禅陀山 東前寺(新見市大佐田治部5533)

本尊 大日如来

開基 大同二年弘法大師

中興 建久元年宥長法印

行基菩薩が開基した、断崖絶壁に建つ観音堂

 新見市からだと国道180号を高梁市へ向かって約五`走り、川合という地から県道422号を北東に向かって走る。この道は中国地方の中、子坂部川沿いに伸びている。春は青葉、秋は紅葉が美しい。その川を関止める小坂部川ダムによってできたのが、美穀湖である。この美しい自然に囲まれた湖を見おろすかの如く甍を垂れているのが禅陀山東前寺である。大宇宙自然の偉大さをあらためて感じさせてくれる霊場である。
 東前寺は大同二年(807)に弘法大師によって開山されたことになっている。しかし、伝説によると、行基菩薩が赤馬に乗って東禅寺発祥の地に来たと伝えられ、一時期、山号を「大場山」と称していたといわれている。大佐町から新見市一帯の寺院の縁起には、行基菩薩が登場する寺院が多く、また、弘法大師が留錫した記録が残っていることから、霊地として開かれた地に、後に弘法大師が錫を留め開山したものと思われる。いずれにせよ、古来より霊地として信仰を集めていたことが想像される。
 同寺境内には本堂、庫裡、稲荷神社の伽藍が整然と並んでいるが、西側には断崖絶壁が迫ってくる。そのちょうど中間に観音堂が建っている。建っているというよりも、誰かが投げ入れたような感じで、ここが行基菩薩によって開かれたという東前寺発祥の地である。堂内には馬頭観音菩薩を安置し、断崖絶壁には、馬の蹄跡が残っており、伝説を証明付けている。
 また、東前寺発祥の地周辺には、「たたら製鉄」の跡地が二ヵ所も残されている。かつて、ここの鉄は新見庄から京都・東寺へ送ったとされており、中央を支えた地方寺院の拠点であったことも窺える。
 建久元年(1190)、宥長法印によって中興され、二十五菩薩練供養会式も行われるなど、今日にその法燈を伝えている。

年中行事

1月 年頭護摩祈祷 8月 施餓鬼供養・水子供養
3月 春秋彼岸会 9月 春秋彼岸会
5月 二十五菩薩練供養会式 11月 稲荷大祭
7月 本尊会    

『高野山真言宗備中寺院めぐり』より