『ドラゴン』 夏合宿のイベントは怪談、肝試しなんていつ誰が決めたんだ? 俺はぜってー嫌だからな。 浜辺で健康的に花火。やっぱコレだろ。 そこのお前、今俺の事を凄い怖がりだとか思っただろ。そんな事無いって言っても無駄だぜ。 何せお前の背後霊がリアルタイムで俺に全部教えてくれてるんだからな。こんな人間関係が悪くなるありがた迷惑な親切はマジでいらねえってのに。 そこの背後霊、「てへっ」て舌出してんじゃじゃねーよ。 指摘されるまでも無い。実際、俺は怖がりだ。ガキの頃に行った葬式で死んで棺桶に入ってるはずのばーちゃんの幽霊を見て以来、俺は見たくないモンに限って見えるようになっちまったんだよ。幽霊はその筆頭だ。 怪談? 肝試し? お前らよくそんな事できるな。あいつら自分達の話題をされると集まってくるし、その上で嫌いな奴の足を引っかけたり、見えないのを良い事に若くて綺麗な女子にはセクハラしたりとか滅茶苦茶狡い……違った。 ……てな事をやりたい放題してるんだぜ。鈍くて奴らに気付かないお前らが心から羨ましい。 男女比率が悪いから肝試しは止めて花火にしようと提案してみたら、俺と同じあぶれ組の野郎共が賛成してくれた。 持つべきものは友だな。彼女ができたら速攻で裏切る寂しい関係だが無いよりゃマシだ。 で、部長が買って来たのがコレ。 「ドラゴン花火セット」 部長、普通花火てのはさ。もうちょい情緒が欲しいっていうか……うん先に派手なのやって最後は線香花火でしみじみエンド。そういうモンだろ? なけなしの勇気を振り絞って言ってみたら、「ゴミと騒音公害とかでロケット花火セットが無かったから」と返ってきた。花火で何の試合をする気だったんだろう。 「さっちゃん!」 「はーい」 部長が呼ぶので波打ち際まで走っていった。新入部員と3年の部長の関係なんてこんなモンだ。 「花火1番やりたがってたのお前だろ。火付け役全部やらしてやるよ」 そう言って袋一杯のドラゴン花火とライターを俺に渡してくる。え、ちょっと待て。これ全部俺が火付けるのか? 「さっちゃんー、早くしろよ」 「ねえ、まだー?」 他の連中は堤防に近い所にビニールシートを引いて退避済み。のんびりうちわを扇いでやがる。 ちくしょー。せめて耳栓よこせ。砂に足とられるからそっちに逃げれないだろ。 うちの部では部長命令は絶対服従がルール。俺は諦めて花火を並べると、1個目に火を付けて波と平行に走り出した。 後ろから響いてくる花火の音とみんなの歓声が混じり合う。 振り返ると花火はまだまだ元気で勢いよく火花を散らしていた。 火が消えると「次の」コールが起こる。俺がのろのろと花火の所に戻ると海側から声が聞こえた。 (こりゃぁ盛大で楽しいのう。今度は2個同時に点けてくれ) ……。 俺の後ろは海しかない。夜の海で泳ぐアホはそうそう居ない。正体なんて聞くまでもねえや。 お前らまで花火見物すんなよ。盆まで大人しくしてろっての。 前と後ろから沢山の「次の」コールが重なって、俺的にすげー嫌な気分。絶対振り返らないぞ。 あーあ、こんな事なら始めから怪談にしとけば良かった。 おわり
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