フルーティストを斬る
過去20年にわたって聞いてきたフルーティストの独断と偏聴による感想
順不同、いずれも敬称略。

ジャン・ピエール・ランパル
 言わずと知れたフルートの王様。柔らかくて艶やかな響き、素晴らしく切れの良いタンギング、長大なフレージングについては良く言われている。バッハやビバルディ(伝)のフルートソナタの緩叙楽章の豊かさは筆舌に尽くしがたい。私はトリルの鮮やかさにも魅力を感じる。それと、パリバロックアンサンブルを初めとする室内楽での活躍も特筆すべき。個人的には独奏よりアンサンブルの方を好んでいる。とにかくランパルの演奏は心の中に直接ビートを刻み、音色は空間を溶かしてしまう。とにかくあまりに軽々と心に染みる演奏をするので、フルートとは簡単な楽器に違いないと私はだまされた口だ。2000年没。御冥福を祈りたい。
【お勧め】

オーレル・ニコレ
改めて言うほどでもないが、ランパルが陽とすれば、ニコレは陰か。柔らかくてくすんだ響きを持っている。吹き方はそれほどイントネーションや抑揚があるわけではなく、どちらかと言えば、淡々と吹いている感じ。書道に例えると(私にはどうしてもこう例えたくなる)、ランパルが濃い墨(濃い墨は色が輝く)で書いた楷書なのに対し、ニコレは薄い墨(薄い墨は伸びが良い)の行書に見える。この人の演奏は自然という言葉が最もぴったり来る。96年に来日した際には1回のステージでバッハのソナタ全曲を演奏していた。そうとうな歳なので途中でぶっ倒れないかと心配だったがそのタフさにも脱帽。
【お勧め】

セベリノ・ガッゼローニ
 好きだなあ。こういう個性的な人。今では世界的にフルーティストが均一化して、今後はこんな人は出ないのだろうか?音は高音は響きが伸びるのに対し、低音は柔らかいが厚ぼったい。しかし、この人の特徴はfとpの音色の差であろう。フォルテの厚く輝いた音に対し、ピアノは本当に細く柔らかい素朴な音だ。
【お勧め】

ジュリアス・ベーカー
 アメリカを代表するフルーティスト。ふくよかで抜けの良い音。演奏の構成はがっちりしている。昔何かの本で世界3大フルーティストとして、ランパル、ニコレについで、ベーカーが挙げられていた。
【お勧め】

ペーター・ルーカス・グラーフ
 強烈なイントネーションと音の伸びで、ぐいぐい音楽を引っ張っていく。理性的な芸術を感じる。録音はこもった音に聞こえる。本当はもっと違う音かも。
【お勧め】


ウオルフガング・シュルツ
 いわゆる典型的なドイツ系の演奏スタイルと素朴な音。個人的には良くも悪くも演奏が型にはまっているように感じる。
【お勧め】

ミッシェル・デボスト
 不思議な演奏だ。普通フルートは高音から低音へ瞬間的には降りれなくて、瞬間唇を変える間が空くのだが、この人はその間を感じさせない。瞬間的に高音から低音が出る感じ。ピアノみたいにフルートを吹く人だ。それに演奏にあまり抑揚が無い。淡々とした感じ。でもその洒落た感覚は結構嫌いではない。ドビエンヌのソナタはお気に入りだったのに、レコードを買っておかなかったのが悔やまれる。
【お勧め】

マクサンス・ラリュ
テンポは揺れるが、フレーズの最初と最後の辻褄は合っている。音は輝かしい。個性的で流れるような演奏スタイルである。

ポーラ・ロビソン
 とにかく女性と思えないパワフルな音だ。それに良く歌う演奏をする。個人的には好みではない。

ジェームズ・ゴールウェイ
 とにかく、うまい明るい楽しいの3拍子揃っている。楽天的なのか、しくじった本番を2回も見てしまった。ある意味フルーティストのイメージを変えた面もあるかも。

ヨハネス・ワルター
 ドイツ的な演奏スタイルであるが、柔らかくて少し厚ぼったい音。古典的な音に近いのかもしれない。しかし、演奏スタイルは良くも悪くも近代的な洗練さはない。

ウィリアム・ベネット
 何か洗練されたアカデミックな演奏スタイルを感じる。響きは柔らかいが、音そのものは結構剛直で端正。フルートのレスポンスが素晴らしく良く感じる。何か空気がそよとそよいだだけでシュッと切れの良い音が出そうなフルートである。

【お勧め】

アラン・マリオン
 非常にバランスのとれた模範的な演奏である。音に抜けと輝きがある。
パウル・マイゼン
 やはり典型的なドイツ系の演奏スタイルであるが、がっしりした構成、洗練性、それに音楽的な深みを感じる。音に渋さと輝きが同居している。ドイツ系では最も好きな人である。
【お勧め】

クルト・レーデル
 すでに古典派と呼ぶべきか。音は素朴で小さいが響きはある。演奏も素朴で自然なスタイル。モーツアルト協奏曲を持っているが、他のフルーティストと一線を画す別な趣がある。

偉そうに書いてしまいましたが、決して中傷するつもりはありません。自分の中の正直な印象です。これらの感想は、演奏を聞いて逐次書いている訳ではなく、過去にわたって聞いてきた限られた演奏の中で、残った印象を思い出しながら書いています。それだけに、個々の作品によっては、全く違うという感想をもたれる方もいらっしゃると思います。また今はスタイルが変わってしまった演奏家もいるかもしれません。だから、独断と偏聴です。

特に日本の演奏家も含めて、まだまだ多くのフルーティストを知っていますが、まだ自分の中から湧き上ってくる物がありません。そのうち、気が向いたら追補します。

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