みんなで考える介護保険


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はじめに

 こんにちは。ご紹介いただきましたウエルハウス川西の上農でございます。

 今日は介護保険のことについてお話させていただきますが、おそらく私のようなツケ刃でないお詳しいかたがおられるものと思って、今日はかなり緊張しております。とりあえず介護保険に近い現場で医者として仕事をしている立場から見たものをお話するということで、間違いなどがありましたらご訂正いただくことをお願いいたしておきます。

 また、のちほどお話しますが、制度の具体的な部分は今まさに決まりつつあるというところで、まだまだ決まっていない、あるいは、決まったことになっていないことが多いことをはじめにおことわりしておきます。

自己紹介

 では最初にすこし自己紹介をいたしておきます。私は1949年生れの50才。大阪八尾の出身、河内の人間であります。1973年に奈良県立医科大学を出まして、出身大学の脳神経外科の医局に入りました。医局から大阪や奈良の国公立病院を回って修行させていただき、その間の昭和51年ごろから数年間は大阪府立病院にいましたが、そのときに週に一度、ご当地の市立病院で診療させていただいたことがあります。当時の病院はもちろん以前の古い建物、現在の国道26号線もまだ第二阪和国道と称されていて、ブツブツと細切れにしか開通していなかったころです。

 それで、1985年に兵庫県川西市の協立病院にまいりまして脳外科を担当しました。協立へきて数年してから、在宅の患者さんに訪問診療、当時は訪問診療という言葉はなく、往診でしたが、それを始めまして、その後在宅医療のほうの比重が大きくなってきました。これまでにのべ 200人以上のかたの在宅療養のお手伝いをしていると思います。

老人保健施設から在宅医療センターへ

 1995年に協立病院の母体である医療法人協和会が老人保健施設を作るという計画が持ち上がりまして、在宅の患者さんをお世話していてバックアップの施設としての老人保健施設の必要性をじゅうぶんに知っていたため、計画当初からかかわらせていただいてウエルハウス川西をオープンしました。オープンから1年半あまり施設長をしまして、在宅医療のほうへ戻るため、今月の初めから施設長職をやめまして、在宅医療センターという部署を作ってそこで仕事をしています。

 このセンターは、老人保健施設と訪問看護ステーション、在宅介護支援センター、それに訪問診療とその支援のための外来診察を包括したものとしています。

 私は町歩きが好きで、旅行に行ってもしばしば普通の町を歩き回ったりするのですが、訪問診察やデイケアの送迎などは、歩きではないものの、そういう町の景色の中にいられるということでなかば楽しんで仕事をさせていただいています。

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今日の話の概要

 今日のお話ですが、私はまもなく始まる介護保険についてあらためて解説して整理せよという主旨でご依頼を受けたと理解しております。

 それでまず皆さまご存知だとは思いますが、介護保険について、なぜ公的介護保険が検討されることになったかという歴史的な背景、介護保険制度の根幹である新ゴールドプランの概略、そして、介護保険での要介護認定とサービス給付の流れなどについてざっと整理し、半年後に迫った制度の開始に向けて今どこまでが決まっていて何が決まっていないのかをご説明したあと、最後に介護保険の問題点について私の思うところをお話したいと思います。

 私自身もなにしろ自分の仕事での必要性から短期間のうちに勉強したものですから、とても前でお話しできるレベルではないのですが、ごいっしょにいろいろと考えてみようということでお許しいただきたいと思います。

介護保険の概要

 まずはじめに、公的介護保険制度が制定されることになった経緯などをすこしまとめておきましょう。

 介護保険関係の本にはどれにも21世紀の高齢社会のことが介護保険の導入が検討されることになった理由であると書いてあります。しかしほんとうにそれだけでしょうか。

 たしかに日本の社会の高齢化はすさまじくて、年金制度も維持できないというような事態になってきているわけですが、しかし、だから介護のための保険を創設しなければ、将来はたいへんではないかというのは、じつは簡単に言ってはならないのではないかと思います。

 つまり、高齢者は必ず医療や介護を必要とするのだという、ある種の間違った先入観をいつのまにか私たちが持ってしまっていて、だから医療や介護のことをきちっとしないとたいへんなことになるのだ、と思わされてきただけではないか、そういうことです。

老化の実態

 東京都老人総合研究所というところが行なった調査では次のような結果が出ています。

 ◆65才以上の高齢者のうち▼障害を持っているのは5%で、◆この人たちを含む25%が自立できていない▼典型的な自立高齢者は50%▼つまり75%はなんとか自立している

 ◆高齢者が最後に寝込む期間は▼一ヶ月以内というのが50%で、なかでも2週間以内が最も多い▼長期の寝たきりはむしろ例外

ということです。人間が年をとるにつれて直線的に能力が低下するという考えは間違いであり、人間の老化は直角型、最後のときまで一定の能力をもっているのが普通である、とされています。

なぜ介護保険か

 問題は、パーセンテージは低くても高齢者の絶対数が多いことと、高齢者の独居や夫婦世帯が多いという点にありますが、けっきょくのところ、医療保険の行き詰まり、つまり社会的入院や高齢者の医療費の高騰が、介護保険のアイデアをもたらした最大の原因ではないかと思います。しかし、それではけっきょく医療費を介護費に移し変えて先延ばししただけであり、利用者にとっては必要な医療さえ切り捨てられるおそれのある、一段下の制度を押しつけられたといってもいいのではないでしょうか。

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在宅療養推進への誘導

 じつは、介護保険のアイデアが具体化する前から、医療保険の分野では在宅医療を推進する施策がつぎつぎととられてきました。

  1986年の老人保健法改正による老人保健施設の創設、1991年の老人保健法再改正による訪問看護制度、病院や医院の診療報酬での薬代の締めつけとそれに代わる在宅医療関連の診療報酬の大盤振る舞いなど、さらにそういう制度とは別に、巧妙にプロパガンダされたとしか思えない「在宅療養賛美」の風潮など、世間の気分は在宅へ在宅へと流れていったように感じます。

 じっさいに在宅医療に深く関わってきた私など、在宅療養はそんなに生易しいものではない、非常にたいへんなんだとずっと言い続けてきましたが、ま、そういう声はあまり多くなかったようです。

 しかし、在宅への推進を制度として進めようとしても、厚生省の思惑どおりには進んでいないように思います。その理由のひとつに、在宅医療で中心的な役割になる肝腎の医師たちの動きが、いかに診療報酬で優遇されてもなかなか鈍かったことがあると私は思っています。お医者さんがたは、やはり町を走り回ったり、24時間365日を拘束されることに抵抗があるのかもしれません。

 訪問診療というのはある種の「ご用聞き」ですから、患者さんの側から診察を受けにやってくるという習慣に長く慣れてきた多くのお医者さんたちにはとっつきにくいのかもしれません。

新ゴールドプラン

 医療における在宅推進と並行して、1989年にゴールドプラン、1994年にそれを改訂した新ゴールドプランが制定されて、全体の制度としての在宅推進が着々と進められてきました。

 このゴールドプランには、2000年4月つまり介護保険制度発足時に整備すべきホームヘルプやショートステイなどの在宅療養支援サービスの目標と、あとでお話します3種類の施設の目標が決められています。

 施設に関しては私にはこれは目標というより限度量に思えます。だれがどう考えても、人件費の固まりである施設は不経済で、ともかく在宅療養のほうが費用がかかりません。あ、これは、当事者ではなく、お国から見た場合のことです。

 だから、おそらく、このゴールドプランの施設数は、通所や短期入所の施設以外については、今後増やされることはないでしょう。これを増やすことは、いまの医療費のパンクと同じことを介護保険にも持ち込むだけだからです。

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介護保険法

 ではいよいよ介護保険法のお話に入ります。

 一昨年12月に介護保険法が成立しまして、いよいよ2000年4月から介護保険の実施が決まったわけですが、しかし、じつはまだ保険料や給付金額などの重要な部分の具体的なことは発表されていません。介護保険法は制度の根幹部分だけですから、具体的な数字や範囲といったものはすべて政省令で決めるとされていて、昨年末にようやくあとでご説明します保険料の所得別段階や特定疾患の具体的な例が施行令として公布され、3月末に在宅支援のサービスをする事業者や施設、福祉用具の基準など、4月末に要介護認定の基準が決められたにすぎません。実際の保険料額の算定の元となる介護給付の額、つまり、あるサービスを提供したとき、そのサービス提供機関にいくら支払われるのか、ということについては、来年の1月に決められるといわれています。

 したがいまして、今日のお話も、細部になりますと、それはまだ分からないというところが少なくありません。なにしろ、介護保険法で政省令に委ねられた項目はなんと300もあるといわれています。

介護保険法の概要

 さて、介護保険制度というのは、ひとことでいえば、介護の必要な「心身の障害」に対して保険給付をするという制度です。「心身の病気」に対して給付されるのは医療保険ですね。介護保険は障害、つまり不自由に対して支払われると理解していただくのが正しいと思います。いや、それはおかしい、介護保険なのだから、介護が必要な場合に支払われるのだろうとおっしゃるかたがおいでかもしれません。もちろんそれはそうなのですが、しかし、保険給付の基準などを見ていますと、これはまさに「医療保険から枝分かれした保険」、要するに医療の匂いがたいへん強い保険であるという点に注意が必要です。

 もっとはっきり言いますと、介護保険は生活を見てくれるものではない、ということです。介護保険は心身の不自由を見てくれるだけのもの、です。

 レジュメの**《1》**をご覧ください。介護保険というのは、いまの老人保健を、より医療の部分だけにした老人保健の部分を切り離し、老人福祉のうち医療に近い部分をひっつけただけのもの、そのうえ、従来は社会的な理由で措置していた福祉サービスの部分も心身の理由がなければサービスしない方向、しない方向です、にシフトさせたものだといえます。

実際の流れ

 で、こういう保険なんですが、それでもないよりはマシ。この制度はどのようになっていて、じっさい給付を受けるにはどのような手続をすればいいのか、ということになります。

 **《2》**をごらんください。この図のようなのは、介護保険関係の本やパンフレットでよくみかけます。しかし、いきなり見てもなかなかわかりにくいですね。ちょっと具体的な場面を想定して流れを見ていくことにします。活字ではないからリアルでもいいでしょう。

介護保険制度のしくみ

 ある人が脳卒中をおこして救急車で病院に運ばれて入院したとします。幸い生命はとりとめたのですが、左の手足の麻痺が残ってしまいました。その病院でリハビリもしていましたが、入院して数週間たったころ、リハビリだけならリハビリの専門病院のほうが効率的だからと勧められ、初めの病院の母体の医療法人が経営するリハビリ病院のほうに転院しました。リハビリに励み、不自由ながらもなんとか杖で室内を歩くことができるようになりまして、あとは外出できるまで頑張ろうと思っていたやさき、長期の入院になったので退院してください、といわれます。そういえば倒れてからもう3ヶ月になったのだなあと気づきます。

 あれれ、でもたしか病院の入院は3ヶ月とか聞いていたのだが、リハビリ病院にきてからまだ2ヶ月ほどだと思ってケースワーカーに聞きますと、1998年の診療報酬改訂から同じ経営母体の場合は入院期間が通算されるように制度が変ったのだという。だから最初の病院の入院が起算日なのですな。

 もう1ヶ月もすればもうすこし歩けるようになるのになあ、と後ろ髪を引かれる思いでしたが、退院して介護保険サービスを受けることにしました。

 で、介護保険の申請のため家族が市役所の介護保険担当部署にいくと、普通は市役所が直接するのではなく、医療機関などに委託しているのだという。そしてリハビリ病院入院中というと、住所地を管轄する在宅介護支援センターを紹介してくれました、と。

 在宅介護支援センターで相談員に認定の申請をしたいと申し込んだところ、すぐリハビリ病院の介護認定調査員、これは介護支援専門員が兼ねているはずですが、その調査員に調査を依頼してくれます。これで介護保険給付申請が動きだしたわけです。

 自宅におられるかたが申請した場合は、たとえば在宅介護支援センターの調査員が家庭に訪問して調査をします。この調査の内容ですが、日常生活の様子や障害の程度、医療の状態など85項目について調査して、それをコンピュータ処理して一次判定とします。

 レジュメの**《3》**がその判定の方法です。これについては細かく説明しますと非常にややこしく、これだけで何時間もかかるほどですので省略しますが、基本的にはある介助行為がどれだけ必要かというのが判断の基準になっています。

 さて、各市町村には介護認定審査会というものが設置されています。これは、身体障害に詳しい医師、痴呆に詳しい医師などを含む5名程度の構成になるといわれていますが、そこで一次判定に記述調査部分、それにかかりつけ医の意見書の三つを総合して二次判定を出します。二次判定がほぼそのまま給付の基礎となるわけです。

 なお、介護認定審査会で一次判定を訂正して二次判定とするさいには、非常に厳しい事例集があり、なかなか一次判定を訂正することは難しいのが現実です。

 この調査と、同時に必要になる「かかりつけ医意見書」、コンピュータによって判定された結果などの具体的な用紙を今日持ってきています。数がありませんのでお回ししますので、もし興味がおありでしたらご覧ください。

 で、申し込んだご本人はリハビリ病院に入院しているわけですが、退院を迫られ、しかも申請は出したものの、いつ判定が知らされるのかが分かりません。判定は1ヶ月以内にすることが法律で決められています。ま、判定がでるまでという大義名分で、半年を越えてもリハビリをしていますので、それはそれで、という塩梅。申請した人は、申請したあとには通知されるまで待つしかありません。

 ぎりぎり1ヶ月近くして通知があり、なんと要支援だとのこと。判定の種類についてはもういちど**《3》**の表をみてください。

 こんなに歩くのに不具合なのに…と不満でなりません。リハビリを頑張って歩くのが巧くなって、歩行の能力がよくなっているところに反映されたわけです。ああ、こんなことならリハビリを頑張るのではなかった。

 しかし、どうにも納得できませんので、要介護Tではないのかという不服申し立てを介護保険審査会にすることにしました。ところで、不服申し立てをしている間はケアプランがたてられませんので、自宅での支援を受けられないことになります。あ、ただし、このことについては、じっさいは要支援としてのサービスは受けながら不服申し立てができることになるかもしれません。

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要介護度認定

 つぎにレジュメの**《4》**をご覧ください。このように要介護度の認定によってこの表の「支給限度額」程度の介護給付を受けられることになります。ただしこの金額は来年の1月に決められることになっていまして、いまのところ、それほどかけ離れてはいないでしょうが、あくまで予測であります。

 この介護給付金額の9割が、じっさいにそのサービスをする事業者や施設に市町村側から支払われ、1割を利用者が事業者や施設に支払うことになります。ちょうど医療保険、たとえば国民健康保険では3割の自己負担がありますが、それと同じような仕組みです。

 で、その原則ですが、ちょっと番号が飛びますが**《9》**をごらんください。

 **《4》**にある支給限度額というのはあくまで「限度」ですから、それ以下でもかまわないし、自治体によってはぎりぎり限度額までサービスを用意できないところが出てくるかもしれません。その場合は実際に受けたサービスの給付額の1割負担ということになります。

上乗せ・横だし

 もし、限度額よりももっとサービスを受けたい、提供側にもそれを供給できるということであれば、その分を全額自己負担すれば受けることができます。これを「上乗せサービス」と言っています。医療保険では、いまのところこのような制度はなく、それどころか保険診療と自費診療を同時にすることは「混合診療」として禁止されています。

 また、国の制度とは別に市町村で条例でサービスを決めて、それを介護給付でまかなうこともできます。国で決まっているサービスはあとでご説明しますが、それ以外の部分を市町村でするのを「横だしサービス」といいます。市町村レベルの話なので、みなさまがたの要望でいろいろなものを条例で決めることができます。市会議員さんなどに頑張っていただければ、手厚いサービスを提供している市になれます。ただし財源は必要ですから、手厚くサービスをしてもらえる条例を作ると、そのぶん保険料が高くなる可能性があります。

 注意しなければならないのは、要介護度認定は、状態に変化がなくても6ヶ月ごとに繰り返し行われるということです。6ヶ月たって要介護度が変化すれば、支給限度額も変更になり、受けられるサービスは変ります。もちろん6ヶ月以内に変化があればその都度認定を受けることになります。

ケアプラン

 それで、こうして要介護度を認定され、支給限度額が決まりますと、その限度額の範囲内での介護サービスの組み合わせを介護支援専門員が設計します。それをケアプランといいます。

 たとえば、ホームヘルパーさんの家事援助はいくら、訪問看護はいくら、という、個々の介護給付の額がありますから、要介護度によってだいたいの組み合わせパターンというのが決まってきます。

 レジュメの**《4》**の表の右側にある数字がその例です。この数字は短期入所の欄以外は1ヶ月に何回というもので、短期入所は6ヶ月あたりのの回数になっています。もちろんこれ以外の組み合わせも、支給限度額の範囲内で可能です。

 短期入所つまりショートステイは、再重度の5でやっと毎月できるくらいしか許されていないことにご注意ください。

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介護保険の給付一覧

 それで、どんなサービスがあるのかということは、これはすでに法律のほうで決まっています。レジュメの**《5》**をごらんください。

 「介護給付」というのは、要介護と認定された場合に受けられるもの、「予防給付」は要支援と認定された場合に受けられるものの一覧です。

 このふたつの大きな違いは、要支援では施設サービスを受けることができないことです。ショートステイは可能ですが、いわゆる入院や入所はできないことになっています。このあたりにちょっと問題がおこってきそうなんですね。ま、それはあとでお話します。

在宅サービス

 在宅サービスのほうですが、これは基本的に現在の制度を引き継いでいます。言葉がほとんど日本語に変えられていますが、だいたいお分かりいただけるかと思います。デイサービスとデイケアの違いはいまでもけっこう混乱していますが、デイケアのほうがより医療に近いと考えてください。デイケアは病院、診療所、老人保健施設で行われ、デイサービスは特別養護老人ホームやデイサービスセンターで行われます。

 「特例」と書いてあるものがあります。これは、要介護度認定を受けてケアプランをたてて、というような悠長なことを言っておれないような場合に、先にサービスを開始してしまうための方法です。さきほどの実例でお話した「不服申請」をしている間もこの制度を使うことになると思われます。

施設サービス

 つぎに施設サービスについてです。

 現状でも高齢者関係の施設の違いについて、専門職ででもきちっと理解していない人がいるくらいで、一般のかたにとってはいったい何がどうやねん、という感じだと思います。

 介護保険制度での施設は、**《4》**の欄外の注1にあるように、指定介護老人福祉施設、介護老人保健施設、指定介護療養型医療施設の3つになります。これらはそれぞれ右に書いてあるように、現行の特別養護老人ホーム、老人保健施設、療養型病床の病院のことです。

 ではこれらのどこが違うのかということをつぎの**《6》**にまとめてあります。えと、この表、ちょっと訂正があります。一番上の欄の右端に「介護老人福祉施設」とありますが、これは頭に「指定」とつけて「指定介護老人福祉施設」というのが正しいものですのでご訂正ください。

 細かいことを言いますと時間がかかりますので、ざっとした違いをお話ししますと、表のいちばん左の「老人病院」というのは、従来の病院の規格そのままのものです。ほんらい、こういう病院は介護保険の施設に加わらないはずでしたが、療養型病床の整備が追いつかないと予測されたために、暫定的に療養型と同じ扱いをすることになりました。もっとも、実際には予想をはるかに越えた療養型ができてきて、逆に数を制限する事態になっています。これならはじめから規格の緩い老人病院の経過措置などしなければよかったのにと思います。

施設の違い

 こういう施設というのは、規制でがんじがらめになっているものでして、その規制の主なものが人員にかかわるものと設備にかかわるものです。

 表の左ほど医療が濃く、右ほど介護が濃くなっているため、医者の数が病院では患者さん 100名あたり3名であるのに対して、老人保健施設では1名、特別養護老人ホームでは超大型、たしか入所 300名だったと思いますが、そういう巨大施設以外は常勤医が不要です。

 看護婦さんの数も数字をみていただければ一目瞭然でしょう。

 そして設備の面では、右へいくほど余裕のある作りになっていることがお分かりいただけますでしょうか。

機能分担はできるか

 つまり、ほんらいなら、医療の管理が必要な人は左のほう、病気がおちついている人は右のほう、ということになるわけです。もっとも、現実には、今のところどの施設でもそれほどの違いはないような感じがしています。介護保険になってどのような棲みわけになるのか興味のあるところです。平成10年度モデル事業の結果である**《14》**を見ますと、老人保健施設の比率がちょっと問題であるようにも見えています。

 なお、この表の「費用の支払い」「利用者負担」「利用手続き」の欄は現在のものを書いてあります。「費用の支払い」のは、表ではいろいろ書いてありますが、介護保険になりますと、介護給付でまかなわれ、その額はだいたい**《4》**のいちばん下に例示してあるものが限度額になるものと考えられています。要介護度が低いと段階的に安くなるはずですが。

 各施設の設備にはあまり差がないので、この金額の差はほとんど人件費だということはご理解いただけますでしょうか。各施設がどのような機能分担をすることになるのか、ちょっとよく分からないところではあります。

福祉施設はどうなる

 ところで、これまで老人のための福祉施設には**《7》**のような種類がありました。特別養護老人ホームが都道府県の指定を受ければ介護保険施設になることは決まっていますが、それ以外のホームはどうなるのでしょうか。

 養護老人ホームはゆくゆくは廃止されるようです。特別養護老人ホームへの転換か、軽費老人ホームへの変更ということになるのでしょう。

 軽費老人ホームは、これは入所の理由はほとんど社会的なものですから、そもそも介護保険とはべつのものですので、今後も続けられるものと思われます。ケアハウスは介護保険の在宅サービスの対象となっていますので、いますこし整備され続けるものと思います。

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これまでに決まったこと決まっていないこと

 さて、いろいろとご説明していますが、介護保険法の施行から約1年半、どれだけのことが具体的に決まって、どんなことがまだ決まっていないのでしょうか。

 保険者に関すること、つまり都道府県や市町村当局に関係する決めごとも山のようにあります。とくに今年になってからつぎつぎに施行されている政令、省令、規則、基準通知のたぐいにはそのようなものも多く含まれています。また業者側を規制するものもあります。

 すべてをご説明するには時間がありませんので、とりあえず利用者に関係の深いものについてざっとお話しておくことにします。

保険料と自己負担のこと

 さて、保険料の額そのものは何度も言っておりますように決まっておりません。しかし基準の保険料に対する所得段階別での加算、減額については決まっています。

 レジュメの**《8》**をご覧ください。市町村民税を基準として5段階に分けられることになっています。これはこれで公平になるようにという配慮だそうですが、ただこれによって別の不公平が生じています。これについてはのちほどご説明いたします。

 そして、介護サービスを受けたときの自己負担については**《9》**にまとめました。

 基本的には利用者は1割負担となります。ただ、居宅介護サービス計画費、つまりどんなサービスをどのような組み合わせで行うかというケアプランの料金については自己負担なしということになっています。

 そして、医療保険との大きな違いとして、上乗せサービスと横だしサービスがあります。これらは、考えていただければお分かりのように、経済的に余裕があればさらにサービスを受けられるというものです。お金がものをいいます。医療保険では生命の平等という見地からだというのですが、このように金でサービスを買うことができません。ま、そのかわり、医者へのつけ届けなんて悪習が根絶できないわけではありますが。

 介護や生活は金で買えるとお上は認めたと言っても過言ではないでしょう。

自己負担上限額

 で、自己負担の額があまりに高額な場合は「高額介護サービス費」として利用者に給付されることになっていますが、つい先週、介護保険のいろいろなことを審議している、医療保険福祉審議会・老人保健福祉部会に厚生省から案が示されています。

 それによりますと、一般家庭つまり**《8》**の第三から第五段階の場合、37,200円を越えた分が支給され、市町村税非課税世帯つまり第二段階の場合は24,600円、生活保護者世帯で15,000円を超えるとその分は支給されるとなっています。

 審議会への提示はたいていそのまま認められることが多いので、おそらくこのように決まるものと思われます。

 しかし、1割負担で37,200円ということは、支給額は372,000円ということで、おそらく要介護度が5の最重度以上にしか適用されないことになるのでしょう。

特定疾患

 さて、つぎに**《10》**に列挙してありますのは、第二号被保険者への介護給付の対象となる疾患です。

 脳血管疾患というのは、いわゆる脳卒中、脳出血や脳血栓、蜘蛛膜下出血などを総称しているもので、これが指定されたことでかなり助かる患者さんがおられるものと思われます。いまはこのような病気の後遺症で寝たきりの65才未満のかたは、福祉のショートステイや老人保健施設、デイケアなどの利用ができずにたいへん困っておられます。

 あとは糖尿病関係もよく見られる疾病ですが、糖尿病もそれによって神経障害や腎不全、視力障害にまでいたった重度の場合に限られますし、それ以外の病気は、高齢のかたには珍しくないものが多いものの、65才未満のかたではあまり多くはないと思います。つまり、15種類の疾患がずらずらと書かれて「一安心」というように見えますが、じつはそれほど対象になるかたは多くないのではないかと思うわけです。

居宅サービス事業者の基準

 2ヶ月ほど前には、居宅サービス事業者、つまりホームヘルパー派遣やデイサービスなど、実際のサービスを供給する業者や、居宅支援事業者つまりケアプランをたてる業者の、設備や人や運営に関する基準が発表されています。

 この基準の詳細の説明は省きますが、介護保険制度では一定の要件を満たしていれば、これまで医療や福祉とは無関係であった法人でも事業に参入できることになりました。異業種参入とか規制緩和と言われているもののひとつで、競争原理で質をよくしようというかけ声ですが、例の有料老人ホームの倒産などが相次いでいることでも分かるように、逆に質の悪い、あるいは単に金儲けだけが目的の業者が混ざってくることもあり得ます。

 それを防ぐために詳細な厳しい基準を設定したようですが、ま、世の中には網をくぐるのがおじょうずなかたがおおぜいおられますから、利用するときは消費者の目でしっかり見極める必要があると思います。

 この基準の中にはたとえば第35条に「居宅介護支援事業者に対する利益供与の禁止」という条文がありまして、『指定訪問介護事業者は、居宅介護支援事業者又はその従業者に対し、利用者に対して特定の事業者によるサービスを利用させることの対償として、金品その他の財産上の利益を供与してはならない。』とあります。要するにリベートをするな、ということですね。こういう条文があるということは、おそらくリベートが横行するやろと行政は見てるわけです。

施設の基準

 施設に関する基準も同時に発表されています。

 こちらのほうは**《6》**でお示ししたものと基本的には変わりありません。ただし、やはりこちらにもリベートをやりとりするなという条項がありますし、第18条には「おむつを使用せざるを得ない場合はおむつを適切に取り替えなければならない」とか、「利用者の負担によって従業者以外の者による看護及び介護を受けさせてはならない」つまり付き添いをさせてはならないという条文があります。

 おむつをしなければならない場合に取り替えをあまりしないで放置していたり、手のかかる利用者の場合は家政婦さんをつけさせるなどということが、現実にはしばしばあるということがこれで分かりますね。

貸与や購入費支給の対象となる福祉用具など

 さて、**《11》****《12》**、**《13》**は物や設備に対する給付の具体的な内容です。

 身体に直接当たったり装着するようなものは「購入費支給」となり、それ以外のものは「貸与」となっています。そりゃあ尿器が貸与ということだと、誰が使ったのか分からないのでは洗ってあってもなんぼなんでもイヤですよね。そういうものは買うための補助をしてくれるわけです。

 住宅改修については、介護保険での支給はたいしたものはなく、しばしば現場が遭遇する、道路から居宅までの高低差の移動を楽にするリフトなどの高価なものは、やはり自己負担しなければならないようです。

要介護および要支援認定基準

 さて、先月の末に「要介護および要支援認定基準」が決まりました。**《3》**の一番下の表です。これは昨年度のモデル事業で要介護度が軽く出過ぎるのではないかというブーイングが全国から出てきたものをうけて、要介護認定など基準時間のきざみを35分から20分に小さくしたものでした。

 それによって、これまでは基準時間が170分以上で要介護度5であったのが、110分以上で5になると変りました。単純に比較しますと、平成10年度で要介護度3であった人の一部は4または5と認定されることになっています。

 これはこれで利用者にとっては有利になったことなのですが、このことから分かることは、介護保険というのは厚生省のやりかたひとつで簡単にコントロールできるということでした。

現金支給

 ところで、いよいよ介護保険の実施が目の前に迫ってきて、ここのところ政治家たちがいろいろと花火を上げておられます。

 総選挙のことを考えてるのだなというのがミエミエで、いちいちマスコミが取り上げるものだからこちらは右往左往しそうになって腹だたしい限りですが、ごく最近の動きを見てみても、そもそも介護保険の実施を先延ばしにせよなどという乱暴なものから、整備の進んでいない市町村は遅らせようとか、保険料の高すぎるところには補助するとか、ともかく無責任きわまりないことです。

 そのなかで、ほんの数日前、過疎地や離島などの一定条件下で、ヘルパー資格を持つ家族が介護したときの一部を現金支給することを検討しているという厚生大臣の話が報道されていました。

 もちろんそういう地域ではヘルパーさんの数を揃えられない、民間業者は採算がとれないから進出することがないなどの悪条件がありますが、つい2ヶ月前に発表された居宅サービス事業の基準の第25条には「指定訪問介護事業者は、訪問介護員等に、その同居の家族である利用者に対する指定訪問介護の提供をさせてはならない」と明記されており、たった2ヶ月でホゴにするのんかいなと呆れてしまいました。

 現場の必死の努力を知ってか知らずか、たぶん知らないかそんなことどうでもいいのでしょうが、いいかげんにしていただかなくてはなりません。

決まっていないこと

 それで、最後にまだ決まっていないことです。もっとも、いまの話のように、決まっていると思っていたらドンデン返しを食らわされそうになることもありますから、言ってみれば実際に始まるまで何も決まっていないと思っておいたほうがよいのかもしれません。

 決まっていないまず筆頭、しかもわれわれにとって一番気になるのが保険料です。さきほどから何度か言ってますように、これが決まるのはおそらく年が明けてからでしょう。

 利用者のかたが自己負担分ということですこしは興味がおありでしょうが、それよりも私たちのようにサービス提供側が最も心配しているのが介護給付の額です。なにしろそれによってこちらは事業の採算性を考えなくてはなりません。で、これについても決まるのは来年1月と言われています。

 けっきょく、いちばん知りたいことはいちばん後回しになるわけです。

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問題点

 さて、以上が介護保険制度のあらましです。

 そこでつぎに、現時点で考えられる、この制度の問題点について最後にお話しておきたいと思います。

介護保険の対象者は多くない

 まず、介護保険は高齢者の多くが対象になるというように錯覚しますが、最初にお話しましたように、じつはそれほど多くはないという事実があります。

 東京都の試算ばかりではなんですので、今度は本家の厚生省の試算によりますと、介護保険実施の2000年の時点での第一号被保険者つまり65才以上の人口は約2200万人、そのうち、虚弱の人を含めた要介護要支援の状態の人は約280万人とされています。この人たち全員が介護保険の適用を受けても、その率は12.7%。つまり87.3%のかたはサービスを受けません。

 第二号被保険者にいたっては、人口4300万人のうち10万人と推定されていますから、0.23%にしかすぎません。

 もともと掛け捨て保険であるとはいえ、医療保険に比べてもなんとなく釈然としないものです。

保険料の問題

 つぎに保険料の問題があります。

 介護保険は強制的に加入させられるものであり、第一号被保険者といわれる65才以上のかたの場合は、原則的に年金から天引きされます。年額18万円以上の年金については天引きの対象になります。また40才以上65才未満の第二号被保険者の場合は、医療保険といっしょに徴収されます。

 保険料は、厚生省は2600円くらいといっていましたが、何度も言いますようにそもそもまだ給付金額が公表されていないので、保険者である各市町村が計算できないでいます。それでも、昨年高知県が試算してみたところ、県の平均額は3800円、圏内のある村は6100円になったそうです。これは、もともと人口が少なく高齢化率が高いうえに、おおぜいのお年寄りが病院や福祉施設に入院、入所していたからです。

 介護というのはたいへんなものですから、在宅でなくもっと施設を作れということを考えがちですが、施設の維持には金がかかり、そのために保険料が高くなるという矛盾ができてきます。

保険料の不公平

 もうひとつ保険料のことでとんでもないことがおこりそうです。もういちどレジュメの**《8》**をご覧ください。

 さきほどお話しましたように、保険料は**《8》**の上の表のように所得に応じて公平になるようにということで、市町村税の額や課税を基準にして5段階のランクづけがされています。これはこれで公平さを考慮したものだと厚生省は言っています。

 しかし、下の表のようなことがあります。これは月収18万円あまりのかたに、厚生省がいってきた保険料2600円を徴収するときに、被保険者の収入の形によってどうなるかということを、大阪の守口市がシミュレーションしたものです。

 ご覧のように、収入の形態の違いによって、最大2倍半の開きができています。これは介護保険の問題ではなく、税制の問題なのだそうですが釈然としません。

 まじめに働いてその給料で税金もちゃんと払っている人ほど保険料の負担が大きいというのは、やはりなんだかとてもへんです。

 このことについて厚生省は「制度だからしゃーない」とおっしゃっていると、毎日新聞は報じていました。

保険の目的疾患の限定の問題

 つぎに介護保険法にはその第一条に『加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり…』とありまして、給付対象を老化に関係する疾病と限定しています。とくに第二号被保険者の場合はさらに具体的に政令で限定されています。たとえば階段から転落して脳の外傷で寝たきりになったような場合は適用されませんし、しかも保険料は徴収され続けるという情けないことになります。

 対象になる具体的な病気のリストが**《10》**です。ちょっとなじみのないものも少なくないでしょうが、まあ現実にいちばん多いと思われる「脳血管疾患」があるのはよかったと思いました。

 なお、先天性の病気で障害をお持ちのかたに対しては、介護保険とは別の制度を創設するということになっているようです。

go top go end

社会的入院の合法化

 さて、介護保険の目的のひとつに社会的入院の解消というのがあるのですが、ほんとうにそれはなくなるのでしょうか。

 厚生省による社会的入院の定義は『介護のみ必要で医療は必要としていない入院』となっています。そしてその数は、70万人、そのうち半年以上入院している高齢者が28万人で、その40%程度の17万人が本当の意味での社会的入院だといっています。

 しかし現実には福祉施設に入所している人でも医療の必要な人は少なくないし、在宅の人でも必要な人がいらっしゃるのは、訪問看護という制度があることからも明らかです。だから、社会的入院の定義とは『入院するほど医療が必要でない人が入院していること』というのが正しいはずです。

 ところで、なんだかペテンのような話ですが、療養型病床群の病院とは、その社会的入院直前の入院患者さんに対する『医療的なケアをしながら生活を重要視した施設』とされていますが、じっさいにはここでの医療的なケアは名目だけのことで、おそらく老人保健施設での医療ケアと現実にはそれほど変らないはずです。なのにコストは一ヶ月あたりひとり16万円もよけいにかかっています。その高コストは人件費、とくに医者のそれや、施設の償却費用であることは、さきほどお話ししたとおりです。

医療費を隠しただけではないか

 厚生省は自身がいう17万人の社会的入院を介護保険下に移すことによって医療費を低減できるとしていますが、じっさいには『入院するほど医療が必要でない人が入院している』数はそれほど減らず、けっきょく逆に介護保険で高コストの社会的入院を温存してしまうことになるのではないでしょうか。

 さらに、さきほど少し言いましたように、療養型病床への転換が間に合わないとみるや、いわゆる老人病院も申請すれば3年間の猶予をもって介護療養型医療施設とみなすということを決めました。これは劣悪な環境の老人病院をそのまま追認したということになります。指定さえすれば、古い古い規格で作られて療養ということにほど遠い病院でも、療養型医療施設と名乗れるわけです。ついでながら、介護力強化病院といえば聞こえはいいのですが、これは極端にいえば介護力を強化するかわりに、医療力を落としてもいい、という制度であります。

 これは、社会的入院の合法化にほかなりません。

公平な認定ができるか

 つぎに公平な認定ができるかという問題があります。ま、世の中これほど賄賂がはびこってますと、私など人を信用しないほうなので、ついいらんことを考えてしまうわけですが、まあそこまでひどい話ではなくとも、認定を受ける人の状態は日々一定ではないでしょうし、それを一時間程度の調査で正確公平に判定できるとは思えません。また調査員の職種というか出自によってもバラつきがでるおそれを感じます。

 医療系の調査員だと個個の活動性に重点を置いてしまい、生活全体としての質を見極めにくい傾向があるのではないかと思いますし、福祉系の調査員だと生活を見るあまり身体的な条件を軽視することがあるかもしれません。

 また、より手厚い給付を受けようとして、障害が強いように装うことも不可能ではありません。笑い話ですが、お年寄り対象の介護認定のための塾を作れば流行るのではないかなどというのもあります。

在宅と施設とで要介護度が変化

 ところで、介護のための施設は、障害を持ったかたでも生活しやすい、いわゆるバリアフリーになっています。しかし、ご家庭は大部分はそのような設計ではありません。

 ですから、基本調査を施設でしたときと、在宅でしたときとでは、要介護度に違いがでてくる可能性があります。極端な場合、在宅で要介護度1だったため施設に入所したら、そこでは要支援レベルでしかなくて退所せざるをえない、でも在宅だと要介護になる。

 そういう矛盾といいますか、ウロウロしなければならないような事態も想定されます。

認定の問題

 さきほどお話しましたように、認定は、調査員による基本調査をコンピュータにかけて一次判定し、それをもとに「かかりつけ医の意見書」と調査員の「特記事項」を参考に介護認定審査会で二次判定しますが、その二次判定の審査に要する時間は一人だいたい5分程度です。そのくらいのスピードでないと処理できないのです。

 しかも、厚生省のほうは、一次判定をできるだけ変更しないように、と指導しています。昨年の全市町村でのモデル事業の結果をレジュメ**《14》**のグラフにしましたが、要介護度2と3が半分以上を占めているのがお分かりでしょうか。もっとも、これはさきほど言いましたように基準時間のきざみが35分から20分にちぢまったのでもうすこし変ってくることとは思いますが、しかしつぎはもう本番です。

サービス供給の問題

 さて、いよいよケアプランが提示されて、金はなんとかやりくりすることができそうだと、でようやく家族の介護もすこし楽になる、あるいはしばらく施設に入って家族を休ませてあげようとして、サービスを申し込んでも、肝心の供給がないという事態が考えられます。

 すこし個別に見ていきましょう。

ホームヘルパーは充分か

 まずホームヘルパーの不足が考えられます。ホームヘルパーはなぜ足りないか。じつは、ヘルパーの多く、8割といわれていますが、身分の不安定な非常勤、つまりパートタイマーでまかなわれているのも原因です。非常勤職員の労働条件や待遇はきわめて低レベルで、身分保障もじゅうぶんではありません。

 しかも、ゴルドプランの達成のための数字として発表されているヘルパーの数は、おそらくヘルパー養成講座の修了者の数を単純に加算していっているのではないかと思われます。ヘルパーさんの数ではなく、あくまでヘルパー資格を持っている人の数かもしれません。

 もうひとつ、ホームヘルパーには家事だけをする3級と身体介護をできる2級がありますが、しかし2級ホームヘルパーといえども医療職ではありませんので、たとえば経管栄養、鼻などから胃に入れた管を通して流動食を入れる栄養法ですが、これの介助はしません。痰を吸い取る吸引という処置もしないよう指導されているとききます。要介護VやXの人の中にはこれらの処置が介護の大きな部分を占めている場合がありまして、そういう場合はヘルパー派遣はあまり介護負担の軽減にはならないわけです。

 救急隊の救急救命士のような、ある程度の医療類似行為もヘルパーに認めるような制度の検討が必要だと思います。

粗製乱造

 ところで、市町村によってはヘルパー養成に補助金までつけて数を揃えようとしています。ともかく新ゴールドプランに示された数のヘルパーを用意しなければなりませんから。

 養成の講座をいろいろな業種、企業がこぞって開いています。私の所属する医療法人でもすでに2期の講座をおえました。養成講座をするためには、それなりの講師もいりますし、介護の職につきたいという動機を持った受講者がいります。しかし、この不況下、介護の技能を持っていれば就職に有利などという歌い文句で人集めをしているようなところもあって、ちゃんとした質のヘルパーさんが揃うのかどうか、かなり心配です。

 私自身が養成講座の講師をした経験から思っていることです。

 数が揃えば市町村はよしとするでしょうが、質の悪い介護を甘んじて受けなければならないのは、市民なのです。

施設は充分か

 さて、では施設はどうでしょうか。現制度では、特別養護老人ホームは行政の措置で入所しますから、市町村の行政境界が入所に影響しています。介護保険では、じっさいには他の市町村の施設を利用することも可能になります。老人保健施設と病院はもともと市町村の壁はありません。しかし、それぞれの施設の数は、それぞれの市町村の人口から算出されています。

 そうしますと、たとえば川西市にある私の施設に、たとえば老人保健施設のない猪名川町や能勢町や池田市のかたが入所なさることはじゅうぶんありえます。現在はもちろんあります。市町村の人口で施設の定数を決めていても、それはあまり意味はないのではないでしょうか。

 そのうえ、療養型病床群の病院と老人保健施設は、現在は医療法、介護保険法では介護保険事業支援計画の必要入所定員総数の規制で、その数字が満たされている地域では新設は認められません。とりあえず川西市では老人保健施設はこれ以上増えません。

go top go end

施設にいられなくなる

 そして、特別養護老人ホームでは、介護保険開始時に入所なさっているかたは5年間の猶予で無条件に入所が認められます。それはいいのですが、**《14》**を見ますと特別養護老人ホーム入所者のうち自立や要支援、つまりほんらいは施設給付を受けられない人が1割ちかくいらっしゃる。5年が過ぎますと、要介護判定に従って退所ざるをえない人が続出する可能性があるわけです。またそのまま入所が継続されることになっても、この人たちも介護給付が適用されるとしたら、要介護度が低くなって施設の収入が少なくなる場合、施設から出されるかもしれません。

 また、現在特別養護老人ホーム入所者が入院した場合には3ヶ月程度以内であれば特別養護老人ホームでの場が確保されますが、介護保険実施後は、入院すると即医療保険の適用になりますから、特別養護老人ホームは退所となってしまう可能性もあります。

 そして、スタッフの側から見ますと、リハビリテーションなどを勧めて要介護度を改善すればするほど、介護給付の額が減り、退所を余儀なくされることになるという、とんでもないジレンマを抱えることになります。もっとも、これについては、成功報酬のようなものを考えるといっているようです。

 いずれにしても、われわれ施設側の者も、いったいどうなるんやろと心配ばかりしているのが正直なところです。

施設も粗製乱造

 数年前から社会福祉法人の不正がつぎつぎに明るみにでています。

 介護保険にらみで施設を整備するために、いわば志のそれほど高くない経営者が加わってきているのではないかと、私など心配するわけですが、もしそうなら、そういう志の低い経営者がいい施設を作れるわけがありません。

 質の悪い施設には、質のいいスタッフがいつかなくなり、さらに質が落ちる、こういう粗製濫造施設が増えなければいいのになあと思っています。

現状サービスを受けられなくなる

 **《14》**でもうひとつ気になることは、在宅総数のうち、自立と要支援と認定されている人の割合の多さです。

 このモデル事業は、ほとんどの市町村が、現在なんらかのサービスを受けておられる人を対象に行なったものですから、これらの要支援以下の人たちは、介護保険になると現状のサービスをそのままでは受けられなくなる恐れがあります。

 とくに、家事ヘルパーさんに頼って生活しておられる独居老人などは、ヘルパー派遣の回数が減らされる恐れが強いのではないかと私は感じています。

定率の利用者負担という重荷

 お金のことでひとつ言い忘れていました。

 実際に介護給付を受ける場合のことを考えてみますと、重度の障害で介護度が高いほど給付金額は高く、これはじっさいにはサービスで提供されることになりますが、その場合には定率1割の利用者負担ということで、やはりじっさいに負担は多くなります。寝たきりで月30万円分のサービスを受けられるとしたら、利用者は3万円を負担しなければなりませんが、現実に1万円しか負担できないとなると10万円分のサービスしか利用できないということになります。

 現在の福祉サービスでは、利用者の負担額は利用者の所得に応じた負担ですので、同じサービスを受ける、とくに低所得者にとっては明らかに負担増となります。いまのところ低所得者に対する減免規定が介護保険制度にはありませんので、負担できない場合はケアプランをフルに利用することを諦めなくてはなりません。

 居宅介護支援事業には営利企業の参入も認められていますから、利用者負担ができない人の場合はサービスの提供を拒否されることになるかもしれません。施設でも入所拒否などをされることになるかもしれません。現在の私の施設の経営状態のことを考えますと、おそらくギリギリの運営でしかできないでしょうから、やはり利用者負担のできない人は敬遠するしかないと思われます。サービス提供側にとっても収入の1割が減るのはリスクが高すぎます。

医療福祉複合コングロマリットの囲い込み

 で、逆に、事業者にとってうまみのある利用者をかかえていることは、事業者の経営に有利になります。

 たとえば、在宅から施設まで、非常に広範囲のサービスをひとつの事業体で用意できるようなところは、利用者の側としてもいろいろなサービスを選べる点で有利だと感じるでしょうから、経済的に余裕のある利用者などは、そういう事業体に集まってくることになるかと予想できます。

 ちょうど、普通の小売店より大規模スーパーに集客力があるように、あ、このあたりは私はシロウトですので、プロであるみなさまにお話しする例としては不適当かもしれませんが、別の例えをいたしますと、患者さんの大病院志向と同じようなことがおこるのではないかと思われるわけです。

 そして事業体側は、このような利用者の情報を囲い込んで、地域での事業の寡占化がすすみ、けっきょくのところ利用者側の選択肢が少なくなるというような恐れがあります。

すでに川西では

 私が言うのもへんですが、すでに川西市では私の所属する法人によってそのような方向が進みかけています。

 救急病院からリハビリテーション病院、老人保健施設、訪問看護、ホームヘルプに在宅介護支援センターを川西市内にすでに複数そなえています。

 このようなことは、じつは市民にとってはたいへん危険なことだと思います。競争原理の働かない状況は、けっして利用者のためにはならないでしょう。泉佐野市のことは、私はちょっと存じあげていないのですが。

さいごに

 時間の関係で以上駆け足で介護保険についてお話してきました。

 けっこうみなさん、介護なんて人ごとと思っておられることが多いのですが、ある日突然その問題に直面するようになります。

 健康なうちからしっかり知識として理解しておかれることがだいじかと思います。

おわりに

 以上で介護保険法についてのお話を終わりますが、最後に、介護保険制度では、地域の活動や事業が社会資源として追認されるということが起こっています。介護保険のユニットはせいぜい複数の市町村単位です。

 この制度の問題点に対しては、市民みずからがある程度の改善を促せる可能性があるのではないかと思います。とくにレジュメの**《5》**にある市町村特別給付という制度は、国にではなく市に働きかけることによって独自のサービス給付を可能にできるものではないでしょうか。

 問題があるからと批判するばかりではなく、制度をうまく利用して市民が地域独特のサービスを考えていくのもひとつの方法かとも思っています。そのようなことが可能なら、私もなんらかのお役にたてるかなあと考えながら、ひとまず介護保険のお話を終わりにいたします。ありがとうございました。


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