2005 アルプス表銀座縦走(燕/大天井/常念/蝶)
(日程)
2005年10月7日(金)〜10日(月) 天候:8日のみ雨、他快晴
(メンバー)
熊野さん 松田さん 稲葉さん(10月9日より) 森永さん 益原 (計5名)
(コース)
10月8日:穂高神社→中房温泉→燕山荘
10月9日:燕山荘→燕岳→大天井岳→常念小屋→常念岳→常念小屋
10月10日:常念小屋→常念岳→蝶ガ岳→横尾→上高地バスセンター
(*)’03年のツールドヤキニク、’04年の日光クロカン。いずれもネタ満載の面白企画となった。
(10月7日)
22:00 都庁前バスターミナル
今回、夜行バスを利用する。夜行バスは学生の時以来だ。今は設備とか進化しているんだろうなぁ、と豪華サロンバスに乗れることを楽しみに、待ち合わせ場所のバスターミナルへ。久方ぶりに会うマッチャン、既にビール・つまみで臨戦態勢のクマノさん、少し遅れてシューヘイ君が合流する。
シューヘイ君の両手には、肉と野菜がたっぷり。今回、山行の目玉として、燕岳の頂上にてジンギスカンをやるのだ。西穂でジンギスカンをやっているパーティを見たシューヘイ君の企画だ。山頂でジンギスカンとはいかにも当会らしく素晴らしい。この日のために、軽量のアルミ鍋まで購入したとのこと。楽しみだ。
4人揃って予約のバスに乗り込む。さぁ豪華サロンバス ・ ・ ・ではなかった。狭い。自分で勝手に豪華なバスを想像していただけで、現実はこんなものか。と思ったら、「この前の槍の時より狭い」と他の3人も浮かぬ顔。
まぁ、それでも楽しい山行のスタート。バスが走り出し、ビールで乾杯する。とその時、不意に何かが倒れ掛かってきて内蔵を圧迫する。「グエ ・ ・ ・」苦悶の声を上げ、何事かと目を凝らすと、単に前の人がリクライニングシートを倒しただけだった。本ッ当に狭い車内。
たまらずこちらもシートを倒すと、後ろの人が「ギュウ ・ ・ ・」と苦悶の声。こりゃたまらん。仕方なくお薬に走ることにする。去年のオクホで眠れないつらさを味わっていたので、今回は秘密兵器として強力睡眠薬を用意していた。お薬のせいで即効気絶する。
(10月8日)
4:30 穂高神社前
途中2回、サービスエリアでの休憩を挟み、予定通り4時半に穂高神社へ到着。たっぷり熟睡できたため、清清しい朝だ。しかし他の3人は一様にどんよりしている。聞くと、どうやらバスに「爆裂いびきオヤジ」がいたとのこと。バスの狭さに加え、屋根を叩く雨音と爆裂いびきの壮絶なハーモニーのせいで、マッチャンに至っては一睡も出来なかったらしい。先が思いやられる。
6:00 中房温泉
穂高神社前からシューヘイ君が手配してくれたタクシーに乗って、燕岳への出発点となる中房温泉へ。 途中のコンビニで朝ごはんを買い込み、中房温泉の食堂で食べることに。到着するころには雨が降り始めていた。雨の中、燕岳へのキツイ登りをこなさなければならない。一同暗い表情で朝ごはんを食べていると、宿のオヤジが「ご注文まだでしたよね」と忌々しげに聞いてくる。いやな感じ。何も頼まず食堂で弁当食べ始める我々も我々だが。コーヒーが湯のみ茶碗で出てきたのを見て、明らかに不快そうにしていたマッチャンが、突然「ハッチャッチャッ!!」と叫び、コーヒーをこぼす。早速得意技の「熱湯返し」を披露するマッチャン。その後、雨の中身支度し、いよいよ有志山行スタート。
11:30 燕山荘
中房温泉からの登りは何でも「3大馬鹿登り」と言われているそうで、きつい勾配がこれでもかと続く。しかも雨と寝不足。最初からペースが上がらない。途中のベンチで一息つく。ふと見ると、クマノさん、マッチャン、シューヘイ君が「考える人」のポーズでキレイに並んで眠っている。「寝たら死ぬぞ~!」は大げさだが、相当寒いのでみんなを急かして先へ進む。
途中、合戦小屋に着くころにはもう土砂降り状態。最初レインウェアを着ていたが、ジミーさんの事前のアドバイスを思い出し、上はTシャツで、片手に折り畳み傘をさして歩くとこれが快適。最後の力を振り絞って、何とか燕山荘へ到着。まさしく苦行のような登りだった。
燕山荘は、眼前に燕岳がそびえ、槍がきれいなシルエットを見せる絶景に位置する ・ ・ ・はずだった。しかし見事なまでに何も見えない。仕方がないので真っ白な空のキャンバスに燕岳や槍を描き、脳内補完する。雨は止む気配を見せず、午後の燕岳アタックは諦めて、明日に期待することに。
12:30 ジンギスカン
雨でもう一つ心配なのが、今回の目玉・ジンギスカン。山小屋の中でやらせてもらえるだろうか。燕山荘の人たちはとてもサービスがよく、ジンギスカンはOKとのこと。鍋敷きまで貸してくれた。
燕山荘のきれいな新館にて荷物を下ろして、身支度を整えた後、早速ジンギスカンの準備を始める。とりあえず生ビールで乾杯(マッチャンだけ「いちごみるく」)。白飯がないのでカレーライスを注文。周りの人たちの視線が痛い。しかしお構いなしに肉や野菜を焼き始めると、隣のテーブルの女性2人が「山でジンギスカンですか〜」「おいしそ〜」「写真とっていいですか?」と話しかけてくる。「ご一緒にいかが?」と声を掛けてみると、大喜びで合流。一人はOLさん、一人は裏千家のお茶の先生。偶然にも我々と同じ「爆裂いびきバス」に乗っていたそうだ。
思いがけない展開で、ビックリする一同。そもそも、口では現地調達とかいってみても「ナンパ」とか縁のない真面目なメンツ。唯一イケメン系のクマノさんが、去年の日光クロカンでホテルの「ピグモン仲居」さんに惚れられる(*)、という色っぽいエピソードの持ち主であるが、あれは地球外生物なのであくまで例外であろう。
いや〜我々も捨てたもんじゃないなぁとか悦に入ってたら、肉を見る女子二人の目がハートマークになってることに気付く。我々ではなく肉の勝利か。2人増えて6人となったが、羊肉1.3kgは結構手強い。「肉喰らいまぁ」エバ不在のためか。しかし、タレの他、ハーブやらニンニク醤油やらで次々と消化していく。
カレーライスの匂いと相まって、我々のテーブルの周りだけやたらスパイシーな匂いが立ち込めている。あらかた肉を食べ尽くし、お湯を沸かしながら一息ついていると、マッチャンが突然「ホアッチャッチャッ!!」と叫び、本山行2回目の「熱湯返し」。絶好調のようだ。
(*)04年日光クロカン山行記録ご参照のこと
17:30 晩御飯
大いに盛り上がった宴も終わり、寝床に戻ると既に15時半。超満腹状態で速攻気絶する4人。目覚めると17時半。もう晩御飯だそうだ。ジンギスカン食べて2時間寝てまた晩御飯。お腹一杯だが本能のままに晩御飯を詰め込む4人。「ジンギスカン山行」あらため「ブロイラー山行」か。
晩御飯後すぐに横になり、ブロイラーになりきるクマノさん。他の3人はそのまま談話室でくつろぎモードに。燕山荘の名物オーナーのホルン演奏&トークを楽しみつつ、夜は更けていく。またジンギスカンの時の女性2人と合流し盛り上がる。
裏千家の先生・草間さんの立ててくれた極上のお茶をおいしく頂いていると、マッチャンが羊羹を出してきた。先日南アルプスの悪沢岳に登った際のお土産だそうだ。甘みを抑えた上品な味の抹茶羊羹で、大変美味しい。するとOLの武藤さんが突然ポーランドの思い出話など始める。
話が見えなくて考え込む一同。なんでポーランド?聞くと「えっ?ワルシャワのお土産なんでしょ?」ちっが〜う!ワ・ル・サ・ワ!!総ツッコミ状態のみんな。ワルシャワ名産の抹茶羊羹とかあるはずなかろう。なかなかのボケっぷりに感心する一同。あっという間に消灯時間の21時になり、寝床に戻り速攻気絶する。
(10月9日)
5:30 燕岳山頂
朝、4時半ごろ胃もたれと共に目覚める。外へ出ると雨こそ降ってないが雲が厚い。ご来光は厳しそうだ。しかし次第に晴れ間が広がり眼前に燕岳が見え出すと、居ても立ってもいられなくなり登り始める。
雲が少しずつ切れはじめる。アルプスの威容に圧倒される。お目当ての槍は、半分ほど雲がかかっているが、徐々に形になり始めた。燕岳の頂上までは20分ほどだった。途中、雷鳥が姿を見せ癒される。今回、10羽は見たような気がする。カメラ目線の雷鳥もいて、大盤振る舞いだった。
山頂から降りてくると、ついに雲が切れて槍の全容が見える。素晴らしい ・ ・ ・!思い残すことのないピークハントを終え、小屋に戻る。朝食の時間から大幅に遅れており、もう片付けられたかなと心配していると、別室にとって置いてくれた。「迷惑をお掛けしてスミマセン。」と詫びると、「いいんですよ、VIPルームで朝食をお楽しみ下さい。」と優しいオーナー。お言葉に甘えてVIPルームで豪華な朝食。気分よく食べていると、マッチャンが突然「ゥアッチャッチャッ!!」と叫び、お茶をこぼす。通算3回目。新記録か?
9:00 快感縦走
遅めの朝食を終え、身支度を整える。小屋の外に出ると、シューヘイ君がスケッチブックに燕岳のデッサンをしている。相当にうまい。本当に多才な青年だ。8時頃山小屋を後にする。ここで武藤さん・草間さんとはお別れだ。以後、右に槍を臨みながらアルプス表銀座を縦走する。
ここからはアドレナリンが出っ放し。昨日の雨の辛い登りから一転して、快晴の中、絶景の尾根をひたすら進む。標高2000mを遥かに超える歩き易い平坦路。広がるアルプスの大パノラマ。時折あいさつに現れる雷鳥。来てよかった ・ ・ ・。進んでいるうちに次の目的地である大天井岳が見え始める。
11:00 大天井岳山頂
眼前にそびえる頂上に向かって登り始める。平坦を気分良く歩いてきたので、皆体力十分。特に今回はシューヘイ君が絶好調。今年は充実した山ライフを送っているようで、気力・体力ともに充実している。そのシューヘイ君を先頭に頂上を目指す。結構急な登りだが、頂上が見えているのでモチベーションも高い。ガシガシ登って、いよいよ頂上 ・ ・ ・と思ったら、まだ8合目であることが判明、一同ガックリ。
「さ ・ ・ ・先に ・ ・ ・行って ・ ・ ・下さ ・ ・ ・い ・ ・ ・。」ハイペースが祟って、立ったまま昇天するシューヘイ君。おお、ラオウみたいでカッコいい。とか言ってる場合でない。こちらも余裕などなく、最後の力を振り絞って何とか山小屋までたどり着く。思ったより手強い山だった。小屋から山頂までは目と鼻の先。ここで昼休憩をとることに。
食事の前に、小屋から見渡す展望を堪能する。「これだよ!これが見たかったんだよ!」マッチャンが叫ぶ。槍、穂高を初めとする360度の大パノラマ。空気が澄んでおり、下界まで良く見渡せる。明日歩く梓川がきれいな水面を見せている。今回見た数々の絶景の中でも1,2を争うものだった。
この大天井岳(おてんしょうだけ)、個人的に、行く前は全く気に止めておらず、「おおてんじょうだけ」とか「だいてんどんだけ」とか言っていたのが恥ずかしい。
大天井小屋は、味のある佇まいで意外な穴場だった。メニューに「インディアンランチ」というのがあり、マッチャンが注文すると、スパイシーなカレーに本格的なナン、デザートがチャイ、というこだわりっぷり。味もなかなかだった。十分な休養の後、大天井岳の頂上へアタック。再び大パノラマを堪能、記念撮影など楽しむ。
15:30 常念小屋
大満足の大天井岳を後にし、本日の目的地・常念小屋に向け出発する。しばらく縦走を楽しんでいると、マッチャンが「常念に行くのやめて槍に行こうか」と言う。常念小屋でイネと合流する手筈となっているが、イネと槍を天秤にかけたらやっぱり槍でしょう、という声が大勢をしめるが、イネの怖い顔を思い浮かべ、ギリギリのところで踏みとどまり予定通り常念へ向かう。
長い下りを終え、ようやく常念小屋へ到着。小屋の前で、「ウィ〜。お〜、お二人さん!」と声を掛けられる。見ると、地べたであぐらをかき、酒を飲んで顔を真っ赤にしている屈強そうなオヤジが。すっかり出来上がっているようだ。
関わり合いにならないようにしよう、と目を伏せて歩みを速めると、オヤジはイネだった。朝イチで東京を出発し、13:30には常念小屋に着いていたというから恐るべき体力だ。登る途中ずっと雨だったようで、足元の汚れ具合が激闘を物語っている。
小屋の中で休んでいればよいのに、我々を出迎えるためにずっと外で待っていてくれたそうだ。律儀なこの男らしい。みんな揃って常念小屋に入る。常念小屋は、サービス満点の燕山荘と比べると、良くも悪くも「フツーの山小屋」といった風情。屋根裏部屋に通されるが、一人当たりの寝るスペースは充分だ。
16:30 常念岳山頂
荷物を降ろした後、常念岳の山頂にアタックする。メンバーはマッチャン・マチョハラの2名。スロースターターのマッチャンは初日こそ寝不足でつらそうだったが、ここにきて剛脚ぶりをいかんなく発揮しており、かなりのハイペースになりそうだ。地図上のコースタイムは1時間とあるが、見上げてみると山頂までそんなにかかりそうに感じない。40分くらいで登ろう、と話す。脚自慢2人組の山岳タイムトライアルがスタート。
前半戦、ペースを作るのはマッチャン。ラドクリフばりのロングストライドでぐいぐいと登る。身長177cmなのに股下81cmしかないマチョハラ、ピッチ走法で懸命に食らいつく。マッチャンの超速ペースに何度も離されそうになりながらも歯を食いしばってついていくと、30分過ぎ、いよいよ山頂が。と思ったら「ここは8合目」の看板。
「さ ・ ・ ・先に行って ・ ・ ・」立ったまま昇天するマッチャン。先に行く余裕もないが、タイムアタックなので死力を振り絞り登ると、ようやく山頂が。時計を見るとスタートから39分。昇天したはずのマッチャンもすぐに追いつき、2人してコースタイムを大幅に縮めたことを喜ぶ。しかし、山岳マラソン国体経験者の野水さんなら30分切るのでは、いや、3往復くらいするのでは、などと盛り上がる。頂上は完全にガスってて、何も見えなかったが、頂上を征服した達成感は格別だった。
18:00 晩御飯 常念小屋の晩御飯は質素なものだった。皆によればこれが普通らしい。込み合っているので食堂でビールを飲むことも許されない。さっさと食事を済まし、缶ビールを買い込んで寝床に戻って宴会開始。疲れがピークのクマノさんが早めに沈没するが、残り4人で結構盛り上がった。
今回の山行、何か困ったことがあるとすぐにお金で解決しているので、「お金をかけない。贅沢禁止。」の山行もよいのでは、との話になる。小屋泊禁止、豪華食材持ち込み禁止、行動食は柿ピーだけの「赤貧山行」。たっきぃとフクちゃんにとっては普通の山行のような気もするが。あっという間に21時の消灯時間。最終日の強行軍に備えてみんな大人しく気絶する。
(10月10日)
6:00 常念岳山頂
4時に起床。朝イチの登りはキツイので、早めに起きて朝食を食べてストレッチをしていると、マッチャンが「風邪ひいたみたい ・ ・ ・」昨日あれだけ調子が良かったので、俄かに信じがたいが顔色は真っ青だ。
最終日は、最低でも8時間以上歩くコース。下る体力はなんとかありそうとのことなので、マッチャンのみイネの登ってきたコースを下ることになった。残念だが、無理は禁物だ。マッチャンのリタイアは残念だが、残り4人で縦走することに。
ウォームアップで小屋の周りを走ったり、階段を昇り降りしたりしていると、出発時間がやってきた。ガスっているが、雨の心配はなさそうだ。しかし風がかなり強い。体が揺さぶられるほどの強風だ。昨日のタイムトライアルとは違い、一歩一歩慎重に進んでいく。朝の荘厳な雰囲気の中、静かに山頂を目指す4人。6時ごろ山頂に到着するが、昨日同様、辺り一体真っ白で何も見えない。何か人を寄せ付けない自然の厳しさすら感じさせる。記念写真を撮って、蝶ガ岳方面に下り始める。
10:00 蝶槍
最終日の縦走は、平坦の多かった前日と違い、厳しいアップダウンが続く。常念からの下りは足場がガレており、歩きにくい。天気もイマイチでしばらく辛抱して歩くうちに、最後の登りとなる蝶ガ岳が見えてくる。重ね着していた長袖を脱いで登り始めると、天気が見る見るうちに回復し始めた。
頂上が近づいてきたある時、先頭のシューヘイ君が「おーっ!!」と叫ぶ。視線の先を見ると、槍と穂高連峰がくっきりと姿を現している。前日の大天井岳に負けない威容だ。昨日の縦走に参加していないイネにとっても、本山行で初めて経験する大パノラマ。本当にうれしそうだ。
そこからもう一頑張りし、「蝶槍」という絶景ポイントに到着。大天井岳の山頂と甲乙つけがたい圧倒的な景観。まさしく本山行のクライマックス。あまりの絶景にハイになる4人。興奮してシャッターきりまくりのシューヘイ君。突然地面にうつ伏せになり、両肘をつき小首をかしげ、可愛らしいポーズをとり始めるイネ。血迷ったか。
聞くと「アルプスをバックにしたグラビアアイドル」をイメージしたという。 「NSAの鬼教官 」として恐れられたイネですらこの浮かれ様。「貴様にとってのグラドルとはそんなものか。ならば本物のグラドルポーズというものを見せてやるっ!」と何故か対抗意識むき出しでセクシーポーズをとるマチョハラ。「山がけがれる…」と苦笑いしつつシャッターを切るシューヘイ君。絶景をまぶたの裏とデジカメのメモリにしっかり焼きつけた後、いよいよ縦走のフィナーレ、横尾に向けての下山を開始する。
14:00 横尾
横尾までの2時間、下りっぱなしとなる。下りの苦手なクマノさんとマチョハラにとっては試練の時間帯だ。去年のオクホでは、横尾につくころにはヒザの関節がぶっ壊れ、上高地まで地獄のハイキングとなった。今回は下りの時間は短いがやはり心配だ。下り始めると、今回絶好調のシューヘイ君があっという間に見えなくなる。藤原とうふ店ばりの速さだ。
マイペースでゆっくり下るクマノさんとマチョハラを導くイネ。元リーダーのこの男、本当に頼りになる。体幹の使い方を分かりやすく教えてくれたので、自分のフォームの欠点に気付き、大分楽に下りることができた。それでも長い下り、最後は足の裏が痛くなり大腿四頭筋も悲鳴を上げ、もはや限界。泣きが入り始めたころ、横尾山荘の屋根が見えて思わず万歳。終わった…。後は平坦だ。ちなみにシューヘイ君は我々より30分も早く着いたそうだ。横尾で遅めのランチをとり、上高地に向かって出発。
17:00 上高地バスセンター
去年と違い、ヒザに何の違和感もない。4人とも故障もなく、最後の平坦を今までの余韻に浸りながら、のんびり楽しく歩く。今回は初日こそ雨で散々だったが、その後は好天に恵まれ素晴らしい道のりだった。風邪で残念ながらリタイアしたマッチャンから、無事下山した旨メールが入っており一安心。思い残すことなく梓川のほとりを歩いていると、いよいよ上高地へ到着。
河童橋から見上げると、夕陽を浴びた穂高の山々がきれいに見える。この3日間で縦走をやりとげた我々を見送ってくれているかのようだった。バスセンターにてビールで乾杯した後、バスに乗り松本電鉄・新島々駅に向かう。
松本電鉄に乗車しこれから出発、という時に突然脱兎のごとく外に駆け出すシューヘイ君。何事かと思ったら、松本電鉄のレールで作った文鎮を買いに行ったとのこと。NSAきっての「鉄っちゃん」であるシューヘイ君らしい。戻ってくると文鎮を2つ持っている。一つはイネのお土産だった。途中お土産を買う暇がなかったので、家へのお土産にするそうだ。「鉄っちゃん」ご用達の文鎮をイネヨメが果たして喜ぶのだろうか、などと余計な心配をしてしまう。
松本駅から特急あずさに乗り換えて、新宿に向かう。これで有志山行、めでたく終了となるはずだったが、まさかこの後あれほどのドラマが待ち受けていようとは…。
21:00 小淵沢駅
きっかけはシューヘイ君のこの一言だった。「小淵沢駅の駅弁、メチャうまいんですよ!」用意周到なシューヘイ君、何から何まで調べ上げている。あるテレビ番組から火がついて、全国でも屈指の駅弁処となったそうだ。「大名弁当」「あわび弁当」など、メニューはもちろん、値段まで押さえている。話を聞いているうちにこちらもよだれが出てくる。
しかし問題は駅に降りて買う暇があるかだ。シューヘイ君の事前の調べでは、小淵沢駅での停車時間は2分。体力の低下している我々には厳しいミッションだ。しかし賭ける価値はある。シューヘイ君が駅に降りて弁当を買い、マチョハラがドア付近でサポートすることに。クマノさんとイネは、弁当を買いそびれることを恐れ、素直に車内販売の幕の内弁当を食べる。
小淵沢駅が近づくとともに高まる緊張感。ここで、車掌さんから驚くべき情報が。今日の小淵沢駅での停車時間は1分とのこと。2分でも厳しいのに1分とは ・ ・ ・。しかし逆境でこそ燃えるNSA魂。むしろ気合が入る。いよいよ小淵沢駅に到着、車内の真ん中あたりに移動する2人。駅が見えた。真っ暗だ。しまった ・ ・ ・弁当屋が閉まっているというリスクもあったか ・ ・ ・!駅弁屋めがけてダッシュするシューヘイ君。制限時間は1分だ。
停車とほぼ同時に鳴る発車ベル。早すぎる!その直後、「間もなく発車します。」とのアナウンス。危うしシューヘイ君!電車に平行して走ること約10秒、何も出来ず電車に飛び乗るシューヘイ君。次の瞬間閉まるドア。間一髪だった。結局停車時間は15秒。弁当屋も閉まっていたとのこと。清々しいまでの敗北だ。
席に戻ると爆笑しているクマノさんとイネ。仕方なく車内販売の幕の内弁当を買いに行くと「完売しました。」敗者にムチうつJR。結局、山行の残り物のコンビーフと、マッチャンの置き土産のイカメシで空きっ腹を満たす2人。それにしても、3日間の縦走で疲れきっているにも関わらず、ホームで見せたシューヘイ君の全盛期の欽ちゃんばりの走り、一生忘れることはできないだろう。
エピローグ
立川駅でクマノさんと一緒に降りて、新宿まで行くイネとシューヘイ君と別れる。これで今回のネタ・感動満載の有志山行が終わる。初めて経験する縦走の楽しさは、今までの自分の価値観が根こそぎ変わってしまいそうなほどのものだった。それから、去年のオクホも今回の縦走も、シューヘイ君の完璧なプランと手配があってこそ。でないと私のようなズブの素人にこんな経験は出来なかっただろう。また来年も参加したいものだ。