名探偵ピンじろうシリーズ
10本足の怪物

名たんていピンじろうに挑戦!

最優秀作品
胡田さんの回答


 犯人について最初に一つ言っておくと、最初の三件の事件の犯人とダイヤ事件の犯人は別人で、事件も無関係です。
 ピン次郎が言うように、ダイヤ事件の犯人の目的はあくまで金であり、金を手に入れるために人を殺す必要などどこにも無いのですからそれは明らかです。
 さて<ダイヤ事件>の犯人ですが、これは単刀直入に言うと最初にピン次郎に事件を持ち込んだ男です。名前はわかりませんが。
 そもそもなぜ実績も何も無く頭の回転のにぶい新米探偵に事件を持ち込んだかというと、それはピン次郎が字水みよたの隣人だったから、そして頭の回転がにぶそうだったからです。
 犯人は三件の一見無関係と思われる殺人事件に、ある日一つのミッシングリンクを見出したのです。そして、そのミッシングリンクこそが字水みよたでした。これが恐ろしい事件の始まりでした。
 三件の殺人事件の背景にあるおぞましい事実――それはホモセクシャルである字水みよたをめぐる泥沼の五角関係でした。五角関係とは、字水、田川、吉田、理田、田中の五人を巡る関係です。
 字水が薔薇族であるという根拠をいくつか挙げます。
 まず一つ目に、ピン次郎が字水の家で見つけた肌色の絵の具らしきもの――それは絵の具ではなく化粧を落としたものだったのです。
 二つ目に、ピン次郎が風呂だけならまだしもトイレにまで一緒に入ってくることを許したこと。これはもうホモでなければなんなんだという感じです。
 三つ目に夜中に字水を訪ねてきた男(しかも彼は後に殺されている)です。加えて言えば、その光景がピン次郎の風呂の窓から見えたということは、逆に言えば字水の家の窓からピン次郎の入浴姿が見えるということです。何という恐怖。
 また、これはやや先走りな推理かとは思いますが、字水の源氏名は<たみよ>です。これは<みよた>のアナグラム(笑)です。最初の三件の被害者の名前の頭文字を並べると――<たみよ>になります。<たみよ>とは字水が幼いころに亡くした双子の妹の名前です。字水の幼い心はその悲しみに耐え切れず己の心の中にもう一つの人格を作り出してしまったのです。それがいつしか肥大化し……字水は男の肉体を求め始めたのです。
 さて話を戻しますが、真犯人である<事件をピン次郎に持ち込んだ男>(長いので以下<男>とします)はそのミッシングリンクに気づき、事件の背後関係を調べ上げ、三件の殺人の犯人を田中だと特定しました。そしてそのことをネタに田中を脅迫し、例の10本足の怪物を意味ありげに各地に出没させたのです。当然捜査は10本足の怪物のために混乱しています。字水みよたの周辺に何かあると思い込んだ捜査陣とピン次郎はまんまと<男>の策略にはまったのです。
 さらに田中は<男>に命じられて、ダイヤ博物館からダイヤを盗み出しました。これならアリバイもくそもありません。<男>も田中もノーマークですから。
 次はいよいよUFOの正体です。UFOのことを推理するにあたって重要な伏線は、このファンタジー世界(笑)では《ダイヤは光る》という事実です。そう、UFOの正体は空飛ぶダイヤです。
 <男>は田中がダイヤを盗み出したのに成功したと聞き、田中と南町三丁目で落ち合いました。そして、その場で田中を殺してダイヤを奪ったのです。だが、ダイヤをもってのこのこ歩いていては見つかってしまいます。そこで、<男>は以前から暖めていたある作戦を用いました。その作戦とは――<シーソーの原理作戦>です。そう、ダイヤは空を舞ったのです。それこそがUFOの正体です。10本足の下駄――あの二枚の長い板をクロスするように置きます。すると、下側の下駄が支点になり、上にのった下駄がシーソ−、いや投石器のような役割を果たすのです。ここで思い出していただきたいのは、ダイヤ盗み事件の前日にもUFOが飛んでいるということです。これは<男>がおそらくダイヤと同じくらいの重量の石を袋に詰め、袋に蛍光塗料を塗って飛ばしたのでしょう(夜中の実験では石の入った袋の軌跡がはっきり見えないため蛍光塗料を塗った)。

 僕からのコメント

 いや、これはもう素晴らしいの一言につきます。なにが素晴らしいって、僕が用意した真相をことごとくはずしていながら、しかし僕の真相よりもずっと面白くて、しかもそれぞれの手がかりがしっかりと繋がっているんだもんなあ。うーん、やられた。
 とくに、「字水ホモセクシャル説」には脱帽。そのように推理する根拠も説得力あるし、そこに事故死した妹と、被害者の名前に隠された暗号(このアナグラムを指摘された方はかなり大勢いらっしゃったのですが、これは意図的に仕掛けたものじゃなくって、まったくの偶然の産物であります(笑))を上手に絡めてきたあたり、うーーん、すごい。



 

この物語についての解説