大腿骨頚部骨折(だいたいこつけいぶこっせつ)

 前回の「せんもう(譫妄)」の話題にはこれまでになくご相談やご質問をいただきました。「せんもう」については、現場で混乱していたり医療側の対応が適切でなかったりという現実をかいま見た思いです。近いうちにあらためて痴呆に関して、とりあげたいと思います。

 さて、今回は一瞬のうちに体を不自由にしてしまう大腿骨の頚部骨折についてお話しましょう。

 体のあちこちに弱いところが出てきても、なんとか日常生活を続けているお年寄りが、転倒したりイスやベッドから落ちたりして骨折してしまうということが珍しくありません。高齢になりますと重心が不安定になって体がふらつきやすく、そしてふらついたときに元にもどす能力は若い人の半分以下だといわれています。また、倒れそうになったときにとれる行動も鈍くなっています。そのうえ、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)というほど病的な状態ではなくても、多かれ少なかれ骨は弱くなっており、ちょっとした外力で骨折しやすいのがふつうです。

 高齢のかたに多い骨折にはいくつかの種類がありますが、転倒したり落ちたりしたときにもっともおきやすいのが「大腿骨頚部骨折」です。大腿骨のいちばん上の部分、骨盤とつながるところ(股関節という関節を形作っています)は、骨が「く」の字型に曲がるとともに少し細くなっており、この部分がとくに弱くて非常に折れやすい。股関節は立ったり歩いたりするときに体を支えるシステムの一部ですから、ここが骨折すると立つこともできなくなります。

 骨折の程度や形によって治療の方法にはいろいろありますが、いずれにしても一時的にベッド上生活をせざるをえなくなります。

 ではどういう条件だとこけやすいのか、危ない人とはどういう状態なのか。つぎに並べたいくつかの項目のうち五つ以上あてはまる人は転倒の危険性がたいへん高く、したがって骨折する恐れも大きいということなので参考になさってください。もちろん五つ以下ならまったく安心というわけでもありません。

 ◆頚(くび)の骨に変形などがある◆七十歳以上である◆痴呆の傾向がある◆夜間の不穏やせんもうがある◆睡眠薬を飲んでいる◆車いすや杖、歩行器を使っている◆座りつづけることができない◆立つことが難しい◆いままでに転倒や転落したことがある◆自分の体の運動能力を分かっていない◆慎重さが足りない◆人からの介助されることに遠慮や抵抗がある◆膝関節の病気がある◆慢性関節リウマチがある

 数日間寝込んだら筋肉の力は一割ほど落ちるといわれています。長期のベッド上生活をしなければならない大腿骨頚部骨折の場合、骨折する前と同じ運動能力に戻れる割合は半分以下しかないとされています。そして、なんと二割ほどの人が骨折をきっかけに寝たきりになるともいわれています。

 ともかく過信は禁物。気は若くても「体は必ずしも気についてこん」ということを少しは心にとめておきましょう。


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