ナースのつぶやき


 case3 患者の側で思うこと1

 産婦人科にいると、様々な女性のドラマがあります。もちろんおめでたい出産は感動させられます。でも、それらの感動の間に、中絶や望まない妊娠で頑張って出産する女性などの姿も見られるのです。

 先日私が関わった患者さんは、既に3人の子供の母でした。妊娠7週、つまり次の生理の予定が、3週間ほど送れてもまだこない、という状況。自分で、市販のテストで確認し、妊娠していることが分かりました。
 一番下のお子さんが、ひどいアトピーで、とても手の掛かる状態だそうです。これ以上子供がいては大変。彼女は、今回の妊娠を諦めることにしました。それに対して、是非を付けることは出来ません。私達は、彼女に現在の医療の知識を提供し、意志決定するための援助をし、彼女が決めたことで、より良く事が運ぶように、出来る限りの援助を行うだけです。
 中絶の処置が終わった後、すぐに麻酔から覚め、その女性は大泣きしました。
 処置前まではあまり表情が無くて、処置後に涙の止まらない方がよくいますが、彼女は泣きながら、「くやしい」と何度も繰り返していました。
 何に対して悔しいのか。中絶を選ばざるを得なかった、自分に対してか? そうさせられた環境? 夫? 家族? それとも彼女の胎児を掻き出した私達に?
 でも、私は彼女の手を握るだけで、言葉を発することは出来ませんでした。
 彼女は、麻酔から完全に覚めたら、退院して家に帰ります。私は、彼女の話を聞いてあげることは出来ても、その後のフォローをすることが出来ません。下手にカウンセリングをすることによって、精神状態がさらに複雑になることもあります。私達が出来ることは、彼女が落ちつくまで手を握り、悔しいのだということを理解すること。そして、処置後の彼女の体がちゃんと回復して、3人の子供の母として、妻として嫁として、また生活が出来るように援助すること。もう、望まない妊娠をしないよう、避妊の情報を提供すること。
 必要だと思っても、なかなか心の援助まで出来ません。というのは、心の援助は、中途半端に関わるなら、やらない方がましだからです。体が回復しても、ずっと病院に通うわけにはいかないですからね。こういうときに、気軽に紹介できるカウンセリングルームや地域のネットワークがあればよいと思うのですが。

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