてとてもひ弱にできていまして、ちょっとした刺激や外力でかんたんに機能障害を起こしてしまいます。

 また、糖尿病やいろいろな中毒、ウイルス、栄養不良などでも末梢神経が侵されることがあります。

 手足が動かなくなったり、顔がゆがんだりしたと、やはりたいていのかたは脳の病気ではないかと心配されます。たしかに脳血栓や脳出血、脳腫瘍などで「まひ」がおきることは珍しくありません。しかし、末梢神経の問題で「まひ」をおこすことも少なくないことも知っておいてください。

 顔の半分がマ「まひ」し、目を閉じることができなくなったり、食べたものが片方の頬の内側にたまったり、ヨダレが垂れたりするという「ベルまひ」と呼ばれるものがよくみられます。これは、たとえは扇風機の風を片方の顔にあてたまま寝入ってしまったり、ウイルスが顔を動かす神経にとりついたりしたときに起こります。

 もうひとつ、「ハネムーン症候群」とか「土曜の夜のまひ」などと称される、ちょっと色っぽさが感じられる「まひ」があります。橈骨(とうこつ)神経という腕の神経が圧迫を受けて機能が低下し、手がラリと垂れたままになる状態をいいます。橈骨神経が圧迫される原因が「腕枕」だというので、そのような名前をつけられているのです。どういう状況なのかお分かりでしょうか。ま、私などももうおそらくそのような場面を経験する機会はないでしょうが…。

 それで、このようにしていったん機能が低下した神経の回復はどうなのかということも気になるところですが、一時的なものであれば短期間に元にもどることもあります。しかし、回復に非常に時間がかかったり、あるいは残念ながらそのままもどらない場合もあります。そして、神経の機能の回復によく効く薬や注射というものはいまのところ残念ながらなさそうです。いわば日にち薬という傾向があるわけで、その間に目が閉じないために眼球に別の病気をおこしたり、関節が固まってしまったり、筋肉が痩せてしまったりというようなことがないように、いろいろな治療や処置や努力はしなければなりませんが、ここでも医学はまだ無力なところがあります。

 こうい場合にしばしばいわゆる「民間療法」的なことを勧められることがあるようですが、ゆめゆめ過度な期待はしないこと。ましてやそれが高価なものであれば、冷静に判断しければなりません。


「ゆとり」の目次へ
原稿集の目次へ
湾処屋のホームページへ