利益山 桂林坊(総社市南溝手169)

本尊 薬師如来

本尊・薬師如来が伝える現世利益の信仰

 願満寺同様”氏寺”の形態を残していのが利益山桂林坊である。ここも観音寺の観音寺の真鍋住職が兼務している寺院で、同寺と満願寺からは500メートル程度しか離れていない。のどかな田園風景の中に、残されたトタン葺きの素朴な伽藍が参拝者の心を和ませてくれる。
 同寺も開基と沿革は不詳である。『吉備郡誌』の「江戸時代の仏閣」の項目に登場するぐらいの記録しか残っていない。しかし、田圃の畦道を歩きながら、同寺に向かう途中、地蔵尊がたっており、古来より子々孫々に亘って受け伝えられた人々の篤い信仰心がしみじみと伝わってくる。
 同寺の本尊は、”お薬師さん”の愛称で親しまれている薬師如来である。薬師は医者を意味し、その名の通りあらゆる病気を治してくれる仏さまとして、古来より大衆の尊信を集めている。この薬師如来は仏になるために十二の大誓願はいずれも人間の現実に関わるものばかりである。
 このように、薬師如来は、あの世ではなく、この世で現に生きている人間を護ってくれる”現世利益”の仏さまとして、広く信仰を集めることとなった。縁日は八日で、全国各地で賑わいその信仰が広まっていった。
 静かな農村風景中に佇むと、文化の香り高い吉備の人々が”お薬師さん”の信仰を求めて、参拝したんだろう情景を彷彿させてくれる。
 しかし、多くの寺院同様にここにも栄枯盛衰がある。一時、無住もあった。しかし、その中でも、備中国分寺の住職らの法燈護持の念によって受け継がれ、現在に至っている。

『高野山真言宗備中寺院めぐり』より