不眠

 「眠れない」こと、これは便秘とならんで多くの高齢のかたが診察の場でおっしゃいます。とはいえ、不眠の治療を受けるのが目的ではありません。別の理由で治療を受けておられるなかでの眠れないという訴えです。

 高齢のかたの不眠の特徴としては、年齢が高くなるほど増え、女性のほうが多いといわれています。眠りにつきにくく、眠りが浅く、朝は早くに目覚めてしまい、熟睡した感じがずっとないという、なかなか悲惨な状態であるとおっしゃいます。

 しかしよく聞いてみますと、思いこみや間違った知識にけっこうまどわさけておられることが少なくありません。

 まず、「眠りにつきにくい」ということ。夕食がすんだらすることがないので寝床に入る、というかたがおられます。腹にモノが入った状態ではとうぜんのこと眠りにくいでしょう。また時刻も早いので、世間はまだザワザワしています。眠る環境が整っていないのに無理に寝ようとするのが問題なのかもしれません。二、三十分眠ろうとしても眠れなかったら、思い切っていったん寝床から出てしまうこと。視力が落ち、耳が遠くなっていて起きていてもすることがない、とおっしゃられれば返す言葉がないわけですが…。

 つぎに「夜中ずっと眠っていない。1時も2時も3時も時計で見ていた」というのもよく聞きます。でもこれはたいてい「1時と2時と3時を見た」のが本当のようです。眠りが浅いので、ちょっとした物音で目覚めてしまって、寝ている間のことは覚えていないためにずっと起きているように感じてしまうのでしょう。もちろん「眠りが浅い」という問題は残ります。

 「朝は4時になると目覚めて起きてしまう」。でも、もし午後8時に寝ついていたら、8時間寝た計算になりますね。世間がまだ寝静まっている時刻にひとり起きているのは寂しいものです。でも身体にとって眠りが足りたのであれば、これはもう身体に従うしかありません。いい季節なら外に出て軽く体操などをするのはいかがでしょう。

 人間は寝ずにすむことはぜったいにありません。自分では寝ていないように思っても、夜間にある程度の睡眠は足りているとか、昼寝が計算に入っていないとか、電車に乗るとついうつらうつらしてしまうとか、よく思い出してみればけっこう寝ているのではないでしょうか。

 私はいろいろとすることが多くて、平均の睡眠時間は5時間以下です。そのうえ、この原稿の〆切が近づいてきて、それが気になって不眠傾向になったここ数日。ストレスや不安も眠りに影響しますので、原因をなんとかすること、生活のリズムを再検討してみること、高齢になるといろいろと副作用をきたしやすい睡眠薬に頼るのは、最後の手段です。


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