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(09.09.07更新)


・『心に刻まれるモノ』

 

「……ようやくみつけたぞ、こぉのバカ」
 俺のバカ弟子が姿を消して半日。
 基地のあちこちを探し回って、日が暮れる頃になって俺はようやくこいつを発見した。
 基地の屋上、いつもの練習場所だった。

「……っ! っく、た、大尉っ!?」

 うずくまっていたバカが、俺の声を聞いてビクリと跳ね上がる。
 あーあー、んだよ、目を真っ赤にして。
 泣きはらして、顔がぐっしゃぐしゃじゃねえか。
「大尉っ!? じゃねぇよ。お前、負けたって一言いって、どこに行ったかと思ったら……
ったく」
 今日はこいつの初陣だった。
 初めて戦場に行ったこいつは、戦場の空気に押されて完全に縮みあがっていた。
 さらに、運がいいのか悪いのか、戦争公司がこいつの戦闘シーンを偶然にも撮影し始め
た事が、さらにこいつを混乱を加速させた。
 普通はこんな下っ端の戦いを中継する筈もないんだが、全く、何を思ったのか、だ。
 まぁ、そんなこんなもあって結果は惨敗。
 こいつは見事に『殺されて』帰ってきたのだった。
「気にすんなよ。誰もお前なんか覚えちゃいねぇし、見てねえよ」
「……っ」
 蹲って座り込むこいつの隣に、だらりと腰かける。
 夕暮れの赤い日が海岸と海面とを見事な程紅に染め上げていた。

 さわさわと、海風が撫でていく。

「大尉、私、無様でした。それが、すごく、悔しいんです」
「ふぅん?」
「敵が目の前にきて、何がどうしたらいいのか、全然わからなくって、今なら、こう動い
たらって解るのに……!」
「……んだよ、勝てるって思ってたのか?」
「……っ、そういう訳じゃ」
「……ん? じゃあなんだよ」

「……一撃もいれられなかったのが、つらいんです。こんなに、たくさん練習して、たく
さん教えてもらったのに、全然生かせなかったし、何も、出来なかったんです」
 
 肩を震わせながら、膝を抱えて。
 ……でも別に『死んだ』目をしてる訳じゃなかった。
 なるほどな。
 本気で『悔しかった』んだなこいつ。
「よくある事だって」
 あぁ、そういうこともあったなぁ、と、自分の昔を思い出す。
 そうか、俺の昔通った道を、こいつもあるいてやがんだなって、そう思った。
「みんな通ってきた道だから、気にすんなって」
「……はい」
「まぁ、俺も、そういう経験はいっぱいある。戦いたくなくなった事もあるぜ?」
「……えっ!?」
 んだよ、んなに意外かよ。
 俺だって中身は『人間』だ。こいつめ。
 そりゃ公式の成績はほぼ無敗だが、それ以外も含めたらいくらでも負けくらいでてくる
がな。言わないけど。
「だから気にすんなって。知らなかったから殺されただけだろ。だったら今から理解すれ
ばいい」
「……は゛いっ」
 あーもう。
 手間がかかるな、弟子ってのは。
 めんどくせえ。

 でも、わるかねぇな、とも思う。

「大尉、……今日だけは、へこんでていいですか?」
 涙いっぱいにして、こっちをむいて。
「あー、へこんどけ」
 ……あぁもう、涙ぼろぼろ零しやがって。
 いつもは無駄に強気なくせに。こいつ。

 わしゃわしゃ、と思わず頭をなでる。

「ひうっ、大尉っ!?」
「……お前は頑張ったよ」
「……はいっ」

 今はそうやって泣いとけ。
 そうやって強くなれ。
 お前が後ろを見ない限り、『死んだ』事にはならないんだ。


 あー。こいつ見てると変に現場復帰したくなってくる。
 今更戻るのもなー。
 ……まぁ、戻ってもいいかもしれん。
 こいつに何かを見せられるかもしれない。


「た、大尉、あ、あのっ」
「あ?」
 顔真っ赤にして、んだよ、なでられてほっとしたか?

「私……頑張ります。次はもっと、いい戦いになるように」
「おう」

 結局こいつも、好きでVRになったバカだったんだな、と思った。

「頑張れよ、コラル」
「……はいっ、ジン大尉」

 さーて、次は何を教えようか。
 案外、教えるってのも、わるくねえよな。





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