ウエルハウスといいますと、先月末に吹田市の同じ名前の老人保健施設が行政指導を受けたという報道がありましたが、私のところはそこではありません。もっとも同じ医療法人の中の施設ですので、お騒がせしたことを私からも最初におわびいたします。それにしてもなんですなあ、一生懸命に正しく運用しようとしていたのに、身内があんな体たらくではカッコ悪い。
それはさておき、今日は介護保険のことについてお話させていただきますが、おそらく私のようなツケ刃でないお詳しいかたがおられるものと思って、今日はかなり緊張しておりますが、とりあえず介護保険に近い現場で医者として仕事をしている立場から見たものをお話するということで、間違いなどがありましたらご訂正いただくことをお願いいたしておきます。
1995年に協立病院の母体である医療法人協和会が老人保健施設を作るという計画が持ち上がりまして、在宅の患者さんをお世話していてバックアップの施設としての老人保健施設の必要性をじゅうぶんに知っていたため、計画当初からかかわらせていただいてオープンしたのがいま私が勤務しているウエルハウス川西というわけです。
私は町歩きが好きで、旅行に行ってもしばしば普通の町を歩き回ったりするのですが、訪問診察やデイケアの送迎などは、歩きではないものの、そういう町の景色の中にいられるということでなかば楽しんで仕事をさせていただいています。
それから、私はよくパソコンが好きですね、と言われます。今日もこのお話のしゃべり原稿をこの小さなパソコンに入れて参照しています。ま、たしかにパソコンは嫌いではありませんが、これは私にとっては道具であるという感覚でして、ま、3年前からインターネットに自分のホームページを持っていたり、携帯電話を繋いで街角で電子メールのチェックをするからといって、特別マニアだというわけではありません。と、自分では思っております。
それでまず皆さまご存知だとは思いますが、介護保険について、なぜ公的介護保険が検討されることになったかという、歴史的な背景、介護保険制度の根幹である新ゴールドプランの概略、そして、介護保険での要介護認定とサービス給付の流れなどについてざっと整理したあと、最後に介護保険の問題点について私の思うところをお話したいと思います。
私自身もなにしろ自分の仕事での必要性から短期間のうちに勉強したものですから、とても前でお話しできるレベルではないのですが、ごいっしょにいろいろと考えてみようということでお許しいただきたいと思います。
介護保険関係の本にはどれにも21世紀の高齢社会のことが介護保険の導入が検討されることになった理由のひとつであると書いてあります。しかしほんとうにそれだけでしょうか。
たしかに日本の社会の高齢化はすさまじくて、年金制度も維持できないというような事態になってきているわけですが、しかし、だから介護のための保険を創設しなければ、将来はたいへんではないかというのは、じつは簡単に言ってはならないのではないかと思います。
つまり、高齢者は必ず医療や介護を必要とするのだという、ある種の間違った先入観をいつのまにか私たちが持ってしまっていて、だから医療や介護のことをきちっとしないとたいへんなことになるのだ、と思わされてきただけではないか、そういうことです。
東京都老人総合研究所というところが行なった調査では次のような結果が出ています。
◆65才以上の高齢者のうち▼障害を持っているのは5%で、◆この人たちを含む25%が自立できていない▼典型的な自立高齢者は50%▼つまり75%はなんとか自立している
◆高齢者が最後に寝込む期間は▼一ヶ月以内というのが50%で、なかでも2週間以内が最も多い▼長期の寝たきりはむしろ例外
ということです。人間が年をとるにつれて直線的に能力が低下するという考えは間違いであり、人間の老化は直角型、最後のときまで一定の能力をもっているのが普通である、とされています。
問題は、パーセンテージは低くても絶対数が多い点と、独居や夫婦世帯が多いという点にありますが、けっきょくのところ、医療保険の行き詰まり、つまり社会的入院や高齢者の医療費の高騰が、介護保険のアイデアをもたらした最大の原因ではないかと思います。しかし、それではけっきょく医療費を介護費に移し変えて先延ばししただけであり、利用者にとっては必要な医療さえ切り捨てられるおそれのある、一段下の制度を押しつけられたといってもいいのではないでしょうか。
じつは、介護保険のアイデアが具体化する前から、医療保険の分野では在宅医療を推進する施策がつぎつぎととられてきました。
1986年の老人保健法改正による老人保健施設の創設、1991年の老人保健法再改正による訪問看護制度、医療機関の診療報酬制度での薬代の締めつけとそれに代わる在宅関連の報酬の大盤振る舞いなど、さらにそういう制度とは別に、巧妙にプロパガンダされたとしか思えない「在宅療養賛美」の風潮など、世間の気分は在宅へ在宅へと流れていったように感じます。
じっさいに在宅医療に深く関わってきた私など、在宅療養はそんなに生易しいものではない、非常にたいへんなんだとずっと言い続けてきましたが、ま、そういう声は少数だったようです。
しかし、在宅への推進を制度として進めようとしても、厚生省の思惑どおりには進まなかったのではないでしょうか。その理由のひとつに、肝腎の医師たちの動きがいかに診療報酬で優遇されても、なかなか鈍かったことがあると私は思っています。お医者さんがたは、やはり町を走り回ったり、24時間365日を拘束されることに抵抗があるのかもしれません。
このゴールドプランには、施設目標も決められていますが、私にはこれは目標というより限度量に思えます。だれがどう考えても、人件費の固まりである施設は不経済で、ともかく在宅療養のほうが費用がかかりません。あ、これは、当事者ではなく、お国から見た場合のことです。
だから、おそらく、このゴールドプランの施設数は、通所や短期入所の施設以外については、今後増やされることはないでしょう。これを増やすことは、いまの医療費のパンクと同じことを介護保険にも持ち込むだけだからです。
一昨年12月に介護保険法が成立しまして、いよいよ2000年4月から介護保険の実施が決まったわけですが、しかし、じつはまだ保険料や給付金額などの重要な部分の具体的なことは何ひとつ発表されていません。介護保険法は、それこそ制度の根幹部分だけですから、具体的な数字や範囲といったものはすべて政省令で決めるとされていて、昨年末にようやくあとでご説明します保険料の所得別段階や特定疾患の具体的な例が施行令として公布されているにすぎません。実際の保険料額の算定の元となる介護給付の額、つまり、あるサービスを提供したとき、そのサービス提供機関にいくら支払われるのか、ということについては、まだ、ほんま、まだ発表されていません。
したがいまして、今日のお話も、細部になりますと、それはまだ分からないというところが少なくありません。なにしろ、介護保険法で政省令に委ねられた項目はなんと300もあります。
さて、介護保険制度というのは、ひとことでいえば、心身の障害に対して保険給付をするという制度です。心身の病気に対して給付されるのは医療保険ですね。介護保険は障害、つまり不自由に対して支払われると理解していただくのが正しいと思います。いや、それはおかしい、介護保険なのだから、介護が必要な場合に支払われるのだろうとおっしゃるかたがおいでかもしれません。もちろんそれはそうなのですが、しかし、保険給付の基準などを見ていますと、これはまさに「医療保険から枝分かれした保険」、要するに医療の匂いがたいへん強い保険であるという点に注意が必要です。
もっとはっきり言いますと、介護保険は生活を見てくれるものではない、ということです。介護保険は心身の不自由を見てくれるだけのもの、です。
レジュメの《2》をご覧ください。介護保険というのは、いまの老人保健を、より医療の部分だけにした老人保健の部分を切り離し、老人福祉のうち医療に近い部分をひっつけただけのもの、そのうえ、従来は社会的な理由で措置していた福祉サービスの部分も心身の理由がなければサービスしない方向にシフトさせたものだといえます。
《3》をごらんください。この図のようなのは、介護保険関係の本やパンフレットでよくみかけます。しかし、いきなり見てもなかなかわかりにくいですね。ちょっと具体的な場面を想定して流れを見ていくことにします。活字ではないからリアルでもいいでしょう。
あれれ、でもたしか病院の入院は3ヶ月とか聞いていたのだが、リハビリ病院にきてからまだ2ヶ月ほどだと思ってケースワーカーに聞きますと、1998年の診療報酬改訂から同じ経営母体の場合は入院期間が通算されるように制度が変ったのだという。だから最初の病院の入院が起算日なのですな。
もう1ヶ月もすればもうすこし歩けるようになるのになあ、と後ろ髪を引かれる思いでしたが、退院して介護保険サービスを受けることにしました。どうも前置きが長いですね。
で、介護保険の申請のため家族が市役所の介護保険担当部署にいくと、普通は市役所が直接するのではなく、医療機関などに委託しているのだという。そしてリハビリ病院入院中というと、住所地を管轄する在宅介護支援センターを紹介してくれました、と。
在宅介護支援センターで相談員に認定の申請をしたいと申し込んだところ、すぐリハビリ病院の介護認定調査員、これは介護支援専門員が兼ねていることが多いはずですが、その調査員に調査を依頼してくれます。これで介護保険給付申請が動きだしたわけです。
自宅におられるかたが申請した場合は、たとえば在宅介護支援センターの調査員が家庭に訪問して調査をします。この調査の内容ですが、日常生活の様子や障害の程度、医療の状態など85項目について調査して、それをコンピュータ処理して一次判定とします。
この基本調査の具体的な用紙を今日持ってきていますので、もし興味がおありでしたら、あとでご覧ください。
さて、各市町村には介護認定審査会というものが設置されています。これは、身体障害に詳しい医師、痴呆に詳しい医師などを含む5名程度の構成になるといわれていますが、そこで一次判定に記述調査部分、それにかかりつけ医の意見書の三つを総合して二次判定を出します。二次判定がほぼそのまま給付の基礎となるわけです。
で、申し込んだご本人はリハビリ病院に入院しているわけですが、退院を迫られ、しかも申請は出したものの、いつ判定が知らされるのかが分かりません。判定は1ヶ月以内にすることが法律で決められています。ま、判定がでるまでという大義名分で、半年を越えてもリハビリをしていますので、それはそれで、という塩梅。申請した人は、申請したあとには通知されるまで待つしかありません。
ぎりぎり1ヶ月近くして通知があり、なんと要支援だとのこと。判定の種類については《4》をみてください。すみません、この要介護度の説明は、平成9年のモデル事業のときのもので、ちょっと順序があちこちしますが、《13》が平成10年度モデル事業で示されたものです。
こんなに歩くのに不具合なのに…と不満でなりません。リハビリを頑張って歩くのが巧くなって、歩行の能力がよくなっているところに反映されたわけです。ああ、こんなことならリハビリを頑張るのではなかった。
しかし、どうにも納得できませんので、要介護Tではないのかという不服申し立てを介護保険審査会にすることにしました。ところで、不服申し立てをしている間はケアプランがたてられませんので、自宅での支援を受けられないことになります。あ、ただし、このことについては、じっさいは要支援としてのサービスは受けながら不服申し立てができることになるかもしれません。
この介護給付金額の9割が、じっさいにそのサービスをする事業者や施設に市町村側から支払われ、1割を利用者が事業者や施設に支払うことになります。ちょうど医療保険、たとえば国民健康保険では3割の自己負担がありますが、それと同じような仕組みです。
で、その原則ですが、ちょっと番号が飛びますが《9》をごらんください。
《4》の支給限度額というのはあくまで「限度」ですから、それ以下でもかまわないし、自治体によってはぎりぎり限度額までサービスを用意できないところが出てくるかもしれません。その場合は実際に受けたサービスの給付額の1割負担ということになります。
もし、限度額よりももっとサービスを受けたい、提供側にもそれを供給できるということであれば、その分を全額自己負担すれば受けることができます。これを「上乗せサービス」と言っています。医療保険では、いまのところこのような制度はありません。保険診療と自費診療を同時にすることは「混合診療」として禁止されています。
また、国の制度とは別に市町村で条例でサービスを決めて、それを介護給付でまかなうこともできます。国で決まっているサービスはあとでご説明しますが、それ以外の部分を市町村でするのを「横だしサービス」といいます。市町村レベルの話なので、みなさまがたの要望でいろいろなものを条例で決めることができます。市会議員さんなどに頑張っていただければ、手厚いサービスを提供している市になれます。ただし財源は必要なんですが。
注意しなければならないのは、要介護度認定は、状態に変化がなくても6ヶ月ごとに繰り返し行われるということです。6ヶ月たって要介護度が変化すれば、支給限度額も変更になり、受けられるサービスは変ります。途中で変化があればその都度認定を受けることになります。
それで、こうして要介護度を認定され、支給限度額が決まりますと、その限度額の範囲内での介護サービスの組み合わせをケアマネージャが設計します。それをケアプランといいます。
たとえば、ホームヘルパーさんの家事援助はいくら、訪問看護はいくら、という、個々の介護給付の額がありますから、要介護度によってだいたいの組み合わせパターンというのが決まってきます。
《4》の「サービス内容の例」というのが平成9年度のその一例、《14》が平成10年度に示されたものです。
ただ、現時点では、その個々のサービスの給付額というものが正式に示されていませんので、今回も「こうなる」ということはまだお話できない状態です。ほんま、遅いんですわ。
「介護給付」というのは、要介護と認定された場合に受けられるもの、「予防給付」は要支援と認定された場合に受けられるものの一覧です。
このふたつの大きな違いは、要支援では施設サービスを受けることができないことです。ショートステイは可能ですが、いわゆる入院や入所はできないことになっています。このあたりにちょっと問題がおこってきそうなんですね。ま、それはあとでお話します。
在宅サービスのほうですが、これは基本的に現在の制度を引き継いでいます。言葉がほとんど日本語に変えられていますが、だいたいお分かりいただけるかと思います。デイサービスとデイケアの違いはいまでもけっこう混乱していますが、デイケアのほうがより医療に近いと考えてください。デイケアは病院、診療所、老人保健施設で行われ、デイサービスは特別養護老人ホームやデイサービスセンターで行われます。
「特例」と書いてあるものがあります。これは、要介護度認定を受けてケアプランをたてて、というような悠長なことを言っておれないような場合に、先にサービスを開始してしまうための方法です。さきほどの実例でお話した「不服申請」をしている間もこの制度を使うことになると思われます。
つぎに施設サービスについてです。
現状でも高齢者関係の施設の違いについて、専門職ででもきちっと理解していない人がいるくらいで、一般のかたにとってはいったい何がどうやねん、という感じだと思います。
介護保険制度での施設は、《5》にあるように、指定介護老人福祉施設、介護老人保健施設、指定介護療養型医療施設の3つになります。これらはそれぞれ右に書いてあるように、現行の特別養護老人ホーム、老人保健施設、療養型病床の病院のことです。
ではこれらのどこが違うのかということをつぎの《6》にまとめてあります。
細かいことを言いますと時間がかかりますので、ざっとした違いをお話ししますと、表のいちばん左の「老人病院」というのは、従来の病院の規格そのままのものです。ほんらい、こういう病院は介護保険の施設に加わらないはずでしたが、療養型病床の整備が追いつかないために、暫定的に療養型と同じ扱いをすることになりました。ですから、これについてはちょっと無視してください。
こういう施設というのは、規制でがんじがらめになっているものでして、その規制の主なものが人員にかかわるものと設備にかかわるものです。
表の左ほど医療が濃く、右ほど介護が濃くなっているため、医者の数が病院では患者さん 100名あたり3名であるのに対して、老人保健施設では1名、特別養護老人ホームでは超大型、たしか入所 300名だったと思いますが、そういう施設以外は常勤医が不要です。
看護婦さんも数字をみていただければ一目瞭然でしょう。
そして設備の面では、右へいくほど余裕のある作りになっていることがお分かりいただけますでしょうか。
つまり、ほんらいなら、医療の管理が必要な人は左のほう、病気がおちついている人は右のほう、ということになるわけです。もっとも、現実には、今のところどの施設でもそれほどの違いはないような感じがしています。介護保険になってどのような棲みわけになるのか興味のあるところです。平成10年度モデル事業の結果である《11》を見ますと、老人保健施設の比率がちょっと問題であるようにも見えています。
この表の「費用の支払い」の欄は、表ではいろいろ書いてありますが、介護保険になりますと、介護給付でまかなわれ、その額はだいたい《4》のいちばん下に例示してあるものが限度額になるものと考えられています。要介護度が低いと段階的に安くなるはずですが。設備にはあまり差がないので、この金額の差はほとんど人件費だということはご理解いただけますでしょうか。
養護老人ホームはゆくゆくは廃止されるようです。特別養護老人ホームへの転換か、軽費老人ホームへの変更ということになるのでしょう。
軽費老人ホームは、これは入所の理由はほとんど社会的なものですから、そもそも介護保険とはべつのものですので、今後も続けられるものと思われます。ケアハウスは介護保険の在宅サービスの対象となっていますので、いますこし整備され続けるものと思います。
そこでつぎに、現時点で考えられる、この制度の問題点について最後にお話しておきたいと思います。
東京都の試算ばかりではなんですので、今度は本家の厚生省の試算によりますと、介護保険実施の2000年の時点での第一号被保険者つまり65才以上の人口は約2200万人、そのうち、虚弱の人を含めた要介護要支援の状態の人は約280万人とされています。この人たち全員が介護保険の適用を受けても、その率は12.7%。つまり87.3%のかたはサービスを受けません。
第二号被保険者にいたっては、人口4300万人のうち10万人と推定されていますから、0.23%にしかすぎません。
もともと掛け捨て保険であるとはいえ、医療保険に比べてもなんとなく釈然としないものです。
介護保険は強制的に加入させられるものであり、第一号被保険者といわれる65才以上のかたの場合は、原則的に年金から天引きされます。年額18万円以上の年金については天引きの対象になります。また40才以上65才未満の第二号被保険者の場合は、医療保険といっしょに徴収されます。
保険料は、厚生省は2600円くらいといっていますが、そもそもまだ給付金額が公表されていないので、保険者である各市町村が計算できないでいます。それでも、昨年高知県が試算してみたところ、県の平均額は3800円、圏内のある村は6100円になったそうです。これは、もともと人口が少なく高齢化率が高いうえに、おおぜいのお年寄りが病院や福祉施設に入院、入所していたからです。
介護というのはたいへんなものですから、在宅でなくもっと施設を作れということを考えがちですが、施設の維持には金がかかり、そのために保険料が高くなるという矛盾ができてきます。
《8》の上の表のように、保険料は所得に応じて公平になるようにということで、市町村税の額や課税を基準にして5段階のランクづけがされています。これはこれで公平さを考慮したものだと厚生省は言っています。
しかし、下の表のようなことがあります。これは年金天引きの最低限度である月収18万円のかたに、厚生省のいう保険料2600円を徴収するときに、被保険者の収入の形によってどうなるかということを、大阪の守口市がシミュレーションしたものです。
ご覧のように、収入の形態の違いによって、最大2倍半の開きができています。これは介護保険の問題ではなく、税制の問題なのだそうですが、これまた釈然としません。ご主人が働いていて奥さんを扶養しているという場合が、市町村税がさらに加わって最も重い負担になっています。
厚生省は、制度だからしゃーないとおっしゃっていると、毎日新聞は報じていました。
対象になる具体的な病気のリストが《10》です。ちょっとなじみのないものも少なくないでしょうが、まあ現実にいちばん多いと思われる「脳血管疾患」があるのはよかったと思いました。
なお、先天性の病気で障害をお持ちのかたに対しては、介護保険とは別の制度を総説するということになっているようです。
厚生省による社会的入院の定義は『介護のみ必要で医療は必要としていない入院』となっています。そしてその数は、70万人、そのうち半年以上入院している高齢者が28万人で、その40%程度の17万人が本当の意味での社会的入院だといっています。
しかし現実には福祉施設に入所している人でも医療の必要な人は少なくないし、在宅の人でも必要な人がいらっしゃるのは、訪問看護という制度があることからも明らかです。だから、社会的入院の定義とは『入院するほど医療が必要でない人が入院していること』というのが正しいはずです。
ところで、なんだかペテンのような話ですが、療養型病床群の病院とは、その社会的入院直前の入院患者さんに対する『医療的なケアをしながら生活を重要視した施設』とされていますが、じっさいにはここでの医療的なケアは名目だけのことで、おそらく老人保健施設での医療ケアと現実にはそれほど変らないはずです。なのにコストは一ヶ月あたりひとり16万円もよけいにかかっています。その高コストは人件費、とくに医者のそれや、施設の償却費用であることは、さきほどお話ししたとおりです。
さらに、さきほど少し言いましたように、療養型病床への転換が間に合わないとみるや、いわゆる老人病院も申請すれば3年間の猶予をもって介護療養型医療施設とみなすということを決めました。これは劣悪な環境の老人病院をそのまま追認したということになります。指定さえすれば、古い古い規格で作られて療養ということにほど遠い病院でも、療養型医療施設と名乗れるわけです。ついでながら、介護力強化病院といえば聞こえはいいのですが、これは極端にいえば介護力を強化するかわりに、医療力を落としてもいい、という制度であります。
これは、社会的入院の合法化にほかなりません。
医療系の調査員だと個個の活動性に重点を置いてしまい、生活全体としての質を見極めにくい傾向があるのではないかと思いますし、福祉系の調査員だと生活を見るあまり身体的な条件を軽視することがあるかもしれません。
また、より手厚い給付を受けようとして、障害が強いように装うことも不可能ではありません。笑い話ですが、お年寄り対象の介護認定のための塾を作れば流行るのではないかなどというのもあります。
ですから、基本調査を施設でしたときと、在宅でしたときとでは、要介護度に違いがでてくる可能性があります。極端な場合、在宅で要介護度1だったため施設に入所したら、そこでは要支援レベルでしかなくて退所せざるをえない、でも在宅だと要介護になる。
そういう矛盾といいますか、ウロウロしなければならないような事態も想定されます。
しかも、厚生省のほうは、一次判定をできるだけ変更しないように、と指導していますし、一次判定するコンピュータのソフトの中味は今のところ非公開、ブラックボックスになっています。昨年の全市町村でのモデル事業の結果を《11》のグラフにしましたが、要介護度2と3が半分以上を占めているのがお分かりでしょうか。
今日べつにお配りしました《12》は、そのモデル事業で全国から寄せられた認定への疑問点と、その原因、それに対する対策の案です。こういう資料を公開してしまうことをいやがるお役所は多いと思いますが、だいじょうぶ、これは月刊誌にちゃんと載せられています。それに、こういうものこそ情報公開すべきものでしょう。お役所言葉の羅列でちょっとわかりにくいものですが、興味がおありでしたらあとでお読みください。
《1》のように、川西市では介護保険スタート時点で計画をクリアしているのは訪問看護ステーションだけというありさまです。川西市だけではなく、おそらく多くの市町村で同じような状況だと思われます。
すこし個別に見ていきましょう。
まずホームヘルパーの不足が考えられます。ホームヘルパーはなぜ足りないか。じつは、ヘルパーの多く、8割といわれていますが、身分の不安定な非常勤、つまりパートタイマーでまかなわれているのも原因です。非常勤職員の労働条件や待遇はきわめて低レベルで、身分保障もじゅうぶんではありません。
もうひとつ、ホームヘルパーには家事だけをする3級と身体介護をできる2級がありますが、しかし2級ホームヘルパーといえども医療職ではありませんので、たとえば経管栄養、鼻などから胃に入れた管を通して流動食を入れる栄養法ですが、これの介助はしません。痰を吸い取る吸引という処置もしないよう指導されているとききます。要介護VやXの人の中にはこれらの処置が介護の大きな部分を占めている場合がありまして、そういう場合はヘルパー派遣はあまり介護負担の軽減にはならないわけです。
救急隊の救急救命士のような、ある程度の医療類似行為もヘルパーに認めるような制度の検討が必要だと思います。
ところで、市町村によってはヘルパー養成に補助金までつけて数を揃えようとしています。ともかく新ゴールドプランに示された数のヘルパーを用意しなければなりませんから。
養成の講座をいろいろな業種、企業がこぞって開いています。私の所属する医療法人でもすでに2期の講座をおえました。養成講座をするためには、それなりの講師もいりますし、介護の職につきたいという動機を持った受講者がいります。しかし、この不況下、介護の技能を持っていれば就職に有利などという歌い文句で人集めをしているようなところもあって、ちゃんとした質のヘルパーさんが揃うのかどうか、かなり心配です。
私自身が養成講座の講師をした経験から思っていることです。
数が揃えば市町村はよしとするでしょうが、質の悪い介護を甘んじて受けなければならないのは、市民なのです。
さて、では施設はどうでしょうか。《1》を見ますと、川西市ではなんとか目標に近づいているかなと見えます。ところで、現制度では、特別養護老人ホームは行政の措置で入所しますから、市町村の行政境界が入所に影響しています。介護保険では、じっさいには他の市町村の施設を利用することも可能になります。老人保健施設と病院はもともと市町村の壁はありません。
そうしますと、たとえば川西市にある私の施設に、たとえば老人保健施設のない猪名川町や能勢町や池田市のかたが入所なさることはじゅうぶんありえます。現在はもちろんあります。市町村の人口で施設の定数を決めていても、それはあまり意味はないのではないでしょうか。
そのうえ、療養型病床群の病院と老人保健施設は、現在は医療法、介護保険法では介護保険事業支援計画の必要入所定員総数の規制で、その数字が満たされている地域では新設は認められません。とりあえず川西市では老人保健施設はこれ以上増えません。
そして、特別養護老人ホームでは、介護保険開始時に入所なさっているかたは5年間の猶予で無条件に入所が認められます。それはいいのですが、《11》を見ますと特別養護老人ホーム入所者のうち自立や要支援、つまりほんらいは施設給付を受けられない人が51割ちかくいらっしゃる。5年が過ぎますと、要介護判定に従って退所ざるをえない人が続出する可能性があるわけです。また、現在特別養護老人ホーム入所者が入院した場合には3ヶ月程度以内であれば特別養護老人ホームでの場が確保されますが、介護保険実施後は、入院すると即医療保険の適用になりますから、特別養護老人ホームは退所となってしまいます。
そして、スタッフの側から見ますと、リハビリテーションなどを勧めて要介護度を改善すればするほど、介護給付の額が減り、退所を余儀なくされることになるという、とんでもないジレンマを抱えることになります。もっとも、これについては、成功報酬のようなものを考えるといっているようです。
いずれにしても、われわれ施設側の者も、いったいどうなるんやろと心配ばかりしているのが正直なところです。
数年前から社会福祉法人の不正がつぎつぎに明るみにでています。
介護保険にらみで施設を整備するために、いわば志のそれほど高くない経営者が加わってきているのではないかと、私など心配するわけですが、もしそうなら、そういう志の低い経営者がいい施設を作れるわけがありません。
質の悪い施設には、質のいいスタッフがいつかなくなり、さらに質が落ちる、こういう粗製濫造施設が増えなければいいのになあと思っています。
このモデル事業は、ほとんどの市町村が、現在なんらかのサービスを受けておられる人を対象に行なったものですから、これらの要支援以下の人たちは、介護保険になると現状のサービスをそのままでは受けられなくなる恐れがあります。
とくに、家事ヘルパーさんに頼って生活しておられる独居老人などは、ヘルパー派遣の回数が減らされる恐れが強いのではないかと私は感じています。
別にお配りしました《13》と《14》で、モデル事業のさいの認定の基準をしめしています。ちょっとむずかしいかもしれませんが、お時間のあるときにいちどじっくりお読みになってみてください。
ちょっとわかりにくいかもしれません。時間があれば、のちほどもうすこしご説明します。
実際に介護給付を受ける場合のことを考えてみますと、重度の障害で介護度が高いほど給付金額は高く、これはじっさいにはサービスで提供されることになりますが、その場合には定率1割の利用者負担ということで、やはりじっさいに負担は多くなります。寝たきりで月30万円分のサービスを受けられるとしたら、利用者は3万円を負担しなければなりませんが、現実に1万円しか負担できないとなると10万円分のサービスしか利用できないということになります。
現在の福祉サービスでは、利用者の負担額は利用者の所得に応じた負担ですので、同じサービスを受ける、とくに低所得者にとっては明らかに負担増となります。いまのところ低所得者に対する減免規定が介護保険制度にはありませんので、負担できない場合はケアプランをフルに利用することを諦めなくてはなりません。
居宅介護支援事業には営利企業の参入も認められていますから、利用者負担ができない人の場合はサービスの提供を拒否されることになるかもしれません。施設でも入所拒否などをされることになるかもしれません。現在の私の施設の経営状態のことを考えますと、おそらくギリギリの運営でしかできないでしょうから、やはり利用者負担のできない人は敬遠するしかないと思われます。サービス提供側にとっても収入の1割が減るのはリスクが高すぎます。
たとえば、在宅から施設まで、非常に広範囲のサービスをひとつの事業体で用意できるようなところは、利用者の側としてもいろいろなサービスを選べる点で有利だと感じるでしょうから、経済的に余裕のある利用者などは、そういう事業体に集まってくることになるかと予想できます。
ちょうど、普通の小売店より大規模スーパーに集客力があるように、あ、このあたりは私はシロウトですので、プロであるみなさまにお話しする例としては不適当かもしれませんが、患者さんの大病院志向と同じようなことがおこるのではないかと思われるわけです。
そして事業体側は、このような利用者の情報を囲い込んで、地域での事業の寡占化がすすみ、けっきょくのところ利用者側の選択肢が少なくなるというような恐れがあります。
私が言うのもへんですが、すでに川西市では私の所属する法人によってそのような方向が進みかけています。
救急病院からリハビリテーション病院、老人保健施設、訪問看護、ホームヘルプに在宅介護支援センターを川西市内にすでに複数そなえています。
このようなことは、じつは市民にとってはたいへん危険なことだと思います。競争原理の働かない状況は、けっして利用者のためにはならないでしょう。貝塚市のことは、私はちょっと存じあげていないのですが。
けっこうみなさん、介護なんて人ごとと思っておられることが多いのですが、ある日突然その問題に直面するようになります。
健康なうちからしっかり知識として理解しておかれることがだいじかと思います。
この制度の問題点に対しては、市民みずからがある程度の改善を促せる可能性があるのではないかと思います。とくにレジュメの《5》にある市町村特別給付という制度は、国にではなく貝塚市に働きかけることによって独自のサービス給付を可能にできるものではないでしょうか。
問題があるからと批判するばかりではなく、制度をうまく利用して市民が地域独特のサービスを考えていくのもひとつの方法かとも思っています。そのようなことが可能なら、私もなんらかのお役にたてるかなあと考えながら、ひとまず介護保険のお話を終わりにいたします。ありがとうございました。