脱クルマ21/第3号コラム

医療現場と無神経な駐車


 「救急外来前にお停めの神戸×××のお車の運転手のかたは、救急車の出入りができませんので至急ご移動をお願いいたします」

 これは、私が先日まで勤務していた私立の救急病院での全館放送である。一日のうちにたびたび流されるのだ。マイクの前には、面会時間終了や業務連絡の放送の文例とともに、この文章も提示してある。救急車が横付けして患者さんを直接救急診察室に運びこむドアの前に駐車していく無神経なドライバーがあとを絶たないのだ。

 救急車をはじめ緊急自動車が違法駐車に邪魔されて走りに支障をきたすということは、これまでもしばしば指摘されているが、医療現場では、救急車の専用停車場所にまで駐車してしまうことさえめずらしくないのである。

 ところで、私は自家用車は手放したものの、在宅療養中の患者さんの訪問診察を担当しているので、患家に回るための車と縁が切れないでいる。それに使う車は「駐車違反除外」の指定を受けているので路上駐車に制限はほとんどない。それでも交通の邪魔にならないよう気遣い、指定車の標章以外に「訪問診察(往診)中」であるむねの表示もして駐車しておくようにしている。ただ、そうやって駐車しようにも、違反駐車の列のためにスペースがなくて停められないということも珍しくはない。すこしくらい離れたところに停めて歩いてもかまわないのだが、診察の器材や薬品を抱えて雨でも降っていようものなら、ほんとうに情けなくなってしまう。わしゃなんやねん、と。

 もうひとつの腹だたしいことは、デイケアの送迎車の走りにくさである。デイケアというのは、身体の不自由な高齢者を施設で日中お預りして入浴や食事をしていただくサービスである。車椅子のリフトを装備したワンボックス車でご自宅まで送迎するのであるが、緊急車でないぶんだけ通行に難渋するのだ。幼稚園の送迎と違って、道の広いところに集合していただくのは無理。玄関先まで車をつける必要がある。旧市街地の狭い道路にも路上駐車があふれ、図体の大きいリフトつきワンボックスはしばしば立ち往生する。地元の消防署が、高規格救急車の導入ですこし装備が劣ってもより小型の機種を選んだらしいというのもうなづける。

 リフトで利用者が乗降していると「はよどかんかい」というようなクラクションに急かされることさえある。で、運転手は脂ぎった元気そうなおっさんだったりするのだ。

 歩かないのが原因で病気になったり、急病のときに救急車が遅れたり、年をとってから移動に苦労したり、いつかはきっと自分の首を締めることになるのになあ。

1998年3月


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