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『−烈殻機動騎兵 ヴァリュー−』
(第1話・ドゥルストークの密林)
戦いは疲弊(ひへい)していた。
おれは愛機のプログラムシステムを立ち上げる。
この機体、巨大ロボットはアームチェンジと呼ばれている。
おれの搭乗機はアームチェンジの中でも、
ヴァリューと呼ばれる一般的な汎用機だ。
「我が部隊は敵部隊の横から……」
コクピットの中に、部隊長から作戦の確認が入る。
飛空艇からアームチェンジが次々投下されていく。
おれの番がきた。
ガキン
機体をロックしていた鉄爪がはずれると、
密林に降下していく。
木の枝という枝をなぎ倒して大地に着地する。
ガインガイン!
敵弾がおれの機体に被弾する。
チェーンガンだが、強化プロテクターにあたって、
うまく弾(はじ)いてくれた。
おれはヴァリューを木の陰に隠す。
ガガガ……
チェーンガンがしつこくおれのヴァリューを狙う。
敵の弾(たま)は木をけずるばかりだ。
撃ってくる角度からコンピュータが敵の居場所を割り出した。
おれは一気にヴァリューをスライディングさせる。
ビームショットガンを二発放つ。
方向はばっちりだ。
だが、霧がビームを拡散させてしまって、
敵機にはダメージにならない。
敵がエネルギー弾でなく、
実体弾を使っていたのはこのためか。
おれはビームショットガンを敵に投げる。
敵のチェーンガンがビームショットガンをとらえる。
爆発が起きる。
おれはヴァリューをその光りの中に突っ込ませる。
光りの先に敵のガストゥールがいた。
ガイン!
左手の甲にあるビームソードを右手で引き抜き、
一刀両断する。
爆発が起き、ヴァリューが横転する。
そのままヴァリューは動かなかった。
作戦は終了し、ヴァリューは仲間の機体に、
引っ張っていってもらう。
こちらの損害は一名だった。
遺留品の中に腕章がある。
おれはそれを、
こいつの家族とは仲がよくない恋人に送ってやった。
「帰ったら恋人の店を手伝いたいんですよ」
そんな言葉が思いかえす。
おれが倒した敵にも家族がいるのだろうか。
おれはたばこを一本ふかした。
夕日が迷彩された機体を赤く染めた。
続
(第2話・ドスターク廃街(はいがい))
崩れた街。
廃ビルが建ち並ぶ夕暮れ。
夕日がすべての景色を赤く包む。
ヴァリューよりも2倍も3倍も
高いビルディングが立ち並ぶ。
誰もいない街。
崩れかけたビルだけがある。
敵機がいる。
ガリスターのゼロワンタイプだ。
向こうはこちらに気づいてないようだ。
おれはゆっくりとビームの標準をつける。
バウム!
ビームショットがヴァリューの肩を焦がす。
おれはとっさにヴァリューをビルの陰に隠す。
ガリスターは二機いた。
二機のガリスターにはさまれた形になる。
ビームショットガンで攻撃するが、
ガリスターの装甲をこの距離では撃破できない。
ガリスターの一機が威嚇(いかく)しながら撃ってくる。
向こうは重火器である。
これはしのぎきれるものではない。
たまらず後退する。
一方的に押されていく。
敵のビームが肩といわず腹といわず被弾し続ける。
まずい。
おれはヴァリューをビルの後ろに退かせると、
小型の大砲銃をビルの7階に置く。
さらにヴァリューを後ろのビルに隠す。
夕日が消え、夜は暗い闇のカーテンがかかりだす。
どこかで虫の声がする。
それも暗くなるにつれ聞こえなくなる。
機体の足音が近づいてくる。
ガリスターが一機やってくる。
もう一機がそのあとに続く。
おれはリモートコントロールで
大砲に込められた照明弾を水平に打ち出す。
照明弾がガリスターのヘッドカメラを横ぎる。
その一瞬をついてヴァリューをビルから出現させる。
砕けたガラスが落ちる前にヴァリューの
ビームソードが前面のガリスターの両腕を斬る。
おれはヴァリューは前の一機を押しながら
後ろの機体にタックルする。
バランスを崩した一瞬に奥のガリスターに
ビームソードを振る。
ガイン!
ガリスターはビームロッドで受け止める。
ガリスターのビームロッドが突いてくる。
ヴァリューは機体を沈め避ける。
ガィイン!
立ち上がる勢いでガリスターを下から一刀両断する。
もう一機を見ると、ビルに崩れて動く気配はない。
おれはきしむヴァリューを帰投させる。
闇の中、虫が鳴いた気がした。
続
(第3話・バドバスタール宙域)
宇宙が広がる。
ガイスタット衛星中継基地に不審な動きをする隕石が宇宙基地に近づいてくるとの報告に、おれはヴァリューで出撃する。
軍の衛星基地から2キロも離れたところまでくる。
目の前にはヴァリューより3倍は大きい隕石が迫る。
だが、コンピューターはそれが隕石ではないと分析結果を示す。
おれはビームショットを隕石に打ち込む。
パン
隕石は偽装風船だった。
中からは三機のベイルスタークが出てくる。
バウム!
三機のベイルスタークからのビーム弾に被弾するヴァリュー。
だが、ヴァリューはかすり傷程度だ。
ベイルスタークは宇宙旋回機能が発達した機体で重火器は装備されていない。
遠距離攻撃はたいしたことない。
三機は高機動にものをいわせてヴァリューのビームショットをかわす。
近づかれればこちらが不利。
理屈では解かっていても、目の前に三機がいる。
ベイルスタークはビームカッターを引き抜くと斬りかかってくる。
ギギイン!
ヴァリューはビームソードで受け止める。
右からもう一機のベイルスタークが間髪(かんぱつ)入れず横に斬る。
ヴァリューは上体を一回転して攻撃をかわす。
そこに残った三機目のベイルスタークがいた。
ギン!
ヴァリューのビームショットガンが斬られ爆発する。
一時離脱するが有効な飛び道具がなくなってしまった。
三機のベイルスタークは三方から近づいている。
三機が近づく。
一機目のベイルスタークがヴァリューに斬りかかる。
ガイン!
ヴァリューはビームソードで受け止める。
二機目が後ろから斬りかかる。
バイン……ズギャン!
ヴァリューは二本目のビームソードを引き抜くと、二機目のベイルスタークを横に一刀両断する。
三機目のベイルスタークを、足のケリでかわすと敵機から距離をとる。
残り二機。
二刀流となったヴァリューは今度はこちらから突っ込む。
戦隊を組むひまこそなく、一機目のビームカッターを受け止めた力でヴァリューを横に横転させてベイルスタークの推進器の燃料タンクを斬る。
燃料が飛び散り、一機目は出力機関を失う。
残りの一機が迫る。
ヴァリューは足をケリ上げる。
ベイルスタークは逆噴射してケリをかわす。
ガイン!
そのまま半回転したヴァリューが持つビームソードが、ベイルスタークを一刀両断する。
動くものがなくなった宇宙にヴァリューがただよう。
「どんな人にも生きる意味があるんだ」
それが父の持論だった。
そんな父のことを嫌いではなかった。
「どうかしたのか」
基地からの通信に「随時帰投する」とだけ答え、おれはヴァリューを発信させた。
続
−設定−
ヴァリュー
一般型汎用機のアームチェンジ。
装甲は軽装ながら、強化プロテクターなど、オプションが充実している機体。
扱いやすく、ベテランから新兵まで信頼厚い機体。
あらゆる場所で作戦行動に多用されている。
ビームショットガンとビームソードなどを使うが、どんな武器でも使いこなす。
大量生産されている機体。
ガストゥール
一般型汎用機。
やはり軽装だが、その可動力は折り紙付き。
チェーンガンなどを装備するが、装備の幅は広い。
大量生産されている機体。
機体パーツが大量にあるため、修理に時間がかからない。
ガリスター
陸戦専用機。
重火器を装備でき、陸上駆動要塞のあだ名を持つ。
重火器を装備している時は走ることはできない。
ヘッドアイは高機能で、遠くの機体、空飛ぶ機体などを必ずロックオンできる。
近接戦闘は不得意。
操縦にはかなりクセのある機体で、兵士の評判は悪い。
ベイルスターク
宇宙用特化機体。
宇宙での高機動旋回を実現した機体。
軽量化のため、ビームガンのたぐいは軽装。
接近による近距離攻撃を得意とする。
機体の扱いにはかなり熟練の操縦技術を必要とする。
宇宙のエースパイロットが操縦する。
(第4話・ハイエント海域)
水中での作戦が続く。
水中に味方も敵も入り乱れている。
これだけ味方機がいるとビームショットガンは使えない。
ジャ……
おれは実体剣を抜く。
前方から水中専用アームチェンジ、パイルスティークがヴァリューに迫る。
バクンッ
パイルスティークの両足がそれぞれ開き、巨大なスクリューが二機、姿を現す。
そのスクリューが回転する。
スピードは汎用機のヴァリューの比ではない。
と、下からもう一機パイルスティークが迫ってきた。
はさまれ、動きづらい水中ときてる。
まずい。
迫る二機。
パイルスティークがソードを抜く。
もう手をのばせば届くような距離だ。
どちらから来る。
二方向からだ。
どうする。
画面がパイルスティークで埋(う)まる。
ザキン!
一機のパイルスティークがおれの仲間の機体に斬られる。
水中に沈むパイルスティーク。
おれは前方のパイルスティークに集中する。
パイルスティークが右腕に仕込んだミサイル用のカタパルトを開く。
パシュシュッ
放たれたカタパルトショットミサイルを紙一重でかわすヴァリュー。
ミサイルを避けたヴァリューの目の前にパイルスティークがいた。
ガイン!
ヴァリューの左腕を斬りさかれる。
おれはヴァリューで水面の上空に飛び上がる。
ザバア!
ヴァリューを追ってパイルスティークが水面から出てきた。
ギイン!
おれは落ちる落下速度をすべて剣に込める。
ザギギギギン!!
ヴァリューはパイルスティークを一刀両断する。
ヴァリューは左腕から浸水する。
そのためおれに帰投命令が出る。
おれは帰投するヴァリューの中で二度深呼吸した。
戦いは後方の水中で続いていた。
続
(第5話・ラバァーク平原)
どこまでも平地が続く。
夜の平原には月もなく。
真っ暗闇だ。
補給部隊の護衛にヴァリューが三機、トラックの列と並び移動する。
バ……キュドッ!
暗闇に光が生まれる。
ヴァリューに光が被弾する。
レーザーテイルショットというビーム兵器だ。
被弾した仲間の機体のヴァリューはアームシールドに当たり、ダメージはない。
「どこから撃ってる」
「隊列を乱すな!」
仲間はかなり動揺してる。
真っ暗闇に敵がいる。
呼吸が荒くなる。
「うわあ!」
仲間のヴァリューが敵機に斬られる。
いや、ビームスピアにつらぬかれていた。
おれはとっさにビームショットする。
夜の闇にまぎれて敵機は闇に消える。
どこだ。
どこからくる。
闇はなにも答えてくれない。
なにか光った。
それはビームスピアだった。
ガキン!
ビームスピアがおれのヴァリューのアームシールドをつらぬく。
おれは敵機にタックルする。
倒れる間にビームショットを叩き込む。
ビームにとけていく敵の機体は陸上仕様の黒いガストゥールだ。
おれはその機体をふりまわす。
ガガン!
もう一機のガストゥールにあたる。
そのガストゥールはひるむことなくビームスピアを振り下ろす。
ザギギン!
一瞬速く、ヴァリューのビームソードがガストゥールを一刀両断する。
闇の平原はまた静けさを取り戻す。
もういないのか。
五分ほど止まっていたか。
また行軍することになる。
トラックが走り出す。
ビームスピアが光る。
トラックの前方からガストゥールが駆けて来る。
おれはヴァリューに落ちてるビームスピアを持たすと、敵機に投げる。
ズガン!
ビームスピアはガストゥールをつらぬいた。
闇の行軍は続く。
戦いに終わりはないかのように闇は増していく。
続
(第6話・バスターク山脈)
山岳地帯を歩くヴァリュー。
白い岩肌を歩く。
斜(なな)めの大地は歩きづらくバランスを取るのが大変だ。
基地からパトロールのため一機だけおれのヴァリューが歩く。
パパパ……
拡散レーザーショットがヴァリューに降り注ぐ。
飛行機が空を飛んでくる。
ガシンッ
敵機はヴァリューの目の前までくると人型に変形する。
ジェンバータが肩に内蔵されたビームパイルバンカーを振り下ろす。
エネルギーの槍(やり)が射出される。
ガガン!
ヴァリューのアームシールドが吹っ飛ぶ。
なんとか体勢を立て直すヴァリュー。
二機のジェンバータにはさまれる。
左右から迫るジェンバータ。
轟音をあげる両機体。
両方からツインパイルバンカーがうなる。
ギギイィィィガガシン!
ビームパイルバンカーがヴァリューをつらぬく。
いや、それはヴァリューの腹をかすっただけだった。
ヴァリューは両腕のビームソードでそれぞれのビームの槍(やり)を受け流した。
ヴァリューがしのいだ二本のエネルギーの槍(やり)はジェンバータの足と、もう一機のジェンバータの腕をつらぬいていた。
損傷する二機のジェンバータ。
しかしそれぞれのビームパイルバンカーは健在だ。
おれは拡散レーザーショットを避けながら、二機から距離をとる。
おれは足を負傷して動けないジェンバータに迫る。
ガイン!
ビームパイルバンカーの槍(やり)がヴァリューの左腕を吹き飛ばす。
ザギガギン!
ヴァリューの右腕のビームソードでジェンバータを一刀両断する。
ギンッ
そのいきおいでビームソードが折れる。
武器のないヴァリューにもう一機のジェンバータが迫る。
おれは倒れているジェンバータの肩のビームパイルバンカーを持ち上げると、迫るジェンバータにビームパイルバンカーを叩き込む。
バシュン……ガイン!
ビームパイルバンカーの槍は残りのジェンバータをつらぬいていた。
動かない二機の機体が岩の上に転がる。
風が青空を流れた。
続
−設定−
パイルスティーク
水中特化機体。
両足に超伝導スクリューを装備している。
陸上では能力は半減する。
特殊な機体のため、アームチェンジの中では専用の操縦技術を必要とする。
潜水艦の浮き沈みの機能を持つ。
戦闘用というより哨戒用として、偵察任務が主である。
ジェンバータ
空中陸戦両用タイプ。
ビームパイルバンカーを装備する。
操縦にはかなりの熟練を必要とするが、
戦略的には軍上層部からあまり重要視されていない機体。
その機体数は少なく、これといった戦果もない。
時のチーフパイロットのラギー少佐はジェンバータを愛機として、
模擬戦では他の機種を圧倒したという記録もある。
多い時で200機が配備された。
(第7話・ロースタット砂漠)
おれはヴァリューで一面砂の砂漠を歩く。
哨戒に出たヴァリューが帰ってこないため、おれ一機だけ調査に出たのだ。
そろそろ仲間の機体が消息を絶ったポイントだ。
ガガガガ……
チェーンガンがヴァリューに被弾する。
ヴァリューの姿勢を低くしてなんとかやり過ごす。
どこから撃ってきてる。
コンピューターは方向特定の回答不能を示している。
ヴァリューを転がせながら攻撃をかわす。
ザバア!
砂の中からデザートエイトスが出現する。
一機、二機、三機、四機、五機、六機。
この機体の紋章はデザートナイツだ。
砂漠で無敵の強さを誇る小隊だ。
おれは味方の軍に援軍を要請する。
援軍が来るまで三十分はかかるだろう。
動きだすデザートエイトス。
六機が迫る。
おれはノドが乾(かわ)いていた。
あーこういう時は一杯酒を飲みたいんだよな。
ガガガ……ガインガイン!
チェーンガンが足に被弾する。
移動しながらビームショットガンをやみくもに撃つが、デザートナイツは砂に隠れてしまって、ビームショットは砂に吸収され、かすりもしない。
こちらはチェーンガンの雨に機体の装甲がけずられていく。
穴だらけになっていくヴァリュー。
ここまでか。
おれは覚悟を決めた。
最後に一杯ってしつこいな。
おれは意を決してデザートナイツに突っ込む。
チェーンガンに機体が破壊される、はずだった。
ギュィィィイイイイイイイイイ!!
雨が降ってきた。
黄金のビームの雨が。
デザートエイトスが隠れている砂がけずられて、姿があらわになる敵機たち。
これは衛星軌道に浮かぶオーブという軍事衛星からの高々度ビーム攻撃だ。
ついてる。
ちょうど上空に軍事衛星が来ている時間帯だったのだ。
ビームの雨が降る中、おれはヴァリューを動かす。
砂に隠れるデザートエイトス。
だが、ビームの雨が砂を吹き飛ばし、隠れたデザートエイトスの姿をあらわす。
ザギギンッ!
一機をビームソードで一刀両断する。
敵機もチェーンガンをヴァリューに撃ち込むが、大容量ビームの雨が飛び道具を無効にしている。
ガギイン!
おれは空から降ってくるビームをかわしながらもう一機を一刀両断する。
ギン!
三機目のデザートエイトスがヴァリューのビームソードをダガーで受け止める。
おれはもう一方の手で二本目のビームソードを横になぐ。
ガイン!
デザートエイトスも両腕のダガーで受け止める。
と、上空からの大容量ビームがデザートエイトスの腕を溶かす。
溶けて崩れるデザートエイトス。
残り三機。
ヴァリューを取り囲む三機。
六本のダガーが平行に三方向からヴァリューに迫る。
おれはヴァリューを沈ませ、一機の足を両断する。
残り二機。
ガガガガガッ!
沈み込んだヴァリューに振り下ろされる四本のダガーを両腕のビームソードで受け止める。
受け止めたダガーを足でケリ飛ばす。
ザギギン!
よろけたデザートエイトスを一刀両断する。
残り一機。
迫るデザートエイトス。
ガキン!
ダガーがヴァリューの肩をつらぬく。
だが、ヴァリューのビームソードはデザートエイトスの胸をつらぬいていた。
ビームの雨がやむ。
機体の残骸が残った。
鋼鉄の砂漠に黄色い花がヴァリューの前をよぎった。
おれはヴァリューの手で花をつかむ。
開いた鋼鉄の腕にはなにもなかった。
砂漠はただ風に吹かれていた。
続
(第8話・ラーゲット門前)
夜の街の警備にヴァリューが歩行する。
おれと仲間の機体が街を囲む壁の門まで来る。
街の門からは暗い平原が延々と続いている。
その平原に一機のアームチェンジが立っていた。
ぼろぼろの布に全身包まれている。
「機体ナンバーを報告しろ。
ないなら武器を捨てろ」
勧告には無言でこちらに歩き出す。
すらりとぼろぼろの剣を布から腕から出す。
やるきまんまんだな。
「おい、レーダー班はなにをやってたんだ!
敵機だ。敵は一機だが、念のため援軍求む」
仲間が報告してるあいだにおれはビームショットを叩き込む。
一発、二発と確実にあたる。
だが、歩みを止めることのない敵機。
なにか特別な装備でもしてるのか。
ヴァヴァヴァ!
二機のヴァリューのビームショットをすべて受けて、それでも歩き続けてくる。
応援に二機のヴァリューが到着する。
ミサイルポッドを二機のヴァリューは両手に持っている。
バシュシュシュシュシュッッ
ボボボボボボボボボ
ミサイルが敵機に叩き込まれる。
数え切れないくらいだ。
ポッドがカラになる。
煙が消えた後にはぼろ布のアームチェンジが立っていた。
無傷だなんてありえないことだ。
仲間の一機がビームソードを抜くと、敵機に斬りかかる。
ガイン!
仲間のヴァリューの剣が敵機をつらぬく。
ギギ……ギ
胸をつらぬかれても敵機は動く。
ガギギイ!
鈍い音を出して、錆(さ)びた敵機の剣が仲間の機体をなぎはらう。
崩れる仲間の機体。
他の二機が同時に斬りかかる。
ザンザギン!
二体のヴァリューのビームソードが敵機をつらぬく。
ギギイ……
それでも動く敵のアームチェンジ。
敵の剣のひとはらいで二体のヴァリューを斬り倒す。
残りはおれ一機になってしまった。
しばらくビームショットしていたが、敵はそれでも行進をやめない。
おれはビームショットガンを捨てると、両手にビームソードを持つ。
おれは敵機に斬りかかる。
何度斬っても鈍い音がして剣が途端になまくら刀になったようだ。
敵機が剣を振り上げる。
ここまでか。
ふいに風が吹いた。
敵機の全身を包むぼろ布が風にゆれている。
と、ぼろ布が風に飛んでいく。
敵のアームチェンジは骨格だけだ。
なにも動力らしきものさえない。
そしてコクピットには白骨のガイコツがいた。
「う、うわあぁああああああああああああああああああああああ!」
おれはコクピットにビームソードを叩きこむ。
夜が明けた。
日の光に、無数の光の粒子となって空に飛んでいくガイコツ機体。
後にはヴァリューの残骸だけが残っていた。
続
(第9話・ロックウェル基地)
敵基地で乱戦が続いていた。
こちらはヴァリュー四十機を投入して敵基地の壊滅を狙っての攻撃だ。
敵のアームチェンジもガストゥールが三十機は応戦してる。
火の海の中、一機のアームチェンジが空から降り立つ。
青い機体のアームチェンジ。
こいつは……。
「敵の新型か!」
こちらの新兵が青い機体に突っ込む。
「よせっ」
おれの静止を振り切って、新兵のヴァリューは青い機体に斬りかかる。
ザギギン!
ビームの剣が一回転した。
一瞬で青い機体はヴァリューの両腕と両足を両断する。
「みんな手を出すな!」
おれの静止もなんのその、敵も味方も十機のアームチェンジが一気に青い機体に斬りかかる。
ザ……ン!
光が舞った。
ザギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギン!!
十機の腕となく足となく斬られ、全機が一瞬で行動不能に陥る。
青い機体のアームチェンジは悠然とそこに立っている。
まったくの無傷だ。
青い機体の話しは聞いたことがあった。
敵味方区別なく、アームチェンジを倒す。
その力は圧倒的で無敵を誇る。
また、アームチェンジの腕や足を狙い、一名の負傷者も出さないという、なんとも信じられない話しだ。
だが、その機体が目の前にいた。
銃は持っていない。
二本の剣だけだ。
ギギギン!
また何機か青い機体に斬られる。
おれはビームショットするが、剣でビームをはじいている。
人間技とは思えない行動だ。
そうこうしているうちに、おれ一機になる。
青い機体と対峙するヴァリュー。
ヴァリューも二本のビームソードを持つ。
青い機体が動いた。
上から振り下ろされる剣。
それを受け止めた途端、下からも剣がくる。
ギンッ!
なんとかそれも受けてしのぐ。
敵の剣は扇風機のように次から次へと回転しながら攻撃を続ける。
その剣をしのぐので精一杯だ。
その剣さばきはまるで剣術の芸術を見てるようだ。
おれは右のビームソードで突く。
かわした青い機体に左のビームソードを振り下ろす。
ギンッ!
軽々と受け取られる。
斬り合いは続く。
ギンッ
ヴァリューの左のビームソードが叩き折られる。
おれは両手でビームソード一本を持つと、青い機体に渾身の力を込めて振り下ろす。
ガギンッ
青い機体はヴァリューのビームソードを剣で受け止めなかった。
ヴァリューのビームソードは青い機体の肩のシールドをまっぷたつにした。
その瞬間ヴァリューの両腕は斬り落とされていた。
完敗だった。
青い機体が歩み去る。
アームチェンジの残骸が静けさを包む。
続
−設定−
デザートエイトス
砂漠特化機体。
水のように砂に潜る。
操縦にクセがある機体。
一般機であるガストゥールから選抜された兵士が操縦する。
砂漠を潜行しながらの行動を得意とする。
一撃離脱戦法で多数の戦果をあげる。
デザートナイツは砂漠に維持常備され続け、多数の戦闘を記録している。
幽機(ゆうき)
その存在は証明されてはいないが、一説には五百機が対戦したとも言われている。
青い機体。
斬った機体は一万機とも言われ、伝説となった機体。
詳細は不明。
(第10話・グラグット上空)
敵の新型機がグラグット上空で試験遊泳するという情報のもと、ヴァリュー八機は新型機を捕獲するために出撃した。
グイイイイイイイイィィィィ……
情報は正しかった。
見たこともない機体が一機だけ飛んでいる。
取り押さえるため四機のヴァリューが近づく。
キュドドドド……
光がまたたいた。
四機のヴァリューが光に包まれる。
一度に四機を破壊するとは。
「散開しろ!」
隊長の声が聞こえる。
新型機は空中で直角に曲がった。
ヴァリューに迫る新型機。
キュド!
光に包まれる一機。
残り三機となるヴァリュー。
落とされるのは時間の問題に思えた。
おれは反転すると新型機に挑む。
なにかが光った。
肩のシールドが吹っ飛ぶ。
ビームショットしながら横に飛行する。
一瞬でヴァリューの背中に移動する新型機。
加速して避けた場所を敵のチェーンソードが空回りする。
おれはヴァリューの両手にビームソードを持たす。
迫るチェーンソードを右のビームソードで受け止める。
鎖状の剣がビームソードをまわりこんでヴァリューを斬る。
なんとかアームシールドに助けられる。
二本のビームソードを叩き込むが、チェーンシールドに防がれる。
何度斬りかかっても防がれてしまう。
圧倒的な攻撃力と防御力だ。
味方の軍も新型機を近く実戦に投入するという。
時代は新型機に以降しつつあるのだろうか。
まるで勝てる気がしない。
ジャラララララ
チェーンソードをヴァリューのビームソードでうまくからめとれた。
無防備な箇所にもう一本のビームソードを叩き込む。
ジャラララララ……ガイン!
チェーンシールドが移動してビームソードを防ぐ。
できるな。
再びチェーンソードが迫る。
おれは扇風機のように回転しながらチェーンシールドとチェーンソードを受け流す。
これは青い機体の剣術をまねたものだ。
ザギギン!
敵のチェーンソードとチェーンシールドを斬りとる。
敵は反転するとヴァリューと距離をとる。
光がまたたく。
ドキュオ!
ヴァリューの左肩が吹き飛ぶ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
おれはヴァリューを敵機に突っ込ませる。
ザギギン!
敵機をななめに一刀両断する。
敵機はバラバラになりながら残骸は雨と化す。
呼吸がしばらく落ち着かなかった。
雨が降り出す。
なにもかも水が包んだ。
続
(第11話・バーミリオン台風)
台風が近づいて来る。
それ自体は珍しいことではない。
だが、コンピューターは台風に金属反応があることを算出する。
おれはヴァリューで発進する。
荒ぶる灰色の雲を台風を突っ切り台風の目に出る。
静かな空間が広がる。
と、台風の目の中にガストゥールが十機いた。
チェーンガンが応酬される。
十機のチェーンガンが火を噴く。
ヴァリューの両手両足をすくませ、各部のシールドで防ぐが、一瞬でシールドが紙のように砕ける。
たまらずおれは台風に隠れる。
激しい気流に吹っ飛ばされる。
灰色の濁流だ。
センサーは追ってくるガストゥールを一機とらえる。
敵機の後ろから出現してガストゥールを一機、一刀両断する。
雲から出て、青空の下に出る。
そのまま敵機のど真ん中に躍り出る。
ヴァリューにチェーンガンを向ける九機のガストゥール。
だが、ヴァリューが敵のど真ん中にいるため、同士撃ちを避けるため、チェーンガンを撃てないでいる。
複数のガストゥールはジェットソードを引き抜く。
炎の剣が複数迫る。
おれは両手の剣を扇風機のように青い機体のように回転させる。
ガインガインガイン!
おれは三機のガストゥールのジェットソードを叩き落とす。
ガンガガン!
下からきたガストゥールを台風の中にケリ出す。
左右から迫るガストゥール。
ザギギン! ズガガン!
ガストゥールのジェットソードを受け止めながらジェットソードの押す力を応用してビームソードを左右のガストゥールに叩き込む。
残り七機。
迫るガストゥールのチェーンガンから後退して台風の中に入る。
すさまじい風が灰色の雲で視界は五メートルとない。
と、目の前にガストゥールの背中が見える。
ガイン!
おれはガストゥールの推進器を斬り落とす。
落ちていくガストゥール。
またガストゥールがいた。
今度は向こうも気づいたようだ。
剣で斬り合う。
と、後ろにもう一機のガストゥールがジェットソードを振り上げる。
間に合わない!
ギガガ!
雷が背中に迫るガストゥールに直撃する。
落ちていくガストゥール。
と、五機のガストゥールが至近距離に囲まれてしまう。
五本のジェットソードがヴァリューに降りかかる。
これまでか。
と、気流が風向きが変わる。
よろめく五機。
ザギギギン!
その一瞬で二機を斬り裂く。
残り三機。
三機のガストゥールがジェットソードが3方向から振り下ろされる。
両手のビームソードで受け止め、前方の一機はケリ飛ばす。
気流にのまれて視界から消える。
二機のガストゥールが前と後ろからジェットソードでくる。
おれは気流にヴァリューを流す。
ザギギギン!
激しい気流にヴァリューが回転するいきおいで二機のガストゥールを二刀両断する。
ババム!
爆発に台風の目にはじき出されるヴァリュー。
残り一機。
それが青空の下にいた。
もう機体もぼろぼろで、推進器の出力も上がらない。
地上ではもう立っているのもやっと、といった感じだろうか。
ガストゥールは推進力全開で向かってくる。
こちらも推進器を全開で突っ走る。
と、ヴァリューの推進器が停止する。
ななめに落ちるヴァリューをガストゥールが見失う。
ななめに落ちながら、おれはビームソードをふるう。
両者の推進器の威力がビームソードに力を加える。
ザギギン!
ガストゥールを一刀両断した。
そのまま水面に一直線に落ちるヴァリュー。
ザパン!
海に沈むヴァリュー。
水の中。
空は水面だった。
いままで見たこともない景色だ。
おれはハッチを開ける。
水が流れ込む。
おれはゆっくりと水面に泳いでいった。
続
−設定−
ソグラティーン
当時は新型機としてまた多数の武器を同時制御するプログラムにより、多彩な攻撃を可能にした機体。
ガストゥールに変わる汎用機として開発され、以降、ガストゥールよりも特に空中では実戦配備率が高くなる。
操縦はガストゥールよりさらに複雑化され、汎用機とはなりえなかった感が残る。
同時制御プログラムはガストゥールにも搭載され、以降、二大汎用機の時代となる。
この当時最新兵器の30重構造のビームを撃ち出せる武器を装備していた。
(第12話・ザルツヴァール岩礁(がんしょう))
おれは進軍していく。
仲間の機体が十機いる。
すでに敵地だが、敵の反撃はない。
黒い岩の柱が立ち並ぶ岩の森をヴァリューが十機進軍する。
ヴァリューの高さほどある黒い大岩の隙間(すきま)を、複数のヴァリューが歩いていく。
キュド!
仲間の機体がビームキャノンの攻撃を受ける。
とっさにヴァリューは全機岩に隠れる。
キュドド!
ビームは岩に反射されながら仲間の機体にあたる。
まずい。
黒い岩は鏡のように光を反射していて、ヴァリューが隠れても、姿は岩の鏡面に映っている。
これでは袋の鼠(ねずみ)だ。
と、目の前にガストゥールがいる。
仲間の機体が敵にビームショットする。
だがそれは鏡面岩に映った反射体だった。
ビームショットは岩に跳ね返り、撃ったヴァリューに撃ち戻される。
自分の攻撃に被弾する仲間の機体。
これでは自滅してしまう。
おれはビームソードを両手で引き抜くと、黒岩を斬る。
ザガ! ザザガギン!
いくつもいくつも岩を斬る。
ザギン!
手応え有り。
おれはガストゥール本体を一刀両断していた。
敵のガストゥールが動き出す。
岩に反射して、ガストゥールが無数に動き出す。
さらにヴァリューで岩を叩き斬るが今度はガストゥールが移動しているため捕まえられない。
ガシンガシンガシン
ガストゥールの歩行音だけが響く。
音は岩に反射してガストゥールがどこにいるか解らない。
ガストゥールがヴァリューに進軍する。
姿も見えるが岩に映ったものかも知れない。
どうする。
敵だ。
敵が刻一刻(こくいっこく)と歩いてくる。
もうだめだ。
おれは破壊される。
次の瞬間にはヴァリューは砕かれているだろう。
もうおしまいだ。
黒い岩が爛々(らんらん)と輝いている。
黒い岩の先にはなにもない。
暗闇。
なにもない闇。
と、闇の中に少年が立っている。
あ、おれだ。
若き日のおれだ。
なにを見ているんだろう。
おれは悪いことしかしないクソガキだった。
あの頃はなにを夢見ていたのだろう。
少年が指さす。
光の玉が降って雨となす。
と、おれの手にも光のボールが降り来る。
手にとった光は本質をおれに語りかける。
「それでいいのか」
解らない。
それでも斬る。
それだけなのだ。
ビームがおれのヴァリューに降り注ぐ。
ガストゥールのビームショットだ。
おれはヴァリューの両手のビームソードで敵のビームショットをはじく。
おれは剣でビームをはじきながら黒岩を斬る。
斬る。斬る。斬る。
ザギン!
本物のガストゥールをとらえ、一刀両断する。
次!
岩を斬る斬る斬る。
ザギギン!
またガストゥールを斬る。
斬り続けた。
いつのまにか四方の岩が皆砕けていた。
気づくと立っているのはおれのヴァリューだけだった。
戦いは終わった。
この戦いは。
戦いを求める時間。
それが戦争と呼ばれようと時間は続いていく。
戦いの結果はいつも破壊のみ。
砕けた心を引きづりつつまた武器をとる。
おれは生き残った。
それがすべてだ。
おれは来た戦場へ赴(おもむ)く。
それがおれの現実だったからだ。
いつか戦いが終わったら平和を謳歌しょう。
その時こそ平穏な眠りを静かに目を閉じよう。
それが生きていることならば。
続
(第13話・セラクト海上)
おれはヴァリューで海の上を飛行する。
レーダーに映らないが、波の筋を軍事衛星がとらえた。
海の上をすれすれに飛ぶと、物体はレーダーに映らない。
なにかが海の上を飛んでいる。
ピピッ
望遠センサーが機体をとらえる。
両足がホバークラフトになっている白い機体が海の上を移動している。
なにかごつい機体だ。
ずいぶん角張った体型だ。
機械で照合するとホバァラングルという機体だ。
機体詳細はまだ解析すらされていない新型だ。
おれはヴァリューで一騎打ちを挑む。
と、敵機は体中のカタパルトハッチを開く。
シュボボボボボボボボボボボ……
ミサイルが発射される。
すごい数だ。
これはまずい。
無数のミサイルを横っ飛びしながらビーム散弾銃で撃ち落とす。
それでも数機のミサイルが飛んでくる。
ヴァリューを滑空させ、津波を作り、水の壁にミサイルが波に飲まれる。
なんとかしのいだ。
ミサイルはもう無いようだ。
敵機は機手を海にひたす。
水がビームのように打ち出される。
水のウォーターショットに当たった腕のシールドがひしゃげる。
相当な威力だ。
ヴァリューはビームショットするが、ホバァラングルは水の壁でビームを吸収してしまう。
おれはビームソードを両手に持ち、ホバァラングルのウォーターショットを斬る。
次々とウォーターショットを斬り落とす。
一瞬で間をつめ敵機を一刀両断できない。
敵機は2体に分かれた。
なんだ。
一機隠れてたのか。
ヴァリューはホバァラングルを斬る。
斬れば斬るほど敵機の数が増えていく。
分身の術じゃあるまいし。
ウォーターショットの波(なみ)飛沫(しぶき)が敵機にかかる。
と、敵機をすりぬける。
これはホログラムか。
センサーもだますのか。
本体は最初の一機か。
斬っても斬っても敵機の数が増えるだけだ。
ウォーターショットを受けすぎてヴァリューは機体はへこんだ鉄くず寸前だ。
本体さえ解れば!
波がヴァリューに打ち付ける。
巨大な物体が海から出てくる。
それはクジラだった。
クジラの尾に敵機の本体がけられた。
ホログラムがすべて消える。
体勢を立て直そうとする敵機の前にヴァリューはすでに移動していた。
ザギン!
おれは敵機を一刀両断した。
クジラが潮を吹く。
勝利の水だった。
続
(第14話・トストタン氷上)
グランディストードという機体が5機、氷上を歩いていく。
いまは一年中太陽が出ている時期なのだ。
ヴァリューは7機で待ち伏せしてこれを壊滅するのが目的だ。
一面氷河の大地にヴァリューは白い布でカモフラージュしている。
センサーもだます科学繊維の布だ。
2、3メートル先までグランディストードが進んできた。
ヴァリューは布から躍り出る。
目の前のグランディストード2機を斬り倒す。
ヴァリューの奇襲は成功したかのように見えた。
だがビームがヴァリューの後ろから降り注ぐ。
敵の別部隊か。
あわただしくヴァリュー各機は散開する。
別部隊?
違う。
これは。
前方のグランディストードからビームが打ち出されていた。
ビームはミサイルのように曲がる。
話には聞いていたが、敵軍はもう実戦投入していたのか。
ミサイルビームは両国で開発されているのは知っていた。
ビームがエネルギー弾がミサイルのように自在に曲がるというのだ。
その動きは自在で実現すれば迎撃不可能と言われていた。
キュドド!
仲間のヴァリューがミサイルビームに被弾する。
次々と倒されるヴァリュー。
残りはおれ一機となったしまった。
三機のグランディストードが背中の円盤からビームショットする。
キュドド! キュドド!
ビームが直角に曲がる。
おれはミサイルビームをビームソードではじく。
センサーを頼りにビームをはじくはじくはじく。
グランディストードが後ずさりする。
おれは一気に距離をつめる。
そのままグランディストードの前を走り通りぬける。
ヴァリューについてきたミサイルビームがグランディストードに被弾する。
一機が動かなくなる。
残り2機。
グランディストードがカッターソードを抜き、ヴァリューと剣を組み合う。
ヴァリューの後ろからミサイルビームが飛んでくる。
ヴァリューを機体を沈める。
ビームはまたもグランディストードにヒットする。
崩れる機体。
残り一機。
闇雲にビームを放つグランディストード。
ヴァリューは無数のミサイルビームを引きつけつつ、グランディストードに迫る。
ザギン!
グランディストードの背中のアンテナを斬る。
コントロールを失ったビームが一斉にグランディストードを撃ち抜く。
ミサイルビームは氷上に反射して空に向かって雨のようにのぼっていく。
動くものとてない氷の大地が残った。
白い大地は氷の霧であるダイヤモンドダストが舞っていた。
続
−設定−
ホバァラングル
全身にミサイルランチャーを設置している。
水があればどこでも何度もウォーターショットを撃てる。
ホログラム機能で敵を撹乱するが、見分けるセンサーが開発され、ホバァラングルはそれほどの戦果はあげていない。
水上では最強の機体とも言われた。
グランディストード
氷上特化機体。
氷上など、極地戦用機体で、僻地(へきち)で120パーセントの力を出せる。
ミサイルビームはビームを制御するプログラムが完成しておらず、のちに二人乗りになり、ビームを制御する専用パイロットが搭乗することになる。
全身白銀色である。
(第十五話・ソグラト平原)
大地を蹴(け)り出すヴァリュー。
ドシュッ
ドシュッ
二機のヴァリューがダガーショットガンでダガーを打ち出す。
敵のガストゥールは十五機は確認してる。
こちらが押されている。
おれは左翼に展開する。
青い機体がいた。
ガストゥールの残骸の上に。
ザギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギン!!!
一瞬でこちらのヴァリューを行動不能に陥(おちい)らす。
おれはなんとか太刀(たち)をかわす。
それがよかったかどうか。
残ったのはおれのヴァリューだけだ。
ザ……キン!
ヴァリューの両手に竜刀(りゅうとう)という実剣を構える。
青い機体が舞った。
ザギギン!
光が舞った。
ギンキンギンキン!!!!
銀の煌(きら)めきしか見えない。
それは一瞬。
それをかわした自分には驚いた。
ザギンザギン!
弾丸のような剣さばきを剣で流す。
こらえるのがせいいっぱいだ。
すさまじい強さ。
ギギイン!
くそっ、攻撃をかわすのでせいいっぱいだ。
目を閉じたら攻撃を見逃すかも知れない。
目を閉じることすらできず、涙が流れる。
だが勝機がないわけではない。
腕と足しか狙わないのであれば、ある程度剣の軌跡は追える。
ザギギギギギギギギン!
なんとかかわす。
負けるか。
戦場ではこちらが上だ。
ザギン!
それでもヴァリューの肩のシールドが吹っ飛ぶ。
強い。
なにが人をここまで強くするのか。
信じられないことはあるものだ。
ガギギギギギギギン!
受け止めた剣を吹っ飛ばし、その上方への勢いで青い機体の左腕を斬り飛ばす。
ザギン!
刹那(せつな)、ヴァリューの肩も腕ごと斬られる。
――やるものだ。
誰かが心でささやく。
青い機体のコクピットが開く。
コクピットには誰もいない。
おれはヴァリューのコクピットのハッチを開く。
シューターを使って地面に降りる。
地を歩いた。
青い機体へ向かって歩いた。
何度も転びそうになる。
青い機体は腕を差し出す。
腕から青い機体に乗り込む。
ハッチが閉まり、暗いコクピットにディスプレイの明かりがつく。
映ったディスプレイには戦場が映っている。
そうだ戦いだ。
おれは戦いたかったのだ。
おれは操縦桿を握る。
一気に動くとガストゥールといわず、ヴァリューといわず腕と足だけを斬り倒す。
最後に残ったヴァリューはおれだ。
見事なかまえだ。
信じられないくらい機体が軽い。
ザギン!
戦いの末、おれは青い機体でおれのヴァリューの両腕を斬り倒す。
基地は燃えていた。
青い機体のハッチが開くと元の戦場だ。
おれは地に降り立つ。
――待っている。
心に声の存在が響く。
おれは戦場に戻って来た。
また戦いが待っていた。
青い機体は去っていく。
おれは深呼吸ひとつするとヴァリューにもたれかかった。
続
(第十六話・セクラト平原)
戦いは続いていた。
飛び交う弾丸。
入り乱れる敵味方。
ザギン!
おれはヴァリューでガストゥールを一刀両断する。
なんだなにしてるんだおれは。
考えてるひまはない。
敵を斬って生き残る。
それが現実だ。
なんだくそ!
とにかく次の敵だ!
ギギン!
二体を前と後ろのガストゥールを同時に斬る。
そうだ。
全部斬れば終わる。
全部だ!
ギギギン!!
ガストゥールを吹っ飛ばしながら一機二機三機一刀両断する。
ドクン……
なにかがゆれた。
青い機体がいる。
気にするな。
ここは戦場だ。
すべて斬ればそれでいいんだ。
ドガシャ!
ヴァリューが転んだ。
なんだなにか攻撃か。
ヴァリューは動かない。
なんだどうしたヴァリュー。
ヴァリューはうんともすんとも言わない。
ハッチが勝手に開く。
降りた目の前に青い機体がいる。
おれは弱虫じゃない!
殺すことだってできるんだ!
青い機体が手をさしだす。
ああいいだろう。
力を貸してやる。
だがこれだけだからな!
おれは青い機体に乗り込む。
ザギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギン!
百機が吹っ飛ぶ。
この機体だとなんでもできそうだ。
敵味方のアームチェンジを行動不能にする。
「ご希望通り機体だけだぜ」
――まだだ。
ディスプレイには青い機体が映ってる。
誰だ。
同じ青い機体か。
「搭乗者は誰なんだよ」
――知る必要はない。
「そうかよ!」
おれは青い機体につっかかる。
ザキン!
青い機体の左腕が吹っ飛ぶ。
いや、こちらの左腕も吹っ飛んでる。
相打ちか?
「こなくそ!」
ザギギン!!
「なに!?」
相手の青い機体を斬った箇所がこちらもキズつく。
「あーいーだろう。
どうせまたなにかさせたいんだろう」
まてよ?
向こうが鏡なら。
おれはゆっくり相手のコクピットをつらぬく。
ギン!
――気づいたか。
「ナノトリノフラッシュか」
「そうだ」
もう一人のおれは納得気だ。
「こんなことをしなくともいいだろうに」
「まあな」
「戦いは厳しいのか」
「お互い様だ」
「そうか。まあ次があったらまた逢おう」
「そうだな」
戦いだけが真実だ。
おれは元の世界にいた。
ガシャ!
ガシャン!
ヴァリューの動力部や装甲が落ちていく。
おれのヴァリューが幽機になっていく。
ザキン!
おれは幽機を一刀両断する。
幽機は光りの粒子になって消えていく。
「またな」
おれはひとりごちた。
続
(第十七話・ジュラック火山)
ヴァリューが十六機、溶岩の赤黒い川を渡り続ける。
溶岩の先には敵の基地がある。
そこを奇襲するのが目的だ。
夜のため特殊なスコープで視界をとらえる。
溶岩は発光しているため、ディスプレイには地面一面輝いて見える。
まるで下が空のような輝きようだ。
ドカア!
一機のヴァリューが爆発した。
なんだ。
敵……はいない。
故障ではない。
ヴァリューの破損の仕方は攻撃の後が見受けられる。
ヴァリュー各機は警戒するが、一機、また一機と攻撃を受ける。
なんだ。
センサーや視界に入らない敵だと。
闇雲に辺りを斬るが手応えはない。
見えないのではどうするっていうんだ。
――我(ワレ)が必要か。
「黙ってろ」
だが、どうする。
このままでは全滅だ。
ヴァリューの死角に闇に動く敵機。
と、溶岩に足をとられ倒れかかるヴァリュー。
倒れる時、敵機にぶつかった。
ザキン!
敵機を一刀両断する。
これは重装甲に溶岩をかけたデストランテだ。
「溶岩を斬れ!」
おれは叫ぶ。
ヴァリュー各機がソリッドバスターで溶岩を斬る。
ザギギン!
ズバン!
デストランテが次々ヒットしていく。
溶岩が動きだす。
ドシュッ!
ガンガガガガン!
銃の撃ち合いになる。
ヴァリューはダガーショットガンで応戦する。
おれの前の溶岩が立ち上がる。
ギュアッ!
デストランテが装甲を削(けず)った装甲剣を振り下ろす。
ギギン!
両手のソリッドバスターで受け止めるがすごい重い攻撃だ。
ヴァリューの各関節がヒートする。
アームチェンジの中では馬力最大を誇るデストランテならではの力技だ。
ゴガッ
しかしその重量ゆえにバランスを溶岩の上ではとれないでいる。
ゴギン!
装甲剣を斬る。
そのまま倒れてしまうデストランテ。
他のヴァリューもバランスを崩したデストランテを討ち取る。
数分後には敵機はいなくなっていた。
奇襲は失敗なため、全機撤退となる。
おれは夏という灼熱の戦場を後にした。
続
−設定−
デストランテ
アームチェンジ最大の馬力を誇り、シールドソード(装甲剣)による加重斬りを得意とした機体。
その巨体から繰り出される砲丸ストールは質量攻撃では最大のもの。
その腕は最大のカタパルトでもある。
磁力エンジンを足に搭載し、その巨体ながらローラーダッシュも可能。
(第十八話・ザグナット河川(かせん))
ヴァリューの一個師団が行軍していると、ヴァリューが他の機体がすべて止まっている。
なんだ。
――力がいる。
「またおまえか」
――戦いがある。
「わかったよ。
いきゃいいんだろう」
おれは青い機体に乗り込む。
映し出されたディスプレイには浮いた島々、下から上に流れる水。
空には海という、ありえない風景が映し出されていた。
「なんだどこだよここは。
おれは不思議の国のありすは読んでねえんだよ」
――敵を倒せ。
「ああわかってるさ。
それで、敵はどこだよ」
――いるだろう。
なにかが動く。
なんだ?
――心にいる。
「は?
よくあるあれか。
心で感じるってやつか」
おれはとりあえず目を閉じて深呼吸する。
「なにかいるな」
目を開ける。
幽機が無数にいる。
いや、それはがいこつだ。
巨大なガイコツの群(むれ)だ。
「めんどいなあ。
これ全部ただ働きかよ!」
――報酬が必要か。
「いや、戦えるだけでじゅうぶんだ」
おれはがいこつを斬る。
ザギギン!
斬ったがいこつは白い砂と化す。
「ふふんどうだ!」
がいこつの砂は闇の霧となる。
「なんだこいつは」
その闇を斬ると、闇は今度は幽機になる。
「おい、きりがないぞ」
――本質を斬れ。
「あーそういうのか。
めんどいなあ。
つまり当たりくじを探すのか。
確率は宝くじくらいか」
青い機体はなにも答えない。
なにかが風に流れて心に響く。
なんだ、なにを斬るか。
――そのための我(われ)であるのだ。
「あーそうかい」
同じだ。
要は斬れればいいのだ。
だがなにを斬る。
こいつらは質量ですらないというに。
「なにをとまどう」
うるさい。
いまはおまえと話してる場合じゃないんだ。
「いつもどおりに斬ればいいのさ」
うるさい。
黙ってろ。
ザギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギン!
まわりのがいこつを斬るが、どれもハズれだ。
どうする。
この機体なら思い通りの動きが出来る。
がいこつの攻撃などひょひょいかわすことができる。
思い通りに動ける、か。
待てよ。
そうか、とりあえずイメージしてみる。
光速を希望を本質だと思おう。
それを心でとらえてみる。
ザギギン!
機体の動きが素早さを光速を越えていく。
ザギン!
光りと化した機体が一体のがいこつを斬る。
バラバラバラ……
がいこつたちが砕けていく。
「それでいい」
「そうだな」
――すばらしい。
ハッチが開き、おれはヴァリューに乗る。
行軍が動きだす。
おれはヴァリューを動かした。
続
(第十九話・スウィーティー海上)
一面が海の地平線。
敵の艦隊からアームチェンジが七機出撃する。
こちらもヴァリュー八機が出撃する。
妙(みょう)だな。
敵機がガストゥールでもホバァラングルでもない。
ピピッ
コンピューターが敵機を解析する。
大気圏特化機体、バルバヅ(ズ)ェルだと?
なぜ?
ピピッ
敵艦隊がなにかを撃ち出した。
軌跡(きせき)からして、ヴァリューとバルバヅェルの中間地点を着地点にしてる。
来る。
ズバババババッ
着弾点から海の水が空に舞い上がる。
一緒にバルバヅェルとヴァリューも空に吹っ飛ばされる。
すさまじいGだ。
耐Gショックシールドがあるヴァリューでも相当なものだ。
一気に大気圏上空まで吹っ飛ばされる。
地球を下に見ながら宇宙を漂うアームチェンジ群。
あれはそうか、一部一面を空気より軽くするガジェット弾か。
あの辺一帯は大気圏にまで吹っ飛ばされていた。
ピピッ
コンピューターはヴァリューが落下していることを示す。
ヴァリューは大気圏に突入してもだいじょうぶだが、それには大気圏用オプションがいる。
このままではヴァリューは全機燃え尽きてしまう。
全機宇宙に向かって推進器を全開にする。
ズガアッ
仲間の機体が攻撃を受ける。
下は大気圏、上がろうとすれば敵。
圧倒的に不利な状況だ。
出力機であるバックパックも一般のもので、出力があがらない。
向こうのバルバヅェルは余裕で狙い撃ちしてる。
こちらはだるまのように手足を縮めてシールドで防御しながら撃ち返すが、ビームは流線を描き、敵まで届かない。
ガイン!
バルバヅェルはミサイルを発射する。
ミサイルに一機二機とヴァリューが撃ち落とされる。
おれは仲間の機体をけると、前に進む。
仲間の機体をけりながら前に進む。
ザギン!
バルバヅェルを一刀両断する。
そのバルバヅェルをけりながら前進する。
ザギギン!
三機斬ったところでバルバヅェルは散開していく。
足場を失ったヴァリューにミサイルが集弾してくる。
キキキキキキキキキン!
すべてのミサイルの先端部、起爆機だけをビームソードで斬る。
瞬間技だ。
だが、青い機体ならともかく、ヴァリューでここまで出来るとは。
いや、機体が青く光っている。
これは、青い機体か。
――ここで死んでもらっては困る。
「そうかい。だが、いまはこの戦いがおれのすべてなんでな。」
――そうか、傍観しょう。
ヴァリューから青い光りが消える。
仲間の機体の援護射撃であまり動けないでいるバルバヅェル。
バルバヅェルは四つ葉のように並ぶと、四機が螺旋しながら仲間のヴァリューを通りすぎる。
斬り刻まれ、爆沈するヴァリュー。
次はおれのヴァリューに来る四機のバルバヅェル。
八本の鋼鉄製のアームブレードがきらめく。
ギギギン!
二本のアームブレードを両手の鋼の竜刀で受けとめ、残りの二本はヴァリューの足で止める。
ザギギン!
バルバヅェル二機を斬り倒す。
二機のバルバヅェルのアームブレードが来る。
一機のを受け止め、もう一機は蹴(け)り飛ばす。
おれのヴァリューと二機のバルバヅェルの三機が大気圏に落ちていく。
もう仲間の機体の援護射撃も届かない。
ヴァリューは摩擦熱に赤くなりながら。
ザギン!
バルバヅェルを一刀両断する。
残り一機。
その一機の背中に着地する。
腕をからみとり、そのままバルバヅェルを装甲と化して大気圏を抜ける。
おれはバルバヅェルを一刀両断する。
空が色を取り戻す。
青空がどこまでも続いていた。
続
(第二十話・ラクトーナ風河(ふうが))
偵察にヴァリュー一機でおれは出る。
雲が一面に流れている。
巨大な雲から突然ヴァーグスというアームチェンジが出現する。
おれは旋回しながらバルカン砲を撃つ。
無数の弾丸はヴァーグスの手前で曲がってあらぬ方向に飛んでいってしまう。
まるでヴァーグスの前に見えない丸い壁でもあるかのようだ。
おれはロングブレードという実剣で斬りかかる。
剣はなにかに阻(はば)まれてしまう。
なにかがヴァーグスのまわりにある。
そう、目に見えない圧力の壁、みたいなものが。
ヴァーグスが両手をあわす。
と、ヴァリューの両側からすごい圧力が加わる。
ヴァーグスは重力を自在に使えるのか。
ヴァリューは身動きできない。
ヴァーグスは圧力をどんどんヴァリューに加える。
軋(きし)む関節。
おれはなにもない空間を蹴る。
見えないなにかを蹴り、ヴァリューが見えない手から逃れる。
まるで攻撃がすべて無効化されたかのような気がする。
いや、あきらめちゃいけない。
おれはヴァーグスの真上から推進力全開で突っ込む。
圧力の壁を押し斬る。
ガギン!
ヴァーグスは見えない剣で受け止める。
何度斬っても見えない剣にいなされる。
おれは実剣ではなくビームソードを引き抜くと、ヴァーグスの真上から出力全開で突っ込む。
ヴァーグスの見えない剣がヴァリューのビームソードを受け止めたかのように見えた。
ビームソードはその重力場によってひん曲がり、見えない剣をまわりこんでヴァーグスをつらぬいた。
ヴァーグスは動かない。
ヴァーグスの重力制御が故障したのか、ヴァーグスは輝く空にゆっくりと上がっていく。
おれはそれを見送った。
風は変わらず流れていた。
続
−設定−
バルバヅェル
大気圏上特化機体
大気圏中を自在に移動できる推進能力を持つ。
ミサイルを多数装備している。
四機による螺旋攻撃を得意とするクローバチームが常に育成、衛星基地には常駐している。
大気圏の層をスキーのようにすべることができる。
ヴァーグス
重力を自在に操る特殊機体。
近距離攻撃には致命的欠陥が見つかり、単体での運用は行われていない。
自在に空間を設定できる。
多数のガストゥールと移動する。
大気圏を単体突破できる珍しい機体でもある。
(第二十一話・バーディグル高原)
破壊される機体。
ガストゥールと死闘を繰り広げるヴァリュー。
敵も味方もあわせて百機が入り乱れる戦場。
ザギン!
後ろのガストゥールを一刀両断する。
もう何機斬ったのだろう。
終わらない戦いに息が上がる。
斬って斬っても終わらない。
ガキンザキン!
相手のスナップソードを竜刀で受け止める。
下からそのガストゥールを一刀両断する。
乱戦中になにか黒いボールが転がってくる。
ヴァリューくらい二機は入りそうな巨体だ。
ボールはビームを四方八方に打ち出す。
やたらめったら撃ってるようだがヴァリューだけが被弾する。
敵の新兵器か。
おれはヴァリューで斬る。
ギギイン!
丸い球体のためうまく斬れない。
くそったれめが!
どうする。
ボールは転がっている。
そのためか、ビームショットもはじく。
おれガストゥールを一刀両断しながらボールに近づく。
ダシュッ! ガン!
誰かが撃ちこんだ。
ダガーがボールにめり込む。
おれは地を蹴(け)る。
そのダガーにパンチする。
ダガーはより深くめり込みボールにひびが入る。
おれはそのひびに竜刀を突き刺す。
ガギン!
ボールの動きが止まる。
おれはなおもガストゥールを斬る。
斬って斬って斬った。
ザギン!
なにも変わらないとも斬った。
何時間斬ったのだろう。
混戦はもっと山のほうへ遠く場所が移動していく。
バシュウム……
ヴァリューは燃料ぎれで動かなくなる。
おれは動かなくなったヴァリューの中でつっぷして疲れて動けないでいた。
戦いは続いていた。
まだ。
まだまだ……。
続
(第二十二話・次元戦)
おれは青い機体で異次元にいた。
空に緑が茂る世界にいた。
光りとなってまたがいこつを一掃する。
と、奥から赤い機体がやってくる。
「なんだあれは」
――敵だ。
「そうか。なら斬ればいいんだな」
ギン!
おれの光速の剣を赤い機体は軽々と受け止める。
強い。
おれは赤い機体から距離をとる。
一瞬で赤い機体が目の前に迫る。
ギギン!
なんとか赤い機体の剣撃を止める。
だめだ。
おれでは勝てない。
いや、青い機体は最強だ。
おれが気遅れしたら負ける。
倒すしかない。
ガギギギギギギン!
見える。
赤い機体の剣の軌跡が見える。
ギガガン!
青い機体の左腕が吹っ飛ぶ。
だが、赤い機体の左腕も吹っ飛ぶ。
それでも剣撃を繰り広げる赤い機体。
ガガン!
両者の剣が吹っ飛ぶ。
それでも赤い機体はパンチを繰り出す。
こちらもパンチする。
両者の機体はぼこぼこにへこんでいく。
ギギギ……
もう両機ともうまく動かない。
「やるな」
ディスプレイには赤い髪の女が映っている。
「次はこうはいかないぞ」
「それはどうも」
赤い機体は帰っていく。
おれは深呼吸した。
まだ生きている。
なんとか、な。
おれは元の世界に戻るとヴァリューに乗り込んだ。
戦いは続いていた。
おれはヴァリューを起動させた。
続
−設定−
ブラックセメリス(ボール)
球体のどこからでもビームを360度撃ち込める。
ロックできる機数は一度に7機。
ビームソード無数に出すハリネズミ機能もある。
装甲はかなり厚い。
実戦ではかなり戦う条件を選ぶ。
宇宙用機もあり、各戦場に投入された。
赤い機体
青い機体と同等の力を持つ機体。
光速で動くことが出来る。
敵であることいがいは不明。
(第二十三話・バレルデ海上空)
ヴァリューの背にある飛ぶための推進器であるハイド セットラックの最新型が開発された。
その試験のため海上千メートルを飛ぶ。
機体はすばらしく上出来だ。
雲がある。
雲を抜けると警報が鳴る。
敵機が多数前方にいる。
どうする。
突(つ)っきろう。
一瞬の判断だ。
おれは推進器の出力を全開にする。
一気にGがかかる。
吹っ飛ばされ続けている体感だ。
ガストゥールのチェーンガンが雨霰(あめあられ)とヴァリューに降りそそぐ。
おれは左右上下に回避運動しながら敵機に突っ込む。
敵機はガストゥールが十四機。
ガストゥールは全機実剣のテイルメッサーを抜刀する。
おれもヴァリューの両手に質量剣であるオールバインドを持たせる。
ガギギギン! ギン! ギガ! ガイン! ギギイン! ガン!
勢いにまかせて前方の二機のガストゥールを一刀両断する。
三機目はテイルメッサーをはじきとばし、四機目のチェーンガンを斬り、五機目のガストゥールの腕を斬り、六機目はヘッドカメラを斬り、七機目は足を吹っ飛ばし、八機目は胴(どう)を斬るが左手のオールバインドが持っていかれる。
右手のオールバインドで九機目を一刀両断するが最後の右手のオールバインドが折れる。
ヴァリューは武器のない手ぶらの状態になってしまう。
いきおいで残りのガストゥールを振りきろうと突っきるが、十機目のガストゥールにヴァリューの左腕を吹っ飛ばされる。
十一機目と十二機目の実剣であるテイルメッサーがヴァリューの肩のシールドに食い込む。
十三機目のガストゥールに体当たりしてさらに加速して逃げる。
十四機目がチェーンガンを撃ってくる。
ヴァリューの胴(どう)に次々とヒットする。
なんとか致命傷にはならなかった。
おれは最後のガストゥールから逃げきる。
ボロボロのヴァリューはそれでも飛んでいた。
新型の推進器にガストゥールはついてこれないようだ。
何分飛んだろう。
ここまでくればだいじょうぶだ。
ほっとして空を見る。
空が青い。
どこまでも青い空間があった。
「これから帰還する」
おれは基地に向かって飛んだ。
白い飛行機雲だけが影のようにヴァリューの後ろに続いていた。
続
(第二十四話・次元戦、其之二(そのに))
異次元に青い機体におれ。
その世界は空に海がある。
そして赤い機体が目の前にいた。
おれは実剣を抜く。
向こうも実剣を抜刀する。
お互い両手に剣を持つ。
ガギギギギギン!
凄(すさ)まじい剣撃の応酬。
赤い機体の動きについていくのでせいいっぱいだ。
右からのをさばけば左がくる。
まるで左手と右手がそれぞれ意志を持っているかのように自在に動く。
と、赤い機体の動きが止まる。
赤い機体の向く方向になにかいる。
もう一機、黒い機体がいた。
赤い機体はこちらは無視して黒い機体に斬りかかる。
激しい剣撃だ。
黒い機体は軽々とかわす。
ガギギン!
黒い機体は両手の実剣で赤い機体の剣を止めると蹴(け)りを赤い機体の腹に入れる。
吹っ飛ぶ赤い機体。
「苦戦してるようだな」
「うるさい」
ディスプレイには赤い髪の女。
長い髪を耳のあたりで螺旋に巻いている。
「おまえよく見るとかわいいな」
「我を侮辱するつもりか!?」
「力を貸そう」
「さらなる侮辱、それでもお主武人か!」
黒い機体が動く。
「くっ」
赤い機体がなんとか立ち上がろうとする。
「勝手におれが黒いのと戦う。
それはおれの勝手だろう」
「どうでもいい」
赤い機体とおれの青い機体は黒い機体に斬りかかる。
赤い機体の二本の剣撃と青い機体の剣撃の四撃を黒い機体は軽々とかわす。
剣を合わすのでもなく、避けている。
赤い機体の剣もおれの青い機体の剣もかすりもしない。
両者ともその剣は光速をはじきだしてる。
向こうは別に光速ですらない。
こちらの攻撃が読めるのか。
なにか特殊な力を持っているのか。
おれは動きを止める。
赤い機体だけが斬りかかる。
赤い機体の攻撃も黒い機体はかわすだけだ。
なにも変わらない。
ふむふむ。
おれは黒い機体の後ろから斬りかかる。
青い機体の両手の剣が左右から黒い機体を斬る。
黒い機体は光速の右からの剣をかわす。
そこに普通のスローな左からの剣。
ギン!
黒い機体は思わず剣で受け止める。
緩急をつけた剣に調子を崩す黒い機体。
「そうか!」
赤い機体も攻撃に緩急をつける。
ガギン!
赤い機体が黒い機体の右腕を斬る。
後退していく黒い機体。
まだ余力はあるはずだが、撤退していく。
「はっはっはっおもしろいぞ」
「まったくだ」
おれは同意する。
「我はゼラフィリスの姫、ヨーステイア。
これからは名前で呼ぶがいい」
「それはどうも」
赤い機体も帰っていく。
元の世界に戻って来る。
「やっぱり元の世界はいいな」
――なにも聞かないのか。
「別に」
――助かる。
「まあいいさ」
おれは青い機体から降りる。
大地がかたかった。
まだおれは生きていた。
続
(第二十五話・バストア雨林)
森の中を一本の道が通る。
敵機が一機だけ後方から来る。
基地へヴァリューで移動中のことだ。
こちらはヴァリューが二機。
とりあえず迎え撃つ。
道の奥から一体だけアームチェンジが歩いて来る。
一面すべて鏡面でおおわれたアームチェンジだ。
とりあえずビームショットする。
二体のヴァリューから撃たれたビームは敵にヒットする。
鏡面がビームをことごとくはじく。
ビームショットガンは効かないようだ。
おれのヴァリューはビームソードを引き抜く。
ギギン!
ビームソードは鏡面体に屈折してしまう。
まったくビームソードを受け付けない。
まるですべての攻撃が無効化されたようだ。
仲間のヴァリューは実剣で敵に斬りかかる。
ギン!
軽々と鏡面シールドされた手で受け止める敵機。
ギイン!
敵機が尖(とが)った手甲(しゅこう)で仲間のヴァリューを斬る。
残りはおれだけだ。
しかし有効な武器がない。
ザアアァァ……
雨が降り出す。
ここまでか。
景色は雨と葉にはじかれた滴で霧のようだ。
こんなところならいいか。
おれは深呼吸ひとつする。
さて、行くか。
ドッ
実剣がヴァリューの横にささる。
空に青い機体がいた。
これは青い機体の実剣だ。
「礼は言わないぞ」
――かまわない。
おれは青い機体の剣をにぎると、敵機を斬る。
ギギギイン!
鏡面シールドが砕けていく。
後退しながらビームを撃ってくる敵。
おれは剣でビームをはじきながら一気に距離をつめる。
ザギン!
敵機を一刀両断する。
おれは基地に向かって歩きだした。
雨がやむ。
ジャングルはいつもと変わらず暑かった。
続
−設定−
黒い機体
赤い機体の搭乗者ゼラフィリスのヨーステイアが敵視する謎の機体。
赤い機体は青い機体の敵だと声は言う。
しかし赤い機体の敵、つまり敵の敵は味方と、
主人公はヨーステイアと連携を組み、
黒い機体に戦いを挑む。
光速を無効にする能力を持ち、実力ではこの次元では屈指の実力機体。
搭乗者も所属も不明。
この次元の機体は無限の力を持つ。
赤い機体とは黒い機体の前で連携が可能になる模様。
二対一でも圧倒的に強い。
詳細はやはり不明。
アールバディエイト(鏡面シールドの機体)
新開発の鏡面シールドによってビーム兵器を一切無効化する。
ある程度の実験による質量攻撃も鏡面の中の水銀波紋作用で無効化する。
当時絶対の防御力を誇った。
その特殊シールドのため、機体の運用がデリケートで、量産はされなかった。
しかし、これほどの攻撃吸収力はない。
首都の警備には百機運用された。
(第二十六話・トストイ平原)
ヴァリュー十機が戦場に向けて行軍している。
とビームが仲間の機体にヒットする。
辺り一面は草の絨毯(じゅうたん)が続く平原で、敵の機体が隠れるような場所はない。
遠くから攻撃しているのか。
れそにしてはビームが近くから撃たれているようだ。
また仲間の機体が被弾する。
まるで見えない機体にでも狙われているようだ。
――後ろに敵がいるぞ。
振り返ると一機ガストゥールがいた。
だがすぐ画面から消える。
「どういうことだ」
何度も振り返ってみると三機のガストゥールがいるのがわかる。
だがすぐに視界から消えてしまう。
どうやらヘッドカメラの死角に移動して攻撃しているようだ。
見えないには違いない。
見えない敵。
ならば見えない場所を斬ってみる。
ザギン!
ガストゥールの肩を斬る。
一機を行動不能にする。
残り二機がおれのヴァリューを集中して攻撃してくる。
たまらず後退する。
ザギン!
仲間の機体が一機、ガストゥールを斬る。
残り一機。
依然姿は見えない。
死角を斬っても当たらなくなった。
どうする。
――左後ろにいるぞ。
ザギン!
ガストゥールの肩を斬る。
ガストゥールは被弾して動けない仲間のヴァリューを盾にする。
ビームを撃ってくる。
おれはヴァリューで盾のヴァリューの胴を突く。
実験であるバインドソードは仲間の機体の急所をはずし、
ガストゥールの急所を貫(つらぬ)いた。
ガシャッ
最後の一機が崩れる。
この戦闘を機会にヴァリューの死角をなくす改造が後日始まった。
おれはとりあえず帰路についた。
続
(第二十七話・次元戦其之三)
異次元は変わらずそこにあった。
赤い機体がいる。
確か搭乗者はヨーステイアと言ったか。
「ひさしぶり」
「いまは敵だ」
ヨーステイアは素っ気ない。
――そうだ敵だ。
「どうにも血の気の多いのがいるな」
おれは抜刀する。
光速で赤い機体を斬る。
軽々と受け流す赤い機体。
長いこと同じ機体と斬り合うなど実戦ではないことだ。
おれはヨーステイアの太刀筋がわかるようになってきた。
そしてヨーステイアのほうもこちらの太刀筋が見えるようになっていた。
「まだヨーステイアは十代に見えるが、すばらしい攻撃だ。筋がいい」
「二十代だ。軽口もふくめて斬ってやる」
ガギギギギギン!
何度斬り合っても結果が出ない。
よほど相性がいいらしい。
「ヨーステイア、あんた姫なんだろ」
「それがどうした」
「それなのにこんな兵器に乗っているのはどうしたことだい」
「兵器だと? 神は兵器ではない」
「神。それじゃこの機体も神だっていうのか」
「おまえは選ばれた英雄ではないのか」
「選ばれたとも言えるかな」
「ならそれで充分であろう」
「なんだあれは」
高層ビルほどある機械の手が空の雲から現れる。
赤い機体をつぶそうとする。
ザギイン!
おれの青い機体の実剣が機械の腕を斬り落とす。
グゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
雷鳴のような声が空から響く。
いつのまにか銀色の機体が立っている。
大きさは赤い機体と青い機体と同じだ。
「気をつけろ、でかぶつの仲間の神だ」
ヨーステイアがそう言う。
銀色の機体は目にも止まらない動きで赤い機体を貫き、赤い機体を行動不能にする。
「ヨーステイアだいじょうぶか」
「こちらの心配をしてる場合ではないぞ」
銀色の機体はこちらに斬りかかる。
ギン!
なんとか受け止めた。
まるで機体そのものが光りそのものだ。
――撤退する。
「ヨーステイアはどうする」
――命をとるのが我々の戦いのすべてではない。
青い機体は次元を越え、元の世界にいた。
銀色の機体にはまるで勝てる気がしない。
「上には上がいるな」
――また力を貸せ。
「それはいい。だが、おまえは神なのか」
――そう呼ぶのがならわしだ。
「そうか。おれでよければ力を貸そう」
おれは青い機体から降りた。
続
(第二十八話・ドヘイム海岸)
ヴァリュー二機で偵察任務の時、砂浜で敵機とであう。
向こうは一機だけのようだ。
だが見たことのない機体だ。
腕が四本あってなんとも弱そうだ。
ヴァリューは二機同時に両手の実剣をふるう。
カキンカキンカキン!
四本腕は軽々とすべて受け止める。
あれよあれよというまに仲間の機体が行動不能に陥る。
四本の腕がそれぞれ意志を持つようだ。
向こうは四っつの実剣がこちらを狙う。
これは不利だ。
離れてビームショットするが、盾ではじかれる。
一気に距離をつめてくる。
四本の実剣が四方からヴァリューに迫る。
最初の二本をかわし、残りの二本を受け止める。
すぐにかわした二本がうなりをあげる。
それもなんとかかわす。
これでは斬られるのは時間の問題だ。
敵機が砂に足をとられる。
できるか。
おれは黒い機体のように敵機の四本の剣をかわす。
ヴァリューは目にも止まらぬという表現通りの動きをする。
そして目の前に敵の機体がある。
ザギギン!
四本の腕を斬る。
敵機は撤退していく。
波音だけがすべてを包んだ。
続
−設定−
銀色の機体
神の一体。
搭乗者は不明。
赤い機体よりも圧倒的強さを見せる。
なぜ神々が戦うか、なにが目的なのかも依然不明。
ザクスタット(四本腕の機体)
近距離陸戦特化用機体。
四方向からの攻撃は剣で最強を誇る。
一対一の対決で負けた記録はないと言われている。
通常長距離攻撃機体と共同で作戦参加する。
二人が搭乗して、一人が脚部操作、一人が腕を操作する。
(第二十九話・カイダス山岳)
夜。
発電所をヴァリューが十機取り囲む。
敵は一機だけだ。
ついてる。
黄色いアームチェンジは太いコードを機体につけている。
バババババババ、ヴァシッ
電撃を発する敵機。
ヴァリューが全機動きを止める。
「どうした」
ディスプレイには電圧異常でヴァリューの電気系統が
稼働停止状態だと出る。
電圧正常まで十秒と出てる。
敵機は実剣でヴァリューを斬る斬る斬る。
あっというまに六機が斬られる。
おれの機体の電圧が正常になる。
だがおれは動けないふりをする。
敵機がおれのヴァリューの前に来る。
ザギン!
ヴァリューは敵機の剣を叩き折る。
ババババババ、ヴァシッ
敵機はまた電気を発する。
かろうじてかわすヴァリュー
だがディスプレイがやきついて画面が見えない。
――右ななめ後ろだ。
青い機体の声がする。
「それはどうも」
ザギン!
ヴァリューの一太刀が敵機を一刀両断する。
戦いは終わった。
ひとつの戦いは。
ヴァリューは帰投の道についた。
続
(第三十話・サンダス雨林)
行軍中、敵機と遭遇する。
こちらはヴァリュー二十機。
対する敵はガストゥール五機。
数では圧倒している。
ガストゥールがなにか雨合羽(あまがっぱ)みたいなものを
装着する。
雨が降る。
まあ熱帯には珍しいことではない。
と、銃火気がとけていく。
この雨はなにか特殊な攻撃なのか。
このままではまずい。
ヴァリューは全機撤退する。
しかしガストゥールが執拗に追いかけてくる。
銃がとけてしまった以上実剣しかない。
おれは敵機と対峙するが向こうもなかなかの腕前だ。
もたもたしているあいだにガストゥール五機に囲まれる。
この雨のせいか通信もつながらない。
雨で視界も悪く、仲間の機体はいなくなっていた。
孤立無援というやつか。
敵機の雨合羽を斬り裂く。
ヴァリューの実剣がとけていく。
もう使えないほど短くなってしまった。
ガストゥールは粒子剣(ビームソード)を持っている。
粒子剣は溶けないようだ。
ガイン!
青い機体の紋章剣が大地に突き立つ。
空に青い機体がいた。
――まだ死ぬな。
青い機体の声におれは「感謝する」と言った。
おれは青い機体の紋章剣を引き抜く。
ズバババババババババ!
紋章剣は実剣だが、敵機の粒子剣に触れると粒子がはじけ飛ぶ。
すべての粒子剣を叩き折る。
ガインガインガインガインガイン!
ヴァリューは一回転するあいだにガストゥール五機を横に一刀両断する。
紋章剣はすさまじい斬れ味だ。
おれは紋章剣を青い機体に投げ返すと帰投についた。
続
(第三十一話・次元戦其之三)
異次元は晴れていた。
おれは青い機体で赤い機体と対峙していた。
「戦うのか」
ヨーステイアはディスプレイでうなずく。
ギンギン!
剣戟(けんげき)は異次元に鳴り響く。
光速の剣が舞い踊る。
光速の演舞は続く。
と、赤い機体と青い機体の紋章剣が光る。
「これは共鳴現象?」
「どういうことだ」
――赤い機体と我は姉妹機体でな。
「そうなのか。それならなぜ戦う」
「敵と戦うことに意味を問うことはない。
そこに敵がいれば戦う。それだけだ。」
ヨーステイアは誇り気でさえある。
「まあそうかもな。
おれも地元じゃそんなもんだ。
姫はどこの姫なんだ」
「こことは違う次元の姫だ」
ヨーステイアが断言する。
「そっちも神様に引っ張られてきたクチか。
なんで神は戦うのかな」
「知らぬ。必要だからだ。それだけだ」
「姫は嫁にでもいくのか」
「私は王になる。だから嫁にはいかん」
「だったら逆ハーレムだな」
「王は相手を必要としない」
「それじゃ一人なのか。さびしいもんだな」
「それが王というものだ」
「それじゃ戦いますか」
「気が失せた。また今度くる」
赤い機体は去っていく。
「戦わないでいっちゃったよ」
――かまわん。負けたわけではない。
「そうか」
おれは元の世界に戻る。
まだ戦争は続いていた。
続
−設定−
ヴァンヴァスタール
電気獣の異名を持つ。
その稼働には多大な電力を必要とするため、発電所の警備、または電気を常に供給される場所でしか行動できない。
スタンガンブレードショットによる攻撃で多数の機体を一度に一時的に行動不能にする。
常に電気コードをひきづっている。
パイロットたちからは豚足と呼ばれている。
(第三十二話・ハイロック衛星軌道)
ヴァリューが五機、
敵の軍事衛星を破壊するために作戦行動している。
軍事衛星が見えてきた。
と、警告音が鳴り響く。
軍事衛星の後ろからガストゥールが七機姿を見せる。
まずい。
ミサイルがガストゥールのミサイルポッドから発射される。
デコイ、囮(おとり)のミサイルをガストゥールは背中から発射する。
ミサイルの大半はデコイを追っていく。
残りはビームシャワーショットで打ち落とす。
ビームショットするが敵機は散開するわけでもなく同じ宙域にとどまっている。
そうか、軍事衛星の盾となって動けないのか。
隊長の指示でこちらは散開して二手に分かれ、敵機を挟み打ちにする。
と、ヴァリューの後ろから攻撃がくる。
ヴァリューの後方にガストゥールが三機いる。
しまった。
伏兵がいたのか。
おれは回避運動しながら後ろのガストゥールにビームショットする。
乱戦が続く。
おれは後方の三機に接近戦を挑み、斬り合う。
六本のガストゥールの実剣が迫る。
おれはステッドラノールという歪曲実剣二本で四本の剣を受け止める。
残り二本がヴァリューの胴と足に突き刺さる。
だがヴァリューはまだ動く。
しめた。
おれはヴァリューを回転させるいきおいで二機を横に一刀両断する。
バシッ
ヴァリューの腕が動かない。
動くのは推進力だけだ。
残り一機が距離をとろうと逆噴射する。
おれは推進器全開でヴァリューでガストゥールにぶつかる。
胴にささった実剣がガストゥールのコクピットをつらぬく。
おれはハッチを開くと宇宙空間に出る。
しばらくすると下の方でヴァリューが爆発する。
しばらく宇宙を漂う。
なにも聞こえない。
なにもない暗闇。。
全面に広がる星々。
静寂が宇宙を包む。
と、目の前にヴァリューがあらわれる。
作戦を終了させた味方機だ。
おれは仲間のヴァリューから出されたワイヤーを手と足でひっかけ、ヴァリューにひっぱられながら宇宙を進む。
戦いはまだ続いていた。
続
(第三十三話・ハイデロ地帯)
乱戦が続いていた。
すでに両軍とも何十機の機体が入り乱れ、正確な機体数など数えようもなかった。
大地の上でヴァリューが疾走する。
ヴァリューは全機、ヒットカットオプションによるローラーダッシュ機能を搭載していた。
ヴァイィイイイイイイイッ
走行しながら二機ほどガストゥールの盾を斬る。
移動が速く、敵が止まっているかのようだ。
ガギン!
ガストゥールのビームガンを斬る。
燃料が爆発する。
そのままおれはヴァリューを横にローラーダッシュさせ横なぐりにガストゥールを一刀両断する。
ガストゥールが爆裂する前にローラーダッシュで次の敵の前まで移動しているヴァリュー。
ガンッ
おれのヴァリューとガストゥールが実剣で組み合う。
おれは回転したままのホイールローラーの足でケリを入れる。
ギュィィイイイイッ
ローラーダッシュが敵機の胴をえぐる。
ズシン
倒れるガストゥール。
バサッ
白い翼をはためかせたアームチェンジが空にいた。
ビームショットするが白い翼ですべて防ぐ。
ザギギギギギギギギギギン
味方機の前に降り立つと白い翼で味方機を翼の数だけ一刀両断する。
また飛び立つと今度はこちらの前に降り立つ。
おれはローラーダッシュでしゃがみながら突進する。
翼はヴァリューのアンテナをかすった。
おれは下から上にこの敵機を一刀両断した。
と、横に別のガストゥールがいた。
おれはとっさにローラーダッシュで横を向く。
パシュッギンッ
ガストゥールの腕がショットパンチする。
おれのヴァリューの持つ実剣がショットパンチで折れる。
おれはローラーダッショで片足を軸にもう片足だけ回転させ敵機の足を払いのける。
倒れたガストゥールの胴にひじ鉄する。
味方機から実剣をわけてもらい、また走る。
と、光りに包まれるヴァリュー。
敵の新兵器か。
気がつくとおれは異次元にいた。
続
(第三十四話・次元戦其之四)
おれはヴァリューは異次元にいた。
赤い機体が斬りかかってくる。
ガギン!
ヴァリューは赤い機体の剣をかろうじて受け止める。
向こうは光速が出せる神。
とてもヴァリューでは相手にならない。
と、ヨーステイア姫が話し出す。
「私を愚弄するつもりか!」
ヨーステイアが叫ぶ。
どうやら神の相手をするのは神でなくてはならないらしい。
「わかった、青い機体、いるんだろ」
声が聞こえない。
「どうした青い機体。神様とやら出てこい!」
なにも反応はない。
「ほう、どこまでも私をばかにするらしいな」
赤い機体が斬りかかる。
ローラーダッシュで逃げながらビームショットする。
赤い機体は光速になる。
ビームショットなど軽々とかわす。
おれはヴァリューの実剣を前に出す。
ギイン!
赤い機体の剣を受け止めた。
ヨーステイアなら後ろからは攻撃してこないと読んだが当たりのようだ。
「どうした! なぜ我が前に力の機体で戦わない」
ヨーステイアが叫ぶ。
「少し時間が欲しい」
おれはボリュームいっぱいに相手の機体にマイクでしゃべる。
「なぜだ」
「青い機体、いや、神が答えない。時間が欲しい。なにかいつもと違う」
「そうか。冗談ではないな」
「そうだ」
「よかろう。時間を貸そう」
ヴァリューは赤い機体と併走する。
「こっちだ」
おれはヨーステイアにそう言う。
「確かなのか」
「なにかが呼んでいるような気がするんだ」
「そうか」
森をぬけると青い機体がいた。
岩と化した青い機体が。
その上には黒い重力の球体が浮かんでいる。
「どうした神よ!」
ヨーステイアが叫ぶが反応はない。
おれはなんとなく重力の塊にビームショットする。
ババシュッ
重力が消え、岩が砕け、色のついた青い機体が出現する。
――待たせたな。
「いや別に」
おれは青い機体に乗り込む。
赤い機体と対峙する青い機体。
赤い機体が光速で上から斬る。
青い機体は横から赤い機体を斬る。
ザン
動かない二体。
と、赤い機体の腕が落ちる。
「負けた」
ディスプレイのヨーステイアが肩を落とす。
「それじゃ」
おれはヴァリューで戦場にいた。
おれはヴァリューをローラーダッシュさせた。
続
−設定−
フライエンス(翼の機体)
陸上特化機体
光りの翼は片方だけで76本のソードとなっている。
翼から空を飛ぶイメージがあるが、軽い飛行能力しかない。
空からの奇襲を得意とする。
死神天使の異名を持つ。
(第三十五話・カテドラル宙域)
大気圏上空でポール一機と遭遇するヴァリュー十機。
ビームショットするが装甲の厚いボールには効かない。
黒いボールが太陽の照り返しで鈍く輝く。
どうしたものか。
仲間のヴァリューがビームソードで斬るがまったく効かない。
宇宙なので実剣よりは粒子剣(ビームソード)のほうがいいのだが、それも効かないとは。
まいった。
ボールはビームソードをハリネズミのように全面に無数に出現される。
回転しながらボールがこちらに迫ってくる。
ビームショットするがハリネズミビームソードにすべてはじかれる。
ババババリ!
ヴァリューの一機がボールのはりねずみの体当たりに四散する。
散開する各ヴァリュー。
ボールが全方向にビームソードを撃ち出す。
ババババリ!
一気に五機のヴァリューが行動不能になる。
ボールがまたビームをソードの形にする。
ふむ、そうか。
またボールが全方向にビームソードを撃ち出す。
その瞬間ボールにつっこむ。
ボールが撃ち出したビームを盾でしのぎながらボールの直前まで近づく。
次のソードを充填しているボールにダガーをたたき込む。
バチッ
ボールが動きを止める。
ヴァリューは動けない機体を引っ張って逃げる。
ボールは無人機であり、行動不能になったら爆発するようになっていた。
バウム!
破片がすごい勢いで迫る。
ザギギギン!
おれはヴァリューで大きな破片を粉砕した。
それは一瞬のこと。
静けさが宇宙を包む。
後には機体の残骸が残っていた。
続
(第三十六話・セセラト平原)
ガストゥールとヴァリューが無数に入り乱れて戦っている。
ロットスタットというミサイル搭載アームチェンジがミサイルを雨と降らす。
ミサイルの雨の中ガストゥールを一刀両断する。
空にいるロットスタットもジャンプして一刀両断する。
ミサイルに被弾してガストゥールもヴァリューも破壊されていく。
ミサイル攻撃に敵も味方もなかった。
おれはガストゥールを蹴ってロットスタットを一刀両断する。
何機斬っても終わらない。
両軍の機体が次々と破壊される。
ロットスタットが後ろにいたことに気づかなかった。
ザギン!
おれのヴァリューの足を斬られた。
ロットスタットが実剣をおれのヴァリューの胴に突き刺す。
ヴァオオオオ! ザギン!
それより速くおれは推進器全開で上に飛ぶと、上からロットスタットを推進力全開で一刀両断する。
失速して地面にたたきつけられるヴァリュー。
ヴァリューが動かない。
うんともすんともいわない。
ボールが目の前にいた。
はりねずみでおれのヴァリューにのしかかってくる。
万事休すか。
ザギン!
赤い機体がボールを一刀両断する。
「探したぞ」
ヨーステイアがそう言うとおれのヴァリューに斬りかかる。
「なんでここにいる」
「おまえが来ないならこちらから出張って来るまでだ!」
「ここをどこだと思っているんだ」
赤い機体に斬りかかるガストゥールが五機。
ザギン!
赤い機体は足となく腕となく胴を残して一刀両断する。
まわりにいたヴァリューもロットスタットも赤い機体に攻撃する。
ザギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギン!
赤い機体は一瞬で三十機のアームチェンジを一刀両断する。
「パイロットに危害は加えていないぞ」
ヨーステイアはそう言う。
「充分あたえているって」
「戦うのか戦わないのかどっちだ」
「仕方ないな」
おれは青い機体に乗り込む。
赤い機体がガストゥールやヴァリューを叩き斬りながらこちらに迫る。
なんだかなあ。
ガギイン!
赤い機体の一撃を受け止める。
紋章剣同士のぶつかりあいに光りの波紋が幾何模様に広がっていく。
後ろから来るガストゥールやヴァリューを避けながら戦いあう青い機体と赤い機体。
「どうもここは落ち着かん。場所は異次元がよかろう」
次の瞬間、赤い機体と青い機体は異次元にいた。
続
(第三十七話・次元戦其之五)
「今日こそ決着をつける!」
ヨーステイアがそう言う。
「決着ってどうつけるんだ」
おれの質問にヨーステイアが答える。
「負けたと認めることだ」
「どちらかが」
「そうだ」
わかりやすいような、そうでないような。
赤い機体が光速で距離を詰める。
ギン!
赤い機体の剣撃を止める。
横に斬るが赤い機体はしゃがんでかわす。
下からの剣撃をなんとか受け流す。
今日のヨーステイアは動きがいい。
これはちょっとまずいかも知れんな。
紋章剣を両手に二刀流と持つ。
向こうも二刀流だ。
ガギギギギン!
両者の剣撃が火花を散らす。
なんとかなるか。
相手の突きを受け流す。
赤い機体はバランスをくずす。
光りが舞った。
おれの二撃を後ろ手に受け流す赤い機体。
やるな。
ガイン!
こちらの渾身の突きを赤い機体は同じく突きで止める。
この機体だと人間伎とは思えないことが起きる。
こちらはスクリューのように相手の剣撃をさばく。
赤い機体も螺旋剣撃をしてくる。
まるで光りが舞っているかのような感じだ。
「この戦いになんの意味があるんだ」
おれはなぜか叫んでいた。
「戦いに意味などない! 存在の衝動が戦いだ! おまえも騎士ならなにを迷う!」
ヨーステイアはそう言いきるとさらに攻撃してくる。
赤い機体は左右から同時に斬りかかる。
おれは両手の剣で受け止め、赤い機体にケリを入れる。
もんどりうって赤い機体がひざをつく。
「ここまでだ」
赤い機体が青い機体の足を斬りに剣撃する。
それは読んでいた行動だった。
赤い機体の紋章剣を足でふむと、赤い機体の腕を斬る。
「くそっくそっくそおっ」
ヨーステイアの声が響いた。
おれは元の世界に戻ってきていた。
遠くではまだ戦っていた。
おれは自軍のほうへ歩き出した。
続
−設定−
ロットスタット
低空飛行型
空からミサイルを撃ち出す。
空中戦闘補助機。
接近戦は得意ではない。
空飛ぶ武器庫の異名がある。
ガストゥールに武器を渡す役割もある。
(第三十八話・ローゲント峡谷)
「今日はお茶でもいかがですか」
ミッシェルがおれにそう言う。
「いいね」
おれはそう答える。
ミッシェルは背中まである金髪をおさげにしてる。
スーツのような制服がよく似合う娘だ。
「ポーカーで勝負ですよ」
ミッシェルがそう言う。
「今度は負けないぞ」
「そうですね」
ミッシェルはよく笑う子だった。
「勝ったらなんでもしてあげますよ」
そう言ってミッシェルは笑った。
「さあお茶にしましょう」
「そうだな、助かる」
緊急徴収がかかる。
「敵襲だな」
「御武運を」
ミッシェルはそう言う。
「帰ってきたらなんでもおごるよ」
「期待しています」
「それじゃ」
数機のヴァリューと補給機体は切り立った崖にはさまれた峡谷を移動していた。
数機のガストゥールが崖の上からチェーンガンを打ち込む。
盾で防ぐが、弾丸の雨だ。
おれはヴァリューの推進器全開で崖の上に躍り出る。
ガストゥールを一機、二機と一刀両断する。
他のガストゥールがおれのヴァリューにチェーンガンを集中する。
ヴァリューの推進器全開で近くのガストゥールにタックルする。
倒れながら実剣を突き立てる。
実剣がひんまがる。
もう一機のガストゥールが迫る。
おれはヴァリューでガストゥールをケリ落とす。
下に落ちるまでに仲間の機体のロングショットで穴だらけになり、
爆発するガストゥール。
残り一機。
おれは曲がった剣をぶん投げる。
実剣はブーメランのように飛んでいき、ガストゥールの胴をつらぬいた。
おれは動けないヴァリューに座っていた。
補給機体に戻る。
ミッシェルがいた。
「おごりですね」
「そうだな」
「一番高いのですよ」
ミッシェルがそう言って笑った。
おれはひさしぶりにうまいコーヒーを飲んだ。
ミッシェルと飲むコーヒーは支給品のわりにはうまかった。
「今日は徹夜でポーカーですよ」
「いいけど、ミッシェルはすぐねむっちゃうからな」
「そんなことありませんよ」
そう言ってミッシェルは笑った。
「また戦場から帰ってきてくださいね」
ミッシェルは笑う。
おれはミッシェルの笑顔が好きだ。
この笑顔が見れればまたがんばれる。
そう思うのだ。
続
(第三十九話・ログラン岬)
ローゼンブルクの街で女をひろった。
ケガをしていたので病院に連れて行った。
「ありがとうございます」
女はそう言って笑った。
「あたしはクリスティンといいます」
と女は名乗った。
ケガはたいしたことはなかった。
だが、記憶がないという。
身よりもないクリスティンを施設まで案内することになった。
「へーすごいねー」
クリスティンはそう言って高層ビルディングにため息した。
「クリスはあんたのこと好き。あんたクリスと呼んで。あんた大好きだよ。
クリスはそう言って笑った。
「あんたはクリスのこと好きか」
「あ、ああ好きだよクリスのこと」
クリスは笑った。
これ以上ないというくらいの笑顔で。
施設には何度もクリスに面会に行った。
そのたびにクリスは笑ってくれた。
「クリスのこと抱いて」
「おいおい意味知ってるのか」
「知ってるよおー」
クリスは冗談とも本気ともつかない口調でそう言った。
クリスをひきとる書類にサインした。
クリスも一緒に住むということに同意してくれた。
「クリスあんたのおくさんになる」
「それはどうも」
おれはクリスにキスした。
クリスもおれにキスした。
「クリスあんたを愛してるよ」
「おれもだよ」
ふたつの影はひとつになった。
クリスがいなくなった。
施設からも街からもいなくなった。
おれはひさしぶりに泣いた。
ある戦い。
岬を巡回中に
ガストゥールと遭遇した。
たった一機だ。
こちらも一機だが。
負ける気はしなかった。
実剣であるハーディンで斬りかかる。
向こうは防戦一方だ。
――いいのか。
青い機体が話しかけてくる。
「なにがだ。いま戦闘中だ。黙ってろ!」
――愛した女を斬っていいのか?
なに。
あのガストゥールがクリスだと?
おれは回線で話しかけてみる。
「クリスなのか」
ガストゥールの動きが止まった。
「なぜ私の名前を知っている」
確かにクリスの声だった。
「探したんだぞ、どこへ行ってたんだ。おれだよ」
「記憶がなかった時のことか?」
クリスはそう言う。
「そうだよ。おれだよ。愛を語ったじゃないか」
「知らん。たとえそうだとしてもおまえは敵ではないか」
クリスのガストゥールは斬りかかってくる。
手加減できる攻撃ではない。
おれのヴァリューの剣がガストゥールをつらぬく。
脱出ポッドで出てくるクリス。
「さあ帰ろうクリス」
「来るな! くれば死ぬ!」
クリスは銃を自分自身に向ける。
「待て、はやまるな!」
「出てこい青い機体!」
赤い機体がいた。
ヨーステイアが声高らかに叫ぶ。
ええい事態を複雑にしやがって。
「どうした。ここで一刀両断するぞ!」
「わかった!」
おれはヴァリューから降りて、青い機体に向かう。
途中、クリスの前を通った。
「おまえが青い機体の搭乗者なのか?」
クリスはそう聞く。
おれは無言で青い機体に乗り込んだ。
「クリス。必ずきみを手に入れる」
おれはそう言って異次元にジャンプした。
続
(第四十話・次元戦其之六)
異次元にいた。
ヨーステイアは仁王立ちしている。
「なぜ私を待たせる! 戦うことに理由でもいるのか!」
「ないな」
「ならば戦え!」
赤い機体が斬りかかる。
おれは赤い機体の紋章剣を受け流す。
魂のこもった一撃が次から次にくる。
相変わらずまじめな人だ。
「どうした! おまえの実力はこんなものか!」
ヨーステイアは叫びながら斬りかかる。
それをなんとか受け流す。
強い。
「強くなったなヨーステイアは」
「ば、ばかにするな! 私とて、ここではいっぱしの武人だと
思ってもらいたい!」
「ああ認める。ヨーステイアは一人前の戦士だ」
「わかればいいのだ、わかれば」
「かわいいなヨーステイア」
「私を愚弄するつもりか!」
「そんなヨーステイアも好きだな」
「そ、それはありがとう」
「では、いざ勝負」
「望むところだ」
赤い機体は踊るように剣撃を繰り出す。
おれはそれをすべて受け流す。
右の剣を右の剣でかわす。
左の剣を左の剣でかわす。
赤い機体が渾身の力で突進してくる。
踏み込みが甘い。
ザギン!
おれは剣を受け流しながら赤い機体の両手を斬る。
「まだまだ!」
赤い機体はそれでも突進してくる。
おれは足も斬る。
勝負はついていた。
「まだだ!」
ヨーステイアは機体から降りて腰の剣をぬく。
「もう勝負は終わりだ」
「まだまだまだまだあ!」
おれは青い機体から降りる。
ヨーステイアが剣をふりかぶって駆けてくる。
ガアン!
おれの銃弾がヨーステイアの剣ほ折る。
ひざまずくヨーステイア。
「どうにでもしろ」
ヨーステイアは泣いていた。
「どうもしない」
「それではすまない」
「なにかばつがいるのか」
「そうだ」
「それなら一緒にお茶でも飲む」
「それは」
「一緒にお茶を飲むことほどのばつはない」
「おまえの世界ではそうなのか?」
「そうだ」
「そうか。ご一緒しょう」
おれはヨーステイアを連れておれの世界の基地でコーヒーを飲む。
「にがいな」
ヨーステイアはまずそうな顔をする。
「これが慣れるとうまいんだ」
おれは笑った。
ヨーステイアも笑った。
苦笑いだった。
「だが負けを認めたわけではないぞ」
ヨーステイアがそう言う。
「また戦おう」
「よし、いいだろう」
ヨーステイアはそう言って去っていった。
空は夜だった。
続
(第四十一話・サゼット基地)
夜空が広がる。
基地からは星がよく見えた。
休憩室にミッシェルが入ってくる。
「整備は終わったのかミッシェル」
「ええ、あなたのヴァリューも絶好調! かもね」
「かもねなのかい」
「たっぷり愛情注いどいたから、またスクラップにはしないでね」
「約束しょう。次もスクラップだ」
「いじわる」
「まあいいさ。コーヒー飲むかい」
「いえ、もう休むから野菜ジュースをね飲むの」
「それはまた健康的なことで」
「あなたも飲む?」
「おれは健康には無頓着でね」
「だめよ、健康には気を遣いすぎてすぎることはないのよ」
「そのうちね。健康に気を遣うなんて死んでからでも遅くはないってね」
「長生きするわあなた」
「ははん。そうだろう」
警報が鳴る。
「夜勤はつらいね」
おれはそう言って走り出す。
「御武運を」
ミッシェルの声が聞こえた。
搭乗用エレベータが動く。
倉庫の景色が上に動く。
ヴァリューのコクピットに乗り込む。
伝送系のデータコードをコクピットにつける。
一瞬コクピット内が暗くなると、ディスプレイが各種ボタンが光り輝く。
「それでどうしたんだ」
「脱走兵だ」
やはり夜勤のバーグスタークが答える。
「そんなことでヴァリューは必要ないだろう」
「逃走に新型機を持って逃げたようだ。最新型で機能も極秘だそうだ。充分気をつけてくれ」
「了解」
おれはヴァリューを動かす。
倉庫から出たところでヴァリューを走らせる。
「それでターゲットはどこなんだ」
「このポイントを通過するまで三分だ。待ち伏せしてくれ」
「了解」
おれはヴァリューを静音モードで所定位置まで動かす。
まるで車が走る程度の音でヴァリューがすり足で動く。
ポイントに到達するヴァリュー。
建物の影から逃走機を待ち伏せする。
音が振動する。
来た。
おれはヴァリューの足を出す。
ヴァリューの足に引っかかって転ぶ新型機。
確かに見たことのない機体だ。
武装はしてないない。
「そのまま動くな。動けば破壊する」
新型機は立ち上がろうとする。
ヴァヴァヴァヴァ……
ロットショットガンという実弾銃で腰部を破壊する。
これで動力伝達が停止するはずだ。
「なんだ!?」
それはおれの声だった。
破壊したはずの新型機が修復していく。
破壊された部品が水のようになってまた機体に戻る。
新型機は傷ひとつないまで修復された。
なんだこれは。
新型機は起きあがると走り出す。
おれは気をとりなおすとヴァリューを走らせる。
「これはどういうことだ」
「新型機の機能だとしか言いようがない。研究部のやつらナノテクの機体運用をしてると言っていたから、これがそうなんだろう」
「なるほど」
おれも話しには聞いた技術だったが、目の前で機体が一瞬で修復するというのはなかなか信じがたいものがあった。
まあいい。
パイロットをおさえればいい。
おれはロットショットガンを放つ。
新型機の後ろ姿が突然前面になる。
まるでアニメでも見てるようだった。
新型機は腕を剣に変形させると斬りかかって来た。
ガイン!
ロットショットガンが斬られる。
薬莢(やっきょう)が雨のように地面に降る。
おれはすぐにデットスタットという細い実剣を持つ。
新型機はすぐに逃げてしまう。
なんだ。
まるで戦う気がないようだ。
基地の外へは逃がさない。
おれはテットスタットを新型機のコクピットに投げる。
するりと剣はコクピットをすり抜けてしまう。
なんだ。
まるで手応えのない機体だ。
まるで幽霊とでも戦っているかのようだ。
このままでは逃げられる。
どうする。
味方機のヴァリューが新型機の前にいる。
「よし、挟み撃ちだ!」
前方のヴァリューはラクセラという強度爆弾を新型機に投げた。
基地内でそんな強力な爆弾を!?
おれはヴァリューを伏せさせる。
振動が地響きとなす。
まるで噴火でも起きたようだった。
炎の後には四散した新型機があった。
それでも水となって元の機体に戻ろうとするナノテク機体。
「……だからぼくは逃げたかったんだ……」
誰かがしゃべっている。
「誰だ? 新型機の搭乗者か」
だがとても生存者がいるとは言えない状態だ。
「ぼくはナノテクノロジー人工知能機体」
「なん、だって?」
「だからぼくは戦いなんか嫌だって父さんに言ったんだ」
「おまえは……」
「ぼくは自然が好きだ。歌が好きだ。さえずる鳥が好きなんだ」
ナノテクの水はまた機体になろうとしていた。
ヴオオオオオオ!
前方のヴァリューが火炎放射器でナノテク機体を焼き尽くす。
「やめろ!」
おれはヴァリューで体当たりする。
ナノテク機体は蒸発していた。
一滴だけ残っている。
「明日が、明日が見えるんだ」
「おまえ名前はなんて言うんだ」
「十六号」
「それは名前じゃない。そうだ、おまえはミライと名乗ったらどうだ」
「それはいいな。それはいいな」
「気に入ってもらってなによりだ」
最後の一滴も蒸発する。
――ぼくは雨となって海になる。海は自由なんだ。もうどこにでも行ける。だからこの思いよ雨と降れ。
しばらくおれはそこにいた。
夜が過ぎていく。
基地に戻るとミッシェルがいた。
「お帰りなさい」
「ただいま」
「あなたがいないとぐちを聞いてくれる人がいなくてね」
「そうか。なんでも聞くよ」
「あたしの田舎ではね、母があんた早く結婚しろってうるさいのよね」
「それは大変だな」
「でしょう。こっちの意見なんて聞きゃしない。まったく親なんて勝手なものよね」
「そうだな」
「そうそうペットの犬を隠れて基地で飼いだしたのよ」
「それはよかったな」
「あたしのカラオケのオハコが増えたのよ」
「そうか」
延々とミッシェルのくだらない話しが続く。
こういう時はほんとうにミッシェルには助けられる。
光りが視界を包む。
夜明けだった。
「明日はいつ来るんだろうな」
「なに?」
「いや、なんでもない」
おれはコーヒーを飲み干した。
続
(第四十二話・ゼスタ高原)
「こんなあたしでも愛してくれますか」
亜麻色の腰まである髪。
青い瞳。
整った顔立ち。
高い背。
クリスがそう言う。
「いつまでも一緒にいようクリス」
「はい。でも」
「でも?」
「私は戦いのためにあなたを殺す」
クリスは戦闘服に包まれていた。
「これは夢だ!」
おれは目を覚ます。
ベッドの上で汗でびっしょりだった。
今日は大きな戦闘のある日だった。
おれは着替えると食堂に行く。
「遅いわね。みんな食べてしまってよ。お寝坊さん」
ミッシェルがいる。
「おまえはいつも悩みがなくていいな」
「それが取り柄でして」
てへっとミッシェルが笑う。
「ほんとに時間無くなるわよ」
ミッシェルがそう言う。
おれはサンドイッチを口に詰め込む。
それをコーヒーで飲み込む。
倉庫ではみんな整列していた。
おれはこっそり列に並ぶ。
一通り隊長から話しを聞くとヴァリューに乗り込む。
ヴリューカーという移動機体からヴァリューを降ろす。
敵機とにらみ合いは続いていた。
そろそろ一時停戦の期限が切れる頃だ。
時間だ。
両軍のアームチェンジが動きだす。
飛び交う銃弾。
戦いは早くも泥沼の様相を呈していた。
目の前からボールが転がって来る。
ガン!
おれはヴァリューの腕先にパワーナックルをセットする。
ボールにショットパンチする。
ガシン!
ボールをパワーナックルショットパンチが貫(つらぬ)く。
ビシッ!
ボールの中心からはヒビが深く入り、致命的な亀裂が走る。
ボールが動きを止める。
ヴァリューが腕を引き抜くと、ボールの中枢部が手ににぎられていた。
ヴァリューはその部品を握りつぶす。
ボールはパワーナックルのエネルギーで、無数の氷の破片となって四散する。
まるで氷の芸術のようだ。
と。
ガストゥールが背中から斬りかかってくる。
ガギン!
なんとか受け止める。
ケリでガストゥールを吹っ飛ばす。
なんか違うな。
この感覚は彼女か。
おれはガストゥールの手をにぎる。
両軍が放った白い煙幕弾が豪雪のごとく視界を包む。
白い雪の日。
彼女がいた。
おれは彼女に話しかける。
「クリス」
「青い機体のパイロットか」
「帰ろうクリス」
「なぜおまえに着いて行かなくてはならないのだ。
その意味が無い」
「ならばおれに惚(ほ)れろ」
「意味不明だな」
「戦いに意味があるか。
愛に意味があるか。
いまいることに意味があるか」
「おまえの言葉などこの銃弾で打ち砕いてくれる」
ガストゥールはアームシールドに仕込まれたバルカンを撃ち出す。
おれは、ヴァリューは立ちつくす。
バルカン砲に砕かれるヴァリュー。
なにも見えなかった。
見えるのは彼女の笑顔だった。
おれは銃撃するクリスに話しかける。
「友達を紹介するよクリス。
ミッシェルと言って、いいヤツなんだ。
おすすめの映画があるんだ。
一緒に暮らそう。
また愛を話そう」
ヴァリューが砕け、コクピットがむきだしになる。
白い雪がおれの目の前に漂う。
そうだ。
おれはここにいる。
ここに。
それは最後の一撃。
ガギン!
赤い機体がクリスを、ガストゥールを一刀両断する。
「クリス!」
崩れるガストゥール。
「まだ死んでもらっては困るでな」
ヨーステイアの声がする。
「きっさまあ!」
おれは頭に血が上っていて、クリスが無傷であることに気ずかなかった。
「青い機体よ!」
青い機体は目の前にいた。
おれは異次元に青い機体でジャンプする。
破壊してやる。
おれには憎しみしかなかった。
「斬る!」
おれは赤い機体と対峙していた。
続
(第四十三話・次元戦其之七)
異次元にある大木が次々倒れる。
おれは木を斬る斬る斬る。
「どこだ赤い機体!」
「さっきからここにいるぞ」
声はすぐ横でする。
そうか気付かなかった。
「死ね!」
ガギン!
紋章剣が空気を空間を真空と化す。
ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ!
紋章剣同士の押し合いになる。
ガイン!
一度離れる機体。
おれは一刀両断する。
それは木だった。
ちっ!
「まるでなってないな。
怒りで斬れるものなどなにもないに等しいというに」
ヨーステイアがそう言う。
余裕をっ!
「いまのおまえは戦う価値がないな。
おまえは無の手先。
消失の堕天使さえ歌わない希望。
自分の力量を推し量れ。
戦いに踊れ。
おまえは強い心。
それがおまえの本質だと思え」
おれの剣撃をすべてかわしながらそう言うヨーステイア。
おれはどうかしてるのか。
なぜ一撃も当たらない。
青い機体が震えた。
――生きているぞ。
「なんだって?」
――クリスという女は生きているぞ。
青い機体がそう言う。
「よかった。
いや、なぜそれを言わない」
――言うヒマがなかった。
「いや、助かった。
助かったよ」
おれは泣いていた。
とめどなく続く涙。
ザギン!
赤い機体が青い機体の腕を斬る。
おれはそれでもまだ泣いていた。
数分後、おれはヨーステイアに肩を借りて元の世界に戻って来ていた。
移動機体の中の休憩室までヨーステイアに連れられていた。
ヨーステイアがコーヒーをくれる。
「ありがとう」
コーヒーを飲みながら一息つく。
「おまえは強いヤツだ」
ヨーステイアもコーヒーを飲みながらそう言う。
「助かる」
「礼は無礼だと言うに。
おまえは充分戦っている。
それでこそ、もののふの鏡というもの。
生き残ることに意味を振るえ。
おまえなど考えるあしだと風になびけ。
存在は生にゆらぐ。
自分を誇れ。
逃げるな。
消えるな。
おまえに力を感じるぞ」
「それはどうも」
おれはまた戦場にいた。
まだ戦いは続いていたから。
「あら、こちらはどちらかしら」
ミッシェルが休憩室にいた。
ヨーステイアのことを言っているようだ。
「彼女はヨーステイア。姫様だ」
「あら姫様こんにちわ。
あたしは蝶の妖精ミッシェルよ」
「この世界では妖精が話しかけるのか」
「いや、その、まあそんなもんだ」
ヨーステイアは笑ってミッシェルと握手する。
「妖精とは縁起がいいな。
どうだ、私の世界に来れば好待遇しょう。
なにが欲しいかな。
歌か。
奇跡か。
それとも本質が欲しいのか」
ミッシェルが微妙な顔をする。
「あんた変な人と友達ね。
いえ、ほめているのよ。
そうよ。
いい人を紹介してくれたわね。
ありがと」
ヨーステイアが口を開く。
「なに、礼なら私にしろ。
こいつがここまでになったのは私の一部なればこそ。
私に感謝してくれていいぞ。
こいつを頼むぞ。
幸福の鳥よ。
この世に祝福あれ」
ひととき。
笑いが場となり。
苦しみを忘れ、ただ話しにふけった。
すでに外は夜。
クリスもこの空を見てるだろうか。
おれはコーヒーを一口すすった。
続
−設定−
ヴリューカー
一般戦艦機体。
六本の多脚戦艦。足の先にはビームキャタピラが付いている。ちょうど宇宙戦艦に足をつけた格好となる。空を飛ぶことも出来る。足はオプション扱いである。足を切り離して宇宙へと飛ぶことも出来る。ヴァリューは十二機搭載可能。ビームキャタピラによる地上最大速度は百二十キロ。一般的な戦艦機体である。
(第四十四話・ガゼット山)
「だからさ、言ったのさ」
おれはミッシェルに話しかける。
移動機体の機体整備ドームにおれはヴァリューの足にもたれかかりながらいた。
暗い倉庫のような中だが、ここは巨大アームチェンジの中なのだ。
整備ドームの中、ヴァリューの下だけライトに照らされている。
「本当なの?」
ミッシェルが笑う。
「本当さ。おれがうそ言ったことがあるかよ」
「あるある」
「それでさ」
「彼女は連れて来ないの?」
彼女?
「ヨーステイアのことか」
「そうそう、そんな名前だったわね」
「彼女はいま忙しくてな、そうそう逢えないんだ」
「あら、そのなんとかいう世界の姫様なんだったら、いつでも逢えるんじゃないのかしら」
「そうでもない。彼女なりに世界を見ているのさ」
「いい人よ。彼女は。大事にしなさい」
「ああ、そうだな。そうする」
「そしてあなた自身も大事にしてあげなさいな」
そう言ってミッシェルは笑う。
「ありがとう」
おれは感謝する。ミッシェルはうなずくとまた笑った。
女の声がする。
それはミッシェルではなかった。
「話してるとこ悪いけど、出動よ」
丸めがねにおさげにした赤い髪。しょうゆ顔のまだ幼さが残ったまなざし。おれの後輩にあたるレミーだ。彼女は機体学校の時から仲が良く、まるで妹のように、兄弟のような感じだ。かわいい顔とは裏腹に、結構規律には厳しいのだ。だからまあ、まるで家族のように口うるさくて困っている。それはまあ、ぜいたくな悩みなのは知っているが。おれにも自由があってしかるべきさ。
「兄さんとは呼ばないの」
ミッシェルがそう言う。ミッシェルとおれはいくつかの授業で同じクラスだった。レミーは学校でおれを兄さんと呼んでいたが、ここではおれは上官にあたる。
「ここは学校ではないのよ。ミッシェルだってそれは知ってるでしょう」
レミーが赤い顔をしながらそう言う。レミーのめがねがくもっている。レミーが怒るとめがねが必ず曇るのだ。その姿は錯覚でなくうさぎの耳がたれさがった小動物のように愛らしいのだ。この顔を見るために学校の時はよくレミーの怒ることを言ったものだ。レミーはその度に兄さんなんて呼ばないからと言って怒った。いまはもうレミーは兄さんとは呼んではくれなくなったが。まあ、大人になったってことだな。
「そうか、行こうかレミー」
おれはレミーの肩を叩く。
「行ってらっしゃい」
ミッシェルはそう言って送り出してくれた。隊長からの話しはガゼット山の頂上に七機
のヴァリューで上がり、山の頂上が戦略的に有効かどうか調べてくるという内容だった。各員はヴァリューに乗って出撃する。山道を鋼鉄の足が歩く。岩山に沿って急な道というか傾斜がある。それをヴァリューは上がっていく。こんなところでは剣での打ち込みひとつ、一苦労だな。だが頂上は見晴らしが良さそうだ。岩は鉄鉱山で硬い。歩くたびに金属音が二度響くのだ。まるで異次元でも歩いているようだ。空は青く澄んで雲ひとつない。これが行軍でなければ一杯いきたいところだ。
「だいじょうぶですか」
通信員のレミーが通信で聞いてくる。ディスプレイにはレミーの愛らしい姿がある。
「いまのところは問題ない。戻ったらコーヒーでも飲もう」
「通信でそんなこと言わないでください」
轟音が鳴り響いた。仲間の機体が撃たれる。さいわい軽微な損傷だ。どこから撃ってきているんだ。コンピューターが真上を指示する。拡大された映像にはスナイパー仕様のガストゥールが一機いる。他には見あたらない。一機といえど、頂上からの狙撃。こちらは足場が悪いのだ。不利と言えば不利と言えた。
「レミー、移動機体から援護射撃してくれ。こちらからでは角度的に狙いづらいんだ」
と、通信が途切れる。どうやら移動機体になにかあったようだ。その理由は解らないが。
ザギン!
仲間のヴァリューが仲間のヴァリューを二枚刃の実剣ヘイルストークで斬る。
なんだ。なにが起きたんだ。仲間を斬ったヴァリューがこちらに来る。おれもヘイルストークを抜刀すると敵? と化したヴァリューの腕を斬る。と、他のヴァリューも同士で攻撃している。なにが起きているんだ。これはいったいなんだ。敵の弾丸をかいくぐりながらもう一機のヴァリューの腕と足を斬る。
ザザ……
通信がつながる。画面にレミーがいた。レミーの後ろでは他の隊員が怒鳴っている。
「ウイルス攻撃よ」
レミーがそう言う。口早にレミーは続けて言う。
「ヴァリューから移動機体へさらにハッキングを受けたわ。それは駆除出来たけれど、ヴァリュー各機は敵の機体ウイルスに感染しているわ」
「なんだって。アームチェンジは独立システムだ。感染するルートなんてないぞ」
また仲間のヴァリューがガストゥールに狙撃される。損傷は軽微……そうか。
「銃弾だ」
「え?」
「銃弾にウイルス機体が仕組まれているんだ。それをあのガストゥールが打ち込んでいるんだ」
「でも、遅かったみたい」
レミーの声に辺りを見れば、味方の機体四機がおれのヴァリューを取り囲んでいる。おれは二刀流でヴァリュー四機に対峙する。できれば斬りたくない。青い機体のように上手くいくのか。四機は同時に剣を右手に取り、同時に剣をおれのヴァリューに投入する。それは機械プログラムによる無駄のない、一糸乱れぬ攻撃だった。それゆえに絶対の間合い。それゆえに個性無き無敵。それゆえに攻撃は意味を失う時。剣が舞った。
ギャリリリン!
四機の一斉の剣撃をおれはそれぞれ横に流す。四機はそれぞれ隣の機体の左肩に剣が刺さる。
ギンッ!
一機の腕と足を斬り、もう一機を山から蹴り落とす。転がっていくヴァリュー。残り二機。二機の前と後ろからの剣撃をヴァリューの体を横にしてぎりぎり交わす。胸の装甲がはじけ飛ぶ。火花が散り、機械のきしむ音が鳴り響く。機械プログラムは百パーセント間接を伸ばし使いきってしまい、一瞬動きが止まる。常に機体を全力制御出来てしまうプログラムならではの攻撃だった。おれはいまヴァリューを全力で動かす。おれは振り上げた足で二機の剣を足で大地に叩き落とす。二機のヴァリューの間接が吹き飛ぶ。機械プログラムは剣を必死に引き抜こうとしてる。そこまでだな。
ザギギン!
二機のヴァリューの腕と足を斬る。おれのヴァリューに斬られ倒れるヴァリューにガストゥールの銃弾が当たる。おれの機体を狙っているようだ。おれはヴァリューで駆け上がる。なんとか隠れられる岩に隠れる。岩壁の上にガストゥールがいる。だが、躍り出たところでウイルス機体の餌食だ。ウイルス機体は六十手甲弾仕様なので鉄の盾など意味はない。だが、待てよ? おれはヴァリューで躍り出る。ガストゥールが銃弾を撃つ。
カイン!
ウイルス機体、銃弾はヴァリューの剣ではじかれる。それは何度やっても同じことだった。おれはゆっくりとすり足でガストゥールに近づくと四度目の銃撃の次にはガストゥールの前にいた。ガストゥールは急いでビームスタットという粒子剣を引き抜く。ヴァリューの右の剣でビームスタットを受け止めると、左手の剣でガストゥールの足を斬る。もんどり打って転がり倒れるガストゥール。ガストゥールは推進器で飛び上がりながら腕に仕組まれたビームショットを打つ。剣でビームを弾きながらヴァリューも推進器全開で飛ぶ。おれは一気にガストゥールに近づく。
ザギン!
ガストゥールを一刀両断した。爆発がヴァリューを包む。
「兄さん!」
レミーが声をあげる。
煙が晴れると、ヴァリューがなんとか山の頂上に立っていた。装甲は解け落ちていたが。
おれはレミーに声をかける。
「呼んでくれたな」
「え?」
「兄さん、てさ」
「ばかっ!」
レミーは泣いていた。
帰投したおれは休憩室のイスに座る。
「どうやって銃弾を剣ではじいたの?」
ミッシェルがコーヒーをくれる。おれは一口飲んだ。
「なに、ヴァリューの中央コンピューターを狙ってくるのは解ってたから、ガストゥールとコンピューターの直線上に剣を置くように入力したのさ」
「さいですか」
「レミーには悪いことしたかな」
「まあね。でも、彼女は強い子よ。だから、あなたは支える必要はない。ただいてあげるだけでいいのよ。彼女が必要だと言うならいてあげればいい。それだけのこと。時間は無い。けれど、一瞬でも一生を凌駕する瞬間がある。それが愛なのよきっと。だからそれは言葉では伝えられないことなのかも知れない。あなたが存在を賭けているように、彼女も自分の本質を問うているのよ」
「そうだな。そう思うよ。おれはいい加減だな」
「そうでもないです」
その声はレミーだった。レミーが部屋に入って来る。
「もうあんな無理しないでください。もう心臓が止まりそうでした。私は鉄の心では出来ていません。心配はします。応援もします。でも、それ以上に安全を祈ります。戦いだから危険なのではありません。危険だから心は迷い争うのです。安全であればそれだけであたしは幸福です。結果よりも声を聞かせてください。もっと本質に触れていたいのです。だから無理をしないで」
「無理じゃない。戦いだ」
「同じことです。これからもあんな戦いかたをするなら」
「するなら?」
「兄さんなんて呼べません」
「ありがとう。またそう呼んでくれるんだなレミー」
「はい」
レミーのめがねが光る。レミーの目はうるうるとうるんでいた。かわいいというか、まるで子猫のようだ。まあ、レミーは童顔ということもあって、幼く接してしまったのかも知れない。もう彼女は大人だ。大人には大人の力がある。そう思う。これからはレミーを妹扱いではなく、もっとしっかりとした女性として考えなくてはいけないな。
「兄さん、元気でなによりです。元気であればまた次に備えることが出来ます。命が続けばそれは伝統となって人の本質と心をうるおしていきます。妹だから言うのではありません。同じ場にいるから言えることなのです。戦場で元気でいてくれることを願うことほど不幸はありません。でも、なにより命があることが愛が生き抜いた証なのです。これからも運命が兄さんを選びますように」
「ああ、そうだな。そうだな」
おれはレミーとミッシェルとしばらく話していた。
夜が訪れる。
それはまた新たな戦いのための彩りでもあった。
続
(第四十五話・ラグス宙域)
無限に広がる宇宙。そこを宇宙戦艦が飛ぶ。おれは戦艦内の自分の部屋で目を覚ます。眠い。目を覚ますために休憩室に行く。コーヒーを飲む。
「眠そうね」
ミッシェルがそう言う。
「まあね。なにせ昨日は待機だったから。眠くて仕方ない」
上手い。コーヒーはブラックに限る。
と、ミッシェルがおれのコーヒーにミルクを入れる。
「なにすんだ」
「ミルクは体にいいのよ」
「おれの舌は体よりも味が上位に位置するんでね」
「変わらないわね」
「まあな」
「結婚でもすれば変わるかも」
おれはコーヒーを吹き出す。
「変なこと言うな」
「そんな人もいないの」
いや、いる。でも。
「いまは、いないんだ」
おれは力無くそう言う。
ミッシェルがおれの背中を叩く。
「元気出しなさいよ。元気は幸福の始まりってね。愛はいつでも心を包む。あなたがそれを気づかないだけなのだから。もっと自分の心に目を向ける時よ」
「そうだな。そう思う」
レミーが休憩室に入って来る。
「敵機が発見されました」
「了解」
おれはヴァリューで宇宙に出る。二機の僚機と一緒だから、三機のヴァリューが出撃する。
「敵は一機です」
敵を補足する。敵にスタッシュショットという実弾銃で攻撃するが、避けられる。なにか変だ。もう一度ショットする。やはりかわす敵機。敵機の動きは、ヴァリューのコンピューターが予測計算出来ない動きをしている。信じられない加速をしている。宇宙でこの加速はあり得ないというほどの動きだ。三機のヴァリューは近づく。実剣を各機抜刀すると、斬りかかる。敵機は信じられない加速で避ける。敵機はまるで推進剤を発していない。その動きはまるで幽霊かなにかだ。
と、なにか小型機をふたつ射出する敵機。その小型機も推進剤を発していない。信じられない加速をしている。とてもじゃないが追いつけない。三方から一斉にビーム攻撃される。おれは瞬時にヴァリューの腕と足を防御姿勢に丸くなる。他の二体のヴァリューは爆沈する。おれは推進力全開で逃げる。
ガン!
おれのヴァリューがなにかにぶつかる。なんだこれは。それは黒いワイヤーだった。そうだったのか。敵機はワイヤーで周囲を囲い、ワイヤーで移動していたのだ。敵機がこちらに移動して来る。おれは実剣でワイヤーを斬るが、堅くて歯がたたない。宇宙では実剣
はいまいち瞬発力に欠ける。おれはビームソードを引き抜く。敵のチェーンガンがヴァリューのビームソードにヒットする。ビームソードは使えなくなる。おれはヴァリューにワイヤーを手でつかませると、推進剤全開で飛ぶ。ワイヤーを伝いながらヴァリューは高速移動する。この移動Gは懐かしさがあった。
それはおれが初めてヴァリューに乗った時のことだった。おれは教官からシステムの説明を受けていた。教官は言う。
「このシステムはアームチェンジには全搭載されている機能である。コクピットは球形になっていて、低温電磁力でコクピットは浮かんでいる。二重の真空フィールドによって、ほぼ完全にGはパイロットにかからないで高速に動けるんだ。コクピットはまるで宇宙に浮かぶ惑星のように浮いているのだ」
そうはいっても最初にはすごい圧力だった。あの時のGを思い出した。
ヴァリューはワイヤーを伝い高速移動する。宇宙では信じられない動きが可能になる。敵機が前にいる。ビームショットするがこれだけの高速移動だとコンピューターのロックオンが追いつけない。勘だ。勘で斬るしかない。
ガインガイン!
敵の小型機を実剣で斬る。敵機を追いつめる。敵機の剣とこちらの実剣があわさる。
ギン! ギン! ギン!
何度も剣が火花を散らす。まるで宇宙に花火が打ち上がったかのような光が何度も何度も生まれる。
ギンギンガギン!
敵の剣がヴァリューを捉えた。いや、それはワイヤーだった。おれはヴァリューをワイヤーの外に出していたのだ。おれはヴァリューの実剣で敵機に突きをうがつ。動きを停止する敵機。おれのヴァリューだけが残っていた。
おれは僚機の球形の脱出ポッドを回収すると帰還する。
「お帰りなさい」
ミッシェルとレミーが休憩室で出迎えてくれた。
「なにか飲みますか、兄さん」
「それじゃコーヒーを頼む」
レミーが入れたコーヒーにはミルクがたっぷりと入っている。
「うへえ、ミルクがたっぷりかい」
「健康にいいんですよ兄さん」
レミーとミッシェルが笑っている。
「降参するよ」
おれはミルク入りのコーヒーを飲む。まあ、これはこれでいいかも知れない。
「残さず飲むのよ」そう言ってミッシェルが笑う。
これ以降、コーヒーにミルクを入れる慣習がおれの願掛けになる。
「いい嫁さんになるよ」
レミーのめがねが曇る。
「そんなこと言う兄さん嫌いです」
おれとミッシェルは笑う。レミーもつられて笑った。
時間がゆっくりと過ぎていく。
おれは窓の外の宇宙を眺める。
「いい空だ」
「そうね」
ミッシェルもレミーもそう言って宇宙を見ていた。
宇宙は雄大にまた広がり続けていた。
続
−設定−
サウザルラッツ
宇宙特化機体。
ワイヤーを周囲に張り、クモのように移動する。
宇宙での高速移動を実現するための機体である。
小型機を操り、単体で基地などの守衛につく。
物資の移動にも活躍した。
(第四十六話・ダスターク平原)
おれはガストゥールと対峙している。
相手の動きは柔軟でまるでヴァリューの剣撃を受け流してしまう。
これだけの技量を持ったパイロットは初めてだ。
ガキキン!
相手の突きをかわしてこちらも打ち込むが、ガストゥールは盾でしのぐ。
少し離れ、しきり直す。
おれは興奮していた。
これだけの技量の相手と戦えるのに喜びさえ感じていた。
ヒュゥウウウウ ガキン!
流れ弾にガストゥールが当たる。
行動を止めるガストゥール。
コクピットが開き、白い髪に白い髭(ひげ)の老兵士が顔を出す。
おれはヴァリューの手を差し出す。
ヴァリューの手の上に乗る老兵士。
被弾したガストゥールから離れる。
ヴァリューの後方で被弾したガストゥールが爆発する。
危機一髪を逃れた老兵士はヴァリューに向かって手を振っている。
おれはそのまま帰投する。
老兵士は捕虜として連行する。
無機質な移動機体の中の廊下を歩く。
「若いのに凄腕だな」
老兵士がそう言う。
「あなたほどではありませんよ」と答える。
「謙遜するな。まるで伝説の青い機体と戦っているかのような強さだった」
そう言って老兵士は笑う。
おれは笑えなかった。
この老兵士は腕だけでなく、勘もいいと思った。
「あらご帰還だったのかしら」
ミッシェルが歩いて来る。
「一緒にコーヒーといきましょう」
ミッシェルはそう言う。
「ああ、それじゃあ捕虜を独房に入れたらそうしょう」
「あら、そのおじいさんも一緒でいいじゃないの」
「へ? いや、それはまずいだろう」
「なんで、コーヒーは多くの人と飲んだほうがいいのよ。それともあたしのお願いでもだめかなあ」
ミッシェルの目がうるうるしている。
こういう目にはなにも言えなくなる。
「解った。一緒に飲もう」
休憩室で老兵士とミッシェルとコーヒーを飲む。
「それでどちらの出身ですか」
ミッシェルが老兵士に聞く。
「ロドリアルの出身でね」
「あーあそこはりんごがうまいのよね。今度案内してくださいな」
「私は敵軍の兵士だぞ」
「敵だと案内してくださらないんですか?」
ミッシェルは真顔だ。
しばらく唖然とする老兵士。
ミッシェルはコーヒーのおかわりを入れに席を離れる。
「変わった娘だな」
「まあ、いつもあんなもんなんですよ」
おれは苦笑する。
「いい娘だ。大事にしてあげなさい」
「はい」老兵士の言葉におれはうなずく。
「なになに、なにを話しているの」
「ミッシェルはかわいいって話しさ」
おれの言葉に赤くなるミッシェル。
「そんなほんとのこと言ってもなにもでないよ」
ミッシェルはそう言いながらポケットからお菓子を取り出す。
老兵士とおれにお菓子を振る舞う。
「もっとコーヒーいかかですか」
ミッシェルが老兵士に聞く。
「いや、もういいよ。わしにはきみくらいの孫がいてな、しばらく会っていないが、なんだか孫と話しているような気分だ。実に愉快だよ」
「そうですか。それじゃいまだけでもおじいちゃんとお呼びしますよ」
「それはうれしいな」
えへへと照れ笑いするミッシェル。
「なにしてるんですか兄さん!」
そこにレミーがいた。
「どこの世界に捕虜となごんでコーヒー飲んでる兵士がいるんです! 上官に知れたら軍罰ものですよ!」
「すまんすまん」
おれは老兵士を連れていく。
「またね、おじいちゃん!」
ミッシェルの言葉に「まただな」老兵士は答えた。
数日はなにごともなく過ぎた。
おれは警報に起こされる。
「どうしたレミー!」
「脱走よ。あなたが連行した敵軍兵士が逃げたわ。ヴァリューを奪っていま味方のヴァリューと交戦中よ」
おれは倉庫に行くとヴァリューに飛び乗る。
移動機体から出ると味方のヴァリュー三機が老兵士のヴァリューと対峙している。
ザギギギン!
一瞬で老兵士のヴァリューは三機のヴァリューを行動不能にする。
すごい腕だ。
老兵士は逃げるでもなく、そこに立ちすくんでいる。
おれはヴァリューを老兵士のヴァリューの前まで動かす。
老兵士のヴァリューは微動だにしない。
向こうのヴァリューに火気は無い。
それで三機のヴァリューを行動不能にするなんて、どんな腕なのだろう。
アームチェンジの能力を百二十パーセント出しきっている。
こんな相手に勝てるだろうか。
おれは臆する。
胸がどきどきする。
落ち着け、自分。
自分の力を十全に出すんだ。
いつも通りでいい。
おれは深呼吸ひとつする。
よし、行くぞ。
おれはビームショットする。
老兵士のヴァリューは地の砂を蹴る。
舞った砂がビームの威力を落とす。
そのまま正面から威力の落ちたビームを装甲で受けつつ突進して来る。
体当たりに吹っ飛ぶおれのヴァリュー。
ビームガンを落とす。
老兵士はそこで攻撃をやめる。
絶好のチャンスであったのに。
おれはなんとか立ち上がる。
スラディーンという十字湾曲の実剣で構える。
向こうもスラディーンを構える。
ギギギン!
何度か組み合う。
相手の技量はこちらよりも上に思える。
相手の猛手を受け流すので精一杯だ。
お互い突きを放つ。
剣先が触れ、両剣は急所を外れ、双方の左腕を落とす。
老兵士のヴァリューは煙幕弾を発射する。
煙幕には磁気チャフも含まれており、視界だけでなく、レーダーも効かなくなる。
まったくなにも見えないというのに、相手のスラディーンがこちらのヴァリューの装甲を何度も削る。
常にランダムに移動しているのに、なぜこちらの動きが解るんだ。
おれは思いきってコクピットの扉を開く。
煙が入って来る。
なにかが煙に混じってかかる。
これは砂か?
どうやら砂を舞い上がらせ、その当たる音でこちらの場所を特定していたようだ。
だが、それならこちらも音源をオンにすれば相手の場所が解る。
後ろから迫る老兵士のヴァリューを察知する。
ザギン!
おれは老兵士のヴァリューを一刀両断する。
水素炉は外したのか、ヴァリューは爆発しないで立っている。
「やるものだ」
通信機から老兵士の声が聞こえる。
「さっき私のヴァリューを仕留めるチャンスがあったのに、なぜとどめをささなかったのですか」
「ミッシェルとか言ったかな。あの娘が悲しむと思って、な」
老兵士はそう言う。
「投降してください。身の安全は保証します」
「そうか。そうだな。動けないんだ。ハッチも開かない、助けてもらえるかな」
おれは老兵士のヴァリューに近づく。
「老兵は死なず、ただ消えるのみと言うけれど、なあ、それはその通りじゃないかと私は思うんだよ」
老兵のヴァリューが爆発した。近づいていたおれのヴァリューは行動不能になる。
なんだ、なにがどうしたんだ。
おれは数分後に救出された。
後で知ったことだが、老兵は他の捕虜が逃げるために囮(おとり)になったのだそうだ。
おれは休憩室でコーヒーを飲む。今日のコーヒーはやけに苦い味がした。
「お疲れ様」
ミッシェルが笑う。
「ああ、そう、そうだな」
おれはミッシェルになんと言っていいか解らなかった。
「あなたが無事でなによりです」
「そうか。おれはきみの期待にはそえなかった」
おれはうなだれてそう言う。
「あなたが生きていることが私の期待であり、希望なのです。いまあなたがいる。それだけで十分です」
「そうか。ありがとう」
おれとミッシェルは夜遅くまで話していた。
夜はまた次の朝を連れて来る。
それは新たな戦いの朝でもあった。
続
(第四十七話・ダスターラ山)
「新人のラリュッセル二空兵士だ」
隊長が女性を紹介する。
端正な背中まであるストレートの赤髪。
彫りの深い顔。
蒼い瞳。
赤い唇。
年は二十歳ということだ。
外見は美人だが、なにか愛嬌のある感じの女性だった。
「面倒見てやってくれ」
おれが面倒を見ることになる。
おれは休憩室を案内がてらコーヒーで一服する。
「いままでどこの隊にいたんだ」
おれはラリュッセルに聞く。
「第二北欧甲隊です」
「確かあそこの部隊は全滅したって聞いたが」
「それは噂ですよ」
「そうか。ここでの生活は他と変わりない。あるとすればここには鬼のような整備兵のミッシェルという奴がいててててて!」
ミッシェルがおれの口を引っ張っている。
「あらかわいい子じゃないの。新人が入ったっていうから、どんな子かと思ったら。あたしのことはミッシェルお姉さんと呼びなさい」
「お、お姉さん」
ラリュッセルは驚いた顔のまま言う。
「よろしい。ここのことはなんでも聞いてちょうだい。誰かさんの言うことは聞く耳持っちゃだめだからね」
「はあ」
まったくミッシェルには叶わない。
「パイロットとしての軍務経験はどれくらいだい」
「二年です。実戦は一度だけですが」
「それじゃまだまだひよっ子だな。まあ実戦で覚えるのが一番。教えることはないかな。そう、あるとすれば必ず帰還すること、かな」
「解りました」
そう言ってラリュッセルは敬礼する。
ずいぶん真面目な印象を受ける。
長い戦いで新人を見るのももう慣れてしまった。
「ほんとに帰ってくるのが大切よ」
ミッシェルがそう言う。
「そうですね。でも、戦うからには命がけですから。それは兵士になった時に覚悟は出来ています」
訂正しょう。ラリュッセルは相当に真面目な奴だ。
「兄さん、ここにいたんですか」
レミーが休憩室に入って来る。
「あら、これが新人さんのラリュッセルさんかしら。よろしく、レミーです。通信員です」
「よろしく。あなたががみがみさんですか」
「誰がそんなことを……兄さん!」
おれは逃げようとしてるところを猫のようにレミーに捕まる。
「そんなことを言う口はこれですかこれですかこれですか!」
「いでででで」
レミーに口を引っ張られる。
「なにか用があったんじゃないの、レミー」
「そうです。兄さんとラリュッセルさんに偵察の任務があります」
「そうか、行くかラリュッセル」
「はい、先輩」
おれとラリュッセルは任務を聞くと倉庫に行き、ヴァリューにそれぞれ搭乗する。
「ラリュッセル。ヴァリューのエンジンの温暖化は解るな」
「解ります」
おれとラリュッセルのヴァリューは移動機体から出動する。
ラリュッセルの操縦技術は危なげなく、ずいぶん練習したのだろうことが散見された。
「この先に山があるから、その先を偵察するのが任務だ」
「解ります」
二機のヴァリューは山を飛び越える。
なにもない平原が山の向こうに続く。
ガガガガガガガ……! ヒュンヒュンヒュン。
実弾がヴァリューを狙って放たれる。
コンピューターは後方の山からの攻撃だと指摘する。
「行くぞラリュッセル!」
「はい!」
二機のヴァリューは岩山に近づく。
急な斜面に五機のガストゥールがチェーンガンを乱射している。
こちらも小型のロケット砲で反撃する。
ロケットを撃ち尽くすと、小型の無反動粒子砲に持ち替え、撃つ。
一機のガストゥールの腕が吹っ飛ぶ。
そのまま動かないガストゥール。
残り四機。
ガストゥールの前に着地すると、ストークという実剣を抜きざま一機を一刀両断する。
ガストゥールが実剣を振り上げる。
その斬撃をなんとか受け止める。体勢が悪い。これはまずい。
ザギン!
ラリュッセルのヴァリューがガストゥールを一刀両断される。
見れば他の二機も倒されている。
「この一瞬で三機を倒したのか?」
「はい」
「凄い腕前だ。確かまだ実戦経験は一度だったよな」
「そう、ですが」
ガストゥールが山の陰からさらに三機現れる。
ガストゥールの剣撃がおれのヴァリューに迫る。
「危ない!」
ラリュッセルのヴァリューがおれをかばい、ガストゥールに一刀両断される。
ラリュッセルのヴァリューは爆発する。
「ラリュッセル!」
おれは三機のガストゥールに突っ込む。
相手の実剣をこちらの実剣で突きからめながら、ガストゥールの制御水素炉をつらぬく。
ガストゥールが爆発する前に残り二体のガストゥールの前に出る。
しゃがんで二体の剣撃をかわすと、下から二体のガストゥールを上に一刀両断する。
「せ……んぱ、い」
ラリュッセルの声がする。
「生きてたか!」
おれはヴァリューで慎重に残骸をどかす。
そこには半身から機械が見えるラリュッセルがいた。
「私は死なないのです。元々魂無き機械ですから。私はまた別の隊に修理されて投入されます。私という、機械を使ってまで、軍は戦争を続けたいのですから」
おれはなにも言えず、立ちすくんでいた。
「私たちに墓はありません。戦場こそが私たちの墓だからです。でも、忘れないでください。私のことを。そして、これから投入される私たちのことを。哀れみをください。私たちに愛を分け与えてください。そしてまた一緒に戦いに出撃しましょう。私たちはどこにでもいるのですから。戦いしか知らない私たちのために祈ってください。神さえ知らない私たちがこれからも生きて、そしていつか祝福されるまで、力を貸してください。ただ、それだけが心残りなのですから」
おれは沈黙するしかなかった。
それから数日後。
ラリュッセルは別の部隊に配属になったと、風の噂に聞いた。
「どうしたの。暗い顔して」
ミッシェルがそう言って笑う。
「なんのためにおれたちは戦うんだろうか。ラリュッセルはいつか幸福になれるだろうか」
「なれるわよ」
ミッシェルはこともなげに言う。
「言葉ではなんとでも言えるさ」
「あなたには聞こえないの?」
「なにが?」
「彼女たちの笑顔が」
そう言ってミッシェルはコーヒーを飲んでいる。
おれもコーヒーを飲む。
苦い味がした。
「そうだな。そう思うようにするよ。時間はかかると思うが」
「それでいいのよ。あなたは他人のために幸福になるのでなくて、自分のための人生なのだから」
「ありがとう」
夜は更けていく。
まだ戦いは続いていた。
続
なかがき
私が初めて作品を作ったのは小学校六年の時で、「みきおとミキオ」いや「ミキオとみきお」だったかな、という藤子ランド作品だったかなの設定そのままにパクッて話しを一話分作ったのが初めてでした。中学に入ってからはアイディアノートをつけ始め、「激戦記アースト」という作品がノートには残っています。イギリス軍の空軍兵士が異次元に飛ばされ、巨大ロボットに乗って五大国の中で戦うという話しでした。中学時代はアイディアノートだけ作っていて、作品として形になったものはありません。小学、中学校時代はバドミントンをしていたため、以外とスポーツ人間でした。高校に入り、自分の作品を漫画にしょうと思い、美術部(内容は漫画部)に入りました。三年間漫画を勉強しました。高校三年だか二年の終わり頃には父からワープロをもらい、設定集をそれで作っていたのが高じて、小説を書くようになりました。高校三年の頃は部活の同人誌にレクスオウという小説を書いています(ファンタジーのページにあります)。自分としては漫画家になるか小説家になるか考える日々が続いていきます。インクを使うペンとカラーがプロのレベルには届かず、アニメーターは鉛筆だけでもある程度はなんとかなると思い、アニメーター専門学校に行きました。まあ絵はあまりものにはなりませんでした。私の作品の作り方がアイディアとかネタに力を入れるのは、どんなことがあってもそれだけは変わらず自分の中にあったからかも知れません。今回のヴァリューの話しは高校生になって始めて部活の同人誌に書いた漫画のネタであり、その後短編小説としても書きました(ワープロデータなのでちょっと探したり読み出すのが大変なのでいまはここにありませんが)。まあ、戦っていたのは実はロボットであったという内容なのですが、やはり最初に形になった作品だけに思い入れがあります。最初はこの作品は単品にするつもりだったのですが、一度短編小説として書いているので、ヴァリューというロボット物にしてみようと思いました。この第四十七話は高橋美佳子さんにあげます。これからも読んでいただけたらうれしく思います。では。
(第四十八話・時間障壁)
「このコーヒーは?」
「さっき補給された備品よ」
ミッシェルはそう言う。
「いい味だ」
「もう夜遅いわね」
「そうだな。もう寝よう」
おれは自分の部屋で眠った。
目を覚ますとおれは休憩室でおれのカップにはコーヒーがある。
「このコーヒーは?」
「さっき補給された備品よ」
ミッシェルはそう言う。
「いい味だ」
「もう夜遅いわね」
「そうだな。もう寝よう……?」
「どうしたの」
「なんかこの会話、前にもしなかったか?」
「さあ、覚えてないなあ。初めてよ。うんうん」
ミッシェルはそう言いながらうなずく。
「そうかそうだよな」
おれは自分の部屋で眠る。
朝起きるとまた休憩室にいる。
「このコーヒーは……補給された備品か?」
「そうよ。よく知ってるわね。驚かせてあげようと思ったのに」
「なんだ?」
「どうしたの?」とミッシェル。
「なにが起きてるんだ?」
「兄さん!」
休憩室にレミーが入ってくる。
「未確認機体です」
「それはいい展開だ」
「なに言ってるの兄さん」
「いや、なにか同じことを繰り返してるよりは、な」
「ばか言ってないで出撃してください!」
「オーケイ」
なにが起きてるのか解らない。
だが、戦いならば答えを出してくれる。
そんな気がしていた。
「出撃する」
カタパルトからヴァリューが出撃する。
下は土の大地が続いている。
おれは大地に降りる。
足裏に設置されたシューターダッシュで大地を水平移動する。
目の前から二機のガストゥールがシューターダッシュして来る。
ガキン!
おれはヴァリューにすべらかなナックルをセットする。
敵のガストゥールも尖(とが)ったナックルをセットする。
ガガキン!
ヴァリューとガストゥールのお互いのナックルパワーショットパンチがクロスカウンターする。
よろける二機。
おれはすぐにもう一方の腕のナックルパワーショットパンチを放つ。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ヴァリューは一発二発三発と無数にナックルショットを連打する。
装甲がへこみ、倒れるガストゥール。
もう一機のガストゥールがナックルパンチを放つ。
おれも放つ。
ナックルパワーショットパンチ同士が正面でぶつかる。
ナックルパンチ同士が何度もぶつかり合う。
バキン!
ガストゥールのナックルが吹っ飛んだ。
おれはナックルショットパンチを打ち込む。
装甲がへこみ、倒れるガストゥール。
空に移動する点がある。
敵なのか。
おれはヴァリューを空に飛ばす。
夜の空を滑空するおれのヴァリュー。
「なんだ?」
ディスプレイにはなにかオーロラのようなものが映っている。
「ここいら辺はオーロラが出るのか?」
戦艦から応答が無い。
雑音しか聞こえない。
なんだ一体。なんだっていうんだ。
ピピピピピ
敵機を補足する。
敵は一機だ。
白い美しい流線のライン。
見たことのない機体だ。
どうやら敵の新型らしい。
「もう仲間は倒した。引き返せ!」
応答は女性の声だった。
「お前は……蒼い機体のパイロットか」
「クリス? クリスなのか」
「だとしたらなんだ」
「戦いなどしないで話したい」
「おまえが、この状況でそんな戯言(たわごと)が通る道理がどこにある。おまえが倒してきた者にもそう言えるのか! それが兵士が戦場で言うことか。戦え! 死ぬまで戦うのが筋だろう」
「そんなことはない。まだ二人は生きているじゃないか」
「ならばいま殺してやる。それでこその戦争だ」
「よせ、クリス!」
クリスの機体が消えた。
目の錯覚?
いや、計器もそう示している。
これはどうしたことだ。
「クリスどこだ。だいじょうぶか!」
応答は無い。
「どこだクリス」
ピーッ
ヴァリューのすぐ後ろに機体反応がある。
おれはとっさにクリスの剣撃をかわす。
それは戦いの本能だった。
それでも左腕が斬られる。
「よせクリス!」
「まだ言うか。戦いのためにいるのだろうに!」
クリスの機体がまた消えた。
なんだ?
そんな姿を消す機能があるのか?
ここにいてはまずい。
移動しなければ。
おれはヴァリューをめくらめっぽうに飛ばす。
ガキン!
なにかにヴァリューがぶつかる。
視界が変わる。
虹だけの世界。
これはどこだ?
まるで色彩の海に落ちたかのようだ。
目の前からクリスの機体が飛んで来る。
ヴァリューとぶつかった。
クリスの実剣がおれのヴァリューの制御水素炉をつらぬいた。
二体のアームチェンジは爆発した。
「きれいな空だね」
おれの横でクリスがそう言う。
二人は高校生だった。
草の土手の上で夜空を見上げていた。
「そうだな」
おれたちは幼なじみだった。
「あの空を飛んでみたい」
クリスがそう言う。
「そうだな」
おれは飛んだことがあると思った。
そうそれはなにか巨大ロボットで……だったような。
「その時は一緒よ」
「おう」
二人はいつまでも夜空を見上げていた。
クリスは大学を卒業すると商社に入社した。
おれはバイトをしながら自分のしたいことを探していた。
「なにか定職につきなさいな」
クリスはそう言う。
喫茶店に二人はいた。
「まだなにがしたいか解らないんだ」
おれはそう言った。
「それでもなにか定職について考えなさいよ」
「それはめんどいな」
「それじゃ将来が心配よ。あたしはあなたを養うことになるっていうの」
「養ってくれるのか」
「そんなのカッコ悪い」
「そうか。そうだな」
「そうよ。働きなさい。一緒に生きていくのにお金は大切よ」
「そうか」
「そうよ」
おれとクリスはつきあいだす。
そう。
それでいいのだ。
つまらない人生もまた楽しくなるかも知れない。
夜の祭りにクリスと歩く。
クリスは深い蒼に星の花が数多く咲く浴衣を着ている。
「あんず飴がいいのよ」
クリスはそう言うとあんず飴を食べている。
「結婚するか」
「え?」
クリスはあんぐりと口を開けている。
「なによいきなり」
「いきなりじゃいけないのか」
「いいけど……後悔しないでよ」
「まあ、それもいいさ」
「まるで後悔するように言うな!」
「そうだな。それじゃオーケイだな」
「まあ、ね。いいわよ」
クリスとおれは一緒に暮らし始める。
「子供は何人欲しい」
「そうねえ」
狭い我が家でおれはそう言う。
「どうしたの兄さん!」
テレビから女性の声がする。
電源が消れているのに声が?
それも聞いたことのある声だ。
「なにがあったの兄さん!」
なんだ。
おれには妹はいないぞ。
「このテレビ故障してるのか?」
「ああ、そうだ。忘れていた」
クリスがそう言う。
「なにをだ」
「あたしは兵士だったのよ」
「なに言ってる。おまえは商社勤務だろ」
「あたしは、あなたの敵」
「? どこかで聞いた言葉だ。でもそれは……」
おれは? 誰だっけ?
「あなたは、そう敵だった」
部屋の明かりが消える。
真っ暗闇の中、足場が消える。
浮遊感。
「おい、冗談はよせよクリス。おれたちは……」
おれたちは戦って、いた?
そんなはずはない。
おれとクリスは結婚して夫婦で……。
あれ?
それはなんだったのか。
クリスはパイロットスーツに身を包んでいる。
おれは? おれもそうだ。
おれはクリスと戦っていた?
そう、戦って確かおれのヴァリューが爆発して……。
――だいじょうぶか。
おれは蒼い機体の中にいた。
「どうしておれは……」
――クリスという者の機体は次元を操作する機能があった。
「?」
――自在に次元を移動できる次元機体だったのだ。
「それで消えたりしてたのか。でも次元機体というと、蒼い機体と同じか?」
――それは移動能力だけを言えば、そうだが、それも稚拙なものだ。
「だが、おれはもうひとつの人生を生きていた」
――二体のアームチェンジが次元移動中の水素炉の爆発に、二人は新しい人生を生きた。それは本当のもうひとつの人生だった。
「そうか。おれはクリスともう一度新しい人生を……クリス?」
――楽しい人生だったと言っていた。
「おい、クリスはどこだ」
――彼女はもういない。
「そんなことがあるか!」
――現実だ。
「そんなばかな。そんなばかな」
おれは蒼い機体に地面に降ろされた。
「おれは一体なにを……」
「兄さん!」
飛空挺に乗ってレミーが降りて来る。
おれはなにも言わずただ立っていた。
続
(第四十九話・次元戦其之八)
蒼い機体におれは次元にいた。
「戦いだ」
そうだ。戦いこそが残されたおれの生き甲斐。
――敵の気配がない。人がいるな。
おれは蒼い機体から降りると、池の近くまで行く。
空は精霊の光りが舞っている。
空は蒼と白のストライプ。
不思議な世界が広がっている。
池の畔(ほとり)に女性が座っていた。
色彩豊かな体にぴったりのスーツを着てる。
腰まである茶色の髪。端正な顔立ち。
スポーツ選手のような鍛えられた体。
それに不似合いな大きな胸。
目はブルー。
空の色だ。
「あんた誰だい」
「それになにか意味があるのか」
女性はそう言う。
「ある」
「そうか。私はスターシア」
「ここでなにをしているんだ」
「池を見ている」
「そうか」
なんとなくおれも池を見る。
ただよう波。
白い湖面はなにもかも包み込む。
「おまえはなぜ戦うのだ」
スターシアはそう言う。
「おれは……解らない」
「人は雲だ」
「え?」
「人は生まれた時から自由なのだ」
「そうか」
おれはなんとなく納得してしまう。
「世界は滅びようとしている」
「は?」
「だから神々は英雄を必要として戦いにおもむく」
「スターシアも英雄なのか」
「そうだ」
湖から銀色の機体が出現する。
「さて、戦おうじゃないか。蒼い機体の英雄よ」
「そうか。いいだろう」
おれは蒼い機体に搭乗する。
「蒼い機体の英雄よ、破壊を歌え。死神と踊れ。戦いの序曲を聞け」
おれは紋章剣という芸術的造形を持つ実剣を構える。
銀色の機体を斬る。
銀色の機体は二体に分裂する。
「なんだ?」
もう一度斬る。
また分裂する銀色の機体。
四機の銀色の機体に囲まれる。
「分身ではない。すべてが実体だ。さてどうする蒼い機体の英雄よ」
「まだ負けたわけではない」
とはいっても手も足も出ない。
銀色の機体の斬撃が蒼い機体をぼろぼろにしていく。
よけるので精一杯だ。
反撃どころではない。
「私は倒さないと気がすまないのだな。逃がさん」
スターシアは本気に思えた。
バシン!
なにかの光に銀色の機体は消えていく。
銀色の機体は一体だけになる。
「なんだ?」
緑の機体がいた。
「今日はここまでだな」
銀色の機体は立ち去る。
「助かったよ」
「良かった……」
「その声は? クリス……なのか」
「……」
「どうしてきみが英雄に……」
「助けられたのだ」
「じゃあ一緒に帰ろう」
「それはできない」
「なぜ」
「おまえに合わせる顔がない」
「そんなことはどうでもいい」
「私は恥ずかしいのだ」
「なにを恥じる」
「戦いに溺れ、大事な心を忘れていた」
「それならこれから取り戻せばいい」
「そううまくはいかない」
「これから積み重ねていけばいい」
「でも、やはりできない。私はだめなのだ」
そう言うと緑の機体は消える。
「クリスーッ!」
おれの咆吼は異次元に児玉した。
異次元の日が暮れる。
おれはまた元の世界に帰った。
少しの希望が夜の眠りを彩っていた。
続
(第五十話・残骸砂丘)
「噂?」
「そうなのよ」
ミッシェルは休憩室でそう言う。
「この前の両軍一千機にもおよぶアームチェンジの戦いで、全機が大破したとか。それがたった一機のアームチェンジがしたというのよ」
「青い機体ではないのか」
「それがただのアームチェンジ一機で倒したっていうのよ」
「まさか、あり得ないことだ」
おれはくすりと笑う。
「そんなこと言ったら伝説の青い機体だってあり得ないじゃないの」
「あれはあり得るんだよ」
おれはコーヒーを飲みながらそう言う。
「それはずいぶん説得力あるじゃない。青い機体のパイロットを知ってるかのように言うわね」
「いや、あくまで一般論さ」
おれはちょっとどきどきでコーヒーを飲む。
「怪しいわね。なにか隠してるんじゃないの」
「なにを隠すって言うんだ。それともおれが青い機体のパイロットだとでも言うのかい」
「………………」
ミッシェルは沈黙する。
なにかを考えているようだ。
まずいことを言っただろうか。
沈黙は次の声で破られた。
「兄さん出撃命令です!」
「そうか。じゃあミッシェル。この話しはまた今度、な」
「御武運を」
「ああ、ありがとうミッシェル」
おれはパイロットスーツに着替えると、ヴァリューに乗り込む。
「それでどこへ行けばいいんだ」
「両軍のアームチェンジが破壊された場所でなにがあったか調査することです」
「例の一機で一千機を破壊したというあれか?」
「それもふくめての調査です」
「了解」
おれはヴァリューで出る。
前方には白い山脈が続いている。
山を越えると緑の葉が視界を埋める。
緑の葉の風を越えるとそこはアームチェンジの残骸が地平線まで続いていた。
おれはヴァリューを飛ばす。
いけどもいけどもアームチェンジの残骸だけが続いている。
これはなにが起きたというのか。
両軍の 相打ちだろうか。
「兄さん、一機だけ稼働しているアームチェンジがいます」
「地図に出してくれ」
おれはそこへ飛ぶ。
そこは残骸の砂丘とも言う場所だった。
丘の上に一機のヴァリューが立っている。
いや、正確にはかなり改造されているヴァリューだ。
「レミー、あの機体が友軍のものか調べてみてくれ」
「わかりました」
おれは改造ヴァリューの前方に着地する。
じゅうぶん注意しながらおれは改造ヴァリューに呼びかける。
「ここでなにをしているのですか」
「考えていた」
低い男の声が響く。
「? なにをですか」
「人類はどこへいくのか。人が生きているならば、それは歌の残骸。昨日から続く矛盾は誰のものかね。過去に縛られた命など、なんの意味があるだろうか。破壊しなさい。憎みなさい。きみの行動が歴史という名の重力を紡ぐ希望。破壊などなんの意味があるだろう。歌え、踊れ。自分の人生に意味を問え。昨日の涙を海にするまで、歩くのだ。きみはいい出会いを持っている。その人達を大事にして生きていくがいい。それが幸福ということだ。若いとは力。若者よ普遍と踊れ。破壊の知識と欲望に歌え」
「そ……うですか」
この男とは話しが通じない。
話しはできないのか。
これは戦うしかないか。
おれは無意識に銃を操作するための操縦ボールリングをつかむ。
「やめておけ。おまえの戦いなど意味はない」
「あなたの所属を明らかにしてください」
「私はどこにも所属していない」
「ならば武装解除してください」
「断る」
「あなたのヴァリューを拘束します」
おれは改造ヴァリューの足を狙って連装実弾ショットヴィスを撃つ。
スタタン!
改造ヴァリューは易々とおれの攻撃をかわす。
それならば。
おれはレックスソードという牙のような実剣を構える。
ローラーダッシュで一気に距離を詰める。
向こうもローラーダッシュで移動する。
おれは速度に乗せ、レックスソードで攻撃する。
ガギギギン!
軽々と向こうも実剣で受け止める。
おれは連続で攻撃する。
それをすべて受け流す改造ヴァリュー。
まるでこちらの攻撃が解るようだ。
おれはレックスソードを振る。
かわす改造ヴァリュー。
だが、改造ヴァリューが避けるのは計算ずみだ。
おれはもう一方の手でショットパンチする。
ガイン!
ショットパンチがヒットする。
改造ヴァリューは後ろに飛んでショットパンチの威力を軽減する。
それから連続して実剣とショットパンチを放つがことごとくかわされる。
これはどうしたことだ。
まるで自分の影とでも戦っているような感じだ。
布のように感触のない相手と戦っているかのようだ。
「きみは実に兵士として戦士として正しい人だ」
改造ヴァリューのパイロットはそう言う。
余裕を。
ローラーダッシュで移動する二機。
おれはさらに攻撃する。
が、すべてかわされる。
ガガン!
こちらと向こうのショットパンチ同士がぶつかり、はじける二機。
おれはそのいきおいを利用して、実剣を下から振り上げる。
ガギギン!
改造ヴァリューは足裏のローラーホイールでおれの剣を受け止め、ローラーを全開に回転させて剣をホイールで叩き折る。
なんて動きだ。
どんな力がこんな攻撃を可能にするのだろう。
「きみの戦いは実に正しい。自分の信じた道をいきなさい」
「なにを言っている!」
ガイン!
一撃。
一撃の敵のショットパンチにおれは、ヴァリューは吹っ飛ぶ。
視界が暗転する。
なにもない闇が心を占める。
「あんたは失敗ばかりだね」
母はそう言って私の将来を心配した。
「自分の道を歩く勇気がおまえを強くする」
父はそう言って私に人生を諭(さと)した。
父も母も嫌いではなかった。
ただ私はなにをしたらいいのか、夢はなにか見つからなかったのだ。
「だから兵士になったの?」
ワンピースに麦わら帽子の少女はそう言う。
違う。
おれは自由になりたい。
そして。
これは生きるためだ。
「それで誰が生きれるというの?」
少女がさらに聞く。
みんなが生きられる。
「破壊ではなく、創造をください」少女がおれに手をさしのべる。
それはわからない。ただ自分なりの現実への戦いをするだけだ。
少女は大人の女性に成長する。
それはまるで美の女神。
「戦いの果てを見なさい。いまが人の限界だと認めなさい。戦いに夢があるならば、それを叶えるのが兵士の努めと知りなさい。昨日より人が死んでいく。あなたは生きている。それは死んだ人の意志。その命を時代に捧げなさい。あなたの力が時代の呼吸なのだから。信じた時代は変わります。あなたが残す思いを次世代に伝えなさい。あなたが生きた証としてその願いを私は抱きしめていますから。自分を愛して仲間を助けなさい」
そう、それは正しいに違いない。そうしょう。約束する。
「さん!」
誰だ? おれを呼ぶのは。
「兄さん!」
ああ、レミーか。
「なにか悩みはないかレミー。話しを聞こう」
「寝ぼけないでください! まだ戦闘中ですよ」
う……ん?
「レミー。おれはどれくらい意識を失っていた」
「五分ほどです」
おれは計器に目を走らせる。
ヴァリューに損害はない。
改造ヴァリューは残骸の丘に座って動かない。
「五分も? なぜ改造ヴァリューは攻撃してこない」
「わからない。それよりもその機体の正体がわかったわ」
「なんだ」
「あれはラッセル博士が我が軍で開発した機体よ」
「それがどうしてこんなことしてる」
「ラッセル博士は相手の攻撃を予測するプログラム、クライスラーシステムですべての攻撃を、あらゆる攻撃を予測する機体を開発したそうよ」
「それで攻撃がすべてかわされていたのか」
「博士の起案は軍部で何度も論議を呼んだ後で、正式に却下されているわ」
「それでここでその威力を見せつけているってわけか」
「そう考えるとつじつまがあうわね」
おれはヴァリューを立ち上がらせる。
「どうするの兄さん。相手は一千機を倒したかも知れない機体よ」
「それでも、それでも戦うしかない。それが兵士だから」
五分もこちらを攻撃してこないのはどうしてだ?
いや、いま考えるのはそれじゃない。
おれは深呼吸をひとつする。
無心だ。
無心で行動する。
なにも余計なことを考えない。
ただ集中するんだ。
おれはヴァリューを動かす。
ガガイン!
おれの剣撃が改造ヴァリューを押す。
「これは、行動原理の集中!」とラッセルは驚いた。
おれはさらにヴァリューを動かす。
「兄さん、兄さんのヴァリューの動きはめちゃくちゃです。相手を翻弄するにも変すぎます」
無心だ。
無心だ。
「なんだこれは。予測が予測が予測が私の予測が未来が見えるぞ。きみの動きは未来を見せることができるというのか」
ガギギギギギギギギギン!
ガイン!
空に舞うおれのヴァリュー。
空が回転する。
近づけば遠く、遠くなれば近づくヴァリューとの距離。自然との距離。
おれのヴァリューが実剣が陽を斬る。
予測機に背を向ける。予測機をけりながら剣で地を斬る。
剣を百八十度振る。
予測機を捕らえる剣。
「なんだこの攻撃は!? 無心? いや、なにか意思がある動き。この意識を予測する。それが予測機たる未来への本質の継承ならば」
予測機が飛ぶ。
おれのヴァリューはさらに天と地を剣で表す。
軽々と迎撃される予測機。
「なんだこの意識は。まるで過去の継承。私の選択肢にはない考えだ」
. 予測機はまったく動かないで破壊されていく。
おれのヴァリューは改造ヴァリューを行動不能にまで破壊する。
「信じられん。私の予測機を越える動きをするとは賛美に値(あたい)する」
「なにをしたんですか兄さん!」
おれは息を整えながら言う。
「なにも考えなかったことを考えた」
「そんなことで私の予測機が破れるものではない。確かにきみの行動には意識があった。それも高度な戦意があった」
「博士の予測は戦争の動きだけに限定されている。だから五分間もおれが意識を失った時予測できず、反応できず、おれを攻撃しなかったんだ。だからおれは戦かわない戦いをした」
「つまり?」とレミー。
「おれは踊りを踊った」
「え?」
「は?」
「おれは演武をヴァリューで踊ったんだ。ただ無心で、な」
「兄さん!」
「子供の頃演舞を習っていたんだ」
「ははっあははははははっ」
笑い出すラッセル博士。
「それは考えていなかった。きみは素晴らしい人だ。時が計上した自然よりも美しい。ならばこその力。いつ戦いが始まろうとも、いつ平和が終わろうともその願いは鳥の翼足り得るだろう。それでいい若者よ。時代はこれで終わりを告げる。それは浅はかさという時代なのだ。いまからきみの伝説を始めるがいい。昨日よりは明日がいいと言うのだろう。破壊と創造の天稟(てんびん)を苦労とするならば。いいだろう。私は敗北を認めよう」
「あなたに敬意を表します」
おれのヴァリューはラッセル機に頭を下げる。
「さあ、ラッセル博士、ヴァリューから降りてください。あなたの処遇は我が軍が預かります」
「断る」
改造ヴァリューからは各所から煙りが出ている。
「博士、危険です。機体から降りてください!」
改造ヴァリューは推進器全開で空に飛ぶ。
「博士!」
「このシステムには人の考えが必要だった。予測機とは、私自身なのだ」
「博士」
改造ヴァリューが空に飛ぶ。
改造ヴァリューは煙りを吹き上げ、空高く飛んでいく。
もう天空に点になってしまった。
「見えるぞ」
博士はそう言う。
「なにがです?」
「人類の未来が見える。人類は……」
改造ヴァリューは光と化す。
改造ヴァリューの残骸は星のように輝いていた。
まるで芸術のような光だった。
機動戦艦におれは戻る。
まずはコーヒーを飲みたい。
休憩室に直行してコーヒーを飲む。
「おつかれさま」
ミッシェルがいた。
おれは言う。
「博士は……」
「なに?」
「博士はどんな未来が見えたんだろうな」
「幸福な未来よ」
「そう、だよな」
おれはさらにコーヒーを飲む。
ミッシェルがおれの肩に手を置いて言う。
「未来はひとりひとりが作るものよ。戦って勝ち取るという人、日々を淡々と紡ぐ人。感じたままに生きる人。人それぞれ。結果はふたを開けてみないとわからない。から。なにが本質だと言えないように、未来を過去にすることは出来ないわ。あなたは戦いを選んだ。誰がそれをとがめるというのかしら。あなたのままに生きることに誰が否定できるというの。断続こそが力。予測からもいま、生き続ける力の連鎖。人は夢を見る。だから生きていける。だから未来を信じていける。だから、誰がなんと言ってもあたしはあなたの味方です」
「ありがとう」
おれはコーヒーでミッシェルと乾杯する。
おれは夜遅くまでミッシェルと話していた。
夜は過ぎていく。
そして朝日はまた戦争の陽をかざしたのだった。
続
(第五十一話・バウンタン平原)
「雨が降りそうね」
ミッシェルがいつのまにか兵士休憩室に入って来ていた。
休憩室はちょっとした喫茶店といった感じだ。
機動戦艦の中は各種最新の自動洗浄などによって驚くほど清潔に保たれている。
だが、それはなにか人がいるには、自然さが感じられないのだ。
立体映像などで自然が彩られようと、艦内植物があろうと、ディスプレイ壁が外の景色を映しても、それは感覚する自然とは違うのだ。
それよりは、ヴァリューに搭乗している時のほうが、よっぽど外、を感じているのだ。
空は朝だと言うのにどんよりと濁った雲が一面を覆う。
こういうのは人は好かない天気だ。
だが、戦場に曇りもなにもない。
ただ戦う。
それだけのことなのだ。
ミッシェルはコーヒーをくれる。
それはブラックだ。
「目を覚ましたらどうなの」
ミッシェルはそう言って笑った。
「そうか」
ミッシェルの腰まである金髪がふたつのおさげがコミカルに揺れる。
ミッシェルは端正な顔立ちで、それでいて感情の動きによって幼さが微妙におれの心をくすぐるのだ。
胸はあるが、それはまあ、ちょっと大きいくらいなのだろう。
コミカルにくるくるっと踊るミッシェル。
いつも楽しげだ。
「ひまそうだなミッシェル」
「そう? あたしはいつもこんなもんよ」
「ちょっとは緊張感もてよ」
「はあい」
ミッシェルはそう言って笑った。
「鉄騎兵分隊?」
「そうなのよ」
ミッシェルはひそひそ声でそう言う。
「なんでも走って行くアームチェンジを見たって通信を最後に、ライド第二部隊が全滅したって」
「別に戦って敗退したってだけのことだろう。なにが変なんだよ」
「それが攻撃がきかないんですって。すごい速さで消えたそうよ」
ミッシェルはおどろおどろしく話す。
「装甲が厚いんだろう。速度が速いって超電動ローラーダッシュで走っているんだろう。アームチェンジの幽霊もないもんだ。なんだ、いまは怪談がはやってんのか。それともマイブームか。そんなのいまは流行らないぞ。これからはもっと明るい話が求められるんだ。暗い世の中に暗い話してどうするんだよ。なあ、明るい話だよ。これからはそういかないとな。それに涼しいのに怪談なんて、意味ないだろ。もっと季節にあった話しろよ。なあ、もっと楽しい話あるだろ」
おれはコーヒーを飲み干す。
「雰囲気もなにもあったもんじゃない人ねえ」
「それでいいんだよ。なまじっかそんなものがあっても、口説く相手さえいないところだぜ」
「あら、あたしはどうなのよ」
「いや、まあ、いい女なんじゃないの」
「それだけ?」
「いや、まあ、いい人生送れそうだよ。ミッシェルと一緒にいたらな」
「そうでしょうよ。そうでしょうよ。おっしゃるとおり、あたしは美人な女性よ」
「そこまで言ってないだろ。しかたない女だなおまえは」
「あら、ひどいこと言うもんじゃないわ。もういやしてあげないからね」
「いや、もう、いつも助かっております。ありがとうございます。それじゃ、コーヒーでもくれよ」
「あたしはメイドじゃないのよ。自分でいれなさいよ」
「そうか。今日はサービスわるいな。まあ、そういう日もあるってことか」
おれはコーヒーをおかわりする。
にがい。
うーん。
ミルクがほしくなるなんて、年かなおれも。
いけないな。
運動するとしばらく動けない年齢も近いな。
成人病もそろそろかな。
まあ、いいか。
ここには最新の医療設備もあるさ。
まあ、それは必ずしも病気とは限らないのだけれど。
それはここが。
戦いの場だからだ。
「呼んでるようね」
ミッシェルが壁の緊急灯が回転しているのを見て言う。
「そうだな」
おれは立ち上がる。
「なあ、もどってきたら」
「なに?」
「いや、なんでもない。いい日だといいな」
「ご武運を」
ミッシェルは祈っているかのようだ。
「おいおい、縁起でもない。笑って見送れよな。んじゃ」
「あはは」
ミッシェルはちょっと笑っていた。
それは今日最高の笑顔だろう。
いまの時点で、だが。
ヴァリューが数機、戦艦から草原に降下する。
視界には敵機はいない。
センサーは数機の敵機を察知している。
目視できるところまで敵機が見えてくる。
それはまだ小さな点だが、最大望遠では、数機のアームチェンジがこちらへ疾走してくる。
地平線までの緑の平原をこちらへ疾走してくるアームチェンジ群。
データが示す敵機はガストゥールのようだ。
ガストゥールが数機、こちらへ超伝導ローラーダッシュで走って来る。
超伝導の無数の色に輝く幾重もの線の火花が幾何模様をアームチェンジの足の底からえ
がきだす。
色とりどりの超伝導の光をはじきながら、敵機は疾走する。
敵機は腕と足の装甲がやけに大きく、風を受け流すような形である。
腕と足の装甲いがいは、敵の量産アームチェンジ、ガストゥールであることをコンピュータは示している。
腕と足の装甲は紋章のようだ。
ずいぶん奇妙な形だ。
その装甲は、まるで芸術作品でも見ているようだ。
ピピッ
ガストゥールの速度をセンサーがはじき出す。
コンピューターが出した敵機の走行スピードは千キロだ。
通常のアームチェンジの戦闘移動速度が最高でも三百キロであることから、これがいかに速いことか。
こんな高速では、格闘戦などできないだろうに。
すぐに目視できる距離まで近づいて来る。
おれは標準機を操作する。
コンピューターがロックオンしたサインを出す。
コンピューターによって標準固定されれば、ヴァリューが止まっていて、相手のスピードも変わらないのだから、ほぼ百パの確立で当たるはずだ。
おれはトリガーをひく。
ガリュウ・オン!
轟音が響き、レーザーが直線を描き、そのレーザーの中に粒子加速弾が発射される。
レーザーの中で粒子加速弾は次々と加速され、粒子弾は速度が光に近くなると、質量が重くなり、ガストゥールからは弾丸がどんどん大きくなっていくように見える。
それでいてその全質量は一点に収束し続ける。
粒子弾が大きくなって見えても、センサーなどでいくらでも知覚できるのだが。
加速粒子弾は、コンマ何秒、人の感覚的には一瞬でガストゥールに当たる。
だが。
ガイン!
豪快な火花をあげて、こちらの弾丸ははじかれた。
それを数瞬送れた再生コンピュータ映像で見ていたおれはちょっとびっくりした。
ヴァリューが放った弾丸は普通のものではない、最新の特殊バウレルだ。レーザー倍率による粒子加速弾はレーザーの中を三十ミリの粒子弾が螺旋回転しながら加速していくもので、理論上は三百ミリの鉄板も打ち抜くはずだ。使っていた感じも確かなものがあった。それを単なる装甲がはじき飛ばすとは、にわかには信じられない。
超加速している敵機のまとう衝撃波が弾丸をはじいたのか。
装甲になにか特殊加工があるのか。
それともなにか複合的なものか。
だが、いまは戦闘中でそれを検証してるどころではない。
ガストゥールの装甲が奇妙な動きを見せる。
ギャン!
各ガストゥールの超高速移動の衝撃波がヴァリュー各機に叩きつけられる。
びりびりと衝撃波で、味方のヴァリュー群の動きが止まる。
そこをガストゥール各機がビームゾットという湾曲両刃のあいだを循環することによってレーザー加速密度が増幅するエネルギー剣を抜刀して、その剣戟に、味方のヴァリュー各機が爆発する。
ガストゥールは攻撃してそのままヴァリューの横を通り過ぎたのだ。
これは一般にヒットエンドランと呼ばれるものだ。
空中戦ならいざ知らず、地上戦、それも敵機はドッグファイト、格闘戦があたりまえのアームチェンジ戦において、ヒットエンドラン、一撃離脱戦法をとっているのだ。
一撃離脱戦法は高速で攻撃したらすぐに逃げていくものだ。
安全な地点で旋回して、またこちらの方角に向き直るのだ。
ドッグファイト、お互いの機体が後方をとりあう格闘戦が得意な零戦は、第二次大戦当初、アメリカ軍機に優勢であり、その名をとどろかせた。
その後、アメリカ軍機がヒットエンドランの戦法を採用すると、スピードでは零戦はついていけず、次第にやぶれていくことになる。
おれは自機のヴァリューの超電動ローラーダッシュで移動しながら、バックパックの推進力を全開にする。
すさまじいGがかかる。
透明なコックピットの周囲を光りのホタルが舞う。
コックピットまわりの光粒子加速機がGをやわらげてくれる。
超電磁ローラーダッシュは物理的な摩擦をかなりなくしてくれる。
そのうえでヴァリューの背中のバックバックによる光粒子コントロールによる推進である。
自機のヴァリューをガストゥールと同じ方向に高速移動させる。
これでガストゥールの衝撃波を受けることはない。
装備はガストゥールのそれと基本構造は変わらない。
だが、ガストゥールとの距離はどんどん離される。
ガストゥールはすさまじいスピードだ。
いや、速度がどんどん加速していってるのだ。
ヴァリューでは追いつけない。
ガストゥールが旋回を始めた。
その動きも独特で、ガストゥールの動きがぶれて見えるのだ。
それがどのような操縦技術、科学技術による機能運動なのかわからない。
ヴァリューの機能ではロックオンもままならない。
標準が定まらないまま、粒子加速弾を打つが、はずれてしまう。
旋回したガストゥールが猛スピードでまた攻撃してくる。
なんとかシールドで防ぐ。
味方のヴァリュー各機は回避機動をとる。
だが、それにもかかわらず、他のヴァリューが皆破壊される。
おれのヴァリューはまだガストゥールを追っかけて高速移動していたため、なんとか逃げれた。
しかし、おれ一機でなにができるものか。
装備はこの粒子弾と左腕のパイルバンカーだけだ。
このパイルバンカーの槍はビームタイプではなく、実槍であり、加工重甲合成された合金で出来た、物理槍だ。
槍を打ち出す弾倉は五発。
とても高速移動してるガストゥールをとらえるにはいたらない。
だが、まてよ。
高速移動しているガストゥールを追っかけるのは無理だろう。
ならば、止まっていたらどうだろうか。
前方から一機のガストゥールが疾走してくる。
おれはヴァリューを停止させる。
まったく動かない。
ガストゥールはこちらへ一直線に来る。
ガストゥールはビームショットするが、一直線に撃ってくるのだから、コンピュータで弾道計算して、パイルバンカーの実槍でビームをはじく。
ガストゥール各機はヴァリューが動かないのを見て、一直線に疾走して来る。
ヴァリューの装甲では、ガストゥールの循環レーザー剣にはとても耐えられないだろう。
ガストゥール各機はおれのヴァリューに向かって一直線に疾走する。
戦場では死神と女神ならば、どちらと出会いたいか。
それは。
きっと。
アームチェンジというものは、死神でもあり、そして、女神でもあるのだ。
おれは加速粒子弾を発射するが、やはり装甲にはじかれる。
ならば。
おれはヴァリューの両足にある四本の固定脚槍を地面に打ち込む。
これでヴァリューはちょっとやそっとのことでは動かない。
ガストゥールが一気に目の前に来る。
おれはヴァリューのパイルバンカーをガストゥールの装甲に打ち込む。
ガイン!
実槍がガストゥールをその装甲ごとつらぬく。
いきおいあまってガストゥールは空中に吹っ飛び、爆発する。
どうやらガストゥールの強固な装甲も、自機の高速荷重質量までは無効化できないようだ。
他のガストゥールがおれのヴァリューに疾走してくる。
おれは仲間のヴァリューのパイルバンカーを集め、地面に円形に立てる。
ガストゥール各機はビームショットするが、何本ものパイルバンカーの実槍にビームははじかれる。
ヴァリューのまわりをビームの火花があがる。
まるで光のシャワーでもあびているかのようだ。
これはガストゥールが直線移動するため、ビームショットする軌道がわかるからできる芸当だ。
ガストゥール各機はピームショットが効かないとわかると、ビームゾットを抜刀して、ヴァリューに四方八方から高速接近してくる。
おれは加速粒子弾を各ガストゥールに打ち込む。
加速粒子弾は初速こそ遅いが、加速するたびに質量が重くなり、視覚としては、粒子弾が大きくなって、ガストゥールのパイロットの立体映像、スリーディービジョンからは視界いっぱいに粒子弾が見えているはずだ。
これで各機、ガストゥールの視界はふさいだ。
ガストゥール群はすでに目前である。
おれは何本とあるパイルバンカーを倒す。
そして各パイルバンカーを連動機動させる。
各パイルバンカーが打ち出された。
ガガガガガガガガン!
見事にパイルバンカーは各ガストゥールをつらぬいた。
爆発が円を描く。
おれはヴァリューで垂直に飛び上がり、なんとか助かった。
だが、まだ飛翔してくるガストゥールがいる。
粒子加速弾を撃つが、当然装甲にはじかれる。
もう残弾もない。
ヴァリューにはもう武器がない。
どうする。
まだ、なんとかなるか。
おれはさらに上昇する。
ひたすら上昇する。
雲を抜け、成層圏まで達するかという加速である。
ガストゥールは装甲が重いぶん、引き離される。
ガストゥールは装甲を解除して、身軽になる。
一気にスピードを上げるガストゥール。
そのスピードは一気に音速を突破していく。
おれはヴァリューの推進力を止める。
そして脱出ポッドで脱出する。
ガストゥールとヴァリューがぶつかる。
その衝撃で両機とも破壊される。
おれのポットはゆっくりと降下していく。
下では旗艦が見えてきていた。
おれは旗艦に戻る。
空が雨となす。
それは忘れていた気持ちのように。
「なあに暗い顔してんのよ」
ミッシェルはそう言って笑っている。
「いや、なんか、ちょっとブルーな気持ちになってしまってね」
おれはコーヒーを飲む。
「明日は晴れるわよ」
「よくあるセリフだな」
おれは苦笑した。
それはありがちな言葉だが、なんだかミッシェルがそう言うとそんな気がしてくるから不思議だ。
「いつまでも」
「なに?」
ミッシェルが不思議そうな顔している。
「いや、まあ、なんだ、はやく引退して、自然のある風景、かわいい女と一緒に住みたいと思っただけさ」
「あら、その時は一緒に住んであげるわよ」
「それはどうも」
「まだコーヒーは飲むの」
「なんで」
「なに?」
「なんで人は戦い続けるんだ。話し合いで解決できればそれでいいじゃないか」
「あら、いつになく深刻ね」
「そうか?」
「そうよ。兵士は戦うだけ。そう言っていたのはあなたじゃないの」
「それはそうだけれど」
「戦いで結果は得られない。でも、あなたの戦いの時間は確かにあったことよ。あなたが生きた人生を誰が否定するというの。あなたががんばったことに結果はともわなないかも知れないけれど、それでも、なんとかなるってものよ。あなた自身の人生に。がんばったからいい結果が必ず出るならば、言葉は必要ないはずよ。あなたが心配してることは理解できない。あなたが悩んでいることは知ることができない。あなたがいらいらしていることをやさしくすることはできるかも知れない。あなたがあなたでいることに、考える必要があるというのでしょうか」
そうミッシエルが言っている時、おれは笑っていた。
笑っているおれをミッシエルが不思議そうな顔で見ている。
「ミッシエル。きみはおれを笑わせる天才だな。はっははっ」
「あら、それはどうもありがとうございます、ね」
「人は不幸と悲しみのみで生きるにあらず、だろ?」
「そうね、あなたに幸運の力がありますように、願っています」
ミッシエルはそう言って笑っていた。
おれには勝利の女神がいる。
きっとそれでいい。
それでいいんだ。
ただ、おれは談笑にひととき、ふけっていた。
それは退屈で、ずいぶん楽しいことなのだった。
おれは笑っていた。
なんとなく、笑っていた。
水平線を描いていた気持ちはゆっくりと晴れたような気がしてくる。
それはきっとミッシェルのおかげなのだ。
まあ、いいさ。
願いは思いえがくものだから美しいに違いない。
だから、また、おれは一時の魂の洗濯をしていたのだから。
おれはまた戦場にいた。
幾千機のアームチェンジが、戦っている戦場だ。
恐怖。
緊張感。
深呼吸。
日々の訓練が体を動かす。
動けなくなったら死ぬ。
まだ動くようだ。
行動できる力。
静止して敵をやりすごす静動。
地をはって、血を吐いても息をしている自分。
それだけだ。
後は生き残ったら考えよう。
おれは計器のチェックをする。
明滅するスリーディーディスプレイ。
一通りの動作確認。
いいようだ。
戦場には宗教的戒律とか、科学的論理だとか、生きるか死ぬかがある。
一点集中では、ただ、生きるか死ぬかだけだ。
止まったら終わる。
まだ、動いていれば生きているんだろう。
好きも嫌いもない。
ふたつの操縦ボウルリングをそれぞれ両手でつかむ。
ヴァリューが本格的に稼働する。
スリーディーディスプレイが前方を映し出す。
前方の立体映像を中心にして、そのまわりにいくつもの球体の立体映像が浮かんでいる。
それは後方の映像であったり、敵機の動き、レーダーなど、必要な情報が回転している。
ギン
後ろの剣を剣で止める。
ガギン
けりで後ろの機体を吹っ飛ばす。
ドガ
アームショットを左のガストゥールに打ち込む。
ザギン
ガストゥールを一刀両断する。
ガガンッ
左手のズームアームパンチャーを光速の75パーセントの速度で一瞬2連射する。
砂煙が縦横無尽に舞う中、ヴァリューで駆ける。
戦い。
アームチェンジが群戦する。
戦い。
なにもかもが失われていくような感覚。
ガガ ガガ ガガ ガガ ガ
ガガ ガガ ガ ガガ ガガ
ガガ ガガ ガガ ガ ガガ
ガ ガガ
ガ 人は ガガ
ガガ ガガ ガ ガガ
ガガ ガガ どこへ ガ ガガ
ガ ガガ ガガ ガガ ガガ
ガガ ガ ガガ ガガ ガ
ガガ ガガ いくのだろう ガ ガガ
−−知りたいのか?
黙ってろ。
おれは敵に目を向ける。
連射がおれのヴァリューを打ち抜く。
ズシャッ
ヴァリューが破壊され、ヴァリューが力なくたおれる。
暗転。
暗いな。
おれは生きているのかな。
それとも死んだのだろうか。
「人が死んだんだよ。どうして普通でいられるんだよ!」
少年だったおれ。
おれは、そう。
なにかに反発していた。
「戦争ならば、な」
「そんなことじゃないよ、いまのことだよ」
反発。
大人の気持ちなど、その生活や仕事など知らなかった。
ただ。
なにもかもが欺瞞に思えた。
そう。
言葉を捨てたわけではない。
でも。
なにかを失ったおれは、変わりに、なにかを求めた。
それがいまのおれなのか。
破壊。
戦い。
喧噪。
意識の明滅。
花園の平原。
色彩の花の海。
そう、確か、あれは始めて兵士として歩いていた時の大地。
「こんなところがあるのね」
ミッシェルが笑う。
「そうだな」
おれはちょっと愉快でさえあったんだ。
「ここが」
「なに?」
「いや、いいんだ。ただ、こんな時があってもいいよな」
「そうね、あたしたちにはね」
それは昔のことだ。
なにか変わったのか。
おれはいまどこにいる。
そう、それは変わらない。
でも、またおれは歩き出す。
なにも変わらないとしても。
意識の明滅。
そう。
それでもおれは……、おれはいまここにいた。
それは一瞬、一瞬のことだったのだ。
おれはまだ生きていた。
−−ずいぶん、たいへんそうだな。アームチェンジというのか、それもボロボロではないか。これではもう戦うことはできないな。
ひらめいた。
「詩ができたんだ。うん。とてもいい出来だ」
−−なに?
「この戦いが終わったら教えるさ」
それはほんの一瞬のことだったのだ。
一瞬、電圧が明滅する。
ディスプレイにプログラムが再起動する。
ヴァリューはまだ稼動できるというデータが球画面を流転する。
ダメージコントロールというものがある。
艦船などが打撃を受けた時、沈むまでの時間を遅らせることで、避難や対処をするというものだ。空母などでは、艦載機用のエレベーターが上がっていても下がっていても、外が開いており、火災などの際、そこから火災物を捨てるなどがある。
これがプログラムの分野にもある。
これをコンピュータが攻撃を避けるプログラムをダメコンプログラムという。
おれのヴァリューはコンピュータの速断による高速回避運動で、銃撃による致命傷を避けたのだ。
鈍い稼働音。
ヴァリューはまた動きだす。
ヴァリューはなんとか歩きだす。
それは実に頼りないものであった。
アームチェンジ群は戦っている。
おれはまた視線を前に向けた。
ロックオン警報が鳴る。
おれはその方角にアームパンチャーする。
アームパンチャーによって起きた衝撃波がエネルギー波を拡散させる。
光が花火のようにヴァリューの周囲を螺旋する。
なんとかしのいだか。
おれは高速でヴァリューを移動させる。
アームチェンジ群の砂塵の中を疾走した。
戦いは続いていた。
続
ディラック宇宙宙域
暗黒の時代。人は戦争によってそれを知るのか。それとも、戦争を望んだからなのか。何百年、何千年と人は戦争を続け、それは二大勢力と戦闘地域と非戦闘地域を明確にすることで、舞台を宇宙にまで広げた時代。宇宙の果てまで到達した人にはなにが残ったのだろうか。アームチェンジという重力兵器が空を数えられない程飛び交い、戦争となる時代。人はなにによって、平和を知るのだろうか。俺はまだ、戦場にいた。
ヴァリューは宇宙を漂う葦。
パイロットフィールドはライトもなく、暗い宇宙だけか周囲にある。
宇宙は暗いが、360度どこまでも星が続いていく。
天然のプラネタリウムだ。
一時の休息。
そうだ、こういう時は。
星座を探していてもいいな。見つからない。目をこらしても見えない。父なら、すぐに見つけたよなあ。
なんとなんく宇宙を浮遊してもいい。ヴァリューの浮遊移動力がパイロットシートに反復する。この浮遊感。これこそ自然のハンモックだ。
いつまでも見ていたい世界がある。ここが戦場でなければ、だが。
満天の星の暗い空の中、ヴァリューのコンソールを動かすとパイロットシート骨格が移動というか、フィードバックする。骨格シートはソグボウルや重力感知ではとらえない、ダイレクトな動きをヴァリューに伝える。
姿勢制御でシートの方向はどこでも向いて、それはそのままヴァリューの動きにフィードバックされる。
手にフィットするソグボウルへの操作と、それによるヴァリューの加速反射速度は理論上、光速であるはずだが、若干のコンソールタイムラグを感じる。調整するが、いまいちだ。もう一度コンソールを操作する。計算の式がどこか違っているのか。加速の速度が反射角度の相対による、えーとなんだっけなあ。おれは考えている。こういったプログラミングは専門のスタッフがいるが、なにせ、使うパイロットの個性で、それは微妙な違いを持っているのだ。
コンソールディスプレイが起動する。
旗艦から敵機のデータが送られて来る。
三機。
こちらは一機だから、別々の方向から来る可能性が高い。
コンピュータは左方からまずは来る確立が高いと算出している。
ヴァリューでも敵機をとらえる。
ヴィジョンでもとらえた。
その機影は……、ゾウ。
ゾウが宇宙を歩いて来る。
のっしのっしと歩いている。
ぱおー。
おや、鳴いている。
いやあ、心が癒される光景だ。
それはとてもゆったりと優雅に。
ゆっくりと宇宙をゾウが歩いて来る……はずないだろう。
「誰だこの冗談は」
「いつまでシミュレートしてんのよ」
女の声が聞こえる。
ミラルか。
「おっけい。あがるよ」
おれはリプログラミングして、光粒子を下への重力へと集中する。
定重力が生まれ、おれの足は下に着く。
ヴァリューのドアがオープンする。
光がまぶしい。
光の階段が水のように浮かぶ。
おれは階段を歩いて、白い円形のパイロットシーントットから、貨物ブロックを蹴って、通路に直結したドアを出る。
茶っぽい白色のなめらかな正方形の通路を移動する。
艦内のすべてで完全重力の実現はエネルギーを食い過ぎるので、一定の弱重力に艦内は保たれている。その定重力のため、ゆっくりと体が横に回転しながら浮遊して移動していく。
おれの体はなににもつかまらなくても、光粒子の重力制御で通路の中を誘導される。
ライトに照らされた通路に、光粒子が動いているために、暗いほたるが舞っているような通路。
暗く明るく明滅する光粒子。
通路の先には部屋がある。
部屋に入る時、機密差から、風の見えない扉を通り抜ける。
心地よい風だ。
ここは二階層ぶちぬきの広い部屋になっている。
定重力を利用して下の階に降りる。
ゆっくりと着地するおれ。
床に光粒子が集まる。
定重力がおれをとらえ、おれの制服がふわりと重力にゆれた。
そこには数人の軍人がいる。
おれに話があるというのだから、パイロットか整備、技術関係なのか。
「新しいパイロットよ」
横にいたレミーが努めて業務的にそう言う。
普段は兄として慕(した)ってくれる通信員、連絡員であるレミーだが、仕事中はまるで軍人そのままなのだった。
ここの新入りからそれぞれ手が出される。
おれはそれぞれあくしゅした。
おれはちょっとねぼけていた。
連日の戦闘で眠っていなかったのだ。
ついあくびをしながら言った。
「よろしく、おれがパイロットの隊長だ」
いてて。
レミーがおれの尻をつねった。
パイロットは二人、若い女性と中年の男性。
中年男は四角い顔。眠っていそうな細い目。
髪の薄い髪。
さえない顔だ。それでいて、どこか雰囲気のある感じを受ける。
女性は腰まであるストレートの茶髪。
ライトカラーヘアが部屋の証明とは違う陰影を描いている。
精悍な顔立ち。
なかなかに厳しい顔立ちだ。
「私はパイロットとしては一年の実戦経験があります」
女性は簡単にあいさつする。
それはとても感情のないような声だ。
「おれは三年です。虚数計算が好きなので、ディラックと仲間は呼びます。あなたがここの隊長なんですか」
ちょっとしわがれた声には、長年の年期が感じられた。
もう一度見ると、中年の男、ディラックはちょっとひげのはえた、短い黒髪の無骨な感じの男だった。
おれは編入された新人たちに答える。
「そう、おれがここの隊長だ」
ぼけーっと壁の方を見る。連装窓の外の宇宙を眺める。
今日も宇宙は爛々と星々をたたえている。
心が洗われるようだ。
「いやあ、今日の空もいいもんだなあ」
眠気眼でそう言う。
ディラックがかっかっかっと笑った。
「かぶとがにみたいな顔の隊長さん、なんだか頼りなさそうだなあ。国の平和気どりの偽善主義者どもにもおとらぬ力なさだな。栗も花を付けるぜ」
ディラックは冗談とも本気とも見える表情で、そう言ってシニカルに笑う。
ズワイガニが横歩いている。
こういう時、隊長はなめられてはいけない。
おれこそがひばりおおがらすなのだ。
おれは一括してやる。
「なんだおまえは素直なのか、ヤクでもやってんのかおまえは。ドラゴンだって泡ふくぜ」
ディラックはおどけた表情で笑う。
なんとも愛嬌のある中年親父だこいつは。
「気にするな、これは性格でね。バルバラック運河のように変わらないのさ」
「おいおい毒舌なら捨てるほど余ってるんだがな。有益をもとめているんだ。小鳥がよつばをくわえているような、な」
ディラックはおれの肩を叩く。
「まあ、失礼した。よろしく頼むよ大将」
中年の男はなんとも楽しげにげらげら笑っている。
「おいおい、ブルドッグ顔の。ユーモアとタバコはいまはいらないぞ。なんか、どうしてまともな奴が入ってこないんだここは」
もう一人の女性がきっとこちらを見る。
「不満ですか」
うやうやしくそう言う。
こっちはこっちでなんだかつきあいにくそうだなあ。
でも、まあ、こんなもんか。
「いや、きみのことではなくて。あー。失礼した」
なにとりつくろってんだ、おれは。
「そうそう、気にすんな」
ディラックがおれにしなだれかかってくる。
「おまえのことだ」
肩すかす。
よろけるディラック。
おれのつっこみの言葉にも笑っている中年男。
「それでは私はこれで」
「あ、ああ」
レミーは別の仕事へと去っていく。
おれは二人を休憩室に案内する。
二人はともに艦内はとっくに案内され、必要な道は覚えたそうだ。
女性のほうは黙っている。
ディラックは話好きのようで、よく話す。
だが、それはどうにも毒がこんだ話なのだ。
「兵士なんて人を殺してなんぼの商売よ。雪かきは労働の基本だなあ」
ディラックがそう言う。
カチンとくる。
人にはゆずれない線があるのだ。
それはなのにこいつはどうだ。
「なんだおまえは、それが兵士の言う言葉か。絶望が兵士の姿勢だとでも言うつもりか。アクセルとクラッチは違うんだぞ」
おれは兵士の誇りを汚されたような気がしていた。
ディラックはそれでもなんとなく宇宙を眺め、それからおれのほうを向く。
それはため息のような空気のよどんだような言葉だった。
「結果はでない、疲弊だけが代償かとも言える(ため息)」
ディラックの言葉はなんとも投げやりだ。
それは後から考えてみれば、何気ない一言だったのかも知れない。
おれは感情の連鎖でカッとなってすぐに反論する。
「なんだその言い方は。おれたちがどれだけ努力しているのか、知らないはずではないだろう。大地が砂漠のままでいいはずないだろう。安いたばこ吸ってんじゃねえのか」
おれは言いながらさらに激昴(げっこう)した。
ディラックはそれでも鼻で笑っている。
ある意味、兵士としては肝が据(すわ)わっているとも言えるのか。これは。
ディラックの瞳はゆらりと色を変えたような気がした。
いま流行(はやり)の万華鏡コンタクトか。
「おいおい、政治家みたないこと言うなよ。砂漠だって立派な自然さ。安いたばこもいいもんさ。それともなにか、あんた、帰ったら政治家にでもなるのか。だったらこの薄給をなんとかしてくれ。休日増やして、住むとこでも作ってくれよ。森林浴でもしたいのでね」
ディラックはせせら笑っている。
いや、そう見えただけかも知れない。
すぐに反撃する。
「なんだと!」
おれは奴のむなぐらをつかむ。
おれは手を振り上げ、奴はボクシングの腕のガードをする。
おれの腕が奴に降りかかる。
その瞬間。
「なにしてんのよ」
間の抜けた女性の声。
風、いや、雷鳴の空竜。
時間が止まった。いや、それは錯覚だった。
おれはぎくりとそちらを見る。
汗がしたたり落ちる。
もし世界に一人天敵がいるとしたら、それはこいつに他ならない。
ほっとするその声は聞いたことがあった。
それはおれの上官に当たる女性であった。
腰まであるストレートの栗色の髪が光粒子重力と踊る。整った顔はモデルか女優のようだ。軍服に装飾品をこれでもかとつけている。あきらかに軍規違反だろうが、問題はそこじゃない。表情は穏やかで、青い瞳はのぞきこんだ者の心を吸い込みそうだ。太く力強い眉毛。高い鼻が輝いている。魅惑の唇は爛々と赤い。まるで女優かなにかが目の前にいるようだ。
まるで丸いオーロラのようなオーラが彼女を彩る。いや、錯覚だ。
「きちゃった、うふっ」
こ、い、つ、わ〜。
う、動けねー。
じりじりと汗がしたたり落ちる。いや、錯覚だ。
「なにしてるのかなあ」
ゆっくりとおれの手を取る。
それはなんてやさしい動き。けれど。
こっちはドラゴンがずしんと動いたような地響きのようだ。
逃げたい。
いや、それは隊長としての沽券(こけん)に関わる。
勇気の剣を持ちて、おれは魂の鎧を着ていまこそドラゴンに挑む。
いまこの一撃に渾身の命をかけん。
聞け、この一言。
「わかりました」
手と視線を外して言う。
まいった。
いやなところを新入りに見られた。
天敵。
自然界にはかなわない敵がいる。
まさにそう、この女はおれの天敵なのだ。
苦手なんて序の口で、嫌をとおりこしてあわ踊り。
るりるりるらら。
頭が計算機のようになる。
「あら、新人さんたち、私はミラルというから、よろしくね」
ミラルはそう言った。
びびってないぞ。だんじてそうなのだ。
ちょっと後ずさりしてるだけだ。
うん、だいじょうぶ。
おれは上を見て、えりを正す。
新入りはミラルを見ていた。
おい。
「なにしてんの」
ミラルが笑顔で聞いてくる。
おれ。
おれだよな。
きょろきょろする。
おれか。
いやーモテる奴は困るなあ。うんうん。
新入りが珍しいものでも見るようにおれを見てる。
おれはきりっと顔を正して、ミラルに向かう。
「なんでもないよ。二十日鼠のように」
おれはそっぽを向いたまま怒鳴る。
しまった。
なにか反撃がくるのか。
防御光粒子をソグ、ソグボウルはどこだ。あわわ。
きいん。
砕ける残照。
それはミラルの髪にからみついた思いの果てなのか。
「いいわねえ、若いってことは」
ミラルの目が光っている。いや、錯覚だ。
「ふいいぃいい。今日の快晴に感謝する」
おれはいすにどっかと座る。
ミラルは笑っておれのとなりに座る。
なんとなく新人たちも座る。
「私も一服しょうかな」
どうぞ、ご自由になさいませ。
おれは瞳を閉じる。
心をゆっくりぽえむする。
変わらない海などないものなのに。
さざ波。
ゆくてなくかえす波のなみなみ。
思いは波となりても。
時間は月に始まり、心に帰っていく。
それでも思いを奏でない日はないのだから、さ。
「下士官様がこんなとこでひま売ってんのかよ。くやしかったら魔法でも使ってみろ」
ミラルにそう言う。
軌道はいつも夢の心に。
宇宙を漂う心いつも孤独だとも。
ミラルはにっこりと笑う。
ミラルという女性。
まるでそこは時間の乱流。
そこにはきっと誰も知らない時代が眠っているような気がするのだ。
それはきっと、おれが一生かかっても知ることのできない世界。
そんな気さえするのだ。
ミラルと話してるとなんでもうんと言ってしまいそうな。
そう、絶対服状でもしてしまいそうな気持ち。
まるで時間のブラックホールのようでさえある。
「相対服従はないのかしらね」
「なに?」
「なんでもないよ」
読まれた。
?
ないよな、そんなこと。
「それで、することはなんだよ。鋼鉄の獣」
「いいえ、あなたに会って、話をしたいと思っただけよ」
ミラルはどこから出したのか、ジュース飲んでいる。
思いは無限だとしても。
あの光にさえ、思いは響くともすれども。
ミラルの髪が春風に揺れた。
「そうか」
おれはむすっとしている。
ディラックはのうのうとコーヒーをおれの目の前で飲んでやがる。
むかつく。
なにもかもがむかつくってもんだぜ。
はっ。
なにか脇が寒い。
豪雪。
横にいるミラルが笑っている。
「二人とも仲良くしなさいよ」
ミラルはそう言うとまた笑う。
ぞくぞくぞくぞくぞく。
寒い。
南極北極宇宙の果てほど寒いぜ。
だからなのか、勝てる気がしねえ。
くそ〜。
負けるか。
おれはそっぽ向いて言う。
「別段、あんたになにか言われる理由はないね」
おれは放つように言う。
ふん。
こんなことじゃ負けないぞ。
「上官命令よ」
「はい」
ミラルは笑ってやがる。
くそー。
いつか。
いつかぎゃふんと言わせてみせるぜ。
ミラルはにこらにこら笑っている。
ミラル、こいつはいつも変わらない奴だ。
ミラルはどんな戦場でも頼りになる上官だが、こういう戦争中なのに、移動中や休みの時にはなんかイヤな奴なんだ。みんな仲良くとか言うんだ。そして、ほんとにそれでなんかおさまってしまうのが気に入らない。虎だってもっとおとなしいぞ。
それに負けてしまうのだ。
いつもミラルには負けっ放しだ。
いつか勝ってやるぜ。
みてろよこのやろー、いやおんなやろー。
よし、この言葉を受けてみろ。
「ミラルこそ政治家になって、この戦争を終わらせてくれよ。まったく、無重力よりも軽いものはないってんだ」
おれは言い放つ。
まるで親に反抗しているようだ。
なんでおれってロジックスペースがせまいんだ。今度辞書でぎゃふんと言わせる言葉を探してきてやる。
「なって、平和にしたら、税金いただくわよ」
そう言ってミラルは笑った。
まるで。それは。樹氷は瑠璃色のビーナス。
気が抜ける。
なんだかどうでもよくなる雰囲気。
ああ、なんか、ミッシェルとは別の意味で、なにか感慨あるものがある。
ミラルといると夜の月でも見ているような気分なのだ。
まあ、そう、悪くはない。気分だ。
「そうしてくれ」
おれははりねずみのように真顔だ。
「楽しそうじゃないか」
ディラックはそう言う。
そうかな。うーん。いや、そんなはずはない。
ディラックがにやにやしてる。
このやろう、またなにかけんか売ってくる気か。だんごむしのように負けないぞ。
「なんだ、上官と仲良しだと悪いのか」
「いや、女にもてるだけでも、たいした才能さ」
ディラックはそう言って笑った。
がびーん。
雪だるま。百個作っても雪だるま。
言いやがったなこのやろう。
「おれが女たらしだとでも言いたいのか。テストで百点取らすぞこのやろう」
「違う。人はなにかひとつでも才能があればいい。そう言いたいだけだ」
「なんだ、そうか? 変なこと言うなよ」
ミラルが話かける。
「バディヴァルディ、百鬼夜行と呼ばれた人ね」
「そいつあ百戦錬磨の甲虫傭兵じゃないか。でも、シーディケー銀河にいるはずじゃないか」
「なに、こっちのほうがギャラがいいだけでね」
「これは凄い。まあ、今日はビールでもおごろう」
「大判振るいだな」
「おごるのは一杯だけだ」
ディラックはそれでもうれしそうにかっかっかっと笑った。
乗せられたかな。まあ、いいか。
「そうなのか」
「そうなのよお」
別の兵士が休憩所に入って来る。
なんか、パイロット用休憩室、正確には下士官、一般兵士の休憩室に人が何人も入って来る。
「ずいぶんにぎわってきたな。なんだ今日は祭りでもあるのか」
「そうみたいね」
おれの何気ない言葉にミラルはそう言う。
「なんだ、新人の子はしゃべらないのか」
おれは女性に話す。
だが、ディラックとおれのやりとりで萎縮してしまっているのか、女性兵士は話そうとはしない。
「なにか話そう」
それでも無言だ。
「おれとは話せないのか」
「そうではないわよ」
ミラルが笑って言う。
「じゃあなんだって言うんだ」
「無言だってやさしさの時もあるのよ」
「そんなバカな。話し合いこそが人と人の関係を進めるはずだ」
「そう」
ミラルはちょっと下を見ている。
珍しい。
寂しそうな顔。
色気がある。
ミラルはそれから、おれを見た。
「話し合いがとぎれれば、人はそれ以前のコミュニケーションとして、力を振り上げる。じゃあ、無言は暴力なのかしら。それは違うと思うのよ。人はいがいなほどそれだけで自然よ。人はなにもかもが話し合いで解決するならば、言葉だけあればいいはずよ。人はそれでも、無言である部分があるから魅力があり、それがあるから、人は言葉に意味をその人生に意味を求めていくのよ。なにもかもが言葉にならないように、希望だって沈黙にあることだってあるのだから」
てててと、作業服の連中が木を運んできて植えている。
おれとミラルはそっちを見ている。
そういえば、本物の木を植えるという話しだったな。
おれとミラルはまた向き合う。
「知らないな。わからないな。ミラルの言うことはわからないよ。いつもなにか知らない言葉で納得させられてしまう。そんなもんじゃない。人生はそんなもんじゃないだろう。力がすべてだと言う独裁者に話し合いなどいらない。敵とは戦うのが道理。殺したら殺されるのが道理。人が意味を持つのは生まれたからじゃない。人の他人にやさしくされたからこそ、人はいま言葉を話し、言葉をその意味に気持ちを込めるのだ。兵士が人を殺すには反射神経だけじゃない。気持ちが人を殺すことを知っているから兵士なんだ。ミラル、だからきみも兵士なのじゃないか」
「兵士は名乗る言葉で人を撃つわけではないわ」
「そんな言葉で納得できるものか」
「納得しなさい」
「できないな」
おれはやっぱりミラルのことを好きにはなれない。
なんとか、気持ちが落ち着いてしまうのだ。
なんて奴だ。まったく。
まったく、なんでこの女はこう、気に入らないことを知っているんだ。
気に入らない。
気に入らない。
なにもかも気に入らない。
「傷、残ってしまったわね」
ミラルがおれの腕を見る。
「兵士だ。これくらいは当然だろう」
「兵士は傷つくためにいるのではないわ」
ミラルの瞳がビロードのように色鮮やかにきらめいた。
「きれいごとを。兵士の傷は勲章だ。あんたは戦艦から命令だけしてるからわからないんだ。瓦礫でできた雪だるま」
「そうかも知れない」
ミラルは悲しそうだ。
だが、そんなこと知ったことか。
おれは思いのままをぶつける。
それは普段は言えないことなのだった。
「兵士は死ぬことだってある。それを知らないわけではないだろう」
「そうね。でも、兵士は消耗品ではないのよ」
「どうだかな、心の中ではなに考えているんだか」
おれはミラルに暴言を吐く。
「それでも兵士を心配してしまうものなのよ」
ミラルは笑っている。
「それはどうも、おれたちの血と汗も、みんなあんたたち上官の勲章になる。あんたたちこそ、おれたちの味方なのかどうかね。それを、信頼を証明して欲しいものだね。金と歌がおれの心を満たしてくれた。退役したら一曲披露しょう。鋼鉄のりんごをかじる」
おれは言い放った。
それはさっきのディラックと変わらない口調だった。
つまんない人間になってしまったかなあ、おれ。
ミラルはおれを見ている。
なんだよ。
「それは、そうね。人の死が戦利品であるのが戦争であるのだから。それは仕方ないのかも知れない。けれど、あたしは、あなたがとても大事な人だと思っているのです」
ミラルは笑ってそう言う。
むかつく。
本気でも、こんなことが言えることができる奴がむかつくのだ。
こんな奴が戦争を起こしているんだ。
むかつく。
なにもかもむかつくのだ。
どうしたことだろう。
戦場に来た時から、この空が普通ではないことは十分理解しているつもりだったのに。
おれはすねているのか。
わからない。
でも、それでも任務は遂行する。
命令には従う。
それが兵士のアイデンティティーだからだ。
だからむかつくミラルにも従っている。
上官だからだ。
それ以上の気持ちはない。
あってたまるものか。
へんっ。
まあ、いい。
なんとかなるさ。
「いつか、誰かが戦争なんてなくしてくれる。それまでおれたちは殺し合うのが仕事だ」
「それは、とても希望的観測ね」
ミラルが笑う。
「ああ、そうだろうよ」
おれはすねる。
「でも、嫌いじゃないわ。そんな幼い考えかた」
ミラルは笑っている。
どうしてこいつはいつも前向きなんだ。
むかつく奴だ。
いつか泣かしてやるぞ。
覚えていろ。
こいつが。魂の一曲を聴かせてやるぜ。
「まあ、頑張んなさいよ」
「はっ、人を殺すのをがんばるのかよ」
おれは憎まれ口を叩く。
反抗する子供のようだ。我ながら。
「そう、そうね。そうかも知れない」
ちょっとミラルは悲しそうだった。
「わ、わるい」
なぜあやまる。おれ。
ミラルは窓の外を見ている。
「時代が時代なら、きっと、笑っていられるに違いないのに。それを戦場は許してはくれないのだから、人がいつかわかりあえるならば、この気持ちが永遠であると言って欲しいのです。人よ、夢を忘れないで。人よ、希望を忘れないで。人よ、幸福であれ、と願い、宇宙に込めて。気持ちよ、いつも自由であれ。うれしいことも、悲しいことも、いつかそれは夢という過去となり、それは未来に思い出と思われ、そして、時代は変わっていくとしても、人よ、愛を忘れないでいてください、ね」
ミラルはまるで歌うように、そう言う。
美しい。
それは言葉の響き。
それは心の響き。
ミラルはもしかしたら、天使ではないか。そんな思いさえよぎる。
いやいや、いかんいかん。
こんな奴、どうでもいい。
敵だったら一番最初に殺してやる。
紋白蝶だってもっと優雅だ。
蝶々が舞い踊る。
3Dライトによる立体映像の蝶が舞う。
「はん、言葉を並べてみても、兵士は助かったりしないぜ。その言葉に誰が応えるというのか。殺す力のほうが強いに違いない。人よ生きろと言うのと死ねと言うのでは、死ぬほうが強いのさ。狂ってなにが悪い。麻薬で狂うのがどこが悪い。勝利が生き残ったことだなんて、誰が言うんだ。死んだほうがいい時代があると証明してみせよう。誰が時代を作るんだ。次の世代である子供が一番先に死ぬ。それが時代の真実だ。狂っているというなら、まず、自分が変われ。自分を変えてみせろ」
「そうね」
ミラルはまだ外を見ている。
そんな風景になにが見えるものか。
見えるのは自然の風景。
なんだ、そんなもの。
機械のディスプレイから見える敵機のほうが真実だ。
殺すことが時代だと、この銃が証明するだろう。
ミラル。
そのシャレ口をいつか封じてみせよう。
くだらない希望をならべやがって。
ひらり。と。くる。
ミラルの瞳に鳥を見た。
外の景色には、もちろん、暗い宇宙。
気のせいか。
「どうしたの、シラケた顔して」
背中まである金髪のおさげが優雅に踊る。
スーツのような制服が今日もよく似合っている。
すべて既製品なのに、落ち着いた雰囲気。
まさに自然体。
いることに風が吹く人。
ミッシェルがそこにいた。
「なんだよ、金ならないぞ」
「あら、ずいぶんごきげんななめね。人と人との出会いがお金だと、そう言うのかしら」
「違うなら、それでいいさ。おれの知ったことではない」
おれはふてくされてそう言う。
「ふん。いいわ、あなたのへそまがりがいまに始まったことでないのは知っているのですから。でもね、一緒にコーヒーするくらいの時間は持ち合わせているのでしょう」
ミッシェルがコーヒーをくれる。
横を見るとミラルと新入りがいない。まあ、いい。
おれはミッシェルに言う。
「軍医の検査結果は健康。モニタカウンセリングは来週に入れられた。それまで生きていればのことだがな」
おれはすねてそう言う。
「そんなこと言うものじゃないわ」
「なんだ、説教か」
「指揮が低下するわ」
なんだろう。気持ちがふんわりとする。
駿河湾だって彷徨の芽胞。
おれはにが笑いしながら敬礼した。
階級から言えばミッシェルは下だが、上官にするようにそうした。
まいったね、どうも。
どちらともなく、ミッシェルとおれは笑った。
しばらく笑っていた。
それから、ちょっと沈黙した。
スズメバチがエンジンを吹かしていふ。
おれは思いを口に出す。
「おれにはなんにもない。だから、努力とか、こんな思い、無駄だと言うのさ。ふんころがしだって、もっと利口さ」
「誰もあなたにそんなことを望んでいないのじゃなくて。だって、あなたには別にするべきことがあるでしょうに」
「そう、そうかも知れない」
「希望が見えない時は誰でも不安なのよ。そんな時によぎるのは、楽しい思いだと思わないかしら」
「そうかも知れない。まあ、そんなもんなんだろうなあ。うん、納得するよ。スズメだって、幸福の小鳥さ」
ミッシェルの言葉に、妙に素直になれる。
それはちょっとしたミッシェルの才能なのか。
それとも、おれが日がな一日忙しいだけなのか。
「あたしは自転車に乗るのがへたなのよ。それでねえ、いまもへたなのよ。そんなものよ」
「そうかもな」
変わっていくもの。変わらないもの。それがいいのかどうかわからない。ただ、日常はそれでも歩いていくのだ。これが。
「あなたも、自転車に乗れないくちじゃないの」
そう言ってミッシェルは笑った。
「うん、そうかも知れないな」
おれはちょっとくすりと笑った。
「でも、おれには迷いがある。それは確かだ。他人を心配する心だってある。どこか一人でのんびり過ごしたい気持ちだってある」
ミッシェルはうーんと背伸びした。
それからコーヒーを飲むとこう言った。
「もっとみんなを信頼しなさい。あなたは一人で生きているんじゃない。たとえば、あなたが食べているものを作り出すのに、どれだけのてまひまがかかってると思うの。人は一人では生きてはいけないのよ。感謝の気持ちが心の糧になると、そう思わないかしら。あなただけが苦しいのでなくて、人にはみんな、背負っているものがあるのだから。できないから投げ出すのでなくて、希望がないから、人は立ち止まったりするのだと、そう思う時も、あるのだから」
「ミッシェルは人ができてるんだな。でも、話し合いでは解決しないという思いが、戦争となって表れているのではないか。そう思う時もあるんだ。話し合いの時間さえとれれば、なにか変わるかも知れない。そんなことさえ思うこともある」
「戦争をするのにも話し合いはするのだけれど。でもね、人は最後にはわかりあえる。そう思うから、人は前に進むこともできる。そう思ってもいいと思うんだから。あなたが苦しむのは自由。でもね、それで過ぎていく時間があなたの心につかまえられるとは限らないのよ」
「そうか」
おれはコーヒーを飲む。
ちょっと咳(せき)こんだ。
それを見てミッシェルが笑った。
おれもそれにつられて笑った。
宇宙はその景色を暗く映している。
宇宙は冷えた空。
なのに。
宇宙はまだ広がってゆくのだろうか。
思いは眠ることはないのかな。
ふと、そんなことを思ったりした。
暗い鳴動。
灰色の雲と風。
錆びたような。
暗光の赤とヘヴィグレーの空と大地。
どこだここは。
骸骨だらけの大地を、頭の骸骨を砕きながら歩くヴァリュー。いや、それはおれ自身だった。
誰かいないのか。
言葉は響きを失い、誰も答えてはくれない。
涙でもいい。
誰か答えてくれ。
だが、殺した人は誰も答えてはくれない。
息がきれる。
赤い大地。
赤い鳥で埋まる空。
沈む足。
血の泥沼。
動くことすらできず、血の海に沈むおれ。
これが贖罪。
これが宇宙の許し。
殺しただけ人は笑顔と涙を失う。
そうだ。
おれは兵士なのだから。
誰。
だれかいる。
消え入りそうな存在感。
絶望の光。
いや、それは鏡に反射した希望、なのか。
それは女だ。
女神がいる。
いや、それはミラルだった。
白いギリシャのような服をきているミラル。
きれいだ。
ミラルが助けの手をのばす。
誇らしげに。
薄く笑顔で。
風の夢よ、群青の曲を奏でろ。
空は昏(くら)くさざめいている。
愛という花びらが、雨と降る。
美貌は巨(おお)きく。
巨大な女神が宇宙(そら)から見ている。
それは月、だったのかも知れない。
きみの涙を彫刻にして。
希望は昨日の宝箱に閉まってしまう。
さあ、あなたの相貌に眠りたい。
そうだ。
その白い服を血に染めてやろう。
世界で二人だけになったら、赤い血の海の前で、首をしめて殺してやろう。
それがおれの愛なのだから。
明日香(きぼう)よ。
世界で一番大切なものを失っても、生きていかなくてはいけないのだ。
たとえ、この世界で一人だけになってしまったとしても。
心が砕けても、生きていく。
だから明日香よ、この思いを過去にしまいこまないでおくれよ。
儚い空と夕日と雲と月。
夢。
そう、目の前にはディスプレイがある。
おれはヴァリューのコックピットにいた。
そうか。
おれは夢を見ていたのか。
時計はまだ時間がそう過ぎていないことを示している。
はっ、救いはまだない。
ただ、銃をにぎるのみ。
なのだ。
さあ、戦闘だ。
おれはヴァリューで宇宙にいた。
おれはグラヴィティモーターを全機動かす。
どれにも異常はないようだ。
立体ディスプレイには、みっつの球体が相手の機体をロックオンしたことを示す表示が映る。いままでは質量ロックオンシステムが使われてきた。大きな物質はクォークレベルの小さい物質を放出している。その放出される物質をとらえるのが質量ロックオンだ。専門的には、物質(この)宇宙が広がり、小さくなっていく多重螺旋連鎖からくる螺旋波紋がどうとかいうらしいが。だが、なにせ放出される質量がクォークレベルの小ささのせいか、認識レベルがまちまちで、どうにもいまいちな使いごこちであった。これに対して、出てきたのが三次元ロックオンだ。宇宙における相手の重力からロックする質量ロックオンと違って、三次元ロックオンはディメンションロックオンとも呼ばれ、数学における無限の湾曲をみっつ、利用することで、相手の存在を確定する、らしいそうだが、なんだか、マニュアルを読んだが、途中で眠ってしまった。ほど難解というか。まあ、これにより、宇宙での機体の存在は予測数値を複数取得して、多層構造として相手の機体の動きを確率する。これによって、相対する機体の相対数値は絶対に当たる確率へと変動していく。
宇宙での戦闘は、普段、考えもしない理論だか理屈だかを使わなくてはならない。
理論のすべては理解できないが、その効果には、パイロットには高い評価があった。
その前の質量ロックオンが不評すぎた、という面もあるだろうが。
三次元ロックオンの理論を作ったのが、敵国人であったこともあって、三次元ロックオンの導入は遅れに遅れた。
宇宙では地上の普通は通用しない。
なにせ、下、が無い宇宙では、戦っていると方向感覚がマヒしてくる。
もっとひどいと、動けなくなる。
上も下も、なにもかもわからなくなり、パニックになる者も多い。
それがベテランにさえおきる。
宇宙は高速移動するには、あまりにも狭い空間なのだ。
宇宙での高速移動は感覚、体のマヒにさえつながる。
これが戦闘でないならば、休養、リハビリしたいところだが、戦っていれば、それはできない。
それがコンピュータだの、理論だのの力で、なんとか戦っている、というべきか。
そういう意味で、兵器に乗っている兵士のほうがロボットの気分でさえあった。
その通り動かなくてはならない。
それは混乱していればそれだけ冷静な判断を迫られる状況なのだ。
戦場に正気、はあるが、それを保つのは意志の力だった。
それはたぶん、不変なことなのだろう。
いつの時代でも。
おっと。
どこへ進んでいるのか、方向感覚があやふやになる。
3次元コンパスを見ながら、ディスプレイの十字の光で方向性を探す。
うむ、敵機に進んでいるようだ。
チキキキキ。
コンピュータが敵機を察知する。
敵味方合わせて、千機はいるだろうか。
ディラックの機体が離れていく。
「どうした」
ディラックの機体を追うが、ディラックの機体はさらに離れていく。
「どこへいく」
光の明滅。
敵機からビームショットが連射される。
おれのヴァリューにビームは当たるが、重力推進スラスターでビームの力を拡散する。
敵機は量産機のガストゥールだ。
おれもビームショットするが、敵機も重力推進スラスターでビームを拡散している。
ディラックの機体からヘヴィフィールドが発生する。
こんな重力半流を見たのは初めてだ。
ディラックはおもしろいような重力緩和されたガストゥールを落としてゆく。
瞬く間に、視界は光で埋まる。
すごい。
でも。
「個人プレーはするな」
「大将、前からくるぞ」
ガストゥールが来る。
おれは重力微調整しながら、敵機との相対距離を縮めていく。
両機とも、ビームを連射しながら、それを重力推進スラスターで拡散している。
おれのヴァリューも敵機のガストゥールもビームソードを抜刀する。
重力制御の力配分を重力推進スラスターにおれは37パーセントをかけて、ビームソードに63パーセントかける。防御に力を減らした分、装甲がとけていく。
ヴァリューがビームソードを振る。
敵機のガストゥールもビームソードを振る。
交差するビームの流れ。
おれのヴァリューが敵機のガストゥールを一刀両断する。
わずかに、こちらのビームソードの威力がガストゥールのピームソードの威力をまさったか。
そして、ガストゥールの重力推進スラスター、防御の力をこちらの攻撃が上回ったのだ。
たぶん、コンマなんパーセントの差であっただろう。
ロックオン警報が鳴る。
敵戦艦からロックオンされていた。
重力推進スラスター全開で逃げるが、ロックから外れることができない。
光が視界を舞った。
戦艦の高出力エネルギービームがおれのヴァリューをとらえる。
光の流れにヴァリューは、その機体が振動でびりびりする。
戦艦の高出力ビームショットだ。
ヴァリューの重力制御スラスター全開でビーム拡散するが、もう限界だ。
加負荷になって、ヴァリューはすぐに破壊されてしまうだろう。
ここまでか。
いや、ここからだ。
まだ終わったわけではないではないか。
ビームの中では移動はできない。そもそも、重力制御の力はすべて全開で防御にまわっている。
移動して逃げることはできない。
逃げることができないなら、進めばいい。
おれはサブ制御パネルを操作する。
時間との勝負。
戦艦からのビームを重力変換ですべて前への推進力に変える。
前方の高出力エネルギーはすべてヴァリューの背の重力制御スラスターから排出される。
圧倒的なパワーだ。
ヴァリューはすごいいきおいで前に進む。
前から来るエネルギーに進むヴァリュー。
センサーが戦艦をとらえた。
おれは実剣を抜刀すると、戦艦のビーム砲を一刀両断した。
巨大な砲塔から火花をあげながら、後退していく戦艦。
戦艦には惑星級の重力制御装置があり、あらゆる攻撃は無効化される。それに一撃を加えたのだ。向こうも驚いただろう。
ヴァリューは重力制御装置が加負荷になって、宇宙を漂う。
全システムを停止させて、敵機からのロックオンを防ぐ。
暗い宇宙に戦いの閃光や、爆発の光がまたたいている。
「お母さん」
少年は大地の上から夜空を見上げる。
「あの星に願いをかけたよ」
母はそぶりをふる。
「いけません。あれは不幸のまたたき、それはとても暗い真空の共鳴。そこでは誰も歌うこともなく、それはとても暗い空の下のことなのですから。あなたの存在自体が星であり、願いなのだということを思う日が来ることを、願っているのですから」
おれには母がなにを言っているのかわからなかった。
けれど、いまはその光の中にいる。
これも因果なのか。
あの光に願いなどかけたからなのか。
いいや、ここにいるのはみずからの意志、だから。
また、おれはソグボウルを手にする。
どのくらいの時間がたったのだろう。
戦闘中域からずいぶん離れてしまった。
すっかり、戦いの閃光(せんこう)から離れていくおれのヴァリュー。
軌道変更、なんだ、ディスプレイが消えていく。故障か。
世界が変転する。
光の中に女が現れる。
これは、ディスプレイではないようだ。
というと、おれが見ているものか。
デルタ症候群。
すっとおれの脳裏をそんな言葉が心よぎる。
戦いの緊張と疲労で見るという幻覚状態のことだ。
まいったな。
「おまえか」
女の人が話かけてくる。ひらひらの白と赤のドレスを豊かに翻(ひるがえ)している。声まで聞こえるとは、もう重症だな。
「おまえが奴(きゃっつ)の英雄か」
なんだ。英雄?
「おまえ、蒼い機体のなんかか」
「そうだ」
金色(こんじき)があふれる金髪が視界いっぱいに広がっている。あー変な奴とまた会ってしまった。青い機体と知り合いなのも考えものだ。
「なにかおれに用か」
「おまえに歌うたおう」
「なに? 歌?」
「おまえが苦しむ姿が見たいのだ」
「蒼い機体の敵か」
「違う、といっても、なにも変わらないだろうな」
幻想な空間の中、女が歌う。
「おまえが殺した人々の声を聞け。もう二度とない日々をかえりみろ。おまえの一撃に砕けた人を見ろ。苦しみにもだえながら死ぬのがおまえの運命か。命など人の思いの外のこと。それをおまえが変えられるなどと、なぜ言えるのか。さあ、その道を示せ。苦しみながら大地をもだえろ。おまえの変わりなど、その銃弾ほどないこと。おまえの言葉など心など歌などその一弾にすぐに波紋して消えてしまうものだろうに。消えろ。その思いのままに」
おれは動悸が激しくなる。
なんだこの歌は。
苦しい。
心が痛い。
なにかが見える。
いやだ。
見るな。
見せるな。
機体の中のパイロットが吹っ飛んでいく。
そうだ。
おれは見ていなかった。
その思いの数だけ。人生があったというのに。
そうだ。
おれはこの手が人の息の根を止めてきたのだ。
何人死んだら戦いが終わるんだ。
何人殺したら、おれは死ぬんだ。
ギギイン!
青い機体が女に斬りかかる。
なんだ。
青い機体。
助けてくれたのか。
−−消えろ。
「あっはっはっはっはっ。またくるわ」
そう言って、女は消えていく。
しばらく息がきれた。
おれは青い機体を見る。
「いい友達をおもちのようで、結構なことでございますねえ、ええ?」
−−すまない。
あやまったよ。
自称神様が。
「神様があやまっていいのかよ」
−−いい。
素直なのか、わかりづらいのか。
まあ、いい。
いまはすぐに戦闘域にもどらなくては。
おれはディスプレイをチェックする。
つつがなく、起動する三次元ディスプレイ。
はっ、まだツキはおれにあるようだ。
「さっきの奴はなんだったんだ」
シークエンス手順をしながら、青い機体に聞く。
−−勝利の女神だ。
「それはずいぶんたいそうなものと知り合いだな。ありがたくって涙がでるぜ」
通信ののち、ヴァリューは回収された。
おれはヴァリューに搭乗する。
おれはヴァリューを動かす。
閃光の中へと移動する。
まだ、戦いは続いていた。
おれは、ヴァリューは戦いの中につっこむ。
ギイン
アームチェンジの剣を腕ごと斬る。
樹の葉が風にそよぐ。
人は武器など知らず、災害におびえ、自然と生きていた。
季節は秋。
いや、春なのか。
花が芽吹き、緑は延々とどこまでも自然世界を広がる。
白いテラス。
装飾美しい白いイスに白いテーブル。
瑠璃(るり)という少女とおれはお茶を飲んでいた。
メイドの成年女性がお茶を入れる。
「今日はお日がらも良く」
瑠璃(るり)がそう言って笑った。
「そうだな」
おれはそう答える。
今日は天気がいいものな。
お日様が笑ってるように照っているぜ。
「いい笑顔ですこと」
瑠璃がそう言う。
なんのことだ。
そうか、
それはおれのことだ。
おれはいつしか、笑っていた。
宇宙空間を漂うおれとヴァリュー。
まだ生きているのか。
通信が回復していない。
ディスプレイも起動しない。
スリーディーディスプレイがない時、360度、特殊強化合金、正確には流動光合金とか言う。しかも透明なため、宇宙が見える。
全面の窓からは、宇宙空間しか見えない。
自分がどこにいるのかもわからない。
光なく、漂う暗い空間。
−−はっはっはっ、我が暗闇にとらわれたら、二度と光の世界には帰ることかなわんぞ。
雰囲気のある昏(くら)い声がどこからともなく、おれの心に響くって。
「そんなこと言って楽しいかおまえ」
おれは青い機体につっこみいれる。
−−さてね。希望はいつも星の中にある。そういうことだ。
確かに、空は360度、すべてが星である。
なにもない、宇宙の空。
どこにも下はない。
もうなにもかもどうでもいい。
そう、こういう時は歌うものだと誰かが言っていた。
おれは歌を時となす。
「破壊は悪魔の歌。苦しみぬいた人生なら、誰かが幸福になるというのか。幻想のシーンにワルツを踊る日々。狂い舞え桜の花びら。空前の夢と愛が出会うとも。椿(つばき)。心の羽を安め、安堵の息さえ、過去の夢だとしても。葉(は)葉(は)葉(は)葉葉葉葉葉葉葉葉葉葉(ばわふる)。瑠璃(るり)色の景色。世界さえ、神様のくしゃみ。ゆるぎない力は愛のため。三角の愛、四角い愛、円(まる)い愛。地球愛(そらよ)。自由な鳥よ、この固定観念と踊り舞いなさいな。希望という風だけが心をうるおすとも」
ジジ……ジ……
「兄さん、聞こえますか」
ディスプレイの映像と通信が回復する。
また、死に損なったか。
生きるのは死ぬため?
それとも、誰かと出会うため?
愛ゆえに苦しみ、愛ゆえに癒される。
人はその気持ちは愛の反映。
だから、おれはいまここにいるのか。
「だいじょうぶですか」
「真空の宇宙では、歌さえ、誰にも聞こえないんだな」
「聞こえますよ」
「え?」
「兄さんの歌だったら、きっと心にいつもあるのですもの」
レミーはちょっと悲しそうに、ちょっとうれしそうにそう言った。
「そうか」
おれの機体は回収された。
ディラックがいる。
何となく、おれもそばでコーヒーを飲む。
「重力圧縮コンクリートに閉じこめられてこんなところにいる。生まれた田舎が懐かしい」
「あんたからそんな弱音が出るとはね」
「若いの」
「なんだ」
「戦争は好きか」
「はあ。質問の意味がわからないな。それは軍人としてか」
「いや、なんでもない。中年老人兵のたわごとさ。でもな、長いこと宇宙を漂っていると、心はその色を失いがちだ。迷彩された心では、誰とも出会えないぞ」
「父親みたいなこと言うなよ」
「時代は変わった。いや、変わったのは人なのかも知れない。自然は変わらず、古代の時から、人とあった。自然と触れている時が、人がほんとうに生きた意味を感じるのだと、そう思う時もあるんだ」
「だったら戦争だって自然から生まれたに違いない。自然を見ている時よりも、銃の稼働チェックをしている時が落ち着くぜ」
「若い時はおれもそうだった」
「一緒にすんな。いや、失敬。確かにそうなのかも知れない。でも、おれにはあんたみたいな人生ではない。にぎった銃がおれの真実だ」
「この宇宙だって、きっと戦場ですら自然には違いない」
「そんなこと聞きたいんじゃない。もっとアームチェンジの使いかたを教えてくれ」
「自分の存在を知れ。その時、教えよう」
ディラックはヴァリューに乗ってゆく。
おれはディスプレイでミラルを呼ぶ。
「へとへとだ、休息がとれるか」
テレビモニターの向こうでミラルが考えている。
「三時間くらいならね。それと」
「なに」
「エロ本ならないわよ」
「いるかぼけえ」
まったく、パイロットが交代制であるのは常識だぞ。それは第二次大戦で日本軍のパイロットが交代なく、でずっぱりで戦い続けたのに対して、アメリカは交代制であった点からも優位性が見てとれる。
ふと、ミッシェルが横にいた。
「整備もひまなのか」
「整備だって、交代制よ。あなたのように、忙しい人ばかりではないのよ」
「ふーん」
「ひまなら遊んであげるけど」
「じょうだんでしょ。これから仮眠だよ」
「あら、そうなの。それじゃ、また今度、ね」
ミッシェルは定重力の中を、泳いでいく。
「ひまなことはいいことだ」
おれは仮眠室で仮眠をとる。
定重力の中、ふわふわと浮遊しながら眠る。
めざましが鳴る。
うーん、寝不足はお肌の大敵だと言うのに。
つかむところがなくて、ばたばたしてしまう。
手が差し出される。
ミッシェルがつかまえてくれた。
「ひまそうだな」
「あなたよりはね」
「そりゃどうも」
「顔色悪いわよ。楽しくないことは悪よ」
そう言ってけらけらとミッシェルは笑う。
「戦争なんだ。楽しいわけあるか」
「義務は義務。それでも、あなたに夢がありますように」
そう言って、またにっこりした。
「整備は気楽でいいや」
おれは笑った。ちょっと笑った。
「コーヒーでもどう?」
「いや、時間がないのでね」
「ご武運を」
「祈ってくれるのか。そりゃ、まあ、勝利の女神でもいたら、それにこしたことはないだろう」
「ミラルさんなら、勝利の女神でなくて」
「はっあんなのつまんない女さ」
「ごあいさつね、あたしだって女よ」
「それはそうだが、男にだって女を選ぶ権利はあるさ」
「それはそうね。女だって、いい男を捜しているのだから。あなたはばかね」
「なに言ってるんだ、おれは優秀なパイロットだぞ」
「ばかが一番強いのよ」
「そうか、それは生き残れるってことだな」
「そうね」
「この戦いも生き残れるだろうか」
おれは窓ディスプレイに映し出された昏(くら)い宇宙と星々をながめる。
「不安には勇気を、私の心配があなたの気持ち足り得ますように」
「おおげさだな」
おれは壁をけって仮眠室から通路に出る。
おれは別のヴァリューでまた出撃する。
ミサイルが四方八方から飛んでくる。
なんだ、時代錯誤な。
アームチェンジの重力制御能力は光速に平行する亜光速ビームや、光速の90パーセントを越える特殊な弾丸いがいは無力化する。
つまり、ミサイルはいっさいアームチェンジには通用しないのだ。
ミサイルからビームショットされる。
しまった。
ミサイルは偽装か。
おれのヴァリューは事前にプログラミングしておいたプログラムによって、そこにとどまったまま、全方向回転を始める。
ヴァリューの背中の重力制御スラスターが全方向に展開して、ビームを歪曲、ビームは幾何模様を描く。
ビームは元の方向に戻っていき、ミサイルをたたき落とす。
この時ばかりは、回避プログラムに感謝した。
動きを止め、周囲を索適する。
いつのまにか味方機の信号が近くにない。
おれのヴァリューは宇宙で孤立していた。
ロックオン警告が鳴る。
それも複数。
18機の銃からロックオンされている。
普通は観念するところだ。
おれは大きな粒子エネルギー球をはじいて、粒子球の螺旋を起こす。
粒子球がヴァリューの周囲を踊る。
複数のビームショットが放たれる。それを粒子球が吸収、拡散する。なんとか逃れた。だが、囲まれているのは変わりない。おれは粒子エネルギーロックビームを18機の敵機全部にかける。迫ってくる18機の敵機。
圧倒的な数だ。
だが、迫ってくるにしたがって、機体がぶつかりあい、方向を失う敵機群。そこをおれは撃つ。
ギイン!
爆発の中、さらに近づく敵機を斬る。
ガイン
敵機の実剣の突きをいなす。
ギギギガン、ギイン
そのまま剣を機体の銅にうがつが、途中で剣が折れる。
ギギイン!
左手の実剣で敵機を一刀両断する。
ガギイン!
右手のビームサイドで敵機を一刀両断する。
ガン
敵機を蹴り上げる。
ギガギイン!
敵機を一刀両断する。
ギイン!
左手の実剣で敵機をつらぬく。
そのままに二機目を一刀両断する。
敵機が下からくるのを迎え撃つ。
斬(ギイン)!
後ろか。
一刀両断(ギガギギギイイイン)!
受け止める切っ先。
切(ギ)
切切切切切切切切切切切(ギギギギギギギギギ)
大切(たいせつ)なことは忘れてしまったのですか(瑠璃)。
前か。
切(ギ)
破片 − !(ギイン)斬(ギイン)! − 破片
忘れてしまった気持ちはとりもどせますか(瑠璃)。
ガギギギギン!
敵のアームチェンジを一刀両断する。
爆風を両腕の盾で防ぐ。
連中を三機まで減らすことに成功する。
戦闘は優勢に見えた。
だが。
複数の機体が合体、変形した。そんなばかな。戦闘機が合体するということは、戦力を半減させる行為に等しい。そんな意味がどこにある。
違う。
三体の機体のジェネレーターの複合共鳴現象で、戦場を無限歪曲させたのだ。
つまり、一種の掃除機のようなものか。
光の三角形に引き寄せられる。
あの先はどこか、別の宇宙にでもつながっているのだろうか。
それもいいかも知れない。
それで終わるならば。
いや、いけない。
なに弱気になっている。
動け。
だが、ヴァリューはその動きを鈍らせている。
これが限界なのか。
立体ディスプレイを操作する。
エンジンとしての理論数値のポテンシャルはまだあるはずだ。
確かにある。
が。
だが、余力を使ったとて、その場しのぎでなんになる。
いや、相手の機体は逆に動けなくなり、立場は逆転するはずだ。
考えろ。
この、瞬間に。
そう、たとえば逆流していないで、この流れにさらにヴァリューの全機関で速度を上乗せして超高速移動する。
そんな高速移動して、おれが気絶でもしなければ、いけるのではないか。
理屈ではそうだが、ためす意味があるのか。
そもそもチャンスは一度きりだ。
すでに光の三角形に飲み込まれるヴァリューが出始めた。
どうする。
考えている暇(ひま)はもうないかも知れない。
いくか。
退(しりぞ)くか。
もう少し、考える時間があればいいのに。
それはだめだ。
もう、時間はなさそうだった。
おれのヴァリューは猛スピードで三機の敵機に向かう。
フルスロットル。
全開。
である。
それは一瞬のことだった。
敵機の三角形の光を抜けられると思った時、光に吸い込まれかかった。
計算違い。
だった。
おれも、ここまで、か。
そう思った。
年貢の納め時らしい。
さよなら。
だが。
味方のヴァリューがおれのヴァリューに体当たりした。
そのいきおいでおれの機体は光の三角形の裏側、力のおよばない安全地帯に逃げ出せた。
ぶつかった機体はディラックのものだった。
光に包まれるディラックのヴァリュー。
おれはすぐに後ろから三機の敵機を撃つ。
爆発が視界を包んだ。
「ディラック!」
おれは叫んだ。
それはいままでにないほどの声だった。
なにかが煙の中から出てくる。
それはディラックのヴァリューだった。
推力はまだ生きているようだ。
通信には応答がない。
おれはディラックのヴァリューに近づく。
煙から敵機が一機、出てくる。
いや、二機目も出てくる。
ギン
なんとか剣を受け止める。
もう一機が後ろから来る。
手がまわらない。
ザギン!
味方のヴァリューが敵機を一刀両断する。
さらにビームショットも決めて、もう一機もしとめる。
「だいじょうぶですか」
それは新人の女性パイロットだった。
「こちらは問題ない、周囲を警戒してくれ」
「了解」
おれはディラックのヴァリューを支えるように触れる。
振動通信がオンになる。
「た、いちょう」
ディラックの声がする。
「だいじょうぶか、ディラック!」
ディラックはまるでぶつぶつとでもつぶやくようにいう。
「おれ、は、もう人を殺したくない、だけなんだ。それだけなんだ。それが戦場ではおかしいことなんだ。怖い。人を殺すことが怖い。殺されることが怖い。誰が生きて、誰が死んでいくのか。それは誰が決めているんだ。おれたち兵士なのか。軍上層部か。神か。それとも、なにか、みんな誰かの死の上に生きていることに疑問すら感じないで生きているのか。それが怖い。怖いこの恐怖感をなくすことができるなら、なにもいらない。ほんとに、なにもいらないんだ。なにかを犠牲にしなくては続けられない社会に、なんの意味があるんだ。そんな社会に誰がしているんだ。おれか、おまえか、だれなんだ」
おれは黙って。
ただ一言、「おまえが無事で良かった」と言った。
ディラックは戦艦に収容されるまで、なにか、うわごとのように話していた。
30分後、収容され、ディラックは助かった。
医師の診断も健康ということだった。
だが、ディラックは除隊を希望して、予備役兵として、一時、本国へと帰って行った。
おれはなにも言わなかった。
言えなかったのだろうか。
おれはなにか言えば良かったのだろうか。
それはいまもわからないままなのだ。
戦場には兵士がいるそこにはもうひとつ大事なものがある。
きっとそれをディラックは感じていたのだ。
おれはただディラックに幸運を願っていた。
そんな気持ちだったんだ。
「孤独に耐えた分だけ、この狂気に勝てる」
誰が言ったんだ。
戦艦の廊下には、誰もいない。
−−自分の言葉だろう。
青い機体がそう言う。
そう。
おれは自分で自分に理解を求めていた。
なんのために。
廊下の壁には宇宙すべてが映っている。
広大な宇宙。
その前に、人の悩みなどほんの、小さなものだろう。
すべての人の願いが、この星となって、宇宙にあるように。
おれは、誰にでもなく、そう、思ってみたんだ。
そんな、夜だったんだ。
「なに暗い顔してるの」
ミラルがいた。
「なに、落ち込んでいるだけさ」
おれはなんとなく、素直にそう言った。
「いつになく素直ね。戦いは人を時の螺旋にいざなうからかしら。神様はよりどころであって、逃げ場所じゃないのよ」
「わかってる。そんなこと。なんとでも言ってくれ」
おれはため息ひとつついて、ミラルにさらに言う。
「こんな、たいした金にもならないことしているなんて、なんでだろな」
こつん、とミラルがおれの頭をげんこつした。
「あなたの存在をゆるす現実ばかりではないのよ。感謝して生きなさいな。あなたが必要とする理想の日まで」
おれはほっと一息つく。
「なあ、おれは間違っているんだろうか」
「それは上官が決めることでもない。もしかしたら、神様だって決めてはくれないのかも知れない。あなた自身で答えを探してごらんなさいな」
ミラルはそう言うと笑っている。
「そうだな」
おれもちょっと笑っていた。
こんなに素直に笑うのはひさしぶりだった。
「あんたが上官で良かった」
おれは観念する。
「そう、それが現実だとしても、うれしく思います。一緒に未来を見ることができますように思います」
ミラルはなんとなくそう言っていた。
後日、ディラックからきた手紙には、牧場で働く姿と、お元気で。という言葉だった。
そして、また、おれは戦場にいた。
ヴァリューを駆(か)るおれ。
風がヴァリューに吹いてくる。
風のほうには草原が丸い地平線まで続いている。
空は雲と蒼のハーモニー。
空から鳥の羽が舞う。
空から伸ばされた手がある。
天使がいる。
女神のような。
絵に描かれたような人が。
安息がおれの心を彩る。
そうだ。
こんな瞬間を待っていたのだ。
さあ、おれを助けてくれ。
おれはその手に手を伸ばす。
あぶない。
おれはとっさにソグボウルを回転させる。
ヴァリューが宙を一回転した。
ガストゥールの斬撃がヴァリューを通りすぎる。
回転の反動を利用してガストゥールを一刀両断する。
宇宙に光が閃(きら)めいた。
おれのヴァリューが破片とともに宇宙に漂う。
静音モードで宇宙を漂うヴァリュー。
おれはどっかと骨格シートに身をあずける。
しばらく宇宙を眺めていた。
「声がした」
ーーなに?
沈黙が宇宙を闇の色と決める。
おれは宇宙を眺めていた。
自然と言葉が口をでる。
「この兵士も天使を見ただろうか」
ーー……。
その沈黙がやさしさだと思えた。
おれはさらに言う。
「この世界は丸くなんてない。それは輪廻を回転する大地だと……、誰の言葉だったかな」
ーー哲学とか言うものか。
「そうかな。ロマンチストのくどき文句かも知れない。心はきっと青いんだ。空のように。宇宙に来たからそう思える」
「宇宙が自分を知りたいと思った。だから人は生まれたんだ」
父はいつも宇宙を見てはそんなことを言った。その瞳は星々のように輝いていた。
とめどない言葉をいくつか言ったようだが。
どうでもよく、宇宙をただ漂っていた。
コックピットのヴィジョンには螺旋する白銀の人工建造物が無数に地平線となって連なっている。螺旋の地平線。それは宇宙菜園であり、ここは非戦闘地域だ。敵機の気配なく。あるのは闇の空だけ。
花火が宇宙を彩る。色とりどりの緑と蒼と赤と黄色と茶と紫とピンクの光が宇宙に溶けるのは、豊作を祝うため。星月夜(ほしづきよ)。見とれていた。いいのだ。それで。鴉(カラス)が宇宙を飛ぶ。それは闇に溶けていて、誰も見ることのない飛翔翼。ヴァリューは迷彩モードで宇宙に溶けている。このままならば、母船であるテアイテトスとてもおれのヴァリューを見つけることはないだろう。
波紋が宇宙に色鮮やかにいくつも広がる。
螺旋する波紋。カプリコンか。重力貨物列車であるカプリコンが鉱物や作物を運んでいるのだ。土星の輪ほどもある波紋が列車のレールのように続いてゆく。カプリコンが航行してるのは、かなり遠くのはずだが、その巨大さゆえに、見える波紋。フイルムのように列車自体は見えない。空間の揺らぎだけが、浮かんでは消えてゆく。カプリコンは直進してるはずなのに、波紋は螺旋してる。数分で波紋も見えなくなる。宇宙はまた静寂を映し出す。
ソグボウルに触れると、ヴィジョンが映り、スラスターの起動音が伝わる。おれはヴァリューを疾駆させる。星座が後ろへと風景となす。
旗艦までは最短距離で五分かかるな。
航路にはなにもないならば、最大船速で移動する。
なんだ?
映像ヴィジョンには人影がある。どうやら人大のロボットのようだ。作業用か。おれはヴァリューを静止させて、ロボットを手のひらにとらえる。そのロボットはこちらに手を振っている。
ロボットが踊る。
それはへたくそで、リズムもなにもあったもんではなかった。
けれど、なにか、心の奥が熱くなるような気がしてくるのだ。
おれはラジオをチューニングする。いかした曲が流れてくる。聞こえてるはずはないのに、ロボットはリズムに合わせて踊ってゆく。
見たことのない踊り。
気持ちが風を感じる。
宇宙にも自然がある。それは記憶が宇宙とつながる時間なのだ。
ロボットはフィナーレを飾る。
おれはヴァリューで手を振る。
ロボットも手を振る。
船がいる。見たところ、武装はなさそうだ。見たこともない作業船だ。
ロボットはその船に戻ってゆく。
船はゆっくりと航行してゆく。
おれはまた、ヴァリューを走らせる。
ラジオをチューニングすると、自然の音をビージーエムに、なにかを話している。
どうでもいい話しが宇宙のビージーエム。それは平和の歌のようにおれには聞こえた。それは気安めかも知れないが、なんだか心地よかったのだ。
おれはヴァリューを駆る。
暗い宇宙が続いてゆく。
そう。
「自然は変わらない。人が変わってしまったのだ」
ーー世界を変えるために人を天使として神は使わした。
「なに?」
ーーそう言った英雄もいた。
「いつの時代の人だよ」
おれは宇宙(そら)駆ける。
五千の敵と味方の中を飛ぶ。
雷鳴の中。
暗い宇宙に今日も星が輝いては消えてゆく。
それでも。
戦いは、続いていた。
次元戦 克明
三機のブラックセメリス、それは銀色のボールがくるくる回転してる。三機のボールが共鳴している。暗い雷撃が繰り出される。グラビテイストームと呼ばれる、重力砲撃だ。
おれのヴリューは金属音をがなりたて、吹っ飛ばされる。
−−力を貸してもらおう。
「いまか?」
まあ、ヴァリューも動かないからいいか。
「よろしく」
おれは草原にいた。
青空には巨大な月が見える。
地平線の草原。
おれは青い機体に乗り込む。
「それで、どいつだ今度は」
−−もういるぞ。
背後か。
おれは振り向きざま、一刀を振るう。
ぎいん
青い機体の紋章剣を片手で受け止めている機体。
−−闇の。
「闇の機体?」
どうでもいい。
闇の機体を一刀両断する。
闇は揺らいだだけだ。
遠くの山がふたつになる。
「おやおや、自然破壊とは、よくないねえ」
なんだ。
ーー避けろ。
蒼い機体がなにかにはじかれる。
鈍い振動。
「なんだ。相手は動いてないぞ」
ーーあらゆる存在には火の翼がある。
「具体的にはどういう意味だ」
ーー鏡は上下は反転を許されない次元。
両腕の盾で防いでいるのに、機体全体に響く攻撃。
ーーそれは……。
「聞いてる時間はない」
おれは横に移動させつつ、大地をける。上から一刀を加える。
闇の機体が消えた。
蒼い機体よりも、闇の機体は上にいた。
上をとられた。いま目の前にいたのに。
防御。腕が背中には届かない。
だが。
そのまま何もなく、大地に降りるニ機。
なんだ。攻撃してこないぞ。
「はっはっはっ。おまえの英雄もたいしたものだ」
「皮肉か」
「いい筋をしている」
闇の機体が水の影のように揺らぐ。
なんだ。
「笑っているのか? 機体が。いや、パイロットが笑っているのか」
「シンボリックマーナストも使えないのか」
闇の機体はさらに笑う。
「なんだシンボリックマーナストって。魔法か」
ーー違う。
「攻撃技かなにかか」
ーー違う。
「教えろって、いま目の前に闇の機体がいるってのに」
ーー……。
闇の機体が来る。
奴の一刀をかわして闇の機体を一刀両断する。いや、一刀両断されたのは自分のほうだった。
青い機体が動きを止める。
「どうなった」
空が見えた。
青い空だ。
「負けたのか」
ーーいや、違う。
「なぜだ。負けただろう」
ーー闇の機体は前の英雄を失ってから、新しい英雄を迎えていないのだ。そのため、この戦いにおいて、闇の機体、レズストックドークのカウントはない。
「好きで戦っているってのか」
ーーそうだ。
おれは闇の機体を見る。
「いや、違う。誰かいた」
ーーなんだと?
闇の機体はゆっくりと去ってゆく。
「次は勝つぞ」
闇の機体は笑っていた。
青い機体の扉が開かない。
扉を開けようとする。
二度三度けって、やっと開く。
扉が開く。
おれは青い機体からなんとか抜け出す。
青い機体から木や草や苔(こけ)が生えている。
青い機体から。
これがシンボリックマーナスなのか。
青い空にある雲は素早く過ぎてゆく。
それでいて風は穏やかだ。
空は夕日から夜空へ。
夜空の星々のひとつが流星となるが、それは弧光(アーク)を描きおれの前に来る。
それは青い機体であった。
大地の青い機体は森林となっている。
ーーさて、どうする。
「決まっている」
おれは青い機体に乗って、闇の機体を追いかけた。
丸い大地を駆ける。
星空が回転する。
まるで絵に描いたような世界。
見ている分には綺麗だ。
闇の機体がいた。
岩に腰掛け、黒い鳥を肩に止まらせている。
「勝負だ」
闇の機体は空を見上げる。
なんだ、こっちは見もしない。
この。
前とは違う。
ぎいん
岩が砕けた。
闇の機体の肩の鳥が飛んでいく。
闇の機体の装甲が砕ける。
見たか。
「なんだ、鳥は嫌いか」
闇の機体は歩き出す。
こちらなどお構いなしだ。
なにか口ずさんでいる。
「ふぃるふぃあふぃにあ、ふぃにあにあにてにみて」
歌かなにかか?
岩が砕け上がる。
呪文か。
闇の機体は岩の階段を歩いてゆく。
「待て」
おれも青い機体で駆け上がる。
「まだ知らないのか」
「なにがだ」
闇の機体は空を見上げている。
「自分のことは自分で決めろ」
「言われなくても!」
おれは上段から一刀両断する。
闇の機体のケリが青い機体を砕く。
それは一瞬の相打ちだった。
おれは破壊された青い機体から出て来る。
闇の機体からも搭乗者が出て来る。
「おまえは……ミラル」
「ども」
ミラルは笑って敬礼する。
「その世界で英雄たるのは一人じゃないのか」
−−彼女には借りがあるのでな。
「どんなだよ」
「それじゃ、ランチでもおごってもらいましょ」
ミラルが笑いながらそう言う。
「おごりなら」
「決まりね」
おれとミラルは歩き出した。
続
スルード氷土
氷河の大地。
氷点下の氷が続いている。
氷が一年中溶けない。
夜の星が驚くほど鮮明に見える。
基地のタワーヘッドに、おれは立っていた。
「なにをしているの」
ミッシェルがいる。
おれは空を見ていた。
満天星空。
ミッシェルも一緒に見ている。
時間が過ぎてゆく。
なにも言わないが、それはおれにとって、とても充実した時間なのだった。
喫茶、とうへんぼくでコーヒーを飲む。
「夜勤もたいへんねえ」
ミッシェルが言う。
「それに付き合うほうもな」
がらんとした室内には、ミッシェルとおれだけだ。
薄暗い室内には、光粒子が正確な星座をトレースした星のイルミネーション。
窓の外には満天の自然の星空。
外気の寒気のため、光粒子暖気をしている。
息が白い。
ほのかにまたたく花びら。それは立体ライトが作り出す光の幻影(ミラージュ)。
外の氷河という自然の芸術がビルのライトに照らされている。
闇の地平線とビルのライトに照らされた氷河。
幻想的な空間。
梟(ふくろう)が外灯に止まっている。
梟が獲物へと滑空する。
なにかをとらえた梟が、また飛び立っていく。
氷のグラスを手袋で取る。
湯気ならぬ、冷気がグラスには舞っている。
ミッシェルがグラスでメロディを響かせる。
ひとときの緩やかな風がほほを……。
テーブルの横をこたつがふわふわと移動する。
それに座っているのはミラル。
見なかったことにしょう。
横にぴたっとこたつが止まる。
と。
ミッシェルがミラルの頬をびよーんとのばす。
ミラルが笑う。
ミッシェルも笑う。
これで通じてるんだ。
宇宙でセンスを磨いた新世代のニュウタイプではなく、重力に魂を引かれる古きオールドタイプにはわからない世界だ。
とりあえず逃げよう。
廊下を歩いている。
と。
こたつに座っているおれ。
ミラルがこたつでお茶をすすってる。
「これはこたつというアトムの原型となった」
「違うから。それに軍事費でこんなもん作るな」
「でも、評判いいのに」
「そうなのか」
倉庫から出ていくこたつ。
「なんで外出るんだよ」
「なんでかなあ」
「動かないのか」
「いえいえ」
ミラルが持っているのはテレビゲーム機のコントローラー。
やっぱり逃げよう。
こたつが急カーブする。
「心配しないで、お茶ならまだあるわ」
「意味ねえー」
通信でレミーが話す。
「異変があるので、ヴァリューで出てください」
おれは氷に転がり降りると、倉庫に走る。
ヴァリューに搭乗する。
「寒冷地だから重力制御は暖気にいくらかとられる」
メカニックが口早く話す。
おれはプログラムを起動、データをチェックする。
ミッシェルが笑顔で手を振っている。
おれはグッドラックの手信号を表す。
ズシン
ヴァリューが倉庫から出る。
おれはビジョンをいくつか見る。
周囲は銀色の流砂。
いわゆるダイヤモンドダストというやつだ。
通信ビジョンにレミーが現れる。
「バードカラスからのデータです」
おれはデータを一別する。
雲。がある。
なんだ。
雲にしては数値がおかしい。
これはなにかある。
おれはヴァリューを発進させる。
基地の後方に雷。
雲と大地のあいだに雷。
それも尋常ではない数の雷。
無数の雷が連なる光の柱がこちらに進んで来る。
なんだこれは。
自然現象なのか。
光の柱の下の大地は砕けていく。
強烈な力。
まずいな。
この移動速度、方向は基地のほうに向かっている。
おれは通信をオンにする。
「基地の人員の退避を」
「無理よ」
通信ビジョンにはミラルがいる。
「この速度では間に合わないわ」
「そんな……」
基地の倉庫から戦艦が出て行く。
間に合ってるじゃないか。
なんだ?
大地のほうが光の柱よりも速く砕けてゆく。
これは。
おれは光の柱の底にビームショットする。
雷がビームショットを防ぐ。
どこにビームショットしても雷が防ぐ。
おれはヴァリューを上空の雲の中に突っ込ませる。
雲の中にはガストゥールの機影がビジョンに出る。
その数は三機。
おれは三機の真中、光の柱の上に踊り出た。
三機のガストゥールが抜刀して接近して来る。
おれは抜刀しない。
三機が目の前に。
がきん
ヴァリューはケリのみで三機のガストゥールを弾き飛ばす。
ガストゥールは雷撃にあい、落ちてゆく。
「兄さん、もう退避してください」
レミーの通信。
奥にミラルがいる。
ミラルがぼそっと、「光の中は空洞のようね」と言った。
そうか。
おれはヴァリューを光の柱の中に突っ込ませる。
全速力だ。
雷撃が否応なくヴァリューにそそぐ。
速度と、雷撃に装甲が弾き飛ばされる。
ぼろぼろになりながら、地面が見えて来た。
粉塵をあげながら、ヴァリューは大地に実剣を打ち立てる。
がきいん
無数の雷がその剣に一点集中する。
大地からなにか巨大な円形のアームチェンジが出て、爆発する。
おれはヴァリューを上昇させるが、速度が出ない。
雷の集中の光が下から追って来る。
ここまできて。
ぎがぎいん
雷のすべてが落ちる。
いや、それはヴァリューにではなく、一本の木であった。
雲は晴れて、また星空が広がる。
ヴァリューはゆっくりと降下してゆく。
その木はちっぽけで、それでいて、大きく見えた。
後年、次の年に、その木に葉が茂ったことを聞いて、なんとも言われぬ思いがこみあげてきた。
ヴァリューはゆっくりと、木のそばに降り立ったのだ。
「この木はあなたの恩人ね」
横にミラルが浮遊こたつでいた。
「そうだな」
氷河の大地はまだ、一月以上は夜なのだった。
光粒子のライトが、木を照らしていた。
数日後、ヴァリューとおれは宇宙にいた。
地球を眺めているおれ。
「なにをしてるんですか」
レミーが怒る。
「オッケイ」
おれはヴァリューを動かす。
戦いは続いていた。
グルグスド穂道
おれとミラルは喫茶疾風光にて、席に座っている。
暗い宇宙が窓からは広がる。
向かい席にはミラルがコーヒーを飲んでいる。
ミラルがカップをテーブルに置く。
こちらを見るミラル。
いざ、勝負。
「あたしはキャビア揚げのラーメン風ブルンストック地方階層エイのジャポン27号花びら舞う富士山巻きを頼むわ」
そっちがそうくるなら。
「おれはフルパワー蟹(かに)と蛍舞い踊る落雷という名のお茶とマーブルミルクハーブティーのあえもの山菜猫盛り30分で食べたら無料になるを頼むよ」
お互いにらみ合っているが、一息つくとお互いにこっとなる。
「大人気ない」
「そうだな」
お互いがお互いを奢(おご)るぞという話はそこまでとなる。
まあ、いい。
「決着は今度つけよう」
「いいわよん」
ミラルは笑いながらうきうきと言う。
窓の外は暗い宇宙。
闇の空をいつまでも見ていた。
「ここなんだな」
「そうです兄さん」
機械のどんぐりが暗い宙(そら)にある。
これはグルグスドと呼ばれる建造宇宙物だ。
グルグスドは穂の殻を取る機械で、宇宙に浮かぶその姿から、灰色どんぐりなどと呼ばれる。その姿は二重の螺旋階層からなり、その螺旋がそれぞれ回転することで機能する。グルグスドは我が国でも最大級のもので、数キロ離れたところでも見える、銀色の巨大などんぐりの実みたいだ。
ここに敵機がいるって話だが、ここは当然非戦地域のはずだが。
中に入るヴァリュー。
グルグスドの中は空洞である。その周囲は黄色の穂が一面、その量は収穫期の最盛期ともなれば、十二億トンくらいにもなる。
証明は点いているが、穂の雲が覆い隠す。
穂の雲のあいだから、光のカーテンが揺らめいている。
薄暗い世界。
センサーが一斉に鳴り出す。
周囲の穂からガストゥールが十機出て来る。
攻撃を避けつつ、標準を合わせる。
射撃方向。
角度。
サイドビューの立体ビジョンが弾道計算を複数出し続けている。
ここだ。
ヴァリューはビームショットする。
穂の駆動ギャリングに信号のレーザーを最低出力で打ち出す。
反応した。
グルグスドが動きだす。
幾億トンの穂が舞い踊る。
穂の雲がうねりを上げる。
その一瞬、ガストゥールをニ刀両断する。
ガストゥールの短弾連撃の中。
この穂の雲嵐のうねりの中では射程予測数値は出せまい。
こちらは実剣で当たった時に斬る。動くグルグスドに穂の波の中、センサーでは機体をとらえることはできない。残り三機。
銃撃の中、残りも破壊する。
「だいたい、なんでこんなところに、ここにはなにもないだろう」
戦艦との通信がつながっていない。
なんだ、敵機はもういないぞ。
ジャミング?
一閃。
敵の剣の一撃。
急旋回でなんとかかわす。
なんだ。
これは。
予測数値が無限大を示す。
故障か。
穂の中、見たことのないアームチェンジがその姿を表す。
紋様のある黄金の機体。
新型のアームチェンジか。……、いや……。紋章剣を持っているのが穂の雲の中、垣間見える。
「どういうことだ」
蒼い機体は答えない。変わりに別の奴が答えた。
−−青いのはいまはいないのでな。
次元機体? その声が響いた。聞いたことのない奴だ。
こちらはアームチェンジ一機のみだ。友軍はいない。
距離を取りながら言う。
「おいおい、まさか不意打ちなんてしないよな」
斬りつけてくる。
かわす。
本気だな。
向こうは次元機体、アームチェンジでどこまで持つものか。
ビームショットするが、軽く紋章剣で受け流される。
くそ、逃げるしかないか。
だが、出口にいやがる。
このやろー。
倒してやろうじゃないか。
穂の中にヴァリューを躍らせる。
−−それで隠れたつもりか。
「なわけないだろ」
次元機体の紋章剣がくる。
ぎいん
実剣、レーザーブロー付きが受け止める。
−−そんなものが。
ヴァリューの剣は砕けていく。
−−砕けろ。
おれはヴァリューをスライディングさせる。
てこの原理で、残った実剣が次元機体の間接を決める。
ヴァリューのケリで紋章剣は次元機体、奴自身を打つ。
見たか。
だが。
奴はケリで自分の腕をケリ上げる。
−−そこまでだ。
ケリは止まらない。
360度。
次元機体がそのケリでヴァリューを砕く。
だが。
ここは進む。
ヴァリューを次元機体のケリに突き進ませる。
砕けるヴァリューの破片。
それが止まる。
次元機体の装甲も砕け始める。
お互い同じだけ砕ける。
−−なんだ?
「表面張力だ」
重力変換機関が轟音を上げてうなり止る。
力を失ったヴァリューが浮遊する。重力浮遊だ。
お互いの機体が穂の中に隠れていく。
−−相打ちとは。
「なわけあるか!」
周囲の穂がすべて黄金に輝く。
−−シンボリックマーナスト。これはすごいな。また、手合わせ願おう。
「ごめんこうむる」
奴の気配が消える。
穂は明滅を繰り返し、光を曇らせる。
闇。
ライトのカーテンが周囲でオーロラのように揺らめいた。
戦艦との通信が回復する。
「だいじょうぶですか兄さん」
「なんとか、な」
「いま、僚機が向かっています」
「了解」
ヴァリューが複数近づいて来るのが見える。
ヴァリューにそのまま引っ張っていかれる。
僚機に牽引されながら、一息つく。
青い機体の声がする。
−−遅れたな、すまん。
「いいって、毎度毎度、ヒーローは遅れるのが相場だ」
おれはため息ひとつつくと、うなだれた。
光粒子も動いていないヴァリューのパイロット席は、なんとも固く、居心地のいいものであった。
戦艦に戻ったおれはミラルの部屋に行く。
ずかずかと部屋に入る。
四畳半の畳部屋にこたつに眠るミラルがいた。
「おまえな、おれがどれだけたいへんだったと思うんだ、助けにも来ないでなあ」
おれはこたつに入って、寝言を眠りながら言った。
ミラルが寝言でうい〜と答えた。
おれはその日、ミラルと酒を飲む夢を見た。
朝。とは言っても、外は暗闇の宇宙。おれはパンツいっちょにシャツ一枚で洗面台で歯をみがく。朝食はまだなのに歯をなぜみがくのか、それは謎である。
と。
ミラルがパジャマで歩いている。
「なに人の部屋にいんだよ」
ミラルは寝ぼけ眼でこちらを見る。
「ここあたしの部屋」
そういや、そうだった。
「す、すまん」
「あたしの歯ブラシ」
あ、これは。
「間接キッス」
「言うな」
ミラルはクマのぬいぐるみを持っている。
「メルヘンだなあ」
「これがなくっちゃ、眠れなくってね。でも、その中には裏帳簿があるわ」
「大人のメルヘン壊すな」
ミラルはこたつでごろごろしてる。
「ひまなら掃除しろよ」
「ごろごろ〜」
おれもこたつ入ってごろごろする。
二度寝。
用があるからと、ミラルに倉庫に呼び出される。
と。
こたつでなごんでいるミラルとミッシェルとレミィ。
「なんの冗談だこれは」
おれはとりあえずこたつに入る。
浮遊こたつは宇宙に出る。
「おいおい、なんだこれは」
「だいじょうぶ、重力変換は完璧よ」
「いや、だから」
「許可もあるわよ」
「いや、だからあ……」
ミラルは猫とたわむれている。
こたつで大気圏突入していく。
赤い流波の中、粉塵の中進む。
別段、なんともないけど、変な感じだ。
空はやがて青空となる。
とある海辺にこたつは止まる。
岸壁に囲まれた小さな浜辺だ。
みんな水着で泳いでいる。
「なんだこれは」
「海中水泳よ」
ミラルが答える。
「そういう問題か」
「あなたの分もあるわよ」
ミラルはふんどしを取り出す。
「これが和の心」
「違うから」
みんな水着ではしゃいでいる。
「もちろんデジカメもあるわ」
「却下だ」
おれはとりあえず、おれはパンツいっちょで砂辺で日光浴する。
女どもははしゃいでいる。
なにが楽しいんだか。
おれは文庫で顔を隠して眠る。
ずしんと、響く音。
山のほうから次元機体が歩いて来る。
はあ?
さっきの奴だ。
迷彩までおれがしたまんまだ。
「場所選べよ」
青い機体まで出て来る。
「ここで戦うのか」
−−そうらしいな。
「兄さん……」
レミーが唖然と見ている。
「新型のアームチェンジだな、その……」
ミラルがなにか横でこしょこしょと話している。
「なるほど、行って来てください」
なんて言ったんだろ。
おれは青い機体に乗る。
と。
海からも穂の色の機体が。
「なんで二体もいるんだよ」
−−黄色いのの英雄は双子だからな。なにかまずいのか。
「おまえたちには軍事バランスという概念はないのか」
紋章剣を抜刀する。
丘にいるミラルたちが手を振っている。
「ミラル、手を貸せ」
「忙しいんでね」
「んなわけあるか」
上体をそらして、一撃をかわすが、もう一体からの一撃を剣で受け流す。
両者から一辺に一度に両方から一撃が来る。
ぎいん
一撃。
紋章剣のひねりで両者の紋章剣をそれぞれいなし、両者に向ける。
両者はそこで踏みとどまり、こちらにまた剣を向ける。
おれは暗闇の中、すでに息が上がる。
どうしてこう強い奴ばかりなんだ。
いや、強いのはこちらもか。
なにせ、次元機体が二機ときてる。
「戦いが好きなのか」
おれは聞く。
「いや、別に」
向こうはそう答える。
いや、それは自分に聞いたのだ。
いつか息絶えた時、笑っていられたら、最高なのに。
「笑っているのか?」
向こうがそう言う。
どうやらおれは笑っていたようだ。
まるで闇の機体のようだ。
そんなふうに思った。
「きっと一生の愛も一瞬の戦いも同じなのだ」
「? なにを言っている」
「おれも良く解らない。ただ、その戦いに勝つ。それだけは違いない」
「どこからそんな自信があるものか」
線上に対峙する三機。
水平線上をカモメが飛ぶ。
雲は白く、空はどこまでも青い。
空気が凍った。
ぎいん。
二機の次元機体が崩れた。
残ったのは青い機体。
だが。
こちらも動けないほどだ。
なんとか立っていた。
と。
向こうの二機の機体が戻っていく。
「なんだこれは」
−−シンボリックマーナストにはこういう使い方もある。
「どうするんだ。こちらもできないのか」
−−いまのおまえでは無理だ。
ここまでか。
二機が迫る。
闇が舞った。
ざぎぎん。
二機の次元機体を一刀両断する闇。
闇が迫る。
なんだこいつは。
おれは一刀を上に振るが、闇はそれを超え、青い機体を投げた。
ずしむと、岩に叩きつけられる。
そこには闇の機体がいた。
「なんだ、いいとこ取りかよミラル」
おれは青い機体から出て来る。
「いい戦いだったな」
ヨーステイアが出迎える。
ヨーステイアは赤い機体の英雄であり、その世界では姫様だと言う。
勝気な女だ。
「なんでいるんだよ」
「ミラルが来いというからなにかと思ったよ」
「ミ・ラ・ルー……」
「いい戦いだったわ」
ミラルはそう言ってカクテルを飲む。
おれはため息ひとつつくと、おれももらおうと言った。
「こんにちわ」
女の子が二人いる。
まだ定学年も出ていないような子供が二人。
「これがさっきの英雄の双子よ」
ミラルが紹介する。
「はあ?」
「こんにちわ」
礼儀正しい挨拶。
「彼女たちは立派な英雄よ」とミラル。
「戦いの時、卑怯なマネはすんなよ」
聞いてるのかいないのか。彼女たちは笑ってミラルたちと笑いながら話してる。
なんだかなあ。
ミッシェルが「ひさしぶり」と言うと、ヨーステイア「ここはいいとこですねえ」と答える。
まあ、いいか。
空がどこまでも澄んだブルー。
こたつに七人、なぜか海を見ながら、酒を飲んでいた。
ミラルが歌う。
「世界よ。それはいつか見た青い空と気持ち。なにがいつか見た残照の照れる日よりと歌うのか。世界は花。それはいつか花開く時まで、私たちはこの空を見ているのですから。なにができるかと言われれば、それは歌うこと。それは心の花。だから。いつまでも変わらないことなど知らないなにがこの世界の果てなど知らない。なにがいつか信じた空の色だというのだろうか。できないことはしない。できることからこつこつと。それだけでこの世界はいつもとは違う空に見えるのですから」
潮風がちょっと冷たく、それでいて、爽やかだった。
後日。
五千機の敵味方の群戦の中。
ヴァリューは軽快に稼動する。
暗闇の宇宙にライトグリーンの光。
一群のアームチェンジの動きが鈍くなる。
「なんだこれは」
−−これは次元速度に干渉する光だ。
「なんだと?」
動きが遅くなり、簡単に撃墜されていくアームチェンジ。
「これはまずいな」
「その兵器の情報はあったわ」
ミラルの通信。
「だったらなんとかしろよ」
「しましょう」
スイッチを押せとのこと。
「こんなもんがどんな意味があるんだ」
スイッチにヴァリューの盾は光出す。
「この盾はスペシャル液晶盾よ!」
「うそっぽいなあ」
でも、ヴァリューは動ける。
よし、いける。
おれはライトを放つガストゥールを破壊する。
「やった」
「感謝しなさいな」
「感謝感激ありがとう、な。さんきゅう」
「まあね、当然よ」
「考えてたのはミラルじゃないな」
「さあね」
ヴァリューは動きだす。
まだ戦いは続いていた。
続
なかがき
サイエンスフィクションにおけるロボット物についてちょっとな。
私はヴァリューを書く時には、これをサイエンスフィクションだと考えて書いている。サイエンスフィクションとはなんだろう。冒険活劇や、空想科学小説、ちょっと不思議な物語など、いろんな読み方、とらえ方がある。けれども、私にとってそれは、違和感の一文字に尽きる。それは日常への違和感というアプローチでもあるし、日常に違和感を感じる一瞬と言ってもいい。人と違う人が、実は異星人であったりする。そんなちょっとした違和感が私にとってサイエンスフィクションなのだ。巨大ロボット物には、たとえば鉄人にはまだ違和感があった。けれども、何作も作られるうち、巨大ロボットが街を歩いていても、まあ、あるんじゃない、という、日常の中の日常になっていると思う。そうゆうロボット物もありだとは思う。また、そういう作品がうまくいっているものもある。けれども、私にとって、巨大ロボットというものは、存在が違和感あるものなのだ。違和感そのものと言ってもいい。こんなものはあり得ない。こんな巨大なものが動く。という、なんとも言えないノスタルジーのようなものを巨大ロボットに感じる時がある。そんな時、私はロボット物っていいな、と思うのだ。
第五十七話 廃墟魔道
人が持つロケットランチャーに飛行戦闘機に潜水艦、対戦車戦車と、その主力武装のひとつはロケット・ミサイルと言える。戦車は手甲弾を使うが、溜弾はミサイルに酷似している。いわゆる、兵器というものは、ミサイルの運搬役という一面を持っている。そんなミサイルに革命とも言える技術革新が起きた。
ミサイルの自動ロックオン技術と機動力が向上した時、戦車や武装航空機や潜水艦はミサイルにすべて超遠距離から迎撃されるスタイルが出来あがり、さらにそのミサイルをミサイルが撃ち落とせるロックオン技術が出来てからは、戦場は空中となった。空中でミサイルの応酬を制した者が勝つ。つまり、ロックオン技術を持つミサイルをどれだけ迅速に移動、装填出来るかが勝敗を決する時代。ミサイルを装填するのにクレーンでは間に合わず人の力をトレースする強化骨格、パワードスーツが導入され、ミサイルの装填手はすべて、このパワードスーツを着ることになる。装填手が変わるという意味で、このパワードスーツは、アームチェンジと呼ばれた。
さらに軍部はミサイルをとらえるために重力空間を作り出す重力兵器が開発された。だが、お互いが重力兵器を揃えた時、この重力空間でミサイルは無力化されるが、重力空間で相手の兵器を叩くには物理弾頭である質量弾を打ち出す必要があり、それには弾丸の装填が必要になる。そしてその役割はアームチェンジがもっとも優れていた。アームチェンジならば相互干渉の重力空間でジャムることなく強力巨大な弾丸を装填、発射出来た。重力空間の中でのあらゆる動作不良に対処するには人の動きをトレースする物がもっともその条件を満たす。アームチェンジ内部に重力兵器を搭載したものが登場してから、重力兵器を備えたアームチェンジは巨体の一途を辿り、巨大なパワードスーツロボットである、いまのアームチェンジが構築される。それは、あらゆる兵器のもっとも進んだ姿となった。
おれは一息ついて窓に付いた白いもやを袖でぬぐう。
「なにぶつぶつと誰に言ってんのよ」
ミラルが寝ぼけ眼で言う。髪が寝癖だらけだ。
「ああ、いや、まあな。なんだい、なにか用かいミッシェル」
「休憩所ではお茶でしょ」
「ここは兵士用だぜ。おまえは整備士だろう」
「堅いこと言わないの。いいでしょ別に。それに実は私は兵士であり、整備も出来る、マルチソルジャーだったのよ」
「……そんなわけねーだろーが」
「あらあら、そうとも言えないのよ。ゼジェッペ・ライドンはそうであったわ。それにハルニアーニもね。そしていまあたしは次元の騎士英雄となってあなたと戦うことになったわ」
「あーそうですかそうですか。勝負はなんだトランプか」
「あたしは世界の英雄となって、神の機体であなたと世界をかけて戦うのよ」
おれはコーヒーに入れたスプーンからミラルを見る。
ぴーんと空気が凍りついたような気がした。
「……そうか。それで機体の名は?」
「トッピングフルーツ」
にこっとミラル。
「……変な名前だ。とゆーか、からかってるだろ」
「ええ。冗談よ」
すんごい形相であっかんべーしているミラル。
「おまへとゆー奴はあなあーこうしてやる」
おれはミラルの紙コップに入ったコーヒーを飲む。
「それあなたのカードでの決済よ」
「にゃにい」苦い顔のおれ。
「今日はあなたの部隊にディヴァーグ帝国の王子様が加わるわ」
「へーそー」
おれは襟を直して座り直す。
ミラルのペースに乗るものか。
平常心平常心。
「あなたの部下になるのよ」
「王子様が? そいつあおしめの取り方から教えてやらないとな」
「教えてくれ」
横には知らない青年が立っている。
あーえーと。見たような顔だなあ。
「ミラルくん。どなたかしら」
ちょっとおどけてかしこまってにこりと聞く。
「だから王子様」
おれはがたがたイスをお手玉してから立ち上がると敬礼する。
「いや、そのままで」
怒ってないようだ。
握手する。
「御無礼をお許し下さい」
「いや、いい。いまは一介の兵士に過ぎない。貴官が上官だろう」
「いやあ、話がわかるなあははは」
「現金な奴だ」
「ははは」
アショット王子の後ろでミラルがべろべろばーしてる。
にゃろめ。
おれは咳ひとつ。
「おほん。けれども、なぜこんなとこに。事務でも技術部でもなんでもあったでしょうに」
「我が帝国は連邦に属している。王子自ら銃を持つのは、勇気を示す行為となるだろう」
「けれども、怪我でもしたらどうします。いえ、命さえ危険になることもあります。ここは戦場で模擬線ではありません。王子は確か一人っ子であったはず」
「正論だ。だが武の道に危険という言葉はない。帝国と連邦の許可はある。そして私はやる気でアームチェンジのパイロットとしてここに来た。命の人生のその真実を問いたいと言うのだ。それ以外になんのことわりがあろう」
「……そうですか。覚悟はお聞きしました。それでは機体まで案内します」
「うむ、よろしく。私はアショット・ファイラル・ドニ・セクシミル13世だ」
「おれ……、私はみんなからレスパと呼ばれています。よろしく」
それからおれは後ろのミラルに向き合う。
「それで、ミスターアショットの部隊配属はいつなんだ」
「いまからよ」
「それじゃ、数日後の休戦前の戦闘に参加することになるじゃないか」
「そうね」
「そうねって、思いっきり新兵じゃないかよ」
「そうでしょ。誰だって最初は新兵よ」
「それはそうだが、傷でも付いたら、どうすんだよ」
「それが戦いなんじゃないの」
「それはそうだがな」
おれは苦い顔で負けを認める。
この手の問答でミラルに勝ったことあない。
「二時間後には出撃よ」
「わあかったよ」
「レスパ」
「うるへー」
「あなたの扉が全開よ」
おれは真っ赤になって、あたふたと直してから何気なく歩き出す。
くすくすくすと後の方で笑うミラル。
ぎくしゃくとロボット歩きで廊下に出ると微重力の廊下を浮いて進む。アショットが続く。
光粒子が体をとらえ進ませる。
これはアームチェンジの移動と似ているが、あちらは規模が違う。
それは星が回転にも近い力なのだ。
星ほどの力を秘めたその機体は、けれどもそれは戦うための鬼神でもある。
いくつかの通路を抜けアームチェンジが並ぶ広い空間に出る。
「これがヴァリュー。まあ知らないこともないだろうけれどもな」
流線型の機体。それにはありとあらゆる行動原理が込められた最新最高の科学水準の結晶だ。
アショットはマジマジと機体を見る。
アショットはライトに指をからませ、コクピットまで光粒子で上がると中を見ている。
「練習機のヴァリューとは違いはないような気がするな。それともレスパ、これにはなにか違いがあるのかな」
「スペックは同じさ。でも操縦の個性は自分でプログラミングするんだ。時間がないからいまからかかったほうがいい」
「ああ、そうする」
「これはプログラミングの定型12セットとおれのだ。使ってくれ」
「どうも」
アショットは外骨格に立つように座ると、起動キーを言ってそれから浮かんで来たソグボウルを両手でつかむ。
ソグボウルにあるカウルキーボードでプログラミングする音が聞こえる。
量産型のアームチェンジの機能に違いは無い。それにパイロットが独自のプログラミングをすることで、その機体は個性とでもいうようなものを備えていく。これが回避でも攻撃でも敵の解析コンピューターの裏をかくのにかかせないものになっていく。ここからもうすでに戦いは始まっていると言っていい。
おれはコックピットの中に言う。
「なにかわからないとこは、無線で聞いてくれ。それじゃ」
摩擦係数ゼロのアームチェンジの装甲を蹴ることは出来ないので、なんとかくるっと回転して通路へと行く。
おれは待機室でパイロットスーツに着替えると、倉庫に行って自分のヴァリーに乗り込む。
カテゴラル起動させ、機体の始動チェックを始める。
駆動に問題はないな。
すべてのチェックはメカニックになされているが、なにせ動かしてみるまでそのフィット感はわからない。軽く動かしてみる。
一通りチェックするのに30分とかからなかった。
問題ないようだ。
ヴァリューから出るとアショットの方に行く。
アショットのヴァリューは扉が開いていて中では打ち込みしているアショットの姿がある。
いや、眠っているのか。
データチェックするとある程度出来ているようだ。
なんともはや、戦う前に眠れるとは、新兵にしてはたいした肝っ玉だ。
おれも一眠りしょう。
メカニックとちょっとだべってから待機室に行く。
一眠り。
夢を見た。
地平のある岩の大地で走っているおれ。
だが、走っても走ってもそこには出口など無い道なのだ。
おれはいつしかそこに倒れて、それから何千年も経っておれの屍は砂になって風に消えていく。
そんなとこで目が覚めた。
時間だ。
夢の内容を忘れて行く。
夢の内容を書き留めようとは思わなかった。
パイロットスーツを着る。
いがいと簡易な格好に筋のような鎧のようなものが付いているものだ。
これは最新のもので、この前までのものよりは洗練されたような気がした。
倉庫にあるヴァリューまで行くと乗り込む。
コックピットハッチが閉まり、真っ暗な世界が広がる。
そこに星々が点灯する。
無限の世界。
それは電子の灯火なのだ。
おれは浮かんで来たソグボウルを両手でそれぞれつかむ。
世界が広がって行く。
それは戦艦の中の倉庫ではあるが、まるでいままでとは違うものを見ているようだ。
「ヴァリュー出るぜ」
獲物が砕かれて行く。すでに声も出せずに、その血は最後の叫び。
明滅する光りは戦場を彩る魂の雷鳴。
おれはヴァリューで宇宙を駆ける。
ミサイルが来る。
宇宙は広く、戦場はそれでも広い。
ミサイルを感知してからでも、この距離ならば、十分行動出来る。
これは重力弾か。重力弾は正確にはロケット推進のミサイルではなく、アームチェンジの重力を装填して、敵機が近づいた時に、重力場を展開、形成して、相手のアームチェンジの動きを制限する力がある。それはたいしたことはないが、けれども、牽制やブラフにはなる。
重力をそれぞれに装填する。炉が作り出した重力を装填することから、アームチェンジは装填機とも呼ばれている。
回避移動重力に50パーセント、重力基ミサイル防御に30パーセント、敵機攻撃に20パーセント。ヴァリューの重力装填。これだけでも、かなり堅い守りだ。
ヴァリューは炉の重力場を武装である連装銃に装填して、重力化された実弾を連射する。重力化された実弾は光速の2パーセントの質量を内包しているため、惑星クラスの重量を有することになる。
こちらの弾丸は、ガストゥールが放った重力基たるミサイル十二基の展開に防がれる。
なんと。
ガストゥールが放ったミサイルに装填された重力は35パーセント。
それは重力場を形成する。宇宙で行動中のアームチェンジは常に移動しており、この重力場に足をとられた形で、ヴァリューが回転する。
その動きで銃が腕とロックチェーンから外れる。
ヴァリューの主力武装たる連装銃を取るため、移動プログラムを組んで、バックパックに重力装填、稼働する。
いけね。
重力場をヴァリューの斜め横に作り、その重力場で方向転換したのだが、いかんせん、行き過ぎた。宇宙ではメリーゴーランドのように旋回してこないと元の場所には帰ってこれない。いちいち減速していたら、格好の標的になってしまう。急速減速もあるが、それには炉が作り出したほとんどの重力をバックパックに装填せねばならず、防御は格段になくなる。
重力場を作って、旋回距離を短く出来るが、防御重力場が薄くなるため、危険だ。そこで旋回プログラムによって、変化球のように変速移動しながら、移動することになる。宇宙でのロックオンとは、この回避プログラムを読まれることを言う。よって地上よりはロックオンは正確緻密な面と、さらなる回避運動により、外れる確率も高いと言える。まさに回避運動はパイロットの腕にかかっていると言える。
ロックオン警告音は、敵機に移動および回避プログラムが読まれた可能性によって鳴ることになる。
回避運動するが、的確な射撃がヴァリューをとらえる。
これは逃げられない。
おれは方向転換すると、銃へと向かって突進する。
敵銃の斉射。
けれども、こちらのほうが速い。
さすがに、まさか百パで移動するとは、コンピュータもパイロットも思わなかったようだ。
銃を取ると、防御全開にする。
銃にエネルギーチェーンを連結すると、威嚇しながら、回避プログラムを展開する。
射撃も加われば、回避、移動の行動パターンは数倍となる。
「隊長。することはあるかな」
「アショット、おれのヴァリューを敵に向かって押してくれ。全速力でな」
重力制御には、多少の重さは関係ない。最大速度のおれのヴァリューがガストゥールに接近する。
防御全開で、ガストゥールの光学エネルギー弾はすべてはじく。
がきんがきん。
連装銃の中先端を回転させ、パイルバンカーにする。パイルバンカーの実槍の尾に薬莢を装填する。
ばしゅっ、がきいいいん。
パイルバンカーがガストゥールを貫く。
爆光を防御しながら、移動する。
「お見事」
「連携プレーのほうが強い。兵法さ。三機のアームチェンジが連携を組んで、攻撃と防御と移動をする。それがひとつの連携のベスト。けれども、状況が変わり続ける戦場では必ずしもそうはならない」
有効攻撃範囲には、敵機の機影は無い。
三機のガストゥールがいる。
後一時間でこの地域は休戦となる。
「ここを突破して、帰還するぞ」
「オーケイ」
アショットが了解の合図。
画面には光りの波と点と線が踊る。
これがひとつひとつがプログラミングなのだ。
三百億のプログラミング。攻撃と防御と回避の三本を場所と予想軍勢に合わせてセットされている。このランダムな組み合わせが予測解析されないためのものなのだ。
コンピュータがコンマ02秒のあいだに、六千パターンの移動プログラミングを連鎖起動してヴァリューは移動する。
ロックオン。
おれはトリガーを引いた。
明滅。
宇宙に光りの花が咲いた。
「レスパ兄さん。回収します」
レミーの声がする。
母艦は目の前に迫っていた。
「ディヴァーグ帝国がない?」
「政変で無くなったのよ。ウラは自分で取りなさい」
ミラルのそんな言葉はひっかかっていた。
おれは情報端末で調べて、聞いてみて、それからディヴァーグに行って見た。
人混みを抜けた先には、街の広場から撤去されていく英雄王の銅像。
戦艦に戻って来たおれは、喫茶でミラルに聞く。
「じゃあ、なんでここではまだ王家を名乗るんだ」
「十二王家はアショットを認めているわ。それだけの後ろ盾があるということよ」
十二王家か。
それは力のある者たち。
軍需複合体であり、正式には企業だが、その力は大きい。
「それから、休戦のあいだに、宇宙の傷を修復しておいてね」
「なんでだよ」
「あんたが作ったんでしょうが」
「戦っている時にはそこまで考えられるか。断れたら断るよ」
「あのね、軍人も官僚よ。書類を書いて、決算する。普段はなにも変わらないのよ」
「それは解るがね。だったら武装を新しいのに変えてくれ」
「それは別の話。働きなさい。それが仕事でしょう」
「解っているさ」
歩き出すおれ。
「ミラル副官の言うことならば、命令であり、それを遵守するのは、兵士の勤めでは?」
「あー、うん。そうだな」
「宇宙の傷とはなんですか」
アショットが聞く。
「さっきの戦いで撃破したガストゥールが重力崩壊したことによる空間の歪みが出来たんだ。これを放っておくと、ブラックホールになったり、正常な空間ではなくなることから、宇宙協定で、これは直すこと定められているんだよ。そしてそれだけの重力の穴を器用に埋め直すにはアームチェンジがもっとも適している」
おれはつまんなそうにそう言う。実際、戦いほど、こんなことには、意欲など沸くものではなかった。
「気がのらないようで」とアショット。
「結局、掘った塹壕埋め直せってなことだよ。ばからしい。この上なくばからしいね」
「ならば断ればいいのに」
おれはひょっとした顔をする。
「兵士ってのは結局雑用さ。人の生活の中でのひずみ、そのもっとも端っこで、世界を支える亀なのさ」
「へえ、そんなもんですかね」
アショットはわかったような、わからないような顔でうなずいた。
母艦の中をヴァリューのある倉庫へと歩く。
なにかが舞った。
それが近くの人形の看板が砕けたと気づいたのは二秒程度たってからだろうか。
すぐに近くのスクータに乗って逃げる。
スクータチェンジで突っ走るおれとアショット。
古そうな機関銃で撃ってきやがる黒服ども。
こちらは重力兵装など持っていないから、これでも十分やばい。
「なんで襲ってくんだよ」
「余がいなくなれば、ディヴァーク帝国はその意味を問われる。都合のいい連中はいよう」
「おれを巻き込むんじゃねえよ」
「それはすまないな」
「あやまってないで、武器はないのか」
「ないな」
「冷静になってんじゃねえ」
ショッピング街に入り、店の中へと入る。
長い店の中を縦横無尽に走り、おれは止まる。
うぃーんと、自動ドアが開いて、それからおれは発進する。
店の窓を破って来る黒服グラサンやろう×3。
さらに進むと、道が開ける。
道は途中で無くなり、鋼鉄の崖のようになっている。
タウンから、ヴァリューの格納庫に入ったのだ。
一気に空間はなにも無くなり、戦艦の中まるごとカラの状態のとこに、上下左右、四方に立つアームチェンジの群れ。
「ヴァリュー!」
ヴァリューのコクピットドアが閉まり、ディスプレイが点灯して、ヴァリューの目が光る。
ヴァリューは手をこちらに向ける。
「よけろ!」
おれたちが避けたとこに、なにか、景色がぶれるような光りのまどいあうなにかが通る。
吹っ飛ぶ黒服ども。
爆光が艦内に輝く。明滅するみっつの白い光り。
「連中を助けろ」
「アショットさんよ、連中助けてなんのメリットがあるんだよ」
「奴らは下っ端だ。捕まえれば、黒幕につながる道が開けるかも知れないぞ」
「うーむ。それはいい考えだ」
スクータ突っ走らせて、背中に連中を三人キャッチして行く。
空中でのことなので、ずんずんスクータチェンジは降下する。
その重さで地面まで降りてから、三人ともども崩れるように道に転がるおれ。
「おもしろい。テレビゲームのようだな」
アショットは興味深そうにそう言う。
「う゛るべえー」
おれは地面とキスしながらうるせえと言った。
「三人とも全治半年。口を聞けるまで回復するのは、二ヶ月先ね」
そう医師の話。
病室から出るおれとアショット。
「で、そのあいだにまた狙われたらどうすんだ」
「そこまでは考えてなかった」
「考えろってば」
「怒るなシワがのびるぞ」
「ふえるだろ」
「はっはっはっじょーくじょーく」
「つまんないって。おいおい、ジョーダンは顔だけにする」
「余は笑えるジョークしか言わない。世が世なら、余はミュージシャンになっていただろう」
「うんそれはそうだな。おれもよく意味わかんねーってやつだよおまえはって笑われる。おまえさんとは、コントのコンビを組めるかも知れねえな」
「いいだろう。望むところだ」
おれたちはがっちりと握手した。
ここに最強のコンビが誕生した。
かなあ。
宇宙には戦艦が一隻。
暗い艦橋ではいくつかの機器の明滅だけが光っている。
「旗艦に近づくものがあります。コンピュータチェック、レベル4」
「内容は」
ディスプレイの光りに照らされた艦長席の老年の男が聞く。
円上に広がる白い空間には、クリームのように、なめらかな構造建築様式美に、窓が広がるように着いている。
丸く円上につながる席に座る一人が答える。
「旗艦直線上、一直線に近づいて来ます。推定質量4兆トン、密度構成98パーセント。剣の形状をしたもので、編算室スタッフは人工物と判断、兵器である可能性があります」
「あり得ない質量数値だ……。アームチェンジ第二部連隊、45連騎出撃。回避行動を取りながら、勧告してレッドゾーンに入った場合は随意迎撃」
「アームチェンジ出撃。警告発信、速度が速まりました。旗艦への衝突コース。レッドゾーン突入」
「迎撃98パーセント、それから重力変換発動、回避27、防御71、ライフ2」
「重力変換水管を全管動力炉に投入。旗艦砲撃兵、迎撃通達受理、全機展開」
音も無く、暗い雷鳴が宇宙を舞い、装飾された巨大な剣をいななき、斬る。
音無き雷鳴が鳴りやむ時、そこには、白い稲光が残っていた。
なにもかもをも崩壊させる戦艦の膨大な質量。
だが、剣はなにごとも無かったようにそこにある。
「敵的質量損傷、……ゼロ、無傷です」
「ばかな……」
「来ます」
「回避運動、パターン678」
「パターン受理、湾曲空間による加重回避。移動パターン10兆展開。これは……湾曲空間を突き抜けて来ます」
「重力壁展開、水管投入最大防御97、ライフ3」
「最大防御による重力転換、重力防壁展開済み」
ごおおお……。
巨大な剣が戦艦の防御重力壁にぶつかり、色彩無限の雷鳴を纏いて、すべてを幾重もの輪に変えて、重力壁を無効化する。
巨大な剣が宇宙にある戦艦をつら抜く。
轟音。けれども、宇宙では音は響かず、超新星に匹敵する巨大な光りが暗い宇宙にきらめいた。
「各機防御全開!」
幾つかの、アームチェンジはその光りに飲み込まれ、光りになる。
数刻後、巨大な光りの後には、なにも残らなかった。暗い宇宙、それだけだ。
「これは……悪夢なのか。ならば早く覚めてくれ」
アームチェンジパイロットの青年はそうつぶやく。
戦艦とさらには巨大な剣も消えていた。
重力防御連携を組んだアームチェンジ三機だけが暗い宇宙の中でゆらゆらとゆらめいていた。
今日の新聞は、と。
「戦艦、謎の爆破? 巨大な剣をアームチェンジパイロットが報告? 敵の新兵器か? なんだこの奇天烈な内容は。いつからゴシップ紙まがいの内容を書くようになったんだ」
「いまどき紙の新聞とは粋ねえ」
横のテーブルで、立体ディスプレの紙面を読んでいるミッシェル。アームチェンジの技術者だ。長いつきあいだが、腐れ縁てとこか。
ミッシェルはテーブルの上を指を走らせる。すると、立体ディスプレイの文面も動いて行く。
「これが通とか言うことなんだよ」
「男は化石。女はそれを発掘する学者よ」とミッシェル。
「言ってろばーか」
「ばかって言うほうがばかなんだよお、ばあか」
「わかったわかった。あいだをとって二人ともばかさ」
「うむ、よろしい」
ミラルの声が情報端末から響く。
「重力異変があるの、ちょっち出てみて」
「分かった」
おれはアショットとアームチェンジで出る。
暗い宇宙にはなにか小さななにかがある。
「重力湾曲のために戦艦からは識別出来ません」とレミー。
「了解」
おれはアームチェンジで目視出来るとこまで近づく。
なんだこれは。
これは……剣?。
「急激な重力湾曲変換……これは」
レミーの声がチェンジの中に響く。
これは、剣がでかくなっていく。
「なんだこれは」
「離れてくださいレスパ兄さん」
剣がまとう重力は惑星クラスにまでも大きくなっている。
それに比して質量もその外観もでかくなっていく。
からくも離れるヴァリューが二機。
戦艦の暗い咆吼が闇の雷鳴が剣を包む。
だが、なにもなかったかのようにそこにいる。
「編纂室からのデータでは前の時系列からしてこのままでは戦艦が沈みます」レミーが報告する。
「ミラル」
おれはミラルを呼ぶ。
「いま交渉中よ」
「おまえ、あれ一発にいくらかかると思っているんだ! 発動には議会と連盟理事と議会連動率79パーセントの認証が必要だ」
ミラルは定重力で浮いているねこをつかまえて、電話口に出す。
でぶ猫はかりかりひっかいている。
「いけません、重力場のノイズがひどくて話しが聞き取れません。こちらの判断で行います」
ミラルがおれを見る。
おれはヴァリューのノイズキャノンを旗艦の中心にある砲塔につなげる。
微動しながら、標準を影にあわせる。
「旗艦出力の78パーゼント集中」
レミーの声を聞きながら、標準を移動する。
それにあわせて、旗艦も動いていく。
「人は何故生きるのだろうか」
声が心に響く。
それは冷たくひどく重い気がした。
−−瞑王とは珍しいものだなこれは。
「消えろ恐怖とゆう名の空の眷属。おまえと生きていくつもりはない」
「防御持たないぞ」
重力振動の破片を防ぎながらアショットがそう言う。
「艦砲、粒子加速、臨界点突破」
レミーの声が響く。
よし。
おれは影にトリガーをひく。
ヴァリューの持つ砲塔が亜光速のビーム収縮率に耐えられず、光化していく。粒子の三重力螺旋する舞いによって、あらゆる物質、いや、存在そのものが光化する。砲どころか、ヴァリューも光と化していく。一瞬早く、おれはヴァリューから脱出ポッドで逃げる。
それをアショットが拾う。
旗艦は後退しながら、砲身を切り離し、光化を防ぐ。
影に光りが亜光速で当たる。
「光の王よ、一時、その思いをゆるめたまえ」
一瞬、ミラルの声が聞こえたが、それがなにを意味するのか、おれにはわからなかった。
明滅はゆっくりと消えていく。
宇宙はなにごともなかったかのように静まりかえった。
「宇宙が綺麗だな」
おれは自然の重力にふわふわと浮かびながらそう言った。
宇宙はいつもと変わらない暗さと光り明滅の中にあった。
続。
あとがきのなかがき。
上のヴァリューは去年から今年はじめにかけて書いていたもので、それをほとんどそのままあげています。
新しいエピソードはまだ考えてはいません。
けれどもまあ、そのうちに。
ではでは。
第五十八話 鉄騎万来。
「兄さん軍人なんてやめてください。人殺しなんてやめてください。兄さんやめて。やめて兄さん」
「兄さん兄さん」とレミーが軍艦の喫茶でおれに言う。
「ああ、レミーかなんだい」
「兄さんどうしたんですか」
「休暇で家族とひともんちゃくあったのよね」とミラル。
「父は立派に死んでこいと。母は生きてくれと。妹は軍人はやめてくれとな」
「家族には反対ぎみなのね」とミラル。
「戦って死にたかった。そこに戦場があった。それだけさ」
「それでいいんですか」とレミー。
「軍人でいる時におれは命を感じるんだ。子供の時馬鹿にされてばかりだった。でも戦場ではただ実力が勝負をつける。それがいいんだ」
「嫌いじゃないわよそういう考え方」とミラル。
「応援しています兄さん」とレミー
おれはコーヒーを飲む。
「そろそろ開戦時間だ。ヴァリューに行くよ」とおれは喫茶を後にする。
アームチェンジのデッキでヴァリューに乗り込む。
プログラミングを立ち上げる。休暇もこのプログラミングを作ることにかけていた。
チェック完了。開戦の時間だ。おれはヴァリューで宇宙に出る。
両者の戦艦が惑星クラスの重力を展開する。数万機のアームチェンジが宇宙空間へと展開する。
ビームソードで斬りかかられる。重力防御全開で受け止め実剣で一刀両断にする。また命がひとつ散った。
ロックオン警報が鳴る。回避プログラミングを三万つかいながら回避する。
ガストゥールに斬りかかる。重力全開で防御される。ならば。
全重力を推進につかい実剣でつらぬく。剣をひきぬく。爆発を重力で防御しつつ移動する。
ガストゥールと斬りあう。お互いビームソードだ。
ガストゥールは左手の重力で防御する。それならばビームソードに全重力をかけて左手を斬りさく。そのまま相手のビームソードごと一刀両断にする。爆発を回避しつつ移動する。
ガストゥール三機に囲まれる。ビームショットを回避しながら左手の重力でビームソードを受け止め実剣で一機一刀両断にする。そのまま回転して二機目と斬りあう。後ろに三機目がいる。それを足でけり飛ばし目の前の二機目を一刀両断する。全重力をかけたビームショットが三機目を撃ち抜いた。
ガストゥールの3万をこす回避プログラミングを読みきった。ロックオンが点灯する。おれのヴァリューがビームショットする。ガストゥールを撃ち抜く。爆発。
ロックオン警報が鳴る。五機のガストゥールがいる。ビームが雨のようにくる。重力ショットは数百キロ先まで届く。逃げられない。防御全開で五機のふところに飛び込む。回転しつつ一機を一刀両断する。ビームソードが四方からくるものを重力でよけつつ両腕の剣で受け止め回転ではじき飛ばす。大きく回転移動しつつ一機を一刀両断にする。三方から実剣がくる。おそい。両腕の剣でかわしつつ飛び込んで一刀両断する。残り二機。剣を両腕で二機と斬りあいながら片腕で受け止めもう片腕で二機を一刀両断する。爆発を防御回避しつつそこから移動する。
戦艦にビームショットされた。惑星クラスのビームショットが数千キロ先からくる。左手の重力機関に機体の重力を全開にして回避する。左手の周囲だけ時間が遅くなる。移動しつつ左手はビームにゆっくりと持っていかれる。
ヴァリューがオーバーヒートして全身が焼きつく。沈黙するおれのヴァリュー。もう動くこともできない。ロックオンを回避するためにシステムダウンする。宇宙に漂うヴァリュー。
宇宙では明滅が光る。幾千の命がここで失われるのだ。
「みんな戦っている」
明滅は命の輝き。
何故人は殺しあうのか。何故生まれたのか。何故生きるのか。おれには答えはない。ただ戦うそれだけだ。
広大で無限の宇宙はなにも答えず、重力はおれをやさしく抱きしめていた。
戦いはまだ続いていた。
あとがき。
ガンダムとボトムズからはダークヒーローというものを受け取りました。ダグラムからは革命のために戦うんだという気持ち。レイズナーからは冷戦というものを考えさせられました。勇者シリーズもヒーローものも夢や希望があって大好きでした。いま表現者となってそこに存在できる幸せは言葉にできません。わずかばかりの気持ちですがヴァリューをお届けしていきたいと思います。それではまた。
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