もの忘れ

 「最近もの忘れがひどくて心配です。ボケるのではないでしょうか」というご質問を受けることがたいへんよくあります。アルツハイマーという病名が有名になり、テレビなどでも痴呆のことがよくとり上げられるようになって、心配のタネが増えた按配です。

 たしかに痴呆は「もの忘れ」がごく初期の症状としてみられるのですが、しかし「もの忘れ」があるから痴呆の始まりとはいえません。

 人間の脳細胞は、ニ十歳台前半をピークとして毎日毎日数万個づつ消滅していくのだといわれています。いっぽう、年齢が加わるとそれだけ経験するできごとが増え、覚えなければならないことが多くなります。脳細胞の数は減るのにそこに保管しておかなくてはならない記憶量が増える。ということになりますと、さして重要でないことを覚えきれなくなっても不思議ではありますまい。

 米国の精神医学会が一九八六年に提案した『老年性記憶障害』というものがあります。これは、年齢的にしかたのない「もの忘れ」であって病的ではない、というものです。これによりますと、@おおむね五十歳以上で、A日常生活機能に影響する記憶障害で、Bある種の記憶テストで若い人と明らかに差がある、C知能は正常である、などとなっています。

 Aの具体例としては、人の名前や物の置き場所、電話番号や郵便番号を思い出せない、あるいは努力して覚えた言葉や仕事を思い出せないなどですが、これはおそらく多くの人に思い当たるものでしょう。

 もちろん、病的な痴呆の始まりとの区別はそれほど簡単につくものではありませんが、すくなくともこういう「もの忘れ」は非常によくあることだと理解していただきたいのです。

 私はまもなく問題の五十歳になりますが、しばしば「もの忘れ」をするので手帳が手放せませんし、ひどいときはその手帳を見るのを忘れたりします(汗)。

 そして、このシリーズですでに「もの忘れ」について書いたかどうか、忘れてしまっていたりしたのでした。


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