巨椋池の水上交通～11・12世紀における貴族の船行きなど～

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論文梗概

　今から約60年前まで、京都の南に存在していた池沼「巨椋池」の水上交通に関する一考察である。
　まず第1章において、巨椋池に浮かぶ船の可航性（どれぐらい船が行き来することが出来たか）について考察した。
　巨椋池の水深を推定し、また船が航行するのに必要な水深を検討した。推測に留まる点も多いが、目安として100石積みの船程度までは巨椋池に浮かび得た可能性が高いことを指摘した。そして巨椋池は、わずかな水深で船の運航が左右される中、その可否の境界線上を行き来する湖沼であったという見解を掲げた。
　これまでの研究においては、巨椋池船行きの実例があまり多く掲げられてこなかったことを受けて、第2章では、平安時代の貴族達の日記を素材として、11・12世紀の貴族の船行きの実例をできうる限り紹介した。貴族の移動記事のなかではごく僅かなものに過ぎないが、それでも多くの実例を挙げることができたと考えている。また、貴族達にとっての巨椋池は、いかなる存在であったのか、僅かなりと考察を加えた。一般の内陸の船とは大きく異なる船行きのありかたが巨椋池においては垣間見られた。
　第3章においては、巨椋池の港津について検討した。
　この時代の巨椋池沿岸における港津の所在及びその様子について、ある程度まで先学を補足出来たのではないかと考えている。特に、小巨倉津についてはこれまで考察されてきておらず、その実態を明らかにする上で新たな一歩を踏み出すものであれば、と願っている。
　以上の考察から、巨椋池に船が行き来していた実態のある一面までは明らかに出来たのではないかと考えている。

はじめに
- 巨椋池について
- 研究史
第1章　巨椋池に浮かぶ船
- 第1節　巨椋池の水深
- 第2節　船に関する考察
- 第3節　船が浮かぶ要件　～船運環境～
第2章　船利用の様子
- 第1節　本章のねらい
- 第2節　日記史料について
- 第3節　なにをもって巨椋池の船行きと判断するか
- 第4節　巨椋池船行きの実例紹介
- 第5節　各史料に見えた巨椋池船行き　～彼らにとっての「巨椋池船行き」とは～
第3章　巨椋池沿岸の港津
終わりに
史料編
図

はじめに

　原初、人間は自らの足で移動し、食料を獲得し、生産財や製品を運搬流通させていた。その後、陸においてはコロを知り、車を発明した。水においては船をうかべてその上を行く道を獲得していったのである。
　浮力という恵みにより、水上交通は物資の大量輸送に適しており、陸上交通全盛の現在にあっても、海上輸送は重要な位置を占めている。
　もちろん、人の移動手段としても利用されてきた。
　その舞台は、こと日本周辺において、やはり海上が中心であった。島国である日本列島と大陸との間の文化交渉は船による海上移動なしには考えられない。
　しかし海上航路は、船による輸送のある重要な「一側面」に過ぎない。内陸部にあっても、過去における琵琶湖などの湖上輸送や、利根川・淀川水系などの河川輸送も、看過できない水上輸送の例である。
　内陸水運は、衰退・消滅して時が経過し、既に歴史的な存在になりつつあると言ってよい。観光向けの船下りなど特殊な例を除いて眼前にすることはなく、過去の記憶として知る者も、数十年のうちにいなくなることであろう。私自身、既にそれを知る世代ではない。
　私は、そのような内陸水運に興味を抱くものであるが、その具体的対象として、巨椋池における水運の様子を明らかにしていきたいと考えている。
　もちろん、限られた対象とはいえ、有史以来その様子を明らかにすることは作業量的に膨大なものとなる。視野は長い時間軸を見渡せるものであるべきながらも、実際の作業としては、一気に作業をすすめることは能力的にも物理的にも不可能である。あたかも一冊の本を著すがごとく、作業を積み上げていくのが現実的な研究の途であろう。
　本稿においては、前段において船と船運環境について考察した上で、平安時代を軸とし、貴族の記した日記を主な素材として、巨椋池の船行きの実例を明らかにし、それにまつわる諸問題について述べてみたいと思う。
　なお、フネには「船」「舟」という二種類の文字がある。各辞書を参照すると、その使い分けは「木を穿って造った物が船」「川の流れに沿って浮かぶ物が船」「規模の大きいものが船で小さいものが舟」など諸説あり、一概にどれが正しいのか分からない。いずれにせよ、それぞれ僅かに意味が異なるものではあるが、史料文は原文ママとするものの、以下、本稿では小学校で初めて出会う「船」の文字に統一して表記することを予めお断りしておく。

巨椋池について

　巨椋池は、今から約60年前まで、現在の京都市伏見区・宇治市・久世郡久御山町に亙り存在していた湖沼である。
　東西・南北の構造線が交わる地点にあり、京都盆地の最も低いところに水が溜まったものとされている⁽¹⁾。琵琶湖から唯一流れ出す宇治川が、もとは巨椋池に直接流れ込み、巨椋池＝宇治川とも言える存在であった⁽²⁾。
　巨椋池の出口と、木津川・桂川の合流点であった淀とは近接していたため、増水時にはその水を受け入れ、遊水池としての性格を持ち備えていた。
　有史以降、巨椋池は人為的改変を経て現在に至っている。その様子は『巨椋池干拓誌』に詳しいが⁽³⁾、かいつまんで纏めておくと以下の如くである。
　最初にして最大の手が加えられたのは、伏見城築城に伴う宇治川の河道遷移である。従来、宇治川が現在の宇治橋の下流から巨椋池へ直接流れ込んでいたものを、堤（槙島堤）を築いて分離し、宇治川を桃山丘陵の際へと導いて伏見城の堀としての役割を果たさせると同時に、城下町・伏見の水運の便を確保した。また、巨椋池を東西に分断するかの如く、池中にも堤（太閤堤）を築いてここに大和街道を設定した⁽⁴⁾〔図2〕。
　上流からの導水がなくなり、その上分断されてしまった巨椋池は、仮死状態に至る。導水がなくなったことで巨椋池の水位が宇治川より低くなった結果、木津川・桂川からの逆流が発生しやすくなった。特に、正徳2年の洪水では、遡って太閤堤をも決壊させるほどだったという。
　また、宇治橋下流での流路変更そのものが、傾斜変換線であるという場所柄、無理を伴うものであり、旧流路へ復そうとする自然の営みが見られた。慶応4年の「御釜切れ」と呼ばれる決壊においても、水はまさに旧流路を辿ったのである。
　明治43年に竣工した淀川改修工事以降は、下流側においてもついに淀川本流と切り離され、暫く逆流による洪水被害から解放された⁽⁵⁾〔図3〕。しかし一方で、巨椋池の遊水池としての機能は否定されたことになる。即ち排水路を断たれたのであり、悪水が停滞するばかりの、死滅湖とも言える状況を呈するようになった。なおかつ水害も完全には止まず、さらに巨椋池はマラリアの温床となり⁽⁶⁾、折からの食糧増産という時代的要求を伴って、干拓されることとなったのである。竣工は昭和16年11月のことであった。

　なお、本稿が扱う時代の巨椋池の地理上の範囲は、おおよそ図1の如くである。ただし、後述する港津が巨椋池の水上交通に果たした役割を考えると、便宜上その範囲はもう少し広げて考える必要がある。
　以下、第1章における考察をのぞき、本稿において「巨椋池」は、図4に示すが如く、河川部を一部含めた範囲内を示すこととする。

研究史

　巨椋池の水運に関わる先行研究は、私の把握している範囲内において、以下の通りである。

「山城盆地における河川交通の変遷」［吉田敬市、『歴史と地理』29巻3号～6号所収、史学地理学同攷会、昭和7年］: 　山城三川（淀川・桂川・木津川）の水運を取り扱った先駆的な研究と言えよう。京都の外港が山崎→淀→伏見へと推移した様子などを明らかにしている。巨椋池に関しては、「（五）宇治川筋の水上交通」にて触れている。『玉葉』安元2年11月22日条〔史料106〕を挙げ、船違えしかねない環境であることを指摘していることに注目される。ただし、船行きの実例は中世の2例を挙げるのみ⁽⁷⁾である。著述は表題通り河川に視点を置き、また吉田氏の専門分野によるものか、近世・近代が軸となっている。
『巨椋池干拓誌』［巨椋池土地改良区、昭和37年、追補再版昭和56年］: 　巨椋池に関する代表的研究著作である。吉田敬市氏が担当されている第二章第一節「巨椋池の変遷」・第二節「巨椋池沿岸交通の変遷」等で水上交通の様子を紹介している。前書同様、時代的には中世以降、特に近世に力点が置かれ、それ以前の様子はほとんど描かれていない。
『宇治市史』［宇治市、昭和48年～昭和58年］: 　巨椋池東南岸に位置する宇治の市史には、各時代に亙り巨椋池水運に関する記述が見られる。あくまで市史であり、巨椋池水運の全貌を明らかにしようという立脚点で記述されているわけではない。とはいえ、津に関する考察など、得るところは多い。
「中近世（文禄三年以前）における淀（巨椋池を含む）周辺の交通路」［林正次郎、『歴史地理学』127所収、歴史地理学会、昭和59年］: 　中世以降の淀周辺における水陸交通について、経済を絡めつつ著述した研究である。巨椋池に関わるものとしては、淀津を補完する存在として、一口津・伏見津について検証している。船行きの実例もいくらか紹介されており、また津に関する考察として貴重な論文だと言えよう。
『久御山町史』［久御山町、昭和62年～平成4年］: 　巨椋池西南岸に位置する久御山町の町史も、巨椋池水運に関する記述が随所に見られる。丹波津に関しての考察がある。町史であり、宇治市史同様の性格を持つが、共に有り難い先行研究である。

　以上、先行研究は先人のありがたい成果であるが、巨椋池に関して見た場合、その闕を掲げるとすれば、

中世以前の記述が希薄であること。
具体的事例の紹介に乏しいこと。

が挙げられよう。執筆意図から考えればやむを得ないが、いささか残念なところである。
　また、船がどれぐらい行き来できる環境であったかという、いわば「可航性」についてほとんど考察は行われていないのが実状である。
　以下、その闕がわずかでも埋まることを願いつつ、展開していきたいと思う。

第1章　巨椋池に浮かぶ船

　巨椋池の水運を考える場合、巨椋池そのものはどんな様子であったのか、どのような船が利用されていたのか、という疑問が当然の如く生じる。
　船が浮かぶには、それに相応しい湖沼の環境でなければならないことは容易に想像がつくが、その環境とはどのようなものであるか、一般的な知識ではあるまい。
　まずは、これらの点につきあらかじめ考察しておくことにしたい。

第1節　巨椋池の水深

　現在、確実な巨椋池の水深に関する資料として挙げられるのは、『巨椋池干拓誌』第二編第一章第一節の二「水深および水位」である。それによると、「実測の結果、池内の水位は（筆者注：標高）最高一三．六米、最低一〇．七一米の間において変化し、平水位は大阪湾中等水位上一一．四二米」という。
　また「池底高とその面積」という表によれば、池底高（筆者注：標高）10.0ｍが16.8％、10.5ｍが61.0％、11.0ｍが22.2％、とする。ただしこの面積区分は端数処理等不明である点は注意しておく必要がある。
　これがどの時点での数字かは明記されていないが、『巨椋池干拓誌』の作成意図からすれば、巨椋池終末期のものと考えるのが妥当である。
　さて、この数字から、ふたつのことが指摘される。
　ひとつには、水位変動の大きさである。単純に引き算をすれば、最低水位と最高水位では2.89ｍもの格差がある。もちろんこれは最大格差であり、平生の変動幅はこれより遥かに穏やかなものであろうが、驚嘆に値するものである。
　ふたつ目に、仮に先の面積区分を用いるならば、平水位標高11.42ｍの状態において、水深0.92ｍ以上の面積比率が実に77.8％に及ぶ。
　端数処理の詳細が明記されない中、水深0.92ｍを示す比率がこのうちの61.0％を占めることには注意せねばならないが、「巨椋池等深線図」⁽⁸⁾〔図5〕で知られる地底高分布から見ても、沿岸部の一部を除き、おおよその範囲が該当すると考えて良いであろう⁽⁹⁾。
　あくまで平水位であり減水時はこの限りでないことは言うまでもない。
　ただ、知る限り唯一の数値的史料であり、今は亡き巨椋池の様子を偲ぶ上で貴重なものと言えよう。
　巨椋池は時と共に埋まりゆくものであった⁽¹⁰⁾ため、時代を遡ってみようとすれば、もう少し水深があったかもしれない。
　いずれにしても、巨椋池の水深は1ｍ内外だったと考えられる。
　おおよその水深が明らかになることにより、巨椋池において実際に船が浮かび得たのか、どの程度の船が浮かんでいたのかを知る手がかりを得たといえよう。

第2節　船に関する考察

　巨椋池を中心とした水運で用いられていた船が果たしてどのようなものであったのか、実はあまり判然としていないように思われる。
　少なくとも私の知る限り、巨椋池に浮かぶ船の大きさについて、明らかにそれを伝えるものはない。
　また、船の様子や規模などが推測できる史料も、決して多くはない。
　巨椋池における「華船」「樓船」の利用記事が『台記』永治2年2月25日〔史料63〕・同月26日〔史料64〕・同月28日〔史料65〕・同年3月6日〔史料66〕、及び康治元年8月21日〔史料69〕に見られる。その性質上、これらの船は遊興に用いられたと考えるべきであろう。
　単に「船」という表記ではないことを考えれば、通常の船とは違う性格にてこれら「華船」「樓船」が用いられたことは間違いないであろう。また、あまり小さな船を飾り立てるとも思われず、ある程度の規模の船だったと想像される。
　規模を推測する史料としては、例えば『左経記』長元8年2月20日〔史料25〕によると、鴨川尻から宇治へ向かう殿上人の船に二十数人が乗っていることが分かる。また、『兵範記』保元3年10月17日〔史料103〕に見える後白河法皇宇治御幸の宇治川渡河における屋形船は、船方16人を擁するものであった記載がある。渡河地点と巨椋池の水深では異なるが、川筋としては大きな船だと言えるであろう。参考までに掲げておくことにする。
　以上各史料から、案外大きな船も利用されていた「かも」しれないことまでは推測が出来たが、もう少しイメージを膨らませることはできないであろうか。
　実は、一般に、巨椋池で用いられたものを「偲ばせる」船はなくはない。近年まで旧巨椋池沿岸地域の家屋にあった「上げ船」、そして琵琶湖の湖上交通で活躍したという丸子船を挙げられるであろう。参考としては、淀川水運の船も挙げられるであろうか。時代もしくは場所が大きく離れるが、あくまでも参考としてならば、これらを本稿の舞台に立たせることも無駄なことではあるまい。
　上げ船は、水害時の避難用として家屋の脇に吊されていた船である。写真⁽¹¹⁾で見る限りは小振りな船である。避難用としては十分であるが、物流を含めた交通を考える史料としてはいささか物足りない感も否めない。
　丸子船は、琵琶湖の湖上交通の立役者として知られる大形の船である。『琵琶湖博物館展示ガイド』⁽¹²⁾によれば、近世から戦前にかけて主に米の輸送に活躍し、100石積のものが一番多く活躍したという。現在同館には、船大工の手によって近年造船された100石積の丸子船が展示してあり、その大きさを実感することができる。また、湖北町の「丸子船の館」にはかつて実際に活躍した船が展示され、湖北町尾上には、極めて厳しい状態ながらも今も水に浮かぶ丸子船が存在しており、その様を眼前に出来る。先ほど挙げた上げ船とは全く比較にならない、実に大きな船である。積み高としても、「淀川就航船は初は二十石以上二百五十石に至る船であった」⁽¹³⁾こと、また100石以上の船が決して多くはなかったこと⁽¹⁴⁾を考えると、琵琶湖博物館展示の100石積み丸子船規模の船が巨椋池でも活躍できたと仮定するならば、そこでは大きな船舶も航行できた可能性があると表現して差し支えないであろう。

第3節　船が浮かぶ要件　～船運環境～　

　ところで、例えばこの丸子船の吃水下の深みはどれぐらいあるのだろうか。
　大きな船である丸子船の吃水が分かれば、この程度の船が往来するために必要な水深がおおよそ推測できるであろう。
　湖北町「丸子船の館」でお世話になった係員さんの記憶によれば、展示されている船の重木⁽¹⁵⁾の上下であったという。即ち、空荷の時は主木の下辺あたり、積荷の時は重木の上辺あたりが吃水であったようである。展示されていた船の重木中心で船底から1ｍ内外であったから、この丸子船は水深1ｍ程度で浮くことができたということになる。

　三重県志摩郡大王町及び和歌山県西牟婁郡白浜町にて海船について取材する機会を得たが、丸子船よりも一回り大きな船も、吃水下1ｍ程度であることが分かった。白浜町のものは18トンのものであり、海では浮力がかかるとは言え、かなり大きな船でも吃水は意外に浅いようであった。

　こうして見ると、水深1ｍ以上あれば100石積み程度の丸子船も航行可能であり、それは即ち、前述の考察において見た巨椋池のおおよその水深に合致する。つまり、巨椋池においても同程度の大きさの船が航行できたということが推測できるのである。

第2章　船利用の様子

第1節　本章のねらい

　これまでの考察で、巨椋池の可航性が明らかになった。それをうけて、以下実際の船行きの様子を眺めることにしたい。

　本稿を執筆するにあたっては、平安時代の貴族の日記をいくつか読了し、断片的であっても、可能な限りの史料の中から、巨椋池を行き来したものと思われる記事を中心に収集した。本稿は、平安時代を軸としているが、便宜上、11・12世紀、約200年間の記録について取り上げる。
　もちろん、貴族たちの移動そのものは、以下に記載するものの何倍も記録に残っている。
　船利用の記事が一番多く見られた『台記』をとってみても、移動記事の中での船利用がわかる割合は低い。宇治・奈良へ向かう記事のうちの15％がようやく船利用を明記する程度であった。もっとも、明記されないばかりで実際には船を利用した可能性があるのは言うまでもない。
　巨椋池上の船行きに関する史料は、別添の史料編に並んでいるが、その前後の行程や、各々それが巨椋池の行程だと考える理由を含め、以下にまとめておきたい。一見無駄な著述にも思われるが、考察なくしては「巨椋池のもの」と断定し難いものも多く、また事例を明らかにすることそのものが極めて重要な作業だと位置づけており、ご了解いただきたい。

　なお、本章と次章は並立的な存在であり、多少知識が前後する感もある。あたかも縦糸と横糸かのようにそれぞれ補完する内容であり、相互に対照していただければと思う。

第2節　日記史料について

　以下、いくつかの日記が登場する。まずそれらについて、概括的に注記しておきたい。
　特徴的なのは、その多くが『殿暦』『台記』であることであろう。これは、史料の量的な差によるものではなく、むしろ質的なものに由来するものである。
　日記の特徴として、個人の記録であることが挙げられる。歴史書などには描かれない細部に亙って記載されており、それゆえ移動の行程等までも知ることが出来るわけであるが、同時に、当人に関わらない他人の移動の詳細まで記載されることは少ない。つまり、日記著者が移動しない限り、一般にその道中が描かれないのである。
　そんな中にあって、藤原忠実や藤原頼長は、自ら宇治へと足を運び日記に記した。結果的に彼らに纏わる巨椋池の船行きが多く見られることになるのである。以下の事例に時代的偏りがあるかに見えるのは、こうした事情によるものと言えるであろう。
　なお、時間的制約もあり、全ての日記について読破するのは物理的に不可能であった。少なくとも遺漏ないよう注意は払い、均質化に努めているが、予めお断りしておくことにしたい。

第3節　なにをもって巨椋池の船行きと判断するか

　巨椋池に関する船移動の記事を求めて史料を読む上で、前提条件として、どのような要件を以て巨椋池に関する当該記事と認めるか定義しておかねばならない。
　言うまでもなく、乗下船地等によって判断することになる。つまり、先に定義した本稿における「巨椋池」の沿岸部が乗下船地であれば、巨椋池上の船であろうと推測することができる。
　しかし、これだけでは定義付けとして不十分であり、以下、港津において特に各々注意する必要がある。
　鳥羽・河尻など桂川下流部における乗下船の場合、その対となる乗下船地が巨椋池沿岸かどうかが要件となる。
　最も判断に迷うのは、宇治周辺での乗下船である。
　巨椋池沿岸であり、一見迷う余地がないようにも思われるが、船に関して複雑な要素が交錯するのである。

　例えば、『御堂関白記』寛仁2年9月26日〔史料18〕は「行宇治、乗舟、所出題傍水多紅葉、入夜至着」と記している。
　「行宇治」は宇治へ行ったことを示す。そのあとで「乗舟」と続くため、宇治へ行ってから船に乗ったと考えることもできるが、『台記』康治元年6月28日〔史料67〕のように、手段を後に書くことも不自然ではなく、その時系列は必ずしも判然とはしない。
　宇治まで船で来たとすれば、巨椋池上を経たものと推測できる。
　しかし、宇治川の渡河における船利用であっても「宇治までの船利用」であるため、にわかには巨椋池上の船行きとは言い難い。実際には、渡河の場合、それが渡河であると分かりやすく書かれていることが多いため、巨椋池のものと考えるのが自然なようにも思われるが、断定はできない。対となる乗下船地が明記されない場合、渡河の可能性を含みつつ巨椋池利用のものと考えることとなろう。
　なお、この記事の場合、船遊び的要素もあり、宇治までの船利用ならば特に巨椋池のものと考えた方が妥当である。
　一方、宇治に着いてから船に乗ったとすれば、宇治周辺での船遊びであろう。それとても、巨椋池を浮かぶものなのか、宇治川をわずかなりと遡るものなのか⁽¹⁶⁾、二通りの可能性がある。この場合においても、「紅葉」を題にしているあたり、ひょっとすると天ヶ瀬方面への遡航かと思われるが、確証はない。なにを志向しているのか推測して、判断することとなろう。
　つまり、宇治での乗下船は、前後の様子から推測する必要に迫られるものが多く、誠実に史料と向き合う場合、いろいろな可能性を踏まえた上での判断をしなければならない。
　ほかにも判断に迷う例はあるが、史料と誠実に向き合ったうえで各々判断し、可能性に留まるものも含め、最大限触れてみたいと思う。

第4節　巨椋池船行きの実例紹介

『権記』長保5年5月28日〔史料4〕: 27日、道長に従い宇治へ向かった、その復路である。船で上洛したとあり、巨椋池上を行くものか、もしくは渡河の可能性もある。
『御堂関白記』寛弘元年閏9月21日〔史料5〕: 　宇治行きの記事である。乗船地が明記されておらず、宇治に着いた後の船遊びという可能性も捨てられないが、「同道」した人々との「舟中連歌」とあり、宇治までの船行きを指すと思われる。連歌を催していることから、所要時間的に渡河とは考えにくい。
『御堂関白記』寛弘元年閏9月22日〔史料6〕: 　宇治からの帰路。残念ながら源則忠宅の場所は不明であるが、渇水時の船移動記事として貴重である⁽¹⁷⁾。渡河ならば水嵩の低さは問題にならないと思われることから、巨椋池の船行きだと思われる。
『御堂関白記』長和2年10月6日〔史料7〕: 　京都を発ち、賀茂河尻で乗船、宇治に至る行程であり、疑いもなく巨椋池を船で横断している。巨椋池の上で遊興を催していることが明記され、船遊びの場として巨椋池も利用されていたことが分かる。『宇治市史』が指摘するように⁽¹⁸⁾、半日近くの船遊びである。
『御堂関白記』長和2年10月7日〔史料8〕: 　宇治からの帰路。この日も船上での遊興を楽しんでいる。到着地が明記されないが、往路同様に賀茂河尻であろうか。船中での遊興を考えれば、少なくとも渡河ではないと思われる。
『小右記』長和3年10月25日〔史料9〕: 　敦康親王が道長の宇治第へと向かう際、鴨川尻から乗船している。下船地は明記されていないが、素直に考えれば宇治までの船行きであり、巨椋池を横断している。26日夜半の帰洛だが船利用との記載はない。
『御堂関白記』長和4年8月6日〔史料10〕: 　宇治日帰りの記事。往路の手段は不明だが、復路は船利用の旨が知られる。渡河の船の可能性も捨てきれないが、往路の手段についてなにも記さない1方で、復路ばかり船を強調しており、復路は巨椋池を利用して京都方面へと船で帰ってきた可能性のほうが高いように思われる。
『御堂関白記』長和4年10月12日〔史料11〕: 　宇治日帰りの記事。往路の手段は不明。船中での遊興もあり、復路は巨椋池の船行きであろうと思われる。
『小右記』長和4年10月13日〔史料12〕: 　道長が宇治から帰洛したことを記す記事。船で帰ったことを記すのみであり、渡河の可能性もあるが、筆者・藤原実資が、日記で他人の行動を記すにあたり、渡河程度で船を利用した旨記載するかどうか考えると、巨椋池のものの可能性も高い。
『御堂関白記』寛仁元年10月25日〔史料15〕: 　宇治行きの記事。紅葉見をしつつ遊興を楽しむ船行きである。船遊び記事のあと「還来」云々とあることから、いったん宇治に着いた後に船遊びに出たと考えるべきであろう。紅葉を見るならば、巨椋池よりも宇治川上流のほうが谷間が迫り綺麗な感もあるが、巨椋池で紅葉を遠望する可能性も否定できない。
『御堂関白記』寛仁元年10月26日〔史料16〕: 　宇治からの帰路。賀茂辺とあるのは河尻周辺であろうか。その地名があがっている以上、渡河ではなく巨椋池を横断したものであろう。方忌により賀茂辺で泊まり翌日帰洛するのだが、翌日の記事に「従舟下、入京」とあり、船中で泊まったようである。
『小右記』寛仁元年10月27日〔史料17〕: 　『御堂関白記』前日及び当日記事と同内容。特記することはない。
『御堂関白記』寛仁2年9月26日〔史料18〕: 　本項冒頭で考察したので省く。
『御堂関白記』寛仁2年9月27日〔史料19〕: 　宇治からの帰路。今津までの船行きと推測でき、巨椋池を横断する行程である。理由は明記されないが今津で泊まり、翌日入京している。
『小右記』万寿2年11月26日〔史料20〕: 　教通が湯治にて巨椋池沿岸の岡屋へ向かったものである。河尻より船を入れ、岡屋へ向かったと理解するのが自然であろう。巨椋池を横断する行程である。復路は不明だが、12月2日の「親仁侍所始」までには帰洛している。
『小右記』長元3年9月23日〔史料21〕: 　不明な字が多いながらも、頼宗・兼頼が湯治にて宇治へ向かった記事。「鴨川」の後の二文字によって乗船地が異なるが、桂川合流点以上の遡航記事は少ないため、鳥羽周辺、即ち「川尻」と推測しておく。この記事も巨椋池を横断するものである。
『左経記』長元8年2月16日〔史料23〕: 　鴨河尻で乗船し、宇治へ向かっている。巨椋池を横断し宇治へ至ったと考えて間違いない。宇治で船中泊したのち翌朝上陸したことも知られる。
『左経記』長元8年2月17日〔史料24〕: 　宇治から帰洛する際、船を利用している。往路の逆を辿り鴨河尻まで船行きだったと想像されるが、宇治川渡河の可能性も否定はできない。
『左経記』長元8年2月20日〔史料25〕: 　移動経路が分かりにくい記事だが、『宇治市史年表』の記載⁽¹⁹⁾と併せると、帰洛する頼通を迎えに行くものであり、鴨河尻から遊女を連れ、船で巨椋池を横断して宇治へ至ったようである。つき従う人数や船の数を見るに、華やかな船行きであったと言えよう。丑刻、遊女にものを与えているのは再び鴨川尻へ到着した折の記載と思われる。往復とも船を利用したと考えるのが自然であろう。
『為房卿記』承暦3年8月25日〔史料26〕: 　殿下即ち頼通は、前々日、宇治逍遙にて宇治へ向かっている。その復路、山崎の河陽へ立ち寄った折、宇治から河陽（山崎）まで船を利用している。巨椋池を横断し淀川を下ったものと見て間違いない。
『中右記』寛治5年10月12日〔史料28〕: 　上皇が鳥羽から平等院へ向かった復路、船に乗り網代を見て帰るとある。『兵範記』保元3年10月19日〔史料104〕の記事によれば、網代は宇治橋より下流にもあったようである。そう考えると、宇治で乗船し網代を見た後、鳥羽方面へと船を進めた可能性も多少考えられなくもない。
『為房卿記』寛治5年10月13日〔史料29〕: 　同じく上皇の平等院詣の記事。こちらは「人定之後還御」とあり、そのまま帰洛の途についたと考えることを許さない。よって、渡河もしくは巨椋池東岸のいずれかで上陸したと考えるのが自然であろう。
『殿暦』康和3年2月11日〔史料30〕: 　師実の病により、1月27日から宇治に滞在しているが、その期間の記事である。興福寺の造作のための方違とのことで「下行て」、「閑万津」⁽²⁰⁾へと向かっている。「閑万津」は宇治川上流ではなく巨椋池方面へ向かう何処かであるが、詳細は不明である。ただし、類似の理由による方違にて巨椋池西岸の丹波津へと向かった例があり⁽²¹⁾、あるいは閑万津も同様の方向にあるのかもしれない。なお、2日後の13日、師実は宇治で亡くなっている。
『殿暦』康和3年3月24日〔史料31〕: 　引き続き宇治滞在中の記事。2月11日と同様の理由で同じく閑万津へと向かっている。
『殿暦』康和4年9月27日〔史料32〕: 　前日、忠実は法皇御幸の共をして鳥羽に至っており、鳥羽周辺から北政所（宇治）へ船で向かったと考えて良かろう。
『殿暦』長治元年9月21日〔史料33〕: 　16日より宇治滞在中で、この日富家殿へ向かう折、船を利用したようである。宇治～富家の行程において船を利用する場合、宇治川渡河の可能性もあるが、東岸に上陸後、富家まで僅かに陸路で進むという手間をとるかどうか疑問ではある。いっそ富家まで船で向かった方が面倒ではない。もっとも、渡河の可能性を否定するほどでもなく、以下、富家での乗下船を明記していない宇治～富家の船による行程に共通する見解としてその可能性を掲げ、以下繰り返さない。27日、宇治へ立ち寄った後帰洛している。
『殿暦』天仁2年2月14日〔史料34〕: 　前日、師実忌日にて宇治へ向かった。この日は、宇治から伏見津へと巨椋池を船で縦断し帰洛していることが分かる。なお、私の把握する範囲内では伏見津の初見史料である。
『殿暦』永久3年2月17日〔史料36〕: 　前日、忠実は方違のため宇治へ至り、成信大和大路房に宿泊した。当日は宇治からの復路で、宇治から船で北殿（富家殿）へ向かい、見回りの後帰洛している。
『殿暦』永久3年5月18日〔史料37〕: 　17日の四条宮寛子の五十講結願により、14日から宇治に滞在中の記事。前日の記事からは具体的な滞在場所が絞れないが、船を利用していることから、宇治ではなく富家から小小倉へと向かったのであろう。19日に帰洛している。帰洛の起点は不明だが、富家からと考えるのが自然であろう。
『殿暦』永久3年9月21日〔史料38〕: 　上皇の富家御幸である。趣向を凝らして上皇をもてなすなか、眼前の巨椋池にさまざまな船を浮かべているのが分かる。
『殿暦』永久3年9月28日〔史料39〕: 　羽戸院の見回りなどを済ませた後、富家より船を出して「中嶋」を巡っている。船遊びであろう。中嶋というのは、宇治川が巨椋池となるあたりにあった中州のことを指すものと思われる。
『殿暦』永久3年10月5日〔史料40〕: 　8月27日以来、ようやく富家殿より船で帰洛の途に就く。淀を10町ほど下り、桂川を遡って鳥羽辺りで下船し帰洛したようである。経路が具体的であり、疑いようのなく巨椋池を横断したものである。
『殿暦』永久4年3月12日〔史料41〕: 　前日京都から富家へ至った忠実らは、18日まで富家・宇治周辺で過ごしている。この日は富家より宇治へ船で向かっている。富家へ帰る手段は不明である。
『殿暦』永久4年3月16日〔史料42〕: 　方違にて、富家より丹波津へと向かっている。後述の如く丹波津は淀の南、木津川左岸にあったものであり、木津川の渡河さえ厭わねば陸路でも行けるが、船と明記されずとも船で向かったと考えるのが自然である。
『殿暦』永久4年3月17日〔史料43〕: 　明け方、丹波津より富家へ帰宅している。前日同様、船によるものと思われる。昼頃、宇治へと向かうが、船と明記されている。宇治から富家へ帰る手段は不明。帰宅後の「暫於河有小遊」は船遊びであろうか。なお、翌日、富家より帰洛している。
『殿暦』永久4年4月3日〔史料44〕: 　忠通を連れて富家へと向かう。書写段階での混乱か、史料中やや内容が重複するが、鳥羽殿を経て、鴨河尻で乗船し富家へ向かったものである。
『殿暦』永久4年4月4日〔史料45〕: 　富家より船で宇治へ向かっている。その後、宇治から富家を経由して帰洛するが、その手段は不明である。
『殿暦』永久4年4月15日〔史料46〕: 　前日京都より富家へ至った忠実は富家で1泊ののち、「前小河」つまり富家殿の前の流れにて乗船、淀を経て木津川を遡り、夕刻木津へ到着、奈良へ至っている。復路は翌日、未明に奈良を発ち、木津で乗船、「鴨河尻」と割注のある鳥羽殿南へ至り、そこから陸路京都へ帰っている。
『殿暦』永久4年5月11日〔史料47〕: 　5月6日、忠実らは京都より富家へと向かった。17日まで富家に滞在している。この日は女房3人が富家より宇治へ向かった。「自舟令参也」という記載から、船を利用させたのは忠実の考えだったのかもしれないことを推測させる。
『殿暦』永久4年5月12日〔史料48〕: 　方違により、富家殿ではなく車や船中で宿泊していると記している。船中ならば、遠かれ近かれ、巨椋池へと船を出しているのであろう。
『殿暦』永久4年5月13日〔史料49〕: 　この夜は富家殿の南にある流れに船を浮かべて泊まっていることが分かる。なお15日記事にも「余宿舟」と見えるが、結局その際は船泊していないようである。また、前述の如く、17日帰洛したが手段は不明である。
『殿暦』永久4年6月19日〔史料50〕: 　宇治行きの往路。鳥羽殿を経由し、鴨川尻から乗船して宇治へ至っている。復路は翌20日で、富家を経由して帰洛しているが、船を使ったかどうかは不明である。
『殿暦』永久4年7月30日〔史料51〕: 　方違にて内々に富家へ至っている。夜になり、方違を兼ね「新屋見廻」にて船を出している。新屋とは、或いは羽戸院のことであろうか。復路は翌8月1日である。
『殿暦』永久4年8月27日〔史料52〕: 　25日、京都より富家へ至っている。9月23日までひと月近い富家滞在となる。この日は富家から宇治の四条宮寛子の許へ行き、復路船を利用している。
『殿暦』永久4年9月17日〔史料53〕: 　宇治より富家を訪れた四条宮寛子が泉殿に帰る際、忠実はその供をしている。史料中「渡程候御車」とあるのは西岸から泉殿までの車と考えられる。宇治から富家への復路も船を利用したことが明記されている。
『殿暦』永久4年9月19日〔史料54〕: 　寛子の許から女房が「紅葉舟」に乗って富家へ至っている。季節柄、紅葉見の船とも考えられるが、他史料のように「見紅葉」とあるわけではないこともあり、紅葉を葺いた船かと思われる⁽²²⁾。
『殿暦』永久4年9月23日〔史料55〕: 　ひと月近い富家滞在の最終日。宇治まで船で向かい、おそらくは泉殿で四条宮寛子に会ったのであろうか。帰路も船を用い、鳥羽殿へと至る。巨椋池を横断した行程である。
『殿暦』永久5年2月2日〔史料56〕: 　頼通忌日により、また方違にて、宇治へ至っている。供養ののち、宇治より船で富家へ至っている。
『殿暦』永久5年4月9日〔史料57〕: 　方違のため宇治へ向かう記事。富家に至ったのち、船に乗り宇治へ向かったと見るべきであろう。成信房に泊まったようである。
『殿暦』永久5年4月10日〔史料58〕: 　宇治からの帰途。富家まで船で向かっている。その後の手段は不明だが、陸路かと想像される。
『殿暦』永久5年6月5日〔史料59〕: 　方違として宇治に向かう往路。鳥羽辺で船に乗り宇治へ至っており、巨椋池を横断する行程である。この度も成信房に泊まったようである。
『殿暦』永久5年6月6日〔史料60〕: 　宇治よりの帰途。橋下で乗船し、上流にある井堰まで一旦遡ったのち⁽²³⁾、京へと向かっている。鴨河尻まで船を利用したのが分かり、巨椋池を横断する行程である。
『殿暦』元永元年閏9月9日〔史料61〕: 　宇治日帰りの記事。往路は富家より平等院へ船で乗り入れているかのように見える。復路は宇治橋下にて乗船し、富家へ至る。往復とも京都～富家間は陸路と想像される。
『殿暦』元永元年閏9月20日〔史料62〕: 　19日富家へ向かっており、それゆえ宇治より「帰富家」となっている。復路は船利用を明記しており、逆に往路は陸路だったのかもしれない。22日、宇治での十種供養を済ませ、23日帰洛している。
『台記』永治2年2月25日〔史料63〕: 　一条殿御堂の供養にて宇治へ向かう際、船を利用している。「華船」を利用していても渡河の可能性もあるが⁽²⁴⁾、翌日鳥羽へ同じく「華船」で帰っているため、この場合も鳥羽あたりから宇治へ巨椋池を横断したものと思われる。
『台記』永治2年2月26日〔史料64〕: 　宇治からの帰途。宇治から「華船」で鳥羽へ至っている。
『台記』永治2年2月28日〔史料65〕: 　27日、高陽院の供で鳥羽に至っており、この日は鳥羽から「樓船」に乗り宇治へ至ったことが明らかである。巨椋池を横断する航路である。
『台記』永治2年3月6日〔史料66〕: 　宇治からの復路。先月28日の逆行程で帰洛している。
『台記』康治元年6月28日〔史料67〕: 　27日、高陽院の供で鳥羽に至っており、この日は鳥羽から船に乗り宇治へ至ったことが明らかである。巨椋池を横断する行程である。
『台記』康治元年6月30日〔史料68〕: 　29日の小松殿御堂供養を終え帰洛する行程。渡河の可能性もあるが、巨椋池を利用し鳥羽方面へ至った可能性も捨てきれない。
『台記』康治元年8月21日〔史料69〕: 　法皇が宇治へ向かった行程。渡河の可能性もあるが、巨椋池を利用し鳥羽方面から宇治へ至ったものであろう。
『台記』康治2年10月24日〔史料70〕: 　20日に京都を出発して天王寺詣をしているが、その復路。23日、天王寺を出、窪津で乗船し淀川を鳥飼まで遡って、船中で宿泊している。この日は未明に鳥飼を発ち、淀川から巨椋池（宇治川）へと船で至る。巨椋池を横断する行程である。「余参御舟」とあることから、途中から船ではなく陸路をたどる人がいたことも想像される。
『台記』天養2年2月10日〔史料71〕: 　法皇・高陽院の方違の供をして、宇治へ向かう途上、鳥羽で乗船し宇治まで船を利用している。頼長は日帰りしているが、帰途の手段は不明である。
『台記』天養2年2月13日〔史料72〕: 　法皇・高陽院はこの日宇治からの帰途についている。船で巨椋池を横断し、鳥羽へ至ったものと思われる。
『台記』天養2年3月26日〔史料73〕: 　方違により両院が宇治へ向かう折、鳥羽より宇治まで船を利用している。
『台記』天養2年3月28日〔史料74〕: 　両院が宇治から帰る際、入道殿（忠実）が鳥羽まで送っている。ともに船を利用したことが明記されている。遊興の後忠実は宇治へ帰るが、これも当然船を利用したものと推測できる。鳥羽辺の「落合」は、桂川・鴨川の合流部付近を指すものであろう。
『台記』天養2年7月17日〔史料75〕: 　一条殿の見舞いのため10日に宇治へ至っているが、この日はその復路。渡河の可能性もあるが、船中で遊興を催しており、巨椋池の船行きの可能性のほうが高い。
『台記』久安2年6月24日〔史料76〕: 　宇治への往路。「浮河上」という表現から渡河だと考えがちだが、巨椋池は川として認識されていた節があり⁽²⁵⁾、巨椋池の船行きである可能性も捨てきれない。復路は25日である。
『台記』久安2年8月30日〔史料77〕: 　前日、仁和寺に詣で、宿仕している。仁和寺から、途中鳥羽で乗船し、宇治へ至っている。翌9月1日、病により宇治より帰洛している。
『台記』久安4年2月4日〔史料78〕: 　頼通忌日供養の為か、2月1日宇治へ至っているが、この日はその復路。女院（高陽院）に従い、宇治より船で鳥羽へ至っている。深夜帰洛している。
『台記』久安4年4月17日〔史料79〕: 　春日詣の復路。この日は木津より乗船して宇治へ至っている。木津での渡河の可能性もあるが、船で木津川を下り、巨椋池を東行して宇治へ至った可能性も捨てられない。菖蒲は帰洛しており、淀まわりの経路もあながち無駄ではあるまい。なお、往路は16日で、鳥羽南より木津川を遡航している。
『台記』久安4年5月10日〔史料80〕: 　禅閤（忠実）の天王寺詣往路である。出発地が明記されないが、当時の忠実は宇治に住んでおり、この日も宇治からの行程であろうと推測できる。付き従う頼長が8日に宇治入りしており間違いなかろう。巨椋池を横断し淀川を下って窪津で下船、天王寺へ至っている。
『台記』久安4年5月18日〔史料81〕: 　天王寺詣の復路。17日天王寺を出発し窪津から乗船、三島江で船にて宿泊している。当日は三島江を発ち淀川を遡航、淀付近へ至る。忠実の言により頼長は桂川を遡り草津へ、忠実は巨椋池を横断して小巨倉津へ至る。日没により帰宅しなかったとあるが、夜中の移動は珍しいことではなく、何かしら別の事情により草津もしくは小巨倉津に留まり船で一夜を明かしたのであろう。翌日、頼長は大炊第へ、忠実は小松殿へと帰着している。
『台記』久安4年閏6月8日〔史料82〕: 　5日、頼長は宇治へ至っているが、その従者であろうか、成佐が船に乗り帰洛したと記す。渡河の可能性もある。
『台記』久安4年閏6月9日〔史料83〕: 　平等院を逍遙した頼長らが、夕刻船に乗り帰洛している。渡河の可能性もある。
『台記』久安4年閏6月20日〔史料84〕: 　16日以降この日までに宇治へ至っている。この日は宇治を発ち小巨倉津で乗船、巨椋池を横断して「鳥羽南」で船を下り、車で帰洛しているのが分かる。
『台記別記』久安5年10月12日〔史料85〕: 　『増補史料大成』は『兵範記』の誤入とする記事である。故北殿の供養（13日）のため忠実が宇治から仁和寺へ向かう折、巨椋池を横断した後、桂川を遡り梅津へ至っている。帰途は14日であるが、こちらは船を利用した旨の記載はない。
『台記別記』久安5年10月19日〔史料86〕: 　同じく『兵範記』の誤入とする記事である。左府（頼長の息子・師実）の元服にて、加冠の右大臣が宇治へ到着した記事である。橋下で下船している。渡河の可能性もある。
『台記』久安6年5月17日〔史料89〕: 　京都に来ていた忠実が宇治へ帰る際、頼長も供をし宇治へ赴いた記事。渡河の可能性もある。
『台記』久安6年6月3日〔史料90〕: 　5月29日から6月10日まで頼長は宇治に滞在しているが、その間に八幡詣をしたもの。方角からして渡河の可能性はなく、往復とも巨椋池上の船行きであったはずである。
『台記』久安6年8月3日〔史料91〕: 　宇治からの復路。小巨倉津で乗船し鳥羽南津へ至っている。
『台記』久安6年8月17日〔史料92〕: 　15日宇治へ赴いているが、その復路。渡河の可能性もある。
『台記』久安6年8月30日〔史料93〕: 　28日宇治に向かった復路。宇治から小巨倉津へ向かい乗船、鳥羽へ至っている。洪水の時期だったようである。
『台記』久安6年9月9日〔史料94〕: 　4日、宇治へ向かった頼長は、忠実の命により天王寺詣の途に就く。宇治から巨椋池を横断し、淀川を下って窪津へ至り、手輿に乗って天王寺へと至っている。
『台記』久安6年9月22日〔史料95〕: 　21日天王寺を発った頼長は、河口付近で船遊びをしたのち淀川を夜行で遡航、明け方宇治に到着している。帰洛は26日であった。
『台記』仁平2年7月24日〔史料96〕: 　解釈の難しい記事である。しかし、何処かから宇治へ向かい乗船、夕方鳥羽南津へ至ったと解釈するのが一番自然であろう。
『台記』仁平3年9月15日〔史料97〕: 　頼長が乗った船は鳥羽殿内の庭池に浮かぶ船であろう。宇治より忠実が船で南津へ至ったことが記されている。
『台記』仁平4年5月13日〔史料99〕: 　9日に宇治へ至っている。この日は帰洛の途についており、まず船に乗り富家へ向かっている。渡河の可能性については前述の通りである。その後、富家から鳥羽へ至り、翌日帰洛している。わざわざ鳥羽を経ていることから、巨椋池を横断した船行きの可能性もあるが、鳥羽から宇治まで陸路を用いた例⁽²⁶⁾もあり、断定はできない。
『兵範記』久寿2年2月4日〔史料100〕: 　忠実が宇治から京都へ向かう折、小巨倉津から乗船している。船中で不快を訴え、「大嶋」にて休憩するも容態は回復せず、宇治へ引き返している。橋下で上陸と見るべきか。頼長が宇治へ駆けつけると回復するあたり、背後に何らかの事情があるのかもしれない。「大嶋」について詳しいことは分からないが、その名前から、巨椋池上に存在する島嶼のなかでも大きなものであったかと想像される。
『台記』久寿2年4月3日〔史料101〕: 　宇治からの復路。平等院へ向かった後、船に乗り、伏見津へと至っている。
『兵範記』保元2年10月19日〔史料102〕: 　17日宇治へ向かい、その復路。平等院に参った後、伏見津まで巨椋池を縦断しているのが分かる。
『兵範記』保元3年10月21日〔史料105〕: 　後白河法皇の宇治御幸の後、法皇に1日遅れて作者も帰洛する折の記事。乗船地に関する情報が全くないが、船で宇治から伏見津へ向かったものと考えて間違いなかろう。
『玉葉』文治3年8月22日〔史料110〕: 　21日、氏長者になって以来初めて平等院に至った兼実は、同様の場合先例では日帰りが多いにも関わらず宿泊し、この日の天王寺詣に備えている。天王寺詣は船を利用するものであり、無駄足を省いたものかと想像できる。宇治を発った船は巨椋池・淀川を経て窪津に至り、そこから陸路天王寺へと向かっている。復路は23日出発、船遊びをしながら夜行で淀川を遡航し、24日帰洛している。
『玉葉』建久4年10月28日〔史料114〕: 　25日、東大寺詣にて奈良へ至った。翌26日宇治まで帰ってきており、この日は宇治よりの帰路である。その際、宇治から船に乗り、日野薬師へ向かっている。渡河の可能性もある。巨椋池の行程だとすれば、木幡あたりでの下船かと思われる。
『玉葉』建久5年9月17日〔史料116〕: 　京都で制作された興福寺の仏像を奈良へと運ぶ行程。15日、その大きさを理由として、脇士座光などを船で運ぶことに決している⁽²⁷⁾。17日当日は天候に恵まれず、水陸ともに思うに任せない様子が知られる。この夜、平等院へ至っており、船での輸送を担当する人々も宇治に至ったとすれば、巨椋池を横断していることとなる。但し、分からないことが多い。
『玉葉』建久7年3月5日〔史料119〕: 　2日から6日まで宇治に滞在中の記事。「暫以望遊」とあり、船に乗り景色を楽しんでいることが知られる。宇治川上流への船遊びの可能性と巨椋池上での船遊びの可能性が拮抗する記事である。なお前日も船遊びをしようとしたが雨で中止している⁽²⁸⁾。
『猪隈関白記』建久8年閏6月16日〔史料120〕: 　この日、平等院詣にて宇治へ至っている。その際の手段等は不明だが、用事を済ませた後、夜になり船に乗っている。船遊びであろう。宇治川上流か巨椋池か、その行き先は不明である。
『猪隈関白記』建久8年閏6月17日〔史料121〕: 　終日遊興に耽っているが、船遊びもしていたらしいことが分かる。行き先等詳細は全く不明である。19日に帰洛している。

第5節　各史料に見えた巨椋池船行き　～彼らにとって「巨椋池船行き」とは～

　以上、紙面を費やして、各史料に見る巨椋池の船行きを見てきた。それらから見えてくる巨椋池の船行きとはいかなるものか、考えてみたい。

遊興要素

　まず、目立って見られたのが「遊び」の要素である。宇治における船遊びはもちろんのこと、二点間を結ぶ船行きにおいても、例えば『御堂関白記』長和2年10月6日〔史料7〕の4ように、船の中で遊興を楽しんでいた例が散見される。
　また、船を利用する場合、もの詣での行程である割合が高めであることも注目すべき点である。
　もの詣でには、真剣な祈りを感じなければならないが、同時に乱暴な言い方をすれば、遊びの要素をも感じることができる。
　貴族の移動であるためか華やかさを感じる場合もあり、行程的に無駄な経路を経る場合すらある。心願を抱きつつも、京外への外出を楽しんでいるさまを想像できるのである。
　道中を楽しむ際に船を利用するという点は、巨椋池を利用する行程に限るものではなく、天王寺詣の復路は船中での遊興も見られる。
　「もの詣で」という行為そのものの変遷について詳しくないが、もの詣での浸透と船利用の変遷が重なってくることも想像される。

道長以降の浸透

　また、時代的には藤原道長以降が圧倒的である。先に本稿は11・12世紀を対象にするとしたが、実際にはそれ以前に同様の記録が見られなかったのである。
　その理由は2つあると考えている。ひとつは、日記史料等の残存状況によるものであろうし、もうひとつは、そのころ以降京都と宇治との往来が盛んになったという理由である。
　それでは、なぜ道長の時代以降、貴族達が宇治へと通うようになったのであろうか。それは、巨椋池における船行きにおいて重要な位置を占める「宇治」そのものが変容したことと無関係ではあるまい。

宇治の変容

　摂関時代、最も輝いていたのは藤原道長であろう。宇治別業が長徳4年頃に道長のものとなった時、その風光明媚な立地と相俟って、宇治は華やかな貴族文化の中に組み込まれたのである⁽²⁹⁾。いささか唐突に巨椋池の船行きが見られるようになったのは、こうした背景によるものと言って良かろう。
　しかし、道長に代表される栄華の極みは、同時に凋落の入口でもあり、また末法の世が近づいていたのは、貴族達の心に深く翳りを感じさせたものであったと思われる。
　そうした時代背景の中で、『宇治市史』が指摘する通り⁽³⁰⁾、宇治はさらに変容を遂げて行った。
　それは、なんと言っても平等院に象徴される。つまり、別業地であることに加えて、宗教的な香りのするまちへと変貌を遂げたことである。
　よく知られるように、源融に始まる宇治別業は摂関家へと伝領され、頼通はそれを寺院と成した。これが平等院である。
　以来、平等院は、摂関家にとって「聖地」のような存在となり、氏長者たちをはじめとして度々平等院へ詣で、また頼通忌日や、一切経会が、年中行事として盛大に催されていた様子は各日記類などから垣間見ることができる。
　平等院が開かれたことで宗教的意味合いを持った宇治は、別業地としての機能を失ったのではないが⁽³¹⁾、貴族たちにとっての「宇治」の意味合いが従前とは異なるものになったことは言うまでもないであろう。
　阿弥陀浄土を表現した平等院。宇治への往還は、いわば彼岸へと向かう道行きという感も芽生えたかもしれない。
　非日常の中で、彼岸への遠い渡河を、巨椋池の船行きで体現しようとしていたのではないか、と想像するのは考え過ぎなのだろうか。
　ただ、事実として、宇治との往復、そして巨椋池の船行きは、宇治の変容と共にあることは指摘しておきたい。

第3章　巨椋池沿岸の港津

　巨椋池の上を船で移動する場合、当然のことながら、ある地点において上下船することとなる。
　その場所は、ある程度の水深さえあれば何処でもあり得るわけであるが、こと貴族の日記類に登場するものは、陸上交通との結節点でもある場所と言えよう。
　上下船する地点にどの程度までの設備があったのか、片鱗のみ知り得る場合もあるものの、ほとんど不明である。しかし、機能上、また史料にも「津」と明記される場合があることから、これら地点をも「港津」と呼ぶこととする。
　その分布は、移動経路とも大きく関連し、巨椋池北部・巨椋池東南部・巨椋池西部に大別することができる。
　北部にある港津としては鳥羽南津・鴨川尻・草津・伏見津などがあり、東南部は宇治津・富家・岡屋津・小巨倉津などが、西部には淀津・丹波津などが挙げられる。
　以下、これら巨椋池沿岸の港津について、考察を加えてみたいと思う。
　なお、各津の場所については、図1を参照していただきたい。

鳥羽南津

　京都の南、鴨川と桂川が合流していた鳥羽あたりに存在した津である。史料中では「鳥羽南津」のほか「鳥羽南」として見られる。巨椋池に関する行程では『台記』中に3回この地名を見ることが出来る。
　鳥羽の地で忘れることを出来ないのが鳥羽殿である。白河上皇によって造営されたものであり、西に桂川・東に鴨川を控え⁽³²⁾、明媚な場所だったようである。
　鳥羽南津に関する船行き記事の初見は、少なくとも把握している限りにおいて天仁3年〔史料35〕と鳥羽殿造営以後であるため、鳥羽殿と関わりのある津であったのかもしれない。

鴨川尻

　「鴨川尻」「鴨河尻」「賀茂河尻」いずれもの表現で見られる。元来、川尻とは川下と言う意味であるが、具体的に鴨川尻とは鴨川と桂川との合流点⁽³³⁾を指す。
　川の合流点ともなれば、流れが複雑で港津の立地として相応しくない感もあるが、反面で結節点としては重要な位置を占めるものであり、鴨川も例外ではなかったようである。
　当然、両河川の合流点付近に立地したと推測できるが、鳥羽南津との位置関係を含め、詳細までは不明である。

草津・船津・高畠

　巨椋池に関する行程では見られなかったが、これらも鳥羽周辺に存在した津であり、淀川を上下する行程などで利用された記録が見えた。巨椋池を行く行程においても、上陸地を明記しないものの中にはこれらを利用したものがあったかも知れない。
　船津は、収集した限りにおいて、何らかの宗教的な往来に利用されている。『台記別記』久安5年11月30日〔史料87〕においては「船津に於いて御祓あり」とあり、また壇ノ浦の戦のあとの神鏡神璽入洛においても何らかの儀式が行われた節がある⁽³⁴⁾。
　高畠の立地を考える上で、『玉葉』元暦2年4月25日〔史料107〕の記事が参考になる。史料中には「高畠橋」とあるが、港津施設としての高畠もその近辺と考えて良かろう。
即ち、草津と近接していることが推測されるのである。なお、山城国紀伊郡に「高畠庄」があるが初見は明応4年⁽³⁵⁾であり、少なくともこの段階において津との関連は不明である。
　いずれにせよ、これら鳥羽周辺の港津はある程度近接して設置されていたようである。都の玄関口としての役割を考えれば当然のことであろう。

伏見津

　近世以降、淀川水運に大きな役割を果たす伏見も、この段階ではさほど重要な港津ではないようである。
　『京都大事典』⁽³⁶⁾によれば、伏見は、延久年間頃に橘俊綱が伏見山荘を造営して以来の別業地だったという。
　伏見津の初見は天仁2年⁽³⁷⁾であり、伏見が別業地になって以降、伏見津が利用されるようになったのであろう。
　その所在は、巨椋池北岸にあり、後の柿ノ木浜あたりであろうことは想像できるが、詳しい場所を知る手がかりは何もない。

宇治津

　宇治津は、『宇治市史』において考察されているように⁽³⁸⁾、宇治橋の上下流付近の左岸に存在したと考えるのが妥当である。
近江から宇治川を経由して材木を輸送する際の中継点として木津たる機能を持った津であり⁽³⁹⁾、また材木輸送のみならず、瀬戸内海から繋がる船運の最上流点にある津として利用されていたと言われている。
　現在の宇治川は豊臣秀吉の河道遷移により六地蔵方面へ大きく迂回して淀方面へと向かうが、それ以前は宇治橋の下流より、分流をつくりながら直接巨椋池へ注いでいた。宇治津は、分流を生じる前の宇治川本流に設けられていたということができる。
　現在の宇治川は宇治より上流・天ヶ瀬にダムが出来、往時の様子をとどめないが、ダム建設以前に作成された地形図より推測するに、天ヶ瀬～宇治橋付近が傾斜変換線にあたり、往時も流速は速かったものと考えられる。その様子は和歌などにも詠まれている⁽⁴⁰⁾。
　そのことから、一般にこれより上流の遡航は不可能とされ、瀬戸内海から続く航路の最上流地点であったのと同時に、陸上交通路の要地として、また貴族の別業地としての宇治のまちに隣接する、重要な港津施設であったと言えるのである。
　しかしながら、宇治津の場所は、急流である宇治川本流に接する立地であった。もちろん、工夫して穏やかな船溜まりを設けていたであろうことは推測できるが、宇治のまちに隣接していなければ、津を設けるのにはあまり適した立地とは言えないように思われる。
　宇治のまちに隣接しているのがこの津の最大の意義である。先に見たように、貴族たちの船での移動は対宇治のものがほとんどであり、必然的に宇治津は巨椋池沿岸における最重要港と言うことになる。

橋下

　「橋下」なるところで乗下船している記載が見られる⁽⁴¹⁾。宇治津との関係を含め詳細は不明だが、宇治津とは異なる宇治での港津として注目しておきたい。

釣殿

　平等院の釣殿の川岸にも船寄があったらしく、渡河の際に利用していたことがわかる⁽⁴²⁾。巨椋池を行く船行きの記事では釣殿に船を寄せた旨の記載は見られなかったが、乗下船地が明記されていない場合に、実は利用されていた可能性も否定できない。

岡屋津

　岡屋津は、宇治津よりもやや下流の右岸、宇治郡岡屋郷にあった津で、巨椋池東端の津と言うことが出来る。宇治郡第一の津として「大津」の美称でも呼ばれ、宇治郡家の津、安祥寺の津、醍醐寺菩提院の津、摂関家の津など、様々な性格を遍歴する⁽⁴³⁾。時代は下るが『善隣国宝記』〔史料123〕には、文永12年＝建治元年（1275）、蒙古・高麗よりの使者が、山崎～岡屋へと直通し、醍醐を経て関東へ向かったとある。つまり京都を通過しない東西の交通路上に岡屋津があったとも性格付けられる。
　秀吉による河道遷移によって事実上その生命を絶たれるまで、重要な港津のひとつであったのは間違いあるまい。
　宇治川は巨椋池へ分流を形成しながら流れ込むことは先に紹介した。それは、条里制区画の有無など土地の撹乱によって知られるわけであり、『宇治市史』においては、概ね次のように流路を想定している⁽⁴⁴⁾〔図6参照〕。

Ａ［本流］槙島薗場～大播～播貫～石橋～一ノ坪～
Ｂ［（右岸側）分流］槙島吹前～中川原～大川原～南落合～
Ｃ［（左岸側）分流］槙島外～一ノ坪～

　岡屋津は、槙島の東から北へと迂回する右岸側分流に面していた津であった。
　宇治津と大きく異なるのは、「分流」に面していることである。
　『宇治市史』でも指摘されているように⁽⁴⁵⁾、この分流は津の推定地上流で曲流して流れが弱められ、津付近では比較的穏やかな水流であったことが推測される。もちろん、宇治のまちという要地に接してはいない点で宇治津に対し不利であるものの、港津の地形的条件という点では宇治津よりも有利にあったと考えられる。

小巨倉津

　小巨倉津については、先学の足跡が乏しいように思われる。市域ではあるが『宇治市史』に「津」としての明確な記述はなく、また地名辞典類にも、最近になってようやく『古代地名大辞典』⁽⁴⁶⁾にて項目立てして取り上げられたに過ぎない。
　よって、紙面を費やして、考察しておくことにする。

小巨倉津の名称について

　まず最初に、「小巨倉」という名称について触れておきたい。
　小巨倉津は、『古代地名大辞典』をはじめ『宇治市史』⁽⁴⁷⁾や『講座日本荘園史』⁽⁴⁸⁾でも指摘されているように、小巨倉庄と何かしらの関係がある津であったのだろう。
　辞書の項目立てからすると「こおぐら」であり、荘園「小巨倉庄」についても同様の扱いである。
　小巨倉庄と兄弟関係ともいえるものに、巨倉庄がある。これは特に疑問もなく「おぐらのしょう」と読める。
　こうした「小」の付加による類似地名は、荘園のみに限定しても、中島荘／小中島荘（滋賀県高島郡）、松原荘／小松原荘（兵庫県姫路市～高砂市）、真上荘／小真上荘（大阪府高槻市）、船木荘／小船木荘（滋賀県近江八幡市）、大田荘／小大田荘（奈良県桜井市）など散見することが出来⁽⁴⁹⁾、特異なことではないようである。
　平安遺文2847号⁽⁵⁰⁾に「巨倉」「小倉」「小巨倉」が併記されているのが注目される。
　一部引用すると、

　　　御庄々
　　　（略）
　　　巨倉{山城国}　　小倉{山城国}
　　　（略）
　　　真水{巨倉内}
　　　泉殿{小巨倉内}　五條殿{巨倉内}
　　　保元々年七月　日
　　　　　　　　（ママ）

とある。
　一見、「巨倉」「小倉」「小巨倉」の表記が全て見え、それぞれ別の存在に思える。『宇治市史』では同史料を以て「小倉」と「小巨倉」は別個の存在だったとしている⁽⁵¹⁾。
　しかし、子細に眺めると、真水・五條殿がその所在として割注で「巨倉内」とあて、その巨倉庄も併記されているのに対し、泉殿が所在としてあてている「小巨倉」庄は併記されていない。
　これはむしろ、「小倉」が、「小巨倉」の「巨」が省かれた略記であると考える方が自然ではあるまいか。
　そうすると、3種類の表記が併記されてはいるものの、実体は二ヶ所を指していることが理解できよう。
　さて、「小巨倉」を先に「こおぐら」と読むとした。しかしこれを疑問視する向きもある。
　つまり、もともと「巨」という字に「お」という読みがないことから、「小巨倉」3文字で「おぐら」と読むのではないかという指摘である。
　それに関して、興味深い史料がある。
　『殿暦』永久3年5月18日〔史料37〕の記事には「小小倉」という記載が見える。『大日本古記録』編者は一文字目の「小」を「衍カ」としているが、これはいままで「小」の付く「おぐら」が一般に知られていないためであろうと推測でき、「巨倉」「小巨倉」が実際に並立する中で敢えて同じ文字を繰り返すところからも、一文字目の「小」も衍字ではないと思われる。同時に、それは「こ」と読むことが推測できよう。
　なお、もともと「巨」に「お」という音がなく不自然という指摘ももっともであり、先の指摘に対し上記結論を掲げるにあたって、何らかの答えを用意するのが礼儀であろう。
　これについては、目下、『万葉集』巻九所収の柿本人麻呂歌、

　　　巨椋乃　入江響奈理　射目人乃　伏見何田井爾　雁渡良之」
　　（おほくらの　いりえとよむなり　いめひとの　ふしみがたゐに　かりわたるらし）

の「巨椋」という文字を「おほくら」の音に当てて用いていることによるのではなかろうか、と考えている。
　「巨」が「大きい」に通じるためであろうか、万葉仮名の段階において「おほくら」≒「おぐら」に「巨椋」という文字を既に当ててしまっているのであり、それ自身歴史的な過程を経ているため如何ともし難い。
　新たな知見が得られるまで、このように結論づけておきたい。

小巨倉津の所在について

　では、小巨倉津はいったいどこに存在したのであろうか。
　まず手始めに、小巨倉津と関わりが推測できる小巨倉庄の場所について考えてみよう。
　小巨倉庄の場所を考える上で参考となるのは、先に名称の考察で掲げた、平安遺文2847号である。
　すなわち、小巨倉庄内に「泉殿」があることが知られるわけである。
　泉殿は、藤原師実の宇治の居所・四条宮寛子の居所であったところとして知られる。一貫してひとつの建物であり続けたかどうか分からないが、後に宇治の七名水のひとつに数えられる「泉殿」があり、おおよそ現在のユニチカ工場内に所在したとの推察がある⁽⁵²⁾。
　ここから考えれば、ＪＲ奈良線・宇治駅の北に広がるユニチカ宇治工場あたりに小巨倉庄があったのではないかという推測ができる。
　ただ、この時期の京都近郊の荘園は特に入り組み状況にあり、そのあたりが即ち小巨倉庄だとは言い切れない。1ヶ所に断定してしまうのではなく、ユニチカ工場付近をも「小巨倉」と呼んでいたと考えるに止めておきたい。
　現在の「おぐら」つまり宇治市小倉町の範囲を考えると少し離れている感もあるが、貴族の利用した泉殿を想定するにはこのあたりが逆に限界となろう。
　それでは、津そのものは何処であるのか。史料からその場所を推定する作業を試みることにしたい。

　今までに出会った小巨倉津の利用を示す史料は、『殿暦』永久3年5月18日〔史料37〕、『台記』久安4年5月18日〔史料81〕・同年閏6月20日〔史料84〕、久安6年8月3日〔史料91〕、同月30日〔史料93〕、『兵範記』久寿2年2月4日〔史料100〕、である。
　これら史料のうち、久安4年閏6月20日の記事は、宇治より小巨倉津へ至る経路が示されている。出発点がはっきりしていないのが心許ないが、「御所」の北をまわり、大路を経て、小巨倉津へと至っているのが分かる。
　ここで「御所」というのはどこにあたるのか。台記を著した藤原頼長の父・忠実の居所とするならば、時期的に西殿であろうと想像できる⁽⁵³⁾。
　「大路」とあるのは大和大路（県通り）であろうことは間違いないと思われる。小松殿の南に小河大路・北に成楽院南大路がある⁽⁵⁴⁾ことは指摘しておかねばならないが、大路のあと、他に経路が挙がらないことから、やはり大和大路と推測するのが自然なように思う。
　史料にある「大路」が大和大路であった場合、それをどちらへ向かったかが次に問題となる。もちろん史料から伺えるように、皆目見当がつかない。ただ、京都方向へ向かうと、そこには宇治橋があり、その周辺には宇治津があったはずである。しかし、実際には小巨倉津を利用している。
　宇治津を目前にしながら、宇治橋のたもとから敢えて小巨倉津へと向かったか、それともそもそも大和大路を奈良方面へ向かったかのいずれかであろう。前者ならば宇治橋より下流の左岸、後者ならば宇治橋下流左岸を含む巨椋池東南部、おおよそ現小倉周辺あたりまでに小巨倉津を想定することになろう。

　ところで、この小巨倉津の利用には、概ね時期的な傾向が見いだせるように思われる。
　具体的には、2月・5月・6月・8月、新暦に換算するとおおむね3月・6月・7月・9月にあたる時期である。往時も琵琶湖による調水作用が期待できたとはいえ、宇治川の水量が増し、そして流れが速まっていたことが想像できる時期にあたる⁽⁵⁵⁾。
　先に述べたように、宇治津は場所的には有利ながらも、急流である宇治川本流に面するなど自然条件的には不利であった。
　つまり、小巨倉津には、流量・流速の増大する時期における、宇治津の「代替港」⁽⁵⁶⁾的性格が想起される。
　もちろん、圧倒的に史料数が少ないため、これも推測の域にとどまるわけであるが、今までの考察をまとめると、おぼろげながらも小巨倉津の立地が見えてくる。
　つまり、

現在のユニチカ工場内に位置したであろう泉殿を含む小巨倉庄にあり
宇治橋より下流の宇治川左岸～巨椋池東岸小倉周辺にあり
宇治川の流量・流速の影響が和らぐ地点

である。
　そこで思い出されるのが、岡屋津の項にて掲げたうち、槙島外～一ノ坪～と流れた左岸側の宇治川分流である。そのあたりは、現在槙島町に属するものの、小倉町にも近く、名称的にもさして不自然なところはない。
　岡屋津の場合同様、こうした分流は本流よりも流れが穏やかである。
　左岸側の分流の場合、1年を通じては、岡屋津ほど豊かな水量に恵まれなかった可能性がある。つまり、分流の規模が右岸側ほど大きくなく、また流れの向きも本流・右岸側分流とはわずかに異なっている。
　よって、1年を通じて利用できる津が提供される分流ではなかったかもしれないが、反面、流量・流速の増大する時期には「代替港」として利用されたのではないだろうか。
　ここまでの推論の行き着くところとして、「左岸側分流に面し、特にユニチカ宇治工場北部に近いあたり一帯」という場所の推定を掲げておくことにしたい。

富家

　宇治周辺の港津として、もうひとつ富家を挙げておきたい。
　富家とは、もと藤原忠文の別業であり、由来があって摂関家領となった。忠実が愛用した別業でもあり、日記『殿暦』に富家殿を訪れた様子が散見される。
　即ち住居であり、港津と呼ぶに相応しいかどうか多少疑問ではあるが、こと『殿暦』をみる限り、少なくとも藤原家のプライヴェートポートとも言えるものでもあったように思われる。
　その所在は、久御山町佐古にあった可能性があるという指摘⁽⁵⁷⁾もあるが、一般には現在の宇治市五ヶ庄付近にあったとされている。現流路の宇治川をはさんで対岸に「吹前」という地名が残っており、おおよその場所を知ることが出来る⁽⁵⁸⁾。『殿暦』には富家殿を「北殿」と記したものもあり⁽⁵⁹⁾、宇治の北にあるという相対的な位置からも是認できるであろう。岡屋津よりは南にあったのであろうか。
　富家殿のすぐ前には「小河」があったという⁽⁶⁰⁾。岡屋津の項で触れた、右岸側の分流もしくは更にその分流かと思われる。

淀津

　淀津は、岡屋津のちょうど対称地、つまり巨椋池の西端の津として位置づけられている⁽⁶¹⁾。場所については、現地名にて京都市伏見区納所町・淀美豆町・淀町木津・淀大下津町と諸説あるが⁽⁶²⁾、いずれにせよ現在一般に「淀」と呼ぶエリアに所在したと言える。
　淀川の山崎津に代わる公的な津として、近世以降伏見に港津機能の中心が移動するまで、淀川航路にとって重要な拠点であった⁽⁶³⁾。同時に、淀の橋を介して、陸上交通路の要でもあった⁽⁶⁴⁾。
　当時の淀は、宇治川の水を注ぐ巨椋池の出口であり、かつ木津川・桂川が合流してくるあたりであったためか、渡河における水難記事も見える⁽⁶⁵⁾ほどである。
　反面で水量は豊富であり、『玉葉』文治4年9月15日〔史料111〕の記事には、天王寺詣へ向かう折、鳥羽・草津は水嵩が浅く船に乗られず、ようやく淀魚市で乗船したという記載も見える。
　このように水陸交通の要であった淀ではあるが、こと巨椋池に亙る船行きの場合、乗下船地として利用されることは少なかったのか、あるいは利用されなかったのか、わずかに経由地として見られるばかりである。
　その原因は判然としないが、巨椋池にて利用する船ならば、京から離れた淀で乗下船するまでもなく、桂川まで船を入れやすかったのではないかと考える。もちろん、他の要素、特に陸上での事情によるものかもしれないが、桂川は淀よりも水嵩が浅かったはずであり、この考えを補強する事実と言えよう。

丹波津

　『京都府の地名』⁽⁶⁶⁾には「たにはのつ」として項目立てされている。
　この津については、『巨椋池干拓誌』⁽⁶⁷⁾及び『久御山町史』⁽⁶⁸⁾にて考察されている。両者の推定には相違があるが、『久御山町史』の考察のほうが丁寧でもあり、また当を得ているように思われる。
　要約すれば、同町島田・坊之池・中島の東を北上し相島の南東をかすめ東一口から巨椋池に注いでいたという木津川旧河道沿いに存在した津であり、同町中島小字法楽寺付近に所在したと推測されている⁽⁶⁹⁾。
　奈良に関わる方違の地として利用されていたことが『殿暦』永久4年3月16日〔史料42〕や『玉葉』安元2年11月22日〔史料106〕に見られる。
　また『台記』久安6年4月4日〔史料88〕、頼長が鳥羽から木津まで船を利用して春日詣に向かう際に一夜を過ごしている「木津、川尻」というのは、或いはこの丹波津のことかもしれない。
　文禄～慶長年間に行われた津田長門守信成による切替工事⁽⁷⁰⁾までは巨椋池と木津川の支流との合流点に近接していた場所柄にあり、別添資料編にはほとんど見えない津ながらも、ある程度巨椋池水運との関係を想像することができる。

山崎津

　山崎は、もと主に淀川航路を行き来する際に利用されていた津であるが、唯一『為房卿記』承暦3年8月25日〔史料26〕に、頼通が、宇治より巨椋池上を船で西に進み、河陽に立ち寄って、帰洛した記事が見える。
　山崎は京都の外港と言うには些か遠く、淀川筋の船利用を含めても、その地位は漸次低下していた感がある。本稿冒頭で掲げた巨椋池の範囲から逸脱するが、珍しい例でもあり、ここに紹介しておくこととする。

終わりに

　以上、これまでに知り得た巨椋池に浮かんだ船の様子を眺めてみた。

　第1章においては、巨椋池に浮かぶ船の可航性について検討した。
　推測も多く、結論と言えるかどうか心許ないが、目安として100石積みの船程度までは巨椋池に浮かび得た可能性が高いことは指摘できるであろう。
　もちろん、さすがに100石積みとなれば場所によっては水深のため航行不能であろうが、船の規模次第ではさらに喫水が浅くなるわけで、ある程度の輸送力を備えた船が巨椋池を行き来することが出来たであろうことは間違いあるまい。
　また、前述の如く、時代が異なるとはいえ、100石以下の船が圧倒的な数を占めていたことを考えれば、実に多くの船舶の航行が可能であったと言えるであろう。
　ただ、降水量が船の運航を左右した可能性はある⁽⁷¹⁾。1年を通じて船が利用できる湖沼だとまでは考えない方が良いのかもしれない。
　わずかな水深で船の運航が左右される中、巨椋池はその可否の境界線上を行き来する湖沼であったと言うことが出来よう。

　第2章においては、実際の船行きを挙げ、僅かなりと考察を加えた。
　完全に遺漏がないとは言い切れないが、多くの実例を挙げることができたと考えている。
　考察をまとめてみると、貴族達にとっての巨椋池は、概ね「遊び」の場であり、宗教的に彼岸へと渡る道であったと言える。
　特に内陸の船は、物資の大量輸送や、人々の渡河といった利用が注目されがちであるが、そのような営みとは大きく異なる船のありかたが巨椋池においては垣間見られるのである。
　ひとえに、都に近接し別業地との間に存在するという立地条件によるものであろうし、もちろん巨椋池の船行き全てに通じるものではなかろうが、ここに見てきたような貴族達の記録からは、一般的な船のありかたとは異なる船行きの様子が見てとられるのである。

　第3章においては、巨椋池沿岸の港津について検討した。
　この時代の巨椋池沿岸における港津の所在及びその様子について、ある程度先学を補足出来たのではないかと考えている。特に、小巨倉津についてはこれまで考察されてきておらず、その実態を明らかにする上で新たな一歩を踏み出すものであれば、と願っている。
　今後、時代による変遷を考えていく必要があると思われる。

　以上、巨椋池に船が行き来していた実態の一側面までは明らかに出来たのではないかと考えているが、いくつか課題を挙げておく必要もある。
　陸上交通に関わる考察がなく、いわば「オカ」に対する「ウミ」からの視点に偏った感があり、また隣接する河川の水上交通についても触れる余裕がなかった。
　文学作品などに依るところが少なくなってしまったのも残念なところではある。
　貴族達の船行きばかりを取り上げたものであり、巨椋池の船利用の全体像を明らかにしたものとはほど遠いが、とまれ、その全容を把握する一段階として纏めておきたいと思う。

　本稿が、いまは亡き巨椋池への鎮魂歌の一節となれば幸甚である。

付言

　研究・発表の技術上の研究課題である「ネットワークの活用」の一環として、収集した史料の検索・整理が可能なページをインターネット上に設置し、実際に執筆時も活用してきた。
　当該ページは修士論文の審査修了まで非公開としているが、いずれは本文を含め一般公開も行いたいと考えている。

謝辞

　本稿執筆には、歴史・地理等の先学の助けに負うところが大きかった。先人たちに感謝したい。
　三重県志摩郡大王町の坂中信介氏、滋賀県湖北町「丸子船の館」の職員さん、白浜町グラスボート船員さんから、船に関して取材にご協力いただいた。
　史料の検索機構は、著者が企画し、制作には新美慶和氏のご協力を仰いだ。
　諸姉諸兄に改めて感謝申し上げる次第である。
　そしてなにより、指導教官たる同志社大学文学部竹居明男教授にはひとかたならぬお世話になった。篤く感謝申し上げる次第である。

注

　『巨椋池干拓誌』（巨椋池土地改良区、昭和37年、追補再版昭和56年）26頁。
　『巨椋池干拓誌』38頁。
　同書第2章第1節「巨椋池の変遷」。
　『巨椋池干拓誌』137頁。
　『巨椋池干拓誌』169頁。なお、木津川は明治元年の川違いにより現流路へ遷移している（『同書』146頁）。
　『久御山町史』（久御山町史編さん委員会編、昭和62年～平成4年、久御山町）第2巻・510～513頁。
　『宗長日記』大永4年5月11日及び『季瓊日記』11月1日。
　『巨椋池干拓誌』18頁。
　標高35尺以下が水深0.92ｍ以上の範囲となる。
　『巨椋池干拓誌』20頁・26頁等。ただし『京都新聞』平成12年12月20日付朝刊「森浩一の京都学事始め」によると、弥生時代以降も汀線は変動していたようである。
　『久御山町史』第2巻、246頁
　『湖と人間　びわ湖の足あとの、ここが入口。琵琶湖博物館展示ガイド』（滋賀県立琵琶湖博物館編集、平成8年10月、滋賀県立琵琶湖博物館）
　吉田敬市「山城盆地に於ける河川交通の変遷」2（『歴史と地理』29巻4号、昭和7年）。なお以降水量減少により小型化、と言う。
　泉雄照正「伏見船考」（『地方史研究』89号、昭和41年）所収の表。元禄13年の過書船の数を示し、250から110石積みが総計94艘、100石積みが41、100石未満が雑多込みで468、とする。
　「おもぎ」と読む。丸子船の両側にある、バランスを確保するために取り付けられた半丸太のこと。
　『猪隈関白記』建久9年6月24日〔史料122〕等
　なお、『続日本紀』天平15年6月26日〔史料1〕・『続日本紀』宝亀8年冬〔史料2〕・『日本紀略』長元5年6月〔史料22〕などには宇治川が枯渇して徒渉できたという記事も見える。
　『宇治市史』1「古代の歴史と景観」（林屋辰三郎・藤岡謙二郎編、昭和48年、宇治市）、508頁
　『宇治市史年表』（林屋辰三郎編、昭和58年、宇治市）60頁
　『大日本史料』第三篇之五・堀河天皇（東京帝国大学文学部史料編纂所編纂、昭和元年～12年、東京帝国大学文学部史料編纂所）の同日条は「蚊松」としている。なお史料本文での書体は史料編冒頭の注記を参照していただきたい。
　『殿暦』永久4年3月16日〔史料42〕・同月17日〔史料43〕及び『玉葉』安元2年11月22日〔史料106〕に記載されている先例など。
　『小右記』永延2年10月6日〔史料3〕に類例がある。
　『兵範記』保元3年10月19日〔史料104〕条によると、釣殿前から川を遡って井堰へ至っているのが明らかである。
　『台記別記』仁平3年11月26日〔史料98〕は「樓船」で宇治川を渡河している。
　『玉葉』安元2年11月22日〔史料106〕等。
　『為房卿記』寛治元年5月19日〔史料27〕。
　『玉葉』建久5年9月15日〔史料115〕。
　『玉葉』建久7年3月4日〔史料118〕。
　『宇治市史』1「古代の歴史と景観」、429～430頁
　同書1「古代の歴史と景観」、509頁
　後に忠実が余所ではなく宇治で隠棲したのは、こうした両側面が高じたものかもしれない。
　『京都歴史アトラス』（足利健亮、平成6年、中央公論社）等によると、鴨川は現在よりも東側を流れていたようである。
　合流点以南は桂川となるため鴨川の終点でもある。
　『玉葉』元暦2年5月9日〔史料108〕参照
　『日本荘園データ』（国立歴史民俗博物館資料委員会編、平成7年、国立歴史民俗博物館）1、32頁
　佐和隆研ほか編集、昭和59年、淡交社
　『殿暦』天仁2年2月14日〔史料34〕
　『宇治市史』1「古代の歴史と景観」、442頁
　『宇治市史』1「古代の歴史と景観」、440～443頁／『久御山町史』1、147頁
　『宇治市史』1「古代の歴史と景観」288頁に紹介されている『万葉集』巻11・柿本人麻呂歌等
　『殿暦』永久5年6月6日〔史料60〕・元永元年閏9月9日〔史料61〕、『台記別記』久安5年10月19日〔史料86〕、『兵範記』久寿2年2月4日〔史料100〕
　『兵範記』保元3年10月17日〔史料103〕、『玉葉』文治3年8月21日〔史料109〕・文治6年3月25日〔史料112〕・同月26日〔史料113〕・建久7年3月2日〔史料117〕
　『宇治市史』1「古代の歴史と景観」、444～447頁／『久御山町史』1、147～149頁
　同書1「古代の歴史と景観」、377頁等
　同書1「古代の歴史と景観」、337頁
　（角川書店、平成11年3月）
　同書1「古代の歴史と景観」、621・622頁
　同双書7「近畿地方の荘園Ⅱ」（網野善彦・池田好信ほか、平成7年3月、吉川弘文館）、62～63頁
　『日本荘園データ』、1巻
　天理図書館所蔵文書／藤原忠通書状案、保元元年
　『宇治市史』6「宇治川西部の生活と環境」（林屋辰三郎・藤岡謙二郎編、宇治市、昭和56年）、513頁
　『宇治市史』1「古代の歴史と景観」、564頁
　『宇治市史』1「古代の歴史と景観」、569頁
　『宇治市史』1「古代の歴史と景観」、570頁地図
　特に『台記』久安6年8月30日〔史料93〕は「洪水」の文字が見える。
　前出の『御堂関白記』寛弘元年閏9月22日〔史料6〕の如く、普段用いる港津が使えない場合に利用する港津を「代替港」と呼ぶことにする。
　藤本孝1「近衛家領山城国富家殿について」（『歴史地理学会会報』82号所収、昭和50年）
　『宇治市史』2「中世の歴史と景観」（林屋辰三郎・藤岡謙二郎編、宇治市、昭和49年）、481頁～482頁
　『殿暦』永久3年2月17日〔史料36〕
　『殿暦』永久3年9月21日〔史料38〕・永久4年4月15日〔史料46〕等
　『宇治市史』1「古代の歴史と景観」、338頁／『久御山町史』1、149頁
　『宇治市史』1「古代の歴史と景観」、447～449頁
　吉田敬市「山城盆地における河川交通の変遷」4（『歴史と地理』29巻6号、昭和7年）
　ただし貴族は宇治川の渡河同様、概ね船を利用して渡っている。
　『小右記』寛仁元年9月23日〔史料13〕・同月24日〔史料14〕など。
　（日本歴史地名大系26、昭和56年、平凡社）
　『巨椋池干拓誌』124～127頁
　同書第1巻、149～154頁
　『久御山町史』第1巻、154頁
　『久御山町史』第1巻、420頁
　紙数の問題で本稿からは割愛したが、『御堂関白記』及び『台記』を題材に降水量と船利用時期の相関を検討したことがある。確証するには至っていないが、水面が穏やかで水深も確保されるような、適度な降水量の折に船が利用される場合が多いように思われた。「小巨倉津」について代替港が想起されるのもそうした背景がある。

史料編

史料は古いものから並べ、連番を付した。
割注は｛｝内に囲って表記している。
検索等に対応するため、基本的に旧字体は新字体に改めている。
脇注については〈〉内に囲い、該当事項の直下に表記した。おおむね活字本が記す通り、「+」で補う文字である旨を、「？」で推定を表している。
以下の文字は、文字コードの関係上、電子出力が不可能であるため、［］内に囲い表記した。
- ［厂+萬］＝　　　
- ［小+送］＝　　　
- ［三十］＝　　　
- ［閑万津乃］＝　　　　　
- ［閑万津］＝　　
- ［不］＝　　　
- ［尓］＝　　　
- ［名+隹］＝　　　
- ［米+斤］＝　　　
- ［舟+乍］＝　　　
- ［舟+孟］＝
なお、史料は以下によった（括弧内はNC番号）。
- 『続日本紀』国史大系（BN04490224）
- 『小右記』大日本古記録（BN00139425）
- 『権記』増補史料大成（BN0292498x）
- 『御堂関白記』大日本古記録（BN0548441x）
- 『日本紀略』国史大系（BN04861439）
- 『左経記』増補史料大成（BN02924764）
- 『中右記』増補史料大成（BN0287877x）
- 『殿暦』大日本古記録（BN05485048）
- 『台記』『台記別記』増補史料大成（BN02927809）
- 『兵範記』増補史料大成（BN01454224）
- 『玉葉』新訂増補国史大系《CD-ROM版》（BA44557657）
- 『猪熊関白記』大日本古記録（BN01627402）
- 『善隣国宝記』国書刊行会本（BN04020865）
- 『為房卿記』は、以下の通りである。
  - 承暦3年8月25日：『史聚』（駒沢大学大学院史学会古代史部会）第10号、95頁を参照した。
  - 寛治元年5月19日：『大日本史料第3篇之1、堀河天皇』より引用した。
  - 寛治5年10月13日：『大日本史料第3篇之2、堀河天皇』より引用した。

〔史料1〕 『続日本紀』天平15 (743) 6/26: 癸巳。山背ノ国司言ス．今月廿四日自_vリ酉至_vルマデ戌ニ．宇治河ノ水涸掲。行人掲渉カチワタリスト
〔史料2〕 『続日本紀』宝亀8 (777) 冬/: 是ノ冬不_vラ雨フラ。井水皆枯ル。出水宇治等ノ川並ニ可₂シ掲［厂+萬］₁ス
〔史料3〕 『小右記』永延2 (988) 10/6: 己未、早朝従内侍臣向大井（略）或車或馬、向大井乗舟{或舟葺紅葉、或舟葺檜葉・蘆花等、兼所用意也}（略）有大檜破子・他食物等、棹舟向度難瀬、臨暮有和歌合者、修理大夫大井心也、乗司侍臣皆帰参内（下略）
〔史料4〕 『権記』長保5 (1003) 5/28: 丁巳　午刻読作文、自舟上洛、入夜著家、
〔史料5〕 『御堂関白記』寛弘元 (1004) 閏9/21: 壬申、天晴、早行宇治、乗舟、同道右衛門督、勘解由長官、右大弁、於舟中有連句、着家有題、於宇治別業即事、〈大江〉以言作序（下略）
〔史料6〕 『御堂関白記』寛弘元 (1004) 閏9/22: 癸酉、午時許読文、乗舟還、宇治水極少、依之〈源〉則忠宅許乗之、古老云、未有如此事云々、渡馬及下腹、見奇事不少、亥了許到京（下略）
〔史料7〕 『御堂関白記』長和2 (1013) 10/6: 甲子、辰時行宇治、同道人々自道出会、是前定也、於賀茂河尻乗舟、戌時許至着、舟中管弦・連句・和歌有其数、出題初作文（略）
〔史料8〕 『御堂関白記』長和2 (1013) 10/7: 乙丑、講文後、申時許乗舟還来、亥時許来着、舟中事如昨
〔史料9〕 『小右記』長和3 (1014) 10/25: 戌寅、今日帥宮（敦康親王）被向左相府宇治第、卿相・殿上人挙首追従、於鴨川尻乗船云々（下略）
〔史料10〕 『御堂関白記』長和4 (1015) 8/6: 癸未、行宇治、入夜帰来、従舟帰、今夜通夜雨下、
〔史料11〕 『御堂関白記』長和4 (1015) 10/12: 己丑、早朝行宇治、上達部八九人許同道、従舟同帰来、亥時許、月甚以清明、舟中有和歌事
〔史料12〕 『小右記』長和4 (1015) 10/13: 庚寅、早朝資平来云、昨日左府被座宇治、従舟被帰（下略）
〔史料13〕 『小右記』寛仁元 (1017) 9/23: （略）去夕山崎河渡間、雑人乗船覆、馬並下人等流死云々、非［小+送］説、又説云、淀渡間、雑人乗船覆死云々、
〔史料14〕 『小右記』寛仁元 (1017) 9/24: 己未、致行朝臣申刻自石清水来云{在長経朝臣共云々}、昨日和泉守朝元従者并饗人々従者等先取別道、自淀道向彼宮之間、載馬牛等別船下人数多合乗、於河中漂没、人多溺死者、又或云、存命只六人（下略）
〔史料15〕 『御堂関白記』寛仁元 (1017) 10/25: 庚寅、早朝行宇治、女方相具、与按察同舟、見紅葉、此間有連句、還来与納言一両作文
〔史料16〕 『御堂関白記』寛仁元 (1017) 10/26: 辛卯、申時許乗舟還来、依方忌留賀茂辺
〔史料17〕 『小右記』寛仁元 (1017) 10/27: 壬辰、今日未刻許、大殿（道長）従宇治被帰、去夜被宿鴨川尻、若被宿船中歟、北方被随身云々、
〔史料18〕 『御堂関白記』寛仁2 (1018) 9/26: 乙酉、行宇治、乗舟、所出題傍水多紅葉、入夜至着
〔史料19〕 『御堂関白記』寛仁2 (1018) 9/27: 丙戌、通夜雨下、従辰時天晴、晩景乗舟帰着　今津、構文
〔史料20〕 『小右記』万寿2 (1025) 11/26: （略）今日内府（教通）向岡屋、加塩湯治七个日許云々、従河尻入小船運〈平〉維時朝臣宅、近辺宅并往還人可取事煩云々、
〔史料21〕 『小右記』長元3 (1030) 9/23: （略）今日春宮大夫（頼宗）〈痙?〉為〈備?〉〈湯〉治向宇治、大夫相具中将（兼頼）、相従鴨川□□乗船、
〔史料22〕 『日本紀略』長元5 (1032) 6/: 従₂去二月₁至₂今月₁大旱。山崎。摂津大江渡。宇治川等。歩行往還。
〔史料23〕 『左経記』長元8 (1035) 2/16: 辛未　天晴、左馬頭相共、於鴨河尻乗船、参宇治殿、及昏黒参着、相逢右武衛云、今日穢満日也、又後斎也、仍不可着座、宿船中、暁更可昇也者（下略）
〔史料24〕 『左経記』長元8 (1035) 2/17: 壬申　天陰降雨、及未刻自船帰京、及子刻帰家、
〔史料25〕 『左経記』長元8 (1035) 2/20: 乙亥　天晴、卯刻、右衛門督、侍従中納言、相共参宇治、午刻乗船、女房一艘、上達部一艘{（略、一一人）}、殿上人一艘{（略、二〇数人）}、諸大夫、此外雑船［三十］余艘、及丑刻鴨河尻遊女被物{女房并殿上人以上}、被物之外、絹二百疋、米二百石{上下各百}給之、暁更入京、依為帰忌可也宿給云々、
〔史料26〕 『為房卿記』承暦3 (1079) 8/25: 庚申。今夕殿下帰御。自宇治御之舟卒ヶ下御河陽云々（下略）
〔史料27〕 『為房卿記』寛治元 (1087) 5/19: 庚午、天晴（略）午終刻殿下令参鳥羽殿候、院依可遷御平等院也（略）未刻出御{御唐車、冠直衣著御也}、内大臣以下上達部殿上人騎馬前駈（略）検非違使頼里{冠、布衣、帯弓箭}、候御車後、次摂政殿{御車（略）}（下略）
〔史料28〕 『中右記』寛治5 (1091) 10/12: 上皇自鳥羽殿御幸宇治平等院、乗御船覧網代則還御、
〔史料29〕 『為房卿記』寛治5 (1091) 10/13: 〈朱書〉宇治御幸事
戊戌、今旦院自鳥羽殿、俄渡御平等院、歴覧紅葉者、殿下御同車、前駈布衣、予参仕、於泉殿有御儲、還御々乗船、覧網代、人定之後還御、次殿下、并北政所御帰洛、又奉仕前駈、
〔史料30〕 『殿暦』康和3 (1101) 2/11: 壬寅、天晴、今日依山階寺造作方違、於橋本〈下〉乗船、下行テ［閑万津乃］江ニ至、共人一〈三〉両、
〔史料31〕 『殿暦』康和3 (1101) 3/24: 乙酉、例時後方違、是山階寺乃依造作也、乗船［閑万津］とい［不］所ニ至なり（略）
〔史料32〕 『殿暦』康和4 (1102) 9/27: {己酉}、天晴、辰刻許乗船、参北政所〈殿〉即退出、
〔史料33〕 『殿暦』長治元 (1104) 9/21: 辛卯、天晴、向富家、乗船向所也、還後参泉殿、及秉燭退出、今日宰相中将来、アソヒトモ召集遊興、一両男給物、ヒトヘキぬ也、
〔史料34〕 『殿暦』天仁2 (1109) 2/14: 辛卯、天晴、辰刻乗船帰京、於伏見津乗車向高陽院（下略）
〔史料35〕 『殿暦』天仁3 (1110) 5/28: {丙寅}、天晴、沐浴精進、今夜河臨法也、依院仰於桂河有此事、予酉刻鳥羽南於河辺乗船、ヒツメノ橋下方［尓］下、法儀不能委、於七瀬行時、予明日依神事於三瀬合時帰了、行事〈平〉知信止之、於最前瀬予乗壇所船、次於別船合時、前座主〈賢暹〉於慈徳寺修熾盛光法（下略）
〔史料36〕 『殿暦』永久3 (1115) 2/17: {丁巳}、天晴、早旦参平等院、見廻、退出乗船、向北殿、見廻、数刻之後帰京
〔史料37〕 『殿暦』永久3 (1115) 5/18: {丁亥}、天晴、乗船向小小倉、女房姫君同之、
〔史料38〕 『殿暦』永久3 (1115) 9/21: {丁亥}、天晴（略）次上皇覧所々、了御於階隠間、巻簾令眺望給、此間河上所儲筏旅人・武者船等各有間渡之、次鵜船等渡之（略）遊女三艘下自河上、渡前小河泛遊（略）
〔史料39〕 『殿暦』永久3 (1115) 9/28: {甲午}、天晴、乗馬見所々、向羽戸院見廻、還富家、頃之自乗舟中嶋数廻、入夜下、無別事、
〔史料40〕 『殿暦』永久3 (1115) 10/5: {辛丑}、天晴、季御読経発願、今日帰京用舟、辰刻許別当（藤原宗忠）被過、女房同用舟、巳刻許出富家、未刻許付淀、十余町許下、更上桂河、及秉燭付鳥羽辺入路〈洛?〉（下略）
〔史料41〕 『殿暦』永久4 (1116) 3/12: {丙午}、天晴、早旦乗船、参泉殿{其次参御堂、宮（寛子）御所也}、頃之帰富家、自今日蜜〈密〉々服韮、
〔史料42〕 『殿暦』永久4 (1116) 3/16: {庚戌}、天晴陰、雨時々降、今夜俄下丹波津辺、奈良方違［米斤］也、
〔史料43〕 『殿暦』永久4 (1116) 3/17: {辛亥}、天晴、鶏鳴出丹波津、卯時許富家、午刻許自船参泉殿、酉刻許帰家、女房・姫君同参入、帰富家、暫於河有小遊
〔史料44〕 『殿暦』永久4 (1116) 4/3: {丙寅}、天晴（略）御忌日講説了参鳥羽殿、自舟向富家{十五日方也}、内府（忠通）同之（略）、午刻許自京極殿参鳥羽殿、乍云〈立?〉、参御前、頃之自鴨河尻乗舟向富家{酉刻許}、内府同之
〔史料45〕 『殿暦』永久4 (1116) 4/4: {丁卯}、天晴、辰刻許自舟参泉殿、頃之退出、帰富家、帰京（下略）
〔史料46〕 『殿暦』永久4 (1116) 4/15: {戊寅}天晴、日出程於前小河乗舟至淀、上木津河、申下程着泉木津（下略）
〔史料47〕 『殿暦』永久4 (1116) 5/11: {甲辰}、天晴、今日不出行、有富家、無別事、女房三人令参泉殿、扇紙為入泉也、自舟令参也（下略）
〔史料48〕 『殿暦』永久4 (1116) 5/12: {乙巳}、天晴、毎夜依方違方不宿、仍或舟或車［尓］宿也（略）
〔史料49〕 『殿暦』永久4 (1116) 5/13: {丙午}、天晴（略）余有舟、是不宿富家故也、有南小河、
〔史料50〕 『殿暦』永久4 (1116) 6/19: {辛巳}、天晴、今日早旦向宇治、先参鳥羽殿、依御物忌自門外向鴨川尻、乗舟参泉殿（略）
〔史料51〕 『殿暦』永久4 (1116) 7/30: {辛酉}、天晴、蜜々向宇治富家、依方違也、入日程、今夜於舟方違、新屋廻見、
〔史料52〕 『殿暦』永久4 (1116) 8/27: {戊子}、今日不知物忌、巳刻許参泉殿、四条宮（寛子）御坐也、頃之退出了、用舟、
〔史料53〕 『殿暦』永久4 (1116) 9/17: {丁未}、天晴（略、寛子、富家より泉殿へ）還御時余参御共、渡程候御車、渡之後乍舟余行富家（略）
〔史料54〕 『殿暦』永久4 (1116) 9/19: {己酉}、天晴、不出行、宮（寛子）女房乗紅葉舟来、頃之家女房相共具参宮（略）
〔史料55〕 『殿暦』永久4 (1116) 9/23: {癸丑}、天晴、女房相具参泉殿{用舟}、余参御前、頃之乗舟上洛、申刻許着鳥羽殿及秉燭還三条（略）
〔史料56〕 『殿暦』永久5 (1117) 2/2: {庚申}（略）早旦向宇治、方違也、午刻許参泉殿、依〈頼通〉御忌日、宮〈寛子〉渡給御堂、余候御共（略）講了宮還〈+御?〉、余不参御共、即乗船向富家（略）
〔史料57〕 『殿暦』永久5 (1117) 4/9: {丁卯}、天晴、辰刻許向新所見作事、即向宇治、依方違也、向富家、酉刻許乗舟、向宇治成信房、
〔史料58〕 『殿暦』永久5 (1117) 4/10: {戊辰}、天晴、寅刻許向富家{用舟}、辰刻許帰京（下略）
〔史料59〕 『殿暦』永久5 (1117) 6/5: {壬戌}、天晴、卯時向宇治、依方違、於鳥羽辺乗舟、雖神事先参泉殿{大宮（寛子）御所也}、不見参、依神事、頃向成信房、
〔史料60〕 『殿暦』永久5 (1117) 6/6: {癸亥}、天晴、卯刻許於橋下乗舟河上、見井堰即帰京、於鴨河尻乗車還亭（略）
〔史料61〕 『殿暦』元永元 (1118) 閏9/9: {戊午}、天晴、辰刻許参宇治、先向富家、従舟参御堂見廻（略）参泉殿、頃之退出、於橋下乗舟向富家、帰京、戌刻許着京、帰家、
〔史料62〕 『殿暦』元永元 (1118) 閏9/20: {己巳}、天晴、早旦参御堂（略）参泉殿、即退出、従舟帰富家、
〔史料63〕 『台記』永治2 (1142) 2/25: 己丑、先参上、乗₂華船₁、参₂宇縣₁、
〔史料64〕 『台記』永治2 (1142) 2/26: 庚寅（略）入_v夜、棹₂華船₁、帰₂鳥羽₁、
〔史料65〕 『台記』永治2 (1142) 2/28: 壬辰、法皇、高陽院、御₂樓船₁、幸₂宇縣₁、於₂河中₁雷雹、雨注₂舟中₁（略）
〔史料66〕 『台記』永治2 (1142) 3/6: 己亥、両院、御₂樓船₁、還₂[名隹]陽₁、鄙生候₂別船₁、法皇者留₂鳥羽₁（略）
〔史料67〕 『台記』康治元 (1142) 6/28: 己丑、両院幸₂宇治₁、御舟、
〔史料68〕 『台記』康治元 (1142) 6/30: 辛卯、両院御帰洛{御舟}、予乗₂法皇御車後₁（下略）
〔史料69〕 『台記』康治元 (1142) 8/21: 辛巳、法皇、引-₂率皇后、御₂樓舟₁、幸₂宇治₁、以₂新堂₁為₂頓宮₁、下官、晩頭参₂宇治₁（下略）
〔史料70〕 『台記』康治2 (1143) 10/24: 丁未、晴、未明出_v舟、比_v至₂宇治川₁、余参₂御舟₁、戌刻還-₂御宇治小松殿₁、其後降雨、余立_v舟之間、季通朝臣成隆、公重、伊俊等、有₂朗詠今様読経等之卿₁（下略）
〔史料71〕 『台記』天養2 (1145) 2/10: 丙戌、参₂土御門殿₁、法皇、及高陽院、渡-₂御宇治₁、依₂御方違₁也、余依_v仰乗_v車自₂閑道₁参、至₂鳥羽₁御_v船、余候₂別船₁、申刻渡-₂御宇治小松第₁、及_v暗余帰洛（下略）
〔史料72〕 『台記』天養2 (1145) 2/13: 己丑、院高陽院還御{舟}（下略）
〔史料73〕 『台記』天養2 (1145) 3/26: 辛未、終日雨、昼雷鳴、辰刻参₂鳥羽殿₁、両院幸₂宇治₁、用_v舟、是御方違也、
〔史料74〕 『台記』天養2 (1145) 3/28: 癸酉、午刻両院還御{御舟}、入道殿乗_v舟送_v之、奏₂平調曲₁、余応_v召参₂入道殿御舟₁吹_v笙、自₂落合₁入道殿還御、予院御共帰洛〈路〉、今夜雷大鳴云々、
〔史料75〕 『台記』天養2 (1145) 7/17: 辛酉、乗_v舟帰洛、有₂連句、連歌₁、
〔史料76〕 『台記』久安2 (1146) 6/24: 壬戌、参₂一条殿₁、又乗_v舟浮₂河上₁、
〔史料77〕 『台記』久安2 (1146) 8/30: 自₂仁和寺₁詣₂鳥羽₁、即乗_v船参₂宇治₁（下略）
〔史料78〕 『台記』久安4 (1148) 2/4: 癸巳、未刻参₂西殿₁、頃之、女院移-₂御鳥羽北殿₁{御舟}、同相従、深更、帰₂郁芳門宅₁、
〔史料79〕 『台記』久安4 (1148) 4/17: 甲辰、未明出₂宿所₁、至₂和泉木津₁、乗_v舟詣₂宇治₁{参₂一条殿₁}、菖蒲帰洛{不_v参₂宇治₁}
〔史料80〕 『台記』久安4 (1148) 5/10: 丁卯、早〈平〉旦、禅閤詣₂天王寺₁{御舟}、予従_v之、扈従人着₂浄衣₁、予同_v之{布浄衣}、申刻至₂大渡₁、御輦{予候₂輦後₁}、於₂西門外₁移₂腰輿₁（下略）
〔史料81〕 『台記』久安4 (1148) 5/18: （略）乙亥、禅閤入₂宇治川₁之時、予依_v仰入₂桂川₁、依₂日没₁不₂皈宅₁、宿₂草津₁{乍_v乗_v舟}、禅閤、宿₂小巨倉津{乍_v乗_v舟}（下略）
〔史料82〕 『台記』久安4 (1148) 閏6/8: 甲子、今夜、成佐乗_v舟帰洛
〔史料83〕 『台記』久安4 (1148) 閏6/9: 乙丑、伴₂女房₁、逍-₂遙平等院₁、及_v昏棹_v舟（下略）
〔史料84〕 『台記』久安4 (1148) 閏6/20: 丙子（略）未刻帰京、依_v仰、経₂御所北亘〈廻?〉大路₁{有₂御見物₁}、至₂小巨倉津、乗_v舟、至₂鳥羽南₁、乗車（略）
〔史料85〕 『台記別記』久安5 (1149) 10/12: （略）今夕、入道殿、自₂宇治₁出-₂御仁和寺₁、以₂御船₁令_v著₂梅津₁給也（下略）
〔史料86〕 『台記別記』久安5 (1149) 10/19: 丁卯（略）此間加冠、右大臣自_v船着₂橋下₁、更駕_v車被_v移₂宿所₁{北成楽院東廊、日来舗設、被_v儲₂盃饌₁、毎事美麗無_v極}（下略）
〔史料87〕 『台記別記』久安5 (1149) 11/30: 戊申（略）今日美福門院自₂熊野₁令₂下向₁給、入_v夜著₂鳥羽殿₁{今朝自₂富島₁令_v立給云々}、自₂御船₁令_v着₂鴨河尻₁給、於₂船津₁有₂御祓₁（略）
〔史料88〕 『台記』久安6 (1150) 4/4: 庚戌（略）退₂宿廬₁（鳥羽）、陰陽師遅来、仍且乗_v舟棹_v流、此間、陰陽師、来-₂遇於舟中₁直衣行_v祓、是夜、木津、川尻
〔史料89〕 『台記』久安6 (1150) 5/17: 壬辰、平旦、禅閤還-₂御宇治₁{御船}、余従_v之（下略）
〔史料90〕 『台記』久安6 (1150) 6/3: 戊申、詣₂八幡₁{路間念誦}、依₂入内立后慶₁也（略）依₂禅閤御悩₁、帰-₂参宇治₁、今日往還用_v船、
〔史料91〕 『台記』久安6 (1150) 8/3: 丙午（略）早旦、於₂小巨倉津₁、乗_v舟、午刻至₂鳥羽南津₁、乗_v車参内（略）
〔史料92〕 『台記』久安6 (1150) 8/17: 庚申、今日、春日神、還-₂御本社₁、因_v之、棹_v船帰洛（下略）
〔史料93〕 『台記』久安6 (1150) 8/30: 癸酉（略）巳時、参₂小川殿₁、至₂小巨倉津₁、乗_v舟参₂鳥羽₁、洪水壊_v山襄_v陵（略）
〔史料94〕 『台記』久安6 (1150) 9/9: 壬午、依_v仰詣₂天王寺₁、巳時乗船、亥時至₂大渡₁、乗₂手輿₁着_v寺（下略）
〔史料95〕 『台記』久安6 (1150) 9/22: 乙巳（ママ）、戌時参-₂着宇治₁、伝聞、両院着₂鳥羽₁、
〔史料96〕 『台記』仁平2 (1152) 7/24: 丁巳、午刻向宇治乗舟、申刻到鳥〈羽〉南津（略）今日於舟中見詐偽律了、
〔史料97〕 『台記』仁平3 (1153) 9/15: 辛丑、申刻束帯{蒔絵釼}、乗_v舟{依₂檳榔₁者}、着₂馬場殿₁、歩行参₂御所₁{安楽寿院}（略）禅閤自₂宇治₁参御、其御舟已着₂南津₁云々（下略）
〔史料98〕 『台記別記』仁平3 (1153) 11/26: 辛亥（略）及₂午刻₁、着₂宇治₁、乗_v船渡_v河、{禅閤借-₂給新造樓船₁、前駈可_v渡之船、同禅閤賜_v之、皆有₂屋形₁、但前駈或騎馬、自_v橋渡云々、歩人悉渡_v橋、隆長在₂余船₁兼師両長別船}至₂西岸₁、更乗_v車（下略）
〔史料99〕 『台記』仁平4 (1154) 5/13: 乙丑、午刻乗_v船、向₂富家₁見₂地形₁、申刻着₂鳥羽宿廬₁（下略）
〔史料100〕 『兵範記』久寿2 (1155) 2/4: 辛巳　午後、宇治殿有御京上、於小巨倉津召御船令下給間、於船中心神不快、急令引入給、留御船於大嶋辺、暫逗留之所、猶不令直給、更上御船、直令橋下、此間自宇治修御誦経使者馳京、左府令馳参給、其時蘇生、移御手輿還御小松殿云々、
〔史料101〕 『台記』久寿2 (1155) 4/3: 己卯、晴、辰刻、余隆長{同車}女房{車輿、依₂灸所未₁_v○也}至₂平等院₁乗_v舟、巳刻至₂伏見津₁、停_v舟、午刻余隆長同_v車向₂東三条₁（下略）
〔史料102〕 『兵範記』保元2 (1157) 10/19: 辛亥　天晴、申刻還御、先渡御北御堂、次令参本宮阿弥陀堂給、次召御船、下御自伏見津、以手輿出御木寺、右大臣殿召御馬、戌刻着御東三条殿（下略）
〔史料103〕 『兵範記』保元3 (1158) 10/17: 癸卯　天晴（略）釣殿前、自石橋下、経小嶋上、臨河畔、新構飾台、為船寄{重々畳階、左右造高欄}、［舟+乍］［舟+孟］五艘相艤西岸、
　御船一艘、本二瓦、船差十六人{宇治雑色}、着黄櫨狩襖袴黄衣、
　公卿船一艘、同二瓦、船差十二人、着萌木狩襖袴薄色衣、
　　已上二艘、寺家加修理、船差装束殿沙汰、
　殿上人船一艘、例河一、船差六人、着白狩衣袴{付摺染芝摺、所々閉之}、白衣、
　　山階寺別当僧正被献之、
　下北面船一艘、高屋形造之、葺松葉、船差六人例装束、
　　件高屋形、寺家艤之、
未刻御幸前陣着宇治橋東、雑人渡橋、前駈列離宮下辺、御車二両同着御、此間御料以下船参向東岸、次上皇遷御々船（略）皇后宮并内女御殿御同車、舁御車床、居平駄船渡御（略）上皇御船寄此岸之間、殿下令下釣殿南頭給、上皇移釣台御座本堂仏前（下略）
〔史料104〕 『兵範記』保元3 (1158) 10/19: 乙巳　今日可有乗船浮遊御会云々（略）御船等、如一昨艤儲之（略）次召御船、殿下以下公卿七人被召御船、殿上人乗船相従、下北面者主水正基仲、左衛門大夫実俊以下、乗高屋形追従、御船令昇河上給之間、遊女三艘、自井堰辺参会{三艘六人乗之、各着紅葉黄菊衣、有笠指者、同着襲掛、船差用男共、此河女船差有怖畏之故也}、次任流下御、通橋下、着御網代、各歴覧之後、又令昇給、此間於船中有宴飲事、風流破子、珍菓美酒、邦綱朝臣随身被参進、御船着御寺中之間、有柴船筏等者、又捧幣帛参離宮之事出現、遇境之感、自然之相叶者也（下略）
〔史料105〕 『兵範記』保元3 (1158) 10/21: 丁未（略）晩頭御京上、乗船下伏見津、令入洛給了、
〔史料106〕 『玉葉』安元2 (1176) 11/22: 癸亥、天晴（略）抑、明日〈廿三日〉春日当太白方、有憚之由時晴令申、仍検先例之処、康平五年二月六日、春日祭、内大臣〈京極大殿〉、為上卿下向、同七日帰東三条〈見定家記〉、又康治二年五月十二日於丹波津御方違、十三日入道殿参詣春日〈見知信記〉（略、信範返書）丹波津ハ、宇治河上自南北両流、其中南流ニ、淀河流合、上有件津、自宇治当未申、興福寺観自在院造作之時以後、南都宇県南北被相避之時、常御方違候しなり、乗船違方事雖有世俗謂、未承慥説、是下人習候歟、不審候、条々且言上如件（下略）
〔史料107〕 『玉葉』元暦2 (1185) 4/25: 戊寅、天晴、雅頼密々相具行事弁参向草津、船侍五人、弁侍一人在後、行事弁相具深沓并裏無等、是為備歩行也、史生盛安、官掌為久等、今朝沙汰具幄慢等、参向草津了云々、酉初、参着高畠橋下方、不幾付御船〈二瓦河市古弊船也、中程懸隔簾為神殿之、女房一人在御船、称典侍、不知誰人〉（略）秉燭之後、職事等入御船中、令博士奉、令移入賢所於省辛櫃了（略）奉安朝所（下略）
〔史料108〕 『玉葉』元暦2 (1185) 5/9: 辛卯、天陰（略）大夫史隆職来、去月廿五日、神鏡神璽入洛之儀、行事史注文并船津指図等持来之、
〔史料109〕 『玉葉』文治3 (1187) 8/21: 己丑、天晴（略）此日長者以後、始可参平等院、先例多雖当日帰洛、明日依可参天王寺、所1宿也（略）巳四点、到宇治川東岸税駕、暫立榻、待内府来、下車乗船〈内府同之〉、近習人々少々可候御船、而衆人乗之、少々追下了、然而早出船之間、多在御船、尤不可然、奉行人不覚也、寄船於釣殿下、自船経釣殿并経本堂東広庇北縁并東念仏堂東縁等（下略）
〔史料110〕 『玉葉』文治3 (1187) 8/22: 庚寅、天晴、此日自宇治参天王寺（略）即乗船、近習之輩五六人候御船、内府雖有別船、所同船也、宗頼朝臣進破子、終日泛遊河上、視聴之所触莫不催感心、秉燭着窪津〈渡陪也〉、予儲車、余網代車也（下略）
〔史料111〕 『玉葉』文治4 (1188) 9/15: 戊申、自夜雨小降、但不及事妨、此日為如法経十種供養結縁下向天王寺（略）寅刻、出九条（略）於高畠辺天始曙、鳥羽南楼辺并草津辺、依河水浅不能付船、仍於魚市乗船、院已下御船皆在之、尋御経船之処、未刻到来云々、然而、於此所不可待、仍乗船指渡向島方、為避院御路也、暫相待之処、先女院御下向、其後経一時、院御乗船、其後経二時、御経船到来、於草津奉乗船云々、法印被相具、即余出船御経、已奉之移乗他船之間、法印暫不被来、於天河辺、法印被来此船、同船浮河上、達思去年八月、哀心難忍〈依御灌頂下向之時、内府所同船也〉、云船云路一塵無改、只所闕者内府一人也已、触物之悲歎雖経劫雖隔生、争休争堪哉、申終、観性法橋相具楽人参来、御経迎、行日、静清加陀調、聴之者、莫不涙拭渡、晩頭、付渡部〈謂之大渡也〉、即乗車、法印下〈在〉船、於此辺堂、御経相具、追可着天王寺辺堂云々〈于時、阿弥陀堂也〉、即着西門外北念仏所〈去年宿所也〉（下略）
〔史料112〕 『玉葉』文治6 (1190) 3/25: 己卯、天晴（略）辰始、先向九条（略）釣殿寄船、先参本堂暫候、次向阿弥陀堂（下略）
〔史料113〕 『玉葉』文治6 (1190) 3/26: 庚辰、終日雨降（略）依日暮退下、向本堂、御所上下着膳、次於釣殿乗船、於東岸乗車帰洛、到九条、暫逗留、自是返遣所従等、入夜、僅具一両男共、帰大炊亭了、
〔史料114〕 『玉葉』建久4 (1193) 10/28: 巳刻、乗船、頗指上、即詣日野、供養経、其次礼宣旨堂并賀長入道堂、及願蓮房見之、即帰京、酉刻向九条、待車、即帰大炊御門亭、
〔史料115〕 『玉葉』建久5 (1194) 9/15: （略）明後日可奉南都云々（略）中尊為大像之間、陸地不可叶、以船可奉渡脇士座光等、奉乗案可用陸地之由評定了（下略）
〔史料116〕 『玉葉』建久5 (1194) 9/17: 甲辰、雨脚滂沱、此日奉渡御仏於南都、雨之間船路、陸地共以不合期歟、雖然無湿損云々、人夫猶不足之間、今日不遂前途、宿途中、自元三ヶ日之由致用意了、今夜雑事儲、宇治平等院、明夜事寺家仰国内土民、於木津儲之云々、御仏明後日可着南都給云々（下略）
〔史料117〕 『玉葉』建久7 (1196) 3/2: 壬午、晴（略）未刻、到宇治川、於東岸舁放車、居船〈女房車、併出車如此〉、余乗船〈内府、大納言、三位中将、中将等〉、渡川着西岸、女房車暫立西岸、待出車、余降釣殿、着本堂也、出車到来以後、女房入自西門、寄車於桟敷西面妻戸、内府已下扈従、出車相従、内府寄車之後、来本堂着食、公卿無人数不勤、各向宿所、殿上人、須羞膳、而無其儀共也、予所給膳也、次余相伴内府〈中将直向宿所了〉、経山路向桟敷、検知堂荘厳等、女房旅宿之間事、能々示置、向小川家、内府宿安楽傍堂廊〈○宿与安之間在勝衍歟〉、中将同宿、
〔史料118〕 『玉葉』建久7 (1196) 3/4: 甲申、雨降、今日欲乗船、而依雨延引、宮女房参本堂、於堂東広庇、有参行之興、定能、泰通、隆房等卿在座、事了分散、入夜於小川有酒食事、定能、季経卿等候之、
〔史料119〕 『玉葉』建久7 (1196) 3/5: 乙酉、晴、此日宮女房乗船、余、内府在別船、定能、隆房等卿同乗之、暫以望遊（下略）
〔史料120〕 『猪隈関白記』建久8 (1197) 閏6/16: 戊子、天晴、暁更殿下（基通）渡御宇治、余候御共、辰時着御宇治（略）了還御小河、入夜乗船、
〔史料121〕 『猪隈関白記』建久8 (1197) 閏6/17: 己丑、晴、終日騎馬遊覧、乗舟遊泛、有連句興、別当光雅卿以下文人両三、
〔史料122〕 『猪隈関白記』建久9 (1198) 6/24: 庚寅、天晴、未明殿下渡御宇治（略）午時許殿下参御経蔵、被開之、家司左衛門権佐光親開之、御覧了還御小河、晩景乗船到河上梅島、
〔史料123〕 『善隣国宝記』文永12 (1275) 1/18: 日本ノ古記ニ曰ク正月十八日蒙古ノ人二人高麗ノ人一人明州ノ人一人已上四人自リ₂鎮西₁送_v之ヲ皆ナ不_v入ヲ₂洛中ニ₁自リ₂山崎₁経テ₂岡ノ屋醍醐ヲ₁赴ク₂関東ニ₁七月廿一日蒙古ノ人又送ル₂関東ニ₁路次如シ_v前度（下略）

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巨椋池の水上交通 ～11・12世紀における貴族の船行きなど～