駄理雑言 '97/3月上旬



3月1日/雨の日

 朝からけっこう激しい雨が降っていました。
 私は、雨の日は嫌いではありません。だから、朝から雨でも、そのことだけではそれほどイヤな気はしません。でも、3年前から車通勤を捨ててから、雨の日の通勤はイヤやなあと思ってしまいます。
 歩行者に配慮しない無神経で下品な車がめちゃくちゃ多いことが、雨の日の通勤のうっとおしい原因です。もちろん車に乗っていたころに、私はどうだったかといわれると、ちと自信がありませんが、それでも晴れているときよりは少しは気遣いしていたと思っています。
 駅から職場への道は、片道三車線の幹線道路で、その両側にはビルが立ち並んでいます。今朝のような強い雨だと、この道路はあたかも「渓谷」のようになっていて、疾走する車から巻き上げられる水しぶきが霧のようにビルの谷間を満たしています。傘は空からの雨は遮ってくれますが、ビル渓谷の霧は容赦がありません。たかだか5分ほど歩いてきただけで、上着はしっとりと湿ってしまっていました。

3月2日/晴の日

 朝から晴れました。ひさしぶりにパートナーと休みが一致して天気がよく暖かいので、こちらに引っ越してきてから気になっていた「裏山」へ登ってきました。この山は、以前よく歩いていた箕面の山に連なる一種の「里山」ですが、しかし都市に隣接しているために「市街化調整区域」の指定を受けて、また植物採集や猟は固く禁止されています。
 暖かいとはいえまだまだ風は冷たく、山ではあまり人と会いません。2時間弱歩いてちょうど昼ごろに到着した園地には、私たちと同年輩のご夫婦が何組か静かに弁当を広げていました。若いカップルや家族連れは車でドヤドヤとやってきているようです。子どもに相手してもらえなくなった世代の夫婦が里山歩きを楽しむというパターンが多いのでしょうか。
 山を下りて町を歩き、近所の公園でほぼ八分咲きの梅の眺めと香りを楽しんで、晴の日の仕上げとしましたが、午後からはちょっと薄曇りになっていたのが残念でした。(左は山の尾根から大阪平野を臨んだところですが、ちょっと霞んでいました。右は近くの公園の梅林)

3月3日/桃の日

 ケーキ屋さんの店先に「おひなまつりデコレーションケーキ」が並べられていました。最近はどのような行事にもケーキが登場するようで、私はどう考えても「桃の節句」にケーキが関係するとは思えないのでした。
 クリスマスケーキの売れ残りのことがよく話題になりますが、今夜見た感じでは「おひなまつりケーキ」も売れ残るんでしょうね。縁起が悪いなあ。
 先月15日過ぎに見た光景、「バレンタインチョコレート半額」というのがありました。それでもぜんぜん売れていなかったようです。
 甘いものというのは、ぼつぼつ人気がなくなってきているのではないのでしょうか(そんなことはないのか)。

3月4日/忙の日

 ま、毎日いろいろと忙しい思いはしているわけですが、ま、それでも十年前のことを考えればそれほど忙しくはありません。私はもともとサボリなので、忙しいという場面はとっても嫌いです。でも、忙しくないほうがもっと嫌いなのは困ったもんです。
 今日は朝からずっといろいろとアポイントがあって、忙しいといえば忙しかった。でも、ちゃんとニフティにアクセスしている程度にはヒマだったんですね。もっとも、私のニフティへのアクセスは NifTermというニフティ専用通信ソフトによる完全オートパイロット(起動だけすればあとは端末が勝手にいろいろやっといてくれる)です。今秋オープンの老人保健施設関係の仕事がいよいよ増えてきたのが忙しさの原因なのですが、ま、それはそれで忙しさを楽しんでいないといえばウソになりましょう。
 ま(「ま、」ばかりですね、今日は)、いつもいつも忙しがっているほうが惚けんでよろしおま。

3月5日/冷の日

 今日は啓蟄。
 いつもいまごろの季節には、コートを着て出るかどうか迷います。3月に入ってからはずっとコートなしで通していますが、昨日と今日はすこし肌寒かったようです。
 三寒四温という言葉がそのままのような時期ですが、またぞろ風邪をひいておられるかたが多いようで、あちこちで咳が聞こえていました。身体がうまく適応していないのかもしれません。私の経験では、多少寒いと感じる服装にしているほうが風邪はひきにくいように思います。
 私はいまのところ風邪のケはありません。

3月6日/暖の日

 今日の北摂は天気がよいうえにたいへん暖かでした。おそらく今年になって初めての強い南の風になり、大阪空港のランウェイは14を使っていました(*1)。
 午後の往診の車に軽く冷房を入れながら、よし、今日は歩いて帰ろうと決め、先日の雪の朝の出勤で所要45分からみて、ゆったりと帰るために同じ時間を予定し、歩き出しましたが、病院を出てから隣の市に入るまで、患者さんや家族や元患者さんとたくさん会ってしまい、いわゆる「ロスタイム」がたくさんあったのには困りましたね。
 けっきょく予定どおりの45分で帰りましたので、ロスタイムがなければ35分くらいであることを確認。んじゃバスと電車と歩きの合計と変わりがありません。途中で刺身を買ったり本屋さんでよけいな本を買ったり、バス代電車賃がいらないぶんだけ経済的、しかも運動になる、うーむ、これはいい。

 (*1)空港のランウェイ(滑走路)はその方位で表現します。真北を0度として右回りに数えます。大阪空港の滑走路は普段は南から北へ着陸し北へ離陸するので、滑走路は 320度、これを32(スリーツー)と表現します。滑走路は2本並行していまして、長いほうは左側にありますので、32L (スリーツーレフト)と言います。初夏のころには南風が強くなって南からの着陸、北への離陸が追い風で不利なため、そういうときは北側から着陸してきます。その方向から見ると滑走路はちょうど 180度反対の角度になり、14になるわけです。そして長いほうのは右ですから、32L を北から見た 14R(ワンフォーライト)という表現になります。14を使うときは、北側の山をなぞるように旋回しつつ着陸しますので、そのアプローチはかなりスリリングです。

3月7日/賑の日

 デイケアの部屋を覗きましたら、あちこちから私を呼ぶおばあちゃんたちの声。スタッフから「もてますねえ」の冷やかし。好かれるのはイヤではないのですが(以下自粛)。
 ま、それにしてもデイケアでも女性たちの元気なこと。男はやはり劣勢です。偉そうに言っていても、しょせん男は依存的ですね。診察の現場でも、女性はおひとりでこられますが、男はたいてい奥さんか母親が引っ張ってきます。ご夫婦のどちらかが亡くなられたあと、強くなるのは女性のほうで、男性は立ち直れなくなるケースが多い。
 強い女性に負けないよう、自立した男を目指し続ける毎日であります。

3月8日/濃の日

 土曜日はいちおう半ドンですので、昼ご飯は変わったところで食べるか、午後から用件があるときにはガサガサととりあえず腹をふくらますか、あるいはタイミングによっては食べないとか、ともかく週のなかで土曜日昼食というのはとくに多彩なことになります。
 で、今日はなぜか突然「中華丼」を食いたくなりました。私はここ数年、油もんの食事はとれなくなってまして、中華系や仏蘭西系の料理は正直なところ避けたいのです。しかし、まあ、なんでか、今日はそういうことでスープつきの「五目どんぶり」を駅前の中華屋さんで食べました。
 パートナーと娘が買いものから夕方遅く帰ってきて、そのうち夕食準備ができあがってきて、たいへん珍しいことにスキヤキ。鶏肉主体でそれも少ないものの、私の食生活とすれば珍しいものです。
 うーん、今日は濃い食事が続くのでありました。

3月9日/汗の日

 午前中に用件があって職場を覗きました。すぐすむ用件だと、バスと電車でえっちらおっちらというのはさすがに面倒です。このあたり車のほうが気楽だと再確認。でも車はないのだ。
 たいへん天気がいいので、昼前からシャツにベストだけ着て(念のため薄いウインドブレーカーをバッグに押し込んで)近くの山へ。軽装なのに日差しで汗がじっとりと出てきました。標高300mほどのピークでおにぎりを食べているうちに、こんどはまだ冷たい風でカラダがすっかり冷えたのには参りましたね。それにしても、里から少し入っただけの山道ですが、ひとりで歩いているとなんとなく気味が悪いほど静かです。北摂平野が眼下に見渡せるのに、たまーに救急車の音が聞こえるだけ。風で周りの木や笹が騒がしいからか都市雑音はほとんど聞こえないのです。
 青少年野外活動センターを抜けてふたたび里に降りてこんどは町をあちこち歩いて回り、大手企業の社宅や寮がけっこうたくさんあるのを発見してきました。
 帰宅して明るいうちから風呂に入って、うーむ至福。

3月10日/焦の日

 外来診察には常につきまとう矛盾があります。
 ひとりひとりの患者さんとじっくりお話しようとしますと、おひとりあたりの時間が長くなり、あとの患者さんの待ち時間が長くなってしまいます。待ち時間をなんとか減らそうとすると、いわゆる「3分間診療」になってしまうわけです。このことは、私だけではなく、日本中の医者の多くが悩んでいることだと思います。
 今日も午後1時に診察を始めた時点で順番券の番号はすでに16番。つまりおひとり3分などとしても、最後のかたは3X16で約50分の待ち時間になってしまうわけです。脳外科の外来はかなり初診のかたの割合が高いので、おひとり平均3分などということはぜったいに無理です。診察開始から1時間後でようやく10番近くまで進んでいましたが、でもそのときには最後のかたはすでに24番という状態。これはもう焦る以外にありません。
 けっきょく午後5時前にようやく最後のかたの診察を終えましたが、うーむ、週一回とはいえ予約診療をして、再診のかたをそちらに誘導していてもこの状態。何かいい方法はありませんかねえ。

3月11日/霧の日

 夜中のあいだけっこう激しく降った雨も明け方にはやんだようで、目が醒めたら窓から薄日がさしていました。
 でもまだ足元はかなり濡れたまま、そうしてバス通りに出てなんとなく違和感があってよく考えると、ここいらは日が当たっているのにバス停2つほどの距離の山には濃い霧が被っていてまったく見えていないのでした。
 小松左京さんの小説「首都消失」というのがありまして、かつてこれが映画化されたとき、首都東京ががっぽりと霧に包まれているシーンがありました。ああいう雰囲気。
 朝で急いでいたのでデジカメで撮影するヒマがなかったのが残念です。

3月12日/咳の日

 日曜日の山での冷えが原因か、恥ずかしいことに本格的にカゼほひいてしまったようです。
 昨夜は熱もあったかもしれませんが、ま、ともかく仕事はしなければ誰も代わってくれません。
 しかし、困るのは、今日のように訪問診察がびっしり入っているとき、私のカゼを患者さんにうつしてはならないということですね。できるだけ患者さんとの接触時間を短くしなければならないと思うのですが、そのためには患家で自分が「カゼひーてまんねん」と言わねばならず、これは医者としては恥ずかしいのだった。
 カゼは気の緩みと公言している私としては困ったことです。

3月13日/熱の日

 計ってはいませんでしたが、今朝はついに熱がありそうで、どうにも起き上がる気力がでません。ちょうど午前中には予定はなく、ひさしぶりに今夜は当直でもありますので、無理をせずに昼まで休むことにしました。
 なんとなくうなされるような、眠ったような眠ってないような時間を過ごしたあと、かなり身体が軽くなり、正午すぎには職場に出ていつものように仕事につくことができました。カゼなどひかんというのが自慢だったことが昔日のことになったのは情けないものの、数時間安静にしていれば回復できるのがまだ丈夫だと思うゆえん :-)
 週末までには体調を戻しておかねば…。

3月14日/明の日

 ひさしぶりに当直をしまして、朝早く起きてシャワーを浴び、三々五々みなさんが出勤してこられる声を聞きながらほうじ茶を飲みました。掃除をしてくれている業者さんがてきぱきと医局をきれいにしていってくれます。忙しくない明けでは、出勤という行動がないぶんだけ、ゆったりとした朝が過ごせます(正反対のとんでもない朝のときもありますがね)。
 救急病院の当直勤務をあとどれくらい続けていけるか分からんなあと、たんびたんびに思いながら消化している勤務ですが、ま、今日も無事明けました。ただ、明けでずーっと外来診察というのはストレスが大きい。木曜日の当直はできたら避けたい ^^;

3月15日/直の日

 ちょうど一週間前にJR東西線が開通しました。福知山線と片町線を地下で結ぶという、私が少年のころに計画されていた線がようやくできたわけです。
 福知山線は、大阪に乗り入れていた国鉄線では最後まで蒸機が働いていたところですし、片町線は日本中の電車の流れ流れて行きつく先というような具合だったのが、ほんの20年ほど前の状況でした。だからたいへん感慨深い。
 そのJR東西線の北新地駅に近いところに用件があって、はじめてこの線の電車に乗ってきました。川西池田駅から乗った木津駅行き快速の車内はがらがら、それでも伊丹駅を出てまもなく尼崎というあたりから運転席の後ろの窓から立って前方の景色を見るという「正統派鉄ちゃん状態」で観察してきました。地下鉄で時速90km/hを出すというのに嬉しがっていたのはともかく、深い深いと喧伝されていた北新地駅がそれほど深くないということもともかく、ま、できましたねえ片福連絡線、という感激が…。
 それで、地上に出て、梅新交差点で御堂筋を渡りつつ阪急百貨店を見ながら思ったのは、うーん北新地駅ができてほんとにCMでゆうてるほど便利になったのかいなぁ、っちゅうことでした。
 「直通」というのは画期的だとは思いますねんけど。
 ※駄理雑言の「〜の日」シリーズ、タイトルのネタ切れというか語彙不足といいますか、半月目の切りのいいところでもっていったんおしまいにします。




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