クリニカルスタディ/2000年12月号

高齢者と看護


 言いふるされたことですが、これからの日本は『超』高齢化社会。そこで高齢者の医療や介護をどうするかが考えられ、その答えのひとつとして介護保険制度ができました。そして医療と介護は表裏一体の関係ですから、介護を避けてはこれからの看護は語れません。そして、医療や介護を病院や施設から在宅へという流れはますます加速することになるでしょう。
 先進医療と介護、端と端のようなこの二つがこれからのキーワードになるのかもしれません。

介護保険

 施行から半年あまり、いろいろな不具合があらわになってきていますが、ここでは具体的には触れません。それとは別に、医療で問題になっているいろいろな『あいまい』が、介護保険では整理されたのはよかったのではないかと筆者は考えています。人の健康や生活を数量化しているという批判もありますが、医療でも人の価値がけっこう数値で決められています。そこに『あいまいな部分』を入りこませない点で、介護保険の意味があるのではないでしょうか。医療もひとり医師だけの裁量でやっていく時代ではなくなりつつあるのですから。

介護老人保健施設

 1988年から創設された制度で今年はもう12年目にもなりますが、多くの看護職にも現実はいまひとつ知られていないようです。病状が安定していて介護が必要なかたのための施設で、療養型の病院と比べると看護職は約半分、医師は三分の一の人数で運営しています。そのため個々の看護職の負担は病院より重いのが普通です。病院の激務に耐えられないから老人保健施設で仕事をするという選択はしないほうが賢明でしょう。医療職の数が少ないほどそれぞれの医療職の負担が増えるのは当然なのです。

介護支援専門員

 介護保険制度で生まれた新しい資格で、医療や福祉の専門職で一定の経験があればトライできます。ちなみに職種別では看護職が最も多いはずです。要介護者の生活全般を検討してそれぞれに合ったケアプランを作成し、要介護者やその家族の立場で医療を含む各サービス業者との連絡調整をする仕事なのですが、あまりの忙しさに本来の仕事ができていないという声があちこちから聞こえます。もっとも、実際の業務が始まってまだ半年あまりですから、本当の評価はこれからのことでしょう。

抑制廃止

 人間の尊厳を考えれば、むやみに身体を抑制するのはとってもいけないことだというのは正論です。そして、いまや良識ある病院や施設ではいろいろと工夫して抑制廃止にとりくんでいます。しかし筆者が懸念するのは「なにがなんでも抑制はダメ」ということになりますと、目に見えない抑制が増えるのではないかということです。つまり、必要以上に鎮静剤を使ったり、身体抑制がいりそうなかたに付き添いを強要したり受け入れを拒否する施設が増えるのではないか、ということです。なにごとも過ぎたるは及ばざるがごとしというのが筆者の拠りどころなのですが、さて。

通所サービス

 デイケア(医療機関が行う通所サービス。福祉施設のそれはデイサービスという)は、医療の一部が介護としてシフトしだしたころから盛んになってきました。デイサービスとの最大の違いは、リハビリテーションの専門職が必ず関わらなければならない点です。同じようなことをしているように見えても、デイケアはあくまで医療サービスの一部。高齢者の幼稚園などという陰口を囁かれないようにしなければなりますまい。

訪問看護

 訪問看護ステーションの制度ができてちょうど10年です。在宅医療が注目されてきて、最近は訪問看護を希望する若い看護職が増えています。在宅医療の陰の部分はなかなか見えにくいこともあって『やりがいのある仕事』だとお感じになるのでしょう。しかし、老人保健施設のところでも書きましたように、関わる医療職が少なくなればひとりひとりの負担は増える、訪問看護はその最たるものです。基本的な知識と技術が備わっているうえに独特のプラスアルファが必要です。訪問看護をめざすには、まず看護の基本を身につける必要があるでしょう。


目次へ
湾処屋のホームページへ