ミセス・ウー
中国観察記




今回から中国をテーマにミセス・ウーに新しいページを担当いただくことになりました。
おかげさまで、Go-21HPも国際化してきましたので皆さんどうぞご期待下さい。 
                       世話人拝


<プロフィール>

ミセス・ウー

返還の翌年に「突然気が向いて」香港に移住。7年間を過ごしたあと、現在は日本に帰国
し、中国系通信社の日本語訳配信で編集長を務める。 香港在住時に現地化が過ぎて
香港人男性と結婚。若い時の無計画な行動のつけとして、中国・香港から抜け出せなくな
っている。

    

2008年08月24日
                    第23回

           「オリンピックは『ピーク』なのか」 

 始まりましたねぇ、北京オリンピック。北島康介選手はじめ、各国選手の活躍に毎日
 固唾を飲んでいる方も多いことでしょう。ここ香港でも盛り上がっています。テレビは
 中国選手の試合を中心に
24時間中継&解説。みんな家でテレビを見ているためか、
 レストランやプールも人が少ないです。北京の方も安全確保のための統制が厳しい
 ので店なども閉めてしまって旅行したり帰省したり
(で、テレビ? )の人も多く、普段よ
 りも人通りが少ないとか。でも街では「中国加油」
Tシャツを売っていますし、愛国心
 はさすがに高まっている気がします。私の夫
(香港人)は「中国コワイ」が口癖なので
 すが、開会式のテレビの前では一応、中国国歌を歌ってました。歌えたことに妻もび
 っくりです。


 さて、その一方で中国株は先週は急落しました。「オリンピック以後、中国経済は失
 速するのか、どうか」というのが、経済関係者の一番の注目点になっています。この
 点に関しては、もう一年以上前から言われていましたが、 人によって意見が分かれ
 るようですね。


 1つは「オリンピックでインフラ投資などが終わってしまう。開催期間中に旅行や消
 費なども盛り上がるので、閉幕後は消費も鈍る」という意見。


 もう1つは「オリンピック程度のプロジェクトは中国にはいくらもある。まだまだ開発し
 なくちゃいけない田舎が残っているから、大丈夫」という意見です。


 このうちのどちらか、私には判然としませんが、1つだけいえることは、香港・台湾
 の人も含めて、中華圏の人はかなりの人数が


 「オリンピック終了をきっかけに何かが変わる」

 と信じていることですね。「変わる」ことの内容は、不動産市況やら為替動向やら旅
 行者の流れやら、人によって色々なのですが、みんながそう信じている以上、何か
 の流れは変わるのではないかと思います。その日はもう一週間後。 来月のこの欄
 では、何かの変化をお知らせできるかもしれません。 今月はいつもにもまして目を
 見開いて観察、です。


 最後に1つ、楽しい話題を。 今回のオリンピックで、私が楽しみにしている競技の1
 つがマラソンです。 もちろん、選手のがんばりも楽しみなのですが、コースがすご
 い。北京の観光名所めぐりのようです。 スタートの天安門はもちろん、「北京の浅
 草」といわれる庶民チックな前門や、昔の皇帝が祭祀を行った天壇、「北京の秋葉
 原」といわれる中関村、 若々しい北京大学など、はとバスがあったらこのコースを
 回るだろうなぁ、と思わされるコース。 マラソン中継ではぜひ、後ろの風景にも注目
 していただければと思います♪






2008年06月15日
                    第22回

                 「インフレ!」 

 こんにちは、ミセス・ウーです。日本もそろそろ梅雨入りでしょうか。香港は一足お先に、
 昨日も雨、今日も雨…です。毎日一度はザーッと降る感じ。先週は1日、すごい豪雨が
 あって、土砂崩れで被害者が出ました。広東省もずっと雨が続いているみたいです。

 さて、インフレが本格化してきました。原油高を背景にガソリンはもちろん、小麦、米も
 上がっています。香港でもいろんなものが少しずつ、値上がりしています。 例えば私
 が通勤で使っているミニバス。片道6香港ドルだったのが、4月くらいに7香港ドルにな
 りました。カフェのお昼はサンドイッチとスープにクラッカーが付いてたのがクラッカー
 が廃止され、ついでに値上げ。外食はほとんどすべてのメニューがこの半年で2香港
 ドルくらいずつ上がりましたね。

 4月には「米騒動」もありました。 香港の人が主食にしてるタイ米がなくなる、という話
 になって、買いだめ騒動が起きました。 私もスーパーで、よろよろした80歳くらいのお
 ばあちゃんが、10キロ米を2袋もカートに入れてるのを見ました。 …どうやって持って
 帰ったんだろう…? その後、ミャンマーの災害でいよいよ逼迫しそうな雰囲気です。

 そう、今、インフレが激しいのはアジアなのです。ずっと中国のインフレに注目してきま
 したが、もっとすごい。香港でやたら報じられているのは地理的にも近いベトナム。5月
 のCPI(消費者物価指数)は前年同月比25%上昇と、ハイパーインフレ状態になっている
 ようです。25%って…たまらないですよねえ。それを抑えるべく当局が利上げを繰り返し
 ているせいで投資資金離れがおき、通貨安、株安が加速しています。ベトナム株買っ
 てる方は要注意。逆に、これからベトナム株を買おうかと考えている方は、チャンスか
 もしれません。

 ネットで見ていたら、アフリカもインフレが激しいようです。ジンバブエはインフレ率350
 000%と聞きました。こりゃ、もうお金が機能してないですね。失業率も80%だとか。 コメ
 ントに「みんな、何してるんだろう」とありましたが、確かに…(笑)。犯罪も多発するでし
 ょうし、経済崩壊、国家崩壊、ですよね。

 まあ、ここの国は特殊なのかもしれませんが…。世界中で、インフレの足音がひたひ
 たと、進むと、アフリカのような経済基盤が脆弱な地域や、金融システムが整っていな
 いベトナムやインド、中国のような新興株式市場が打撃を受けそうで心配です。

 香港の場合、救いは月給も上がっていること。公務員などは去年の株高で儲かった分
 が繁栄されて昇給率は前年比6%ほどとかなり高い。大手企業も順ずるといわれていま
 す。中国事業の成功で、基本的に儲かっている企業が多く、香港は好景気なのです。
 中国も地震など色々あってもGDPは10%近い伸び。 基本がリッチなので、個人の生活
 は割と心配ないと思います。

 逆に言うと、私のように日系企業に勤めている人間は日本の会社の昇給率が低いため、
 厳しくなりがちです。日本もインフレの影響は免れないと思います。今もバターがなか
 ったりガソリンが上がったりしているようで…。お給料も上がらないだろうし、正直、日本
 が一番心配かも…。

 お互い、生活防衛するしかなくなってきましたね。私もすっかり節約モードです。個人
 の生活防衛はマクロ的には景気の沈滞を招き、良くないのですが…。何か、転換のき
 っかけがないとなかなか世界的なインフレの流れは止まらなさそうです。



2008年05月04日
                    第21回

            「聖火が町にやってきた!」 

 こんにちは、ミセス・ウーです。聖火シリーズ、立て続けになりますが香港でのリレ
 ーの様子をご紹介しましょう。

 香港での聖火リレーは、思ったより強力な「中国歓迎」ムードの中で行われました。
 衣料品大手の「ジョルダーノ」が無料で配布したという「中国加油(中国がんばれ)」
 赤Tシャツを着た人々が沿道にあふれ、 街は赤っぽい雰囲気に。もちろんチベット
 の旗を持った人もいましたし、 「今すぐ普通選挙実施」と香港自体の自由度アップ
 を求める看板も出てましたが、大騒ぎではありませんでした。 おお、青い旗が、チ
 ベットか?…と思ったらパソコン会社の「レノボ」の旗だったりして。 中国国旗が手
 に入らなかったのかなあ。それにしても、紛らわしい。

 暴動するかな?とちょっと期待されていた西洋人も息を潜めてた感じでしたね。ま
 あ、赤いTシャツの人たちを写真に撮ったりしてはいました(笑)。香港政府は暴動
 しそうな人の入国を厳しく制限していたそうなので、人権団体も動きが取れなかっ
 たのでしょうか。とりあえず、香港にいる西洋人はおとなしく振舞うことにしていたみ
 たいでした。

 一般の香港市民に話を聞くと、「どうでもいいじゃん」という答えがほとんどです。

 「北京五輪なんてこんなにけちが付いて、もう失敗しちゃったし。これ以上どうもしな
 くてもねえ」(
30代香港人男性)

 うーん、武士の情けなんでしょうか。まあ、これは今も昔も香港の人の考え方では
 ありますな。「深いことは考えない。責任の追及とかしない。ただ、自分の身に降り
 かかってくる時だけ、対処する。自分の身に危険が及ばない限りは合わせとく」。

 香港の人のこういう考え方は、例えば食品問題などにも現れます。香港でも中国
 産食品の中毒問題はたびたび発生しますが、香港の対処は「そのたびに輸入を
 止める」だけ。日本政府のように、問題の追及とか、責任の追及とか、しません。

 「だって、自分とこの食品が問題だってのは、中国は(認めないにしても)自分で分
 かってるじゃない。わざわざ指摘したら嫌味でしょ。輸入を止めれば中国が困る。
 困れば自分で改善するからさ」(別の香港人男性)

 これまた、武士の情けな発言…。まあ、メンツ第一主義の中国との付き合い方を心
 得ているといえば言えます。

 香港を皮ぎりに国内入りし、今後も表面的には滞りなく進んでいきそうな聖火リレー。
 しかし、民心は正直です。中国の上海市場(日本人の個人投資家は買えません)に
 は「チベット関連株」という一群があり、チベット市政府(亡命政府とは別)系を中心に
 作った国有企業がいくつか上場しているのですが、チベットで暴動が起きてから、株
 価は下がりまくりです。中国人投資家もこれに手を出す人はいないんですね。

 香港でも、中国本土でも自己保身を前面に打ち出す姿勢が目立ちますが、「見てい
 ない」わけじゃない。世界は「静かに」変わっていくのかもしれない、と思います。





2008年04月26日
                    第20回

             「聖火が町にやってくる」 


 

 こんにちは、ミセス・ウーです。蒸し暑いです。香港は今、日本の6月くらいの気候。
 雨が多く湿度が高い。気温はまだ
30度はいっていませんが、湿度が高いので水
 浴びしたくなります。市営プールも4月1日から開きました。市場には、ビワや青梅
 が出回ってますよ〜。

 さて、聖火リレーが大変なことになっていますね。香港でも世界各国の妨害の様
 子は報じられています。日本にも
26日に聖火が行きましたが、小競り合い程度で
 済んだ模様。香港では
5月2日にリレーが行われることになっています。オリンピッ
 ク競技のうち、馬術競技は香港で行われるので一応開催国の一部であるだけに、
 気にかかります。どうなるのでしょう。

 今のところ、香港ではそんなに緊張した雰囲気はありません。デモの練習は見ま
 すが、盛り上がりはまだまだ。香港の人に聞いても「あんま、興味ない」という返事
 が返ってくる状況です。

 正直言って、慣れてるんですよね、反中運動。香港には法輪功の人が多いので、
 反中運動は日常的に繰り広げられています。ビラや横断幕はもちろん、専門の新
 聞もあります。日曜になると、香港の新宿といわれる銅鑼湾では

 「中国政府はこんなひどい人体実験をしたぁ!」

 という実演?も。暑くて埃っぽい中に台を置いて、白いシーツをかぶった人が寝て、
 横にメスを持った医師が立っている。後ろには人体実験の詳細やら写真やらが掲
 げてあります。

 ですので、香港の人にとっては「中国政府が弾圧しているのはチベットだけじゃない
 し」っていうのが常識になっているのですね。もともと、中国政府から逃げてきた人
 が造った街でもありますし。

 「あそこはひどいとこなんだけど、うまくやっていかなくちゃ」

 という意識がコンセンサス。「政治には関わらない」といういつもながらの植民地根
 性が出てきている感もありますね。

 とはいえ、こちらの英字紙にはこんなジョークも。

 「CNNと中国の戦い。

 CNN――24時間ニュース提供。傲慢なコメンテーター。ナンセンス。自由を主張。

 中国――24時間ニュース監視。過敏なコミュニスト。炎上中。愛国の自由を主張。」

 そう、香港は中国の一部といえど、今でも欧米人は多いのです。聖火リレーの折に
 は、香港人よりも、むしろ彼らによってユーモラスで毒のある抗議がなされるかもし
 れませんね。 

 香港での聖火リレーの結果は次回、詳しく報告させていただこうと思います。



2008年03月16日
                    第19回

          「円高、人民元高、そしてどこも株安」 


 こんにちは、ミセス・ウーです。香港はむしむしと暑くなってきました。湿度が高いの
 で、2月から4月くらいまでは毎年真夏よりも気持ち悪いです。そういえば2003年に
 SARSが流行ったのも今頃の季節でした。今年の香港ではインフルエンザが流行っ
 ています。小学校と幼稚園は休校。なんか私も、2月に風邪ひいてから水泳とかす
 ると胸が痛いんですが…。

 さて。株と為替がすごいことになっていますね。12年ぶりの円高です。バブル期み
 たい。香港ドル建てで給与を貰っている私は帰国できません。逆に、日本にお住ま
 いの方は海外での買い物が楽しいでしょうね〜。いいなー。

 でもバブル期と違うのは、株が低迷していることです。日本株、米国株もそうですが
 、香港・中国もかなり来てます。特に上海株は総合指数が13日に4000を下回り、回
 復してませんね。去年の10月には指数が6000台に上昇し、「いつまで上げ続けるの
 か? 7000? 8000? 1万? 」なんて言ってたのがウソみたい。大損した人がたくさんいる
 感じです。

 それにしても、中国株がなぜこんなに下げているんでしょう。本来、中国は閉ざされ
 た市場(一部の機関投資家を除き、 外国人投資家に対しては門戸を閉ざしている)
 といわれ、外部環境の影響は受けにくいはずです。実際、昨年までは米国株や普
 通に対外開放されている香港株が下落しても中国株だけがひょうひょうと上げてた
 り、 日本や香港、シンガポールなどアジアの株がみな米国に追随して上げたり下
 げたりする中であまのじゃくみたいに逆の動きをとったりしてました。それが最近は、
 アジア、そして世界の株はみんな足並みが揃ってきた感じです。

 これはなぜかというと、やはり中国はこの一年でかなり、対外開放されちゃったから
 ですよね。

 政府による規制緩和ではありません。やはり民間レベルでのヒト・カネ・情報の動き
 が進んだのだと思います。具体的に言えば、中国銘柄の香港市場への上場はもう
 すっかり普通のことになりました。中国の人の香港での就職も普通。中国の大手企
 業は米国市場で預託証券の形で上場しています。これは前からですが、製品もサ
 ービスも食料も、どこででも中国製が買えますよね。 中国人の海外旅行も一般的
 になりました。

 こんな状況で「閉ざされた市場なんで」ってマイペースが貫ける訳はありませんよね。
 そりゃ、足並みも揃うってもの。中国の新聞もとても詳しく海外株の記事を載せるよ
 うになったと思います。

 さて、今回の世界株安は米国のサブプライムローン問題が発端といわれています
 けれど、もう1つの大きな原因に世界的なインフレがあると思います。特に石油。私
 が安井先生の授業受けてた4年前は、「石油が1バレル30ドルくらいだったのが50ド
 ル超えて大変」なんて言ってたもんです。100ドル越えた今となっては牧歌的に聞
 こえますね…。このインフレの影にあるのはやっぱり中国。みんなの生活レベルが
 上がって、石油をたくさん必要とするようになっているんですね。さらに、中国の人
 件費上昇もインフレの要因です。 「世界の工場」で給与が上がってるので、できて
 きたものが値上がりしちゃうんです。

 でも中国の人にだけ「貧乏のままでいてね」なんて言えません。
 かくして、世界は均質化していくようです。株もインフレも…。みんな一緒に上げて、
 下げて。「宇宙船地球号」なんて言ってたのはいつの時代でしたっけ? もちろんイン
 ドなど新興市場の動きはまだまだにせよ、金融の面では、それは夢ではなくなって
 きたように思います。



2008年02月17日
                    第18回

              「毒ギョーザと食品問題」          


 こんにちは。ミセスウーです。寒いと思いますが、皆さん大丈夫でしょうか!? 東京でも
 雪が積もったようですね。 香港も寒〜いですよ!! といっても10度切る程度なんですが
 …。 中国は大雪で大変で、旧正月休み(7〜10日)に設定されていた中国ツアーは軒
 並み中止になりました。実はうちの上司も四川省に遊びに行く計画を立ててたんです
 が、取りやめになったらしい…気の毒な犠牲者が身近にも出現しています。

 さて。今話題の中国関連といったら、やっぱり「毒ギョーザ」でしょう。まだまだ捜査中
 の段階、うかつなことは言えないのですが、ここ香港での反応と中国の食問題につい
 て考えてみたいと思います。

 香港での反応は面白かったですよ。今回の「日本」での食品騒ぎは、なんと「日本食
 品の安全性に対する警戒感」に結びついたのです(笑)。 香港の新聞の記事のタイト
 ルは「日式毒餃子」で、「香港でも売っていた! そごうなどが回収」。さらに、なぜか「キ
 ンメダイから水銀が検出された」との記事もあわせて報道し、「日本料理店の刺身や
 寿司も危ない〜」との話になってました…(汗)。

 まあね、香港はもともと、食の安全については敏感なお国柄。岩盤の島で水が悪く、
 人口過密で、人々は衛生観念に乏しい(汗)。 2003年のSARS流行をきっかけに、伝
 染病に対する恐怖感が広まっています。 中国からの輸入食品問題もしばしば問題
 になってきました。一方で、日本食は大人気。 もともと生のものを食べる習慣がな
 い人たちですが、「よくまあ果敢に挑戦するなあ」と思うくらい、みんな食べます。 し
 かし、それはそれで生物を食べることに対して潜在的な警戒感というか、不安もあっ
 たのでしょうね。 中国食品はいつも問題ありなのでいまさら話題にならないため、
 「今度は日本がらみだ!! やっぱ生もの食べるって危険だよ! 」という感じで記事にな
 ったのでしょう。 別に日本に対しての特別な感情から出たものでもないと思います
 が、ちょっと苦笑しました。

 ひるがえって、中国での食品問題です。

 前述のように香港にいると、「中国製品は(食品も含めて)不良品で当たり前」ってのが
 身についているので、まあ驚きませんでした。農村部では以前に同じ薬品で死者が出
 ていたようですし、薬品管理がずさんなのはしょうがあるまい、って感じです。

 しかし、問題はそれが輸出品にまで及んでいるってことなんですよね。

 中国はメンツのお国柄。国内でいくら死者が出ようが、今回みたいに国際問題になる
 ようなことは極力避けると思うのです。前にも書いたとおり、同じ製品でも国内向けと
 輸出向けなら、輸出向けの方が検査もずっと厳しくなっています。以前の米国のペッ
 トフードの件もそうですが、この「国外に漏れた」というのが気になるんですよねえ。

 一方、中国では相変らず食品インフレが進んでいます。

 香港でも、ファミレスでやっていた鍋セットがなくなってしまいました…。豚肉が高くな
 ったためらしいです。豚は中国では大雪で死んでいるらしいので、また値上がりする
 でしょう。いろんなものの値段が少しずつ上がっていますね。

 品質悪化と価格高騰。「中国の食」を取り巻くこの2つの状況をどう捉えればいいのか。

 1つは「高度経済成長期ならではの問題が噴出している」という捉え方ですね。

 日本もそうでしたが経済成長の過程では公害やインフレが進みます。物に毒が混ざ
 ったり(日本でも工業排水による公害病などありました)、生活が便利になり所得も倍
 増する一方で物価も上がる…という状況です。

 もう1つはやっぱり食料は「足りない」っていう可能性。

 地球規模では人口増えていますし、人々の寿命は延びている。中国は世界の「農場」
 でもあります。70億人の死なない人々の胃袋を支えきれなくなってきている、という可
 能性はないでしょうか。

 私は結論が出ません。どっちの要素もあるのかもしれないけれど…。

 皆さんはどう思われますか?




2008年01月01日
                    第17回

                「上海出張報告」          


 こんにちは、ミセス・ウーです。いよいよ年末ですね〜。香港も12月22日に冬至をやっ
 て、すっかり真冬です。こちらの冬至はゆず湯ではなくて、家族揃って食事をします。
 出てくる食事は鶏のロースト、蒸し魚、蒸し豚肉、炒め野菜がベース。そのうえで今年
 は羊鍋でした・・。年によって漢方薬を煮込んだ季節のスープが出たりいろいろです。
 冬は旧正月にかけて家族が集まる行事が多いのですが、その第一弾って感じ。ヨメと
 しては楽しくも気疲れする季節の幕開けとなりました。

 さて、上海に出張して来ました。
 いや〜景気は良かったです。新しいビルがバンバン建ってて。聞けばオフィスが足り
 ず、家賃がどんどん上がっている状態で、新たなビルの整備はみんな待ち焦がれて
 いるそうです。 タクシーも足りなくて捕まらず、苦労しました。なんだか、人口が一気
 に増えている感じでしたね。

 そして物は高かった! 特に洋食。「新天地」という高級外国人街でサンドイッチとコー
 ヒーを食べたら700円くらいしました。香港と同じか、ちょっと高いくらいです。まあ、そ
 こはモダンインテリアを配したすごいおしゃれなカフェだったですけど…。現地で合流
 した知人も「こないだ新天地のイタリアンレストランでランチ食べたら、5000円くらい取
 られた」って言ってました。 周囲のブティックとかインテリアショップも見ましたが、置
 いてある物はみんなセンスが良く、お値段も高かったです。

 インフレの勢いもすごいみたいです。浦東のオフィスに勤める中国人男性は「会社近
 くの食堂に豚肉を使ったおいしい定食があったのに、 数ヶ月前にメニューから消えま
 した」と悲しそうに話していました。値上げすると売れ行きが悪くなるので、メニュー自
 体なくなったそうで…。 「体感でのインフレ水準は、発表される数字以上ですよ」との
 ことでした。

 かと思えば、オフィスビルの建設現場では農村から出てきた作業員の人々が、数百
 人単位で一列にすわり、会社支給の食事を摂っていました。彼らが食べているのは
 一食30円とか50円のお弁当。あまりの格差に、 「暴動は起きないのか」と上海在住
 の知人に聞いたら、「農村部ではしょっちゅう暴動は起きているけど」と笑った上で、
 こう説明してくれました。

 「農村部から出てきた人たちは、今の暮らしを上海の他の人々ではなく、農村での生
 活と比べる。彼らにとっては、携帯電話も持てれば毎食きちんと食べられる上海での
 労働生活の方が気持ちが良いんだ。しかも働いて仕送りすれば、故郷では家が建つ」
 なんか、「比べてもしょうがないので比べない」というヨーロッパの貴族階級と庶民み
 たいですが…。それを考えると、「セレブのお宅拝見」なんていうテレビ番組を気楽に
 流せる日本は平和なのかもしれないですね。 少なくとも格差を見せ付けても暴動の
 心配はないって事ですから。すさまじい格差社会の中でも、人間はちゃんと精神のよ
 りどころを見つけられるともいえます。

 さて、年末年始は日本に帰国します。帰国時の一番の楽しみはなんてったって買い
 物 !日本の洋服は安くて質がいいですからね〜。上海では高くて手が出なかったけ
 ど、日本では買いまくりの予定。最近、日本は安い買い物をする場所になりつつあり
 ます。




2007年11月18日
                    第16回

             「冬になってもマカオは熱い」          


 こんにちは、ミセス・ウーです。いよいよ寒くなってきましたね。一年もこの時期になると
 後はあっという間。年々、年末が来るのが早くなるのは気のせいでしょうか。

 さて、今回は中国と言ってもかなり端っこの「マカオ」を取り上げてみたいと思います。

 8月末に大型カジノの「ベネチアン・マカオ・リゾート・ホテル」がオープンしてから、マカ
 オの人気が高まっています。最近、日本から来る友人・知人も必ず「マカオに行ってみ
 たいんだけど…」って言いますね。お目当てはやっぱりベネチアン。日本でもかなり報
 道されているみたいで、「噂のあの場所をぜひ一目」とおっしゃいます。

 ベネチアン、確かに人気です。今はだいぶ落ち着いたようですが、オープン当初はマカ
 オ市内は大混雑。タクシーが捕まらなかったり、税関がオーバーヒートしたりしたらしい
 です。マカオではベネチアンだけでなく、他のホテルやカジノも続々オープンしています
 から、従業員向け住宅の不足で不動産市況も活況。私の夫は建築関連の仕事をして
 いるのですが、ここ2年ほどはしょっちゅうエージェントから「マカオに赴任しないか〜」
 と電話が掛かってきていました。急速な発展にインフラが追いついていない状態で、整
 備にてんやわんやしているようです。

 しかしマカオったら、なぜこんなに突然、発展し始めたのか? 昔からマカオはあったの
 にねー。

 マカオのカジノは、長年、信徳集団というカジノ経営会社1社が経営権を独占していま
 した。同社のオーナーであるスタンレー・ホー氏は世界的な大富豪。戦前・戦後を通じ
 てマカオに投資し、漁村にすぎなかったマカオをカジノの町に育て上げた人です。賭
 博場のボスですからもちろん裏社会でも実力者で、奥さん4人、子供17人以上と私生
 活もハデハデ。マカオ政府なんかよりもずーっと権力が大きくて、1999年にマカオが
 中国に返還されるまでは、実質的に彼がマカオのキングでした。

 しかし、返還後の2002年、超力の強い中国政府にはホーさんも対抗できなかったため
 か?

 マカオのカジノ経営権が対外開放されました。これを受けて、米系をはじめとするカジ
 ノ企業が続々とマカオに進出してきました。

 さらに、同時期に中国政府は中国人の旅行者に対し、香港・マカオへの個人旅行の解
 禁を進めます。それまでは中国人はツアーでしか行けなかった香港やマカオに、個人
 でも旅行できるようになりました。当初は北京・上海・広州と地域限定で解禁して、徐々
 に解禁地域を増やしました。結果、今の香港・マカオは中国人の観光客であふれかえ
 っています。

 この2つの措置の相乗効果で、マカオでは「カジノのバラエティが増える→観光客が増
 える→ますます施設が充実する→東南アジアなどの周辺からも観光客が来る」という
 好循環が実現したわけです。

 マカオの関係者に会うと、「マカオは香港よりも観光資源が豊富。もう香港観光のおま
 けのじゃない」と胸を張ります。確かにそうだと思います。

 でもね。1つ注文つけてもいいかい、マカオのカジノ。

 あなたはセンスが悪いのよ〜。

 私もマカオのカジノで遊んだことがありますが、あそこはなんつーか「掛け金の大きい
 ゲーセン」って感じ。ジーパン、短パンでもぜんぜん入れちゃうんですよね。なもので、
 いくらインテリアがゴージャスでも、いまいち非日常の雰囲気にならず…、すっちゃっ
 たせいもあるけど、私はいまいち好きじゃないかな…。

 ラスベガスの良さは非日常の雰囲気と言われます。それには服装やマナーなど雰囲
 気も大切なはず。でも、一朝一夕で身に付かないのが「センス」。マカオの課題はイン
 フラ整備だけじゃなさそうです。




2007年09月30日
                    第15回

              「暑さ寒さも彼岸まで」          


 こんにちは。ミセス・ウーです。「暑さ寒さも彼岸まで」とはよく言ったもの。
 ここ香港でも、ようやく暑さが和らいできました。

 安倍首相が辞任、福田内閣が発足しましたね。中国・香港でも速報で伝わりました。  
 ただ、それは安倍さんの辞め方が不思議だったからという感じで、だからどうなるとい
 う感じではないですね…。あの表情を見ると精神的に追い詰められていたことは分か
 り同情しますが、13億人の国民と分裂要因を内包した国家を抱え、見るからにあざと
 そうな中国のトップを普段見ているので、比べると「小物だったなぁ」という感じは否め
 ません。日本の政治家は人材不足そう…。このコラムでは「中国、大丈夫かい! 」とい
 う話を多く書いていますが、中国の政界はいろいろあってもとりあえず安定しており、
 その意味では、 今は日本は外から見てカントリーリスクが懸念される国になってしま
 っている気がします。

 さて。中国です。日本の混乱に比べるとたいした問題じゃないような気もしますが、イ
 ンフレが激しいことになっています。 8月のCPI(消費者価指数)は前年同期比6.5%の
 上昇。食品価格は20%近く上がりました。一ヶ月でグラム100円の鶏肉が120円になる
 …嫌過ぎですね。年初からでは2倍以上になったらしいですよ。

 ただ、日本もこういう時代はあったんですよね。洗濯機やカラーテレビなどの家電が
 続々登場して生活がみるみる豊かになっていったころ。そう、昭和30年代です。
 映画の『Always三丁目の夕日』などに代表されるように「あの頃は希望があってよか
 った」と語られがちな時代ですが、好景気に呼応した物価の上昇にヒーヒーいってた
 のもまた現実であったはず。さらに、公害が大きな問題となった時代でもありました。
 私は小学校時代に「光化学スモッグ注意報が出てるので、外で遊ぶのは禁止」なん
 て札が校庭に出てた世代ですが、北京在住時に体験した黄砂の季節の空気の汚さ
 は、光化学スモッグそのものでした。 日本の昭和30年代が必ずしも希望だけではな
 かったように、中国の庶民も明日への希望の一方で、物価や環境に対する不安も抱
 えながら生活していると思います。

 でも、日本と違うのは「いつか終わりが来る」ってことが分かっていることかなと思い
 ます。 日本のバブル崩壊の例は中国でも伝わっており、しょっちゅう「今の経済状
 態はバブルか!?」と新聞で報じていますから。「こんな好景気はいつまでも続かない」
 と、少なくとも経済人や政府の上層部は分かっているでしょう。ですから政府の大き
 な課題は「経済のソフトランディング(軟着陸)」です。

 いや、日本の時も分かっていたのかもしれないですね。経済が勃興してピークを迎え
 てそれが終焉を迎える、という一連のプロセスは欧米、特に欧州に先進の例がありま
 した。それでも好景気の只中にいると分からなかったのか…。流れていく歴史の中で、
 個人がどんな風に生きるかもなかなか難しいものだと思います。

 ともかく、中国は経済発展のプロセスの只中にいます。激しいインフレはその証拠の
 1つです。いずれ頂点が来て、停滞する時も来るのでしょう。暑さ寒さも彼岸まで。就
 職氷河期世代の私も、 いずれ中国人の誰かと「国の停滞期」について意気投合しつ
 つ話し合う時が来るのかもしれません。



2007年08月19日
                    第14回

           「食品問題の裏にあるものは…?」          


 こんにちは、ミセス・ウーです。夏休みですね〜。でも今年は梅雨明けが遅くて、海水
 浴シーズンは短かったようですね。 私も海はまだです。香港の海はサメが出るんで
 すよ。 一応、海の中に防止の網が張られていて侵入を防いでいるんですが、破れ目
 から入るみたいで、毎年食われる人が…。今年も被害者が出ました。いまいち行く気
 が失せる海です (笑)。

 さて、今回は日本でも大問題になっている中国の食品問題について書いてみたいと
 思います。

 実はこの問題、中国国内ではあまり注目されていません。というか、最近やっと注目
 されるようになってきたところ、というのが正しいでしょうか。今は「食品」といえば高騰、
 インフレの方が問題です。

 今の中国では、食品インフレがすごいのです。上海の友人は「市場に行く度に、何も
 かもが高くなっていてびっくりする」と言っていました。 豚肉をはじめとする肉類に始
 まり、卵は年初の1.5倍、野菜も10%くらい上がったそうです。

 で、私はどうも、食品安全の問題と食品インフレは関係あるような気がしてます。

 値上がりするとはつまり、供給が足りないということです。足りないから水増しのため
 にひき肉に水を入れる。 病気の豚の肉を使う…やがてこれらを暴露したニュースが
 中国紙でも取り上げられるようになり、 同時に外国からの中国産食品に対する非難
 も報じられるようになりました。

 日本と同じで、私はこうした問題食品の製造は今に始まったことではないと思ってい
 ます。

 実際、香港では、中国から輸入されてくる食品の品質問題が早くから指摘されてい
 ました。一番問題になったのは2003年のSARS流行の頃でしょうか。SARSウイルス
 の中国からの流入に伴い、他の菌についても注目が高まりました。 毒ウナギや毒
 川魚、毒豚肉、毒野菜などなど、 いちいち「毒」がついた中国からの輸出食品が報
 道され、「香港で一番安全な食べ物はマックと日清カップめん」なんてジョークが流
 行ったものです。 

 一方で、中国では、最近まで食品安全はほとんど問題視されていませんでした。私
 自身、昨年、北京に住んでいた時には、郊外の農家から果物を売りに来る馬車を見
 て「おお、産地直送。新鮮だなぁ」なんて思ったりしてたくらいです。 ミンチやしゃぶし
 ゃぶ用の薄切り肉などもスーパーの肉売り場で目の前でひいてくれるので、ごまか
 されている感じもなく…。食品の安全を疑うなんて思いつきもしませんでした。

 つまり、この数年間は香港と中国の間ですら、食品安全に対する意識に大きな差が
 あったのです。この差は何を意味するのか。また、インフレとともに食品安全が問題
 視されるようになったのは、何故か。

 ここからは個人的な憶測です。
 背景にあるのは、「足りない」ってことではないでしょうか。値上がりも、問題食品が出
 るのも、基本的に「食料が足りない」からでは? 「食料不足」なんて言い出したら世界
 中パニックになっちゃうから言いませんよ。でも、中国の食料は数年前から慢性的に
 足りな気味なのではないか、と考えちゃうのです。 そうでなければ、輸出品まで問題
 製品にはならないんじゃないでしょうか。 そりゃチェック機能の問題はあるでしょうけ
 れど、面子を重んじるお国柄、対外的に簡単にボロを出すような気はしないんですよ
 ねえ。実際、数年間は危険食品の輸出も香港向けくらいで留めておけた訳で…。
 米国向けとか日本向け輸出まで危害が及んでるっていうのは、 どうも嫌な感じなん
 ですよね。

 なんか怖い想像になってきたのでこの辺で止めときましょう。しかし、こう書いてきて
 思ったんですけど、 私自身はこの10年くらい、中国産危険食品しか食べてないよう
 な…。!?



2007年07月15日
                    第13回

             「香港返還10周年リポート」            


 こんにちは、ミセス・ウーです。そろそろ本格的に夏ですね! 私の住む香港では4月く
 らいから真夏なので、もう毎週プールに通ってます。おかげさまで真っ黒ですよ〜。
 日焼けの害を気にしなきゃいけない年齢なんですが、しかし南国に住んでて美白は
 無理です。せいぜい必死でキュウリパックです…(汗)。

 さて、やや遅くなりましたがうまい具合に居合わせました「香港返還10周年」について
 書いてみたいと思います。
 
 10回目の返還記念日は、一言で言って「風のように」過ぎて行きました。政治的な運
 動やデモがなかったわけではないのですが、基本的にはお祭り気分。しかし、その
 お祭り気分も穏やかなものでした。

 状況を描写しますと、一応テレビなどでは「香港終始有尓(香港はずっとあなたと一緒
 )」という題の「香港の歌」が流れていました。記念日当日は空にパラシュートやら気球
 やらが浮かび、街は写真をとる人でいっぱい。 主要道路は自由選挙権を求めるデモ
 が歩くために歩行者天国に。でも、デモの後に続いて獅子舞が歩行し、緊張感はあり
 ませんでした。みんな中国の旗と香港政府の旗をとりあえず振って、花火を見て満足
 して帰る…という感じ。 なんか、毎年の旧正月や国慶節の祝日と変わりなかったです
 ね(笑)。

 何故かっていうと、香港市民は現状に不満がないんですね。 でも大喜びもしていな
 い。 というのは、日本でもさんざん報道されていると思いますが、中国によって経済
 回復したからです。

 返還以後10年間の香港経済は「W字型」といわれます。2回の大きなへこみ(低迷)が
 あった。1度目は98年のアジア通貨危機、2度目は03年のSARSです。そのいずれの
 不況も、中国との貿易強化や観光客増によって回復しました。つまり、東南アジアや
 天災による不況を、2度とも中国が助けてくれたわけですね。  ですから基本的には
 「ありがとうよ中国〜」というのが市民の気持ちだと思います。

 しかし、だからといって中国を全面的に信頼しているわけではありません。中国自体
 の経済がこのまま発展し続けるとは考えていないからです。

 今が中華人民共和国建国後で初の高度経済成長期に当たる中国本土の人と違い、
 香港の人は突然の不況を経験しています。日本のバブル崩壊の例もよく見てきまし
 た。

 ですから、中国経済に対するバブル懸念はとても強い。一方、過去に2度も中国に
 助けてもらった過程で、 香港と中国の密着度が増していることも自覚しています。
 「中国経済が倒れたら共倒れだぜ」という危機感が強いのです。 いわば、中国特需
 が大きいだけに不安も強い状態といいましょうか。 薄氷を踏むような気持ちで、現在
 の好況を歓迎している感じ、といったらいいでしょうか。 なんか、せっかくの好況を楽
 しめなくてつまらないですが…。

 返還前は政治面での不安からカナダ移民が相次いだことを考えると、香港・中国関
 係の関心が経済に移ったのは、10年前には予想できなかった展開だったとと言える
 でしょう。今は、香港人の友人のどの人に聞いても「政治面での恐怖感はない。 解
 放軍も無害だし」と言うくらい、中国に対する「恐怖感」はなくなりました。

 けれど、「完全には信用しないぜ中国〜」というスタンスは、やっぱり同じなんですよ
 ね。どこまでも疑り深い香港…。そんな気持ちがよく言えば穏やか、悪く言えば盛り
 上がりに欠けた「返還10周年記念日」になったように思います。




2007年06月03日
                   第12回

             「中国株高はなぜ問題か」            


 こんにちは、ご無沙汰しております。ミセス・ウーです。日本はそろそろ梅雨が近い
 感じでしょうか。香港はいよいよ暑くなってきました。 夏になると水分補給のために
 欠かせないのが瓜。西瓜、南瓜、冬瓜、蜜瓜(メロン)、木瓜(マンゴー)…と、八百屋
 の店先で「瓜」とつく野菜と果物を買いあさり、香港の夏は延々と続きます。

 さて。中国株が高値を続けています。 2月に中国発で「世界同時株安」が起きてか
 らというもの、「いつバブルがはじけるか」と世界中がひやひやしながら眺めている
 状況が続いています。 最近は外国のみならず、中国政府も「なんとかして株価を
 下げなくては」とあの手この手を打っていますが、 企業業績の好調を背景に「まだ
 まだ上がるだろう」と投資家の先高感は強まるばかり。何をしても下がりません。
 日本株の不振にあえぐ立場からは、「株高、いいじゃん」と思わなくもないですが、
 これがやっぱり困るんですね。 バブル崩壊に伴う世界の金融市場への影響以外
 にも、中国の国内問題に関連した問題があります。 

 中国株が高い!  と聞くと思い出すのが北京にいた時の中国人上司の姿です。
 まあ、自分の会社なのでいいのですが、一日、株見てました…。仕事してません
 でした…。

 画面に張り付きっぱなし。時折「おっ」とか声が上がるのでどうしたかと見れば、値
 動き二個押した叫びだったり。それでも会社が持つのは好景気だからですね。株
 バブルが毎日伝えられる昨今は、ああいうデイトレーダーが1億人くらいいるのか
 なと思います。

 しかし、中国は大きい。「おっ」と声を上げて儲けているトレーダーだけが中国人じ
 ゃないのです。内陸の農村部に行くと、デイトレーティングどころか電気も通って
 いないような超田舎があります。いわゆる「沿岸部と内陸部」「都市部と農村」の貧
 富の差問題です。

 この地域的な貧富の差は、中国政府が抱える最も頭が痛い問題でしょう。何しろ
 13億人の国民です。すべての人がなるべく不満を抱えないよう、暴動やテロが勃
 発しないよう、国を舵取りしていくのは大変なことです。

 北京のバスにはまだ車掌がいます。 地下鉄の切符売り場も自販ではなく、窓口の
 人に言うシステムでした。  「簡単に自動にできるはずなのに変なの、田舎だな」と
 思っていたら、これは雇用を創出するためにわざと残しているのだということでした。
 当たり前ですが都市部の豊かな人より農村部の貧しい人々の方がずっと多いわけ
 で、そうした特別なスキルのない人が出稼ぎに出てきた場合に、職を与えなければ
 ならないのです。中国政府は貧困層に大変気を使っていると実感しました。

 株高は、この都市部と農村部の貧富の差をさらに広げる可能性があります。
 来年に北京五輪を控え、中国政府としては暴動発生は避けたいはずです。 でも株
 の暴落は、今度は都市部を混乱させかねません。どっちにも身動きが取れない…・
 そんな政府の困った状態を見越したように、株は上がり続けます。上昇の結末はい
 ったいどうなるのでしょうか。




2007年04月08日
                   第11回

              「香港で不動産巡礼」            


 こんにちは! また間が空いてしまいましたが、ミセス・ウーです。日本は桜の季節で
 すよね! 今年の桜はいかがでしたか。私の住む香港はもう冷房がいる感じ。 むしむ
 ししてます。

 さて、私はここ半年ばかり、香港での住宅購入を目標に家めぐりをしてきました。
 今回は実践版「香港の住宅・不動産事情」をお話したいと思います。

 香港はご存知のように高層ビル天国です。世界一の人工過密度ゆえ、不動産は
 世界一高い! 「このスペースにこれだけお金を払うの? 」とため息が出てしまいます。
 庶民の住環境ははっきり言って劣悪です。例えば私は今、夫の実家である古い公
 団に姑と同居していますが、これは広さ30平米ほどの1DK。 マンションの6階で階
 段のみ、入浴はベランダに位置するトイレの便器の上についてるシャワーのみ(冬
 は寒くて大変でした)というもの。 私は狭さと住みにくさに音を上げたのですが、夫
 &姑いわく、「昔はここに6人で住んでたからねー」…。いや人間ってどんな環境で
 も生きていけるんだなーと思いましたよ。

 しかし私は日本人。特に冬はお風呂が恋しい。自分の場所も欲しいし…というわけ
 で、なんとかバスタブのある家を! と巡礼を始めたわけです。

 香港の家には大まかに分けて、@公団A民間マンションB原住民特権の一軒家
 ―の三種類があります。このうち@は私が今、住んでいるようなもの。もう少し新
 しいタイプの物件ではエレベーターがあったり、バスタブがあるものもありますが、
 まあ間取りはどこも似たり寄ったり。たいして住みやすい家ではありません。窓の
 形に特徴があるので、外から見てもすぐに公団だと分かります。 家賃は安く、A
 の半分以下。香港の庶民は半数以上がこのタイプの家に「大勢でぎっちり」住ん
 でます。

 Aは民間デベロッパーが開発したマンション。 日本人駐在員が住むのは100%こ
 のタイプでしょう。最近はプールやテニスコート、SPAなどの施設がついている物
 件が増えています。建築する時の政府への申請項目の関係で、割安に建てられ
 るらしいんですね。

 こうした選択肢の中、私が最初に希望したのはBでした。 これは香港政府が香
 港にもともと住んでいた原住民とその子孫だけに特別に建築を許可しているタイ
 プの物件で、一軒家です。 香港にも一軒家があるのか? と思われますが、たい
 てい外国人は行かないようなすごい郊外にあります。一軒家といっても多くは3階
 建て。フロアごとのばら売りもしています。大きなバルコニーがあり、日本人DNA
 のゆえか一目見て「いいなー」と思ったのでした。

 しかし、購入に際して問題が生じました。頭金が、マンションの購入よりも数倍多く
 必要なのです!

 これは、銀行がこのタイプの物件を信用していないということなのですね…。
 一軒家の取引に際しては、デベロッパーや政府が絡むマンション・公団と違い、個
 人同士の小さな取引になるので昔から詐欺が多く、そのリスクをとっての措置らし
 いです。

 さらに家自体も大型マンションに比べ建築素材が悪く、傷みが激しいとか…。鉄筋
 ですが、なにせ高温多湿ですから、あっという間に錆びるといいます。防犯面でも
 問題が多いとのことで、泣く泣く諦めざるを得ませんでした。

 それで今は、結局Aの民間マンションを巡ってます。しかし、これは高くて狭いんだ
 なぁ。「表示面積」と「実用面積」というのがあって、「実用面積」というのは共有部分
 のエレベーターやらなんやらを引いた専有部分なんですが、これは表示の70%くら
 いなんですよ。 つまり、共有部分も家賃や購入価格として負担する。
 で、プールやら付いていると、この共有部分負担も多くなるんですよね。 がめつい
 〜。あー、愚痴になっちゃった。しかし、巡礼はまだまだ続きます。ファイト!




2007年02月18日
                   第10回

            「ファンド」はどこでも大ブーム」


 こんにちは! またまた間が空いてしまいましたが、ミセス・ウーです。

 私の暮らす香港も含め、中国は旧正月(春節)を迎えています。18日の元旦に向け、
 街の中はお祝いの色・赤金一色!  顔を合わせれば「恭賀発財(今年も儲かりますよ
 うに)! 」と挨拶しあう、稼ぎまっせな正月がやってきました。

 さて、そんな景気のいい声を背景に(?) 今回はここ中華圏での「基金」、つまりファ
 ンド(投資信託)について考えてみようと思います。
 「ファンド」の位置づけは中国本土と香港では微妙に違います。(もちろん日本とも違
 うのですが…)香港に再移住して最も驚いたのは、「ファンド」が一種の「定期預金」
 のような位置づけになっているということでした。
 「10年前は定期預金の金利が10%近くあったけれど、今は低利になっちゃったから
 …。その代わりにファンドで15%以上の利回りのものが多くなってきたから、そっち
 に乗り換える人が増えてきたね」
 とは夫の弁。米ドルとのペッグ制を取る香港の銀行金利は、米国の政策金利に連
 動して動くシステムになっています。現在のところ、預金金利は3%弱(ちなみに住
 宅ローン金利は5%弱)くらい。日本のゼロ金利に比べるとずっと高いのですが、こ
 の程度の利回りに満足してたら香港人じゃありません。

 「世界各国の銀行が軒を並べる環境のため、オフショア投資が身近なのが香港。
 いわゆるオフショアファンドも一般的で、高利回り投資に掛ける人が多い。外国の金
 融商品に投資したところで、日本みたいに源泉徴収をとられるわけでもないですか
 ら」と、この方面に詳しい友人も言います。かくして「ファンドで貯金」は香港の人に
 とって一般的な資金の運用法になってきています。

 一方、中国の場合。こちらでも「ファンド」は大流行。中国の地元紙「証券時報」を開
 くと、「中国基金」という別冊が付いてくることがあるくらいです。 しかし、こちらは定
 期預金というより。物珍しい投資方法の一種、といった感じ。
 「中国は株式市場ができてまだ歴史が浅いですからね。良さそうな株を組み合わせ
 たものに投資する、というのが珍しいのでしょう」
 とは先ほどの友人の解説。中国株がまだまだ上り調子であることも、「ファンド熱」に
 拍車を掛けているようです。 どうせ株を買うなら、「もっともっといい組み合わせで買
 いたい」のは人情。ましてや株式投資が一般化し始めたばかりということなら、特に
 個人投資家にとっては株そのものがよく分かりません。「お得な福袋で〜」となるの
 は自然な流れなのでしょう。このあたりの心理は中国株やインド株などの新興地域
 ファンドを買う日本人投資家と似ているかもしれませんね。

 同じ国の中でありながら、妙に進んだ香港の「ファンド」と、原始の名残が見える? 中
 国本土の「ファンド」。あなたならどっちに投資しますか?




2006年12月10日
                   第9回

               「700万人総投資!」


 こんにちは、ミセス・ウーです。日本はもうストーブが必要な季節ですね! 私が暮らす
 香港でもやっと冷房なしで眠れるようになりました。 暖かいのはいいですが、変化が
 ないので日本の四季が懐かしくなることがあります。

 さて、今回は世界でも名高い「香港の人の投資好き」について書きたいと思います。
 このまえ、日本人の友人が香港の娯楽について話しているのを聞いていたら、こんな
 感じでした。 「ええと、競馬とマージャンと、宝くじと…その延長に株があって、お金が
 増えたら不動産投資かなぁ」…お金がらみばっかりじゃないのよ!
 それが、あながち嘘じゃないところが香港の怖いところなんですね。特に株が身近な
 ことといったら、日本人の比じゃありません。

 少し前、10月末に中国の銀行最大手である中国工商銀行が香港と中国のA株市場
 の両方に同時上場しました。香港では中国企業株は「人民元もまた切り上げられる
 だろうし、中国は何といっても伸び盛りの国だから」ということで、もともと人気。「株
 といえば中国株」という感じです。今回はその中国株のうちでも大型の銘柄が上場と
 いうことで、香港でのフィーバーぶりは大変なものがありました。新規株式公開(IPO)
 の倍率は 倍。噂によると、香港市民の約14%が買ったとか。この話を聞いて「宝くじ
 じゃないんだからさぁ。そんなにみんながみんな買ってるもんかい」と思った私は甘
 かった。

 私は週に一回、香港人向けの中国語のクラスに通っています。香港の人が話すの
 は広東語で、中国大陸の人や台湾の人が話す言葉とは違うため、1997年の中国返
 還後は普通語を勉強するのがブーム。私は夫が香港人なので、普通語は少しでき
 るものの訛りがひどく、地元の子に混じって勉強中です。

 で、そこで工商銀株について聞いたところ、クラスメイトたちが口々に「申し込んだよ」
 「俺も買った」って言いだした。次の週に聞いたら、「抽選漏れで買えなかった」「なく
 なっちゃったー」と言ってましたが…。噂は誇張でもなんでもなかったんですねー。

 投資、投資…。「儲けのチャンスは絶対に逃さない」人口約700万人のこの狭い地域
 で、みんながみんなお金のことばっかり考えているのは、怖いような滑稽なような。
 
 いずれにしても、香港の人々のマネー感覚には、本当に頭が下がります。





2006年09月24日
                   第8回

           「中国に代わる投資先って…」


 こんにちは、ミセス・ウーです。すっかり秋風が感じられる季節になりましたね。

 とはいっても、ここ香港はまだまだ暑いのですが…。10月くらいまではとーぜんのよ
 うに冷房が必要なお国柄。今は台風が次々と襲ってきて、蒸し暑い日が続いていま
 す。

 さて、この前は久しぶりに以前に香港に住んでいた時からの友人と食事をともにしま
 した。彼女は銀行の投資アドバイザーをしています。香港は中国とは言っても、むし
 ろ東南アジアも含めた「アジアのハブ」としての役割が強いので、銀行や商社の人た
 ちは、古くから北は大連や北京から、南はタイ、インドくらいまでを守備範囲にしてい
 ます。食事をした友人も、日系企業に投資先を紹介すると言う仕事柄、東西南北あち
 こちに出張してました。

 で、そんな彼女が言ったのが
 「中国って案外、投資先として整ってると思うんだよねー」
 ということです。

 彼女のお客さんは大部分が海外に工場を建てたい日系企業。中国は近頃、地価や
 人件費が上がってきているので、既に中国に工場を建てている企業も「東南アジア
 に工場を移転させたい」という要望が多く、彼女はそのための調査をしています。と
 ころが、
 「中国の代わりとして紹介できるような良い場所って、なかなかない」
 のだそうです。

 「中国は共産国でお上が強力だからさ、必要なら強制的に住民をどかして土地を整
 備するでしょう。インフラだって、辺鄙なところでもまあ整ってるし」

 彼女によれば、よく中国の次の投資先として取り上げられるインドは「インフラがまだ
 まだ」。五つ星ホテルでもお湯が出なかったり、少し田舎に行くと通信インフラが整っ
 ていなかったり(世界的なIT大国ではありますが、それはやっぱり一握り、一地域)。
 
 タイやマレーシアは民主国なので土地整備にも住民の同意が必要で、その分時間
 がかかる。ベトナムは社会主義国ではあるけれど、中国ほど政府が強くないので、
 やっぱり人をどけるのに時間がかかる…。

 そんな彼女の一番のお勧めは、実は「カンボジア」。土地も安いし、政府も強くてよ
 いのだそう。ところが…。

 「あそこ、地雷があるんだよね。イメージ悪くってさー」
 もちろん地雷自体はNPOなどが駆除していますが、工場候補地として提示した土地
 の説明で、「ここの土地、地雷埋まってたんですけどいいですか」と言われると、た
 いていの企業の担当者は「えっと言って引く」のだそうです(笑)

 かくして「中国は投資先として結構グー」が彼女の結論。「アジアシフト」「日本への
 工場回帰」などなど、 新聞紙面には中国離れ傾向を報じた記事も踊りますが、実
 際には「世界の工場」としての中国の地位は、当分揺るがないのかもしれません。




2006年07月30日
                    第7回

             「北京で会社を辞めたワケ」


 ミセス・ウーです。またまた間が空いてしまい、ごめんなさい。

 実はまた引っ越しまして…。北京を引き払い、今は夫とともに香港にいます。北京は
 駐在で行ったので、今回は会社を退職しての引っ越しとなりました。

 よく聞かれるのですが、今回の移動は1にも2にも「会社」が理由。私が勤めていたの
 は「本社は東京だけれど社長は中国人」で、「中国企業の特徴」を良くも悪くもたっぷ
 り持っており、端的に言えばそれに馴染めませんでした。 その意味ではこの半年は
 苦労しっぱなしで、語るも涙、聞くも涙(笑)。

 今回は、その苦労の原因の1つである中国の「できてるもの取り入れ主義」について
 考えてみたいと思います。

 中国が最近数年間にわたり、10%程度の高い経済成長を続けている理由の1つに、
 「日本などの高い技術を積極的に導入して学び、成長スピードを速めている」ことが
 よく指摘されます。例えば、製造業などの工場移転を奨励し、現地の人員を雇って
 もらって高度な技術を学ばせる。現地社員が技術を習得したところで、今度は自分
 たちで工場や企業を作り、学んだものと同程度かそれ以上の製品を作り上げる―
 というやり方です。

 具体例としては、北京−上海間の新幹線敷設についてドイツが建設権獲得を狙い、
 シーメンスなどの企業の中国進出や技術提供を奨励していたところ、中国側が突
 然、「われわれは自己技術で新幹線を敷設することができる」と言い始めた、という
 事件がありました。

 これが同じことが企業単位でも行われているなぁ、というのが中国企業に勤めてみ
 た上での感想の1つなのです。
 一言で言って、中国企業は「研修」をしません。「社員を育てよう」という意識はない
 のです。社員は「育てるもの」ではなく、「利用するもの」。「この社員(の持っている
 特技と人脈)を利用して、我社の事業拡大に役立てるにはどうしたらいいか」を考え
 るのが中国企業だと思います。

 例えば、北京での同僚だったLちゃん(26歳)。彼女はうちの会社から日本企業へと
 転職したのですが、転職後すぐに、 語学習得を含む日本への研修旅行に出かけ
 ていきました。日本語を学びたい意欲が強かったので、「元の会社にいたら、こん
 な機会は絶対なかった」と言って大喜び。日本企業では20代の新入社員なら研修
 は当然なのですが、中国にはそんな慣習自体がないので、大変驚いたようです。

 それくらい、中国企業は「人を育てず」、言い換えれば「即戦力を大切に」します。
 ですので、新卒の就職率は、北京でもとても低いのです。そして横転率も高い。
 企業側に社員を育てるという発想がありませんから、「この企業に勤め続けても成
 長できない」と感じる機会が多いのでしょう。実際、私は専門技術を買われて入社
 したクチですが、最後には「利用されるばかりの自分」に嫌気がさしてしまいました。

 これは成長中の国の企業の特徴なのかもしれないし、外資系企業はみな、ある程
 度似た傾向を持っているのかもしれません。あるいは日本の企業も少しずつ、こう
 した方向に向かっているのかもしれません。 しかし、こうしたやり方は社員の定着
 率が低く、長期的に見るとやはりロスが大きいように思います。 ましてやこれが国
 単位で行われていたら。「中国はこちらを利用するばかり。もう付き合うのは嫌だ」
 と他国に思われないでしょうか。

 その傾向は実際、少しずつ出てきているように感じます。人件費の上昇などを理由
 に工場をインドなど他国に移すケースも耳にするようになりました。以前、日本が好
 調だったときに出てきた「ジャパン・パッシング」に類した感情が、国際的に渦巻き始
 めているように思います。

 「もう少し長期的視野を持って」。中国に、中国企業にこう言いたくなるのは、私が
 「終身雇用制」の国の出身だからでしょうか。





2006年04月30日
                    第6回

             「中国ビジネスは難しいか」


こんにちは、ミセス・ウーです。 今年の北京は黄砂がすごくて、スモックがかかってい
るような日が続きました。時折、息もできないような大風も吹くんですよ。

そんな日の翌日は車など泥をかぶったようになっていて、 「黄色い砂が舞っているん
だなあ」とつくづく感じます。

さて、世界で唯一の成長市場とも言われる中国。商売、ビジネスで進出したいと考え
る方も多いのでは? 今回は中国ビジネスの特徴について考えてみましょう。

ヤオハンの失敗以来、「中国人と仕事をするのは危険だ」「騙される」というようなトラ
ウマが日本人の間にできてしまった気がします。 それでは、中国人はそんなにも巧
妙で侮れないのでしょうか?

私が感じたところでは、問題の根は「中国人のビジネススタイルは、未だマニファクチ
ャリングである」ということに尽きる気がします。いわば、欧米式のビジネススタイルの
導入が不完全で、定着しきっていないのです。

これを表す特徴の一つが家族経営です。中国の企業は家族経営が非常に多いです。
私が今勤めている会社も、東京本社の社長は中国人女性。北京支社のトップはその
兄です。取引先も「親戚」や「個人的な知り合い」などのツテをたどって開拓します。

ですから、「共産党幹部と知り合いだ」「政府の高官と親戚だ」ということがとても重要。
正攻法では不可能な認可も、ともすれば獲得できたりしますから。会社の中でも、専
門知識などに関係なく「あれもこれもやって」と言われますね。それも「家族だから」と
いう理由で、個人の資質と関係なく社長に就任したりすることの延長でしょうか。

同じ中国でも、前の滞在先である香港は少し様子が違い、日本よりも欧米式のビジネ
ススタイルが確立していました。契約は非常に大切にしますし、スペシャリスト志向も
強くて、1度同じポジションで入社したらそのポジションが動くことは稀でした。

「記者」なら「記者」のまま、「ジュニア」「シニア」「リーダー」とレベルが上がっていく感
じ。最初の決定がものを言うので、ずっとその職種でやって行きたい場合は良いです
が、全く違う仕事をしたいと思うと本当に一からの出直しになるという欠点があります。

結論を言うと、香港よりは中国の「マニファクチャリング」の方が日本人には馴染みや
すいかもしれないな、というのが私の感想です。ツテ・コネ文化は日本にもありますし、
ゼネラリスト志向もあるからです。

ただし、大企業になればなるほど欧米式の企業文化が定着していると思いますので、
中小企業の方が中国人とうまくやっていけるかもしれません。欧米企業とのやりとり
で生じがちな、冷徹なビジネス感覚に苦しむ事態は、中国との間では起こりにくいの
ではないかと思います。

最近は、「中国への進出は中小企業が主流になる段階に入った」と言われます。中小
企業の皆さんも、怖がりすぎずに中国ビジネスを検討してもいいかもしれません。




2006年03月26日
                    第5回

          「5カ年計画」の1文字変更の意味は?


いつまでも雪と木枯らしが止まず、いったいいつ暖かくなるんだろう?と思われた北
京の冬ですが、柳の木に蕾らしきものが見え始めました。北国の春の遅い始まりで
す。

さて、北京では14日まで、日本の国会に当たる「全国人民代表大会」が開かれまし
た。

中国では、今年は2006-2010年までの「第11次5カ年計画」の始まりの年。つまり、
共産圏の政策として有名な、いわゆる「5カ年計画」の11回目のタームの最初の年
で、政策的には区切りの年に当たります。

この「5カ年計画」ですが、中国政府は今回の第11次から、中国語の名称を従来の
「5カ年計劃」から「5カ年規劃」に改めました。といっても5年分の計画を立てるという
「やること」は同じ。 中国政府としては、対外開放を含めた政策に対する「気持ちの
違い」を一文字の変更(笑)にこめたらしいです。

その「気持ち」とは…。

まず、中国の「5カ年計画」はそもそも、旧ソ連に倣って始めたもの。5年ごとにイン
フラ建設をはじめとする事業計画を立てて実施していくという「計画経済」の要とな
るものでした。それが最近の中国は、2001年の世界貿易機関(WTO)加盟を大きな
きっかけに対外開放が進み、すっかり市場経済化。 「もう計画経済は実際に合わ
ない」ということで  「ちょっとスタンスを変えましょう」という気持ちが出てきたらしい
です。

そこで「計画」を「規画」に改めて、「計画経済はもう終了。 ただし、欧米のような完
全な市場経済ではないので、 計画は引き続き立てるべし」としたということなんで
すが…。

これって、「なんか苦しい」ような気がするのは私だけ??(笑)

中国に住んでつくづく思うんですが、ここの「資本主義原理」ってすごいんですよね。
前回で貧富の差の話をしましたが、平等なんてかけらもないです。お金持ちは徹
底的にお金持ち、貧乏人は徹底的に貧乏。 しかもコネ社会でもありますから、権
限を持った人と知り合いだったりツテがあったりすれば、通常不可能なことも可能
になります。 ある意味、欧米のようなフェアな感じよりも、もっと厳しい「(金・人・情
報を含めた)力が物を言う社会」です。

そこで「欧米のような完全な市場経済じゃないので」と言われても(苦笑)。 どうも
「共産主義の皮を頑張って被り続けている資本主義」って感じがしてしまいます。

いや、「皮」が必要なのはわかりますよ。この全く平等感のない社会で、民族・文
化・生活レベルが多種多様な人々を1つの国にまとめようって言うんですから。
苦労は察するに余りあります。「共産主義」や「5カ年計画」という言葉でまとまる
なら、古かろうがなんだろうが使い続けたいことでしょう。

しかし、今回の「1文字変更」で、中国政府はこれまでよりもはっきりと「今後は市
場経済方向を目指す」と宣言したとも取れます。中国の資本主義化は進むでしょ
う。それとともに社会の格差も広がっていくのでしょうか。中国で「平等」が実感で
きるのは、いったいいつになるのでしょう。




2006年02月19日
                    第4回

                   北京便り

ご無沙汰です、ミセス・ウーです。まずは長らく期間が開いてしまったことをお詫びしま
す。みなさま、お元気でお過ごしでしたでしょうか?

どうしてこんなに時間が空いてしまったかといいますと、事情がありまして…。実は、1
月に北京に引っ越してきました!
とはいっても、会社の単身赴任なので寂しい話で(涙)。夫は香港にいるのでお互い往
復の生活です。
それはさておき、さっそく北京報告に移りたいと思います。
生活してみての感想は、「景気がいい!」「貧富の差が激しい!」につきます。
北京は2月現在、平均気温がマイナス10度という激寒で、町はどんより曇り空。雪でも
降れば、どんなにコートの襟を立てても寒くて仕方がありません。

しかし、そんな中でもスーパーに一歩足を踏み入れればびっくり!大型駐車場並みの
スペースに、食料品はもちろん、衣類から小家電、日用品まであるわあるわ。
食品1つとってみても、南の国のドリアンから日本のククレカレー、イタリアのパスタソ
ース、ワインまでぎっしり置いてあります。地元の人の主食の1つである餃子は、冷凍
物だけで具の種類別に10数種類が量り売り。 その上で目の前で作ってくれる「実演
販売」や、餃子専用粉や専用酢の販売もされています。 「穀類」コーナーだけでも、
米のほかにヒエや粟、 八宝米というナツメなどの混ぜられた健康米が並べられてい
るなど、ともかく1つ1つの食品の種類が豊富。 その様子は国際都市を自負する東京
や香港で暮らした目にも壮観で、「なんて物が豊富な所なんだろう」と驚いてしまいま
した。

さらに、そこで買い物をする人たちがまたすごい。 毛皮を着てサングラスをかけたご
婦人が、カートにいっぱいの食品を会員用カードで一度に1000元以上も買っていきま
す(物価が安いので、100元も買い物をするとすごく買った気持ちになります)。絶対に
一人では持ちきれない量ですが、それはもちろん配達を依頼。 外に出れば、零下の
寒さに負けずミニスカートを履いた若い女性が、エルメスのバックを片手にタクシーに
乗り込んでいきます。しかし一方では、安くて有名な食堂チェーンの「成都美食」で出
稼ぎ労働者風の男性が、7元のチャーハンにしようか6元の麺にしようか悩んでいたり
します。

恐るべき景気のスピードと貧富の差。日本で報じられているとおりですが、現実に目
にすると凄まじいものがありました。これだけのスピード、これだけの違いを内包しな
がら、1つの国として舵取りしていくのは至難の技のはず。中国が現在、1つの国とし
て機能しているのは奇跡なのかもしれません。
北京はこれから、オリンピックに向けてますます活気付くと思われます。その様子も
含め、これからも中国経済をリポートして行きたいと思います。どうぞよろしくお願い
いたします。




2005年11月27日
                    第3回

        「ブームの中国株に登場の「G株」って何?」

ここ数年間続いているトレンドですが、中国株がブームです。人気に伴い、中国に特に
興味のない人でも「中国株にはA株とB株があるんだよね〜」くらいのことはご存知か
と思います。そこに最近、「C株(あるいはG株)」というのが登場してきたのですが、小
耳に挟んだことはおありでしょうか?

「G株」というのは「解放された非流通株」のこと。正確に言うと、「非流通株を開放して
いる企業の株」になります。いったいこれはなんでしょう?

中国の、特に国有企業株には、流通株と非流通株が存在します。「非流通株」は文字
通り、市場に流通していない株式のこと。これを「解放」、つまり市場に流通させよう、
という動きが進んでいるのです。

話を進める前にまずはおさらいから。中国には現在、深セン、上海にそれぞれ株式市
場があります。前述のA株は人民元建て、国内投資家向け。外国人は取引ができま
せん。B株は外貨建てで外国人投資家向け。A株とB株には同じ企業が上場している
ことが多いのですが、株価はA株の方が高くなっていることが多いです。また、B株は
ベンチャー企業板のような役割も担っていて、中小企業も多く上場しています。

さらに、中国株は香港市場でも買うことができます。香港の中国企業株はH株(登記・
資本ともに中国の中国企業株)とレッドチップ(香港登記、中国資本の中国企業株)の
2種があり、レッドチップの方が中国企業関連の大企業などが多いです。香港市場は
外国人にも開かれていますから、ここ経由で取引している日本人も多いのではないで
しょうか。

そして。そんな中での「非流通株解消」なわけです。そもそも、中国の国有企業は上場
した時に全株式の30%しか公開しませんでした。70%は「1株当たり1元」として政府や
自社、関係者らで保有しておく。そうすると、いくら公開された30%が他社に買収された
ところで大株主になることはありませんから、他社にのっとられる心配はありません。

しかし、こうした保護を続けるうちに(保護したのは権益面だけではなかったもので)、
どんどん進んでしまったのが国有企業の不良債権過多だったのでした…。しかも、経
済面で対外開放を進めるうちに、業績不調に転落する企業が続出。中国企業株で「S
T」というのがついているのは「2年連続で赤字の企業」なのですが、そんなのがどんど
ん出てきてしまいました。いい加減に市場経済論理を取り入れて財政を好転させない
と!ということで、今年に入ってから政府が着手し始めたのがこの解放です。もともと
上海や深センに株式市場を設定した当たりから、 中国は共産主義国にもかかわらず
資本主義原理を取り込もうとしてきたわけで、避けられない動きといっていいでしょう。

現在のところ、非流通株の解消の対象になっているのはA株上場企業のみ。価格の
つけようがないので、「流通株10株に非流通株を2株つける」といった形式で取引され
ているもようです。もともと外国人は取引できないので、国外投資家にとっては無関係。

ですが、中国政府はゆくゆくはB株やH株の上場企業にも「解放」対象を拡大する、と
言っていますので、外国人が「元・非流通株」を購入できる日も来ることでしょう。

とはいえ、それがお買い得かどうかはまた別の問題。現在「G株」銘柄は低迷もいいと
ころ。「ギフトでもらっても、 要らないかも」と思われるようなレベルでなくなることを祈る
ばかりです。



2005年10月02日
                    第2回

                 「香港取材記」

香港に取材旅行に行って来ました。折りしもディズニーランド開園を1週間後に控え、
現地は落ち着かない雰囲気。新聞には連日ミッキーマウスが躍り、ホテルや飲食店
も観光客の増加を見込んで大張り切りです。

香港ディズニーランドのメインターゲットは中国大陸からの観光客。サブとしてフィリ
ピンやタイなどを見込みます。ですから使用言語も中国語普通語(北京語)。日本人
に対しては「日本は、東京にディズニーランドがあるし…」という感じでハナから期待さ
れていないのが実情でしょうか。

これはディズニー以外の観光客に対しても同じで、毎月の中国人観光客数が前年同
月比60%ペースで伸びている今、一昔前の「お得意様」としての日本人観光客のイメ
ージは既にないといっていいでしょう。それほどまでに香港の関心は中国大陸へ向い
ているのです。

しかし、1997年にイギリスから返還されたばかりの香港の中国大陸への視線は複雑
です。一番恐れているのは、「香港は将来、中国にとって(そして世界的にも)存在価
値がなくなるのではないか」ということです。

ディズニーランドにしても、2012年には上海にディズニーランドを建設する計画が出
ています。今回、仕事で一緒になった香港人カメラマンは「香港ディズニーは上海に
本番を作るための試験にすぎない」と言っていました。また、今回は香港政府関係者
にも取材をしたのですが、彼らが必ずといっていいほど紹介する香港企業に対する
中国のゼロ関税政策、「中国・香港間の経済緊密化協定(CEPA)」も、結局は中国
そのものの対外開放が進めば用済みになる「賞味期限付き」の制度にすぎません。

取材を進めるほどに、
「やっぱり香港は、だんだん中国に飲み込まれて衰退していく運命なのか〜」
と暗くなりがちな香港の現状でしたが、光が見えたのが金融でした。

株式市場そのものの規模は東京に比べれば小さいものの、今世界中で注目されてい
る中国企業にとって、最初の海外上場先になっている点は見逃せません。  

また、英系をはじめ自己資本率が10%を超えるなど銀行の健全度が高いのも優秀な
点。不良債権まみれの中国の銀行を経て人民元投資をしたり、合併の続く日本の銀
行に預けたりするよりも安全かもしれません。また旺盛な投資意欲を受け、ファンドな
どの種類も多いそうです。

私はオフショアの専門家ではないのであまり詳しくは書けないのですが、さまざまな
方面で話を聞いた結果、香港の生きる道は観光はもちろん、金融が非常に大きいと
感じました。

近視眼的だと形容される香港の人々ですが、あまり目先の経済状態に一喜一憂せず、
長い目で見て頑張って欲しいな、というのが香港への印象でした。



2005年07月31日
                    第1回

              「とうとう…やったのね」

しょっぱなからなんですが、「とうとう来たか!」と叫んでしまいました。人民元です。
切り上げです。

珍しく、飲めない酒なぞ飲んで帰宅した7月21日夜。ネットを開けたら飛び込んできたの
が切り上げのニュースでした。すぐさま記事の手配で連絡を入れ、応急措置をしたもの
の、結局その夜はよく眠れず。午後8時の発表といい、米議会の夏休み入りを捉えての
タイミングといい、大規模な報道を嫌ったんですねえ。その思惑通り、記者として泣かさ
れた一夜でした。

切り上げについては、 かなり前から「そろそろ来るか」という予測が色んなところから出
ていました。私自身も人に聞かれると「年内に切り上がると思いますよ〜。 人民元で預
金なんか作っておくと得できるかもです」などと答えていたものです。ところが、自分の
備えはぜんぜん。一時、香港の中国銀行(中銀香港=BOCホンコン)で人民元口座を
開き、手持ちの預金を人民元に替えようと計画したことがありました。 当時、中銀香港
では1人1回当たり2万元までという制約があったのにもかかわらず、人民元への換金
が大人気。猫も杓子もという感じで、人民元ブームが起きていたのです。

しかし、私の場合は夫に相談したところ「手数料を考えるとあまり得じゃないと思う」と言
われて却下。そのうち自分で小額でも換金しとこうか、 と考えつつもそのままになって
いました。というわけで、懸命に調査していた割には実入りなし。世の中、こんなものな
んでしょうか。

さて、今回の切り上げ公告で気になったのが「通貨バスケットを参考にして変動相場制
を導入する」というくだりです。 「通貨バスケット」については当会会長の安井先生の授
業で聞いたことがあります。「バスケット」の中に入れた複数の主要貿易相手国通貨を
一定の割合で加重平均したものと、自国の通貨を連動させる方式のこと。

このバスケットに米ドル、ユーロ、円を組み込んだ世界統一通貨構想(DEY)があること
や、その前段階としてユーロのようなアジア統一通貨の設置論があること。円はアジア
統一通貨の中心として期待されているが、歴史的経緯からアジア諸国の賛同が得られ
ず実現しなさそう…というお話だったと思います。

そして、切り上げに及んでそんな背景のある「通貨バスケット」なる単語を出してきた中
国政府。…もしかして、なんか野望持ってる!?

実際、中国はこのところ、アジア諸国との自由貿易協定(FTA)を積極的に結んでいま
す。20日からは東アジア諸国連合(ASEAN)との間で締結した中国‐ASEAN自由貿易
協定(ACFTA)が実施。7000品目の製品について関税が引き下げられました。

そんなことも考え合わせると、「アジアはオレが仕切ったる!」みたいな声が聞こえるよ
うな気がするんですが…。

ま、あれだけの大国ですから、野望の1つや2つ持っていても不自然じゃないんですけ
どね。これからの世界はどうなっていくのかーと考えさせられた事件でした。