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『アニメーター叙情詩(じょじょうし)』

たかさきはやと




 机がよっつ並ぶ一部屋。
 これが動画スタジオアルファのすべてである。
 そこには四人のスタッフと、進行さんが来ていた。
 進行のタケゾーがかなこにくってかかる。
「かなこちゃん、なんで間に合わないの。元請けのとこが徹夜であげてくれたから良かったけど、こんなことなら最初から中国にまわせばよかったよ」かなこに嫌味な感じでそういうタケゾー。
 入り口の通路で話すタケゾーを見ているたかしと良子。
 ちょっと小声で話す二人。
「シンコーのタケゾーさん、なんで怒ってるの。コンテ遅らせたのはメインスタッフのほうじゃない。短気だよ」とたかし。
 良子はたかしに説明する。
「タケゾーさんが機嫌悪いのはいつものことでしょう。月給十五万円で24時間働かされたら、誰でも壊れるって」
「進行助手もたいへんだな」
「うちらも似たようなもんでしょう。孫請けのさらに下請けじゃない。同じ下っぱでしょ」
「なんでやねん」
「なんでもかんでもそうやねん。仕方ないだろう」と田中。
「それじゃ次の仕事もそういうことでよろしくね」
 進行のタケゾーはそういう。
「どういうことやねん」
 たかしはタケゾーにツッコミを入れる。
「仕事やねん。仕事ってそんなもんさ」
 そういって部屋から出ていくタケゾー。
「もめても仕事は来るのね」と良子。
「今回はほんとにまいったわー」とかなこ。
「おつかれさまです」とたかしはかなこをいたわる。
「災難よねえ。ひっく。うい〜」
 ピールを一気飲みしてふらふらしてる良子。
 黒いストレートヘアが肩まである顔も赤い。
「良子さん、また飲んでるよ」
 黒髪のショートヘアのたかしはがっくりしてそういう。
「あたしの燃料はお酒なのよ。呑んでる時のあたしの仕事の速さは三倍よ」
「て赤い彗星かい。確かにそうですけど、酔いどれ動画マンなんて洒落になりませんよ」
 たかしは冗談のようにそういう。
「スタジオアルファでは必要であると認めてるけどね。スタジオアルファの代打あぶさんだからね」
 茶髪のショートヘアのかなこがそういう。 「かなこさんが認めてるんだ」とたかし。
「スタジオアルファ万歳」と良子。
「スタジオアルファは不滅です」とたかし。
「そうそう」と茶髪の角刈りの田中。
「いつかスタジオアルファを元受けにするまではね。頑張りましょう」
 そういってかなこは祝杯をあげた。
 たかしは思う。
ーー夢に燃えていた。まだ若くて、日々が刺激にあふれていたんだ。
 たかしは家に帰る。
 帰るのは夜遅くの深夜だ。
 その代わり朝は昼近くから始まるのだ。
 たかしはアパートの一室に入る。
 四畳半の汚い部屋だ。
ーーしめきり前。家には洗濯と睡眠にだけ帰る毎日。月給は12万円。あるのは夢と希望だ。それこそが力だ。
プルルルカチャ。
 ケータイを取るたかし。
「あ、かーさん。うん、届いてたよ。大根とかはいらないよ。料理しないから。あ、いーのいーのそう。うん、頑張ってますはい」
ーー一人での暮しは寂しい。
「あ、母さん。うん、元気にやってるよ。それじゃね」
ーーそんなこと母さんにはいえなかった。
 受話器を置くたかし。
ーー夢がいまはすべてだった。
 次の日、たかしはいつものようにスタジオアルファにいた。
「毎月八万円の赤字なのよねえ。ねえねえたかしくん、月給に転化してもいいかな」
 かなこが愚痴る。
「いやっすよ。なけなしの金なのに」
「あーアニメーターの神様がいればいいのに」と良子は嘆願する。
「ばーか。神様がお金使うかよ。世の中貧乏神のほうが多いんだよ」
 田中はクールだ。
「ちげーねえや」とたかし。
 一同爆笑である。
「お金は使わないためにあるのよ」とかなこ。
「それは名言ですね」
 たかしはそううなずく。
「お金になりますよ」と田中。
「じゃあお金頂戴」とかなこ。
「金言ていうことで」
「うまいこというわね」
 かなこは舌を巻いた。
「かなこさんて、この仕事で楽しいことなんてありますか」
 たかしがかなこに聴く。
「すごい過密スケジュールでね。こんのやろうと思って、私のクセ全快の原画をあげてやったのよ。そしたらよ。まだ統一原画チェックとか流行る前でね、その原画のまんまテレビ放映していたの。あれは楽しかったなあ。笑った笑った。なにかこみあげてくるものがあったね」
「幸福だったんですね」
「ものすっごくね」
「あたしもそんな気持ちで仕事したいな」
 良子がそうもらす。
「良子さんには酒があるじゃないですか」
 たかしがそうフォローする。
「ありがとう。愛してるわ、たかしくん」
「良子ちゃんはたかしに気があるのよ」とかなこ。
「よしてくださいよ」
ーーおれの理想は声優の原木ゆいなさんだもん。妥協はしないぞ。
 たかしはそう心に誓ったのだった。
「今日さ、元請けいったのよ。岸部監督と会って話しちゃった」
 かなこはそんなことをいう。
「へーなんて」とたかし。
「神楽坂スターズの人気どうですかっていったら、上々だってさ」
「へーいいなあ」
「監督かあ。一度でいいから話てみたいなあ」
 良子は理想をそう口にする。
 かなこは否定する。
「あり得ないでしょ。孫請けのその先に。監督なんて一人しかいないんだから、すべて管理出来るものじゃないわ」
「おれが監督だったら、もっと楽しいシーンを入れるのに」と田中がいう。
 かなこはこれも否定する。
「無理無理。そんなのあり得ないって。コンテ一本まわってこないわよ」
「いや、案外いい作品になるかもよ」と良子。
「そうっすよ。そうっすよ」田中の反撃。
「そうかなあ。いいとこネットで批評家どまりよ」
「いってはならないことを」とたかし。
「キズつくっすなあ」
 田中はまいったようにそういう。
「めんごめんご」
 かなこは平謝りだ。
「でも監督なんて安い給料よ」と良子。
「なんで監督の給料ってそんなに安いんすかね」とたかし。
「ひとつには経理の権限を持ってないからね。誰それの給料を決めているのは経理と人事なのよ」
 かなこが的確にそういう。
「人事がなんで経理に関係あるんですか」
 たかしがそう聴く。
「経理は人事の後ろ盾よ。だから人事は人を選ぶ権利が保障されてるのよ。経理と人事は経営においては双子の関係にあるのよ」
 とまた、かなこの指摘。
「そんなもんですか」
 たかしは分かったようなそうでないような感じだ。
「たかしくんはなんでこんなにきつい仕事に入ったの」
 そう良子が聞く。
「子供の時に見た、もうタイトルも覚えていない作品が忘れられないんですよ。あんな作品を作ってみたい。そう思うんです」とたかし。
「あたしは絵を描いてると生きてる感じがするわよね」
 かなこはそういう。
「絵に思い出が残るような感じがするっす」
 田中はそういうと笑った。
「あたしは酒が飲めるからかな」と良子。
「それは確かにいい仕事ですね」
 たかしが良子の言葉にうなずく。
「あたしのおかげね」とかなこ。
「良子さんの人柄ですよ」と田中。
「そうそう」と良子がいう。
 一同が笑った。


 「それじゃあがります」
 たかしがスタジオアルファから出ていく。
 外はもう真っ暗である。
ーー深夜に仕事が終わると、コンビニくらいしか開いてない。コンビニ寄りは帰りの日課となっているのだ。
 深夜の街。
 暗い中にコンビニが煌々(こうこう)と照らし出されている。
 ぴんこんぴんこん。
 コンビニに入るたかし。
「いらっしゃいませー」
 女性の定員がそういう。
 雑誌を広げて読みふけるたかし。
ーーこのコンビニの店員さんは美人で好みだ。おれの唯一の目の保養である。ひそかに幸福なひとときなのだ。
 雑誌をめくるたかし。
ーー今日もなにかね。今日もいい日でした。
 たかしは雑誌を元の棚に戻した。
 暗い街の中を一人歩いていくたかし。
「おれはここにいるぞ。ここで生きているんだぞお」
 暗い世界にたかしは小さく叫ぶ。
 声は響くことなく闇に溶ける。
ーー寂しくて苦しくて、それでもただ仕事だけをしていた。
 暗い街はたかしを闇に包んでいた。


 たかしは目覚める。
 外はもう昼前だ。
 ふとんをしまうと、おにぎり一個を食べる。
 それが毎朝の朝食である。
 歯を磨いて服を着替える。
 毎日のことなので、手際がいい。
 たかしはアパートを出る。
 荷物はいつもと変わらない道具の入ったバッグである。
 スタジオアルファに着くたかし。
 挨拶もそこそこに仕事にとりかかる。
「もう手とかメカの一部ばかり描くの嫌だなあ」
 たかしは愚痴る。
「口ぱくとかもいやだー」  田中も愚痴る。
「文句いわないの。孫受けの下なんだから、みんなが嫌がるのがくるのよ。これも大事な仕事よ」
 かなこが諭す。
「スタジオアルタの新作はフルCGだそうよ。そうなったらこの仕事すらないわね」
 良子はにんまり笑ってそういう。
「怖いこといわないでくださいよ」とたかし。
「へたな幽霊話より怖い話ねえ」とかなこ。
プルルカチャ。
 ケータイを取るたかし。
「よう啓太。どうした」
「それがさ、干され気味でなあ」
「それはたいへんだなあ」
「そっちで仕事ないかな」
「一応聴いてみるな。かなこさん、一人おける余裕あるかな」
 かなこがひょっこりと顔をあげる。
 いままで絵を描いていたので、ちょっと顔がだるそうだ。
「うちにはそんな余裕はないわねえ。それは見れば分かるでしょう。いじわるじゃないのよ、キャパシティというかね、ちょっとね」
「分かりました。ああそうそう。ないない。こっちはいっぱいだよ」
「そうか」
「高山さんには聞いたのか」
「聞いてみたけどだめだった。なんとか探してみるわ、それじゃな」
「おまえが悪いから仕事がないんじゃない。タイミングが悪いだけなんだ。現実に負けるなよ。希望を最後まで捨てるなよ。じゃな」
 たかしはかなこに話す。
「アニメーターしてる友達の苦労話を聞けば聞くほど混乱するばかりです」
「現実は謎だらけよ。けれども、その謎はひょんなことから解くことが出来るものよ」
「そううまくいくものですかねえ」
「人生そんなもんよ。現実に誰もが勝てるものでもないわ」
「分かります。でもおれには友人に何も出来なかった」
「気持ちもひとつの結果よ。その気持ちを大事にしてね」
「はい」
「人生は分からないことばかりよ。どうにもならずなんにも出来ないことも多くあるわ。それでも人生は続き社会は動いていく。社会は一部の人たちを見捨てながら活動してるわ。現実は想像を絶するほど厳しいけれど、でも自分だけは、自分を見捨ててはいけないのよ。最後まで自分と戦わなくちゃいけないのよ。それは自分だけが出来る唯一のことよ。人は自分の出来る範囲で幸福にならなくてはならないのよ」
「そうですね」
 かなこは仕事のシートを出す。
「今度劇場作品を受けることになったから」とかなこ。
「うちが劇場作品なんてめずらしいですねえ」
 たかしがそういってシートを見る。
「以外とわりがいいのよ。仕事とるのに苦労したわ」
「ジブリとかさ、劇場作品て収入がひとつ上で高いのよね」と良子。
「でも劇場作品はいいですね」とたかし。
「どこがいいのよ」
 かなこが聴く。
「テレビアニメでは名前が出たことがなかったんです。でも、劇場作品で始めて名前が出て」
「どうしたの」
「感動した」
「成功体験ね」
「それほどでもありませんよ」
「成功体験は大事よ。それがあるから苦しくても頑張れるんだからね」
「へー。そんなもんですかねえ」
「かなこさん、ちょっといいですか」
 田中がかなこに話しかける。
「いいわよ、なに」
 廊下に出て話す二人。
 たかしと良子は絵を描く。
 田中とかなこが部屋に入って来る。
「ちょっとみんないいかしら」とかなこがみんなにいう。
 なにかとみんなが、かなこを見る。
「田中さんがスタジオアルファを辞めることになったから」
「えーっ、どういうことですか」とたかし。
「もう限界を感じたんだ」
 田中は意気消沈してそういう。
「そんな……」
 たかしは田中を見るが、田中は下を向いて、それ以上なにもいわなかった。
「お疲れ様」と良子。
「ああ、ありがとう」
 そういって田中は絵を描く。
「辞めるまでは田中さんも絵を描いてくれるから」
 そう説明すると、かなこも絵を描き始める。
 全員が黙々と絵を描いていた。


 田中を見送りに、たかしは電車の改札口の前まで来ていた。
「いままでおれがしてきたことはなんの意味もなかったことなのかな。たかしはどう思う」
 田中はたかしにそういう。
「いえ、田中さんはアニメ界に貢献されました。立派に役にたっていました」
「そうか。ありがとう。胸のつかえが取れたようだ。これからは田舎で店をついで暮すよ。たかし、不幸になっちゃいけないよ。幸福なアニメーターになってくれ。おれの分までよろしくな」
「はい。幸せに頑張ります」
 上野駅の改札の中に入っていく田中。
ーー田中さんはそういっていなくなった。いままでありがとうの言葉が瞬間出てこない。大人になるといえなくなることばかりになるのだろうか。おれはちょっとお酒が飲みたくなった。よっぱらいたくなったんだ。
 それから仕事場へいって一人で絵を描くたかし。
ーー現実のことを考えれば混乱する。理想を考えれば、納得する。おれにとって、絵を描くことが現実と対峙することなんだ。
絵を描き続けるたかし。
 スタジオにかなこが入ってくる。
「おつかれー。田中さん見送ってきたの」
「ええ、田舎に帰っていきました」
「こたえている」
「ええちょっとだけ」
「時間が過ぎれば、その気持ちもゆっくりと癒されるわ。時間は一番のばんそうこうよ。嫌なことは忘れてしまいなさいな」あっけらかんとそう言うかなこ。ちょい暗いたかしと対照的である。
「はい。でもいまは描きたい気分なんです。この気持ちを絵に投げかけていたいんです」
「そっか」
 しばらく絵を描くたかしを見ているかなこ。
「それじゃね」
 ぱたんと扉を閉めるかなこ。
 よっつの机が並ぶ小さな部屋のスタジオアルファには、絵を描くたかしだけになった。
 スタジオを外から見た風景。
 やがて街の夜景へと変る風景。
 そして夜中の喧騒が響いていた。


「倒産だあ」
 かなこがそういう。
 朝来てみんなが集まっての第一声がそれである。
 驚くのも無理はない。
「そういう感じはしていたけどね」と良子。
「なんでですか」とたかし。
「孫受けのひとつの元受けがつぶれて集金出来なかったのが響いたかな」
「まいったなこりゃあどうなるんだ」
 たかしは頭を抱える。
 スタジオアルファは小さな喧騒に包まれていた。
「どうにかならないの」と良子。
「どうにもならないわねえ。もう万策尽きたわ」
 かなこは手でどうにもならないとジェスチャーする。
 一同ため息である。
「給料はどうなるんですか」とたかし。
「それは払えるわ。でも今月でスタジオアルファは解散よ」
 誰もがうつむいて、驚くほど静かな時間が過ぎた。
 そして誰も何もいわなかった。


 ーースタジオアルファは借金を八十万円作って倒産した。おれと良子ちゃんは孫受けのカチューンに引き取られることになった。
 カチューンの建物の中。
 スタジオアルファと違って、立派なビルの一室。
 いすに座ってそれぞれ話す一同。
「カチューンてジャニーズの手先かなにかですか」とたかしがこうぞうに聴く。
「違うでしょう」と良子。
「きみたちの面倒を見ることは、かなこさんから聞いてるから」
「よろしくね」とかなこ。
「よろしく」「よろしくお願いします」
「でもかなこちゃん、八十万円くらいで倒産しちゃうの。うちなんて借金二百万円はあるよ」
 こうぞうがかなこにそういう。
「うーん。踏ん張りがきかなくてねえ。借金返済するまでオーエルするわ」とかなこ。
「お元気で」とたかし。
「あんたもね」
「田中さんが抜けたのが痛かったかな」
「途中で挫折した人のことはいいのよ」
 かなこは遠くを見るようにそういう。
「やっぱりカチューンは機械がそろってますね」
 たかしがこうぞうに聴く。
「元請けにはかなわないけどね」
ーーカチューンはスタジオ内も綺麗だ。
 たかしはそう思う。
 それなりに綺麗なスタジオ内。
 それでも人が多くいるという雑多な雰囲気が漂う。
 荷物などの多さ、資料の多さなど。
 人がそれだけ仕事をしている姿が見える。
 たかしが部屋の中を歩いている。
 それは何部屋にも渡っている道で、一室しかなかったスタジオアルファとは天地の差である。
 たかしはコピーを取っている女性に眼を止める。
 美人だ。
 たかしは話かける。
「お名前はなんていうんですか」
「くみです」
「うわっ、くみさん美人ですねえ。声優に似てるっていわれない」
「よしてくださいよ」
「もしかしておれってタイプかな。どうかな」
「あー、好きなタイプですねえ」
「あーそう。好き。そうだよねえ。いやあうれしいなあ。おれたかしっていうの。よろしくね」
「よろしく。あ、それじゃ仕事がありますから」
「あ、うん、それじゃあねえ」
 くみが席を離れる。
 高橋が入れ変りに横に入ってくる。
「くみはおれの女なんだよ。なに気があるの。おれが口説くのにどれだけ苦労したと思ってるんだよ。なに、あんたおれの敵」
「いや、ほんとに知らなかっただけで、さ。口説くなんてそんなことないよ。これほんとだから」
「だったらいいけれども、気をつけてくれよ。誤解しちゃうじゃない」
 高橋はたかしの横を離れていく。
ーーふーっなんだかなあもう。
「きみが新人くん」
 かわいい女の子が一人いる。
 茶色い長い髪を後ろで結わえた目の大きな美少女だ。
ーーなんだなんだ。
 たかしは警戒した。
 誰か近くにいないかキョロキョロしている。
「一応玉木たかしという名前があります」
「あたしは菊川あや。よろしくね」
「たかしです。よろしく」
「年は二十代半ばだね。あたしとおんなじだ。でも雰囲気暗いなあ、きみい。減点いちい」
「なにをおっしゃる菊川さん」
「あやでいいよう」
「じゃああやさん」
「はいな」
ーーなんだかなあ。けれども、ちょっと楽しい。彼女の第一印象はそんな感じだった。
 あやがたかしにキスをする。
 それはほんの短いキス。
「な、なにするんですか」
「キスしたかったんだ」
「え、あ、そう」
 たかしにはそれ以上言葉が出てこない。
 たかしが人生の中で、こんなに狼狽したのは始めてだった。
「よかったら、つきあわない」
「考えときます」
「そう、それじゃあね」
 あやが去った逆の方向からあやが来る。
「あれえ、あやさんいまいなかったかい」
「ああ、あやとは双子のさやです。よろしくね」
「よ、よろしく」
 さやはたかしのほっぺにキスをする。
「あやとは好きになる人も一緒なの。よかったらあたしとつきあいません」
「い、いや、考えとくよ」
「そう、それじゃあね」
 さやも去っていく。
ーー驚いた。こんなに驚いたのは久しぶりだ。いろんなことがある一日だなあ。まったく、なんて一日だ。
 たかしはため息をひとつついた。


 「どう、元気してる」
 かなこがカチューンに顔を出していた。
 たかしはびっくりしている。
「なんてこった。まだ昼ですよ。仕事ぬけだしてきたんですか」
「冗談ばっかり。今日は日曜日よ。あなたと違って会社は休みよ」
「それはそうか。なるへそう」
「みんな元気にしてる」
「ええもう元気元気。良子さんもまだ酒飲んで描いてますよ」
「酒飲んで良くやるわね」
「酒を飲んだ良子さんに勝てる人はカチューンにもいませんね」
「それは凄いわね。たかしくんも頑張ってる」
「そこそこ。友達も出来ました。あやさんていうんですけど、これがノーテンキにあかるい子で、まいっちゃうくらいなんですよ」
「楽しそうで安心したわ」
「まるで母親みたいな意見ですね」
「そうかもね」
 笑う二人。
「仕事はどう」とかなこ。
「順調ですね。でも」
「でもなに」
「生きることはじわじわと痛いことですね」
「そうね」
「楽に生きようとすればつらいことになります」
「それで」
「そこそこ生きていくことが出来ればいいなとは思っています」
「いいんじゃない。完璧な人生はないわ。苦しさを受け流すことも時には必要よ。柔軟に折れない心を鍛えていくことが大事だわ。そこそこ頑張るのはとてもいい作戦だと私は思うわよ」
「ありがとうございます。そういってもらえると折れそうな心が救われます」
「たかしくんの絵は好きよ。大ファンだわ」
「嬉しいです。かなこさんに認めてもらっていたからオレはここまでこれました。かなこさんのお陰です」
「なにかくすぐったいわね」
「かなこさんから教わった技術はいまも通用しています。かなこさんはおれの師匠ですよ」
「何か偉い人みたいだねえ」
「おれの中では偉い人ですよ」
「そんなこといわれても、微妙だなあ」
「本当の財産は人とのつながりです。かなこさんとつながることが出来たことが、おれにとっては宝物なんですよ」
「いやあ、そこまでいわれると照れるなあ。まあ、ね。孤独に耐える勇気も必要だけれども、時には愚痴ることも大事よ」
「はい、分かります。おれはどうして生きるのか。その理由が知りたいんです」
「人は自分が持っている業を癒すために生きるのよ。人は人を癒すために生まれて来た。それがたかしくんはアニメーターだっただけよ」
「そうですね。この仕事には因縁を感じています」
「いいことよ。やる気も出るってものだわ」
「どこから来てどこへいくのか。自分のいく末を見てみたいんです」
「見てみるといいわ」
「生きることはしんどいことです」
「そうね」
「けれども絵を描いてるとそれが肯定出来るんです。おれは学生時代に人生が退屈で退屈で、熱中出来ることがなくて、寂しくて死にそうでした。だからいまアニメーターという生き甲斐に出会えて、嬉しく思っているんです」
「生き甲斐は大切よ。生き甲斐があれば寂しくはないわ。孤独を感じないものよ。それは仕事でなくても本を読むのでもテレビを見るのでも趣味でも、なんでもいいのだけれどね。生き甲斐があれば日々の生活をのりきれる。考えることも生き甲斐よ。楽しいことを考える時はとても幸せよ。悲観してる時は何かで気をまぎらわせて、何も考えないほうがいいけれどもね。生き甲斐はいくつあってもいいものよ。まあ生き甲斐は幸福にもつながるわ。夢ともつながるわね。つまりは夢にも近いことね。せっかく生まれて来たんだから、夢を追いかけなくちゃ」
「子供の時には本でもテレビでも大人はこれでもかと夢を見ることを教えてくれます。でも大人になってみると、夢は色あせていくばかりです。サンタさんがいないのを知った時はショックだったなあ。それから毎日の生活にやっとで、夢見る時間は少なくなるばかりです」
「大人が嘘つきにならないためには、大人こそが夢を追いかけるようでなくてはいけないのよ。大人だからこそ見れる夢があるはずよ。現実の中に見る夢がある。日々の大変な生活の中でも夢を見る。自分の人生にこそ夢を見る。素朴な夢でいいから夢見ること。それをするのが人生の醍醐味だわ」
「なんだかわからない何かに出会えるような気がして生きてきました。いつかそれに出会えると信じて生きてきました」
「絵にはもう出合えたわね」
「仲間にも出会えました。仕事もそうです。いまはこの仕事に希望を感じています」
「それぞれが希望を持ち寄るのが仕事よ。絶望していちゃ仕事にならないわ。生きていれば誰でもひとつやふたつ地獄を見るものよ。最後に残るのは希望だけよ。それを忘れないことが生きるコツよ」
「仲間に助けてもらって、甘えてばかりいます」
「甘えられる人がいることは幸福なことよ。いっぱい甘えなさいな」
「この仕事で幸福になりたいです」
「幸福というのは、良かったことの地味な積み重ねよ。いい風が吹いたなとか、今日は調子がいいなとかいい本があったとかの小さな良かったの積み重ねが、幸福感になるのよ。一人暮らしの老人が生きていけるのは、そういうことが出来るからなのよ。勝ち組になることが幸福ではないわ。さらにね、ちょっとした希望を毎日生活に入れていけば、生活も仕事も上手くいくわ。ライフスタイルの試行錯誤が人生よ」
「いままでいろんな風に生きて来ました。これで良かったんでしょうか」
「いまは分からない。けれども、私は良かったと思っているわ。大丈夫。なんとかなるわ」
「人は何故生きるんでしょう」
「人を看取るために生きるのよ。先にいく人を思うために生きるのよ。人に気持ちを寄せてもらうのは何よりも大切なことよ。フォローに入ってもらえることが何よりも助かるわ。困った時に相談出来る人がいるかどうかが生死を分けることさえある。現実の生活はとても厳しいわ。上手くいかないこと、やりきれないことのオンパレードよ。病気も事故も殺人もある。生き残るのはほとんど運といってもいいわね。無理せず仕事が出来れば一番いいんだけれども、仕事の都合上働く場合があるわ。仕事をするには上手く仕事を断る技術も必要なのよ。後はバイタリティも必要ね。人は生き甲斐を探すために生きるのよ。それは一生続くことよ。幾つか探し当てた生き甲斐をミックスして生きるのが人生のコツよ。人生の要所要所では特に生き甲斐を探すことが大切ね。当たり前のことだけれども当たり前のことが出来なくなった時に人生苦しくなるからね」
「失敗やクレームがあった時に怒られるとへこみます。仕事の大変さもあるのに」
「怒るだけ成長するという考え方もあるわね。うちではやさしく諭すやり方だけれども、怒られるのは仕事の中でも一番つらいことのひとつね。それに耐える精神力を鍛えるか、仕事場を変えるしかないわね。楽をするというのではなくね。やっぱり人には限界があるからね」
「働くまで仕事のある生活がこんなに大変なものだとは思いませんでした。もう普通に生活してるだけで死にそうです」
「普通に生きてるだけでも、生きることは大変になる時があるわね。そこの大変さにこそ、生きる醍醐味があるのだけれども、大変さでそれに気づかないことも多いわね。生活の大変さの中で楽しさを感じられるようになったら、人生の一人前といえるわね。人生は大変だから面白いのよ。何もなかったら、楽しさも何もないからねえ。幸福になれるチャンスはいつでもどこでもあるわ。生活の痛みもじわりじわり来るけれども、生活の楽しさもじわりじわり来るものなのよ」
「へとへとに疲れているのにさらにクレームまでつきます。こんなに仕事が厳しいとは思いませんでした」
「苦情のない仕事はないわ。クレームに答えていくことも仕事のやりがいにしていくのが大事よ。これが自分の限界だと示すことも大事ね。それで減ってしまう仕事は仕方ないわね。過労死するよりはいいわ。自分の限界を知りたくて無理することもあるけどね」
「作品の本質を描きたいんです」
「本質は見えないわ。それに触れるのは神業に近いわね。達人になると、調子のいい時には本質に触れることが出来るわ。それは水のように形のないものよ。心の底から拾って来たもの。面白さも死さえもすべてがそこにつまっているのよ。あらゆるいいもののひとつね。本質を響かせることが出来るようになったら一人前よ。言葉にも出来にくいもので、ほのかにしか感じることが出来ない非常に希少なものよ」
「一人の人生は寂しいです。悲しいです。いろんなことに悩みます」
「集中して。集中してる時だけ人は負の感情から解放されるから、だから趣味や仕事が大切なのよ。生活と自分の気持ちに夢と希望を入れていきましょう。悩みを話せる人がいるといいわね。大丈夫。なんとかなるわ」
「いまいち作品作りが上手くいかないんですが」 「作品作りのポイントをメモしていって。生活でもそうよ。生き方のポイントを日記のように一言でいいから書くといいわ。それが積み重なって、成長の助けになるわ。研究しろとまではいわないけれども、これは大事なとこよ」
「こんなだめでどうしょうもない自分をどうしたらいいんでしょうか」
「仲間を頼って。私もあなたを育てるわ。京都アニメーションが凄いのはリスクと才能がいる育成を成し遂げたから。きついこの業界でアニメーターと演出家が育ったこと。作品のクオリティは表面的なことでしかないわ。すべては人が作っているのよ」
「あっ、かなこだ」
 あやがやって来る。
「かなこ、今度旅行があるんだけれど、いく?」
 あやがかなこを誘う。
「いくいく」
 旅行にかなこがいくことになった。


 「海に入らないの」とあや。
 快晴の海に水着姿のあやとさやがいる。
 胸はないが、素朴な幼さがいい。
 たかしはその感じに見入ってしまう。
 ちょっと魅入られていた。
「たかしくんも一緒に遊ぼう」とさやが誘う。
 たかしもだらしない格好の海パンだ。
「うん、そうするよ」
「そうよ。海よ海よ海よ」とかなこ。
 水着姿のナイスバディなかなこ。
 かなこの腕には大きな浮き輪を持っている。
「平日なのになんでかなこさんがいるんですか」
「だって有給が残っていたんだもの」
 怒ったように、かなこがたかしにいう。
 良子はパラソルの下で酒を飲んでいる。
「千葉の海岸て、修学旅行じゃないんだから」と良子。
「みんなからの積立金での会社の旅行があるだけいいでしょう」とこうぞう。
「それは確かにね」
「さあ飲もう。乾杯」
「乾杯」
 酒を酌み交わす良子とこうぞう。
 総勢二十名からなる旅行である。
 みんな思い思いに泳いでいる。
「ねずみの声がするのよね」
 砂浜であやがたかしにそういう。
「ここは海だぞ」
「あやちゃんは何が好きだっていうの」
 かなこが聴く。
「キウイが好きよ」とあや。
 さやがたかしの腕を取る。
「泳ぎましょう。そうして星のひとつになるのよ」
「さやさんはいい感じにロマンティックだなあ」
 たかしがため息をひとつ、ついた。
「元気ないじゃない、たかしくん」とかなこ。
「仕事明けで来たとこですからね。まだ眠いですよ」
「泳げば疲れも吹き飛ぶよ」とあや。
「二人とも元気だなあ。双子は元気なのか」
 たかしはそうぼやく。
 あやは翌日風邪をひいた。
 仕事で体力が落ちていた時に泳いだためだった。
「大変だね」
「まだよ。まだまだいくわよ」
 あやは強気で遊ぶつもりだ。
「おとなしくしていなよ」
「たかしが一緒ならおとなしくする」
「分かったよ」
 たかしはあやと一緒にあやとりをする。
 静かな時間が旅館で過ぎていた。


 慰安旅行はそんな感じで過ぎていった。
 カチューンで加藤が座っている横にたかしは座る。
 加藤はカチューンでは先輩の動画マンだ。
「きみいくらもらってるの」
「月十二万円です」
「ぼくは十年やってるけど、きみと月給は変らないなあ。あ、ごめん、やる気なくすことをいってさ」
「いえいいんです」
「ぼくの腕前じゃ月に原画五十枚がやっとでね。少しだけ拘束料貰える時もあるけどね」
 加藤はキャベツを食べている。
「これがぼくのお昼でね。たかしくん、きみもどうだい」
 たかしはうなずいてキャベツをつまむ。
 それが二人の昼飯であった。
「なんでこんなに頑張るのかなあ。いやまあ頑張るのが嫌いじゃないんだけどさ」
「おれはアニメを見ていて幸福だった。だからいまの子供たちやファンの人にも夢のあるアニメを見て幸福になってほしいと願ってアニメを作っています」
「たかしくんは理想家だなあ」
「すいません。いいかっこしいで」
「いや、嫌いじゃない考え方さ。おれも似たようなものだからさ。でもこの生活は不幸なんじゃないかと思うこともあるのさ」
「これから幸福になればいいじゃないですか」
「そうかも知れない」
 短い昼飯を終えると、良子がたかしの机に来た。
「これ直しね」
「細かいなあ」
「最近のファンの目は厳しいからね」
「それにしても細かいなあ。値段が安いのは変わらないのに、指示ばかり細かくなっていくよなあ」
「仕事ってそういうものよ」
「割り切るねえ」
「どこかで仕事はそういうものだと考えないと、出来ないものだからね」
「楽が出来るならそれに越したことはないと思うけどなあ」
「苦労するのが仕事よ」
「違いない」
 たかしと良子は笑い合う。
「苦しみも大切な人生の要素よ。悩みがあるから人生はあるのよ。今日という日常に負けないように頑張りましょう」
「そうだね」
 苦しい日々も仲間がいればなんとかなる。
 たかしはそう確信していた。
 たかしも日々の生活の中で三十代になった。
 かなこが借金を返済して、カチューンにやって来たのはそんな時だ。
「アニメーター復帰おめでとうございます」
「ありがとう、たかしくん」
 かなこがおじぎする。
「かなこさん万歳」と良子。
「もう社長でもなんでもないのよ。あなたたちと同じ、いちアニメーターよ」
「分かってますって。それじゃあ飲みにいきますか」と良子。
「良子さんはいつも飲んでるでしょ」
 たかしがつっこむ。
 良子はえへへと頭をかく。
 一行は飲みにいく。
 にぎわう居酒屋で乾杯するかなことあやとさやと良子とたかし。
「かなこさんの復帰に乾杯」
「乾杯」
 みんなそれぞれに飲みだす。
 あやと良子は滅法(めっぽう)酒に強い。
 さやとかなことたかしは抑えて飲んでいる。
 かなことの話は尽きない。
 みんなかなこの復帰を祝っていた。
 その夜はとことん一行は飲んだのだった。


 次の日。
 良子の机にたかしが来る。
「おはようさん」
「今度動画チェックすることになったから」と良子。
 さらっという姿に力味はない。
「動画監督なんて凄いじゃないじゃないですか」
「そうねえ。そうかもね」
「なにかおごってくださいよ」
「いいわよ。ただしお酒に限定だけどね」
「良子さんには敵(かな)わないや」
 たかしと良子は笑う。
「さやとあやさんも動画チェックになったそうよ」
「そうですか。良かった」
「どんどん追い抜かれるわね」
「いえ、競争してるわけじゃありませんから。それはいいんですよ」
「それはそうかもね」
 たかしは心の底から喜んだ。
 しかし数ヵ月後、さやがたかしを驚かせた。
「あやが入院したの」さやが悲しそうにそういう。
「どうしたの」とたかし。
「動画チェックのし過ぎで過労だって」
 たかしは仕事の合間を見て見舞いに行く。
 病院の一室であやがパジャマ姿でベッドに座っていた。
 ちまちま携帯ゲームをしている。
「なんだ、元気じゃないか」
「最初の三日はひどかったけどね。過労だから、寝ていれば直るわよ。この機会にやりたかったゲームをしているってわけ」
「確かにこんな機会でもない限り、まとまった時間なんてないけどさ。心配したよ」
「過労なんて病気のようで病気じゃないからねえ。大丈夫といえば大丈夫よ。気の持ちようよ」
「過労で死ぬことだってあるんだよ。軽く考えちゃいけないよ」
「分かる分かる。だから安静にしてるんじゃない」
「それなら良かった」
 たかしは安心のため息をひとつついた。
 たかしは買って来た花を部屋に飾る。
「しかし個室とはおごったねえ」
「家族が心配してね。私はどっちでも良かったんだけどねえ」
「家族様様だ」
「からかわないで。うちにはうちの事情があるのよ」
「からかってないさ。家族は大切だということをいったんだよ」
「それならいいけどね」
「ゲームはどこまでいったの」
「ここまで」
「ここはてこずるとこなんだよなあ」
 たかしはゲームをしている。
 あやはそんなたかしを黙って見ている。
「やっぱり難しいや」
「ゲームしてるのが楽しいからいいのよ」
「そっか。お力になれませんで」
「いえいえ、お構いなく」
 二人はなんとはなしに笑う。
「退院祝いは何がいいかな」
「デートがいいわ」とあや。
「オッケイ」
 それから二人はとりとめのない話をする。
 静かな時間が過ぎていった。
 病院の静かさが二人の喧騒を包んでいた。
 たかしとあやにはそれがとても楽しいのだった。


 カチューンに戻ったたかしに、こうぞうが告げる。
 「たかしくんは絵が速くて上手いよねえ。どう、動画チェックでもしてみる」
「あ、はい。やってみます」
 たかしに転機が訪れた。
 仕事は一気に忙しくなり、締め切り前は一日十二時間以上働くようになる。
 それでもやり甲斐はあった。
 動画監督の仕事は動画マンが描いた絵の一部を一定のレベルに描き直す仕事だ。
 賃金も見る見るまに上がり、たかしの懐は暖かくなった。
 年間で一千万円近く儲かるようになった。
 使う時間がないから、貯金は見る間にあがった。
「車でも買おうかなあ」
 たかしはぼやく。
「豪勢なぼやきねえ」
 あやがため息まじりにそういう。
「あやさんなら何に使うんだよ」
「あたしは貯金ね。この仕事はいつまでも出来るものでもないわ。40代には引退よ。老後までの生活のために貯金しておくのよ」
「あやさんは手堅いなあ。おれはそこまでは考えられませんよ。いまがすべてだ」
「老後のために貯金するのは大事なことよ」
「理屈では分かるけどね。実際にするのは面倒ですよ」
「若い時に苦労は買ってでもしておけっていうでしょう」
「気持ちはそうなんだけどもねえ。そこまで要領良く生きることが出来ないんですよ」
「要領良くなくていいから、地道ではあってほしいものね。それくらいなら出来るでしょう」
「うん。それくらいなら出来るかなあ」
「人生は地道という道しか、歩くとこはないのよ」
「分かります」
「貯金は人生の本質よ。生きる目的のひとつよ」
「そこまで考えたことはなかったなあ」
「お金をちまちま使えば、以外と貯金出来るものよ」
「そうですね。出来るだけチャレンジしてみます」
 たかしはそう約束した。


 今日はあやとたかしのデートである。
 さやも来たがったが、仕事の都合で来れなかったのだ。
 いつもと違って、鮮やかな服を着ているあや。
 それはたかしもそうだ。
 この日のために買っておいた服をおろしていた。
 仕事では新しい服を着ていてもあまり気持ちの変化がないのだ。
 だが今日はデートである。
 お披露目には絶好の機会である。
 あやは髪型にもこってだんごをふたつ作っている。
 たかしもあやの服装をほめた。
 それから道を歩き出す二人。
「映画を見てショッピングだったよな」とたかしがあやに聴く。
「うんそうそう。いま映画何やってるのかなあ」
 毎日机と向かっているから、流行からは少しずれているとこがある。
 流行が問われる仕事ではない。
 いやまあ絵に対しては求められるが、一般常識としての流行からは遅れていた。
 それはあやもたかしも分かっていることだ。
 そういう引きこもりな仕事を選んだことも。
 あやが腕を組んでくる。
「おい、恥ずかしいよ」
「だめ。絶対だめ」
 あやは許してくれない。
 たかしも降参して腕を組んでいる。
 たかしは悪い気はしなかったから、まあお互い様だろうか。
「デートだから、昨日はなかなか眠れなかったわ」
「あやにそんなデリケートな部分があるとは以外だなあ」
「あっ、ひっどお。そんな風に見えないかなあ」
「見えない見えない」
「それは気をつけないとな」
 あやはべろを出して笑った。
 たかしも笑った。
 どうでもいいことがむしょうに楽しかった。
「アニメもやってるなあ」
 映画館の前で、たかしがどれを見るか悩んでいる。
「あやが決めていいよ」
「それならこれがいいな」
 あやが選んだ映画は。
「ひゃああ」
 たかしが怯えている。
 ホラー映画をあやは笑いながら見ている。
 映画がラストを迎える。
「えらいめにあった」
 たかしが胸をなだめながら映画館を出る。
「ホラーがだめなんてかわいいとこあるじゃない」
 あやは陽気にそういった。
「代々小心者の家系でね」
「そりゃどうも」
 それからゲームセンターにいく。
 あやがUFOキャッチャーでどんどん人形を取っていく。
「あやにこんな特技があったとはね」
「高校時代はひまでねえ。一時期ハマッていたのよ」
 人形をたくさん下げてあやは歩く。
「まるでストラップだな」
「誰がケータイよ」
 あやがそういって笑う。
 それから服のショッピングをして、二人ともここぞとばかりに買った。
「こういう機会逃がす手はないからね」
 あやはほくほく笑顔でそういう。
「おれも助かるよ」
 たかしも服が買えて嬉しそうだ。
 二人ともデートである前に休日を楽しんでいた。
 普段は机とにらめっこの仕事だ。
 普通にショッピングするだけでも気分転換になるのだった。
 カレーショップに入って夕飯をすませる二人。
「今日はあたしの家にでも泊まっていく」
 あやが聴いてくる。
「いや、いいよ。今日はそれぞれ帰ろう」
「欲がないなあ」
「そういうこともあるさ」
「あたしはたかしくんのこと好きなんだよ」
「おれはまだ分からないんだ。そんな気持ちで家に入ることは出来ないよ」
 あやはたかしに向き直る。
「ばーん」
 あやに指で打ち抜かれたたかしは倒れたふりをする。
「やられたあ」
「いつかそのハートを打ち抜くわよ」
「楽しみに待っているよ」
 二人は笑う。
 二人のデートはそうして終わった。


 次の日、スタジオであやを見かけるたかし。
 さっそく声をかけるたかし。
「あや、今日も綺麗だね」
「今日は機嫌が悪いから話かけないで」
 あやはそっけなくそういう。
 人は機嫌の悪い時は口もききたくない。
 それをたかしは知っていたから、それ以上何もいわなかった。
 たかしは絵を描く。
 今日は調子がいい。
 静かな部屋にえんぴつが走る音がこだまする。
 かなこがたかしの机に来る。
「この年になって、こんな少女描いて商売してるとはね」
 たかしがかなこに愚痴る。
「そういうものよ。それがこの業界でしょう」
「もっと老人も描いてみたいなあ」
「老人が増えれば、老人を主人公としたアニメも作られるかも知れないわねえ」
「シワを描くのが大変そうではありますが」
「メカを描くよりは楽よ。そういうのが描けるのもアニメの醍醐味のひとつだからねえ」
「人の顔ばかり描いてると、アクションシーンを描きたくなってきますよね」
「そうねえ。上手い具合にそこいらがバランス取れるといいんだけどねえ」
「最近はアクが強い、毒々しい作品も増えましたね。おれが若い頃は素朴なものばかりだったのに」
「それだけ表現の幅が広がったともいえるけどね」
「それだったらまだ美少女もののほうがいいなあ」
「以外とミーハーだね」
 たかしはえへへと照れて笑う。
「美少女もの結構好きなんですよ」
「男の子だねえ」
「セーラームーンにもハマりましたよ」
「へーそう。あたしはそうでもなかったけれどもね」
「おれにとってはカルチャーショックでしたよ」
「あたしはプロジェクトA子とかのほうが好きだけどね」
「見たことないなあ」
「まあビデオ作品だったからね。そこそこのマイナー作品よ」
 かなこはそういって笑った。


 さやとのデートの日。
 たかしは映画にショッピングに楽しむ。
 帰り道であやと会った。
「たかしはあたしと付き合うべきなのよ」
 あやが声をあらげてそういう。
「あたしに何か足らないっていうの」
「いや、そんなことないよ。好みの女性だよ」
「どっちが好きなのよ」とあやがたかしに迫る。
 いわゆる修羅場というものである。
「どちらも好きだよ」
「どっちか選んで」
「どちらも選べないよ」
「それはどちらとも付き合わないということなの」
「そうだね」
 あやの質問にたかしは答える。
「分かったわ」
「一人だと寂しいなあ」とさや。
「寂しさを埋めるような恋愛は、前向きじゃないよ」
「そっか」
 それ以上、あやもさやも何もいわなかった。


 さやとあやとたかしたちは三十代に年齢が入っていた。
 さやとあやと良子とかなことたかしは作画監督になっていた。
 作画監督になったたかしの年収は二千万円を越えていた。
 そして仕事の過酷さはさらに増していた。
「作画監督なんていらない。もう限界よ。死にたいなあ」
 さやがぼやく。
 それは軽口だったかも知れない。
 けれどもたかしは気丈なさやがこんなことをいうことに驚いていた。
 それが過労から来ていることは分かるが、だからといって、いまのたかしには何もしょうがなかった。
「監督に直談判するかな」
 たかしは本気だった。
「それは待って」とかなこ。
 かなこにはたかしの苦悩が痛いほど分かっていた。
 かなこはさやの方を向く。
 話を聴いてみるとまだぎりぎり出来ると判断した。
「残りのチェックも後少しだし、女は度胸よ。今回のを仕上げてそれから入院しましょう。一息つけるわ」
「そうします」
 さやがかなこに相槌を打った。
 たかしは不満だったが、そこはかなこの方が対応に慣れていたようだ。
「アニメーターなんて、因果な仕事だな」とたかし。
 たかしは暗くなっていた。
 明るくさやがいった。
「自分の腕一本で生きていくこれ以上ないほどいい仕事よ」
「そんなもんかね」
 たかしにはまだそこまでの境地には達しえていなかった。
 さやはくすくすと笑う。
 そこにはいつものさやの姿があった。
 たかしは一安心した。
 仕事を仕上げたさやに、たかしはおめでとうといった。
−−さやは仕事を仕上げてから入院した。けれどもたった一週間だ。大丈夫か聴いたが、すぐにまた仕事に取り掛かっていた。
「アニメーターは描くことが生き甲斐なんですかね」
 たかしはかなこに聴く。
「それもあるわね。でも大事なことは、生きるって自分の気のすむまでやることなのよ。これは誰でもそうよ」
「おれはまあ確かにそこまでするかな。でもなんでここまで頑張るのかなあ」
「人は夢があるから頑張るのよ」
「そうですね」
「夢と限界は対立するものよ。だから人は限界にチャレンジ出来るのよ」
「なるほど」
 たかしは納得する。
 かなこの話にはいつも関心していた。
「まだまだか」
「鉄人まではまだ遠いわね」
 鉄人とは50代に入っても作画監督を続けている鶴屋さんのことである。
 作画監督のあいだでは伝説的な人物の一人である。
「そこまではいきませんね」
 たかしは舌を巻いた。


 「もう描けない」
 たかしが仕事を投げてしまった。
「他の人に頼むしかないな」
 進行のタケゾーがそういう。
「少し待って」
 かなこが交渉する。
「少しだけだぞ。時間がないんだ」
 タケゾーはめんどくさそうにそういう。
 かなこはたかしの机に来る。
「いいたいことがあったら抱え込まないで、いってみて」
「ならいいますけど、おれは会社の部品なんですよ。代わりは誰でもいいおれじゃなきゃいけない仕事なんてないんですよ」
「そんなことないわ。誰にも恥ずかしくない仕事をしてきたわ。それは誇りに思っていいのよ」
「なんにも自分の思い通りにならない」
「人生はそんな思いとの戦いよ。みんなもがいているのよ」
「おれじゃなきゃならない理由なんてどこにあります」
「いま仕事を投げれば、あなたの母親と父親と友達と仲間を裏切ることになるのよ」
「そんな話仕事に関係ないじゃないですか。おれにはこれだけしか出来なかった」
「それだけ出来れば十分よ」
「どうしておれの絵では本質が響かない」
「そんな簡単に響くものじゃないわ」
「このつらい生活の繰り返しになんの意味があります」
「そこに意味を見出すことが人生よ。つらくとも一生をつらぬく勇気を見せて」
「おれは最低な奴だ」
「あなたは誰よりも上等な人よ」
「どうして生きるんだ」
「生きるから生きるのよ。もっと自分という現実と戦って生きて」
「どこかへいってくれ」
「どこへもいかないわ。一緒にいるわ」
「おれは不幸だ。こんな人生幸福になりたい」
「絶対幸福にするわ。幸福を感じられることが幸福よ」
「おれの将来はどうなるんだ」
「それはその時考えましょう。悩みは借金にしましょう。大丈夫。なんとかなるわ」
「おれには何もない」
「夢があるわ。みんなが見たいつか報われる夢よ」
「自分で自分がうざい」
「たかしくんは気持ちのいい人よ。自分の気持ちを自分で救って」
「ここはどこだ。どうしておれはここにいるんだ」
「ここはあなたの居場所。いまは仕事をしてるのよ」
「そうか。そうなんだ。仕事、そうかアニメーターかおれは。描きません。もう描きませんよ」
「あなたがいたからいまのアニメ業界がある」
「馬鹿ですか。誰がそんな話信じます」
「あたしは信じるなあ」
「そんなの何様ですか」
「仲間だと思ってるわ」
「口ではなんとでもいえるんだ。必死に働いても業界に使い捨てにされるのがオチだ」
「あたしはたかしくんを見捨てない。たかしくんが頑張ってくれたから、あたしも頑張れたんだよ」
「それは良かったですね。なんといわれても描きませんよ」
「ここでふんばれば、ひとつ大きく成長出来る。まだまだあなたは大きくなれると思う」
「ただ仕事を繰り返すだけですよ。終わりのないレースだ。ねずみが滑車を回しているだけだ。自転車操業ですよ」
「そういうものよ。仕事というものは。あきらめないで」
「誰か他の人がすればいいんだ。他に誰でもいるでしょう」
「仕事には責任があるのよ。一度引き受けたんだから頑張りなさいな」
「引き受けたのは元受の会社でしょう。おれは雑魚(ざこ)に過ぎませんよ」
「その雑魚の力が必要なのよ。この仕事あげて飲みにいきましょうよ」
「酒なんていりませんよ」
「じゃあ何がほしいの」
「生き甲斐がほしい」
「仕事が生き甲斐でしょう」
「仕事はいずれ出来なくなります」
「趣味で絵を描いたらいいでしょう」
「趣味でなんて誰がほめてくれます」
「仕事ならほめてくれる」
「そう。そうですよ」
「だったらいまは仕事をしましょう。それが生き甲斐になるわね」
「それは、そうですけども」
「この仕事をあげれば、生きてる証となって、存在となるわ」
「生き甲斐ですからね」
「誰にでも出来ることじゃない。いまのあなたに出来ることよ」
「わかりました。いろんな話ありがとうございます。すべての話に納得したわけじゃありません。でもいまはその言葉を信じますよ」
 たかしは絵を描き始める。
「お見事」とタケゾーがいう。
 かなこはたかしを少し見ていた。


 「たかしくん、監督やってみないか」
 それはプロデューサーのこうぞうからの提案だった。
 たかしも人並みに作品について熱く語るほうだが、監督の話が来たのは以外だった。
 そんな器ではないと思っていた。
 監督の話は引き受けた。
 それがいままで自分がアニメを作って来たことのひとつの答えになると考えたからだ。
 ここにたかしは監督になることになった。
「こういう作品なんだよね」
「夢魔法カインドリーム? この年でこんな美少女ものをやるとはね」
「嫌ですか」
「いや、いいよ。作品は選り好みしない主義でね」
「話の構成は鈴木さんがここまで作ってくれてます」
「なるほどね」
「水と安全と鈴木さんは無料ではないと愚痴ってましたよ」
「申し訳ないねえ」
 作品のメインスタッフの顔合わせがあった。
 まずは作品をどうするか考える会議だ。
「プロデューサーの倉橋です」
「監督の玉木です」
「プロデューサーのこうぞうです」
 そこにいる何人かが自己紹介した。
 そこから話が始まったのだが、話は倉橋と玉木の議論が中心となった。
「見ている人はそんなこと望んでいない」
 たかしはそうまくしたてる。
「見ている人のためじゃない、スポンサーやDVDを買ってくれる人のために作っているんだ。それが商売ってものだ」
 倉橋はそういってゆずらない。
「作品は世界を変えるために作っているんだ」
「違う。消費者のための消費物だ」
「見たい作品を作るそれだけです」
「消費者が見たい作品を作るんですよ。一人よがりな作品になってはいけません」
「そうするとありがちな作品になってしまう。自分が見たい作品を作ることは作品作りのとっかかりにもなる。それが作り手の個性にもなるんだ」
 たかしはそういう。
 倉橋がそれに反論する。
「そういう自分本位な作品ばかりだから、アニメを見ることを生き甲斐にするオタクが闊歩するんだ」
「なにを生き甲斐にするのかはその人の自由だ。我々だってアニメを作ることを生き甲斐にしてるじゃないか」
「仕事は生き甲斐にしていいんだよ。問題は趣味のほうだ」
「なにを趣味にしょうが勝手だろう」
「アニメは一時の娯楽を提供出来ればいいんだよ。生き甲斐まで提供しなくていいんだ」
「芸術を鑑賞することは、十分生き甲斐になることだ」
「アニメは芸術じゃない。単なる大衆娯楽だ。もっといい加減なものだ」
「それをどういう風に受け取るかは受け手の自由だ。作り手はいい作品を作れればそれでいいはずだ」
「いい作品じゃない、売れる作品を作るんだ。売れないもの作ってどうする気だ。利益こそが作品の答えなんだ」
「売れるかどうかはまだ分からない。作品は作ってみないと分からない部分が多いじゃないか」
「作る前に準備しておくのがプロだろう」
「だから準備のためにいま話してるんだろう」
「美少女ものだ。それがいま売れるんだ」
「それだけではいまは売れない。内容がいいものが売れるんだ」
「内容がいいとか抽象的表現過ぎるんだよ。売れる作品はもっと分かりやすい部分を持っているんだ」
「いい作品は時間がかかるものだ。もっと時間がほしい。マクロスは一年かかって設定を考えたそうだ」
 たかしはそういう。
 倉橋はすぐにそれにくらいつく。
「そんな時間あるか。ないからこうやって何人も集まっているんだろう。だいたい、企画が通るか分からない作品をストックしておけるか」
「ファンの応援歌となるような、見ている人が幸福になるような作品を作りたい」
「それはありがち過ぎる。作るのは楽しく見られる作品だ。見ていて苦しい作品は見るのも大変だ。どちらかといえば、ハッピーエンドが好ましい」
「デッドエンドも時にはありだ。苦しさ、葛藤を乗り越えて成長する主人公を描くことも時には必要だ」
「基本はハッピーエンドだがな。それがもっとも望まれているんだ。あっけらかんとしたキャラが活躍する作品も必要だ」
「イメージイラストやレイアウトを積み重ねるといい作品が出来る。ジブリのアニメが強いのはそこだ」
「そんな時間はない。いまの方法で作れているんだから、レイアウトなんていらないんだ」
「ノリとツッコミで台詞を構成すれば、楽しい作品になる」
「そういうのには反対だ。コメディ作品とはいえ、キャラクターは芸人ではないんだから、ノリとツッコミなんていらないんだよ」
「もうネタもないよ。作品の要素はすべて出尽くしている」
「作品は何百年と作られて来た。まだ新らしい要素はある」
「現実を忘れさせてくれる内容がいい」
「見ている時は現実を忘れさせ、見終わったら現実と戦える力となる作品がいい作品だ」
「どうして生きているのか、その答えを感じさせてくれる作品を作りたい」
「何を生きる意味として受け取るかはファン次第だ。生きる意味なんて作品で問わなくていいんだよ」
「仕事をしても充実感は得られないよ」
「人生に充実しろ。仕事には求めるな」
「作品の世界観は葛藤する」
「見ている人を葛藤させてどうする」
「何度見てもいい作品を作ろう」
「一度だけ売れればそれでいい作品だ」
「イメージすること、想像する余地のある作品がいい」
「難解さがそうではない」
「存在を揺さぶる作品が作りたい」
「そんなの作り手の勝手だ」
「いままでにない新らしい作品を作りたい」
「古い作品の要素を上手く使うことが新らしい作品だ」
「感動出来る作品を作りたい」
「感動とは個人の本質を響かせることだ」
「生きてることを肯定出来る作品を作りたい」
「それはその人の感性だ。作品の感性ではない」
「キャラクター一人一人は生きているんだ」
「マネキンだ。生きてなどいない」
「美少女ものなんだから、ツンデレのキャラを描きたい」
「性格は千差万別だ。ツンデレなどでくくれるものではない」
「作品の可能性を上げる作品を作りたい」
「作品なんて作っていれば可能性は上がるんだよ」
「萌え死にするくらいのキャラクターを構成したい」
「キャラクターに萌えたことないな」
「キャラが死ぬことによって、主人公が葛藤を乗り越えて成長する姿を描ける」
「安易にキャラを殺すのには反対だ。見る気がしなくなる」
「家族が人生のテーマだ。それは作品のテーマでもある」
「出てくるキャラクターが家族になれるのかどうか、その微妙なバランス。それは美少女ものでもそうだ」
「うる星やつらでもカリオストロの城でも、家族になれるかどうかが問われていた」
「寅さんなんかもそうだ。家族になりきれない男の話だ」
「質の違うキャラが集って家族になれるか問われるから人生は面白い。会社も家族になれるかが問われている」
「それは違う。最低限働ければいいんだ」
「どたばたもいいな」
「雰囲気を大事にする話もいい」
「どたばたもハードでシリアスも出来る、水のように柔軟な話にしたい」
「いや、どたばた一本でいくべきだ」
「イデアの発露が本質を響かせるんだ」
「哲学と作品作りは似て非なるものだ。地味に地道に作るだけだ」
「魔法少女が戦うというのはどうだろう」
「それはマンネリだ。斬新な話がほしい」
「古いネタでも若い人には新らしく、年老いた人には懐かしい」
「子供だけを相手にしていても限界がある。大人も見れるアニメがいい」
「それをふまえて、てきとーに作ることが大切だ。アニメ業界に革命を起こしたい」
「革命など起きるものか。地道に考えて出来る範囲で出来ることを積み重ねるだけだ。誰だこんな奴監督にしたのは」
「認めてもらうのはこれからだ」
「望むところだ」
 倉橋はそういってお茶を飲む。
 たかしも一息つく。
「喧嘩しに来たわけじゃないからな」
 こうぞうが割って入ってそういうが、なかなか二人の熱気を納まらない。
 二人とも軽く肩で息をしているほどだ。
 これで作品の話は着実に進んでいくのだから、不思議なものだとこうぞうは思った。
 二人の議論は続くが、それでいて作品の構成は整っていった。


 作品は好調で、そこそこのヒットを飛ばしていた。
 マニアのあいだでは、たかしは知られた監督となっていた。
 たかしはカチューンでかなこと話していた。
 演出の佐藤がたかしに話しかけてくる。
「玉木たかし監督の大ファンなんです」
「あっそう。嬉しいねえ」
「応援してます。いい作品作ってください」
 佐藤が歩き去っていく。
「おれも捨てたもんじゃないな」
 たかしはかなこにいう。
「それはまあ、人気作品の監督だからねえ。そうでしょう」
「実感はないけどなあ」
「そんなものよ。人気なんて見えないものだからね」
「人気があるかあ。ただ、がむしゃらに作品を作っていただけなのに」
「その姿が人の心を打つこともあるのよ。その背中で語るものがあるのよ」
「そんな格好いいものじゃないですけどね」
「ファンはいいとこを重点的に見てくれるものよ」
「ありがたいことですね」
「感謝して作品作りに頑張らないとね」
「まったくです」
「あたしのほうはスタジオを立ち上げたから、そっちがたいへんでね」
「スタジオアルファが再建されたことは嬉しいです」
「スタッフは新人二人だけだけどね。場所もカチューンの片隅借りてるしね」
「それでも嬉しいですよ」
「たかしくんは最近はいろんなスタジオにいるけど、よかったらいつでも遊びに来てね」
「分かりました」
 たかしとかなこは笑い合う。
 あやが来る。
「長瀬さんが死んだらしいわ」
「いいアニメーターだったのに」
 かなこが悲しそうそういう。
「年だったからねえ」
 たかしはため息をつく。
 長瀬は有名というほどのアニメーターではなかったが、アニメーターのあいだでは人気のある人だった。
「死ぬ時はぽっくりといきたいよ」
 たかしがそうぼやく。
「そうね」
 あやはうなずいた。


 良子の机の前で止まるたかし。
「なんで設定書とかがこんなにあるの」
「あたし監督になったんだ」
「えっ、そう。なんのテレビアニメ」
「ディープイディー作品なんだよね」
「どんな内容なの」
「はちゃめちゃなものでね」
「どう指揮をとっているの」
「自然にしているわ。特別なことはしてないわ」
「それは是非見てみたいね」
「一枚あげるわよ」
「見たよ。面白かった」
「どうも」
「なにかアニメの可能性を感じる一作だったね」
「こんなものだと人生思ったら人生も作品もそこまでだからね」
「なるへそねえ」
「元気のないアニメ業界に一撃入れたかったのよ」
「じゅうぶん入ったね」
「ありがとう」
 良子は酒を飲みながら設定書を読んでいる。
「変わらないなあ」
 たかしは苦笑いする。
 出来上がった作品は、破天荒で、とてもいいものだった。
 売れ行きも良く、良子は少し知られた監督となった。


 カチューンであやがたかしに話しかけてくる。
「ジャムパンなんて入ったの」
 あやがぼやくようにそういう。
「ああ、動画一枚の値段をラーメン一杯にまで上げようって話が盛り上がったよ」
「そんなのに意味あるのかな」
「なにもしないよりマシだろう。それが夢の欠片(かけら)になる時もあるんだよ」
「あたしは自分の腕だけでやってきた。そんな集まりが何か意味を持つのかしら」
「組合が出来たからすぐに何か出来るわけじゃない。そういう活動があることに意味があるんだよ」
「そうだといいわね。うん。応援してるわ」
「ありがとう」
「だいたい動画が安いのは、手塚先生が安く請け負ったのがいまも続いているんでしょう」
「それは違うわ」
 かなこがいう。
「アニメのいまの請負い額はテレビ番組の中で一番高いわ。作品のクオリティがあがって、スタッフの人数が増えたのが主な原因ね」
「クオリティを下げたらどうかな」とたかし。
「それでは誰も見ないわね。いまのファンの目はこえているからね」
「うまくいかないものね」
「子供向け作品では一部でクオリティを下げてるけどね。まあ、それでもなんとかやっていかないとね」
 そうかなこが笑った。
「アニメってなんで儲からないんですかね」
 たかしがため息まじりにそういう。
 かなこがうなずいて答えた。
「ジブリアニメとか名作ものとか、家族ものとか原作がヒットしたもの、それにスポンサーが大きいと儲かるわね。関連グッズが売れたり、パチンコマネーもあるわね。でもそれだけだとつまらないから、多少マニアックなものでも作品のクオリティで勝負をかけることをするのよ」
「お金がないのに作品のクオリティで勝負するって矛盾してますよ」
 たかしはやれやれと手をふる。
「人生は勝負の連続よ。人は勝負に挑戦して死ぬこともある。人には引くことの出来ないことがあるのよ。それは誰でもそうなのよ」
「競争社会だっていうんでしょう。おれは平穏無事が一番ですよ」
 たかしはそういって苦笑いした。
「なにに勝負をかけるかは人の裁量よ。そこが生きる醍醐味なんじゃない」
 たかしはへーへーといってる。
「たかさきはやとさんを入れようといったら先輩からだめだっていわれましたよ」
「たかさきはやとのような常識を覆(くつがえ)すある種類のリスクのある人をいまの会社は嫌う傾向にあるのよ。もうアイディアも通さないそうだし、リスクをとらないなら面白くないわね。リスクに挑戦する気概が見たいわ。人は理屈ではなく、気持ちで動くものだから嫌なことを強制出来ないけどねえ。そんなねえ叩けばホコリが出そうな評価の定まってない人と関係があることもオープンにはしたくないかもねえ。たかさきはやとの情報をオープンにして評価してもいいと思うんだけれども、それで悪い評価が出たらと思うと躊躇(ちゅうちょ)するわね。まあねえ。たかさき入れるなってすごい頑固さよ。こんなに頑固な人とはいいもの作るからという理念とか作品作りがないと一緒にやっていけないってたかさきさんがいってたわ。こんなにみんな頑固なのにひとつのことを一緒に出来るのが不思議なくらいよ。いいものを作るのにこだわるのはいいけど、そんなに頑固者は苦手よ。頑固は変わらないけど、季節だけは変わっていくのよ。人間てこんなに頑固なのによく生きていけるものねえ。柔軟だけがすべてとはいわないけどさ。まあ頑固さって心のかさぶたよね。社会の厳しさに傷ついて人は頑固になっていくのよ。女性も働くようになって社会に傷ついて頑固者が増えて、男性も女性も頑固になっているわね。男性が強引に連れていく時代でもないし、女性が柔軟に男性を支えてくれる社会でもなくなってきてるわね。個人的には男性には強さを女性にはやさしさがほしいんだけれどもねえ。そうもいかないとなると社会保障で男女を柔軟に支える必要があるのよ。日本の政治家も頑固だからそれはだめかなあ。頑固な馬鹿も好きだけどね。好きなだけ痛い頑固な気持ち癒してあげるわよ。頑固者もいてくれるだけでありがたいものだけれどね。労働文学の才能もすごいから赤旗も連載させてくれればいいんだけど、創作系の会社は足並みそろえて敬遠の一点張りよ。まあ共産党も頑固者の集まりだけれどね。日本共産党もまだまだね。嫌がらせでいってるんじゃないのよ。ヨーロッパの人もいまの政治はまだまだだという。いいものならさらに良くなる可能性を秘めているのよ。希望って生きるのに大事なことよ。頑固さでいえばそれだけなにかに尽くすたかさきさんも相当頑固者だけどね。とにかくこれだけいいものを作るためにたかさきさんがどれだけ骨を折ったか。それをろくに話しもせずにだめの一点張り。都合の悪いことをだめで通せるなら私だってそうするわよ。ノーの理由はいくらでも作れる。イエスの理由は本質だけよ。歯牙にもかけないその姿勢。そんなのってある。せめて、せめてたかさきさんが幸福であったらいいなと思うのよ。まあ一緒に働きたい人もいるけどね。悪いことだけじゃなくてそれだけ多くの人に気を使ってもらうのは幸福だと思うけどね。実感しにくい幸福ではあるかな。超カリスマは起きるいいことも悪いこともスケールが違うのかもね。そうねえ人を雇う面ではいまの経営者はとても保守的なのよ。いやまあ業界の革命児なんているけど、そっちが異端扱いなのであってね。義理と人情はどうしたの。親孝行したい時に親はいないのよ。一億の借金して映画作って返済するとしても、そのリスクには及び腰になるのが普通よ。借金してアニメのクオリティあげてDVDで儲けるのもリスク。そういう姿勢から新らしいものは出にくいけどね。経営者になるのがもうリスクだけどね。会社が倒産したら借金返済があるからね。経営者のようなトップクラスの人はリスクを見るのではなく、本質を見る目があるといいわね。たかさきはやとを取るという本質が見えないのね。たかさきはやとという本質はいまの業界にとって必要不可欠なものよ。儲けとか、いい作品とか以前にそこが見えないといけない。見えない本質が見える人だからねえたかさきさんは。案外ただのひま人かも知れないけどねえ。まあそれだけの人になるともてあますかもね。本人もそんな自分をもてあますというからねえ。世間がすごいとうしろ指さすって困ってるくらいでね。一人の人間に過ぎないのにって。超カリスマになんてなりたくなかったそうよ。売れっ子作家になって普通の人生を送りたいのが夢だったけれども、思うようにはいかないってね。ただ働きで無一文でたいへんだってさ。逸物の鷹も放さねば捕らずよ。ただ私たちがたかさきさんと敵対してるわけじゃないのよ。入れるのが嫌なだけでね、意見の違い、立場の違いがあるだけなのよ。たかさきさんとは営業業態が違うだけなのよ。気がつかないかも知れないけれども、作中でありがとうとかいったりするのよ。雇うということでいえば毎月の給料を払うことで精一杯で、忙しくてそこまで見える経営者がいないのが現状よ。まあ五十年くらい訴えれば雇ってもらえる可能性はあるけれども、それだけ時間があったら作品作りたいわよねえ。いまは足りないものはネットでおぎなえてしまう時代よ。この業界にしかないいいものをいま集めていかないと、これからの時代は乗りきれないわ。ネットではとりきれないリスクもあるものよ。それだけリスクの取れるネットはメディアとしてはまだ発展しそうね。映画やラジオがとらないリスクをテレビが取ったようにね。そのリスクを会社も役所もとらなくて、孤軍奮闘したり個人がつぶれることはよくあることよ。自営業なんかあまりキャリアとして認めてくれないからねえ。リスクをとるといっても他人の借金手形に名前を書けっていってるんじゃないけどね。転落するかも知れない山に登るリスクをへて得るものがある。それは山に登ったものだけにしか見えないものなのよ。高い山から見えるものは格別よ。まあね、無視して通り過ぎることが出来るなら無視したいのがリスクへの本音よね。いまの会社では履歴のとこで、この時期はなにしていたか聞くそうよ。戦後すぐ、一部の平和主義者と日本共産党以外の人はみんな戦争にいっていた。だから過去なんか問われないで多少の荒くれ者でも雇ってもらえた。それが高度経済成長となっていくのよ。リスクを取らないと発展もないわけよ。この場の空気は冷戦の時に出来た。つまり冷戦が局地的に残ったのがこの状況なのよね。まだ冷静が終わって十年ちょい。あの冷戦で相当みんなひねくれたからね。いまの二十歳がどれだけまっすぐに育ってきてることか。自分のひねくれさ加減にまいるわね。映画の題材になるのも冷戦みたいよね。被爆国だから日本の新聞には核廃棄が踊ったけど他の国では話す場の空気ではなかった。だから映画として廃墟の街を舞台とした。いまはそういう映画もないから冷戦も終わったのかしらねえ」
「かつての漫画家たちのリスクをとる。ある意味実力主義だったわけですね」
「頑張って実力をつけたら使ってくれる。そういうのが新人を育てる大きな大事な要素よ。空気を読めとか品行方正な小さくまとまった国になろうとしているわね。差別されて黙っていちゃだめよ。阻害された者がそれまでとは違う新らしいこというから世界の多様性は確保されてるのよ。場の空気よんで幸福になれるなら場の空気をよむわよ。そういう人生だってあるだろうし。なんにもいわないでそれでいいならいい人生かもね。ケースバイケースもあるかもしれない。葬式では場の空気よむわけだからね。東洋と西洋では古代ギリシャと古代中国の哲学の違いから、個人の確立を目指す西洋と集団としてのまとまりを目指す東洋の気風があるそうね。けれども趣味のサークルや人の集まりのコミュニティーもヨーロッパのほうが整備されてるそうだから、場の空気というものが幸福には直結しないのかもね。人の顔色をうかがうとか、世間に恥ずかしくないのかという親の教育などに近いのかもね。赤旗は戦争という場の空気に反対した。だから平和主義者は評価するわね。まあたかさきさんは入院が必要かもなほどの頭痛もちで目立つこと嫌うのでその配慮という見方も出来るわ。病院には行ってるし、ネット小説書ける程度の頭痛よ。まあひどい戦争の反動でいまは平和主義者の場の空気が日本は強くて戦争主義者には居心地がよくないわね。たかさきはやとも無茶苦茶な人だけどねえ。まあこの世界が無茶苦茶であり生きて仕事して幸福になるという命題も無茶苦茶だけどもねえ。助け合いの輪の中に入れる人がどれだけいることか。本音と建前もいいけど、なんでも話せる自由な気風というものでいいものが出来ていくけど、家庭が出来れば、人は毎月給料が出ることを優先するものよ。それならリスクよりも場の空気を読んで黙っていたほうがいいわけよ。それで自分にはなんの問題もないのだから。本音でぶつかってこそ親友とか出来るものよ。親しい仲にも礼儀ありともいうけどね。まあお気楽極楽なのも嫌いじゃないけどね。ケセラセラ、なんとかなるってもんよ。完璧主義も悪くないけど、完璧なものは案外つまらないものよ。ちょっとぬけてる人くらいがかわいいものよ。いまの会社わねえ空気を読まない芸人さんは面白いけど、うちの会社では許さないという雰囲気なのよ。なにをいっても聞いてもらえないとなれば、社員は口をつぐんでしまうものよ。人をいたわるということは、その人の声を聞くことよ。人の声という本質に応えないと政府も企業も人も没落していくものよ。リスクがどうとかじゃなくて、声に応える人が認められていくのよ。まあ人だから限界もあるけどね。女性の好きな男性が三低といって、低依存低姿勢低リスクだそうよ。女性に興味のない草食系の男子を作る風潮があるのね。団塊の世代の女性はちゃぶ台返しされてもついていったけど、いまはそんなのすぐに離婚よ。理想も高くなっているわ。最初は低いスタートでも、お互いを高めあっていく結婚生活が出来なくなってきてるわね。人を減点法で見るから結婚相手にも見えないし、雇わないし、その人にリスクしか残らないのよ。その人のいいとこを見つけてあげて、そこを伸ばすことが出来るといいかな。いまは低リスクで、かなり高いクオリティを求められる時代よね。せっかく結婚したり雇用しても、相手の悪いとこ指摘され続けたら関係が続かないものよ。完璧な人間なんていないんだから。いいものを作るのにとことんこだわるのはいいんだけど。完璧な人間を求めちゃだめよ。その人が壊れてしまうわ。人はなにかしら欠点を持ってる。そこをリスク扱いされたら、その人が生きていけないからね。ある程度ならともかく自分のことをとことん減点して見ていったら、自殺しか選択肢がないからね。まあうつのひとつの側面かな。うつなら病院でみてもらったほうがいいけどね。これからは少子化もあるわ。ヨーロッパでは少子化対策で母親に三年間の有給と父親に一年半の有給を認めているそうよ。学費も大学まで無料。ベビーシッターも必要なら選択出来るあらゆる手を打って、それで子供が増えたそうよ。経済政策メインの自民党ではそこまで願うことは出来ないかもね。自民党も高度経済成長とかバブルの時は人気があったんだけれども、ここ最近の不景気で人気が衰えているわね。日本人は滅びたほうがいいかもね。日本人は天皇制で戦争をとことん味わって一回滅びて生まれ変わった。それで自民党一党政治を六十年味わった。民主党で息つぎしないで、自民党が滅びるまで経済第一を味わえばいいのよ。冷戦の核戦争で明日世界が滅びるかというプレッシャーはすさまじかったわ。何故滅びる危機があるの。それは滅びたの。滅びながら生きる人よ、愛しきその存在よ。それで滅びたら生まれ変わって社会主義にある社会保障の充実による生活の安心第一をとりいれればいいのであってね。資本主義社会が社会主義を育てるからねえ。まずは存分に成長しないとね。人は時代の制約を受けるものよ。中世とか江戸時代に空が飛べるとか週休二日とかいったら頭おかしいといわれたからね。時代の限界ってあるものよ。まあね、いまの政治家や経営者の保守さ加減なら、ここ五十年は日本と業界の没落は続きそうね。その点中国や移民というリスクをとるアメリカはまだまだ発展しそうね。日本も中国人がいなかったら仕事にならないわ。これからは中国人の社長に雇ってもらう時代がくるかもね。少子化世代の日本の市場もリスク扱いよ。それなら外国で儲けたほうがいいわけ。これからは外国に出稼ぎにいくことになるかもね。外国に出ていく人はまだいいほうだけど、日本に残って戦う人は待ったなしの状態よ。働くのもリスクあるけど、結婚や子作りまでリスクに見られているのよ。不況の時にリストラしないのもリスクよ。誰かがリスクを取っていかないと、この国は滅ぶわよ」
「生きるのもたいへんだ。ほんとうに自分は幸せなのか、生きていていいのか思う時もあるんですよ」
「あなたは誰でもない世界で一人だけの存在よ。気を確かに持って。もっと自分を愛して。自分の可能性を信じてあげて。自分に勝つまで頑張りなさいな。社会を良くしていくとか、待遇改善とかもしていくんだけれども、家族や仲間や役所や医療や福祉を頼ってみる。後あるとしたら自分の根性ね。もろに精神論よ。自分にいい聞かせるの。死ぬな死ぬな生きろ生きろガッツだガッツだ気合だ気合だ大丈夫、大丈夫幸福だ幸福だこの現実に負けるな、みんなと出会えて幸福、ありがとう自分の名前、おつかれさま自分の名前、一緒に頑張ろう、いいこともたくさんあったよ、幸せになって自分、生きててくれてありがとう、頑張ってくれてありがとう、よくやってるよあんたはってね。人にいってあげるけれども自分には自分にいって聞かせるしかないわけ。まだそこまでいたわりの社会じゃない部分もあるからね。呪文のようにいうと魔法みたいに気力がわいてくるわ。気力も地道に出すしかないわけ。私なんか毎日してるけどもね。まあ無理はしない程度にね。亡くなった人の写真見て話したり、神様にお祈りしたりすることも出来るわよ。思い出は頑張った気持ちへの報いよ」
「最近は有能な人材が少なくて」
「それはどこの業界でもそうよ。人口のピラミッドが小さくなれば、その頂点にいる体力自慢や才能のある人も少なくなる。アニメやゲームなどはもう外国で作る割合を高めてしまえば、なんとかなるけどねえ。日本人でさらに自然と才能がある人はもう足りなくなってきてるわね。いまはまだ上の世代がいるから、地道に育てるしかないわね。育てることが出来れば才能なんてそこそこ身につくものよ。でも天才的な人はあまりお目にかかれなくなるわね」
「世界は紛争だなんだと大変なのに私は作品作ってるだけなんていいのかな」
「ペンは剣より強しよ。アニメも立派なペンよ。手塚先生や宮崎監督が何故すごいのかわかるかしら」
「新らしい手法を駆使したんでしょう」
「違うわ。情熱が一番あったのよ。最後は気持ちよ。心の豊かさが作品ににじみ出てくるのよ。そこいらへん視聴率とか気にするとこじゃないんだけどね」
「声優さんはどう選んだらいいですかねえ」
「心の豊かさが演技ににじみだしてくる技術のあるベテランとフレッシュな新人。そこをバランスよく配置するとか。あるいわ役の感性の相性だけで選ぶか。そこは監督の采配によるわね。でも新人声優が多いからって新人のつかみどりは注意よ。アニラジと声優雑誌は打撃を受けるわ。作画スタッフが新人だけだったら大変なことになる。文化としての声優を受け継ぐベテランが必要なのよ」
「もっとクオリティをあげるためにはどうしたらいいですかね」
「定期的に集まれる人で勉強会を開くといいわね。囲碁や将棋では当たり前よ。声優の演技について、作画について、話作りについてそれぞれ集まって話をするといいわね。一人の人が考え付くことなんて限られてるから助け合って戦略を練っていかないとね。まあ飲み会の延長みたいなものでいいんだけど。勉強会も仕事のうちよ。会社が週に半日でもスケジュールをとらないといけないわ。それで自分たちにしか出来ないことを確立していくことね。プロになったら独学だけでは生き残っていけないからね。改善すべき点をあげて改善策を模索するのよ。仕事も生活も改善なくして成り立たないものだから。改善が口癖のトヨタは生き残った。そうでない会社はつぶれた。生活も仕事も日々の改善で成立するものなのよ。仕事も生活も話しあって改善していくこと。それが万能ではないけどさ。忙しい現場だけどね、これは大きな差となって出てくるわよ。勉強あるのみよ」
「困っていることがあるんですよねえ」
「自殺に追い込まれるなんてあっというまよ。困っていることはとことん書き出す。それで客観的に見ることが出来るわ。どんなに馬鹿にされてもいろんな人にアドバイスをもらうこと。日々生活の知恵とか幸福のコツとか趣味とか仕事とか人間関係とか勉強よ。改善あるのみよ。まあそんなとこかな」
「もっと話したいことがあるんですが」
「仲間や友達や家族以上となると、神様に話すとかね。後は日記でね、対話形式の日記を付けると話したいことが話せるわ。相手は有名人でもキャラでも誰でもいいのよ」
「どこまで作品で描いていいか分からないんです」
「どこまでもいきましょう。あなたのクライマックスシーン叩き込んで」
「ジブリアニメとか苦手なんですよね」
「プロになったら好き嫌いはだめよ。心を豊かにしてくれる作品はなんでも読む見るオーケストラも歌も音楽も聴く。受け手より作り手が心が貧しいんじゃ話にならないのよ。いいものはいい。何度でもいい作品を見てどこがいいのか考えるのよ」
「作画がいっぱいいっぱいで演技も配分もどうしたらいいか分からなくて」
「監督だからって背負い過ぎよ。優秀なスタッフがそろってるんだから、任せるべきは任せていきましょう。自分の生活だけでもいっぱいいっぱいなとこ仕事までしてるんだから、ここぞという時のための余裕はもっときましょう」
「なにかこうぱあーっと一発でなんとかなりませんかね」
「時間の進み方が地味に地道なものだからねえ。それにあわせると地道しかないのよ。それが慣れてくると幸福感すらあるけどねえ。最善 を尽くして天命を待つだけよ」
「感性てなんですか」
「感性は心のバランス感覚。感性は心の構成要素のひとつ。感性は心の言葉。心に響く音。そして感性は心のエネルギーね。脳が糖分で動くように心は感性で動いているのよ。だから歌やドラマやお笑いは感性を補充することをしているのね。考えること悲しむこと喜ぶことそれは感性の補充なくしてないことよ。感性は言葉に出来ない気持ち。それが心をうるおしてくれる。感動も感性の組み合わせによってもたらされる。言葉で考えるのではなく感じる世界。感覚の世界。それが感性ね」
「アニメってなんですか」
「いまのアニメとゲームは漫画を基礎としているわね。漫画もアニメもゲームも新メディアね。小説がそれまで人の情感を地道に描くことを基本としていたのに対して奇抜な発想を試せるのが漫画の特徴ね。だから漫画には奇をてらう作品が多いし、それを楽しむためにあるのだからね。だからよくありえない話を漫画のようだと言うわ。漫画や映画は小説のアンチテーゼだったのね。漫画やアニメやゲームもサブカルチャーと呼ばれたりしていたけれども最近ではかなり認められるメディアとなっているわね。そのため小説が抱えるマンネリもまた抱えるようになってきたわ。いまこそ新風がほしいとこね」
「もっと面白い作品を作りたいんですよね」
「面白さを日々改善して。そんなのあたりまえだけどこんなもんでいいかと思っている部分て結構多いものよ。日々生活改善もするものだけれど日々面白さの改善もするものなのよ。日々面白さの探求よ」
「若草物語を読んでると幸福感にひたれるんですよねえ」
「いまの作り手は視聴率とかのうけ狙いばかりでねえ受け手が幸福感を感じるようなものを作る意識が弱いのよね。そこはもっときましょう。幸福感が視聴率にもつながってくるからね。幸福感をいつも念頭において話も作品作りもしましょう」
「作品を作っているとどきどきわくわくが止まらないんです」
「作品作りが好きなのね。好きなことにはタフになれる。好きになるって大事なことよ」
「十年後にはホームレスになってるかも知れない。生活保護とか受けれるでしょうか」
「現実に自分に負けないで。厳しい社会だからこそ楽しいことには楽観的でいましょう。それはその時考えましょう。いまは存分に作品作ろうじゃないの」
「孤独感につぶされそうです。自分がだめな奴だと思いつめて心が痛いんです」
「心の痛みに苦しむのはあることね。アルコール中毒や薬物中毒になる人もいる。心の痛みに犯罪者になる人もいる。自殺してしまう人もいる。産業革命が起きて車だの電車だのテレビにエアコンにと生活は便利になった。医療の発達に福祉の発達によって皆保険や生活保護や年金制度にセーフティネットにと生活は楽になるばかりよ。それでもこれだけ歌やドラマで心の痛みを描くのはそれだけ人の中にあるなにか本質のひとつなのかも知れないわね。私たちは物語の作り手よ。心の痛みのその先になにがあるか人生のその先になにがあるか感じさせる希望を描くことが大事なんじゃないかしら。癒しのある作品とかね。刺激的な作品を楽しむファンもいるけどね。作った作品はスタッフも楽しめるからね。一石二鳥といきたいとこね。どんなにか心が痛い時でもドラマや歌は私の心を癒してくれた。だからこの厳しい業界に入ったんだけどもね。私が幸福になったように幸福になってほしかったの」
「話パクられてしまって。組合や山岡さんには言ってみたんですけどだめでした。せめて名前くらい出してくれたらよかったんですけど」
「それは大変だったわね。アイディア出すのも地獄の苦しみだからねえ。手塚先生や藤子先生のようなアイディアフィーバーみたいな人もいるけどねえ。それくらになると達人技ね。オリジナリティというのもなかなか大変でね。ロミオとジュリエットはそれまでの恋愛ものにはない時間差心中というものでね、愛が死んで永遠になるというものね。当時としては斬新だったのよ。そういうのは話題になるわね。なかなかそれクラスの作品作るのは並大抵のことじゃないけどねえ。向こうじゃ大根役者をロミオ役者というそうよ。誰もがロミオを演じたがるからだって。私たちは台詞のないロミオ役者のようなものね。まだまだたいした腕前じゃないわ」
「たかさきさんの話したらすげー怒りだして」
「たかさき派かアンチかでまた意見の対立がある。世の中には社会主義と資本主義の対立がある。戦争主義と平和主義の対立がある。宗教と科学の対立があるわ。普段はタブーなんだけどその話になると途端にヒートアップするからね。注意よ。作り手がどの立ち位置かで作る作品も全然違うものになるわ。まあ多様性のある作品のほうが評価されし求められているけどね。多種多様な作品が作れるようになったら達人クラスよ」
「アニメはほとんどが漫画原作で漫画はヒット作が出なくて苦しんでますね」
「神と言われた漫画家はどんどん死ぬし、たかさきさんは引退するし、人材獲得では大企業に負けている。かなりピンチね。ちょっと明るい見通しがない時代ね。そこをひとつふたつ越えるとなにかまた見えてくると思うけどね。つらい時代だわね。いい作品を地味には作っているんだけどね。花となるヒット作が出ないのはなんかぱっとしないわね。どんな難物の作家でも編集者が使っていたものだけれどもね。最近の子は礼儀正しくてね。物足りないくらいよ。トラブルメイカーでいいからマンネリクラッシャーが出てくるといいわね。いまこそ本質を打ち鳴らせ」
「助けてほしいんですけどね。助けがない。この社会は生かさず殺さずですよ」
「助け合いの社会だと思うわ。でも確かにタイミングよく助けが入らないと人って死ぬわね」
「トヨタの改善が素晴らしいと言ったら、経営者の味方するのかとすげー怒られました。坂の上の雲も日本の軍人賛美だと怒ってました」 「トヨタは労働運動にとって激戦区だからねえ。左翼の人はそこいらへんすごく厳しいわよ。ガンダムなんかは軍人描いているけれどもまあ富野監督が手塚先生を師匠とあおぐ人だからそういう戦争賛美ではないでしょうねえ。たかさきさんも自衛隊のアニメ企画してたし軍人とはなにかというのはテーマのひとつよね。軍人は平和な時には救助活動すべしというのがたかさきさんの考えね」
「アイディアがなかなか出なくて」
「漫画家がしめきり前にホテルに缶詰というからねえ。机の前でどれだけねばってアイディア出すか。私はアイディア出るまでパソコンの前でじっとしてるわね。ふろ入るといいという人もいるし漫画やテレビ見てると出るという人もいるわね。それは人それぞれよ。アニメやゲームとかだと話しあって考えたりすることも多いわね。赤塚先生なんかはアシスタントや編集者とアイディア会議を開いていたわね」
「たかさきさん現場に入らないかな」
「たかさきはやとさんが現場に入ったら剣と魔法の世界で言うとこの城にドラゴンが来たみたいな感じよね。すごいステイタスになる。ファンもスタッフも業界も活気づくわ。そこまで仕事忙しくて見えない人もたくさんいるけどねえ。たかさきさんほどの腕前の人もいまはいるけどねえ。当時は活気的な人だったからねえ。手塚先生の技術もいまはあたりまえだからねえ。たかさきさんが何者かは学者が検証してるとこよ。経営者の人たちには不評でねえあまり雇いたがらないのよねえ。それを雇ってもらう説得の三十年ね。会社の対応だけど業界としてどうするか、組合の判断を仰ぎたいとこね。状況は地味に地道にしか変わらないからねえ。まあ呼ばれないならそれはそれで仲間の気づかいに感謝してネットで作品作ってるそうだけどね。いまの生活に満足しているから。それが労働運動でなければこちらは必要としないと。お金が儲からないのは不幸だけれども、助け合いの輪には組み込まれて幸せだと。これだけチャンスに恵まれたのは嬉しいって。たかさきさんもスタッフには感謝している、一緒に仕事が出来て誇りに思うと言っていたわ。たかさきさん雇う会社はクレイジーだけどパイオニアにもなるわね。共有財産が暗黙の了解だし、場の空気よまないで抜けがけすれば優先的に独占出来るわね。人材育成でも力になるし、無茶苦茶なことだけどヒットを作るスタッフはクレイジーなものよ。オタクと差別されてもオタク文化は残るから。まあたかさきさんのことはともかく滅びかかった業界になにか手を打たないとね。大丈夫なんとかなる。それまでは地道に地道に臨機応変に試行錯誤してみてね。地道にとは小説モモの亀のほうが早く進むということ。うさぎと亀の競争の話もあるわね。亀となって地道にゆっくりと行くしかないわね。私もね増援を送りたいんだけれどもね。ごめんなさいね」
「スタッフが言ってもききゃしないんですよ。こんなの話し合いなんか必要ないじゃないですか」
「母がねえ仕事の帰りに外食ばかり大量に買ってきてそれで金がないとひーひー言うのよ。言ってもききゃしないわけよ。それで私は自分で食べると言ったら外食やめてねえ。少し余裕が出たみたいね。忙しいとあたりまえがあたりまえに出来ないからねえ。話し合いは必要よ。試行錯誤もするけどね」
「人のやさしさを描きたいんですよね」
「やさしさで厳しくすることもあるけども。どんなに忙しくてもどんなに苦しくても人が失わなかった気持ちね。それは多くの人の共感を呼ぶわ。人の心に響くことね。人が持つとてもいいもののひとつよ。人の遺伝子に組み込まれた本質。私が滅んでも受け継がれていくもの」
「業界で生き残ることが出来るでしょうか」
「それは業界が抱える問題でもあるわね。人を使い捨てにするような人を大事にしない業界は滅びるわ。神クラスの腕前のネット作家や同人作家から敬遠されたらつらいわねえ。しのげないとこに人は来ないからねえ。たかさきさんもそれだけ業界に貢献している。たかさきさんはあらゆる石橋を叩いてスタッフはそこを通っているのにそこをたかさきさんは通ってはだめだというのよ。たかさきはやとという石橋を叩くスタッフがいないのよ。暗中模索で石橋を叩くのはたいへんだけれども漫画もアニメもゲームも石橋を叩いた先人がいたからいまがあるのよ。たかさきはやとという石橋を叩かないのは意気地なしよね。たかさきさんもさすがに自分自身という石橋を叩くことは出来ないからねえ。たかさきさんの背中を見上げる新人もネット作家となってしまっている状態よ。手塚先生の背中を見ればこそみんな漫画家やアニメーターになったからね」
「いびつな成果主義になってしまっていますね」
「お金よりもやさしさが大事だというのに。みんなお金の奴隷になってしまっているのね」
「なにか勉強したほうがいいですかね」
「弁証法とサウンドデュアルを勉強すると競争に勝てるわね。たとえばサンデュにはテーマ手法というのがある。全体を見ると大きすぎてよく見えない。そこでたとえばテーマとして父の涙とする。それで父と和解して父が涙を流すということを描くとかね。サンデュには気分転換手法もある。気分転換出来るネタをいくつか用意してそれを次々と出すというものよ。テーマ手法というものもあってテーマを確立すれば話の構成は簡単なことなのよ。世界に通用するものを読んで見てそこに共通するテーマを感じとって自分の腕前にして。サンデュの歴史観というものもある。たとえばアメリカを先進国たらしめているのはボランティアと市民運動と宗教と見る。ソ連を大国たらしめたのは社会主義の力だけれども宗教がなかったために人が許されなかった。社会主義は正しくあるが許しあいの精神が弱かったために国家が国民を虐待することが続発した。人のこととことん許すのって宗教の得意とするところだからねえ。日本でも戦後八割がた宗教は禁止されたけれども手塚先生が心とはどうあるか作品で描いてくれた。日本が大国足り得るのも手塚先生のおかげね。ヨーロッパの強さは社会主義的な福祉と宗教と各国のせめぎあいかな。サンデュでは宗教的なものも取り入れて科学と宗教の高い段階での統一を心みている。赤旗もさ。脳トレ許さずみたいなこと言わないで、合法的なものに狂っていいものだし、脳トレに狂うお父さん許して愛そう。正確さ完璧さを求めるあまりある種類のだめ人間になってるわよ。まあ人間誰しもだめ人間だけれどもね。そういう人を愛するのが人間愛だけれどもね」
「たかさきさんの企画はヒット連続ですね」
「サンデュにおいて科学は正しくあるが人のほうが狂っているというのがその見解よ。いま心が弱い状態の人は宗教に救われるべきというスタイルよ。サンデュは純粋な弁証法ではない。そのため二律背反を矛盾と言ったらすごく怒られた。けれども大半の人は大雑把に物事をとらえるものよ。一般には広くその考え方はうけたのよ」
「正確さを求める人は世界の一割程度ですね」
「それでも研究者や専門家や技術者など、正確さを求める仕事はたくさんあるわ。サンデュとそれで作られる作品は大雑把で間違っているけれども一般の人にはそれがいいのよ。猫は狂いたいことに狂う。だから狂わない。犬は散歩出来ないとかんだりする。人も狂えないと自殺したり戦争になったりする。プライドやイデオロギーや信念がそれを許さなかったりする。合法的なものに狂っていい。たかさきさんに狂ってもいいのよ。たかさきさんは作品作ることに狂ってるから構えないけどね。大雑把で間違ってることって案外幸福なことよ」
「最近の作品には心ないものもあります」
「おいしいもの面白いものって結局のとこ人って心を求めてるのよね。人って誰もが心を求めるものだからね。自殺したり犯罪に走ったりする人は心が手に入らなかったのね。これだけおいしいものや歌やドラマや笑いがあって心不足よね。けれども忘れないで。人は誰でも心をひとつ持ってるのよ。心を分け合えばなんとか生きていけるものよ。さびしさ倒す心がほしい。心は気づかせてくれないと見失ってしまうものです。心の花を咲かせましょう。受け手はもちろんキャラクターの心の花が咲く。心の花屋さんになりましょう。ここ試験に出るわよ」
「スタッフは誰を選んだらいいでしょうか」
「差別しなさい。人は仕事で差別するし人間関係で差別する。差別され続ける。してはならないのにしないと生きられない。その矛盾は心の痛みとなる。してはならないことをしないと生きられない罪深き存在。それが人間よ。人間は差別をする動物なのよ。宗教では神様仏様に祈れば許される。許しあいの精神ね。科学サイドでは祈りの文化に匹敵するような心のケアをするものがない。だから酒を飲んで脳をマヒさせる。60才くらいになめとこれ以上飲むと死ぬと宣告される。心が依存してる人の悪口をいってしのぐから女の子にも嫌われる。女にリスク管理された男は生きていけずに飲みそれでもしのげなければ自殺する。心のケアが十分にないからうつの度合いが高くなっていく。うつの度合いは酒や暴力や悪口の量に比例する。子供は酒を飲めないからいじめでうつを癒す。まだ科学の歴史が浅く未熟な部分ね。これは歌やドラマでは限界があるわ。たかさきさんは対話形式の日記で心のフォロー毎日してる。自分のキャラがアドバイスや楽しませてくれるのよ。気持ち悪いと言われて祈れば心を立て直せる。科学サイドでは心理学とかあるけどそこまで癒すことが出来ないわね。まあ祈りのへたな人もいるけどね。祈りはオンリーワンの世界だから教えるものでもないしねえ。社会主義社会がどれほど公平な社会だとしてもそこに人間はいるかしら。衣食住医療福祉は無料だからって生きてるだけじゃだめよ。そこにいきいきと生きてる人がいるのかどうかって話なのよ。祈るために生きる。宗教はそう言える。では科学サイドはどうなのかしらここ宿題ね」
「あまり心を感じない人もいます」
「受験戦争で会社では鬼のように叩きのめされる。心が機械化されてるのよね。そこに歌やドラマやお笑いが心を表現するものとしてある。恋愛や仲間というのが心を支える存在だと教育が教えないのよね。だから心を支えないで金がなくなったら縁を切られる人がいる。ロマンや人間味を感じない人がたくさんいる。心は木よ。希望に葉は萌えるのよ。週に二万枚も絵を描くのはアニメーターや制作進行さんを安くこれだけ働かせるのは希望に葉を萌えさせるためなのよ。それはゲームのプログラミングも漫画も歌もドラマもいいものは変わらずそうなのよ。いいものとは葉に希望をくれるものだからね。科学サイドの人は精神論とか非科学的とか世界観が違うと言って宗教的な部分の枝を全部切ってしまう。だから大丈夫と言っても傷跡をなぞられて痛い。心ない人は科学サイドに多かった。自殺する人は科学サイドに多かった。生きる意味をおきかえて死なない工夫と呼んだり幸福も不幸の概念も使わない。生きる意味も死なない工夫のひとつのはずよ。心すら脳といってる。どんどん科学サイドの世界観が貧弱なものになりつつある。もう女性もそんな機械のような男を相手にしなくなってきてる。心豊かな人情味のある人を女性は求めている。臨機応変さを会社も女性も求めている。それは心の力のひとつよ。どれだけ信じてるかそれが生きる力。いま自殺予備軍たる人はなにも信じなくなってきてる。世界観の豊かさは心の豊かさにつながっていく。心豊かな人は非常に心強く心柔軟性に富んだいる。心の力が弱って死んでいく人も多い。人は気持ちの生き物。心の生き物。科学的正しさで生きてるわけじゃないわ。心の力は目に見えないものだからね。見えるものしか扱わない科学は心の世界観としてはまだ未熟なのよ。愛情と信頼の概念はそれも宗教的だけれどもまだ科学サイドは使っているわね。それはちょっとした救いよね。自殺者が多いのは科学サイドの多い日本と宗教が最近まで禁止されていたロシア。科学サイドの人は木の半分の枝をたたき切ってしまうからね。非常に危険な状態よ。それでなくても台風とか風で葉ははたき落とされるから。悩み苦しむのは葉が四枚くらいまで減ってるから。日本の命の電話は鳴りっぱなしよ。最後の一葉が散ると人は死ぬ。手塚先生は希望を漫画でアニメで伝えてくれた。だからおたくは萌え死に出来る。ロックの歌詞にたいして意味はない。けれども残った枝の葉に光が届くのよ。眠るだけでも葉は萌えてふえるのよ。笑うことでも萌えるわね。ひねくれてるのは枝がからまってるだけだからほどいてやればいい。エロ本とか不良とか反抗期は子供が精神論とか真に受けて枝を切ってしまうから起きる危機的状態。漫画とかゲームに熱中する子供見たことない。それは一生懸命葉を萌えているのよ。科学サイドも心という宗教観念は切れなかった。だから宗教がどうということでなくて枝を切るなということなのよ。枝を切りすぎるとカルト集団や殺人鬼になってしまうからね。枝を切らないという心の教育がいま必要なのよ。枝は自分の伸ばしたいとこにも伸ばせるし枝はふやせるものよ。心という木はゆっくりとしか成長しないからじっくりとつきあいましょうね。希望に葉をふやして希望に萌えていきましょう。葉がしげった希望に萌えた状態が幸福だからね。心の花を咲かせましょう。それはとても美しく見る人に希望をあたえることでしょう」
「韓国ドラマがすごいですよね」
「恋愛や家族を常にテーマにしているわね。それに三ヶ月で終わらない長さもいいそうよ。家族を通して感動が描かれているって。後は失うものがないチャレンジ精神ね。チャレンジャーとして挑戦してくるわね。韓国や中国のアニメが日本のアニメを出し抜く日も来るかもね。いまもスタッフは中国人のほうが多いわけだし。ドラマも進化していく。ミュージックパソコンという概念がソニーは理解出来ずに出遅れた。ケータイパソコンの概念が理解出来ずにケータイも出遅れた。既得権益にあぐらをかいて恐竜のごとく滅びていくのかどうかよ。勉強会とか地道にしてテーマを作り出す脚本家を育てておくといいわね」
「テーマが重要なんですか」
「たとえばエヴァンゲリオンというテーマにキャラクターは支配される。ガンダムでいえばニュウタイプというテーマによってキャラクターは力を得る。君に届けという気持ちが届くかなという一瞬にどきどきわくわくする。テーマは指輪物語で言うところの指輪のようなものなのよ。それはキャラクターに力を与えるけれどもまた支配もされる強力なものなのよ。テーマの質が作品の質と言っても過言でもないわね。たとえばアンパンマンで虹の国という話があったわ。虹を作りだす国での騒動。それは虹の国というテーマによって話の質が保障されるのよ。テーマは概念ね。テーマ手法は哲学の一種ね。漫画だと編集者がテーマ出したり原作者をつけるわね。テーマを作れる人のことを作家とか詩人とか呼んだりするわね。機械におけるテーマを作れると発明家だったり人生のテーマ作れると教育者や宗教家だったりするかな」
「なんかネットや同人誌を嫌う傾向を感じます。編集者のチェックがないと文章として認めないとかいう人がいます」
「そうやってネットのことを漫画のように悪書追放しょうとする勢力がいるわね。なんでも新らしいものは拒否られるわね。編集者の役割は高く評価するけれども編集者が認めた世界だけが世界だっていうの。もっと世界は多様性に満ちているわ。漫画が本と区別されたけれども子供たちは得た。図書室には漫画禁止だけどもね。ゲーム機が親から禁止されたりしたけどいまは孫と遊ぶそうよ。テレビが俗悪だといわれた。ラジオも最初はそう。ネットも拒否されてもそこには新らしい世代には必要なものなのよ」
「歌もドラマも楽しさも十分ありますね」
「いま必要なのは生きる意味を問うことなのかも知れません。そういうことは宗教でするものですけれども宗教をなかば失った日本ではそれが問われているのかも知れません」
「リスク管理やコスト管理が厳しくて自由に作れません」
「チャレンジ精神。なににチャレンジするかといえばファンの笑顔にチャレンジすることよ。コスト管理よりもそれが第一でなくちゃ。月いちでアニメ鑑賞会でファンに見てもらってその反応ですごく元気になれるわ。数字なんかより笑顔を見なさい。たとえばたかさき先生がダークエレメンタラーをゲーム会社に企画してもどう儲かるのかさんざん聞かれるそうよ。もうどう儲かるのかの話しかしてない。どうファンを喜ばせるか話していない。それでゲーム世界シェア七割だったのにいまでは三割にすぎないそうよ。そういう儲け優先の会社に結果として出てきている。いままでたかさき先生がボランティアで幾千の話や歌を作ってきた。いま企画が通りづらくなってきている。愛を信じないスタッフが増えてるといわざるおえないわね。このままいくと日本のクリエイティブな業界は滅びるわね。それでもたかさき先生はネットには残るかな。ベテラン声優はのきなみたかさき先生を支持してる。最近は安く新人を使うことも増えたわ」
「最近の作品や歌はどうも面白くないですね」
「上の世代は宗教やっていた世代だから心の教育があったのね。悟りの境地へ一定到達しえた人もいた。そういう人たちが作る歌にはたとえば天城越えなんかあなた殺していいですかと歌う。悟りの境地から諭す心の一言があった。いまの若手にはそれがないのね。成長できないと生きていけない。自殺が年に三万人。それに比例して子供にしか通用しない子供だましなドラマや歌は増えていく。悪循環ね。ある先生がいまの若者は土壌がコンクリートのようになっていてなにも育たずに自殺していってると指摘していたわ。最近の若手もなんでも育つ豊かな土壌を持った新人がいなくなってきている。教育がそんな豊かな土壌を作らないのかしらね。ドラマや歌も人ごとではないけどね。アキバの殺人犯が誰も信じられずに悩みのたうちまわってやったというけどあれも自殺よね。一人では死ねないといったところかしらね。仲間を信じる力をどれだけいまのドラマや歌が伝えているかしら。宗教がなかば禁止された日本ではいま科学的に独自の理論で作っている。だから心とかなんのことやらさっぱり理解しない人もたくさんいる。自分がすべて正しくあるとは。まるでソ連みたいな国になりつつある。間違っているところも必ず持ってるのが人じゃないの。いい人は聞く耳を持ってるというだけ。おたくという差別はやめようといってきたら今度は特定のファンを信者といって差別する作家がいる。なにかを信じることを訴えるのが作家のすることじゃないの。科学的に正しくあるために人はいま人間として気持ちの生き物としてゆがむことができなくなって自殺していってる。この国はどこまでもゆがみきってる。受験勉強は正しくあるかも知れない。けれども真面目に受験勉強してきた若者が誰も信じることができずにいまうつにのたうちまわっているこの日本の姿がゆがんでいるというのよ」
「世界に通用するものですか」
「世界に通用するもので自分の好きなものは何度でも見て読んで聞いて。そこに感動がひそんでいるわ。感動は心の特効薬。不安や嫌なことを吹き飛ばすわ。生物は一日に一定の感動を得ないと生きていけない。酒とたばこと人の悪口と暴力と怒りも感動なのよね。面白さはもちろんのこと感動させる腕前もほしいとこね。感動は明日を感じること。表現者たる者感動のストライクゾーンへそれでいてなおなつパターンを読まれない表現を求められる。期待に応える力。それが出来る者だけが認められる実力の世界よ」
「話せる人は心を質問攻めですか」
「心を知らなければ話にならないわ。ちゃんと相手の加減をみてね。無理につきあわせてはいけいなわよ」
「あいつおれの企画ぼこべこに言いやがって」
「人のせいにはしないで。企画のクオリティが低かったと思いなさいな。もっと自分のクオリティを上げてみて」
「世界観ですか」
「歌もドラマもその世界観を楽しむものよ。世界観に感動する。どれだけ作り手が豊かな世界観を持っているかが勝負よ」
「希望を描けて一人前ですか」
「仲間からは信頼を得る。家族からは愛情を得る。文学からは希望を得ると思うのよね」
「源氏物語ですか」
「千年読み継がれていまは英語にも翻訳されてる。アニメにもなった。千年ファンに見守られた作品はやはりすごいわね。話の醍醐味も半端ないわ。たとえばシェイクスピアの作品には二万の概念が使われていて複数いたと主張する研究者もいるくらいよ。いま作っているものが十年後にファンに見守られているかしらね」
「見えないものを見せるのがプロですか」
「心の力は見えないものを感じた時に起きるもの。見えないものを感じさせてそれでこそ作家というものよ」
「生きる力ですか」
「生きる力が極限まで高まった時に人は幸福となる。いまの教育にそれをすぺて期待できないとすればドラマや歌や本がおぎなうしかない。どれだけの臨機応変さそれも生きる力。不安を吹き飛ばす希望それも生きる力。さてあなたたちマスメディアのお手並み拝見よ」
「たかさき先生は差別されていますか」
「社会主義者だと雑誌で批判されたり壊し屋だとかいわれて赤旗もめがみやこころやきぼうは宗教ぽいから嫌みたいな赤旗も宮本議長という大黒柱を失って力を弱めているのよね。アパルトヘイトと戦ったたかさき先生が日本では差別されるとはね。因果なものよね。日本で異端な社会主義者の中でもさらにめがみやこころやきぼうを社会主義とよび社会主義というものは科学サイドの幸福論というたかさき先生はさらに異端なのよね。まあね世界でも珍し い人ではあるかもね。手塚先生の弟子としては弟四世代くらいかしらね。情操教育にアトム読まされたからアトムショックを受けた世代としては珍しくドラえもんショックも受ける。けれども大人になるとドラえもんが来ないこと分かってしまう。そこでローマ字作品や歌のめがみショックやこころシヨックやきぼうショックとなっていくわけよね。セーラームーンショックやポケモンショックやエヴァンゲリオンショックには参加したけれども大人には通用しないというクリエイターとしておたくとしての限界を感じた瞬間でもあったからね。宮本先生はソ連べったり中国べったりで議席を失った日本共産党を立て直した人でね当時ソ連と対立した共産党は日本共産党とインド共産党だけだった。まあ宮本先生の弟子としても弟三世代くらいよね」
「たかさき先生が攻撃を受けているんですか」
「あいまいまいんでけんは最低て一本まるまるアニメ作られたし、たかさき先生を攻撃するポスターもある。ラジオでもののしられることはしょっちゅうだね。逆にアニメで左歩きはたかさき先生を支持する表現として見られるわね。好きです鈴木くんなんて漫画があるくらいかな。かなめもでありがとうけんくんといわれたりね。そこいらへん見えない戦いが起きてるというかね。たかさき先生はみんなの幸福を願ってるだけで別に支持を呼びかけているわけじゃないんだけどね」
「25歳限界説ですか」
「団塊の世代はまだ人間には無限の可能性を見ていたんだけど、いまのお偉いさんは成長が止まるくらいが人間の限界だと科学的にそうだというのよ。スタッフも若手を重宝するし、子供や若者向けのものは作るのよね。25歳以上は見ない。自殺はよくないね凶悪犯罪はよくないね。でもうちでは若者向けだよと。時代劇も演歌も少なくなったものだわ。アニメ漫画ゲームも若者向けだけが多い。25才以上のスタッフはたかさき先生もだけど可能性がないというのよ。スタッフとしても25才以上をとらなくなってきてる。いまのテレビドラマも若者向けになってしまっていると大人は見れなくなってきてる。頑張っているスタッフもいるけどなにせ若者向けが多いわ。アニラジでも大人がじっくりと表現を楽しむそうねクラシック音楽のようなものが極端に少なくてまるで25才過ぎたらおたく卒業しろといわれているみたいよ。心を作り出す愛を作り出す材料も足りてないわね。お偉いさんの愛情不足も深刻ね。いまお偉いさんの心に効く愛の言葉を準備しているところよ」
「表現が人の心をキズつけるものですか」
「そうね。どんな表現も人をキズつけることは共通している。ATフィールドをキズつけないと表現は心に入っていかない。愛のない表現はただのののしりになる。何気ない一言にも愛がなければキズつけてしまう。愛があるとキズが愛に癒されて愛が残る。これができるためには愛がなければならない。最近のお偉いさんは若者への愛があるが大人への愛がない人が多くなりつつある。だからたかさき先生をののしったり大人を無視するようになってきてる」
「中二病ですか」
「科学的に人は中二から成長しないっていうのよ。人材としてどうこうできるレベルじゃないし、男としてももてない。最近では女性もそうなりつつあってお母さんてひとつの成長段階じゃない。それを拒み始めている。科学者がすごいのも確かなんだけれども、なにか自分を主張するときに科学が味方だと安心するみたいなのよね。そしていまの若者から卒業すると生きられない日本の姿かな。成長段階でいろんなものを愛していけるようになるわけだし、たとえば宗教はすべてカルト集団だとか主張するのは後は社会主義国だけでしょ」
「ネットの時代ですか」
「これからの時代はネットを制した者が勝つ。ネットを使って革命が起きる時代よ。中国ではネットであらゆる革命的なものが検索できなくされてる。民主化178位の国はかくたる文才のでる要素がないわ。これがローマと競った中国のいまとはね。日本で22位アメリカで21位ベストテンはヨーロッパの国々。なんにせよネットでの人気がそのまま実力足り得る世界になったのは確かね。スポンサーさえつけばユーチューブのほうが見てもらえる時代よ。違法なのもごろごろしてるけどとにかくネットでの活躍がそのまま人気足り得るのは確かね」
「曲先詩先ですか」
「シャウト系や踊る曲は曲先がいい。メッセージソングには詩先がいいわね」
「団塊ショックですか」
「団塊の世代のお偉いさんがたかさき先生を重宝してくれた。ダークエレメンタラーのたかさき先生と宮崎監督がタッグを組んだもののけ姫や千尋は大ヒット。ハウルは原作者とトリプルタッグ。ボニョは宮崎監督単独だった。猫の恩返しはたかさき先生の話で。宮崎監督と歌のアニメではたかさき先生がアカペラで歌ったものと話。宮崎監督たちが辞めると次のジブリのお偉いさんはたかさき先生の話をつかわないという。レベルファイブに泣きついてああいうことに。見かねた宮崎監督が引退を撤回するということに。どうなることやらね。ハートキャッチも二年目は通らなかった。最近は愛をいってもそもそも愛ってなんだよわけわかんねーなといわれてしまってね。かえす言葉もなくってただ企画が通らなくてね。サンライズも人望のある人がやめてしまってね。たかさき先生と対立するようになってしまって。人がどんどんブリーチのほうとかに流れていってね。バンダイには保険としていろいろなスタジオと連携を組むようにお願いしておいていまガンダムエイジは建て直してるところね。ヴィクトリーからダブルオーまで話の構成をしてきたけどエイジには参加してない。アドバイスはしてるんだけどね。殺そうって話してああいうきれいな形ならというとこまでかな。どうなることかしらね。アニメはみんなで作るものだ。おまえ一人の意見がなんだってんだっていわれてもうなんてもかえせなくてね。ネットでなんかいってるやつは殴り殺されてしまえとかね。もうなにがなんだか。林原さんもネットを悪く言うことが多くてね。ファンは困惑している。アニメにもネットで違法にアニメ見るんじゃないと威嚇されてる文字がでる始末。作ってくれたのなら見る権利もありそうなものだけどね。愛がないなあ。アラブの春でようやっと認められはじめているネットの力かな。たかさき先生の企画だとスポンサーが逃げる始末。たかさき先生を愛を拒否するために無視しろとか見捨てろとかの言葉を口にする人もいる。こちらはちょい限界を感じている。そして。そしてね。いつもおいてけぼりにされるのはファンなのよね」
「カルト色を強めている日本ですか」
「たかさき先生を使わないのもそうだけどね。メディアはいわないけどテロ集団が日本にはあってね。殺人鬼になる人もいる。おれおれ詐欺のようなものに人がどんどん入っていく。自殺が年に三万人。学校ではいじめで子供が殺しあい。食べるものはあった。図書館にいけば世界の英知が手に入る。学校教育百パーセントを歌う日本。でも心は貧しくそして愛に貧しい」
「需要と供給に応えるですか」
「望みに応えてこそお金をいただくにあたいする。でなければ泥棒になってしまうからね。これをできないクリエーターはたくさんいるわ」
「ネットにDVDにアイポッドになんでもある世の中ですよ。話だっていろんな話がある。もう見ることすら叶わないだけの作品や歌がある。これでなにを作れっていうんですか」
「私の父の教えなんだけれどもね。見えない山にのぼれという一言をもらったわ。まだ発見されてない山がある。その山にのぼること。そしてそれは山脈として一生のぼり続けることなのよ。人はまだ宇宙という本の1ページしか見ていない。その無限のページを開くのは私たちの仕事よ」
「頑張ろうがいけないんですか」
「いけなかないけど、うつ気味な人やストレス過多な人、自殺しそうな人には負担になる言葉ね。もう少し表現にひと工夫ほしいとこね」
「いまの物語がひまつぶしにすぎないですか」
「一定の年齢になってくるとフェイスブックやツイッターで楽しむ傾向があるわね。いまの時代にあった物語が必要よ。ネットと敵対するのではなく、ネットの話題につながるような物語が必要ね。物語や歌から得た感覚感情、世界観はたくさんあるけどまあコミュニティで人から得られるならそれもひとつの手数かもね。私もねツイッターでみんなとつながりたい欲求がすごくてなんか書いてるのがバカらしくなってくるわ。これはひとつの快感というか感動ね。キルミンが遊戯王ゼアルが話題なのか見えない。アラブの春が政府が気づいてネットを遮断したときには起きていたというからね。いまのブームは見えないわよね。けいおんもツイッターでは盛り上がったでしょうけど見えないのよね。まあそもそも人が人と話しあいでものごとを前に進めるというのはきほんだけれどもさ。我ながら変わった時代だなあと思うのよね。私が子供のときは外で遊べといわれた最後の世代だからさ。ゲーム会社も作家をくびにするとこがでたわね。物語はいま進化しなければあまり必要とされないものになってしまうわね。いまが正念場ね。迷ったら原点回帰。それがサンデュ。鉄腕アトムを藤子先生は少し不思議がSFといった。手塚先生の弟子たちは不思議な世界を描いた。天才バカボンでよくないのにこれでいいのだとか999にトトロやポケモン。少女漫画とて複雑な乙女心はとても不思議よ。ETで空を飛ぶシーンは話好きなら誰もが知るシーン。不思議。そこに活路がみいだせる。そんな気がするわ」
「歌が明日を感じさせることですか」
「メインちゃんの歌が日本語であるのに世界に通用する。英語の歌が日本で流行ったりする。これは歌手が明日を感じさせるから起きる現象よね。明日の希望を感じさせることが感動なのだから当然といえば当然なんだけどね。九ちゃんは独特の歌い方でうえおぅむぅいてあるこうおうおうおうおうという歌い方で希望を世界中の人に伝えた。そういう人を師匠足り得ることのできる幸せ。クリエイター冥利に尽きるわね」
「時使いですか」
「人は時に仕える時の器。時がすべてを教えてくれる。時がすべてをくれる。私たちは時に仕えること。それが生きるということ。時を圧縮して歌や作品となる。なにを時を圧縮させるか。なんの時に仕えること。それが生きるということ。相対性理論よ。楽しいことしてると時間はあっとい間。苦しくと長く感じる。これを応用して脳の中の時間を遅くすることができる」
「感動が人に大事なことを教えるですか」
「感動でしか人には大事なことが理解できない。生き物は感動でした学ぶことはない。あとは運動してお偉いさんに聞いてもらうとかね。あとは師匠の言葉も聞く耳が一定ある。たかさき先生はすごいと思った人は年下でも師匠にするからたくさんの師匠がいる。とにかく感動によって人は人として大事なことを学ぶことができる。逆にいうと感動がない人生は不幸なものとなってしまうということかな。逆にいえば感動があればそれは幸せな人生となることかな」
「カルトアニメがはやってるって」
「うーん。誰が見るの誰が買うのという作品が増えてるわね。放送もほとんど買い取りならばとか地方局では放送しないとかね。カルト作品がわるいわけじゃないけど、アニメーターを12万円で使い倒してすることかしら。女性をえんえんと拷問してるとか、同じ話をアングル変えて七回やるとか。どうしたら通るんだろうっていう作品がふえてるわね。悩みが過剰反映されると人は間違う。愛が過剰反映すると人に尽くす。自分の間違いを認められると人は成長する。もし中二病ならばそのままカルトになっていく」
「男女平等が少子化を生み出したと」
「いままでは女は愛。男は力。それが男女平等には女には愛だけでなく力を求めた。男には力だけでなく愛を求めた。けれども受験勉強には愛の教育なんてない。愛がなにか知らない男は女に必要とされなくなっていった。少女漫画やラブロマンスを楽しんだ男には複雑な乙女心がある。つまり愛がある。いまの男は驚くほど女性をエスコートの仕方を知らない。女をどう愛していいのかわからない男がたくさんいる。ラジオでたまに悩み相談とか聞くと驚くほど愛しかたを知らない。真面目に受験勉強をして勝っても家では意見が通らず負ける。人は負ける時意見が通る。負け方が愛であること。まあなんにせよ宇宙にあるものはすべて愛なのよ。科学サイドはそれを物質運動と呼ぶ。そのためまったくモテない。宗教百パだと原理主義だし科学百パだと中二病となって成長が止まる。バランスよく半々だととてもいい。愛は可能性。愛は力。愛は人を自分を幸せにする。そういうことが教育されないでぐだぐだの心では誰にも相手にされない。愛を知ること。愛を学ぶこと。愛を分析すること。それがこれからの男には求められているわ。たかさき先生のあいで愛のコンマ1パーセントの解明といったところ。たかさき先生がその人生て解明できるのは愛の三パーセントといったところかしらね」
「日本人がぜいたくになってると」
「歌もいい歌たくさんあるし日本語で世界に通用する歌手もいるしミクの歌なんてあれだけのクオリティでただよ。食べ物でもうまいものがたくさんある。世界に通用する食が日本にはある。アニメも漫画もゲームも世界に通用するものがだだ流し。草食男子はとてもやさしくていい人よ。大学を出た人材としてもいい人がたくさんいる。でも会社も育てなくなってる。女も男を育てなくなってきてる。舌がこえてる。耳がこえてる。目がこえてる。先進国の仲間入りといわれるほどの国になった。それがいまなにか当然となっている。自分を育てること。カレカノを育てること。人材を育てること。仲間が育てあうこと。作物を作ること。それをしないでいきなりすごい人をほしがる傾向があるわね。それはぜいたくってものよ」
「元気の回復ですか」
「人は元気を回復すれば一定幸せになる。でも元気が回復するためにはなにかに狂うしかない。でも子供の時の教育で十分に音楽とか歌とか物語とかに狂える経験がないとね。興味がわく教育が必要ね。なにより愛に狂う時に人はもっとも元気が回復して幸せになること。人と協力できるときが人がもっとも元気になりもっとも愛に狂えるといえるわね」
「組み合わせが奇跡を呼ぶと」
「エジソンは二千の素材から試して電球を作り電気を灯した。パンにハンバーグをはさんだハンバーガーはいまやマックが世界を制覇するいきおい。お湯と豆や葉の組み合わせでお茶やコーヒーとなす。それはいまもDVDの作り方もネットにおけるホムペやブログやツイッターにも生きている。音楽が楽器の組み合わせ。歌が物語が人の話が限られた言葉の中から奇跡を叩き出す。もちろん人もどうタッグマッチを組むかに未知の力を生み出す。ただ組み合わせを考えること。これがサウンドデュアルよ」
「生き物は実感物ですか」
「人は実感したものした力となすことができない。愛を実感するととても元気になるけど科学サイドというか合理主義者は愛を物理現象と呼ぶ。そのため元気が回復できなくて自殺していく。愛が見えなくて金しか見えないから自分の認める人たちと金を分けて生きている。たかさき先生はもう古くなったものはユーチューブで分かちあおうと提案しているけれども権利会社からはふざけんなと怒られている。わりと業界に長くいてののしられることも多い。ごみくずと呼ばれた声優さんもいた。ちゃんと音楽会社を紹介しといたわよ。でもね実感できない時人は愛のない行動をとる。いかに愛を実感させ人を元気にするか。それが私たちの仕事よ」
「偉い人ですか」
「なんか先生とか社長とか役員とか先輩とか肩書きを利用して自分の意見に従わせる人がいる。自分は知識も豊富だとても頭がいいのだってね。そういう偉い人が日本をだめにしようとしてる。いまの時代はもうツイッターやフェイスブックで意見が熟成したものが取り入れられていく時代よ。みんなで作ってみんなで分かちあってね。それが愛だし、それが民主主義ってものだわ。偉い人は金を分けられるのが愛だという。そのわりにあまり金を分けてはくれない。これからの時代は私たちが作り、私たちが金を平等に分けていって一緒に明日を生み出す世界になる。もう新時代になっているのよ」
「行間を読むですか」
「たかさき先生は文章の行間を読む。人生の行間を読むこと。それが歌や物語となる」
「悩みは矛盾が生み出すですか」
「心の中で自分の意見が対立する。この時悩みとなる。不幸な人はいつも自分の中の意見が対立している。幸せな人は自分の意見がいつも統一されてるので悩みがない。この意見の対立を統一する瞬間人は感動する」
「未来を感じることが面白さですか」
「そう。人は未来を感じる時に面白さを感じる。下ネタや欲望に訴えるのはその分低く評価されるきらいがあるわね。芸術性というものは人を感動させるものというものにはこの未来を感じさせるものがふくまれている」
「たかさき先生の処女作はセーラームーンですか」
「というかアニメのほうの展開はね。だからアニメと原作で違う展開のアニメも結構あってね。富野監督と組んだヴィクトリーではばんばん人が死ぬからふへーとなってね。まあ手塚先生の直系の弟子は見て覚えろだからガンダムのガの字も教えてもらえなかったけどね。宮崎監督からもナウシカのナの字もなくやっていたわね」
「たかさき先生を受け入れたとこだけが残ったですか」
「対立したクリエイティブな会社や人は壊滅していった。愛がなくなるとこんなふうになるんだってくらいどぎつく人をののしりだしてね。まるでドラマを見てるみたいだったな」
「たかさき先生に依存を深めているですか」
「うーん。東西統一革命を成し遂げた英雄であり、いままだ世界統一革命を成し遂げようとしてるたかさき先生。その実力はあらゆる点で上回っている。けれども年下に負けたことを認めたくないプライドが偉いさんにはあってね。ユーチューブも宣伝になるからアップしょうといってるんだけど売れなくなったら不安だ削除削除と。人望のあるお母さんみたいに守ってくれていた先輩はやめていく。残すところ実際のとこたかさき先生に守られている。けれども認めたくない。金をはらいたくない。名前すら口にしたくない。でも依存しているというみょうな関係性なのよね。素直にたかさき先生はすごいなあといえる人はまだ楽なんだけど人間の心ってパズルやなぞなぞみたいなものだからね。まあ言い方を変えればたかさき先生に権限は増えてないが責任は増えているということかな。人望のある人は誰でも大抵そうなんだけど役員などになってるわけじゃないんだけど頼りにはされてるということかな」
「ラブ派とアンチラブ派ですか」
「愛を信じる人たちと愛を信じない人たちが衝突している。テーマはなんでもいい。たかさき先生をどう評価することでもいいし福祉を手厚くするかどうかでもいい。そんな対立がいま世界中で起きている。ラブ葉をアカとよんでる。テレビでピラメキーノという番組見ていたらたかさき不幸になれたかさき不幸になれって呪われていてね。もう戦争ねこれは。たかさき先生はヒットラーでその支持する人たちはナチスだとラジオがののしる。愛は勝つと信じているけどもね。もう二度はない戦いよ。ようく見ておくことね」
「アニメがなくなる日が近いですか」
「団塊ショックからこっちたかさき先生の企画はほとんど通らなくなりつつありまたアニメで子供だスケコマシだと言いたい放題。ガンダムエイジのスタッフはガンダムをこわしまくってるしラジオの宣伝でブルーレイとDVDを買わないと呪うぞときた。DVD買わないと害をなすなんて礼儀を尽くす姿勢はどこかしら。忍たまで代がわりが起きたらたかさき先生と対立するようになってスタッフのあいだで戦争となって忍たまがなくなりかけた。時代劇が大河ドラマを残してほぼ壊滅したようにアニメもこのままいけば壊滅する日は近いわね。たかさき先生にはそれだけの固定ファンがいる。たかさき先生の企画ならば力を貸すというベテランも多い。そういうのすべて失うのはいたひわね」
「たかさき先生の情報源は漫画ですか」
「アニメとか漫画とか歌とかね。意味を見出すこと。ワンシーンごとに町並みのひとつひとつに意味を見出すこと。だから歩いているときも意味を見出す。どんな人がどんな意味をこめて作ったのか。それを丹念に見ること。その違いだけよ」
「奥儀ですか」
「ワンシーンごとに人生を感じさせること。唯一無二のワンシーンを積み重ねること。それだけよ」
「世界統一とはただ支えあうだけですか」
「なんかアラブの春みたいに全国家が変わるかのようだけれど、人ってののしって差別して無視して損してる部分てのがかなり大きくてね。ただ支えあうだけで人は幸せになりあう平和が手に入るのよ」
「感動ですか」
「感動は年齢に見合った純粋さに心の純度に応える感動の萌え度が作品に求められる。命や人生をテーマとしてると感動は深く幸せを呼ぶ傾向があるわね。命が生き生きとしてる様は感動を呼ぶわね。無限にある愛。億万通りの愛と愛の組み合わせで感動は生まれる。表現のバランス感覚。それが感動よね。なにが正しくなにがまちがっているのか。なにが愛でありなにが愛でないのか。なにが癒しでありなにが崩れていくことなのか。そういうバランス感覚が感動として人に感覚されるということかな。感動の試行錯誤。感動の探求の継続は力なり。感動は思考が加速したりゆっくりとなったりする時に起きる現象かな。やさしさが豊かに表現されてる時にも感動するわね」
「萌え死にですか」
「私が子供だった時にラジオで聞いた話なんだけどね。事故にあって死ぬかも知れない。家族に最後に残したメッセージがセイントセイヤの録画だけお願いだったそうよ。まあ助かって投稿ネタにしたんだけどね。いまどれだけの作品がこれを見なければ聞かなければ死ぬと思わせるほどの萌え死にさせるだけの力があるかしらね」
「ボランティアから始まった業界ですか」
「手塚先生がなかばボランティアで始めたテレビアニメ。儲からない仕組みがあった。最近でこそたかさき先生がいろいろと仕組みを変えてるけれどもつまり普通には利益目的に見られるけどその実、実際にはアニメーターによるボランティア精神が支えてきた業界なのよね。たかさき先生もそれだけ尽力して一円ともらってないわけだし」
「感動がテーマですか」
「感動がテーマの作品はメジャーでありまたより求められている。売れないDVDは簡単なこと。感動がない。それだけ言葉や映像としての動きに感動がない。それだけ作品の純粋さ、純度が高くあること。より作り手が純粋な存在であること。こういうことがひとつひとつ感動となって作品に出てくる」
「エヴァの使徒とは受験勉強ですか」
「わけがわからないうちにロボット教育を無理やりされて自分は中二から成長しないのだという当時の男の子に少年よ神話になれと歌ったたかさき先生。アニラジでも中二病対策の番組を企画していた。中二じゃ女は相手にしてくれなかったからね。いま大人になるという男が増えてきてじゃあ大人向けの番組をやろうかとたかさき先生が言ったらアニラジから強く反発を受けている。たかさき先生を独裁者扱いする番組もある。いやまあいいんだけどさ」
「富野監督が引退を表明してるですか」
「最近はフェイスブックでみんな情報がはやいから知ってるかも知れないけど。かなり私もくいさがったんだけれどもね。こうと決断したらそれをくつがえす人ではないからね。もういまのサンライズはいままでのサンライズではないわ。はばら監督も引退を表明していて説得したけどだめだった。ファフナーの新作企画してたんだけと。もうジーベックもどうなることか」
 たかしはため息をつく。
「この前のDVD作品、あまり好調じゃなくて。どうしたらいいですかね」
 たかしは愚痴混じりにそんなことをいう。
「あの作品の売りはなに」
「ボケとツッコミかな」
「ボケとはなに」
「常識からずれることでしょう。どうですかそれくらい知ってますよ」
「じゃあ常識ってなに」
「みんながあたりまえと思うことでしょう」
「あたりまえってなに」
「なんでしょうねえ」
「料理と掃除と人間関係のコツをいつつ述べて。社会主義の政策とは資本主義の政策とはなに。民主主義ってなに。歌をなんで聴くの。ドラマをなんで見るの」
「そんなの分からないですよ」
「原作通りにスタッフを管理するというのも監督だけれども、みんなの先頭をいく腕前がほしいところね。それには地道に努力しなくちゃね。だらだらしていて、いい作品が出来たり幸福になったりするものじゃないわ」
「努力くらいしてますよ。出来る限り試行錯誤してるんですから」
「知識と知恵と工夫は大事よねえ。知識とは自分が知らないということを知ることよ。生涯学習。生涯勉強よ。そうねえ、後はファンの声に耳を傾けるとか。庶民の声に応えない政治家や役人はだめだといわれる。猛烈にアタックして結婚しても、相手の声を聞かなくちゃ離婚する。お客様の声をリサーチしない企業はない」
「スタッフの話しを聞くとかファンレターとか感想ブログは読んでますよ」
「それはオープンな人ね。多数の人は黙ってるからねえ、意見を聞くのも大変よ。日本人の場の空気が読めれば求められていることが分かるんだけどね。世界のみんなの場の空気が読めると世界に通用するヒットになるわ」
「人の気持ちの分かる人になるとか」
「後は自分に聞くことね。自分以上の人間にはなれないから、これは大事なことよ。作り手には無数にある手数も、一般の受け手は面白いか感動したかだけの判断。神の一手を極めること。ファンの予想の上 をいかないとね。そこは勝負どこね。のたうちまわって、のたうちまわって、あがいてあがいてこの現実にあがくしかないのよ。変えてはいけないものがある。そのために変えるものがある。あなたはまだ若い。まずは自分をチェンジよ。いろいろ試行錯誤してこの五十年で自分をベストなとこまで変えていってね。少年よ大志を抱け。いつまでも心は少年よ。まあそこそこ頑張ってね」
「まあなんとかやってみますよ」
 たかしはそういって歩きさっていく。


 あるスタジオでたかしは作業している。
 隣の席の
男性の加藤が愚痴りだした。
「なんでこんなに納期に余裕がないんだよ。これも監督の采配かよ」
ーーうわー隣の席で嫌な雰囲気になってきたなあ。
 たかしは困っている。
「そんなこというもんじゃないわ」
 その隣の女性の綾野がフォローする。
「みんな苦しいのは同じよ」
「監督様の采配だろうっていってんだよ」
「やめなさい。自分の痛みを人にぶつける人は好かれる人にはならないわよ」
「一匹狼で結構だね。死にやがれ馬鹿監督が」
 加藤は席を離れる。
「ありがとうフォローしてくれて」
 たかしが感謝する。
「いいのよ。つらいのはみんな同じだからね」
「スタッフが幸福に仕事が出来たらいいのに」
「それは無理よ。大変な状況に残されてしまう人はいるのが現実よ。スケジュールのつけは一番よわいスタッフにきてしまうものよ」
 たかしに反抗する人もいたが、助けてくれる人もいた。
 それからもたかしは精力的に作品を監督して、名前の売れている監督の一人として君臨するまでになった。
 アニメファンで知らない人はいないというほどに。
 年齢は40代に入っていた。
 それでも作品を作る毎日だった。
 ある日、さやと帰りが一緒になった。
 外は真っ暗だ。
「もうアニメーター辞めるんだ」
 さやの話にたかしは驚かなかった。
 40代に入っていたさやは、作画監督としては体力的な限界を迎えていた。
「あやはまだ続けるって。かなこさんはプロデューサーになったわ。まだまだ二人ともいけそうね」
「いままでお疲れ様。おめでとうっていっていいのかな」
「ありがとう。出来るだけのことはしたわ。後は若い子たちに任せるわよ」
「これからどうするの」
「パートでもしながら生活するわ。貯金もばっちりあるから、生活は大丈夫よ」
「それは良かった。たまには遊びに来てくれよ」
「こさせてもらうわ。だってここは第二の故郷だからね」
「さやがいなくなると寂しくなるな」
「会いたければ会えるじゃない」
「アニメーターとしては最後だ」
「そうね。でも人は何かを卒業しながら生きていくものよ」
「そうかも知れない」
「たかしくんも監督頑張ってるね。なんでも出来るからって背負いすぎないで頑張ってね」
「ああ、分かったよ」
「今日は飲みましょう」
「そうだな。そうしょう」
 二人で静かなバーで飲んだ。
 とりとめもなく、話をしたたかしとさや。
 たかしには時間はゆっくりと流れているようだった。


 スタジオで作業するたかし。
「まだまだいくよ」
 たかしはスタッフにはっぱをかける。
 たかしの人生はまだまだこれからだった。
                    終。







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