白内障(はくないしょう)

 ニンゲンにとって、身体の変化が緩やかにやってきたときにはなかなかその変化に気が つかないようです。視力についてもしかり。ずうっと昔、私が中学生のころ、近視と乱視 が進んできたときにも私自身にはほとんど自覚がなく、ある日の健康診断で視力表のかな り上しか読めないことにガクゼン、眼鏡を作ってかけてみるとよく見えるのにビックリと いう経験があります。

 また、ついこの数年は、近くの文字が見にくくなって、こんどは眼鏡をはずしてみると すっきりと見えるのにボーゼンとしました。いうまでもなく老眼ですね。そして、白内障 による視力の障害も突然おこるのではなく、時間をかけて悪化してきますので、ご本人は なかなか自覚できないことが多いようです。

 人が外界から得る情報の八割近くは視覚からであると言われていて、視力の低下は日常 生活に大きな影響を及ぼします。白内障は精密に検査すれば六十才以上のほとんどの人に みられるものだとも言われています。つまり、ある年齢を越えたかたは、白内障によってい ずれ日常生活に支障がでる恐れがあると考えておかなければなりません。

 白内障は、目にとっての「レンズ」にあたる「水晶体」という部分が濁ってきて、つま りレンズが曇った状態になるものです。この濁りはいったんおこると目薬や内服薬で元に 戻すことはできません。現状ではある種の目薬ですこし進行を遅らすことができるだけで す。また、糖尿病や目の外傷、紫外線などの白内障を悪くする原因を遠ざけることも少し は予防になります。

 車の運転をなさるかたはぜひ白内障の有無を検査してもらいましょう。対向車のヘッド ライトが異常に眩しくなり、そのとき一時的にさらに視力がたいへん悪くなるという危険 な症状が白内障にはあります。

 白内障の治療のための手術はこの十年くらいの間に非常に進歩しました。現在では小さ な切開で濁った水晶体部分を除去し、眼内レンズというものを装着して、短時間の手術で すみ、術後の視力の回復も早くなり、手術のための入院は一週間以内ですむようになって います。眼内レンズは健康保険適用にもなっており、経済的な負担も少なくなりました。 手術を勧められた場合には、してもらう方向で考えるのがよいでしょう。

 もっとも、数年前に手術をした私の母のように『見えすぎて家のなかの埃が気になって しかたがない』という「副作用」もあるにはありますが…。


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