'98 週刊湾処屋/9月



9月29日(火)

 日曜日にひさしぶりに阪神電車に乗りました。梅田から鳴尾(なるお)まで。

 私は阪神甲子園駅のすぐ近くにあった高校出身で、当時は大阪阿倍野に住んでいましたから、この区間は3年間ずっとなじんでいました。

 当時の朝夕の混雑時の急行は、まだ戦前の香りを漂わせた 880系などという小型車が主力で、こいつらがカーブの多い本線を走りまわっていました。ぼつぼつと立体化が計画されつつあるころで、そのうちに風情がかわるのだろうなと思っていたのが30年前 :-)

 で、いまや梅田の地下駅を出た電車は野田阪神で高架になった線路は、そのままずーっと鳴尾まで高架のままです。沿線の景色も再開発と震災の復旧とでまったく変ってしまっていて、車窓景色を見ただけではどこを走っているのかわかりません。あいかわらずカーブが多く、そこを高速で走るので、電車好き人間としては楽しい路線です。

 しかし、30年か…。

千里中央

 ぽーるすたーさんのお近くまでやってきてしまいました。

 千里ニュータウンの中心駅。しかし、ニュータウンとはいえ、住民の高齢化が大きな問題になっている地区の駅です。この駅を通勤に使っている人たちは、ニュータウンの住民よりも、この駅からさらにバスやモノレールに乗り継いだところにある新しい町の住民が多いはずです。

 バブルのころ、ニュータウンの一戸建宅地の価格には驚きを越えて可笑しくさえなりました。いろいろとそれにまつわる悲喜劇の噂も聞きました。いま、そういうところに空き家が目立ちます。

 町そのものは数十年をへて落ち着いた雰囲気になっています。公園の木々は大きく育って、かつての千里丘陵の自然の一部が復活したようになっています。

 これからどういうふうになっていくのか、楽しみでもあります。

9月25日(金)

 台風は過ぎてしまいましたが、西日本は秋雨前線の活動とやらで大雨が続いています。近畿でも今朝から各府県で大雨洪水警報が出たり消えたり。川西でも昼前からしばらく猛烈な雨が降りました。

 午後から北部山間部の往診にでかけまして、午前に時間雨量32mm(とはいえ高知の百数十にはとてもかなわぬ)降ったという能勢町も通りました。山と水田の多い能勢にもかかわらず、各河川は茶色い濁流で荒れていました。つい先日まで夏の渇水のために水位の下がっていた一庫ダム知明湖もあっという間に満水になっていまして、ま、これで今年の冬の水源はだいじょうぶのようです。台風/大雨も災害被害だけではなく、これくらいのお土産は置いていってもらわねば困ります。

 次回の往診のときは、ぼつぼつ山の色が変っているころでしょう。

桃山台

 江坂や緑地公園の駅の周辺には民間の高層共同住宅が林立していまして位置的には郊外ながら景観は都市のものです。しかし緑地公園を出てしばらく起伏のある丘陵を走りますと、いわゆる千里ニュータウンに入ってきて、ようやく住宅地だという景色が少し見えますが、それもすぐに電車が切り通しにもぐりこむために見えなくなります。その切り通しの底に桃山台駅のホーム。

 新大阪でも書きましたが、この桃山台駅も非常に車の音がうるさいところです。ホームの両側を新御堂筋の本線が走っていて、切り通しの閉鎖されたところに車の音が反射増幅、スピーカーボックスの中にいるようなものです。

 橋上にある改札を出て駅ビルから出ますと、住宅地特有の大きなバスターミナルがあって、初めてだとまったくわけがわからないほど多くの行き先をもったバス群が並んでいます。乗ってきた電車は大阪市営地下鉄であっても、降りたとたんにすべて阪急バス、多くの阪急タクシー。ここはやはり阪急平野の真っ只中であると実感させられるわけです。

9月22日(火)

 2日連続で紀伊半島に台風がきました。

 非常に不謹慎で、非難されるかもしれないことを覚悟で書きますが、昔から台風が近づいてくるとなんとなく気分が昂揚してしまいます。ほんとうに深刻な被害を受けたことがないからそういう気分になるのかもしれませんが、もっとも、私は、伊勢湾台風や第二室戸台風である程度の被害を受けた記憶と経験を持っています。

 7号台風は、ちょうど職場で入退所判定会議で喧々諤々やっている真っ最中に接近して過ぎていきました。外の様子が気になりつつも、会議をほったらかして見物するわけにもいきません。会議が終わったときには、すっかり雨も風もおさまっていました。

 ところで、あとで考えてみますと、ちょうど台風が最接近していたころ、会議での討議にいつになくエキサイトしてちょっと自分でも驚いていました。台風による気圧の急激な低下が私の感情制御機構を狂わせたのでありましょうか。

 とすると、台風が近づいてきているときの昂揚、これもそういう影響なのかもしれません(と責任回避する)。

緑地公園

 大阪市の線路は江坂で終わります。江坂から御堂筋線の終点の千里中央までは民鉄である「北大阪急行」が経営しています。なぜこういう不自然なことになっているのかといいますと、『大阪市内の鉄道は大阪市が行なう』という、いわゆる「市営モンロー主義」が戦前から強固にあって、大阪の民鉄は原則として市内での交通機関としては認められてこなかった歴史がありますが、これが逆に『大阪市を出たら大阪市にはやらせない』という圧力になったから、といわれています。他にも中央線が長田から近鉄東大阪線になっている例があります。

 閑話休題、緑地公園は広大な大阪府営服部緑地公園の最寄り駅です。この公園内にある「日本民家集落博物館」が私の好きなスポットのひとつでして、平日に休みがとれて遠くへ行くだけの時間的余裕がないときなど、ふらっとここに向かうことがあります。伝統的な全国の民家を移築してあるので古い家を見る楽しみもありますし、敷地がそれに合わせた植生などにしてありますので、その雰囲気はなかなかのものです。

 万博公園を見ても思いますが、人工的に作られた公園でもそれなりの時間がたちますとけっこうな森林になってきます。服部緑地全体も落ち着いたよい公園になってきました。

9月18日(金)

 昨日は、こういう「マンの悪い日」もあるのかいなと思うくらい、朝から情けないことの連続でした。

 早出出勤の日なので、いつものように初発のバスを待っていると東の空はみごとな朝焼け、頭上には青空が広がり、空気が涼しく澄んで、いかにも「秋っ」といういい朝。

 ところが職場のある川西能勢口駅を出るとにわかに曇ってきてポツポツと雨が…。ま、それほどの降りでもないと判断してそのまま歩き始めました(もっとも、傘を買おうにも午前6時の駅前に店はなし/駅構内のコンビニの開店は午前7時だからどうしようもなかったわけです)。ところがすぐに本格的に降りだして、職場についたときにはシャツは完全に濡れてしまっていました。

 ユニフォームに着替えてシャツを干し、さて回診に行こうと携帯電話を見ますと、これがなんとパートナーの電話、寝ぼけて間違えて持ってきたのでした(私のはセルラー、パートナーはツーカーホンなので普通なら間違うことはまずない)。

 回診をほぼすませたとたんに別フロアのゲストの様子がおかしいとの急報。駆けつけると意識なし。自分で搬送車を運転して看護婦さんとともに病院へ搬送、だんどりが悪くて病院のスタッフの用意が遅いので、看護婦さんも私も昔(といっても1年ほど前まで)とったキネヅカ、勝手知ったる身内の病院、救急外来で救命処置をして、なんとかことなきをえました。それから病室でおちつくまで付き添って、ああ腹が減ったとみるとすでに9時を回っていました。

 そのあとも昼食をとろうとしたら定食が売り切れていたとか、いろいろとトラブルが続き、けっきょく帰宅したのも午前様(ちょっと居酒屋で呑んだりもしましたがね :-))。ふーーっ。

江坂(2)

 駅からすこし離れていますが、芳野町というところに「アメニティ江坂」というスポットがあります。

 広大な工場跡地に、ゴルフ練習場、テニスコート、野球場などとともに、大きなレストランがたっていて、ジンギスカン料理やシーフードのバーベキューなど、休日などは家族連れやグループでたいへんにぎわいます。私たちもかつてはよく食べに出かけました。値段もリーズナブルでそこそこの雰囲気があり、敷地全体がお祭気分に溢れていて、アメリカ風の「ハレ」の演出がいきとどいています。

 最近のわが家はフイッシュベジタリアン的、油抜き食生活が標準になってしまったため、ここに行くことはなくなりました。アメリカンな施設なのだから、ついでにベジタリアンレストランも作ってくれればいいのにね :-)

9月15日(火)

 家の近くを歩いていて、ふと気がつきました。ガソリンスタンドの看板。リッターあたりハイオク99円、レギュラー88円。ところで、500cc のペットボトルに入ったミネラルウォーターが 100円あまり。つまり、水はリッターあたり 200円超。そうか、ガソリンは水の半分以下の値段なのですね。軽油なんか三 分の一。

 障害を持っておられて移動に車が必要であったり、公共交通機関がほとんどない過疎地で生活のために車を使っておられるかたも、歩いても10分もかからないスーパーへの買い物に大きな車を出して乗っていく奥さまも、水の半額のガソリン代の負担でいい、いや、ガソリンが安いのは、車の代わりの交通機関がなんぼでもある都市部ばかり、過疎地ではそういう安売り競争はないでしょう。ガソリンにかかる揮発油税は同じ。なんか変。

 せめてガソリン代は水と同じにしませんか。税金を増やして…。そして、車がどうしても必要な状況のかたには、揮発油税を減免する。都市部で不要な自家用車が減るだろうし、倉庫代を節約するために走り回っているといわれている商品配送車も見直されるだろうし、エンジンをかけたままで仮眠したりするようなもったいないことをすることも減るだろうし、足腰弱るのもなんのその私には車がいりますのよホホ〜ホという奥さまもちょっと考え直してくださるのではないでしょうか。

江坂(1)

 御堂筋線、当時は「地下鉄一号線」でしたが、それを梅田から北へ伸ばして「江坂」まで、と聞いたとき、その地名にぜんぜん馴染みがありませんでした。ま、いかに幼少から地理好きな私とはいえ、小学生の知るエリアはたかだか住んでいる市とその隣接程度でしかなかったので、無理はありませんでしたが。

 しかも、初期には「江坂」ではなく「榎坂」と表記されていたのでさらに混乱したのかもしれません。いずれにしても、竹林が一帯に広がる千里丘陵の麓、キツネが走り回っているような土地を想像していたというと、地元のかたに叱られるでしょうが、でも、河内に住んでいた少年は同じ大阪の北摂についてその程度の知識であったわけです。

 その江坂、いまやビルの林立する副都心。

 東京に行くたびに羨ましがりつつ通った東急ハンズが江坂にできたとき、私はほんとうに嬉しかったのであります。

9月11日(金)

 世間は黒澤監督の話題でもちきりですが…。

 先週末、ひさしぶりにビデオを借りてきて映画を2本見ました。

 新藤兼人監督の「午後の遺言状」と、河瀬直美監督「萌の朱雀(もえのすざく)」。ご存じのように、前者は老人性痴呆の女性を巡る物語、後者は山村の過疎と高齢化が伏線にありまして、どちらもちょっと重いテーマを扱っています。大監督である新藤さんが、杉村春子さんや音羽信子さんをはじめとする一流俳優をキャスティングして作った大作と、昨年のカンヌ国際映画祭で新人監督賞をとったのでいちやく名前が知られることになった新人女性監督が、地元で募って得た無名の役者さんと作った作品という、ほんとうに対照的な2本。

 先に「萌の朱雀」を見たのでよけいに感じたのかもしれませんが、私には「午後の遺言状」が芝居がかって非現実的すぎるように感じてなりませんでした。全体として暗い映画である「萌の朱雀」は、私に馴染みのある言葉がしゃべられていることもあってか、どっぷりと物語に浸かることができたのでした。この映画の舞台である西吉野村のすぐ近くの町の町立病院で3年ほど勤務していたことがあるのです。

 酒を飲みながらまで高齢者問題を扱った映画を見ることもないのではないかとも思いますが、仕事の慣れに対する一種のリセットではないかと考えられなくもありません。

東三国

 地下鉄御堂筋線ではほぼすべての駅に縁がある私ですが、この駅に関しては乗り降りした記憶がありません。そもそも西中島南方〜新大阪〜東三国の3駅間は距離が短くて、わざわざ東三国で降りなければならない用件がないのです。

 私が所属している医療法人の病院のひとつがこの駅の近くにありますけれど、その病院には私はぜんぜん用事ができたことがありませんし、仮にそこへ行くことになっても、川西からですと阪急宝塚線で(「東」でない)三国駅があります。

 御堂筋線ではこの駅が大阪市の最北で、これから神崎川を越えると吹田市に入って(地下鉄としての)終点江坂駅になります。

9月8日(火)

 和歌山のカレー毒物事件以来、全国で缶飲料水などに異物を混入するような事件が続いています。なにかというと便乗したくなる、おのれの頭脳のないバカが多いというのはわが国にとってたいへん情けない話であります。

 私が通勤に使っている駅とその周囲は、10年ほど前に整備されたらいしいところです。駅の周囲には、はやりのレンガ状の敷石が敷き詰められた道路が取り巻いています。はじめはさぞかし奇麗だったんでしょう。

 というのも、いまやその道路、タバコの吸い殻やガム、雑多なゴミ類で汚いったらない。掃除のしにくい敷石だから、これはメンテナンスの手抜きとはいえないでありましょう。それだけ行儀の悪いヤツが多いんでしょう。

 前の日曜日、近所のコープのレジの列に並んでいました。すぐ前には60才くらいのおばはん。列が進みかけますと、このおばはん、自分のカゴを足でズズズッと押しておられます。をひをひカゴの中味は食い物飲み物でっしゃろ。バチぃ当たりまっせぇ、おばはん。

 うーん、世も末っ。

新大阪(3)

 駅からすこし離れたところに大きな駐車場があります。まる一日預けて数千円という安さと、駐車場から駅までマイクロバスで送迎してくれるというサービスでいつも満車です。

 日帰りや一泊程度なら便利で安い、のは確か。私も車を持っていたころはしばしば利用していました。しかし、新大阪駅のような公共交通至便なところで、なんでそんなにみなさん車でくるのと、車を手放した最近は疑問に思います。

 たしかに、名古屋から1時間で新大阪まで帰ってきて、それから地下鉄〜阪急京都線〜宝塚線〜バス、あるいは、地下鉄〜大阪モノレール〜阪急宝塚線〜バス、というルートで、自宅まで1時間以上かかれば、駐車場に預けた車で20分ほどで帰宅できるのは魅力的ではあります。でも、ほんとにしんどかったらタクシーという手もあります。なにがなんでも車ということもありますまい。

9月4日(金)

 ここのところの北摂は、日中のひなたではまだ暑く感じるものの、朝夕の風がかなりひんやりとしてきました。秋、という空気です。

 職場の私の部屋には南向きの窓がありますが、夏の間は庇のおかげで日はさしこんでいませんでした。数日前から、午後遅くなりますと、斜めの日差しが少しさしこんでくるようになっています。窓ぎわで先日から小さな鉢にハーブを寄せ植えした置いてあります。その午後の一時間ほどだけ日が当たるように なってきました。

新大阪(2)

 地図を見ますと、JR東海道線は大阪駅をはさんで複雑な線形になっているのがわかります。淀川の南では梅田貨物駅への貨物線が分かれていますし、その一部は環状線の福島へと伸びています。

 淀川の北では、新大阪駅の真下から西へ、大阪駅を経由せずに短絡するような線路があります。途中に宮原操車場があって、長距離旅客列車の組み立てがここで行なわれています。新大阪駅のところの東海道線との接点と反対側の東海道線との接点には、どちらも「三角線」と呼ばれるものがあって、宮原から出た列車は、上り下りどちら方向でも自由に出入りできるようになっています。
 民鉄と違って旧国鉄はたいへんぜいたくな線路の敷きかたをしていますのでこのようなことができているわけです。

 新大阪駅の送迎用駐車場にいますと、この三角線を通る回送列車が目の前で見えまして、オールド鉄ちゃんとしては至福のときを過ごせるのでした。

9月2日(火)

 ご存じのかたはご存じのように、私は顎と鼻の下に髭を生やしています。この髭の手入れですが、生やす部分以外の髭を毎日剃刀で剃って、生やしておく髭の部分は週に一度くらい、ハサミで周辺をそろえ、専用のバリカンで長さを整えます。

 これまたご存じのかたはご存じのように、私の髭にはかなり白髪が混ざっています。じつは頭髪にも白髪が多いのですが、頭のほうは何とかいう天然染料(草の匂いが臭いんですよ、これ)で茶髪になっているので目立ちません。だから顎の部分の白さが目立ちます。

 これをバリカンで切りますと、数ミリの髭の断片ができるわけで、これは新聞紙を広げて受けています。それで、その断片を寄せてきますと、なんともいえない黒と白のグラデーション模様になります。

 それがどないしてんと言われますと困るのですが、ま、自分の身体から出たものなのに、いやあけっこう美しいなあと思ったりして… ^^;

新大阪(1)

 自宅や職場から大阪に出て地下鉄に乗るのに当然使うので梅田駅をいちばん頻繁に使うのは当然ですが、たとえば「でんでんタウン」詣でのためによく乗り降りする難波駅とか、COMLの患者塾に出席するために使う森ノ宮駅などとともに、新幹線の利用のためのこの新大阪駅も馴染みの駅のひとつです。

 じつは、私はこの駅のホームで電車を待つのが嫌いです。それは、線路の両側を大幹線道路である新御堂筋が走っていて、しかもホームが新幹線の高架下にあるため、非常に自動車騒音が激しいからです。地下駅とちがってエアコンが入っていないことも不快。ですから、日帰りで東京へ行ってきて、空腹と口渇を我慢しつつ疲れた身体で帰宅までの2回の乗り換えのうっとおしさなどを思いつつ電車がなかなかこないときなど、非常にイラだつ駅であります。

 しかし、このイラだつホームで電車を待っていると「大阪へ帰ってきたー」と実感してしみじみしてしまうのも、いっぽうあるわけです。この騒々しさ猥雑さが、私が50年間どっぷり浸かっている大阪の空気なのかもしれません。





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