みのお市民人権フォーラム17th・ここが知りたい介護保険のあれこれ!
2002/12/08 箕面市・らいとぴあ21
資料

 ご紹介いただきました上農です。

 この「『人権フォーラム』で介護保険のお話をさせていただくのは2回目になります。介護保険制度が始まる直前の1999年12月に『必見!介護保険まるはだか』というタイトルで話題提供をさせていただきました。

 そのときに私がしている仕事として、医療法人協和会の職員として介護老人保健施設ウエルハウス川西に入所されている150名のかたの健康管理、在宅の患者さんの訪問診療、 協立病院での脳外科の外来診察、それとは別に川西市の介護認定審査会の委員、川西市内のある介護系のボランティア団体のお手伝い、医療のことを考える市民団体の協力医師、パソコン通信「ニフティサーブ」の医療や介護を主題としたフォーラムを管理、などと自己紹介していました。

 それから3年たったいま、協和会の仕事はそのまま続けていますが、川西市内の介護系ボランティア団体は特定非営利活動法人「川西高齢者と歩む会」となって私はお飾りではありますが代表理事、大阪市内の市民団体も特定非営利活動法人化してなぜか理事を仰せつかり、ニフティはインターネットの@niftyへと発展して「介護と医療のフォーラム」になりその管理者をしています。またつい先日、いろいろ考えるところがあって、仲間と「株式会社三栄ケアサービス」をたちあげ、現在ケアプラン事業はすでにはじめていまして、来年からは訪問介護と通所介護を始めることになっています。

 この3年の間に、私は介護保険に関係したいろいろな仕事をしてきました。そして、介護保険制度の問題点を事業者の立場として見てきました。また、ごく最近のことですが、八尾市で独居している母が要介護2となって介護のサービスを受けるようになり、利用者の家族としての視点も持つようになっています。

 そういうわけで、今日は介護保険制度のなかで私がこれまでやってきて感じたこと、それをふまえてこれからやっていこうと思っていること、それに関して気になっていることなど、あまり時間はありませんが、前回のフォーラムでも言いましたように、介護の仕事にかなりズブズブにはまっている珍しい医者として、かつて住んでいていまだに好きな箕面市のお役にたてればというようなお話を少ししようと思います。

 それで、まずはじめにお断りしておかなくてはならないのは、私の仕事のフィールドが川西市とその周辺であるということです。介護保険に関連して観察していることも、そのフィールドででのことになります。

 箕面市と川西市とでは、おそらく状況はだいぶ違っていると思います。箕面市の現状に関しては、このあと大橋さんのほうから詳しくお話があると思いますので、私の話題提供の前提として、川西市の状況を箕面市と比較しておきたいと思います。

 レジュメのいちばん上の表をご覧ください。

 この表は、2002年4月1日現在の統計を並べてみたものです。ごらんのように、人口規模的には、箕面市と川西市には大きな違いはありません。しかし、三行目にある『高齢化率』には大きな開きがあることにご注意ください。箕面市は14.5%ですが、川西市は17.4%になっています。

 川西市の率というのは、だいたい全国平均に近いものです。すみません、このレジュメを事務局に送ってから、全国のデータも載せればよかったと気づきました。今年7月の統計では、全国の総人口が1億2740万人、65歳移乗人口が2345万人で、高齢化率は18.4%と
いうことになっています。

 ご参考までに、鳥取県の社会福祉法人第三者評価事業を委託された市民団体の一員として私が先月うかがった境港市のデータを書いております。人口規模は違いますが、境港市は高齢化率21.5%にも達していまして、これは地方都市の共通の傾向のようです。つまり
、箕面市というのは、全国的にみてかなり若い市であると言えると思います。したがって、誤解を恐れずに言ってしまいますと、箕面市の介護保険の状況は、まだまだ甘いということになりそうです。

 箕面市が現在の川西市と同じくらいの高齢化率になるのは、4年後の2006年と予想されていますが、4行目の『出現率』が現状の12%のままで設定されていること、これは川西
市や境港市で13%の実績になっていることからみて、少ない予測と考えなくてはなりませ
ん。

 また、居宅サービスと施設サービスの比率にもだいぶ違いがあります。今回はちょっと時間がなく、詳細な分析をしませんでしたが、おそらく介護の必要度の高い人の割合も川西市のほうが多いのではないかと思われます。したがって2006年の箕面市では、サービスを受ける人の数が増え、かつ現在よりも施設サービスの需要が増える可能性があります。問題はそれに見合う供給ができるか、です。

 さて、そこで川西市のこの3年間の介護保険の状況を渡しの見た範囲でお話してまいります。

 川西市には、箕面市にないもうひとつの特徴があります。それは、私が所属する医法人協和会の存在です。協和会は、いわゆる『医療福祉複合コングロマリット』、つまり、医療や介護のいろいろなサービスをずらりと揃えた巨大組織です。じっさい川西市内に急性期病院と療養型の病院をもち、介護老人保健施設が2カ所、通所リハビリテーション3カ所、訪問看護ステーション2カ所、訪問リハビリテーション1カ所、ヘルパーステーションが3カ所あり、そのうえ来年8月オープン予定で回復期リハビリテーション中心の病院をさらに建設中です。

 したがいまして、川西市の介護保険サービスの傾向というのは、協和会の意向でかなり左右されるということがあります。この『医療福祉複合コングロマリット』の功罪については、介護保険制度開始前から私はくりかえし指摘してきましたし、現在その指摘が正しかったことが実証されていて、それで当の協和会の一員であるにもかかわらず、こうして私はその弊害を批判し続けています。

 具体的な問題点については、時間の関係で詳しくは言いませんが、たとえば川西市は要介護認定の訪問調査を事業所に委託していますが、協和会は委託を受けるケアマネージャーの数が飛び抜けて多いために、とうぜん調査の件数も多く、それはケアプランの受注する機会も多いということにつながります。ケアプランが事業所の持つサービスに偏りがちだというのは一般的に言われていることですが、そのサービスの種類とキャパシティが多いことで、実際には利用者は選択肢がきわめて限られることになっています。

 まあ、そのような状況をみて、私どもはあえて小さな事業所を興したわけですが、その話はまたのちほど触れます。

 さて、協和会の悪口ばかり言っていてはクビになりかねませんので、ちょっと別の視点から3年間を見ていくことにします。

 レジュメのグラフをご覧ください。4つあるいちばん上のグラフは、私が仕事をしている介護老人保健施設「ウエルハウス川西」にどこから入所してこられたかというのを、介護保険開始前の1999年度から今年の10月まで統計してみたもの、そのつぎは逆にウエルハウス川西からどこに退所されたかを、これは2000年度以降の統計としてみたものです。

 在宅からの入退所がほぼコンスタントに4割ほどあります。この数値のベースには、居宅におられてときどき施設を利用されるというリピータの存在があります。つまり、介護老人保健施設の期待されている機能です。入所が病院からというのも、介護老人保健施設の機能としては正しいものでありまして、ウエルハウス川西の場合、けっして協和会の病院からだけではないので、これも健全な姿だと自画自賛しておきます。

 目立つのは、他の介護老人保健施設から入所し、あるいは退所したあと他の介護老人保健施設に直接入所するという、いわゆる『老健めぐり』のかたが、年度を追うごとに激増していることです。2000年に川西市で特別養護老人ホームのベッドが一気に増え、そのために特別養護老人ホーム、介護老人福祉施設入居のかたが多くを占めましたが、その後は介護老人福祉施設のベッド待ちのために老健めぐりのかたが増え続けているわけです。

 退所先で、病院が約2割ありまして、これは病状の悪化やケガのためでやむを得ないものです。残りの4割が介護老人福祉施設入居か老健めぐり、白のその他はグループホームや療養型の病院というわけで、やはり在宅へは戻れないかたがたであると言えます。

 しかも、3番目のグラフにありますように、ウエルハウス川西では平均の入所期間がこの3年で極端にのびてきています。これは、原則として半年ていどを目安に入所していただいているウエルハウス川西から、ご自宅に戻られる場合は「待機」というものがありませんが、つぎの施設に移るということになりますと、他の施設もいっぱいのままですから、待機期間が必要になることを示しています。つまり老健めぐりの人が増え、各老健がそのような人でいっぱいになり、お互いに目詰まりしたような状態になっているということです。

 よく、介護老人保健施設から3ヶ月で出されるというようなお話があります。しかし、在宅支援がその機能であるとされている介護老人保健施設では、長期の入所を監督官庁から改善指導されることもありますし、そもそももし在宅支援ということであれば、私は3ヶ月、ぎりぎり半年が限度だと思っています。

 半年以上もお年よりが自宅におられないと、もうその家にはお年よりの帰られる場所がなくなることが多い。家族の生活リズムがお年よりのおられないものになりきってしまいます。施設入所が長期になればなるほど、在宅復帰が難しいということは間違いありません。しかも、たとえば介護老人保健施設で一ヶ月に7万円前後の自己負担で入所できます。集団生活ですこし不自由とはいえ、三食寝床にある程度の医療つきで、です。考えてみたら安いものです。

 そういう意味では、ほんらい在宅介護を支援すると謳う介護保険が、逆に施設介護を増やしている皮肉なことになっていると言えます。

 さて、川西市の2000年度の、介護老人福祉施設新設ラッシュと同じ状況が、ちょうど箕面市で来年くらいにあるように聞き及んでいますが、つまりその後はご説明してきたような傾向になる可能性があるということです。そうなりますと、おそらく市内の介護老人保健施設だけでは足りないことになると思われます。

 いちばん下のグラフにありますように、ウエルハウス川西では川西市のかたは約半数、ゴールドプランで介護老人保健施設のベッド数は制限されていますが、そのベッド数の元になるのが市の人口です。そのことがいかにナンセンスかということがご理解いただけるでしょうか。

 現在箕面市には市立の介護老人保健施設ともう2カ所があると思います。総入所者数は270名ありまして、それらは比較的入りやすいとお聞きしましたが、川西市の介護老人保
健施設の総入所者数は250名ですから、人口から比較しますと余裕があって当然かもしれ
ません。ちなみに介護老人福祉施設は、川西市が351名、箕面市は324名の定員になっています。

 おそらく、現在の箕面市内の介護老人保健施設、介護老人福祉施設では、定員が多いうえに施設サービスの需要が少ないこともあって、箕面市のかたの入所の比率はかなり少ないものと思われますが、4年後にはどのような状況になっているのでしょうか。

 ところで、かつて介護サービスの多くが行政措置であったときには、そのサービスは「与えられるもの」という意識がありました。介護保険制度になって、こんどは契約という一種の商行為であることが強調されました。

 おそらく始まった直後はとまどいもあったようですが、さすがに3年たちますと利用者は消費者であるという権利意識も定着してきたようです。もっとも、サービス提供側にはまだ「福祉」の意識が抜けきらないところがあって、もう一皮剥けてほしいものだという感じもあります。

 ところが、利用者に権利意識があることは当然ですが、なかには「ないものねだり」のような過剰な権利を主張されるかたもでてきました。たとえば施設に入所されているときに、「利用者本位」とはいうものの、個人の自由が集団生活のルールより上回ることはないということを理解していただけなかったり、訪問介護で介護保険のサービスとされていないことまで要求されたりするなど、制度を曲げて主張されることもあります。

 保険料を払ってるんやという権利意識は大事ですが、しかし受けるサービスの対価はその人一人の保険料でまかなわれているわけではありません。ある線で毅然とした態度をとる必要もあるというのが私の考えです。

 さてつぎに、3年前のフォーラムで私は医師、とくに病院の勤務医の介護保険に対する無理解を、主治医意見書を例にとってお話しましたが、ではじっさいに介護保険が浸透してきた現在の状況はどうかという点をすこし説明します。

 結論から申しますと、ほとんど変わっていない、勤務医の多くにとって、介護保険は無関係の世界、介護は医療と別だという状況です。さらに悪いことに、医療費の削減のためにつぎつぎと入院期間短縮の圧力が増えてきたために、在宅介護や施設介護の知識もないまま、病院から出してしまおうとする傾向になっています。

 詳しく言う時間がありませんが、この10月からは入院費に関わる特定療養費の制度が実質スタートしました。これは180日を超える入院の場合に、入院費の一部が保険で支払われなくなり、その分患者さんが自己負担しなければならないものです。差額ベッドというのがありますが、それと同じ負担がかかってくることになりました。

 厚生労働省は病院のベッド数をさらに減らそうとしています。とくに高齢者の入院では、病院が経済的に不利になるような施策がこれからも出てくるものと思われます。そのような状況下で、介護に無理解な医師がそのままでは、介護側は利用者も提供側もいつまでも苦労することになりかねません。

 病院が減るということは、勤務医も減らざるをえないということで、医者たちも人ごとではないはず、介護保険や在宅医療のことをもっと勉強しなければならないはずなのですが。

 ところで、介護保険制度になって3年、いくつか明るいこともでてきました。

 たとえば、訪問看護での点滴が解禁されました。もちろんこれまでとくに私などは系列の訪問看護ステーションに依頼して、いわば違法覚悟で点滴をしてきましたし、じっさい全国的に実施しているところがたくさんありました。杓子定規なことを言っていては在宅医療はやっていられません。

 それが、いわば「追認」のような形で法的にも認められるようになりました。

 それから11月11日の共同通信ニュース速報によりますと、厚生労働省が喀痰の吸引、投薬、褥創処置、胃瘻の処置などの、現在は医療職のみに認められている行為をホームヘルパーなどの介護職に許すかどうかを検討する有識者会議を設置すると表明しています。坂口大臣が筋委縮性側索硬化症の患者さんたちに対して発言したということで、おそらく来春くらいには、制限付きだろうと思われますが、許可されることになると思われます。

 さらに、これはいいことなのかどうか判断しにくいのですが、厚生労働省の社会保障審議会介護給付費分科会で病院の療養ベッドを転換して介護老人保健施設にするさいに、設備の基準を緩和するというものが検討されています。まあ病院のベッド減らしの方策の一環ですが、ベッド数そのものは減らないという点でマシかなと思われます。

 私が所属している医療法人のような『医療福祉複合コングロマリット』に限らず、いまの介護サービス業者にはいろいろ言いたいことがあります。ケアマネージャーのケアプランにもいろいろと注文をつけたくなることが多いのですが、大きな組織ではなかなか他の部署のことに口を出すのもはばかられたりします。

 で、行き着いた結果が、では自分が満足できるような、いままでにない介護サービスをやってみようということになり、今年の6月から活動を開始しました。仲間と株式会社を設立しまして、実働部隊になっていただける、志を同じくする優秀なスタッフに集まってもらいつつあります。

 すでにケアマネージャーは活動を開始しています。単発の事業所なのでお客さんを獲得するのが難しく、スタートに苦労していますが、担当人数が多くなって個々のご利用者さんに目が行き届かなくなるのを防ぐために、すでに二人目のケアマネージャーも予約といいますか、約束をとりつけております。

 来年早々からは訪問介護を開始、そして6月から本命のデイサービスを始めることになっています。このデイサービスは、これまでの既成概念を破るようなものをしようと、みんなでいろいろと策を練っているところでして、まあときには焼酎をやりながらワイワイと夢を現実化するという作業はとても楽しいものです。まあ動きだしたら楽しいことばかりではないでしょうが…。

 株式会社でデイサービスをすると、社会福祉法人がするときのような『補助金』というものをいただけません。ただ、その代わりにいろいろな規制といいますか、かつての福祉の措置の名残である行政の指導もされないぶん、介護保険のほうの基準さえ守ればいいという自由さがあることも分かりました。補助金をもらって事業を始めることができると、けっこう「おいしい」らしいということもよく分かりました。つまり株式会社でとくに施設を必要とするサービスをするには工夫が必要だということです。

 つい数日前、財務省は介護報酬が増え続けることと、物価が下がっていることを理由に介護報酬を5%下げよと言い出しました。医療の診療報酬は今年の春に初めて引き下げられましたが、介護報酬にも手をつけようとしています。

 しかし、医療もそうですが、介護のほうも従事者の待遇はけっしてよくありません。私の施設の介護職の手取りは15万円くらいしかありません。登録ヘルパーの時給が750円な
どという地域もあります。介護報酬をこれ以上下げると、現場の志気が下がってしわ寄せはけっきょく利用者に及びます。

 つい最近、大阪の八尾市で独居している母にすこし介護が必要になりました。自分が介護の会社を作って活動しようとしているのに、知らない地域ではどの事業所のケアマネージャーに頼めばいいのか、ヘルパーさんはどこがいいのか、ハタと迷いました。医療の世界なら見ただけであるていど判断できるほどには長い経験がものをいいますが、介護の業界のことは歴史が浅いぶんまだまだ見えにくいところがあります。

 これからどうなるかまだ予断を許しませんが、消費者としては人ごとと思わずにずっと監視していくことが必要かと思われます。

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