フェイは何時だって隊長の隣に居る。
隊長の横に幸せそうにひっついて、いつも笑顔だ。
「テンパチ? どしたの?」
「べ、別に、何でも」
未だにフェイは僕の事を名前で呼んではくれない。
こっちも名前で呼ばせてはもらえない。
「もう直ぐ出撃なのに。顔、暗い」
隊長にひっついたまま、フェイはこちらを覗き込む。
顔が近い。
強い意思を秘めた凛とした目も、きゅっと引き結んだ唇も。
僕のものじゃない。
解っているのに。
不意に無線が入る。
出撃だ。
フェイは隊長から腕を離すと、誰よりも先に立ち上がる。
きっと今日も派手に暴れるんだろう。
最前線に楽しそうに突っ込んでいくフェイは、物凄く危なっかしい。
でも彼女は死なない。
彼女自身が強いから。
それ以上に隊長が守っているから。
……僕だって彼女を守りたい。それくらい、してみせる。
「あ、良い顔になったじゃない、テンパチ」
フェイは嬉しそうに笑うと、すっと右手を上に翳した。
背中にVディスクが出現し、赤い光が彼女を包み込む。
リバースコンバートだ。
Vディスクに記された彼女を守るための装甲と敵を打ち負かす為の武器が、データから
実際ここにあるものとして再構成され、実体化する。
緩やかなカーブを描く双肩をショルダーアーマーが包み込み、控えめで形の良い胸部を
保護するべくハート型のアーマーが覆う。スラリと伸びた足をVアーマーで淡く輝かせな
がら、さらに彼女は宙に手を伸ばした。
その動きに答えるように二つの物が実体化する。フェイは細い指でそれを掴み取ると、
くるりと宙で一回転した。
右手首に封印環「賢者の妄愛」を。左手には実剣「愚者の慈愛」を。
それはフェイがRVR−14フェイ−イェン・ザ・ナイトに変化した瞬間だった。
役目を終え去っていく赤い光を満足げに眺めながら、彼女は地面に降り立つ。
……僕はすっかり見とれてしまっていた。
まるで魔法少女の変身シーンの様な……、いや、少し違う。
僕は、魔法少女のような可愛い、可憐というイメージに加えて、少しだけ色気にも似た
不思議な感覚を感じていたのだ。リバースコンバート中の恍惚とした表情は、僕の中の何
かを激しく揺さぶる。
「ね? 可愛い?」
「あ、あぁ、……うん」
まるで確認するように、変身後必ず彼女は僕に問いかける。
僕はいつも、素直にうんとしか言えない。
その答えを聞いて、彼女は嬉しそうにやわらかく微笑むのだ。
僅かに鼓動を早める僕の心を知ってか知らずか、彼女はその微笑みを僕にくれる。
自信に満ちた彼女の微笑みが、僕の心を揺らす。
フェイの笑顔が眩しい。
もしかしたらこの気持ちは、フェイイェン特有の「エモーショナル・アタック」と呼ば
れるそれのせいなのかもしれない。
そう、思いたい。
でも、そんな気持ちを全部のけても、唯一つ確実に言えることがあった。
――彼女の笑顔が好きだという事。
あの笑顔は激しい戦場の中で特別に愛しく思えるものだった。
どんなに辛くても。どんなに苦しくても。
――いつも僕は、つられて笑顔になってしまうんだ。
僕もVディスクを起動させ、MBV−04−10/80spへと変身する。
フェイの様に華麗でもなく、サイファーの様に特別格好良くもないけど。
変身した僕を見るフェイに、僕は同じように微笑み返した。
「僕は……、大丈夫だよ。……今日も無傷で帰還、そうだよね?」
「当然よ。私達は無敗の独立小隊カルディアだもの!」
「……エピカ、エイヤ、行くぞッ!」
隊長の一言で、皆の顔つきが変わり、そして僕達は戦場へ向かう。
「エイヤ、戻ったらパフェ食いにいこうぜ?」
「了解。僕はチョコがいいな」
アファームドBを駆るガルと約束を交わし、僕は持ち場に着く。
目の前に居る敵は五機。DNAの調査隊だ。
今日も皆無事に、戻れるように。
ランチャーを握り締め、意識を集中させる。
いける。今日は調子が良い。
なんの合図も無く、ピンク色の光が爆ぜる。
慌て混乱する敵達のど真ん中に、……彼女は居た。
「また突っ込んでいったんだ、もう」
その光を合図に、一斉に仲間達が動き出す。
閃光。轟音。空気を裂く音。
さぁ、戦いの始まりだ。
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