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(09.10.25更新)


・『第三格納庫のフェイ』

 

 私は、戦う為に生まれました。
 戦う事は好きだけど、ちょっと怖い。
 
 特に近くで戦うのが怖くて、相手が目の前に来ると体がびくってなっちゃう。
 
「近接で不具合が出ている、直してくれ」
 
 私に乗ると、パイロットの皆は揃ってそう言います。
 毎回整備の人が点検してくれるけど、何も異常ないって言います。
 
 『気持ち』の問題なのかなぁ。
 
 あれ、私、気持ちとかあるのかなぁ。
 VRだよ。
 

 そうそう、そんなパイロットの中で
 一人だけ違う人がいました。
  
 
 名前はトガ。
 
 
 仲間に意地悪ばっかりいって、からかって、ふざけてばっかりいる人です。
 でも私に乗ると、とたんに真剣になります。
  
 そんな彼がツインスティックを握ると、きゅんってなります。
 
 
 
 あれは私と彼を繋ぐ唯一のはしご。
 
 
 
 彼は、正確に自分の意思を伝えます。
 最小限の動きと、やさしい動きで。
 
 怖い場面でも、彼の言うとおりに動けば、痛い思いをしなくてすみます。
 ダメージを受けても、私のせいにしません。
 
 
 でも、やっぱり近くが怖い。
 
 
 いつもやさしく使ってくれる彼だからそれに応えようと思って頑張ったけど……
 でも、やっぱり怖い。
 
 一瞬だけ、彼の命令を聞けなかったの。
 
 勘のいい彼は、すぐそれに気づきました。
 
 それから、彼は『戦い方』を変えました。
 戦略を変え、遠距離中心の動きになりました。
 
 でも、そうするとだんだんと勝率が落ちていって、彼の成績に影響がでて。
 
 
 どうしよう、どうしよう。
 
 
 何故かとっても切ないの。
 ごめんなさいって、伝えたい。
 もっと彼の力になりたい。
 
 
「ね、それって、恋?」
 
 
 一人の女の子が、微笑みました。
 『解らない』って、私は答えたの。
 
「でも、好きだから、そう思うんでしょ?」
 
 う、うぅ、そう、なのかな。
 あまり自信が無いの。
 
「もー、私のレプリカでしょ? もっと胸張ってよね?」
 
 ご、ごめんなさい、って……
 あなたはオリジナル、なの?

「仕方ないわね、ちょっとお手伝いしてあげる。貴方に『声』をあげるわ。まぁ、このま
まだと貴方、処分されちゃうし。レプリカとはいえ、自分が処分されるのなんてやだし」
 
 そういって、オリジナルは私にハートをくれました。
 そして、声がでるようになりました。
 
 
 
 
「クソ、BTめ、近接振るなよ!」
 彼がぎりって歯を食いしばり、その場から離脱します。
 怖かったの。また固まったの。
 彼はそれを感じて距離をあけた。
 チャンスだったのに、私のせいで……!!

『ごめんなさいっ!』
 
「……あ?」
 
 私、初めてしゃべりました。
 彼はびっくりして目が点になってました。
 
『近接、怖くて、ごめんなさい!』
 
 言いたかった事、ようやく言えたの。
 でも、凄く悲しかった。
 情けなくて、泣いてしまいそう。
 
 彼、びっくりしてたけど、すぐにいつもの彼に戻って、こう言ったの。
 
 
「そんな事、知ってる。それより撃ち落とすぞ」
 
 
 彼がその手で伝えます。
 右、ダッシュ、旋回、相手を捕らえて……
 不意にトリガーが引かれる。
 目の前にはダッシュしているBT。
 
『こないで!!』
 
 私は彼の指示通り、RWを放ちました。
 タイミングはバッチリ。
 相手はその場に崩れていきます。
 
 
「お前、喋った、よな」
『はいっ!』
「幻聴じゃ……ねぇな」
 
 
 あれ、頭を抱えてる、困らせたのかな。
 やっぱりちゃんと戦えないVRはだめ、かな。
 
『次は、もう少し、頑張るから』
「あぁ……、是非そうしてくれ」
 
 頭を抱えながら、彼は言いました。
 
 
 
「なるほどねー、それがあなたの彼なわけね。OK、解ったわ。がんばってね? じゃ!」

 
 遠くから、オリジナルの声が聞こえました。
 ありがとう。
 私、もっと頑張るね。
  
 
 彼の力になるために。




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