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『12人の神様』
(初話・出会いと神様)
あたしは買い物を終え、部屋にもどった。
窓は暗闇をたたえている。
カーテンを閉めようとした時、空から光りの筋がひとつ。
流れ星。
流れ星が流れ落ちる前になにか願いごとでも。
ん〜と、
ん〜と、
ん〜と、そう。
カレができますように。
ぱんぱん。
ついでに手を打ちならした。
さて、テレビでも見て寝よう。
がらがらがら
窓がひとりでに開いた。
二十代くらいの男がひとり、部屋に入って来る。
言葉を失ったあたしを後目に、「よっ」と軽くあいさつ。
「オマエいま願いごとしたな」
あたしはなにがなんだかまだ状況が飲み込めない。
「彼氏が欲しいと願ったな」
え、えーと。そう、そんなこと願ったよ。
「おれさまがなってやる」
あんたが?
よく見ると赤い短髪に整った顔。
赤い、てかてかしたジャンパーと赤いマントに
赤いジーパンはいてる。
これはけっこういってるね。
でも出会いとしてはいまいち。
彼氏としてはいい線いってるのになあ。
もったいない。
いや、どうにかして手に入れたいなあ。
「ところで彼氏ってのにはどうすればなれるんだ」
男がそう言う。
よしよし、教えてあげよう。
「彼氏ってのは一緒に住んで、ケンカしたり、遊んだりするのよ。
まあ、一種の運命共同体よ
常に一緒に生活すんのよ。
あたしとね」
「そうかそうか、んじゃこれからよろしくな」
ああ、欲望に負けて変なこと言っちゃった。
「神様ゆるしてください」
「ゆるそう」
男は笑ってそう言う。
「なんであなたが許すの」
「だっておれさまが神様だもの」
「へーそうなんだ」
神様がいいって言ってんだから、じゃあいいわね。
「それじゃ、これからよろしくお願いしまーす。
あたしは小石川高等学園三年の如月(きさらぎ)きゅんっていいます」
「ああ、よろしく。
おれさまは灼熱の王の異名を取るレンって言うんだ」
そうして神様があたしの部屋にやって来た。
どきどきどき。
せまいあたしの部屋に二人っきり。
「お、同じベッドで眠りますか」
「そうしょうか」
レンはベッドに乗っかる。
きゃーっきゃーっきゃーっ。
どうしましょう。
据(す)え膳(ぜん)食わぬは乙女の恥よ。
やっちゃえやっちゃえ。
あたしはレンにいきおいつけて
抱きついた。
がらがらがら
窓が開く。
窓から男が入って来る。
窓から男が入って来る。
次々と男が入って来て、十人くらい入って来た。
そして口々に「わたしは神だ、願いを叶(かな)えよう」
とか。
「ぼ、ぼく願い叶えます」
とか言う。
総勢十二人の自称神様が「きみの彼氏になるよ」
と言った。
え〜と、十二人もいると壮観だなあ。
え、でも。
「ま、待ってこんなに選べないよ〜」
考えるのよあたし。
誰か一人を選んで、後は帰ってもらうか。
いや、全員いただいちゃってもいいわね。
なにせみんな若くて美形、いけてる、好みの
男性がこんなに付き合ってくれるんだから。
神様なんだから、何人と付き合ってもいいのよ。
「決めた、全員彼氏になって」
「あん、だめ」
「は?」
なんかこの連中、男同士でつつきあってる。
これって、なに。
「ああ、おれさまたちはみんな男好きでね、
一般的に言うと、同性愛でね」
「というと女性は」
「興味ないね」
「対象外です」
十二人みんなそう言う。
と、いうことは、あたしって女だから……。
え、趣味の男がこんなにいるのに。
全員ぴーっ?
あたしは真っ白になる。
そんなあたしにお構いなく、わいわい騒いでる十二人。
「……えれ」
「どうした、きゅん」
「みんなかえれ〜っ!」
「願いを叶えたらな」
十二人が口々にそう言う。
高校三年のあたしの夏。
あたしの部屋には男が十二人いる。
こんな人生もいい、はずないでしょっ!
「全員出ていけ〜っ!!!」
あたしの絶叫はしばらく続くのだった。
ちゃんちゃんっ
(第二話、レンの話・愛の魂)
「レン、あたしを連れてどこにいくの」
「言っただろ、きゅんに彼氏作ってやるって。
まあ、見てろって、いいヤツ捕まえてやるからな」
学校帰りにレンに腕を引っ張られて、なにかと思ったら、あたしに彼氏作ってくれるという。
繁華街に出る。
カジュアルな若い人、スーツ姿のサラリーマン。
色々な人たちがいる。
そんな中でも赤いジャンパーにマント、ジーパンに赤髪のレンはかなり目立つ。
だが、いがいと「あの人かっこよくない!?」とか「すごーい」とか、女の子たちがレンを視線で追う。
世の中変わったものが受ける時があるものである。
こんなののどこがいいのだろう。
きっと一晩でも一緒にいたらそれが解かるというのに。
人は外見に左右されるものだなあ、なんて思ったり思わなかったり。
陽が落ちるにつれ、まだらだった人混みも、じょじょに増えていく。
レンはずっときょろきょろしてる。
本気であたしの彼氏探してくれてるのかなあ。
「あの男はどうだ」
レンが指さす男は悪くないが、外見はレンとくらべると型落ちする男ばかりだ。
あーレンが彼氏でもいいんだけどなあ。
これで女に、あたしに興味持ってもらえればなあ。
と、横断歩道からやってくる男はなかなかのイケメンだ。
あたしがなにか言うより早くレンはその男に声をかける。
「人間、オレさまのものになれ!」
「ちょっと待てい」
キョトンとしたその男は無言で通り過ぎようとする。
レンはいきなりその男の首根っこ捕まえてなにかつぶやく。
その人はぼーっとしてる。
「なにしたのレン」
「この男の魂をロックした。
もうこの男はオレさま、レンの言うがままの存在よ」
「それで、あたしにゆずってくれるんでしょうね」
「バカ言え、オレさまがいただくんだよ!」
「話しが違うでしょ。
ゆずってくれないの。
あんた神様ならあたしの願いごと叶えなさいよ」
「んー解かったよ。
オレさまか、きゅんか、どっちがいいか選ばせてやる。
人間、おまえの心の声を聞かせろ!」
その人はゆっくりと、しかしはっきりと声を出す。
「ぼくは……真実の愛がなんだか探している。
それはつかんだと思ったらすぐに水のように流れていってしまうのです。
ぼくと一緒に愛を探して欲しい。
愛がなにか答えを教えてくれ。
それがぼくの欲する人。
それが最愛の人なんです」
レンが口を開く。
「あー、えーと……」
レンは頭を抱える。
バシン!
レンが手を鳴らす。
「おまえいいからどこへでもなりと行っちまえ!」
その男の人は歩き去る。
人混みに消えていく。
「まったくシラけるなあ。
なんだ、いまどきの人間はあんなヤツばっかりか」
レンは肩を落としてガックリしてる。
けだるそうなレンの瞳がなんとなく、あたしの心をどきん、とさせた。
「家に帰ろう。
また出会いがあるさ」
あたしはそう言うとレンの肩をたたく。
家に帰り、ドアを開けるといい匂いがする。
台所で少年が料理している。
神様の一人で、確かブックレストとかいう子だ。
小学生くらいで、丸いめがねをかけた子供に見えるが、
宇宙の創世から生きているのだそうだ。
ブックレストがおどおどと話し出す。
「ぼ、ぼく夕食作ってみたんです。
よ、良かったら、いかがですか」
ブックレストの料理をちょっと味見。
シチューかこれは。
なんかオレンジ色してるぞ。
「ん!」
これは……。
「んまい!」
舌の上に味が踊る。
これはすごい。
料理に感動するのってひさしぶり。
うわあ、将来料理人目指しちゃおうかな。
「それくらいうまいのよ!」
「は? え?」
あたしはブックレストの肩をたたく。
あたしは皿を三人分用意する。
「さあ食べましょう」
見るとレンとブックレストがいちゃいちゃしてる。
ブチッ
なにかあたしの中で切れた。
二階の窓を開けると、レンとブックレストをけり出す。
あーなんであたしには彼氏できないのよ。
くっそー、世の中のカップルよ不幸になれ。
なれなれなれ。
ガチャッ
レンとブックレストがドアから戻ってくる。
無言で三人でメシ食った。
夜はそうしてふけていくのだった。
あたしは、
あたしは不幸だーーーー! っっっ!
ちゃんちゃんっ
(第三話、トゥールの話・愛は夢のかたこと)
? なんだか朝だというのに空が暗いなあ。
街中は人通りもなく、暑い陽ざしがさんさんと……照(て)ってない。
暗い闇があたしの後をついてくる。
「ちょっと、誰なのこんなことすんのは」
「闇はあいさつする。きゅんは闇のことをトゥールと呼べ」
「そうでっか。それで陽ざしを防ぐためにこんな闇の壁を作ってくれたの」
「違う。闇は闇のみが存在。それいがいのなにものでもないのだ」
「あなたの、トゥールさんの姿だっていうの。この闇が」
「そうだ」
「トゥールもあたしに彼氏を作ってくれるっ願いごと叶(かな)えてくれるの」
「そうだ。きゅんという存在が対となる本質を一身するまで、
闇たるトゥールはきゅんの手となり足となろう」
「ちなみにどうやって作ってくれるのかしら」
「闇の中に入れ。きゅん、おまえの本質に迫れ」
「この闇の中に入れっていうの。トゥール、あなたの中に? 入るの?」
「そうだ」
あたしは少しとまどっていたが、勇気をふりしぼって闇の中に入る。
真っ暗だ。
音も光りも時さえ無くなったかのようだ。
しばらく歩くと誰かいる。
男の人だ。
二十歳(はたち)くらいの男の人がぼけーっと立っている。
短い黒髪。
ととのった顔立ち。
けっこういいじゃない。
「この人くれるの」
闇は静寂のままだ。
あたしはその男の人の手をつかんだ。
と思ったら転んだ。
そこに地はなかった。
男の人と闇の中に落ちていく。
ドサッ
茶色い大地に落ちる。
「あれ、ここどこ?」
見渡す限りの岩の原っぱだ。
「だいじょうぶか」
それは闇の中で出会った男の人だった。
手を貸してもらって立ち上がる。
見ると男の人は白い布を巻いた、
ギリシャ風とでもいうような服を着ている。
「ここはどこですか」
あたしは自分の声に驚(おどろ)いた。
なにかごつい声だ。
まるで男の声のようだ。
「ジョークはそれくらいにして、行くぞトゥール」
その人はあたしにそう言う。
「あなたの名前は?」
つい聞いてしまう。
「おいおい頭の打ちどころが悪かったかな。
おれはスタット。おまえの隊長だろう」
男の人……スタットの話しから察(さっ)するに、
いまは古代ギリシャが隆盛を放つ時代。
ローマ帝国の侵略と戦うのがあたしたちらしい。
スタットはあたしのことをトゥールと呼ぶ。
水面に映った姿は女のあたしなのだが、
スタットにはあたしがトゥールに見えるらしい。
これはトゥールが過去にいたということなのだろうか。
試しにトゥールを呼んでみるが返事はない。
スタットはパーマがかった短い金髪で、
ハツラツとしていて、
いいヤツだった。
ギリシャ軍との戦いにあたしは参加したのだが、
それは一度トゥールが通った道であり、
あたしは体の動くまま戦場を駆ける。
スタットはその功績によって全軍の指揮官にまでなっていた。
それだけでなく、国の権力も手に入れ、
絶対的な指導者になっていた。
「トゥール、これはどう思う?」
スタットはトゥールを参謀にして、
絶大な信頼を置いていた。
そしてこの気持ちは、
そう、トゥールはスタットを愛していた。
その気持ちを抑え、トゥールは参謀としてだけスタットに接した。
それでいいとトゥールは納得していた。
スタットは国では独裁を敷き、
ローマ帝国にも果敢に挑んだ。
トゥールも神ではなく、参謀として力を貸した。
結果は……。
火の海と化す街の中で、
スタットは血みどろでトゥールに抱きかかえられていた。
「トゥール……。生まれ変わったらまた一緒に……」
それいじょうスタットは口を開かなかった。
そしてスタットはいま現在の世に生きていた。
あたしの目の前にいた。
「どうしたきゅん。この男では不満か。
けっこうおすすめだぞ」
トゥールが、闇がつぶやく。
あたしは「いまいち趣味じゃないのよ」と言った。
「そうか、なら他のヤツを見つけよう」
その男の人は消える。
あたしは歩いて闇の外に出る。
夏の日差しがまぶしい。
「ねえトゥール、あんたはなんの神様なの」
「特に決まってはいない。
だが、力を貸すヤツが王になることが多くてな、
神々の中では闇の魔王と呼ぶ者もいる」
「いまはあたしに力を貸してくれてるんだよねえ」
「そうだ」
「じゃあ、いい男どんどん紹介してよね」
「わかった。次のおすすめを見つけよう」
街を歩いているとトゥールとは別の神様が歩いてくる。
確か十二人いる中でホウとかいう神だ。
「どしたのホウ」
長い金髪をかきあげ、ホウが言う。
「ブックレストが食事だから帰ってきてくれ、とのことだ」
「ありがとう。帰りましょ、トゥール」
「そうだな。きゅんがそう言うならそうしょう」
「よし、れっつごー!」
あたしたちは歩きはじめる。
雨が降り始める。
トゥールが闇をカサ変わりにしてくれる。
家までトゥールと、だべって帰った。
……あ、オチがない。これがほんとのオチなし、ちゃんちゃんっ。
(第四話、グレッサムの話・愛は魔法に占(し)めされる)
「我が偉大なる魂よ!」
なんか魔法帽のにいちゃんが、
あたしの部屋でなんか、うにゃむにゃ言ってる。
呪文?
とりあえずあたしはそいつにケリ入れる。
ゲスッ
あっいい音がした。
「なにをする」
振り返った顔は、結構カッコイイ男だなあ。
「あんたこそなにしてんのよ」
「きゅんに彼氏が出来るように魔法をかけていたんだ」
あー、そういや十二人の神様の中にこんなのがいたなあ。
「ところでなんで神様が魔法なんて使ってんのよ」
「魔法委員長とも言われる我が偉大なる魂は、
魔法の探求に時を見いだしたのだ」
「あっそ。それより彼氏は見つかりそうなの。
あんたらが紹介すんのはイマイチなヤツばっかりじゃない!
ちゃんとものになるヤツ欲しいのよね」
「我が偉大なる魂はきゅんの一生の一度の出会いを約束しょう」
「ほんとうでしょうねえ!」
「我が偉大なる魂はウソをつかないことを誓うだろう。
それでは召還(しょうかん)!」
バフッ
煙が部屋を一面をおおう。
「ケホッケホッケホホッ……」
なんだなんだ。
ベランダを開けると煙が晴れていく。
魔法陣が床に白い光りが上に輝いている。
魔法陣の上に黒い影がある。
それは人なのかな。
大きさは人くらいの大きさだが。
煙の隙間から男、精悍(せいかん)な男の顔が。
こういう男を待っていたくらいカッコイイぞう。
短い金髪は光りを反射するたび、
いままで見たことのない色の肌は汗ばんでいて、
おもわず笑いが出る。
クックックッキャーこの人はだきゃ〜。
「きゃ〜きゃ〜なにやってんのよグレッサムゥうぅうううう〜!」
「いやなら元の世界に戻すか」
「ちょっと待ったあ〜。
いいから。
この男いただくから」
あたしはその人に抱きつく。
ガバッと、その男の人は腰を沈めて頭をかく。
「うきっ! ウキキキキ〜!」
「サル?」
「原始人だ」
「そういうオチつけるなあああああああああ!!!!!!!」
あたしのケリをグレッサムは避ける。
なかなかやるな。
レンさえケリ落としたあたしのケリを。
「まあまて」
男が光りに包まれる。
「次の男を見よ。きゅん、
決して損(そん)はさせまいぞ」
「HAChaLAChaKUNIKUNIKUNIKUNI」
なんかグレッサムが呪文? な発音しにくそうな、
言葉をつむぎだす。
ボボン!
煙がふさふさしてる。
いやそんな感じ。
煙から出てきたのは……いや、もう期待すまい。
気にしないでここはグレッサムにケリを入れるのだ。
「ていっ」
グレッサムはケリをかわす。
「うわっ怖(こえ)ー女っ!」
その声の正体は……。
魔法陣の上には白馬に乗った王子様がっ!
王子はあたしにおびえているようだ。
なんでだろ?
あたしは王子様を抱きしめに走るが、
王子様はなぜか剣を抜くと、
あたしに斬りかかる。
「なにすんじゃおりゃ!」
二階の窓から王子をケリ落とす。
「なにあぶないヤツ出すのよグレッサム!」
「我が偉大なる魂はきゅんに彼氏を贈呈するぞ」
「ホントでしょうね。
次は無いわよほんとよ」
ボボム!
煙が晴れると……。
青いスーツ姿の男が横になって眠っている。
「さあきゅん。
眠りなる魂に目覚めのキスを」
「ふい? いいの?」
それじゃあいただきっ!
んちゅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん?
く、くちが離れねえ〜。
「ん……んぐんぐぐぐぐ……」
グレッサム!
どうしてくれんのよ!
ちょっと!
「人は人生で三度試されるという。
いまがその時だ。
乗り越えろきゅん!
我が偉大なる魂もきゅんの魂の救済を願っているぞ」
てめえコラ!
グレッサム!
こんにゃろおおおおおお!!!!!!!
う、動けねええええええっっっっっっ。
「いま原因を探るからな」
そう言うとグレッサムはあたしのパソコンの電源を入れる。
ブウウン……インターネットで検索してるグレッサム。
「おっこんなページが」
まったく関係ないページを開き始める。
こっちは動けねえってゆーのにいっ。
「ん、わかったぞきゅん。
思い出した」
だったらインターネット関係ないだろ。
「ふんがふんがふん〜」
「なに感謝の言葉はいらないよ。
我が偉大なる魂は当然のことをするだけだ。
その男は愛ある女に目覚めるが、
愛なき女は呪いによりミイラとなる、
という魔法のかかった男でな」
「ふんがふんがふー」
どうすりゃいいのよ!
「愛を込めてキスするんだ」
えーと、愛ねえ。
なんだそりゃ。
どうすれば、えーと。
愛だ愛だ愛だ愛だ愛だ愛を込めるう…………………………………………。
あーだめだあ気が遠くなるううう。
力が吸い取られるるるるミイラはいやーいやーいやー。
いや、
このまま終わってたまるかああああああああ!!!!!!
あたしはこの男を殴(なぐ)る。
殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る。
ドカバキドスガスグスドムガヅドスドドド
「あいたあ!」
男が起きた。
殴った顔はボロボロだ。
魔法陣に沈みながら戻っていく男。
「すばらしいきゅん。
きみの生還を我が偉大なる魂も喜んでいるぞ。
さっそく次の男を召還しょう」
あたしのケリがグレッサムをとらえる。
手応えあり。
吹っ飛ぶグレッサム。
そのまま空へ飛んでってしまう。
誰もいない部屋。
魔法陣が光り出す。
煙の後にイケてる男が!
いただきっ!
なんか変なとこないかな。
ないな。
よっしゃ男を抱きしめる。
「あれ、グレッサムくんはどこですか」
「あなたグレッサムさんの知り合いなの?」
「グレッサムさんの……、彼の彼ですぼく」
あたしは間髪入れずに男を部屋からケリ出した。
ちゃんちゃんっ
だからオチつけんな−−−−−−−−−−−っっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!
ちゃんちゃんっ
(第五話、ジェンの話・愛はどこまでも)
あたしは道を歩いている。
昼過ぎの街は陽光に輝いている。
だるい夏が過ぎる一瞬の日のこと。
前をがたいのいい兄ちゃんが歩いている。
白銀のジャンパーに銀の髪。
なんか銀のジージャンてなんか
違和感バリバリの格好のこの人。
そういや神様くんの中にいたなあこんなの。
確かジェンとかいったか。
ジェンは突っ走った短い髪をかき上げると、
歩いてるイケてる青年に近づくと、
おもむろにワシッと股(また)をつかんだ。
「ああん」
その青年は倒れるとビクビクしてる。
「なにしてんのよっ!」
あたしはジェンにつめよる。
「なにって快楽に包まれた時を包むのだ」
「どうしたのこの人」
「イカしただけだ」
なんか股が濡れていく。
「なにをしてますか、あんたはジェンは!」
「この男が望んでいたのだ。
この男が欲しいのか」
「いやそういうわけでもなく」
「じゃあ」
そういうとジェンは片っ端から男の股をつかみ、
倒れる男が道に魚みたいにビチビチしてる。
あたしには関係ないのだが、
こうもいい男ばかりとは。
も、もったいねえ!
一人くらい持って帰っても誰も気づかないかな。
もらっとくか?
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや。
ここはジェンを止めないとな。
とりあえずジェンにケリ!
ゲスッ
金ケリが決まる。
神様だしもう一回。
キンッ、キンキンキンキンキン!
金ケリが六回決まる。
ジェンが振り返り、こちらを向く。
そして一言。
「あん、感じちゃう」
そしてまた男を触っていく。
またビチビチしてる男がそこら中に。
帰りにまだいたら二、三人持っていこ。
とりあえずジェンにキックキックキックキックキック
キックキックキックキックキック。
振り向くジェン。
「ああんもっとお!」
だめだこりゃっ。
神様なんだからこんなことじゃだめだ。
攻撃がだめならくすぐってみる。
「ゲラ゛ゲラ゛」
笑ってる。
だめだ。
投げやりな快楽の反対は愛よ。
ってそんなもんで神が倒せるかあぁああああああああああ!!
「ジェンあんたずいぶん快楽に自信があるみたいじゃない」
「そう、人は私を快楽王と言う」
「でもね、人をイカせられても自分はどうなのよ」
「自分も例外ではない」
「あっ! あほうどりが
機関銃とフランスパン持ってやって来る!!」
「なんだって!?」
空を見上げるジェン。
あたしはジェンの手をジェンの股間に持っていく。
「ああん!」
ジェンは倒れるとビクビクしている。
勝った!
今日も有意義な日だったな。
るんるんるんるんるんるんるんるん。
あ、そうそうこれを言わないとね。
チャンチャンッ!
(第六話、ココロの話・愛は心の中に響く)
高校から帰ってくると、部屋に男が一人。
ちょこんと座ってテレビ見てる。
あー神様の一人にこんなのいたなあ。
名前は確か「ココロ」ココロは振り向く。
「どしたの。
なにか用かい」
「……」
ココロは黙っている。
「ココロは無口なんだよ」
レンが後ろにいた。
ココロが立ち上がるとあたしの学生服を引っ張る。
「なにすんのよ」
「ココロが男見つけてやるってよ」
レンが補足する。
「あんたがねえ」
ココロはひょろっとした中学生くらいの体型に幼さが残る顔立ちだ。
どかこたよりなげだ。
イケてる男には違いないのだが、どうにも頼りない。
あたしはココロと街に出る。
ココロはイケてる男を無言で呼び止めようとする。
つかまらず、あわわとするココロ。
そりゃそうだろう。
「なんだよだめじゃん。
オレがつかまえてやるよ」
レンがあたしの前に出たところをあたしはレンの足をケリ倒し、
倒れたレンに肘鉄(ひじてつ)入れる。
「ゲフッ」
レンがぴくぴくしてる。
ココロがさらにうろうろおどおどしてる。
「もういいからココロ」
と、ココロは踊り出す。
それがまたすばらしい動きだ。
たちまち通りは人だかりが出来る。
踊りを決めて立ち上がったココロに拍手喝采が起こる。
ココロはイケてる男の手をつかむとあたしにどう? と目で言う。
「ココロ。あなたがいいな」とあたしはココロに告げる。
照れてるココロ。
あたしはココロの首に手をまわすとキスしょうとするあたし。
ぷぷぷ
キスをした。
レンがココロにキスをしてる。
ココロも満面の笑顔だ。
レンとココロの腹にヒジ鉄くらわせて、二人が腹かかえてるのを横目にあたしは家への帰路についた。
さてね、ちゃんちゃん
(第七話、ブックレストの話・愛は言葉の羅列にて本となす)
夕闇の街を歩いていると本を手渡される。
本を差し出しているのは十二人の神様の一人ブックレストだ。
外見は小学生みたいだが、これで数えきれないくらい年月生きているらしい。
「どうしたのブックレスト。
本なんか差し出して。
これを読めっていうの。
あたしに?」
「う、うん」
ブックレストがうなずく。
とりあえず本を持つ。
と、イケメンの男があたしを呼び止める。
「その本おもしろいよね」
「え、そうですね」
よっしゃ好みの男だ。
「読みましたか」
え〜と読んでないけど。
「読みました!」
へっへっへっ。
お近づきになるには読んでないとね。
「赤い男がカッコイイよねえ」
「そうですねえ」
うなずくあたし。
逃がしてなるものかイケメン!
だが三分も話すとボロが出た。
「なんだ読んでねーんじゃん!」
男は去っていく。
くっそーなんだよ本くらいいいじゃねーか。
くそ〜。
「おっその本おもしろいよねえ」
またまたイケメンで好みの男。
「そうですよねえー。
おもしろいですよねえ」
今度はボロ出さないようにせねば。
「レンとかココロがいいよね。
でもブックレストがいーやつでさあ」
? なんか聞いた名だなあ。
「まさかきゅんとかいませんよねえ」
「それ本の主人公だろ」
「あ、あはは……」
「きみなんかきゅんに似てるねえ」
「まあ一応本人ですから」
街がざわめいた。
イケてるにーちゃんたちが寄って来る。
「きみがきゅんか」
「スゲほんものかよ」
「話しを喫茶店でしょうよ」
「きみの話しが聞きたいな」
「やっぱり神様はいるよね」
なんだなんだこれは。
あたしは人混みをかきわけ、ブックレストの前までいく。
「ちょっとブックレスト。
これはどういうことなの」
「ぼ、ぼくあのきゅんが主人公の本を書いたんだ。
この本は現実を変換する世界がその……。
き、きゅんがもてたらいいなって思ったから、その、あの」
「あーいーわよ。わかったわかった」
「ねえねえこの本きみ読んだんだろ」
男がそう言って来る。
「読んでねーよ! うせろボケェ!」
あたしの声とケリにすごすごと去るイケメン!
くーもったいない。
あたしはブックレストに向き直る。
「ご、ごめんなさい、きゅん」
「いーから。……ブックレストはらへったから、
メシでも食いましょ」
あたしはブックレストと歩き出した。
二人で屋台のラーメン食って家に帰った。
そんだけ、ちゃんちゃん
(第八話、ホウの話・愛はケリをかわす。)
「なにを読んでいる」
書店で神様のひとりホウとか言ったか、金髪の二十代くらいの男があたしに話しかける。
「ボーイズラヴだけど」
ホウはめがねをとりだすと顔にかける。
「いかんな」
「は?」
「年ごろの女がそんなものを読んでちゃいけないと言っているのだ」
「うっさいわね。あたしがなに読もうが神様には関係ないでしょ」
「人は理性によって世界の一部と化すのだ。
現実のことわり無くして秩序はない。
人よ秩序たれ」
「んじゃあ男紹介しなさいよ」
「それは考えている」
ホウは分厚い本を出す。
「正しい交際は秩序の中に生まれる。
きゅんは男をあなどってはならぬ」
「それで?」
ホウは街を歩いている感じいい男(ヤツ)の足にスライディングする。
転ばした男は襟首(えりくび)つかんで引きずってくる。
「ほら男だ」
「どこが秩序なのよ!
まあいいか。
それでどうすんのこの男」
男はジタバタ、ホウから逃げようとしてる。
「まかせてくれたまえ」
ホウは男になにかささやきかける。
「なにしたのホウ」
「うん、男を愛する方向を定めた」
「それであたしは」
「あ、ああそういやそうだな。
……よし、三人で散歩でもするか」
「あんたね、いまどきの女が散歩で満足できるかあ!」
「そうか。
最近の子は進んでるんだな」
ゲスッ
「なぜケる」
「いやなんとなく」
道を探すまでもなくまあ歩道をてくとてぽてと突(つ)っ走(ぱし)る。
ダッシュスマッシュランナウェイ!
「って、なんで走るのよ!」
「いやなんとなく」
三人は突っ走る突っ走る突っ走る。
「なんだろう」
なにか風景が光りに包まれていく。
「光速を越えたな」
あ、あたしは子供だ。
赤んぼだ。
やさしく世界はあった。
あたしは立ち止まる。
ああそうか人が生きるのはだからなのだ。
「おや、胸で青く光る玉がある」
いつのまにか元の世界にいる。
「よしっ!」
ホウが満足気にうなずく。
「のびたぞ」
感じのいい男の人がのびてる。
「さあどうするきゅん」
「あーうん、楽しい散歩だったわよう」
あたしはそう言うと帰路に帰る。
「おい!」
ホウの声どこ吹く風。
あたしは高鳴る胸とまた歩いた。
ああ青空(あおぞら)青空ちゃんちゃん!
(第九話、コンゴウの話・愛は金運かなと空を見る)
街を歩いていると大男がいる。
ごつい男は確かコンゴウとか言う神様の一人だったか。
「よお、きゅん」
「あらこんちわ〜」
「男は出来たか」
「うっさいわねえ」
「男は金ができれば自然とできる」
「はあ?」
「ほい」
と、コンゴウが右手を開くと一万円札の束がひとつふたつみっつ!
わ〜現物は初めて見た。
「おい、そこのやつ」
イケてる男をコンゴウが呼び止める。
「ほれ、三千万やるから、きゅんとつきあえ」
歩き去るイケメン。
変な人を見る様子だ。
「あー、ケタを間違えたかな」
コンゴウはさらに札束を山と出す。
あたしが埋まりそうなほどの札束。
いくらだこれ。
「わあー」
二人組の男が見てる。
「いらないかい。話しを聞きたまえ」
コンゴウが呼び止める。
「え、くれるの」
「ばーか、札束のおもちゃだよ。テレビかなんかだろ」
そう言って歩き去る二人。
「まだ少ないか」
コンゴウはさらに札束を出す。
札束。
札束。
札束。
一面は札束の海だ。
あー金にうもれて死ねるなんてし、あ、わ、せ、なわけあるかい!
ガバガバ
あたしは札束をかきわけて札束の海から頭を出す。
「ぶはあっ!」
「きゃんきゃん!」
あ、犬もおぼれてる。
「まだ足りないのか」
コンゴウ発見。
あたしはコンゴウに向けて犬を投げる。
「ガウウ!」
犬がコンゴウにかみついた。
「うわあああああ」
コンゴウの声に札束の海が竜巻となってすべてをのみこむ。
うわわわわわわわわ。
ごぼぼぼぼぼぼ……
意識が遠のく。
「えーんえーん」
どこかで誰かが泣いている。
ここは平原。
緑の草っぱら。
白のワンピースの少女が泣いてる。
「どうして泣いているの」
あたしは少女に聞く。
「男の子たちがあたちをいちめるの」
「そんな男の子ぶっとばせ」
「そんなー」
「女は強くならなくちゃいけない」
「そーなのー」
「そうよ。誰よりも強くなって、誰よりも好きな子を見つけるのよ」
「うんっわかった」
女の子は駆けていく。
いいことしたなあ。
いやあ、あたしもすてたもんじゃないね。
と、気づくとイケメンの男があたしを助け起こしていた。
「だいじょうぶかい、きみ」
「え、ええだいじょうぶ……ああ、めまいが」
「だいじょうぶかい、家まで送ろうか」
しめしめ。
「お願いします」
「よいしょ」
あれ、ずいぶんごつい体格だなあ。
あたしはコンゴウにかつがれていた。
「あれ、いい男は?」
「あー、金ならやっといたぞ」
「あんたねえコンゴウのばかーっ!」
「じたばたするな」
「あー、今日も男にありつけなかったなあ。
もうへとへと」
ガスッ
あたしはコンゴウにひじてつくらわす。
あたしを降ろして頭かかえてるコンゴウ。
「なにをする」
「ちょっとお金出して」
コンゴウは札束ひとつ出す。
あたしは札束から一枚抜くと歩き出す。
「今日はおいしいもの作ってあげる」
「それは楽しみだ」
コンゴウと歩き出す。
目指すはスーパーだ。
まあ、そんな日があってもいいよね。
じゃあいつもの。
ちゃんちゃん
(第十話、クェイクの話・愛は欲望のソナタに眠る水)
「はらへった」
クェイクというふとった神がそういう。
「なによ。なにか食べたいものがあるの」
変わらず、にぎわいに満ちている。
「これでいい」
そう言うとクェイクはカップルのそばでなにかを口で吸引する。
とたんにカップルはケンカをはじめそれぞれ去って行く。
「なにしたの」
「これがうまいんだ」
クェイクの腹がふくらんだようだ。
えっちなビデオ店に入ろうとした男からもなにか吸引する。
男は肩を落とすとえっちな店に入らずに去って行く。
これはつまり欲望を食べているのかな。
「まだ食いたりない」
クェイクはあたしに向き直る。
「きゅん、おまえたくさん欲望持ってる」
クェイクがあたしの欲望を吸引する。
グゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
男とあーしたい。こーしたい。
男にかこまれてあははははははうふふふふふふ。
あたしの男への渇望が消えていく。
あーそうだ。
人は清く正しく生きていくべきだと思います〜〜。
ってちょっと待て!
男があたしにはいないのよ!
男がほし〜ほし〜ほし〜負けるかこの神はあ〜!
グゴゴゴゴゴゴゴゴ
クェイクはどんどんあたしの欲望を吸う。
あたしはあたしはオ・ト・コほしい〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!
クェイクの腹が巨大になる。
それでも吸引は続く。
クェイクの息がつまった。
一気にクェイクの口から腹の欲望がすべて吐き出される。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ
その夜、カップルはラヴラヴだったそうな。
だからあたしの彼はどこなのよ〜!!!!
オチより男よこせ!
ちゃんちゃん
(第十一話、リーンの話・愛はその表情に眠る)
「きゅん、力を貸そう」
確かリーンとか言う神様があたしにそう言う。
リーンは光りに当たると虹色に輝く腰まである髪をなびかせている。
リーンは絶世の美女のような美貌をもっている。
これで男とは思えないほどだ。
リーンはひざまである白いコートに身を包み、黒いスカートを
はいている。
リーンは黄金の装飾品を腰となく腕となく首となくたくさん
つけている。
夕方の街にリーンとあたしはいた。
「幻想の雷!」
ババシン!
あたしの体に光りがいななく。
あたしを見た歩いてる男がみんなあたしに寄って来る。
「彼女一人? 一緒に食事でもどう」
「男いる? ねえねえ」
「デートしょうよ」
「お茶しない」
複数の男性にとりかこまれるあたし。
「ど、どうなってるのよこれは」
リーンはすましてこう言う。
「男の理想の姿に見えるようにした。きゅんはいまもっとも
男にもてると状態だ」
「え、あーそう。それはいいわね。よりどりみどりってわけだ」
あたしは男に向き直る。
「みんなデートしましょうー!」
あたしと多数の男はぞろぞろ歩いていく。
と、あたしの女友達が歩いてくる。
「やっほー。れむ。学校帰りなんだ。一緒にお茶いこうよ」
「あんた誰? あなたなんて知りません」
れむは歩き去る。
「どういうことよリーン」
「いまのあなたをきゅんと認識できないのね。それは家に
帰っても同じこと」
「それじゃ意味がないじゃないの」
「きゅんが求めているのはもてることだろう」
「これじゃ家にも入れないじゃないの」
「それじゃやめる?」
「あーそれはせっかくもててるのになあ。もったいない」
「デートしてからもどそうか」
「あーそういうのありなんだ……。でも、まあ、いいや。
元にもどして」
「いいのきゅん?」
「うーん、いいよ」
リーンが手をふりかざす。
「あれ、さっきの子はどこいったのかな」
男たちは理想の女性を見失い、去っていく。
「もったいない」
リーンがそう言う。
「そうね。でもまあ、あたしを好きになってくれる人をね、
探すのよ」
あたしは笑ってそう言う。
「そういうの好き、だな」
リーンがそう言って笑う。
「そっか、今日はありがとう」
あたしはリーンと帰宅への道につく。
「自分の魅力をみがくわよ!」
夜が暗闇に包まれていた。
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