部屋の中は二人きり。
束の間の休日。この時間は私の大好きな時間なの。
彼と私だけの、特別な時間。
彼はふかふかの絨毯の上で壁を背に本を読む。私はその隣で寝転がる。
コレがいつもの休日の過ごし方。
そしてそれが、私にとって特別大事な時間なのよ。
「ね。エルン」
「なんだ?」
エルンスト――二人で居る時だけ呼ぶ彼の名前。
そうやって呼んでい良いのは私だけ。
私だけの特権よ。
「……、なんだ?」
ふふん、私が何も言わないから、本を読むのを止めて不思議そうに私を見てるわ。
うん、私の事、ちゃんと見てるわね。
ちょっと満足。
「別に。呼んでみただけなのよ?」
「……そうか」
適当に返事をして、エルンはまた本に目を戻す。
……。
…………。
ね、エルン、気付いてる?
本を読み出して十五分。
アナタ、十五分も私を放置してるのよ?
「エルン」
「なんだ?」
彼は本から目を離して、今度は直ぐに私を見るの。
満足満足。
今は見てて欲しい気分なの。
贅沢は言わないわ。
ただ見ていて欲しいのよ。
「……、そうか。わかった」
不意に彼は絨毯の上に本を置くと、すっと手を伸ばして……
「!」
ヒョイと持ち上げられて、エルンの足の上にのせられる。
何それ! 不意打ち!?
ちょ! やだ! 突然乗せるのは無しよ!
恥ずかしいじゃないっ!
「……これでいいか?」
「……バカ」
ほんとバカ。
今日は贅沢言わないって決めてたのに。
……甘えたくなるじゃない。
「エピカリス」
不意に彼が私の名前を呼ぶ。
胸がどきどきする。
エルンの低い声が、私の名前を呼んでる。
ただそれだけで、胸の鼓動が早くなるの。
「な、何?」
顔を上げると、彼は私をじっと見て……
ちょ! こっちじっと見ないでよ!
私が見るのは良いけど、見られるのは困るの!!
あ、あれ?
さっきまで見て欲しかったのに、あれ、あれ!?
「……くくっ、どうした?」
「う、うるさいわねっ! 乙女の都合なの!」
何よ肩震わせて楽しそうに笑って!
許せないんだから!
「もうっ、今日はずっとこの上に居てやるんだから!」
「はいはい。ご自由に」
いつもの休日。
二人だけの時間。
誰も知らないアナタと私がいる空間。
大好き。大好きなの。
私を乗せたまま再び本を手にとり、彼はまた本を読み出す。
……なんだか気に入らないわね。
邪魔してやるんだからっ!
「な、何する!?」
「だめっ! 本は返さないんだからっ!」
そっちが悪いんだからね、今日はずっと邪魔してやるんだから!
今日は本を読めないと思いなさい!
残念だったわね!
ふん! ……大好き。
大好きなのよ。バカ。
|