痴呆(ちほう)症の薬

 この秋、アルツハイマー型痴呆症の薬が日本で初めて発売されました。商品名を「アリセプト」といいます。すでに世界四十か国で販売されていて、日本での発売が待ちのぞまれ、厚生省の承認も異例のスピードでされたという、まさに夢の薬という扱いです。これをきっかけに痴呆症の薬がどんどん出てきそうだといわれています。

 これまでアルツハイマー型痴呆には効く薬がなかったということで、患者さんも治療側も大いに期待したいところですが、十一月二四日の朝日新聞「論壇」で東京の浴風会病院精神科診療部長の須貝佑一氏も指摘なさっていたように、実データを検討すると、じつはもろ手をあげて喜ぶほどのものではないようです。

 これまでに、抗がん剤や脳代謝改善剤などの一部で、鳴り物入りで発売され、当てたメーカーを一気に業界トップに押し上げるほど売れたものの、何年かして「じつは効いてまへんでした」ということで製造をやめてしまった薬がいくつもあります。

 はやりの薬を売るだけ売ってヤバくなったら知らぬ顔して造るのをやめるという、なにやら「悪徳商法まがい」とは言いすぎかもしれませんが、そういうことのくり返しをちょうど自分の医者人生と重なって見てきた私としましては、今回も「これや」と単純に飛びつく気にはなりません。飲みはじめには消化器の副作用の頻度も低くないようで、患者さんのほうでもそれなりに様子見をしたほうがいいのではないかと思っています。

 介護保険の実施であらためて痴呆症が注目されるこの時期ではありますが、薬にしても検査にしても、はたまた特別な療法(医者がする治療だけではなく)にしても、それほどとてつもないものがあるはずはないということ、つねに心にとどめておかなければならないでしょう。


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