2004年 有志山行〜奥穂高岳〜


(日程)
 2004年9月18日(土)〜20日(月)

(天候)
 18日曇り  19日雨のち曇り  20日曇り

(コース)
 18日(土)河童橋→横尾山荘

 19日(日)横尾山荘→涸沢ヒュッテ→ザイテングラード→穂高山荘→奥穂高岳

 20日(月)穂高山荘→涸沢岳→穂高山荘→ザイテングラード→涸沢小屋→横尾山荘→河童橋

(参加者)
 
熊野さん、松田さん、江畑(克)さん、森永さん、大泉さん、清水さん、瀧原さん、益原(記)

(行程記録)

プロローグ
話は春にさかのぼる。

森永さん(以下「シューヘイ隊長」)「今年の秋の有志山行はいよいよ奥穂にチャレンジします。マチョハラさんもどうですか?」

マチョ「オクホ…?あ…あぁオクホね。いいねぇオクホ!ボクも一度行ってみたかったんだよ!ハッハッハ」

オクホってなんだろう。オクホ、おくほ、ぬるぽ…。違う。家に帰って検索する。山と言えば穂高のことか。ということはオクホとは「奥にある穂高」に相違なかろう。ビンゴ!検索成功。

「奥穂高岳。標高3190m。日本百名山としての穂高山群の最高峰、日本第3位の標高を持つ北アルプスの盟主。」

ちょっと待て。このマチョハラ、自慢ではないが山行経験はわずかだ。NSAに入っての日帰り山行が2回。小学生の時の高尾山への遠足をカウントしても片手で足りる。それがいきなり北アルプスのチャンピオンに挑むことになるとは。

これではライセンスとりたての4回戦ボーイが、いきなり日本タイトルに挑戦するようなものではないか。ものには順序と言う物が…。

しかし泊りでの山行は乗鞍と並んで今年の大目標の一つ。ここで引き下がるのは敗北を意味する。意を決して参加することにした。

<9月17日(金)>

20:30 本店スタバ前
今回、「しるふれい組」と「あずさ組」に分れて、土曜日に河童橋にて合流する。しるふれい組の集合場所は本店裏のスタバ前。今回はシューヘイ隊長から頂戴した「山グッズリスト」を基に装備を整えた。「科学年表」を愛読する知的青年によるリストは大変精緻な出来だった。

パンパンになった35Lザックを背負い、よろめきながら待合せ場所に到着すると60Lのザックで重武装した瀧原さん(以下「たっきぃ隊員」)が。花の丸ノ内で強烈な違和感をかもしだす2人。

NSAでも屈指の登山歴を誇るたっきぃ隊員の装備は初心者のマチョハラをビビらすのに充分なものだった。思いっきり黄ばんだ地図、6年間で洗濯通算2度のシュラフ。もはや10年選手の風格だ。

松田さん(以下「マッチャン隊員」)がスタバから出てきた。右手にコーヒー、左手に神戸屋の焼き立てパン。まるで近所を散策するかのような軽装。さすがベテラン。そうではない。装備一式は車の中とのこと。

今回しるふれい組はマッチャン隊員の車のお世話になる。マッチャン隊員は直前まで1ヶ月休暇を利用して北京に留学していた。日本語を覚えているか不安だったが、いつもの怪しげ…いや優しげな関西弁は健在だったので一安心。

ほどなくして大泉さん(以下「マサ隊員」)が合流し、本日の目的地・しるふれいに向けて出発する。マサ隊員はいつものようにやる気をみなぎらせている。最近はジムでの筋トレやロードワークに励んでいるそうだ。

助手席に座るやいなやマシンガントークが炸裂、サンドバッグ状態のマッチャン隊員。ピストン堀口やファイティング原田を彷彿とさせるマサ隊員のエネルギッシュなアタックで、マッチャン隊員にとり付こうとしている睡魔も間違い無くKOだろう。

1:00 しるふれい
順調なドライブを重ね、しるふれいに無事到着。空気が澄んでいて星がとてもきれいだ。星座早見表が見たいと言うと、すかさずペタッと正座するたっきぃ隊員(*1)。百瀬さんにご挨拶し深夜のチェックイン。

翌日は河童橋に13:00集合のため時間はたっぷりある。気持ちよく温泉につかった後、4人で集まり軽く1杯。のはずがしっかり宴会モードとなってしまう。行動食をつまみに「包丁人」マチョハラ弟自家製のサングリアを飲む。

床についたときには3時半を回っており、朝ご飯の時間まで5時間しか眠れないことが判明、しるふれい組の「ゆっくり眠れる」というアドバンテージはあっけなく失われた。

 (*1)山行前に社内で嵐のように飛び交ったメールから数々の新語が生まれた。例:「正座早見表」「1泊2

<9月18日(土)>

13:00 河童橋
翌朝しるふれいにて朝食をとり、河童橋に向けて出発する。朝食の時、昨年の有志山行にて槍をやり遂げたマサ隊員と百戦錬磨のたっきぃ隊員に、鎖やらはしごの怖い話を散々吹き込まれ腰が引け気味のマッチャン隊員とマチョハラ。

1,000円にまけとく、との甘言にのりタクシーで河童橋まで行くことに。3連休の初日にしてはすいているようで、あっという間に河童橋到着。あずさ組の合流をまつ間、思い思いの昼食タイム。

当然の権利のごとく幕の内弁当と闘い始めるマッチャン隊員。「上高地」「幕の内」「マッチャン隊員」といえば、今年3月の「上高地猛雪奮闘クロカン企画」を思い出す。

あの時、誰もが顔すら上げられないほどの強烈なブリザードの中、震える手で幕の内弁当と死闘を繰り広げたマッチャン隊員。今回穏やかな気候の河童橋にて見事幕の内弁当にリベンジを果たし満足そうだ。昼食を済まし休憩していると、ほぼ定刻通りにあずさ組の4人が到着。

今回のオクホプロジェクトのフィクサー・シューヘイ隊長の他、乗鞍初完走の勇者3人組もいる。レーススタート7分前に悠然とトイレに行くという、クソ度胸の持ち主であることが判明した熊野さん(以下「クマーニ隊員」)、涙の乗鞍初完走&笑顔のテレビ初出演を果たした清水さん(以下「メリ隊員」)、苦戦が予想されながらも影の努力でノータッチゴールを果たし家族の期待に見事応えた江畑さん(以下「エバ」)。全員揃い、オクホに向けて大いなる第1歩を記す。

16:30 横尾山荘
初日は手始めに3時間ほど歩く。オクホを控えてみんなテンション高めだ。マサ隊員とメリ隊員はいずれも優れた運動能力を備えているが、2人揃うと能力の殆どをおしゃべりに費やすためみんなからやや遅れ気味。途中で岩魚の燻製や塩焼きで補給しつつ、順調に行程を重ねる。

天気にも恵まれ景色も良く、道が平坦なこともあり全く疲れない。「この分ならオクホ制覇も時間の問題だな」と油断し始めるマチョハラ。まさか翌日以降あれほどの地獄が待ち構えていようとは…。

人生初の山小屋体験となった横尾山荘は、きれいなジェットバス、豪華な食事、寝るスペースも充分な部屋など思いもよらぬ快適なものだった。「な〜んだ、山小屋なんて楽勝じゃん」とすっかり油断するマチョハラ。まさか翌日にあれほどの地獄を味あうはめになろうとは…。

食後は当然の如く宴会となる。みんな荷物を減らすべく持ち寄った食材を惜しげもなく投入する。騒ぎを他所にいっさいアルコールに手をつけず、早々と就寝モードのたっきぃ隊員。「山では飲まないんです」と大変ストイックだ。

「え〜こんなに楽しいのにぃ?」浮かれオヤジモードでビール3本目突入のマチョハラ。まさか翌日あれほどの…(以下省略)。翌朝に備え、21時に全員就寝する。昼間の疲れとアルコールで速攻で沈没する。

 <9月19日(日)>

8:30 涸沢ヒュッテ
雨音で目覚める。みな表情が一様に暗い。朝5時に出発すべく朝食をとり、横尾山荘を後にする。横尾山荘から見上げると、遥かかなたにある穂高連峰。あそこまで登るという実感はまだない。

一時間ほど平坦路を歩いた後、いよいよ登りが始まる。登りはきついがこの時点ではまだ余裕がある。それよりも雨で滑りそうな足元が怖い。ストックを使って慎重に登る。

序盤から、冬のボーナス一括で購入した豪華装備群が威力を発揮する。ゴアテックスのレインウェアは優れものだ。登っている内に小雨になり、涸沢に到着する頃には完全に止んでくれた。

曇天の中、悠然とそびえるザイテングラードと色とりどりのテント群に迎えられ、涸沢ヒュッテに到着。その壮大な眺めに感動しつつも本当に上まで登れるか不安な気持ちになる。

以前エバに涸沢ヒュッテがどんな所か聞いたところ、「おでんとソフトクリームがうまいところです。」との回答だったので、てっきり軽食屋さんかと思っていたらビックリするほど立派な山小屋だった。

登っている時は暑かったがこの高度はさすがに冷える。みんなレインウェアを着直し、暖かいおでんをつつく。エバはおでんをつつきながらラーメンも食べている。「ここは駅前の屋台ではない。」と思うもエバの至福の表情を見て許してやることに。それにしても絶景の中で食べるおでんは格別のうまさだった。

11:00 ザイテングラード
涸沢にて1時間弱休んだ後、いよいよザイテングラードに挑む。「支稜」を表すドイツ語らしいが、人を拒むがごとく厳しい表情を見せるその岩肌から「死霊」の言葉が思い浮かぶ。

この前人未到の難所から果たして生還することが出来るのだろうか…などと緊張を漲らせていると、にこやかに下ってくるお年寄り軍団が。恐るべき日本の老人達…。

登山という趣味は特殊な技能やずば抜けた体力が必要なのではなく、やる気と周到な準備、そして周りを気遣う協調性さえあれば老若男女、来る物を拒まない懐の深さがあることがよく分った。そして経験があればあるほど楽しめるようだ。

すれ違う人達と挨拶を交わしつつザイテングラードを進む。途中、ズゴゴゴゴ…と無気味な音が。落雷かと思ったらどうも落石の音らしい。

出発前、ジミー総帥から自分の足元が崩れたら恥ずかしがらず「ラ〜ク!」と叫ぶようお達しがあったが、自分の上が崩れたらどうすればいいのだろう。そういう時は下ではなく横に逃げて下さい、とたっきぃ隊員。「あちょ!」とか叫んで素手で砕いてもいいの?と聞くと鼻で笑われてしまった。

勾配はきついなんてものではなく、もはや両手両足で這いつくばったままのスパイダーマン状態。前を行くマッチャン隊員は表情一つ変えてない。この人は健脚なんて生易しいものではなく、もはや剛脚だ。本気で乗鞍に挑戦したら間違いなくチャンピオンクラスだなと思う。

12:00穂高山荘
苦しみながらも穂高山荘に到着!乗鞍が楽勝に感じられるほどきつかった。しかしエバやメリ隊員に聞くと乗鞍の方がキツイというから不思議だ。穂高山荘からの眺めは、ガスのため良好とはいかなかったが、こんな高いところまでのぼってきたんだ、という達成感を味わうに充分なものだった。

先遣隊のマッチャン隊員、メリ隊員、たっきぃ隊員、マチョハラでランチを開始する。NSAの食事に今や欠かせなくなったのが「メリ食堂」だ。荷物が重くなるのも省みず、みんなの胃袋を満たすべく食べ物を用意してくれるメリ隊員の優しさには頭が下がる。こんなところで味の染みた味玉が食べられるとは思いもよらず感激。

続いてみんなも上がってきて盛大なランチタイムに。腹を満たした後は、いよいよオクホにアタックだ。

14:50 奥穂高岳山頂
食事の後、小休止をはさんでオクホにアタックする。朝方は雨も降っていたため登頂について危ぶむ声も多かったが、現在雲は厚いが雨は完全に止んでいる。リーダーであるシューヘイ隊長が登頂決行の判断を下す。

みんな表情が引き締まり目が生きている。既に脚が売りきれて目が死んでいるマチョハラ、「ここは名誉ある撤退を…」と言いかけるも思いとどまり、みんなの戦列に加わることにする。しかしアタック開始後、すぐに後悔することに。

序盤からいきなり壁である。はしごを登り鎖を伝う。「鎖はあまり信用せず3点支持で慎重に」と言われるが体が恐怖で硬直してしまいうまく動かない。子供の頃の思い出が走馬灯のように頭を駆け巡りはじめた頃、壁を登り終え普通の登山となる。

同じく高所恐怖症仲間のクマーニ隊員は、マチョハラのへっぴり腰に比べると随分としっかりとした足取りだ。やはり槍を踏破した経験が大きいのか。

ここにきて目覚しい動きをみせるのがマサ隊員だ。先頭に立ち躍動感あふれる動きでみんなを引っ張っている。ザイテングラードではしんどそうに見えたのだが…。さてはモチベーション次第で戦闘力が変化するスーパーサイヤ人タイプ(*2)か。

スーパーマサコさんを先頭についに全員登頂成功!とうとう北アルプスのチャンピオンを制覇したのだ。頂上はガスが濃く視界はあまり良くないが、狭い足場と吹き上げる風が日本第3位の標高を実感させる。

みんな愛用のデジカメで喜びの瞬間を記録に残す。シューヘイ隊長のみ銀塩の高級一眼レフだ。名カメラマンでもあるシューヘイ隊長による写真は一生の思い出になるだろう。

 (*2)戦闘力MAXになると地球の危機を救ったりする。

16:45 祝勝会
オクホ制覇の余韻に浸りながらの夕食タイム。クマーニ隊員は軽い高山病で頭が痛いらしく、部屋で休んでいる。
やはりこの標高ではコンディションの維持が難しい。マッチャン隊員も頭が痛いようだ。何でも「5段階で2くらいの痛さ」とのこと。

食事は白身魚のフライなど、こんな高いところなのになかなか豪華だ。ビールもうまい。食事後談話室でまったりすごす。マッチャン隊員は頭痛が「5段階で4くらい」に悪化したとのことで部屋で休むことに。その内談話室が暗くなり、穂高のビデオ(NHKか?)の上映会が始まる。テレビの周りに人だかりができるが山の風景はもうお腹いっぱいなので、エバ、マサ隊員と外で一杯やることに。

さすがに外は冷えるので人が少ない。と思ったら夜景を肴に大盛り上がりのオジサンたちが。どこにでもツワモノがいるものだな、と思って見ているとオジサンたちに混じって盛り上がるマサ隊員の姿が。夜の穂高山荘で必殺のマシンガントークを炸裂させるスーパーマサコさん。

抜群にノリの良い「東京美人」の突然の出現で色めき立つオジサンたち。聞けば福島県の地場企業のオーナーたちによる山岳同好会だそうだ。

「マシャコしゃんだいしゅき〜(マサコさん大好き)」壊れゆく福島の社長たち。「え〜私なんか…」と奥ゆかしい北欧系やまとなでしこ・メリ隊員も引っ張り出す。

二人目の「東京美人」の出現によりテンションはもはや最高潮に。熱気に圧倒され席を外すとシューヘイ隊長とたっきぃ隊員の姿が。あんまり外が賑やかなのでつられて出てきたそうだ。

クールな2人は星座早見表を片手に星を見ていた。一緒に横になり星を見る。この高さで見る星は壮観だ。たっきぃ隊員だけには流れ星のサービスもあったようだ。

夜も更け、小屋に戻ると頭痛が大分おさまったというクマーニ隊員が食事中だった。マッチャン隊員の頭痛も「5段階で1」くらいまでおさまったとのことで一安心。

20:00 苦悶
翌日のご来光に備えて早めに寝ることに。寝るスペースは横尾と違って格段に狭い。布団は二人で一つ。誰と一緒に寝ることになるのかな…と思い横を見ると「よろしくお願いします」とエバ。激しい夜になりそうだ。

昼間の疲れもありすぐ眠れるかと思っていたらなかなか寝つけない。普段は寝付きがいい方だが一度「眠れない!」と頭に刻まれるとなかなか眠れないものだ。

眠っておかないと明日がきつい、とか思い出すとますますやばい。その上なんだか頭が痛くなってきた。ここにきて高山病か?これは「5段階で3」くらいはありそうだ。

他のみんなもそれなりに苦労しているようだ。マサ隊員は早々と見切りをつけ、談話室の床でシュラフで寝たようだ。シューヘイ隊長は慣れたもので、自慢のi-Pod miniで余裕のナイトライフを満喫中。

時計を見ると0時を回っており、いよいよ苦しくなり「うひ〜」とか「あんぎゃ〜」とかうめいていると、横から「マッチョさん大丈夫ですか?」とエバ。

実はエバも殆ど眠れていなかったらしいのだが、自分の苦しさをおくびにも出さず仲間を気遣ってくれる。苦しいとすぐに取り乱す自分と違い、本当に強い漢(おとこ)だと改めて感心する。

エバの勧めもあってシュラフにくるまって廊下で眠ることに。苦労したが2時をまわる頃には眠りにおちたようだ。しかしすぐに朝がやってくる。

<9月20日(月)>

5:30 涸沢岳頂上
4:30に起床。ご来光を見るため涸沢岳を攻めることに。ガスが多く好天とはいえないが、雨の心配はなさそうだ。睡眠は2時間程度しかとれなかったが熟睡できたようで意外とスッキリしている。

暗い急坂をみんな黙々と登る。アップ不足であっという間に脚に乳酸がたまる。息もすぐ上がるがご来光を見れる、何より最後の登りだ思うと力が湧いてくる。30分もしないうちに頂上に到着!いよっしゃ!2度目のピーク。

後はご来光を待つのみ。しかしやはりガスが濃くとても見れそうにない。でもみんな登頂の満足感から楽しそうだ。時より強い風が吹くと、正面の奥穂が鮮やかに見える。

気が利くシューヘイ隊長が持ってきた暖かい紅茶を頂いた後下山開始。下山の途中、強い風が吹き、太陽が見えた!いわゆるご来光ではないがとても印象的な風景だった。

8:25 涸沢小屋
ご来光の感動もそのままに帰り支度を整える。いよいよ下山の時だ。思えばここでは色々な思い出が出来た。名残惜しくみんなで振りかえって穂高山荘に別れを告げる。

2階の窓からマッチャン隊員が見送ってくれている。笑顔で手を振るマッチャン隊員に涙をこらえながら手を振り返すみんな。「さよ〜なら〜マッチャ〜ン」ちょっと待て。なんでマッチャン隊員があそこにいるのだ。

聞くと身支度がとても間に合いそうもなく、ゆっくりトイレにも行きたいから先に行っててくれ、涸沢小屋で追いつくから、とのこと。相変わらずのマイペースぶり。

下山がスタート。経験の差が出るのはむしろこれからだ。登りで苦労したザイテングラードは下りも手強い。カモシカのように軽やかに下るたっきぃ隊員。対照的におじいさんのようにヨボヨボと下るマチョハラ。差は歴然だ。

見るとカモシカの後ろを山羊がピッタリとマークしている。カモシカの後ろをぴょんぴょんとついていく山羊。なんだか可愛らしい。

山羊はメリ隊員だった。下り最速のカモシカたっきぃに互角に張り合う山羊メリ。たっきぃ隊員に下り方を教わったそうだ。しかし教わったからといってそうそうできるものではあるまい。いいなぁ、若いって…。

つぶやきつつ「おじいさん下り」に徹するマチョハラ。下ること2時間ちょっと、涸沢小屋に到着。ここで大休止。ここはソフトクリームがおいしいそうで、エバとメリ隊員がソフトクリームを買いに行ってくれる。「ここのはボリュームが凄いのでクリームだけ落とさないよう注意してくださいね〜」もう遅い。ウッドデッキのアリたちに気前よくソフトクリームを振舞うマチョハラ。

ふと見ると何事もなかったようにみんなに合流しているマッチャン隊員が。あれから荷造りをしてゆっくりトイレに行って、それにも関らず追いつくとは。もはやデタラメな脚力だ。下りは続く。

11:30 横尾山荘
ザイテングラード後の下りは少しは楽かと思いきや、やはりきつい。大きな岩をまたぐたびにヒザがきしみ始める。オーバーユースで関節の潤滑油が切れてきているのだ。泣きが入りそうになった時、下りがやっと終わった。

本谷橋に到着、小休憩。後は平坦を残すのみ。勇んで歩き始めたものの、ここからが一番の地獄だった。

約一時間歩き、横尾山荘に着くころにはヒザの痛みがピークに。苦痛で顔をゆがめていると、シューヘイ隊長がエアサロンパスを貸してくれた。マサ隊員からはサポーターを借りた。NSAのみんなの優しさが身にしみる。しかしここからまだ3時間あるのだ…。

15:30 河童橋
平坦路を行くこと3時間。途中徳沢と明神にて小休止を入れる。そのころにはヒザの痛みをカバーする画期的でカッコいい新歩行法を開発し(何故かすれ違う人に笑われるが)何とか前に進む。

それにしても、穂高山荘を後にして歩くこと約7時間。2日かけて登ったところを1日で下るのだから大変だ。歩きながら後ろを振り返るとはるか彼方に穂高連峰が。

自力推進であそこまで行ったのかぁ・・・。一人感慨にふける。これぞ自然スポーツ愛好会の真髄か。チャリ企画ばかりだった自分もこれでようやくNSAの一員になれたような気がする。などと思っているうちに河童橋に到着!長かった・・・。山頂についた時とは違う安堵感を含んだ達成感。病み付きになりそう。

上高地バスターミナルでみんなで乾杯。後は帰るだけなのでみんな安心してビールを飲む。車に乗るしるふれい組はジュースで乾杯。横を見るとマサ隊員が一心不乱にノートを付けている。今回の山行の間、ずっと記録を付けていたようだ。

馬鹿話に花を咲かせた後、次の山行へ思いを馳せ再び「あずさ組」と「しるふれい組」に別れ上高地を後にする8人だった。

エピローグ
当初無謀かと思われた北アルプスへの盟主への挑戦。経験豊かな仲間の助けもあってなんとか制覇できた。

それにしても登山の何と奥の深いことか。チャリと筋トレしかなかった自分がすっかり魅せられてしまった。また愉快で個性的な仲間の助けを借りて新しい世界に踏み出していきたいと思う。