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『夢魔法カインドリーム』
たかさきはやと
第一話 夢魔法。
「このももんが話すよ」
セーラー服のあやかがあすかにそういう。
「おもちゃでしょう」
セーラー服のあすかは馬鹿馬鹿しそうにそういう。
「おまえたちは双子か」
ももんががそういう。
「そうだけど」
あすかは答える。
「おめでとう。きみたちは今日から魔法使いだ。夢も叶うぞ」
ももんがはそういう。
あすかは家にももんがを持ち帰る。
「なんでつれて来た」
ももんががそういう。
「話す動物のおまえをテレビに売り飛ばすためだ」とあすか。
「なんだってえ」
「これは世紀の発見よ」
「それはそうだな。だが待て、夢を叶えてやるというのだ」
「夢は金よ。あんたを売り飛ばすことよ」
「待て待て待て。役に立ちます。掃除洗濯料理します」
「くっくっくっそんなもんいるか。ほしいのはおまえの命だ。今日があんたの命日よ」
「ひー。許してえ」
「冗談冗談。そんなもんマジにならないでよ。あなたの話は興味深いわ。だって夢叶えてくれるっていうからさ。そういうの面白そうだもん。あんたの姿からその話を信じたのよ。あたしはあすか。よろしくね」
あすかは茶色い長い髪をポニーテールにしてる。
「ふーっ。老人はいたわるものじゃ」
ももんが肩で息をしている。
「あたしはあやか。双子です」
あやかの顔だちや姿はあすかと似ている。
「わしはカノンじゃ」
「それで、どうやって魔法使うの」
「キスをするのじゃ」
「えーなんでえ」
「双子のキスが夢の中に入るための魔法なのだ」
「どうするあやか」
「あたしは困ったなあ、あすかはどうかな」
「あたしはいいよ。これで何もおきなかったらひどいからね。あやかからキスして」
「なんでよ」
「年上でしょう。年季が入ってる分リードして」
「あやかとは双子でしょう。リードなんてないわ。あすかが初キッスの相手だなんて幻滅よ」
「仏滅だってあたしたちは大丈夫。あやかは家族なんだから。家族は全然ノーカウントよ」
「野球じゃないんだからヒットしてたまるもんですか。あすかはいい加減なんだから」
「いい加減上等」
「あすかが上等なのは口だけよ。いつも口だけは達者なんだから。それは芸人も裸足で逃げるほどよ」
「ほめてくれてありがとう。夢が叶うのよ。これで大金持ちよ。あやかは夢が欲しくないの」
「あすかが欲しいのは欲望だよ」
「これが二人の運命よ」
「ただの日常よ」
「キスをすると二人は青い鳥を見て幸福になるわ」
「黒い猫を見て不幸になりそうよ」
「このキスで二人は禁断の恋が始まるのね」
「始まってたまるか」
「このキスで本質が響くわ」
「響くのは悲鳴よ」
「あやかさんさあ、いま二人の気持ちをひとつにする時よ」
「もう、騙されてあげる。あすかには降参よ」
「わはははは。どうだ、まいったかあやか」
「まいったわよあすか」
キスをするあやかとあすか。
次の瞬間、二人は別の世界にいた。
二人は裸になり、足元から服に包まれていく。
光が消えると二人はドレスのスーツのようなものを着ている。
見るとおじいさんが一人で生活している。
何の変哲のない田舎町。
おじいさんが庭でイスに座っている。
あすかとあやかは見ているが、何の変哲のない生活だ。
「どうやらあのおじいさんの夢の中のようだな」とカノン。
「で、どうすればいいの」
あすかがカノンに聞く。
「それは分からん」
「それでよく魔法使いの使い魔が出来るわね」
「私は使い魔ではない。夢魔法の賢者だ」
「私たちは何をすればいいんですか」
あやかが聞く。
「この老人の夢をこの夢の中で叶えてあげるのだ」
「老人の夢って何」とあすか。
「それは自分たちで探せ。わしも知らないことだ」
「へーへーそうですか」
あすかはどーでもいいようにうなずいた。
あすかは老人に聞く。
「あなたの夢はなんですか」
「わしには夢はない」
「ないって」
「そんなはずはないじゃろう。何かしらあるはずだ」
カノンはそういいきる。
「やっぱり夢といえば大金よね」
「それはだから欲望だってば」
「おじいさんをこらしめて聞くのはどうかな」
「その前にあすかをこらしめるから」
「年金がたくさんほしいのよ」
「お金から離れなさい」
「夢に夢見ちゃだめよ」
「そのままあんたに返すわ」
「男の夢といえば女性を手に入れることよ」
「こんな老人なのよ。もっと他の夢よ」
「人生に意味を求めているのよ」
「それはあるかもね。あすかもまともなこというじゃない」
「なんてこと。てきとーにいっただけなのに」
「てきとーかよ。もう、一言余計なのよあすかは」
部屋の壁の写真にはおばあさんの姿がある。
「おばあさんに聞いてみたらどうかしら」とあやか。
「それはいいな」
カノンもうなずく。
「おばあさんはどこですか」
「もう死んだ」
おじいさんはそういう。
あすかはあやかに話しかける。
「ここで必要なのはおじいさんの気持ちを受け止めてくれる存在よ」
「それはおばあさんね」
「そう。おじいさんはおばあさんという存在に何か夢を見ていたと思うのよ」
「その可能性はあるわね」
「でしょう。愛するって夢見ることに近いことなのよ」
あすかはカノンに向き直る。
「夢魔法で話を聞くことは出来るの」
あすかがカノンに聞く。
「それこそ夢魔法じゃ。二人でイメージして」
あやかとあすかが両手をつなぐ。
おばあさんの姿が浮かぶ。
「二人の力でイメージして」
おばあさんが現れる。
「おばあさんの夢はなんですか」
「おお」
おじいさんが立ち上がる。
おばあさんのところまで歩いて来るおじいさん。
「ばあさん、ありがとう」
おばあさんはうなずく。
「おまえさんが死ぬ前にいえなんだ」
「私の夢はおじいさんの幸福ですよ」
おばあさんはそういう。
世界が崩れていく。
おじいさんは一人になる。
その横にはおばあさんがいた。
それを見ているあすかたち。
「これは崩壊?」
「これはおじいさんがその余命を尽くそうとしている」
「死ぬってこと」
「そうじゃ」
夢が覚めた。
二人は元のパジャマ姿で部屋にいた。
「亡くなったおばあさんへの感謝の言葉がおじいさんの夢だったんだ」
あすかがそういう。
「いえなかったたった一言が夢だったんだ」
あやかがそう付け足す。
「おじいさんは幸福になったのかな」
「なったよ」
あすかはいいきる。
「人生は一時の夢だから」とあすか。
「そうね。忘れられた時間が去っていく」とあやか。
「人生はなんでも出来ると信じていた」
「それがたった一言がいえないなんてね」
「夢が叶うのが余命尽きる時」
「それは幸福な時なのかも知れないわね」
「人は死んでもいい時がある」
「それは最後の本質が響く時」
「死んだ人たちは墓場へいくの」
「そして生きてる人たちはベッドへいくのね」
「死ぬ意味があるのかな」
「生きる意味があるようにね」
「死ぬために生きるの」
「そうではないわ。生きるために生まれて来たんだから」
「死んだら何もいえない」
「その生きた人生で語るものがあるのよ」
「死んだら何もかもおしまいなの」
「その人生を受け継ぐ何かがあるのよ」
「死から学ぶことがあるのかしら」
「生きることよ」
ぽんと、丸い光の玉が二人の中に入る。
「良くやった。これで夢の実はおまえたちのものだ」
「それがあるとどうなるの」
「夢の実がたまるとおまえさんたちの夢が叶う」
「やったー」
あすかは喜び、あやかは微妙そうに微笑んだ。
「叶う夢も夢の中のことなんてないよね」
「それはない」
「いやっほう」
あすかが飛び上がって喜ぶ。
「まだまだこれからもよろしくね」
「またキスするの」
「そうじゃ」
「えー」
二人と一匹はにぎやかに話していた。
続く。
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