その時、男は酷くボロボロの状態だった。
ウォーターフロント。
そこは国際戦争公司によって最近になって急遽補充された新しい戦闘用地で、人の住ま
なくなった海辺の都市、つまりはゴーストタウンを利用した戦闘用地だった。
現在、深夜の一時。
海側は流石に真っ暗だったが、廃墟となったビル群は今でも都市維持機能が健在のお陰
で明かりに満ちていた。これが戦闘中でなければ、美しい夜景をゆっくり観賞する事もで
きたかも知れない。
だが、そんな鮮やかな光景とは真逆に、現状は最悪の状態だった。
「まさか、……五体も居たとはな」
組織(RNA)から言い渡された極秘の単独任務。
それは速やかに、秘密裏に行われる筈だった。
だが。
男はその事態を予想はしていなかった訳ではなかった。
目的のディスクを手に入れ、帰路につこうとしたその時に事は起きたのだ。
「よくこの隠し場所に気付いたな、RNA。だが、そのディスクを持って行かれては困る
んだよ!」
人の目を避ける様に、倉庫に似た建物の中に作られたラボ。そこに侵入していた男を見
つけたのはDNAの巡回部隊だった。
その数五体、指揮官のテムジン一体に、グリス・ボックが二体。そして10/80が二
体だ。
「……ッ!!」
男は無言のまま即座にVディスクを起動させる。それと同時に、指揮官と思われるテム
ジンが手を翳し声を張った。
「捕らえろっ! 生死は問わないっ!」
ハッキリとした明るい声。それを合図に10/80二体が一斉に飛び掛かる。
瞬間、ボムの爆風と青いレーザーがラボを貫いた。突然走った閃光に、テムジンは声を
あげた。
「なっ……、こいつ、ライデンだと!?」
希少な機体であるライデンが、味方も連れずに単機で来るなどそうそうありえない事だ
った。驚く指揮官の目の前で、ぎゃああと悲痛な悲鳴が響きわたる。飛び掛った10/8
0がレーザーの直撃を受けたのだった。一体は膝をつき、もう一体はその直撃を受けてそ
のまま崩れ落ちていく。
「なんて事だっ……!」
慌ててライデンを目で追う。だが、指揮官のテムジンが光の発生源を確認した時には、
もうそこにライデンの姿は無かった。
「レーザーの走った後を素早く抜けたか……。外だっ! 絶対に逃がすなっ!!」
テムジンはすぐさま部下に指示を出すと、天井が崩れ半壊したラボから上を見上げる。
夜空には無数の星と醒めるような光を放つ丸い月。
「……ライデンか、相手に不足は無いっ!」
愛用のニュートラル・ランチャーを握り締め、指揮官は夜景の戦場へと躍り出た。
夜の戦場に響く、ミサイルの着弾音とボムの爆発音。
そこからは美しい夜景をバックに、壮絶な戦闘が繰り広げられる事となった。
だが、その戦いはDNAの指揮官の予想に反して一方的な展開となっていた。DNA側
のVRは、一体、また一体とライデンのレーザーの前に沈められていったのだ。
「……あいつ。流石はライデン、いや、単機で乗り込んでくるだけあるという事か」
たった一人の侵入者など何の問題も無いと思っていたのに。
後方で指揮していたテムジンの表情はどんどんと険しくなっていった。
次々とVRを落していく黒いライデン。その動きは明らかに通常のライデンとは異なっ
ていた。
正確な射撃、牽制、そして絶妙のタイミングで放たれる必殺のレーザー。
まるで部下達の癖を読みきっているかの様な攻撃と回避は予想外の動きだった。
だが、ライデンの方も無傷ではない筈だった。
グリス・ボック二体と10/80を一度に相手にしている上に、彼らは集団戦闘に長け
た優秀な部下達なのだ。10/80の中距離の攻撃を、そしてグリス・ボック二体による
雨の如く降り注ぐミサイルを確実に何発かは食らっている筈なのだ。
だが、いくら攻撃を打ち込んでも、ライデンの動きが鈍る気配は無い。
(俺の部隊は決して弱くはないっ、幾度も戦果を上げてきた部隊なんだぞ……!?)
テムジンは目の前の光景が未だ信じられず、ぎりぎりと奥歯を鳴らした。
――まさか、五分もしないうちに自分を含めて残り二体になるとは。
「グリス1、俺も戦闘に加わる! ココからは二人行く!」
「了解!」
後方で待機していた指揮官が動くのを見て、ライデンは紅く光るバイザーの奥で眉を寄
せた。
「……、指揮官のおでましか、流石にこれ以上は……!!」
戦闘開始から一度も緩まない攻撃に、ライデンは深く息を吐いた。
テムジンの目からは驚異的、そして余裕で戦っている様に映ったライデンだったが、ラ
イデンの側からすればそれはぎりぎりの戦いだった。
10/80の小刻みな攻撃と、グリス・ボックのミサイルとナパームをコレでもかと打
ち込まれ、丈夫さには自信があるライデンの体もさすがに悲鳴を上げ始めていた。
どういう訳かリバースコンバートしたライデンの体は痛みをさほど感じない。痛覚の異
常、これはいつもの事だったが、それがあだとなり少々まずい事になっていた。
さきほど仕留めたグリス・ボックが死の間際に放ったミサイル。それがダメージを負っ
た右腕を直撃、結果、右腕が使い物にならない状態になっていたのだった。
痛みが無い故に、動かなくなって初めてその事に気付く。
それは痛みを無視して動けるという利点の代償だった。
じわりと背中に嫌な汗が流れる。
(上からは『敵として現れた全てのVRを消してこい』と言われているが……っ!)
ライデンはボムをほうり投げ牽制し、一気にダッシュする。そしてテムジンとグリス・
ボックが重なった瞬間を見計らって、肩のフラグメント・クローを展開させた。
鮮やかな青い光が夜のウォーターフロントを走り、迫り来る二体の周りをぐるりと取り
囲んだ。
「くっ、ネットレーザーかっ!!」
テムジンはとっさの判断でレーザーをかわしたが、レーザーに囲まれ動きがとれない状
態に、一方のグリス・ボックは網にひっかかり見事に空中でしびれている状態だ。
その隙にライデンは戦闘の影響で崩れた廃墟群へと身を滑り込ませる。
「……逃がすかっ!!」
緑の瞳に闘志を燃やし、ネットレーザーが消えた瞬間にテムジンは走り出した。
「……」
戦闘に巻き込まれて、美しい夜景は無残な廃墟へと変化していた。
夜空に輝く月明かりに照らされぬ様に、ライデンは天井の抜けた崩れかけの建物に身を
潜め、やっとの思いで一息ついた。
「……確かにこの任務、誰も引き受けたがらなかった訳だ」
状況を脳内で軽く整理して、ライデンは首を振る。
強力な指揮官機に、優秀な部下。
そんな者達が警護する場所になど、そうそう誰も行きたがりはしないものだ。
RNAの戦士達は基本的に『戦闘好き』の者で構成されていて、誰しもが意欲的に上を
目指す戦意の高い集団だった。しかし極端にリスクの高い任務は、敬遠される事もあった。
こういった任務をこなせる優秀な部隊はどこからもひっぱりだこで手が空かず、今回の
任務はおそらくぎりぎりまで放っておかれたのだろう。
だが、それも限度まできたのか。
何処の部隊にも属せず、正式にRNAの戦士とも認められていない自分に突然言い渡さ
れた任務とその報酬。『この任務を成功させた暁には、正式にRNAの所属戦士と認め、
それに応じた称号も与える』、それは今のライデンにとって願っても無い事だった。
RNAの戦士として認められれば、この未曾有の戦役、『オラトリオ・タングラム』の
より深い部分へ踏み込むことが出来る。
――目的に近づく事が出来る。
全く動かなくなった右手を横目で見ながら、ライデンは眉間に皺を寄せた。
(……何があってもこの任務を遂げなければならないんだ)
視線を鋭くし、崩れた建物から外を窺おうとした、
その時だった。
「あなた、一人なの? 強いのね」
鈴を転がすような愛らしい声にぎょっとなり、ライデンは慌てて後ろを振り返った。
「――ッ!?」
「こんばんは。右手、痛くないの? 痛そう」
ライデンの後ろに居たのは、戦場に似つかわしくない――可憐な少女の姿だった。
意思の強そうな凛とした赤い瞳、特徴的な紫色のツインテール、華奢な腕に、すらりと
伸びた足。体にフィットした装甲に身を包み、ふわりしたミニスカートを夜風に揺らしな
がら、少女はライデンの真後ろにぺたんと座り込んでいたのだ。
(いつの間にッ!?)
背後に居た事に全く気付かなかった。
月明かりに照らされた少女は、いつの間にかそこに居たのだ。
「RNAの……フェイ−イェン、か?」
胸の装甲には大きく目玉の模様が描かれている。
これはRNAの所属である事を示すものだ。
驚くライデンと対照的に、少女はライデンの右腕を気にしてただただ心配している様子
だった。
(な、何だ?)
ライデンは戸惑っていた。
誰がどう見ても戦闘中だというのに、この少女は敵機を把握するためのバイザーも身に
つけず、その上緊張感も全く感じられないのだ。
妙な表情になっているライデンを見て、少女はにこりと笑ってみせる。
その笑顔は、明るいただ純粋な笑顔に見えた。
「えぇ、そうよ。見ての通り、フェイ−イェン・ザ・ナイトよ。あなたはライデン? あ
ぁ、RNAだからライデンUが正式だっけ」
「あ、あぁ……」
極秘の単独任務だ。救援が来るはずも無い。
その上、フェイ−イェンといえばライデンと並ぶ希少機体だ。
そんなものが助けに来る筈が無いのだ。なのに。
「作戦の帰り道にね、光が見えたから。気になってちょっと隊から抜けて来てみたの」
まるでピクニックにでも来たかの様な気軽さで、少女はにこりと笑う。
「……」
「……ん? なぁに?」
笑顔のまま、フェイ−イェンはライデンに向かって首を傾げる。
「い、いや、なんでも」
見とれていた。
なんて言える筈も無い。
今は戦闘中で、しかも指揮官クラスを相手に戦っている最中なのだ。
それなのに、今まで張り詰めていた空気が一瞬にして溶けてしまったのだ。
見とれた理由は解らない。ただ呆れていただけかもしれない。
ライデンは慌てて目を逸らし改めて外へ警戒の目を向けるが、意識は散漫だ。
「遊びじゃないんだ。帰れ。こっちは単独任務だ、それに見ての通り戦闘中だ」
「それぐらい解ってるわよ。馬鹿じゃないわよ、私」
少女は笑顔から一転して、頬を膨らませ眉を吊り上げ語気を荒げた。
「私の部隊はフリーダムなの。上だって何しても文句言わないわよ?」
「――そういう問題じゃない。誰の力も借りるつもりはない。帰れ」
「ふーん……。何が目的? 何の為に戦ってるの? お金でも名誉でもなさそう」
「……関係ないだろう」
「だって私、あなたに興味があるもの」
「……何?」
予想外の少女の答えに、思わずライデンは振り向いてしまう。
「だってあなた、一人で三体、五分でやっつけたわ。十分に強いわよ」
「……見ていたのか?」
自分を見張っている観察員だったのか、ライデンは一瞬そう思ったりもしたが、それだ
ったらこうやって姿を見せる筈が無い。
「あいつらね、『強い』ってここらへんじゃ結構有名な部隊よ? ココをずっとガードし
てたみたいね。指揮官は直情傾向のおばかさんらしいけど、伊達に指揮官やってるわけじ
ゃないみたいで、やっぱり強いのよ?」
再び外を警戒しながら、勝手に話す少女の話を聞く。
どうやらかなり情報を持っているらしく、そして詳しい。
「ね、どうして単独なの?」
「……俺は正式なRNAの戦士じゃない」
「そなの? 見た目、完全にRNAじゃない」
ライデンは黒とオレンジのRNAカラーの装甲を身につけていた。その上、あの目玉の
マークもちゃんと左足に刻印されている。
ライデンはピクリと眉を動かすとそのまま黙り込んだ。
「……ワケありなの?」
「……」
「あ、解った。もしかしてコレが入隊の試験なの? だからあんな無茶してたとか」
「……外れてはいないな」
「なるほどね、ふむふむ」
少女は何を納得したのか、首を上下に動かしてにんまりと笑った。
そしてとんでもない事を言ってのけたのだった。
「このままじゃ、流石に負けちゃうわよ? 二対一で、その怪我だもの。ね、私にあのテ
ムジン、ちょっとだけ任せてみない? 大丈夫、とどめはあなたがさせばいいわ。試験な
んでしょ? 特別に譲ってあげる」
笑顔で話す少女の一言に、さすがのライデンも呆れて口が塞がらない。
「……なっ?! 今お前、人の話聞いてたか? それに自分であのテムジンは指揮官で相当
強いと言ってただろうがッ! 何無茶を……ッ」
「馬鹿にしないで、私これでも……、っ!! 跳んでっ! ……来る!!」
不意に少女の目が真剣な物に変わり、その瞬間フェイ−イェンはトンと軽やかに宙に舞
った。
(速い!)
フェイ−イェンは軽量機体ではあるが、それ以上にこの少女は敵に対する反応速度が速
い。
ライデンが跳ぼうとした時には既に回避できる状態ではなく、ライデンを狙うミサイル
は着弾した後だった。
「見つけたぞライデン! ……って、何だとっ!?」
ようやくライデンを見つけブリッツセイバーを振りかざしたテムジンの目の前に居たの
は、ツインテールの少女の姿だった。突然現れた完全に予想外の存在に、テムジンは目を
見開いた。
「やほう。こんにちは指揮官のテムジンさん。あ、こんばんは、だ。間違えた」
完全に緊張感の無いその言葉に、テムジンは一瞬動きが固まる。だが直ぐに表情を元に
もどすと、改めてブリッツセイバーを構え直した。
「フェイ……イェンだと!? 隠れていたのかっ!!」
フェイ−イェンは遊んでいるかのように崩れた廃墟を足場に飛び回り、テムジンの刃を
確実にかわしていく。距離を取られたテムジンはセイバーからランチャーに切り替え、そ
の銃口をフェイ−イェンに向けた。
「やだもう、連続で打たないでよ! あたっちゃうじゃないっ!」
「馬鹿かお前は! 当てにいってんだよ!」
だが、その弾はフェイ−イェンにあたりはしなかった。
中距離で打ち込まれるランチャーの弾を綺麗に避けて、フェイ−イェンは眼下のライデ
ンに叫んだ。
「グリスは任せたわよー! 早めに片付けてね! ほんのちょっと、お手伝いしてあげる
だけなんだからっ!」
「手伝いだと!? なめるな、娘ーっ!!」
「うっるさいわね、これでもくらえっ!」
「ってぇ! 何すんだよ!」
「馬鹿はおとなしく負けなさいっ!」
ピンクの弾が宙を走り、ソードカッターがそれを打ち消す。
そして頭上で聞こえるくだらない言い争いに、ライデンは首を振った。
「……馬鹿馬鹿しいっ、くそ、こんな戦い、早く終わらせてやるッ!!」
ミサイルを食らい、装甲が半分剥がれた姿でライデンは視線を走らせた。
右前方で、グリス・ボックがショルダーランチャーを展開しているところだった。
「馬鹿め、遅いッ!!!」
ライデンは重い筈のその機体で一気にグリス・ボックの脇に回り込むと、両足を踏ん張
り紅い目を見開いた。
肩のレーザーユニットのバイナリーロータスを展開させ、そこから放たれた青い光が真
っ直ぐにグリス・ボックを貫く。
「倒したぞフェイ−イェン! これでいいだろ……んっ!?」
フェイ−イェンに目を向けた瞬間、ライデンはまた目を見開く事になった。
真横からフェイ−イェンが吹っ飛んできたのだ。
「きゃうっ!!」
「!!」
飛んできたフェイ−イェンを左腕一本で受け止め、ライデンはまずその場を離れた。
「お前、……ッ!?」
抱えたフェイ−イェンの背中には、真っ直ぐ斬りつけられた跡があり、赤い血がじわり
と滲み出していた。
「いたた……あのテムジン早っ」
「まさか、お前、近接やったんじゃないだろうな」
「戦闘っていえば近接でしょ? 違う?」
「……背中にでかい傷作って、何を平然と」
フェイイェンは近接にはむかない軽量機体だ。
どちらかといえば、遠距離からの攻撃と支援が一番あっている機体なのだ。
この様子だと自ら近接を仕掛けていったのか、それとも仕掛けられて逃げる事なく挑ん
でいったのか。
腕の中の少女は苦痛に震えている様だったが、その瞳には戦意を喪失している様子は全
く見られなかった。抱えられ移動しながら、その目は確実にテムジンを追っているのだっ
た。
見れば、テムジンも地面に落ち、今正に起き上がろうとしている所だった。
「……なるほど、打ち合ったのか」
ライデンは左腕に抱えた少女の評価を少し改めた。
そして少女を降ろすと視線をテムジンへと向けた。
「正直助かった。だがここからは俺がやる」
「そうね。それにあと一撃できっとあいつ沈むから」
「一撃、か」
「あなた、結構素敵よ? だから、格好よく決めてね」
突然の言葉に、ライデンは思いもよらず固まった。
普段なら聞き流しそうなその言葉に、ライデンの心臓が大きく脈打ったのだ。
女に素敵だと言われて嫌な男はいない。
だが、こんな風になるとは――
(気に、なっているのか? 俺は)
ゆっくりと視線を少女に向ける。
少女は凛とした瞳で、真っ直ぐに笑いかけていた。
おそらくは、本心からその言葉を放ったのだろう。
予想もしないほど、真っ直ぐな心で。
「……焼ききってやる、見てろ」
妙に多弁になっている自分も可笑しかった。
そして、自分も一撃食らえば沈むかも知れない状況だというのに、妙に気分がいい。
集中力が上がる。
ライデンはこちらへ走ってくるテムジンに向かって視線を向けた。テムジンは相当頭に
きているらしく、その動きは鋭さを増していた。
「しねぇええええっ!!」
幾つかのエネルギー弾とソードカッターを放ち、テムジンは一気に間合いを詰める。
「くらええっ!」
近接に持ち込まれる。
そう思いライデンは身構えたが、その予想は外れだった。
ガードの姿勢をとるライデンにテムジンはニヤリと笑う。
「この距離ではかわせまいっ!」
テムジンの持っていたランチャーが変化し、その姿を変える。
「サーフィンラム!」
至近距離でそれは放たれた。
食らえば即死。避ける事も出来ない。
だが、ライデンの赤い瞳は死んでは居なかった。
「うおおおおおおおおっ!」
テムジンが突っ込むと同時に、ライデンの体から光が溢れる。
きらきらとVアーマーが砕け散り、装甲が剥がれ落ちていく。
「アーマーブレイク!?」
アーマーブレイクは体力とVアーマーとを引き換えに全VR中最速の速度を得る事がで
きるライデン特有の特殊な技だ。アーマーブレイク直後は、一瞬ではあるがあらゆる攻撃
を弾いてしまうほどのエネルギーが発っせられる。つまり、ライデンは瞬間的に無敵状態
になる事ができるのだった。
ライデンはその僅かな無敵時間を利用し、命をつなげ、そしてその身をテムジンに向け
て翻らせた。
「焼けろおおおおおおおっ!」
硬直中のテムジンの背後から青い光が発せられる。
それは必殺のレーザーだった。
「!!!!!!」
背中からレーザーの直撃をうけ、テムジンは一気に海上へとふっとばされた。
「……っ、やったか?」
体力を失い装甲は90%崩壊、ほぼ何も着ていない状態になったライデンは、その場に膝
をつき海上を見つめた。
テムジンはやれたのか。
焼ききったのか、沈んだのか。
テムジンの姿は目視では確認できなかった。だがレーザーの直撃だ。おそらは生きては
いないだろう。
「うわ……、あなた……すごいのね。きっと確実に採用ね。おめでと。仲間だね」
少女の声にはっとなり、ライデンは慌てて振り返った。
だが。
そこにはもう誰もおらず、ただ、廃墟の瓦礫が転がるのみだった。
「……、なんだったんだ、……あれは」
月明かりに照らされ、ライデンはその場に座り込んだ。
それから一週間後、ライデンは正式にRNAに採用され、ある部隊に配属される事とな
る。
独立部隊カルディア。
そこでライデンはあの少女と再会を果たす事になるのだった。
―――
「で、そっからがすごいのよ! あのライデン、アーマーブレイクで危機回避、んでレー
ザーで勝っちゃったんだから! でね、でね……!」
移動艦に帰ってきたエピカは興奮状態だった。
やたら心配していたあいつの気持ちなんか全く無視だ。
流石は姫君。わがままというか、ゴーイングマイウェイというか。
アルシオンの奴もアレだよな。報われないというか。なんというか。
「わかったわかった、だからといって指揮官クラスに突っ込むなどどうかしている! 無
茶して傷作って、戦えない状態で帰ってきて良いわけがないだろう!」
「アルシオン、冷たい」
「そういう問題じゃない!」
「強くって、何よりかっこよかったんだから! あのライデン。もうね、絶対欲しい」
「な、欲しい!?」
あーあー、アルシオンの奴、声が裏返ってやがる。
俺様はまぁ、どうでもいいんだがな。
「ね、ノイ。私ちょっと上に掛け合ってくる」
「エピカの自由にすればいいさ。俺様は反対しない」
「ね、アルシオンも良いでしょ? 良いと思うでしょ?」
「俺は……!」
あー、あいつ。反対っていえねぇンだよな。
今、この部隊に早急に必要なのは並みならぬ強いやつだ。
じゃなきゃ、エピカが死んじまう。
それは俺様も困る。
「アルシオン、だめ?」
あ、でた。
エピカの無意識上目使い。
そんなに見つめてやるなよ。あいつが首を縦にふるぜ?
「……好きにしたら良いだろ。この隊の長はお前だ」
「……長? やだ、そんな例え! 私がおじいさんみたいじゃない!」
あーあー、アルシオンの奴、また変な方向に怒らせた。
全く。うちの姫君は何処で火がつくか全く予想がつかない。
……噂のライデンはエピカをどう扱うのだろうか。
まぁ、それ次第では俺様がそのライデンを処分すりゃいいだけだけどな。
東の空が明るくなってきた。
さて、エピカも戻ってきたし、俺様は寝るぜ。
「アルシオン、俺は寝るからな」
「俺だって寝たいんだ!」
「ふぁあ、あたしも寝る。背中痛い」
「お前はさっさと治療カプセルに行ってこい!」
あぁ、アルシオンのやつ、半ギレだ。
心配しすぎなんだよあいつは。
「んふふ、楽しみね。また仲間が増やせそう」
姫君はご機嫌だ。
さて、俺様はゆっくりと休む事にしようかな。
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