簡単に自己紹介をいたしておきます。私は1949年生れの50才。大阪八尾の出身の河内人間であります。1973年に奈良県立医科大学を出まして、出身大学の脳神経外科の医局に入りました。医局から大阪や奈良の国公立病院を回って修行させていただき、1985年に協立病院にまいりまして脳外科を担当しました。協立へきて数年してから、在宅の患者さんに訪問診療、当時は訪問診療という言葉はなく、往診でしたが、それを始めまして、その後そちらのほうの比重が大きくなってきました。
それで、ずっと約50軒から70軒ほどの在宅患者さんの訪問診療を続けておりましたが、その間のちょうど震災の直後、1995年の春に協立病院の母体である医療法人協和会が老人保健施設を作るという計画が持ち上がりまして、在宅の患者さんをお世話していてバックアップの施設としての老人保健施設の必要性をじゅうぶんに知っていたし、変なコンセプトで施設を作られてはかなわんという思いもありまして、その計画当初からかかわらせていただいてオープンし、なりゆき上で初代の施設長になったのが、そこにあるウエルハウス川西というわけです。
ちょっと細かい話になりますが、老人保健施設には病院に隣接したり同じ建物のなかにある「併設型」とまったく病院とは別に建つ「独立型」がありまして、ウエルハウス川西は独立型のほうです。施設長つまり施設の管理責任者は、施設の管理以外のことをしてはならないという法律の規制がありまして、つまり施設長をしていると訪問診療による在宅患者さんのサポートができないわけです。
さきほども申し上げましたように私はなりゆきで初代の施設長ということになりましたが、もともと役職や肩書きなどはどうでもええ性分ですので、元来の仕事である在宅支援を続けていくために施設の運営がある程度落ち着いたところで長を降ろしてもらい、現在の「在宅医療センター長」というひとり部署、これは窓際職ともいえますが、そういう立場になっております。
ま、私は町歩きが好きで、旅行に行ってもしばしばなんの変哲もない普通の町を歩き回ったりするのですが、訪問診察やデイケアの送迎などは、歩きではないものの、そういう町の景色の中にいられるということでなかば楽しんで仕事をさせていただいています。
それから、私はよくパソコンが好きですね、と言われます。今日もこのお話のしゃべり原稿をこの小さなパソコンに入れて参照しています。ま、たしかにパソコンは嫌いではありませんが、これは私にとっては道具であるという感覚でして、4年前からインターネットに自分のホームページを持っていたり、携帯電話を繋いで街角で電子メールのチェックをするからといって、特別マニアだというわけではありません。と、自分では思っております。
また、ご存じのかたもあるかと思いますが、大手パソコン通信のニフティに「在宅ケアフォーラム」という場を開設していまして、在宅介護に関する情報交換やいろいろな相談などをする場を運営しています。そこでは、介護の専門職も多く集まり、介護保険のことに関してもいろいろと意見交換などをしています。興味がおありのかたはレジュメに URLを書いてありますので、いちどアクセスなさってください。
今日のスライドの最初にニフティのマークが入っているのはそういうわけです。
前置きが長くなってしまいました。
今日は、実際にはすでに始まっている介護保険について、現場から見て感じていることを、ま、一部暴露話も含めてお話していきたいと思います。
それで、介護保険の問題点について、もともと介護保険法の成立以前から議論され疑問に思われていたことを整理し、つぎにすでに始まっている要介護認定作業を中心として現在感じたり、他の市町村の事情などを聞いて問題だと思ったこと、そしてそれを踏まえて来年4月から実際にサービスが始まったときに問題になりそうなことについて、私の思うところをお話したいと思います。
もし時間がありましたら、みなさんご存知だと思いますが、介護保険について、なぜ公的介護保険が検討されることになったかという、歴史的な背景、介護保険制度の根幹である新ゴールドプランの概略、そして、介護保険での要介護認定とサービス給付の流れなどについてざっと整理したいと思います。お渡ししているレジュメは、主としてそちらについての解説のためのものです。
最近はいろいろと便利になりまして、パソコンから直接スライドを映すことができるようになっています。
ただ、その操作は、慣れもありまして自分でしなければなりませんので、ちょっと場所をそちら側にかえさせていただきます。
まず、介護保険は高齢者の多くが対象になるというように錯覚しますが、最初にお話しましたように、じつはそれほど多くはないという事実があります。
じつは、高齢者は必ず医療や介護を必要とするのだという、ある種の間違った先入観をいつのまにか私たちが持ってしまっていて、だから医療や介護のことをきちっとしないとたいへんなことになるのだ、と思わされてきただけではないか、ということがあります。
スライドにありますように、東京都老人総合研究所というところが行なった調査では次のような結果が出ています。
◆65才以上の高齢者のうち▼障害を持っているのは5%で、◆この人たちを含む25%が自立できていない▼典型的な自立高齢者は50%▼つまり75%はなんとか自立している
そして、◆高齢者が最後に寝込む期間は▼一ヶ月以内というのが50%で、なかでも2週間以内が最も多い▼長期の寝たきりはむしろ例外
また、人間が年をとるにつれて直線的に能力が低下するという考えは間違いであり、人間の老化は直角型、最後のときまで一定の能力をもっているのが普通である、とされています
東京都の試算ばかりではなんですので、今度は本家の厚生省の試算によりますと、介護保険実施の2000年の時点での第一号被保険者つまり65才以上の人口は約2200万人、そのうち、虚弱の人を含めた要介護要支援の状態の人は約280万人とされています。この人たち全員が介護保険の適用を受けても、その率は12.7%。つまり87.3%のかたはサービスを受けません。
第二号被保険者にいたっては、人口4300万人のうち10万人と推定されていますから、0.23%にしかすぎません。
もともと掛け捨て保険であるとはいえ、医療保険に比べてもなんとなく釈然としないものです。
つぎに保険料の問題があります。
介護保険は強制的に加入させられるものであり、第一号被保険者といわれる65才以上のかたの場合は、原則的に年金から天引きされます。年額18万円以上の年金については天引きの対象になります。また40才以上65才未満の第二号被保険者の場合は、医療保険といっしょに徴収されます。
保険料は、厚生省は以前は2600円くらいといっていきましたが、ここにきて平均では2900円から3000円くらいになりそうだといわれています。もっとも、先日来の連立与党の政治かけひきで、保険料の徴収がゴタゴタしてしまっているので、実施翌年以後もどのようになるのか分からなくなってきました。いままで間に合わせようとそれぞれご苦労なさってきた市町村の担当者のかたはお気の毒なことです。
で、ほぼ間違いなく来年度早々からは保険料の徴収は特に第一号被保険者についてはされないことになりそうなのでとりあえずは実害はなさそうですが、じつは保険料のことでとんでもないことが指摘されています。
この表はレジュメの表4と同じものですので、あとでゆっくりご覧いただいたらいいのですが、上の表のように、保険料は所得に応じて公平になるようにということで、市町村税の課税の有無や所得額を基準にして5段階のランクづけがされています。これはこれで公平さを考慮したものだと厚生省は言っています。
しかし、下の表のようなことがあります。これは年金天引きの最低限度である月収18万円あまりのかたに、厚生省のいう保険料3000円を徴収するときに、被保険者の収入の形によってどうなるかということを、大阪の守口市がシミュレーションしたものです。2600円の保険料として発表されたものですが、実情にあわせて3000円で計算しました。
ご覧のように、収入の形態の違いによって、最大2倍半の開きができています。これは介護保険の問題ではなく、税制の問題なのだそうですが、これまた釈然としません。
いちばん高い保険料を徴収され、いわば損をしているのが働いて給料で生活している夫である、と。
厚生省は、これについては制度だからしゃーない、是正するには税金に関わる法律類をいじらなければならなくなるので現実的でないとおっしゃっていると、毎日新聞は報じていました。
さて、金のことのついでですが、実際に介護給付を受ける場合のことを考えてみますと、重度の障害で介護度が高いほど給付金額は高く、これはじっさいにはサービスで提供されることになりますが、その場合には定率1割の利用者負担ということで、やはりじっさいに負担は多くなります。寝たきりで月35万円分のサービスを受けられるとしたら、利用者は3万5千円を負担しなければなりませんが、現実に1万円しか負担できないとなると10万円分のサービスしか利用できないということになります。
現在の福祉サービスでは、利用者の負担額は利用者の所得に応じた負担ですので、同じサービスを受ける、とくに低所得者にとっては明らかに負担増となります。
もっとも、これについては、ようやく低所得者に対する減免規定と、自己負担額の上限が決められ、高所得者でも自己負担は最大3万円弱ということが決まりました。
居宅介護支援事業には営利企業の参入も認められていますから、利用者負担ができない人の場合はサービスの提供を拒否されることになるかもしれません。施設でも入所拒否などをされることになるかもしれません。現在の私の施設の経営状態のことを考えますと、おそらくギリギリの運営でしかできないでしょうから、やはり利用者負担のできない人は敬遠するしかないと思われます。サービス提供側にとっても収入の1割が減るのはリスクが高すぎます。
つぎに介護保険法にはその第一条に『加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり…』とありまして、給付対象を老化に関係する疾病と限定しています。とくに第二号被保険者の場合はさらに具体的に政令で限定されています。たとえば階段から転落して脳の外傷で寝たきりになったような場合は適用されませんし、しかも保険料は徴収され続けるという情けないことになります。
対象になる具体的な病気のリストがこのスライドです。赤い字以外はちょっとなじみのないものも少なくないでしょうが、まあ現実にいちばん多いと思われる「脳血管疾患」があるのはよかったと思いました。骨折についてはもとに骨粗鬆症がなければなりません。このあたり、あとでお話しますが、主治医意見書をきちっとしていただかなくてはならないのです。
なお、先天性の病気で障害をお持ちのかたに対しては、介護保険とは別の制度を創設するということになっているようです。
つぎに、施設と在宅の違いの問題があります。
介護のための施設は、障害を持ったかたでも生活しやすい、いわゆるバリアフリーになっています。しかし、ご家庭は大部分はそのような設計ではありません。
ですから、基本調査を施設でしたときと、在宅でしたときとでは、要介護度に違いがでてくる可能性があります。極端な場合、在宅で要介護度1だったため施設に入所したら、そこでは要支援レベルでしかなくて退所せざるをえない、でも在宅だと要介護になる。
そういう矛盾といいますか、ウロウロしなければならないような事態も想定されます。
つぎに、ホームヘルパーの不足が考えられます。ホームヘルパーはなぜ足りないか。じつは、ヘルパーの多く、8割といわれていますが、身分の不安定な非常勤、つまりパートタイマーでまかなわれているのも原因です。非常勤職員の労働条件や待遇はきわめて低レベルで、身分保障もじゅうぶんではありません。これまで常勤職員であった公的機関のヘルパーさんも、介護保険で採算性を心配した事業体がパートへどんどん移行させているという話も聞きます。
もうひとつ、ホームヘルパーには家事だけをする3級と身体介護をできる2級がありますが、しかし2級ホームヘルパーといえども医療職ではありませんので、たとえば経管栄養、鼻などから胃に入れた管を通して流動食を入れる栄養法ですが、これの介助はしません。痰を吸い取る吸引という処置もしないよう指導されているとききます。重介護の人の中にはこれらの処置が介護の大きな部分を占めている場合がありまして、そういう場合はヘルパー派遣はあまり介護負担の軽減にはならないわけです。
ところで、市町村によってはヘルパー養成に補助金までつけて数を揃えようとしています。ともかく新ゴールドプランに示された数のヘルパーを用意しなければなりませんから。
養成の講座をいろいろな業種、企業がこぞって開いています。私の所属する医療法人でもすでに2期の講座を数回開いています。養成講座をするためには、それなりの講師もいりますし、介護の職につきたいという動機を持った受講者がいります。しかし、この不況下、介護の技能を持っていれば就職に有利などという歌い文句で人集めをしているようなところもあって、ちゃんとした質のヘルパーさんが揃うのかどうか、かなり心配です。
私自身が養成講座の講師をした経験から思っていることです。
数が揃えば市町村はよしとするでしょうが、質の悪い介護を甘んじて受けなければならないのは、市民なのです。
つぎに施設の問題です。特別養護老人ホームでは、介護保険開始時に入所なさっているかたは5年間の猶予で無条件に入所が認められます。それはいいのですが、特別養護老人ホーム入所者のうち自立や要支援、つまりほんらいは施設給付を受けられない人が1割ちかくいらっしゃるという統計があります。
5年が過ぎますと、要介護判定に従って退所ざるをえない人が続出する可能性があるわけです。また、現在特別養護老人ホーム入所者が入院した場合には3ヶ月程度以内であれば特別養護老人ホームでの場が確保されますが、介護保険実施後は、入院すると即医療保険の適用になりますから、特別養護老人ホームは退所となってしまいます。
そして、スタッフの側から見ますと、リハビリテーションなどを勧めて要介護度を改善すればするほど、介護給付の額が減り、退所を余儀なくされることになるという、とんでもないジレンマを抱えることになります。
数年前から社会福祉法人の不正がつぎつぎに明るみにでています。
介護保険にらみで施設を整備するために、いわば志のそれほど高くない経営者が加わってきているのではないかと、私など心配するわけですが、もしそうなら、そういう志の低い経営者がいい施設を作れるわけがありません。
質の悪い施設には、質のいいスタッフがいつかなくなり、さらに質が落ちる、こういう粗製濫造施設が増えなければいいのになあと思っています。
ところで、奥張りしたレジュメの表1にゴールドプランによる施設やヘルパーさんの数の目標がまとめられています。施設の目標数ですが、私にはこれは目標というより限度量に思えます。だれがどう考えても、人件費の固まりである施設は不経済で、ともかく在宅療養のほうが費用がかかりません。あ、これは、当事者ではなく、お国から見た場合のことです。なぜ在宅療養のほうが安くつくかというと、それは言うまでもなく労働力としては無料である「家族」が使えるからです。
だから、おそらく、このゴールドプランの施設数は、通所や短期入所の施設以外、つまり特別養護老人ホームや老人保健施設や療養型病院については、今後増やされることはないでしょう。これを増やすことは、いまの医療費のパンクと同じことを介護保険にも持ち込むだけだからです。療養型の病院については目標をはるかに上回るベッド数になったため、この目標数に絞る調整をすることになりそうです。
ところで話は金のことにもどりますが、事業者にとってうまみのある利用者、つまりお金持ちの高齢者の顧客をかかえていることは、事業者の経営に有利になります。
たとえば、在宅から施設まで、非常に広範囲のサービスをひとつの事業体で用意できるようなところは、利用者の側としてもいろいろなサービスを選べる点で有利だと感じるでしょうから、とくに経済的に余裕のある利用者などは、そういう事業体に集まってくることになるかと予想できます。
ちょうど、普通の小売店より大規模スーパーに集客力があるように、、あるいは無理をきいてくれるデパートの外商部のように、あ、このあたりは私の理解は間違いかもしれませんが、べつのたとえをしますと、患者さんの大病院志向と同じようなことがおこるのではないかと思われるわけです。
そして事業体側は、このような利用者の情報を囲い込んで、地域での事業の寡占化がすすみ、けっきょくのところ利用者側の選択肢が少なくなるというような恐れがあります。
サービスの種類を多くもっていない事業者は、利用者のニーズに応じたサービス提供ができなくなり、いわゆる顧客化ができずに苦しい経営になるのではないかと心配されます。良心的な事業者が追い出されてしまう恐れもあるわけです。
まず囲い込みです。多くの市町村では自前の人員だけでは訪問調査が処理できないため、都道府県に指定を受けた「居宅介護支援事業者」に訪問調査の委託をしています。
その配分も、支援事業者として「申請代行」をした事業者に、その申請者の訪問調査を委託するというのが、イージーで頭を使わなくてもよいからか、けっこうそうしている市町村が少なくないようです。
申請代行は、いまサービスを受けている場合、そのサービスを提供している事業者にすることが少なくありません。するとそこから訪問調査にきます。
ところで、申請者は、要介護認定が下りて実際にサービスを受けるとき、訪問調査をした事業者に介護サービス計画、ケアプランの作成を依頼する流れになりやすいと思われます。そして、そのサービス計画は、事業者がサービスを自前でもっていれば、その事業者のサービスを利用するようなものにするのが普通でしょう。
つまり、申請代行を確保すれば、実際の居宅サービスのお客さんまで確保できるわけで、申請代行をとるために、フライングや客のとりあいという品のないことがおこっています。
さきほどお話しました医療福祉複合コングロマリットによる囲い込みと、この申請代行を確保することによる囲い込みは連動します。
大きな組織はそれだけ窓口が多く、そのぶん申請代行の機会が増え、サービス計画までの囲い込みがしやすく、そのうえサービスのメニューが多彩なのでますます人集めがしやすくなるという、企業にとっては嬉しい循環になります。
私の所属している医療法人協和会は、申請代行の時点ですでにそれを裏付けるような格好で、川西市の現在までの申請の三分の一以上を扱っているらしいということです。
うーむちょっとなー、ではありませんか。
いっぽう、これは川西市のことではありませんが、申請そのものを市などの窓口で受け付けてもらえなかったとか、医者に相談したら「あんたはどうみても自立やから申請するだけ無駄や」といわれたというようなことも聞こえてきます。
窓口では認定手続きの手間や費用のことを考え、医者はあとでも触れますが、主治医意見書を書くのが面倒なので、そういう「門前払い」をするのかと邪推してしまいます。
しかし、自立かどうかはあくまですべての手続きをし、要介護認定をしてはじめて断定できることです。入り口で判断するのは制度そのものの否定ともいえます。
さて、門前払いは言語道断ですが、申請を受け付け、訪問調査の段になっての問題も出てきました。
さきほど申しましたように、調査の多くは申請代行をした事業者に委託されます。原則として調査は介護支援専門員がすることになっていますが、それ以外でも一定の研修を受けた人であれば認められるというのが一般的です。
調査に従事する予定の人たちは、9月ごろに研修を数回受けており、一定レベルの知識を持っているはずですが、しかし、介護認定審査会ででてくる訪問調査の結果を見ますと、なかにはかなり問題のありそうな調査をしているものがあります。
あまりにひどい場合は、再調査や問い合わせをしてできるだけ問題の出ないようにしていますが、調査する職種が非常にいろいろであり、調査員のレベルが揃っているとはとてもいえない状況だといえます。
つぎに、調査が委託されていますと、たとえば施設入所中のかたの調査は、その施設のスタッフでもある調査員が行うことが多くなります。
あまり露骨なことはしないにしても、やはり日常からよく知っているかたの調査、なんらかの感情が加わるようなことがなきにしもあらずではないでしょうか。
また、そういうことでなくとも、聞きとりだけではなく、かなり正確に日常生活の状態をチェックできるはずで、そうしますと、ご自宅に出向いてまったく初対面で1時間ほどの調査と聞きとりをした調査と、施設でよく知っている調査員がした調査と、微妙に結果が違ってくるのではないかと思います。
はじめにお断りしておきますが、これからお話することは聞き伝えです。私に確かめるスベはありませんので、具体的にどこだ、というところは言いません。
大阪府南部の某市でのことです。
市から派遣されてきた、公的機関の調査員の調査がまことにずさんだったというのです。調査は、普通にやっても小一時間はたっぷりかかると言われています。ご家庭の事情や周囲の環境から始まって、決められた85項目の質問事項があり、さらにそれぞれに特記事項という、具体的な事情を書く必要があります。
しかし、そこでは調査は15分もかからなかったというのです。あきらかに手抜きです。その不服は一軒だけでなく、複数からあったらしいのです。これは、私の知り合いの老人保健施設関係者が、その老人保健施設のデイケアやショートステイの利用者から聞いたということです。
その市では、川西市のように申請代行をしたところが調査の委託を受けるのではなく、市がいくつかの公的またはそれに順ずる機関に委託しているらしいのです。この近くでは宝塚市がそのような方式をしています。
このような方式ですと、前に心配した「調査員のレベル」や「だれが調査するか」による不公平はないかもしれませんが、しかし、朝から晩まで同じ調査、ひとりあたりのノルマも多い、調査したものは書いて期限までに提出しなければならない、そういう事情を考えますと、いわば流れ作業のようになっても不思議ではありません。
東海村の会社がバケツでウランを汲んでいたというほどの危険はないでしょうが、しかし調査を受けるほうにとってはたまったものではありません。
もし、こういうことに気がついたら、すぐに担当部署に通報すべきでしょう。
つぎに介護認定審査会で重要な役割になる主治医意見書の問題があります。
レジュメのうしろのほうに主治医意見書の縮小したコピーをつけました。意見書はこういうものです。
私は医者ですから、あまり医者の悪口は言いたくありませんが、じつはこちらのほうが訪問調査に関することよりも頭を抱えたくなることが多いのが現実です。ま、医者が医者の悪口をいうのはたいして度胸もいりませんから、ここについてはみなさん、しっかり聞いて帰ってください。
で、私はきっと主治医意見書の内容のばらつきがとてもひどいことになるだろうと予測していまして、それはなぜかといいますと、私がいま仕事をしている老人保健施設、ここへの入所などには昔から主治医意見書のような書類をつけていただくのですが、とんでもなくひどい書類を平気で患者さんにお渡しになる医者がしばしばいることを知っていたからです。
医師会のえらいさんたちは、介護保険でも医者がイニシアティブをとるべきだ、主治医意見書が認定で重要な根拠になるようにしなさいとおっしゃっていましたが、しかやはりふたをあけますと、とてつもなくひどい意見書がでてきました。
そうかと思うと、なんとか患者さんに有利になるようにと、いろいろと丁寧に記載した、誠意あふれる意見書も少なくありません。
なぜこんなことになるのか、私には同業者のことがよく分かるのでも介護保険の本題とはちょっと離れることもありますが、ついでにお話しておきましょう。
まず、介護保険のことをご存じないドクターがいらっしゃいます。信じられないでしょ。でも、そういう医者、少なくありません。
そもそも医者という人種は、いわゆる世間のことを知らないでもとくに問題なく暮らしていける世界にいるために、とても世間に疎い人が多いんです。自分に興味があること以外はほとんど知らない医者ってよくいます。
もちろん、いま伊丹から札幌まで安く飛べるスカイマークエアラインズの飛行機の機材はボーイング767の200型だとか、椎名誠さんの作家デビュー作は「さらば国分寺書店のオババ」というエッセイでその本からはやったのが昭和軽薄体という文体だったとか、富士登山より吉野の奥駆け完走のほうがたいへんそうだとか、女優のいしだあゆみさんが池田市の出身だとか、そんなことを知らなくてもぜんぜんかまいません。
しかし、せめて医療という仕事に関係していることは知っておいてほしいものです。
病気だけ見て病人を診ていなければそんなことは必要ないわけですが、逆にいいますと患者を人として診てくれていないのではないかということが、その医者がどのくらい世間の常識を持っておられるかで分かるかもしれません。
それで、介護保険のことをほとんど知らない医者がけっこういるのです。これは、私が何人もの同業者と直接話しての結論でして、断言できることです。
介護保険のことを知らない医者に、介護保険のための意見書を書かせるわけで、まともなものができるわけがありません。なせすべての医者に介護保険のことを勉強するようにしないのだといっても、そんなことは無理なので、あとでお話しますが、少なくとも介護保険を知らない医者に意見書を書いてもらうことは避けたほうがいいと思います。
ところで、もともと医者のなかには書類を書くのがとても嫌いというかたが少なくありません。何かの書類を書いてもらおうとして、とても長い時間待たされた経験をお持ちのかたも少なくないでしょう。
だから、市町村が心配したのは、期限までにちゃんと意見書を書いてくださるだろうかという点だったようですが、それもたしかにあるものの、現実には介護保険についてほとんど理解できていない内容の意見書があって、ほんと、頭いて〜、ちゅう感じなのです。
ところで、医者とひとまとめにいっても、個人で開業しておられるドクターと、病院などに勤務している医師とでは、同じに論じることができないことが多いのが実情で、介護保険のことについてもそれがいえます。
今回の介護保険制度の実施にあたっては、開業医のお医者さんがたは医師会からの再三再四の研修や通達である程度の理解がすすんでいます。もちろん個人差があり、さきほど言いましたように、興味なしなどというドクターもいますから、いちがいにはいえませんが。
いっぽう、病院の勤務医さんがたのなかには、そもそも介護保険そのものの存在を知っているのか疑わしいというような医者もいます。また、名前くらいは知ってはいても自分には関係ない、いちおう勉強したが関わるヒマなどない、そういう感じの医者が少なくありません。
さきほど「医者は書類を書くのが嫌い」ということをお話しましたが、この点でも開業医と勤務医とでは事情が違います。
個人開業のドクターなら、主治医意見書に限らず、診断書や紹介状を書くことは、それぞれがご自分の収入になります。主治医意見書は一通5000円の文書料が市町村から支払われますので、開業医ではそれなりに貴重な現金収入になります。しかし勤務医の場合、5000円は病院の収入にはなりますが、医者個人のフトコロにはなんの関係もありません。
手間だけで見返りがないのです。せこい話ではありますが。
また、開業医はずっとその地域で、ま、お商売をし続けておられるわけで、地域の評判といいますか、世間の目といいますか、そういうものが直ちに影響する状況にあります。
しかし、勤務医の場合、自分の評判が自分の生活にモロにかかってくることは少なくて、給料にもほとんど影響しません。とくに国公立系ではそうです。ま、もともとみなさんが思っておられるほど給料もよくないのですが…。それが医者への付け届けや謝礼の原因のひとつでもあるわけですが、それは今日の話題ではありません。
ホームドクター、かかりつけ医という言葉があります。私はとくべつ難しい病気でなければ、近くの開業医から信頼できるドクターをみつけて日ごろから健康管理をしていただくことをお勧めします。と、また脱線しました。
本論に戻ります。
じつは、そもそも病院として主治医意見書を書かないことにしているというところがあること、また、自分は専門的な医療をしているので意見書は書けないという医者がいることが分かってきました。もちろんこのことをおおっぴらに表明しているわけではありません。
私が自分で直接見聞きしたわけではないので、具体的な医療機関の名前を言うのは差し控えますが、市町村の担当者から、また認定を受けたいという患者さんから聞き取ったところによりますと、いまのところこの近所で二箇所の病院を確認しています。
それらはいずれも国立病院でして、をゐをゐ厚生省直轄の病院が主治医意見書の作成を拒否してどーすんの、という感想。また別の情報でも同様のことが全国であるようです。すでにあるマスコミの私の知り合いの記者がそのネタを追いかけていますので、いずれおおっぴらになるでしょう。
いずれにしてもとんでもない話、とてつもなく思い上がった態度ではありませんか。
専門医療だから意見書は書けない、などという医者や病院、また、とんでもなくずさんな意見書を書いて平然としている医者、こういう事態を診ていますと、ひょっとしたら主治医意見書は医者を選ぶひとつの目安になるのではないかと思ってきました。
この意見書は、介護サービス計画を作成することに利用することの同意の可否の欄がありまして、同意している場合はサービス計画を作成する際に介護支援専門員に提供されます。介護サービス計画は介護支援専門員でなく、利用者本人が作成することもできますから、要するに自分の意見書を見ることができるはずだと私は理解しています。
つまり、自分の意見書を見て、内容を見て、ある種の判断ができるのではないか、ということです。
カルテ開示が話題ですが、それよりも面倒なく自分の情報と主治医の考えなどを知ることができるのではないか、などと思うわけです。
ま、なにやかやといいつつも介護認定審査会になるわけですが、私の川西市では一週間前に次回の資料をドサッと渡されまして、それを審査会までに予習しておかなければなりません。そうしておかないと、2時間で30件というような処理はできないわけです。
そして、審査会では、いままでお話しましたような、本当に公平なのかという基本調査を元にして単なる統計処理をした一次判定の結果と、あまりにも落差の大きい内容の主治医意見書と、ときどき書いてある意味が不明なこともある特記事項を使って、ある高齢者のかたの半年間の生活の質を決定するような判断をしているわけです。
覚悟はしていたとはいえ、この作業はとてもたいへんです。
あ、これは問題点の指摘ではなく、単なるボヤキでありました。
以上のように介護保険法が成立してから、この制度に対するいろいろな問題点が指摘されつづけてきましたが、介護認定審査会で実際の認定作業が始まって、新たに来年からの本番で不安になる点が出てきました。
最後にそれらについてお話したいと思います。
申請代行をして委託された訪問調査をし、主治医意見書を作る、この業務が増えただけで、職場の忙しさがとてもひどくなっています。現場ではこのための人員を増やす理由も財源もなく、担当者はこれまでの業務に加えて、残業をしたり休日を使ったりしてこの仕事をせざるをえません。
そして、4月が近づきますと、その数のぶんだけのケアプランの作成が新たに加わってきます。ケアプランは、計画をたてるだけではなく、その計画を実行するために、複数のサービス提供機関との調整をしたり、連絡をしたりしなければなりません。
考えただけで気が遠くなりそうな介護支援専門員が多いのではないかと思います。
つぎに、昨年までのモデル事業でもすでに指摘されてきましたが、認定審査会での認定で自立と要支援と認定されている人の割合が思った以上に多い。
現在やっている認定作業は、ほとんどの市町村では、現在なんらかのサービスを受けておられる人を対象に行なっているものですから、これらの要支援以下の人たちは、介護保険になると現状のサービスをそのままでは受けられなくなる恐れがあります。
いま、家事ヘルパーさんに頼って生活しておられる独居の高齢者で自立と認定された人はただちに介護保険でのヘルパー派遣は停止されます。
介護保険ではない、別の市町村の財源を用いた在宅サービスを何らかの形で整備しなければ、買い物もできなくなる高齢者世帯がたくさんできてくることになります。
市町村によっては、すでに福祉の財源でこのようなかたへの支援を続けることを決めているところがあります。
自立のかたの場合は、そもそも介護保険の適用を受けられませんので、介護保険制度での「市町村特別給付」や「上乗せサービス」「横だしサービス」というものも受けられないわけですから、ことは別の部署での検討を要しますが、そこで立ちふさがるのが「予算処置」ということになるようです。
大阪の箕面市では「はみ出しサービス」と名づけられたサービスをすることが決まっているようですが、具体的にどういう規模のものかは、おそらく2000年度の予算が決まらなければ具体化しないのでしょう。
家族慰労金などというものがあっという間に決まってしまいましたが、あれの恩恵を受ける人よりも、現状サービスを受けられなくなる人のほうが多いと私は思っております。
保険あってサービスなし、といわれていますが、地域によってサービスの種類に大きな偏りが出るのではないかと思います。
民活とか異業種参入とかいいますが、投下資本がそれほど多くないホームヘルプやデイサービスにそれが目立ちます。しかも人口の多い地域に集まっています。リスクの大きい過疎地や設備投資の必要なグループホームやケアハウスなどの整備は遅れています。
また、重介護のかた、とくに経管栄養や気管切開をしているかたなどを収容する施設が皆無という自治体も少なくありません。この近隣にもたくさんあります。
けっきょく、ケアプランというのはショーウインドウのようなもの、絵に描いた餅のようなもの、選べるサービスはほとんどないということになりかねません。
そして、これはさきほどもお話しましたが、質の悪い業者が、安かろう悪かろうで高齢者を食い物にしたり、家族から疎まれた老人の引き受け手になったりということも心配されます。
自宅でなされるホームヘルプにしても、世間と隔離された施設にしても、その気になればごまかしはどうにでもできます。
すでに、グループホームについて、悪質な業者が参入する恐れがあると監督官庁自身が警戒態勢に入っているという報道もありました。
さらに最後にもういちど指摘しておきたいことは、介護に従事する人材の質です。
いまのような低賃金、使い捨て発想のままの雇用環境では、まともな人材が確保できることは難しいでしょう。
その影響は、けっきょく私たち自身に戻ってきます。
殺伐とした人間関係のなかで、よい介護ができるわけはありません。これは医療でも同様です。個人のモチベーションだけに頼っていけるほど、介護という仕事は楽なものではありません。
そしてギリギリになってもうひとつ加えなければならなくなりました。
いうまでもなく連立与党のゴリ押し的かけひきで、保険料の徴収先送り、第二号被保険者の保険料の補助、家族ヘルパーへの介護給付、ヘルパー研修への援助、そして介護保険制度とは別にするということですが、要介護4と5で介護給付を受けずに家族だけで介護する低所得家庭への慰労金の交付など、もうなんでもありという感じです。
何年もかけて審議会と官僚で煮詰めてきた議論はいったいなんだったのかという印象があります。彼ら政治家には、自分たちの都合のためなら、介護現場の実態や、現場従事者の苦労などどうでもいいようです。
まったく、脱力してしまいました。
お配りしてあるレジュメの最後のほうに一次判定の結果の紙があります。じつはこれはある一次判定シミュレーションソフトの出力のものです。実際に市町村で使っている紙は、守秘義務とのからみを心配してお出しできませんでしたが、でもまあこういうものです。
で、このシミュレーションソフトはどういうものなのかというのを、時間があればちょっとお見せします。
そして、しばしば話題になっている一次判定の問題点の典型的な例をお見せします。その例とはこのスライドにあるように、まずたいへんそうでも基本調査でチェックが入る項目数が3つ以下だと自立とされること、そしてたった2項目、それもそれほど介護の手間とは思えないのに要介護1になる例、最後にいろいろな問題行動があってご家族はたいへんだろうと思えるのに、判定では要支援でしかない例です。
もうひとつ、今日は例を示せませんが、主治医意見書や特記事項から勘案してもうすこし重度だろうということで、介助項目を追加したところ、逆に要介護度が軽くなってしまうというのも経験しています。
では画面でごらんください。(Web版では画面はありません)
ということで、以上で介護保険の問題点についてのお話を終わりますが、最後に、介護保険制度では、地域の活動や事業が社会資源として追認されるということが起こっています。
じつは、川西市でも、これまでボランティア団体としていろいろな活動をしていたグループが、NPO法人として介護保険を視野に入れた活動に進出しようとしています。
介護保険のユニットはせいぜい複数の市町村単位です。ですから、制度の問題点に対しては、市民みずからがある程度の改善を促せる可能性があるのではないかと思います。
問題があるからと批判するばかりではなく、制度をうまく利用して市民が地域独特のサービスを考えていくのもひとつの方法かとも思っています。そのようなことが可能なら、私もなんらかのお役にたてるかなあと考えながら、ひとまず介護保険のお話を終わりにいたします。ありがとうございました。