今日は基地がお休みです。
先日の大きな作戦が成功したからだそうです。
だから、今日はパイロットも整備の人も基地の中には居ません。
トガ一人を除いては。
「ったく……、それ、本気で言ってるのかよ」
『ほ、本気だよ』
私の言葉に、トガはめんどくさそうにため息をつきます。
少し考えた後、彼は小さく舌打ちをして、「まぁ、俺が言い出した事だからなぁ」と、
つぶやきました。
『え、じゃあ私のお願……』
「うるせぇ、黙ってろ」
『えへへ、嬉しい』
「ったく、めんどくせぇ事言いやがって」
トガは頭をぼりぼりと掻いて、しゃーねぇとコクピットに乗り込んでいきます。
ホントに嫌そうに、乗り込んでいきます。
でも、コクピットに入ると、トガの目つきが変わります。
じっとモニタに集中して、いつものように私の各部の調子をチェックを始めます。
トガはいつも丁寧にチェックしてくれます。
殆ど全部、見られちゃいます。
だから、ちょっと恥ずかしい気もするけど、トガだから、嬉しかったりもします。
うぅ、複雑な気分。
チェックを済ませると、トガはツインスティックを握りキッとモニターの向こうを睨み
ました。
Vコンバーターが唸り、テイルフランジャーからきらきらと光が毀れます。
「じゃ、行くぜっ!」
『はいっ!』
彼が出口のロックを外すと、けたたましい警報音が鳴り響きました。
そりゃそうです。
お休みの日に勝手にVRを動かしてはいけないのですから。
「な、何をしている!?」
慌てて警備兵が駆け寄り、前に立ちふさがって叫びます。
トガはにやりと笑って、悪い顔で悪態をつきます。
「あ? ちょっと個人演習に行くんだよ。 おっさん、失せなー。踏むぜ?」
トガはツインスティックを握り、カカカッと私に指示を送ります。
<走れ>
私はその指示どうり、警備の人を飛び越え、一気に外へでました。
暗い格納庫から、光の溢れる外へと。
『う、わぁ』
外は、やさしい赤い光で溢れていました。
沈みかけの太陽の光が、周りの全部を茜色に染め上げていました。
「……ほらよ、これが夕焼けってやつだ」
トガが西の方角に私を向けて、基地の向こうに沈む夕日を見せてくれました。
――勝利の祝いに、なにかしてやるよ。
彼は昨日、仲間と祝杯をあげながら私に向かってこっそりそう言ったのです。
しかも、めったに見せない笑顔で。
それは私にとって、これ以上無いご褒美でした。
だから、無理と解っていながら、私はわがままを言いました。
夕焼けを、この目で見たい、と。
『素敵……』
うっとりする私に、トガがやれやれと首を振ります。
「で、なんで夕焼けなんだよ」
『そ、それは、前にトガが「夕焼けが好きだ」って、言ってたから……』
「……よく覚えてるな、そんな事」
そんな!
トガの言った事、忘れるなんてできないよ!
メモリの一番大事なトコに、一字一句ちゃんと保存してあるんだから。
ちゃんと、ロックまでかけてあるんだから!
そう、叫びたかったけど、恥ずかしいのでやめました。
トガは基地の演習場に私を着地させると、ぺたんと床に座らせました。
「全く、こんな事したら後で大量の始末書書かなきゃなんねえだろうが」
そういいながら、なんだかんだいって私のお願いをきいてくれたトガ――
どうしよう、どうしよう、嬉しくて、嬉しくて……!!
何も言えないようっ!!
「な、お前、人の言う事聞いてんのかよ」
トガが腕組みして睨むので、私は慌てて返事します。
いっぱいの、嬉しいを込めて。
『うん。……ありがとう、トガ』
「――おう」
それは凄く単純な気持ち。
そこから生まれた、わがまま。
好きな人の好きなモノを知りたい。
景色の一つ一つをメモリに焼き付けながら、私は幸せな気持ちでいっぱいでした。
だって、こんな風にゆっくり外へ行くなんてもうこの先無いかも知れないから。
私達VRは、自由に動けない。
オートモードでも無い限り(それもめったにあることじゃないけれど)、誰かが動かし
てくれないと、外にも行けない。
嫌な指示も従わなきゃいけない。
やりたくない事も、しなくちゃいけない。
『VRも、自由に動けたらいいのにな』
「そうなったらパイロットいらねえだろが」
『でも動けたら、とっさの時トガを守ってあげられるかも!』
「ビビリのお前がそんな事できるかっての」
『うぅ……』
トガは意地悪です。
でも、そんなトガが、大好きです。
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