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『ガールズワールド』

たかさきはやと




 数機のジェット戦闘機が青空をいく。
 その姿はかっこいい。
 セーラー服姿の少女がそれを追いかける。
 彼女は本条陽子。
 その髪型と姿はライオンのようだ。
 パワードスーツが陽子を追いかける。
 パワードスーツを着ているのは霧島ミクという。
 長髪のかわいこちゃんだ。
 ミクは背が高くてきりっとしている。
「ミク、いくよ」
「オッケイ」
 パワードスーツの投げるように動く腕からジャンプする陽子。
 ぱわふるだねえ。
 発射されたミサイルが陽子を狙う。
 危うし陽子。
「はいやっ」
 キックでホーミングミサイルを蹴り上げる。
 ありえねえな。
 ミサイルはあらぬ方向へ飛んでいく。
 おつかれさん。
 陽子がケリ出すミサイルはそれこそ数知れず。
 凄いねこりゃまたね。
 陽子はまるで飛び石のように二十機以上の戦闘機を蹴り壊す。
 たあまあやあ。
 パラシュートで脱出するパイロットたち。
 花が咲いていくようだ。
 陽子は戦車のキャタピラも次々と蹴り壊していく。
 跳ねる弾丸みたいだね。
「まだなのか。まだこないのか」
 陽子は何かあせっているようだ。
 空から光が光臨する。
 その光に触れた機械が破壊される。
「なんだこれは」
「桃井わかる」
 ミクは桃井に聞く。
「衛星上からのレーザー攻撃だね」
 通信で桃井が答える。
「どうする陽子」
「とりあえず退散しましょう。いまは戦う手立てがないわ」
「了解。撤退よ」
 ミクはパワードスーツに陽子を乗せて走り出す。


 学園で教室にいる陽子とミクと桃井。
 三人とも17歳で高二である。
 桃井のりかは丸くシャギーの入った短い髪のちょっと丸い感じの女性だ。
 桃井は背が低くて小柄な感じだ。
 ぼけっとしている陽子。
 それは戦っている陽子とは違っている。
 まるで心ここにあらずである。
「ほい、レーザー装置の周回軌道、解析しといたよ」
 桃井がそういって紙を陽子に手渡す。
「やるのね」
 ミクが陽子に聞く。
 うなずく陽子。
「それがあたしのさだめだからね」
「これが桃井の資料を元にしたあたしの作戦よ」とミクが陽子に紙を渡す。
「ネットでは戦う謎の美少女が話題になってるよ」と桃井。
「陽子もすっかり有名人ね」とミク。
「どうでもいいことよ」と陽子はそっけない。
「あたしも鼻が高いよ」と桃井。
「のりかは関係ないでしょ。戦っているのは陽子なんだから」
「てへへへへ」頭をかいている桃井。


 この前の軍事基地まで来ているミクと陽子。
「これがうちの系列の会社が開発した特殊靴よ」とミク。
 特製のグローブと靴を着けている陽子。
「いくわよ」
「オッケイ陽子」
 ミクがパワードスーツを走らせる。
 レーザーが降り注ぐ中を走るミクと陽子。
 陽子がジャンプする。
「クレイジー」
 それを見た軍人たちが叫ぶ。
 それは無理もない。
 なんとレーザーの上を走る陽子。
 無茶だろうそれはいくらなんでもな。
 早い早い既に丸い地球が下に見えている。
 地面が遠くて怖いねどうも。
 そして陽子の前には暗い宇宙にレーザー発射機が浮いている。
 絶好のチャンス。
「流れ星、流星キック」そう叫ぶ陽子。
 衛星軌道にあるレーザー発射機をケリ壊す陽子。
 あっぱれなり。
 陽子がゆっくりとその場に浮遊する。
 そこに女性が現れる。
 陽子と同じ年くらいの美しい女性だ。
 セーラー服着て、長い髪が揺れている。
「しばらくです陽子」
 一度抱き合ってから、お互い向き合う。
「なんで戦いのあいだだけしか会えないんだ」
「それは神様が決めたこと」
「神様があたしは憎い」
「神様はあなたを愛しておいでです」
「あたしはあなたに会えなくて苦しい」
 陽子は下を向いて涙を流している。
「いま会えているではないですか」
「こんな戦いの合間ではなくて、いつもあいたい」
「それは許されないことです」
「こんなに愛しているのに」
「それは私もです」
「学校でのあなたとはこんな気持ちになったりしなかった」
「学校での陽子はいつも輝いていた。そんな陽子に憧れていたわ」
「もうどこにもいかないで」
「私はいつもここにいます」
「いつもそばにいて」
「いつもここで見ています」
「いっぱいいっぱいありがとう」
「どういたしまして」
 ミクと桃井が夕日の空を眺めている。
「神様は戦神に戦うことを命じられた」とミク。
「陽子ちゃんは強いのだ」と桃井。
「運命付けられた戦いが二人を出会いへと誘う」
「友情だねえ」
「戦いの神は戦うためだけに存在を許された」
「格好いいね」
 夕日の中、パラシュートで降りて来る陽子をミクと桃井は待っていた。


                    続く。







[ガールズワールド 第二話 ロボット無双]


 いつものように基地を攻撃している陽子。
 そこに巨大なロボットが現れる。
「こいつは第四の敵なの?」
 陽子がミクに問う。
「違うわ」
 ミクはディスプレイを見ながらそう答える。
「とりあえずは倒すわ」
 陽子が走り込む。
「流れ星。流星キック」
 陽子が巨大ロボットへキックする。
 決まったあ。
 ペシッ。
 巨大ロボの平手打ちが空中にいた陽子をとらえた。
 ハエ叩きのようなもんだ。
 吹っ飛ばされる陽子。
 地面に叩きつけられて動かない陽子。
「撤退よ」
 ミクが陽子を抱えて逃げ出す。
 桃井が操縦するヘリがミクと陽子を収容する。
 ヘリは飛び立った。


 「全治二ヶ月ですって」
「へーそうかー」
 陽子はぴんぴんしている。
「さすが戦いの神ね。治りも早いわ」
 ミクがあきれていう。
 陽子は次の日には退院した。
「それで陽子はどうしたの」と桃井が聞く。
「剣道部にいるわ」とミク。
「柔道や空手部にも入ってなかったっけ」
「陽子なら三人前くらい朝飯前よ」
 ミクは両手を開いた。
「なんで入ってるんだろう」
「心技体を極めるためっていっていたわ」
 道場で向き合う剣士が二人。
 一方の構えは上段だ。
 上段が打ち込む。
 一本を取る上段。
「ふうーっ」
 上段で顔の胴着を取ったのは陽子だ。
 相手は女性の上田先生だ。
 陽子が聞く。
「やはり無心でしょうか」
「それもあります。けれども悩み苦しむことは気持ちがあなたの人生の中でまだまだ成長しているということです。存分に苦しみなさい」
「はい」
「戦いに人生を見ても無情。けれども戦いの中にあなたの自由があります。その自由を手に入れなさい」
「分かりました。戦います。それが私の答えならば」
「一般の人は仕事の中に自由を見つけます。あなたの自由は贖罪(しょくざい)のための自由です。優しさを取り戻すための自由な時間なのです」
 陽子はうなずくとまた防具を付けた。
 しばらく竹刀の音が響いた。
 次の日、教室にいる三人。
「これがロボットの稼動領域ね」
 桃井が紙を陽子に渡す。
「そこから考えた私の作戦がこれよ」
 ミクが紙を陽子に渡す。
「毎回すまないねえ」と陽子。
「それはいわない約束よ」とミク。
「私には何も返すものがないわ」
「桃井と私は陽子が好きなのよ。好きだから助けているのよ。だから陽子はそのままでいてくれればいいのよ」
「ありがとう」
 陽子がうなずく。
「いきましょう」と陽子。
「了解」とミクがうなずく。
「ほーい」と桃井。
 三人はいつものノリであった。


 巨大ロボットと対峙する陽子。
 走りだす陽子。
「ロケットアーム」
 巨大ロボットの腕がミサイルのように飛んでいく。
「一刀両断。疾風(はやて)斬り」
 ミクのパワードスーツがレーザーブレードで腕を両断する。
「少女はどこだ」
 軍人もロボットも陽子を見失った。
 陽子は巨大ロボットの足元にいた。
 待ってました。よっ千両役者。
 垂直に上にジャンプする陽子。
 巨大ロボットの胸のとこまでくる。
「流れ星。流星キック」
 舞ってました。
 風にそよいでいて。
 陽子の体が風に舞う花のように流れる。
 巨大ロボットが陽子のキックに吹っ飛ぶ。
 岩山に叩き込まれる巨大ロボット。
 岩が崩れていく。
 すごい衝撃波が陽子の服を揺らす。
「どうだまいったか」
 陽子はポーズを決めている。
 女性が陽子の前に出て来る。
「京子」陽子が歓喜する。
「戦いに勝ったのですね。陽子、あまり無理はしないでくださいね」
「うんうん」
 涙を流している陽子。
「陽子の戦いを見ていましたよ」
「格好良かったかな」
「はらはらしてそれどころではありません」
「京子のためならいいんだ。あなたがいなかった時間は寂しかった」
「お友達がいるではないですか」
「うん、いつも一匹狼だったのにね」
「本当に良かった」
「これで京子がいれば、後は何もいらないのに」
「これは運命(さだめ)です仕方ないことです」
「絶対に助けてみせる」
「私のことはいいのです。陽子のことがいまは心配です」
「私には京子が心配だよ」
「私は神の元で良くしてもらっています」
「けれども無理やりだった」
「理由があります」
「そんなの知らない。私は京子がいてくれればそれでいい」
「駄々っ子ですねえ」
「甘えていいかな」
「いいですよ」
 抱き合う二人。
「大好きだよ京子」
「私もです陽子」
 二人はしばらくそうしていた。


 学校で教師が点呼を取っている。
「今日は転校生を紹介する」
 巨大ロボットが窓から顔を出す。
 ざわめく教室。
「軍事ロボットのジャッキーくんだ」
「姉御、感服致しました。仲間にしてください。よろしく」
「自律タイプだったの」驚くミク。
「あきれたね」と陽子。
「わーい。楽しい仲間が増えたね」と桃井。
 教室は喧騒に包まれていた。
                  続く。







[ガールズワールド 第三話 天使襲来]


 戦場にいる陽子。
 陽子にメールが入る。
「誰からよ」ミクが聞く。
「ジャッキーからだ。いま戦っている最中なのでいけません。すみませんだってさ」
「マメねえ」
「あんな奴いらねえって」
 陽子がミクのパワードスーツの力で空へと上がる。
 ミサイルを回転しながら連続して蹴り叩き落とす。
 それからヘリの小さなプロペラを蹴り壊していく。
 その場で回転しているヘリたち。
 陽子が着地する。
「一丁上がり」と陽子。
 陽子とミクが前を向く。
 女性が戦場に一人いた。
 何も武器を持っていない。
 何かの白いスーツのようなものを着ている。
 抜群のプロポーションで巨乳だ。
 丹精な顔つきに長い紫色の髪。
 だが、その背中には白い翼があった。
 ふとんにもなりそうな立派な翼だ。
「第四の敵、天使」
 陽子はふるえていた。
 手を伸ばせばそれはそこにいた。
 陽子の前に天使が歩いて来る。
「名のろう。私はヴェリヘリウス。私は絶対です。神の意思を人に伝える者だからです。分かりましたね。それでは戦いの神に神々の意思を伝えます」
 陽子が天使にケリを入れる。
 ケリを軽く止める天使。
 いや、天使の足場の岩が崩れる。
 メガトンキック炸裂。
 凄い衝撃である。
 それにも天使は微動だにしない。
「さすがに戦いの神は短気ね。そんなに戦いたいの」
「私は神々の意志には従わない。京子を帰せ」
 陽子が怒気を含んでいう。
「なにをいっている。アフロディーテはこちらで用があるから呼んだのだ。戦いの神も人間などに転生するからこんな苦労をする」
「死なないでね陽子」とミク。
「あなたもね」と陽子。
「一刀両断。疾風(はやて)斬り」
 ミクのレーザーブレードを片手で止める天使。
 それは舞う葉のように華麗な動きだ。
「流れ星。流星キック」
 それも片手で止めるが、吹っ飛ばされる天使。
 なんとかこらえる天使。
 衝撃が翼を揺らす。
 それでもなにもなかったように話しだす天使。
「神々の意思を伝えます。戦いの神よもっと戦いなさい。それが神々の意思です」
「うるさいうるさいうるさあい」
 陽子のキックがヴェリヘリウスの脳天に決まる。
 いや、それは両手でガードされていた。
 天使の足場が崩れる。
「訛(なま)ったな戦いの神よ。前世ではもっとキレのあるキックだったぞ。いまやどうだ。私に一太刀入れることすら出来ないではないか。戦いの神の名が泣くぞ。けれども、一緒にまた手合わせ出来ることは喜びだがな」
「おまえなんか知るか」
 陽子はさらに空中から、なおもキックする。
 陽子は泣いていた。
 天使を目の前にして、我を忘れ、無我夢中であった。
 飛んで来るミサイルを蹴り飛ばす陽子。
「邪魔(じゃま)だ」
 陽子はヘリのプロペラを蹴り飛ばす。
 再び天使に迫る陽子。
 翼が舞った。
 鷹(たか)のように空へと上がる天使。
 陽子のキックは不発に終わる。
「逃げるのか」
「役目は終えた。またな、戦いの神よ」
「何も何も出来ないのか私は」
 泣き続ける陽子が崩れ落ちるように座り込んだ。


 その夜、桃井の家のブザーが鳴る。
 桃井が家から出ると、泣いている陽子がいた。
 何もいわない陽子。
 陽子がふるえている小鳥のようにそこにいた。
「ゲームでもしょう」
 桃井が家に招き入れる。
 テレビゲームをする陽子と桃井。
 陽子は泣き続けていて何もいわない。
「最近面白いドラマがあってさ。その内容がとってもハッピーなの」
 桃井は一人話している。
 桃井は良く笑う。
 たわいない話をする桃井。
 桃井から質問することはない。
 泣き続ける陽子。
 テレビゲームをする二人。
 二人は朝までそうしていた。


 次の日、剣道場で打ち合う二人。
「胴っ」
 上段から陽子の胴が上田先生に決まる。
 頭の防具を取る二人。
「ねえ陽子さん。段位を取らない。七段の私からこれだけ取れるのだから、たいした腕前よ。大会にも出てみない。あなたなら優勝するわよ」
「そういうのには興味がなくて」
「そう残念ね」
「話を聞いてもらってもいいですか」
「いいわよ」
「何も出来なくて、どうしょうもなくて、私には戦うことしか人生の選択肢がありませんでした。それはいまもそうです」
「人生の大半は何も出来なくてどうしょうもないことばかりよ。歩ける道も人生の選択肢もそんなに多くないわ。それは誰でもそうです。そんな中で、みんな出来るだけの夢をつかみ生きているのよ。人生の目標がなくて、暗闇の中で生活している人もいる。それに比べれば、陽子さんには目的があるのよ。京子さんを救い出して陽子。そして友情を結びなさい」
「分かりました」
「人生には運命があります。けれどもそれを背負ったのは自分自身の意思なのです。それを忘れないでくださいね。陽子さんの本質は戦うことではありません。京子さんを救うことです。そして幸福になること。それがあなたの本質なのです。陽子さん、不幸にはならないでね」
「はい。ご指導ありがとうございます」
 陽子と上田先生はまた打ち合いを始めた。
 トイレにいる陽子とミク。
 住んでもいいような綺麗なトイレだ。
 陽子が手を洗わない。
「手を洗ったほうがいいわよ」とミク。
「なんだよ説教かよ」陽子は駄々っ子のようだ。
「そうじゃないわ。手を洗うことは小さな幸福よ。読書や風呂に入ったりする小さな幸福を集めて人は幸福になるのよ。普段の幸福なんて小さくて見えないものなのよ」
「やっぱり説教じゃないか」陽子が毒づく。
「それよりも、なんで桃井のとこにいったの」
「それは、家が近くにあったからだよ」
「いってくれれば車を出したのに」
「すまない」
「今度は私のとこに来てよ」
「分かった」
 陽子はうなずいた。
 教室で話しているミクと陽子。
「最近は乱暴な事件が多いな」
「あなたがいうかね陽子さんよ」
「なんだよ」
「そうねえ。そういう人は不幸なのよ。不幸な人は犯罪を犯す可能性が高いわ。でも陽子は大丈夫ね」
「なんでさ」
「私と桃井が陽子を幸せにしてるから」
「ありがとう。感謝しているよミクに桃井」
「うわーい。桃井も陽子とミクと出会えて幸せだよ。それとこれね」
 桃井は紙を出す。
 それは株のことが書いてあるものだ。
「桃井は学費とこづかいを株でまかなっているのよね。陽子の特殊靴の製造費も桃井が出してくれてるのよ」
「この不況なのに儲けてるんだから凄いな」
 陽子が関心する。
「うちの会社も株の指南してもらってるからね。彼女のバイタリティは並大抵じゃないもの。この不況も長いわね。不良債権が不景気の原因のひとつだから、国も対策に追われているわね。貸し渋りはしたくないけれども、不良債権も作りたくない。資本主義の矛盾のひとつね」とミク。
「何か対策はないものかね」
「不況の時に公共事業で仕事を作ったという例もあるわね。消費税を下げたりとかね。まあそれは専門家が頑張っているとこね」
「それじゃ作戦いこうか」と陽子。
「陽子を基準に天使の馬力を出したわ」
 桃井が陽子に紙を渡す。
「そこから考えた作戦がこれ」
 ミクが陽子に紙を渡す。
「この動きは苦手だな」
「苦手があるから得意もあるのよ。大丈夫。陽子の空手の技なら出来るわ。ここは反動を使うのよ」
「反動か。それならなんとかいきそうだ。その言葉を信じるよ。よし。次は見ていろよヴェリヘリウス」
 次の日、陽子は戦場に来ていた。
 荒涼たる岩場が続いている。
「これが特殊鉄鋼で強化した靴よ」ミクが靴を出す。
「良くこんなもの作れるなあ」それをはく陽子。
「うちの会社の系列会社が作ったのよ。小さな会社だけど、世界にひとつのオンリーワンな一品を作るとこなのよ」
「来たぞ」
 陽子の向くほうから天使が飛んで来る。
 陽子たちの前まで来て降りてくる天使。
 軽快に話出すヴェリヘリウス。
 まるで蝶のように舞う唇。
「ようようよう。伝令にかこつけて、遊びに来たぜ。神々の意思はもっと戦えだ。どうだ、元気にしてるか戦いの神よ。おまえも本質に触れることが出来れば伝令などいらないというのに。そっちじゃ神学や哲学というそうじゃないか。習ったらどうだ。なんなら私が教えてやってもいいぞ」
 陽子はいきなり蹴りを入れる。
 片手で止める天使。
 その衝撃で天使の足場が崩れる。
 手がしびれて動かない。
「なんだ。かなり陽子の力がアップしているな」
 だが、天使は動揺してはいない。
 まだ余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)である。
 連続して陽子は蹴りを入れる。
 それを軽くかわす天使ヴェリヘリウス。
「ほれ。どうしたどうした。当たらないぞ陽子」
 水のように流れるように動き、余裕のヴェリヘリウスだ。
 陽子はそれでも淡々と蹴りを色んな角度から入れている。
 たまらず天使が攻撃する。
「一撃滅殺。シュトレーゼマン」
「流れ星。流星キック」
 ヴェリヘリウスの手刀と陽子のキックがクロスする。
 その衝撃波に、ミクは近づくことが出来ない。
 轟音が轟(とどろ)く。
 陽子は間髪なくさらにキックする。
 天使がたまらず立ち止まった。
「流れ星。流星キック」
 陽子は下から蹴り上げる。
 両手でガードする天使。
 そのガードに蹴りを合わせる陽子。
 ガードを蹴り飛ばす。
 びりびりと衝撃が天使を襲う。
 天使の両手と上半身はしびれて動かない。
ーー空が青いじゃないか。
「うおおおおっ」叫ぶ天使。
「流れ星。流星キック」
 そのまま上からかかと落としをする。
 構えた体勢の天使の腹に陽子のキックが炸裂する。
 天使は地面に叩きつけられる。
 地面は割れ、岩が吹き飛ぶ。
 すさまじい衝撃である。
 地面の岩が崩れる。
 まるで破裂の花が咲いたようだった。
 ヴェリヘリウスが話す。
 それは枯れ木のような声だ。
「内臓がやられた。動けない。完敗だ。いやなに、他の天使が助けてくれる。傷の治りも早いしな。非礼をわびよう。どうだ戦いの神よ。私を仲間に入れてくれ。京子を助ける助けにもなろう」
「天使など仲間に出来るか」陽子は素っ気無くいう。
「なに、次に転生する時は神と決まっている。それまで数十年を待とうではないか。私にとって、それは一瞬のことだからな」
 そういってヴェリヘリウスは豪快に笑った。
 まるで太鼓のように笑い声が響いた。
「陽子」
 京子が陽子の前に現れる。
「京子。あいたかった」
「私もです陽子」
「京子のいない夜は寂しかった」
「私も陽子と会えない時間は寂しくいました」
「もう離さないよ」
「私もです」
 二人は抱き合う。
 まるで白い百合の花が咲いたようだった。
「京子がいれば他には何もいらない」
「私も陽子がいればそれは希望となります」
「京子がいれば空が青かった」
「私も陽子がいたから今日も頑張れます」
 陽子は泣いている。
 京子ももらい泣きしていた。
 こぼれる涙が桜の花のように舞散る。
「いつかまた京子にあいたい」
「また会えますよ陽子」
「いますぐまた京子とあいたい」
「陽子は駄々っ子ですねえ」
 二人はくすくすと笑った。
 まるで木の葉がこすれるように。
「毛糸の手袋を編んだのです。良かったら陽子もらってください」
「ありがとう京子」
 毛糸の手袋はほのかに花の香りがした。
 とても暖かい。
 それは京子の気持ちなのだと陽子は思った。
 二人はしばらくそうして話していた。
 明くる日、陽子はまた戦場に来ていた。
「いくぜ」
 陽子が走りだす。
 ミクがそれに続いた。
 戦いはまだ、終わらないのであった。
              続く。







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