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(08.10.21更新)


・『フェイとライデンの休日』

 

 部屋の中は二人きり。
 束の間の休日。この時間は私の大好きな時間なの。
 彼と私だけの、特別な時間。
 彼はふかふかの絨毯の上で壁を背に本を読む。私はその隣で寝転がる。
 コレがいつもの休日の過ごし方。
 そしてそれが、私にとって特別大事な時間なのよ。

「ね。エルン」
「なんだ?」


 エルンスト――二人で居る時だけ呼ぶ彼の名前。
 そうやって呼んでい良いのは私だけ。
 私だけの特権よ。

「……、なんだ?」

 ふふん、私が何も言わないから、本を読むのを止めて不思議そうに私を見てるわ。
 うん、私の事、ちゃんと見てるわね。
 ちょっと満足。
 
「別に。呼んでみただけなのよ?」
「……そうか」

 適当に返事をして、エルンはまた本に目を戻す。

 ……。
 …………。

 ね、エルン、気付いてる?
 本を読み出して十五分。
 アナタ、十五分も私を放置してるのよ?

「エルン」
「なんだ?」

 彼は本から目を離して、今度は直ぐに私を見るの。
 満足満足。
 今は見てて欲しい気分なの。
 贅沢は言わないわ。
 ただ見ていて欲しいのよ。

「……、そうか。わかった」

 不意に彼は絨毯の上に本を置くと、すっと手を伸ばして……

「!」

 ヒョイと持ち上げられて、エルンの足の上にのせられる。
 何それ! 不意打ち!?
 ちょ! やだ! 突然乗せるのは無しよ!
 恥ずかしいじゃないっ!

「……これでいいか?」
「……バカ」

 ほんとバカ。
 今日は贅沢言わないって決めてたのに。

 ……甘えたくなるじゃない。


「エピカリス」


 不意に彼が私の名前を呼ぶ。

 胸がどきどきする。
 エルンの低い声が、私の名前を呼んでる。
 ただそれだけで、胸の鼓動が早くなるの。

「な、何?」

 顔を上げると、彼は私をじっと見て……
 ちょ! こっちじっと見ないでよ!
 私が見るのは良いけど、見られるのは困るの!!

 あ、あれ?
 さっきまで見て欲しかったのに、あれ、あれ!?

「……くくっ、どうした?」
「う、うるさいわねっ! 乙女の都合なの!」

 何よ肩震わせて楽しそうに笑って!
 許せないんだから!

「もうっ、今日はずっとこの上に居てやるんだから!」
「はいはい。ご自由に」

 いつもの休日。
 二人だけの時間。

 誰も知らないアナタと私がいる空間。

 大好き。大好きなの。


 私を乗せたまま再び本を手にとり、彼はまた本を読み出す。
 ……なんだか気に入らないわね。
 邪魔してやるんだからっ!

「な、何する!?」
「だめっ! 本は返さないんだからっ!」

 そっちが悪いんだからね、今日はずっと邪魔してやるんだから!
 今日は本を読めないと思いなさい!
 残念だったわね!



 ふん! ……大好き。
 大好きなのよ。バカ。



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