アメリカの医療現場の実際(2)
      〜オハイオ州シンシナティChildren's Hospital での実習記録

 

医療現場における学生の課せられた役割について

Introduction

   みなさんは、「ER 救急救命室」というドラマをご存じだろうか??この物語は、Emergency Room(日本の救急救命室とは意味合いが少し違う)で起こる様々なエピソードによって話が展開する。全米で放送され、大人気のドラマだ。日本でもNHKのBSで、シリーズ第3部まで放映され、第4部が、来年の4月からの放送が予定されている。第1部から3部にかけてのエピソードの中に、ジョンカーターという人物の成長がある。第1部では、医学生として、先輩のレジデントたちの厳しい指導を受け、第3部には、マッチレースといわれるポジション獲得競争に勝ち抜き、ドラマの舞台となっている病院でインターンとして奮闘するのである。
   第1部を見たとき、このカーターという人物を通して医学生としてのアメリカでのBSL(Bed Side Learning)の実際をかいま見たような気がして漠然としたあこがれを感じた。
   そしてこの夏、ある機会に恵まれ、実際にアメリカの医療現場を見学することができた。これは今年の夏、私が体験してきたOhio州Cincinnati にあるChildrenユs Hospital Medical Centerでの、「アメリカの医療」現場の報告の一部である。

医学生の目から見た「アメリカの医療現場」を語る前に、アメリカでの医学生の置かれた立場を少し説明しようと思う。

 

Hospital Organization としてのThe Medical Team

   アメリカの医療現場は、Hospital Organization としてのThe Medical Team が確立されている。
In the hospital, medical care is delivered by organized units called medical teams. The medical team consists of doctors, nurses, nursing assistants or aides, and additional care providers such as social workers, dietitians and physical therapists as well as others. These persons work together to provide the diverse aspects of patient care.
Medical students belong to the group of doctors and function as physicians.

というような立場に立たされていて、BSL で参加するMedical Student は、

Medical Students. Students adopt the roles of interns, to a greater or lesser degree. Early in the third-year clerkships, students are not expected to assume the full responsibilities of an intern, and the patient has an intern as well. Late in the clerkships, the intern tends to fade from view. In the sub-internship or practicing internship, which usually takes place in the fourth year, the student functions as a full-fledged intern, albeit with a lighter patient load than full interns. Patients assigned to a sub-intern will not also have an intern.

   アメリカの医学生は、医療現場でまさにTeam の一員であって、「戦力」なのである。患者さんを持ち、問診、診察をし、回診でプレゼンテーションをし、当直をしていました。つまり、医学生の「BSL」という事になると、アメリカの医学生の実力は、日本の卒後1〜2年目と同程度であるそうだ。

 

アメリカの医学教育

   アメリカの医学校は、通常4年生大学を卒業後の4年間で、ロースクールなどと同じように大学院大学の教育として行われる。1,2年で、我々が日頃受講しているような解剖、生理、生化、薬理といった基礎医学と言われる教育課程を経て3,4年は病院実習が行われている。内科や外科などといった臨床科目は、講義形式のものは病態と絡めて基礎医学で語られることが多く。あとはベッドサイドもしくは、教育カンファレンスで「実践」を積むことになる。これはレジデンシーなどでもいえることなのだが、教育システムが確立されていて、規定数の手技や時間をこなさなければ、卒業はおろか進級すらできず、このような取り決めがあることによって、どこのメディカルスクールでの医学教育を受けても、ある水準を達成する事になる。

 

Matching という研修先決定のシステム

   さらに卒後に関しては、専門医となるための研修を積むために「レジデンシープログラム」に参加するわけだが、レジデンシーは、希望者すべてが、受講できるわけではない。Teaching Hospitalと呼ばれる研修病院への予算配分によって、Residency Programに参加できる人数枠が各病院、各科ごとに厳密に決められている。
   日本と異なり、大部分の医学生が自分が卒業したメディカルスクールに関連した病院以外での研修を希望する。このシステムは独特で、まず、研修を希望する病院に、その旨申し出て願書、推薦状、成績証明書、CVなどを送って、書類選考で許可がおりれば面接に出向く。医学生は、すべての面接が終わった後で自分の希望する病院にランクをつけて、また、病院は病院で面接した学生の中からほしい学生に順位をつけて、NRMP (National Resident Matching Program)というワシントンにある研修医プログラムを全国規模で組織化している団体にリストを提出する。このリストをもとにの全国ネットワークのコンピュータによって、相互のリストに応じて各学生に一つの病院を割り当てる。という方式をとっている。
   病院の希望学生の選択は、成績はもちろんだが、推薦状の持つ意味が大きい。たとえば、小児科を目指しているときに、同じ成績の者が2人いたときに、1人は小児科のある分野の権威からの推薦が得られていたとすれば、そちらがほしい学生のリストのより上位にランクされるといった具合である。
   アメリカの医学生は、この研修病院選択が、自分の将来を決定づける重要なファクターとしてとらえていて、また、病院決定に当たっては推薦状が重要な意味を持つということをよく知っているので、よりすばらしい人から推薦状を得ようと、積極的に夏休みなどの期間を使って、希望する病院に見学・研修をして、希望する病院に希望の科のポジションを獲得すべくコネを作ったり、よりすばらしいドクターからの推薦状を得ようと四苦八苦するのである。


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