劇団3〇〇 第31回公演

「ガーデン」
〜空の海、風の国〜

甘美と悪夢のワンダーランドへ。


演出:渡辺えり子

 一つの海が七つに分かれ 七つの海の地の糸の先 七つの海が水の糸を垂ら す さあ食らえ 人形ども 母の涙の糸を食らえ  



出演
渡辺えり子 東銀之介(注:急病のため白石禎が代役を務めています) 武発史 郎 遠藤靖 内野智 いしいすみこ 大谷桃子 杉嶋美智子 土屋良太 樋口浩 二 溝上朗生 遊上良子 友寄有司 久保内亜紀 黒田裕久
奥山希美 木村綾子 神保和幸 杉谷貴士 伯美乃里 馬場恒行 萩原由美  原田志津 播田美保 藤島麻美 村上藍 山内洋子


「夜よさよなら」「深夜特急」と重いテーマの作品が続き、観にいらした大 先輩の演劇人に、死者の魂にとり憑かれ、病気になって寝込んでしまったと意見 され、私自身もどんどんんと、真剣な現代の闇に飲み込まれそうになって行くよ うなので、次は前回より軽めの、陽気でお気楽な芝居を書きたくなった。
 今年2月の「深夜特急」の際、ちょっとだけ登場した田中家の家族をふくら ませられないだろうかと思っていて、その発想が「ガーデン」につながった。ず うずうしくおせっかいでしたたかな、あの田中さん達である。銀座の画廊で観た 河野りえ氏の絵画「ガーデン」に感銘し、前々から考えていた芝居の題名を副題 に変え、絵画の名前をそのまま拝借してしまった。
 この世は神の庭にすぎず、仕組んだものの水のやり方いかんによって、その 景色は如何様にも変化させることができるのではないかという、絵画から受けた 私の印象を舞台に乗せることにした。ここで言う神とは、私達の内部に潜む、小 さな神のことで、そう考えれば、その庭は幾千、幾万通りの世界をなしてくる。 どの庭を選ぶのかは、その庭の作り手にまかされている。ただ誰かが庭に水をま けばいいだけだ。

渡辺えり子



日時・場所
1997年10月23日(木)〜11月2日(日)・新宿南口 紀伊國屋サザンシアター

10月〜
11月
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30
31
1
2
2:00PM
7:00PM

(開場は開演の30分前)

前売り開始:1997年9月20日(土)
料金:全席指定・前売り4,000円 当日4,400円
チケットお取り扱い
:おふぃす3〇〇=03-3332-2609

・紀伊國屋インフォメーション(店頭販売のみ)新宿東口紀伊國屋書店新宿本店 1F

問い合わせ:おふぃす3〇〇 郵便番号167 東京都杉並区南荻窪4-1-15春日 屋ビル3F TEL03-3332-2609 FAX03-3332-2779



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ガーデン第一報10/2



 10月1日のフジテレビ系「笑っていいとも」のテレフォンショッキングに出 演した渡辺えり子は新作「ガーデン」について、以下のように語った。
「もし、イモリが人間のように進化して、人間のような世界を作っていたら、 と言う話なんですよ。」
「小道具係がアカハライモリを二匹買ってきてみんなで観察してます。」
(画像は稽古場で飼われているアカハライモリのつがい。みゆき・まさと)


ガーデン第二報10/9

「少女」の時間・「主婦」の時間


文責 渡辺真紀夫

 前作「深夜特急」では、少年が、カエルについての物語をつづり、その物語 が実際に動き出しました。今回の劇団3〇〇第31回公演「ガーデン」は、地球の 上で生きている我々が、自然によって作られた物語を生きているのではないか、 と感じさせます。確かに、ある命が始まるのと、その命一つ一つについての物語 が始まるのとは、同時です。
 渡辺えり子の作品らしく、舞台上の空間が二役や、大道具・小道具を目印に して多層に重ね合わされていきます。(何が鍵になって、空間が重なっているよ うに見えるのか、ぜひ、楽しみながら探してみてください。)
 さて、その重なり合う空間の中で、微妙にすれ違い、対立しているようにも 見えるのは、「主婦」と「少女」のようです。
 「少女」たちは、自分と他人の区別がやっとでき、自我は芽生えても、家族 や学校や社会の中で、自分の位置や立場を、なかなか発見できず、不安定な存在 となっていることが多いのではないでしょうか。それに対して、主婦たちは、た とえば、「○○君のおばちゃん」などと呼ばれ、名前すら失ってしまっても、生 活を頼られる「主婦」としての立場は強力に背負わされています。
 主婦の強力な立場は疑う余地が無く、まるで、その生物が、最初から主婦と して進化したようです。主婦としての現実感で物を見ることを要求されている主 婦たちには、「曖昧さ」や「抽象性」のシンボルである「少女」はその「ショウ ジョ」という名さえ理解することができません。
 「大人になったら教えてあげる」と言われる「少女」と、実際に子供を産ん で育ててしまっている「主婦」とは、同じ空間で息をしていても、違う時間を生 きているようです。そして、遺影のようにいつまでも年をとらない「少女」の物 語よりも、「少女」が時を経て進化(?)したものである「主婦」の物語は、生 命力にあふれています。……たぶん、「主婦」を演じる出ずっぱりの役者も。


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ガーデン第三報10/11



稽古風景(1997/10/10)
稽古を見せてもらったところ、渡辺えり子、東銀之介、武発史郎の3人が「主 婦」役となる模様です。渡辺は4役ぐらいになるようです。
















ガーデン第四報10/14


稽古風景(1997/10/13)
 「ガーデン」は、季刊「せりふの時代」(1997秋VOL.5 小学館刊)に掲載 されているので、お読みになった方もいらっしゃると思います。
 「ガーデン」では、劇の世界が変化する合間合間に「水の人」という物語を 作る人々が登場します。
 はじめ、私は、「水の人」が小麦粉の糸を垂らすという場面を、泉鏡花の「 天守物語」の冒頭の侍女達が五色の糸を天に垂らすようなイメージとして読んで しまいました。(途中で「夜叉ヶ池」みたいな場面もあるし。)「水の人」は、 一生懸命と言うよりは、自分のしていることに対して余裕がある感じとしてです 。
 ところが、通し稽古を観たら、(1997/10/13)「水の人」がコックの衣装で 麺をのばす音が稽古場に非常に大きく響くのにびっくりしてしまいました。音だ けでなく、スタッフが、舞台で使えるようになる程度まで練っておく作業量だけ でも大変なものです。食品=命の基を作るのは、必死の大仕事なのだ、と、命を 操る糸をわざわざ「小麦粉」で作る設定としたことに、「ふむ」と納得してしま いました。
 劇が進行して再び「水の人」が登場するとき、今度は、びんざさらや太鼓を 鳴らしながらの登場で、まさに「田楽」です。ここでも、「水の人」は必死で自 分の作品の成長を鼓舞しようとしているようです。
 水の人が練った麺がアメーバから人間に進化しようとするときの「春の祭典 」(バレエ・ストラヴィンスキー作曲)のような踊りといい、「生の力強さ」が 舞台全体の下地となっているのが感じられました。

 ただ、「水の人」も神などというよりは人間くさく、作業を行う使命感のか たまりみたいなものなのかもしれません。「水の人」の一員として観客にはわか る「台詞のない水の人=イモリ=のぼる」の世界は、ヨシオの「僕はもう大人に ならないよ」の言葉とともに「星が一つ消え」るように消えてしまいます。そし て、「台詞のない水の人」は新たな世界にまた七海を探しにひょっこりと顔を出 します。「水の人」も世界を支配しているわけでも掌握している訳でもなく、自 分の存在する世界の一員のようです。


 これまで、渡辺えり子の作品は、「死ぬべき定めの人間の力一杯の抵抗」を 描く感じでしたが、はっきりと「再生する物語」を描くのは初めてのように思い ます。

 ※本番は10月27日に見る予定です。




ガーデン第五報10/25

 朝日新聞夕刊10月24日に渡辺えり子の新作が、10月から11月にかけて二本上 演される旨の記事が掲載されました。
「ガーデン」と演劇集団円に書き下ろされた「 光る時間(とき) 」です。当サイトのニュース欄にも関連項目があります。




ガーデン第六報10/26


 東銀之介が高熱で倒れ、本番二日前に急遽白石禎(しらいし ただし)が代役 を務めることになったそうです。(白石禎は劇団3○○弟6回公演から弟22回公 演まで出演していました。)




ガーデン第七報10/27

 制作の手違いで、まだ空席があるのに、チケットピア・チケットセゾンでは 券が買えないそうです。当日券があるとのことです。


 10/27に本番を観てきました。東銀之介の代役に白石禎が出演というのにま ずびっくりしましたが、なんと、仕込みの手伝いにきてそのまま・・・だそうで す。しかし、さすが、代役を感じさせません。渡辺えり子も二日目の舞台挨拶で 代役の説明をし忘れたとか。東は熱も下がり、回復に向かっているとのことです 。
 脚本に手が入れられていて、「せりふの時代」(1997秋VOL.5 小学館刊) 掲載のものとは印象が異なります。誰か一人の人生や「夢」という風には確定で きないようになっています。二役が多いですから、この世界が感情移入できそう だと思うと、役者が違う場面の役で顔を出して、世界をリセットするというよう な感じでしょうか。登場人物の誰の視点からでも解釈は可能のようです。その群 像も、やはり、じょうろで注ぐ水からわき出してくるのだというような生命力は 、観ている客を元気づけてくれます。
 また、無人塾出身の役者に貫禄が付いてきたような気もします。



ガーデン第八報11/4




 無事千秋楽を迎えたとのことです。11月2日に打ち上げが行われました。渡 辺えり子は、さすがに疲れ切ったようすでしたが、翌日にはサザンシアターで平 田オリザさんとの対談が控えているのだそうです。
(1997/11/2打ち上げ風景)




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