真弓さんの想いでの曲 モーツワルトの悲しみのシンフォニー


音楽が鳴るまでしばらくお待ちください。


【千秋ちゃんの初恋】

まゆは まだ若かった。20数年前「千秋」ちゃんという名前の親友がいた。いつも静かに微笑んでいる優しい女性だった 当時衣料百貨店に勤めていて わたしわ【紳士服】彼女は【アナウンス】所属だった

  綺麗な透きとおる声で店内放送をしていた

同じ職場でいつも一緒だった。
でもある日を境に千秋ちゃんはお昼も帰りもふりむけばもういなかった。不思議に思ってある日尋ねた

どこでランチ食べてるの?? 千秋ちゃんは恥ずかしそうに小さい声でこう云った「好きな人ができたの。そのひとの勤めているサテンでランチを食べているの」一目惚れだと言う

じゃ今日は紹介して!!と私。・・・うん!と頷く千秋ちゃん

会社の近くの喫茶店狭い階段をあがるとそこに千秋ちゃんの好きな人がカウンターのむこうではにかんで笑っていた

そして2人でランチを食べた。バックグラウンドミュウジッックは【モーツワルトの悲しみのシンフォニー】ヘ短調?私にはよくわからない。彼が好きな曲だというレコードを何度も繰り返しかけていた

次の日も、次の日も毎日2人でランチを食べに行った。そこで聞く音楽はいつも【モーツワルト】悲しみのシンフォニー。クラシックなんて縁のない私が始めて目覚めた

  まさに 目からうろこ状態 クラシックもいいもんだと思うようになった。そして千秋ちゃんも彼もシンフォニーも大好きだとおもった。

やがて2人は結婚を意識しはじめるが千秋」ちゃんのご両親が【喫茶店に勤めてるようでは・・・・】と猛反対 愛し合っている2人は駆け落ち同然で同棲。

千秋ちゃんはお店を止めて彼が始めた仕事を手伝うようになり結婚を許されぬまま妊娠。彼の立ち上げた仕事がようやく起動に乗り始めやっと両親から許しを得て入籍にこぎつけた

その時妊娠5ヶ月。やっと幸せを手に入れた。がそれまでのストレスで流産 ときを同じくして彼の仕事が倒産。それからの千秋ちゃんの苦労は見るに耐えられなかった。

それは彼としりあって3年ぐらいだったと記憶している。あまり連絡も取れなくなった。もう私の日常生活には千秋ちゃんは希薄な存在になりつつあった。
そんな頃、ある日の夕昏帰宅した私の目に飛び込んできたのはアパートの階段にポツンと座り込んでいる千秋ちゃんの姿だったそれは12月の寒い日だった

わたしのかおを見るやいなや「待ってたの・・・ず〜と4時間待ってたの」・・・・・そうたたみこむように言った千秋ちゃんの瞳がかすかに潤んでいるように思えた。夕日の中のちあきちゃんはなんだか、はかなげだった。

「何か急用?」能天気なわたしは 「寒いから中に入ってワインでも飲もうひさしぶりじゃん」とうながした「ううん・・まゆたんにちょっとだけ会いたかったの もう遅いから帰るわ」

千秋ちゃんは少しゆっくりと立ち上がり肩を落として歩きはじめた そのとき

なぜか・・・とめなかった・・・なぜか・・・4時間も待っている彼女がうざったかった・・・・なぜか・・・・・・追わなかった・・寒さに震えている千秋ちゃんに同情のかけらすらなく わけもわからず腹立たしかった。あんなに大好きな千秋ちゃんの震えている姿がうとましく思えた

その弱弱しい後姿が・・・・みじめったらしかった。千秋ちゃんの苦労が悔しかった まるで自分の貧困時代の幼少の頃が重なって見えて辛かった。

夜遅くまで働いていた父と母の帰りを古いアパートの階段に座って空腹で待ちつずけていた貧乏時代の自分がそこにあったような錯覚がした。はりついて忘れることのできないトラウマが

一瞬脳裏を横切ったからか?

それとも、そのころの私はキラキラ輝いていたからなのか 素敵な彼もいた。千秋ちゃんよりは派手で明るいお友達が沢山出来ていた。ダンスホールに入りびたりで、踊ること、 遊ぶことが楽しくて仕方ない年頃だった。彼女が波乱万丈の人生を生き抜いているときに私ときたらいつの間にか、優しさのかけらをどこかに置き去りにし生きてきたのだ

それから2日たった夕方千秋ちゃんのお母さんから電話があった。受話器のむこうでお母さんが「今まで仲良くしてくださって有難う御座いました」だんだんその声が嗚咽に変わった




                  千秋が死にました




お母さんは言葉を失くし ただただ ないていた。




呆然と立ちすくむ私の頭の中で なんてことだ!!あの時千秋ちゃんは最後のお別れに来たのだ・・・千秋ちゃんは感じていたのだ・・・・命の灯火が消える日が近いということ。

最後の力を振り絞って私に会いに来たのだ。一目合いたかったのだどうしても私に会いたかったのだ。たとえ私ががその日外泊したとしても 彼女は待ちつつずける覚悟でそのまま私の部屋の前で息耐えてもいい・・・・そんな覚悟で会いに来てくれたのだ。


それなのに・・・・・・


  なぜあのとき 追いかけて!引きとめて!何故あの日その冷たくなってなおも待っててくれたあのひとを優しく抱きしめて「有難う待たしてごめんね」と一言!冷え切った身体を、消え入りそうな心を温めてあげれなかったのか!!

後悔してもしても、もう遅い 悔恨の念が胸を締め付ける。あの日のちあきちゃんのスカートの模様が季節はずれの向日葵。そうね。そして季節はずれの少し色あせたスカートこそが 彼女の貧困を物言わずとして饒舌に物語っていたのだ。

あのひとは悲しかったのか。


   それでも

少しだけ幸せだったのか?たった2年の好きな人との生活【千秋ちゃんの初恋】
天使になったあなたには、もうわたしの声は届くはずもない。少しだけ幸せだったんだよね。そう思うことにしている。私がそう信じることが、千秋ちゃんえの 許してね の気持ち。

あの 階段を上がって窓辺に座り昼ランチ2つ。千秋ちゃんと彼のおのろけ聞く私。ほのぼのとした時間に彼の好きだったモーツワルト。LPレコードが2回転する前には店を出て・・・

それが最高に楽しかったあのときの2人

千秋ちゃんはあの時の薄情な私を決して恨んではいない。そう確信できる そんな女性なのだ いつも静かに微笑んでいるそんな穏やかな女性だったから。今もきっと微笑んでいる。私に微笑みかけている。天使になって。

悲しみのシンフォニーは私の心の中でいつでも、そしてこれからも何億光年も向こうで星になった千秋ちゃんに捧げる鎮魂歌なのです。