速い動きを表現しよう

動く物体をアニメーションで表現したい時は、モーショントゥイーンを使えば簡単に表現できます。
ところが、動く速度が『速い』物体をアニメーションさせる場合は、モーショントゥイーンだけでは物足りなさを感じる時があります。
それがなぜなのか、そしてどうすれば解決できるのかを考えながら、アニメーションの『表現』の部分について、少し掘り下げてみたいと思います。
ちなみに今回の内容は、ソフトウェアの操作に関することではなく、アニメーションの表現方法に関することがメインとなっています。

まずは、速く動く物体にはどんなものがあるのか、いくつか例を挙げてみます。

などなど…例を挙げるとキリがありませんね。
繰り返しになりますが、これらの動きを表現するのに手っ取り早いのは、モーショントゥイーンを使用することです。
ところがモーショントゥイーンに頼るだけで、これらの物体が本当に動いているように見えるのでしょうか。
教科書的な解答としては、「YES!」です。
であれば、このページの主旨が無くなってしまい、元も子も無いわけですが、実はそうとも限りません。
「より自然に」とか「より滑らかに」物体が動いているように見せるということであれば、モーショントゥイーンの機能だけでは物足りないということです。

まずは以下の動画を見てみましょう。

赤いボールと青いボールが交互にバウンドしています。
赤いボールも青いボールも、動きのタイミングは全く同じで、イージングによる加速度・減速度の設定も全て同じです。
どちらのボールのほうが、滑らかに、自然に動いているように見えるでしょうか。

赤いボールのほうは、始点と終点を決め、通常のモーショントゥイーンで直進運動をさせています。
青いボールのほうも、動きそのものは全く同じなのですが、ボールに加速が付いているところでは、ボールが縦長になるように描いています。
違いはそれだけなのですが、なんとなく青いボールのほうが滑らかに動いていて、自然に受け入れられるような気がしませんか。
これは、ムービーカメラで撮影した映像を想定して、それをアニメーションで再現してみた結果です。

業務用のビデオカメラや一眼カメラのムービーモードなどで動画を撮影する際、マニュアル操作で『シャッター速度』というものを設定できます。
動画の原理は、静止画を素早く連続で表示しているようなものなので、その一枚一枚の静止画に対するシャッター速度を任意に調整できるわけですね。
スチル写真で例えると、シャッター速度を速く設定して撮影した場合、水しぶきの水玉が綺麗に止まって見えるし、遅く設定すると、水しぶきの残像が残るような写真になります。
動画でも、一コマ一コマをそれと同じ原理で撮影しているわけです。

動画を撮影する際、シャッター速度を速く設定して、速い動きの物体を撮ると、コマとコマとの間で物体は大きく移動しているので、映像がカクカクした感じに見えます。
逆に、シャッター速度を遅く設定すると、物体が移動する残像が一コマ一コマにキッチリ記録されるので、滑らかな動きの映像に見えます。

つまり、モーショントゥイーンで普通にオブジェクトを移動させる場合は、シャッター速度をとても速く設定したビデオカメラで撮影した映像に近いものとなり、動きがカクカクした感じになるというわけです。
赤いボールの動きがまさにこれです。
シャッター速度の遅い(というよりは普通のムービーに近い感じの)アニメーションを表現しようとすると、物体の動く軌道そのものを作画で表現するか、モーショントゥイーンを使ったりして、うまく残像が残るような映像にすればいいわけです。
青いボールの動きがこちらですね。

テレビアニメーションを観ていると、動きの速い部分は、残像そのものを作画で描いているものが多いことに気が付きます。
そして、それをごくごく自然に見ることができているはずです。
もちろん、動きの速い部分で必ず残像を描かなければならないわけでは無いのですが、フレームレートの少ない作画で速い動きを表現しようとすれば、おのずと必要になってくるテクニックです。

テレビアニメーション を観ていて、キャラクターが速い動きをする場面をめざとく見つけたら、すかさず一時停止をして、コマ送りをしながら一枚一枚の作画を観察してみてください。
少ないコマ数で自然な動きを表現するためのテクニックがちりばめられていて、なかなかおもしろい研究材料になると思いますよ。