糖尿病

 いまも現役で活躍なさっているミヤコ蝶々さんの相方であり夫君であった南都雄ニさんが糖尿病で亡くなったのは、私が医者になった昭和四八年のことでした。雄二さんの痩せ細った姿を見て、なんと恐い病気があるものだと思ったものです。

 その当時からしますといまや糖尿病の治療は格段に進歩しました。致命的な合併症である「腎不全」に対しても、人工透析などを誰でも受けることができるようになりました。「不治の病」というイメージは少し薄らいだようです。しかし、ちゃんとした治療をしなければ、全身にいろいろな合併症を起こして不自由な生活をしなければならなくなることに変わりはありません。ところが、じっさいに糖尿病をわずらっていても、病気についてちゃんと理解しておられないかたがあります。まして、ご自身には糖尿のケはないのだと思いこんでおられる場合は無防備になっていることが多いはずです。

 ところで、雄二さんのように若い年齢から発症する糖尿病とは別に、高齢者に独特の糖尿病があります。それは、血糖値が高くなるとそれを下げようとする調節がうまくいかなくなって起こるものだといわれています。食後の血糖値がとんでもなく高くなってしまっているのに、それに気づかない、という事態がしばしばおこるわけです。

 そして高血糖が続きますと、このような「老年者糖尿病」でも同じように合併症が起こります。つまり、網膜症(眼底出血を起こし最悪の場合は失明する)、腎不全、神経症(しびれや痛み、ひどくなると手足の組織が破壊される)など、全身に強烈な影響が及びます。また、血管が傷んで、脳梗塞や心筋梗塞などを起こしやすくなります。これらはどれをとっても生活の質をたいへん悪くするものです。肉体的にも精神的にも苦しい余生を送ることになりかねません。ことほどさように糖尿病というのはたいへんなもの、ちゃんと治療をしなければならないことをお分かりいただけますでしょうか。

 やたらのどが渇く、水分をたくさん飲むようになり尿が多い、身体がだるい、ちゃんと食べているのに体重が減る、などの自覚症状があるときには、ぜひ医療機関で診察を受けてください。

 軽いうちは食事療法だけで対処できることもありますし、最近は使いやすい内服薬もできてきました。むやみに恐れることはありませんが、でも油断しないように注意はしておきましょう。


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