ヴェルディ : 歌劇『ナブッコ』 序曲

イシュタル門の牡牛(バビロン出土)ベルリン美術館蔵  スサ「近衛の射手」ルーヴル美術館蔵  バビロン宮殿「イシュタール門」(復元)ベルリン美術館蔵  行列路の獅子(バビロン出土)ルーヴル美術館蔵
 ナブッコ(ナブコドノゾル又はネブカドネザル二世)は紀元前604年から562年まで実在したバビロニアの王で、エジプトとシリアを支配下に治めました。しかし、その晩年は暴政を極め、奇病にとりつかれて最期を迎えたと旧約聖書に記されています。このオペラは1万人を超えるヘブライ人をバビロニアに連行、幽閉した史実を背景として、暴君ナブッコと彼が奴隷に産ませた娘アビガイルレの野望、ヘブライの神による奇跡と救済を描いたものです。

 物語は、ヘブライ人の都イェルサレムにナブッコが攻め入り、ヘブライの神殿を焼き払うことから始まります。その後、ヘブライ人をバビロニアに補囚したナブッコは自分の宮殿に戻ってヘブライの神を冒涜、その時雷鳴が轟き、ナブッコは発狂して倒れます。この機に乗じてアビガイルレは王座につき、ナブッコと彼の実の娘でヘブライに改宗したフェネーナ及び捕らえたヘブライ人を処刑しようと目論みます。しかし、間一髪でナブッコが正気に戻って王座を奪回し、ヘブライ人を解放して幕となります。なお、アビガイルレは自ら毒を飲んで死にます。

主な登場人物

【ナブッコ】バビロニアの王
【イズマエー】ヘブライの王の甥でかつてバビロニアで捕虜になっていた時にナブッコの娘フェネーナに助けられた。後にヘブライの捕虜になったフェネーナを救ったためヘブライの同胞から非難されることになる。
【ザッカーリア】ヘブライの祭司
【アビガイルレ】ナブッコが奴隷に産ませた娘。バビロニアで捕虜となっていたイズマエーレを密かに慕う。自分の出生を知ったことが彼女の人生を狂わす。このオペラで死ぬのは彼女ひとりだけ。
【フェネーナ】ナブッコの娘。かつてイズマエーレを助けたことがある。その後、ヘブライの捕虜となり、イズマエーレと再開し、互いに愛し合うようになる。バビロニアの人でありながら、彼のためにヘブライに改宗する。
【ベルの大司祭】ナブッコに反逆して王になることをアビガイルレに勧める。


 序曲はオペラから5つ旋律を引用してつくられています。最初のトロンボーンとチューバによるコラールとそれに続く中低弦による部分は序曲用に作られたものです。

□ Allegroで奏される最初のメイン・テーマは、第1幕で祖国を裏切ったイズマエレがヘブライ人に罵られ、呪いをかけられる第2幕第2場のシーンの音楽です。「呪われたものは同胞ではない」などと男声合唱が緊張感のあるppで歌い、テナーのイズマエレが許しを乞うところです。次第にクレッシェンドしてヴェルディらしい男性的な世界を作り上げます。

□ 3/8 Andantinoは去る7月の秋川の合唱祭でも演奏した合唱曲「行け我が思いよ、金色の翼に乗って」のテーマです。これは第3幕第2場で、捕囚となりユウフラテス河畔で鎖に繋がれて強制労働をさせられているヘブライ人たちが故郷を思い、神の救済を待ち望んで歌われるものです。ヴェルディがこのオペラを作曲した当時、オーストリアの支配下にあった北イタリアの人々を奮い立たせた曲として知られ、オペラの合唱曲として最も有名な曲のひとつに数えられます。

□ 再びAllegroのメイン・テーマが戻った後、練習番号Cからニ長調に転調したところは、第2幕の冒頭で自分が、国王ナブッコが奴隷の女に産ませた子であることを古文書から知った後、周囲に唆されてナブッコを退けて自ら国王にならんと目論むシーンの音楽です。同じ娘でありながらフェネーナと違って女伊達らに戦さの先頭に立たされ剣を振るってきた自分に対する父親ナブッコの仕打ちへの怒り、国王にならんとする胸の高まりを歌います。序曲ではこの後直ぐに練習番号Dに見事に繋がりますが、その音楽は全く別の場所、第1幕から取ったものです。
 
□ 練習番号Dからの弦楽器がppで弓を弦にぶつけて演奏するところからEの先のffで爆発するところは、第1幕のフィナーレの音楽。ヘブライの神殿に攻め入ったナブッコの動きを封じるべく、ヘブライの祭司ザッカリアが以前から捕虜にしていたナブッコの実の娘フェネーナを盾に退去を要求する場面で、フェネーナを愛するヘブライ人イズマエレが彼女をザッカリアから奪い、ナブッコのもとに返します。同胞を裏切ったイズマエレを呪うヘブライ人と愛ゆえに汚名を着ることになったイズマエレを庇うフェネーナ、ヘブライ人に対する怒りに狂うナブッコ、イズマエレに横恋慕するアビガイルレ、これに合唱が加わって壮大なフィナーレを築きます(余談ですが、このフィナーレの描き方にはまだロッシーニの影響が見られます。)。

□ 練習番号Fのからの軽快な音楽(わずか16小節)は第3幕で、アビガイルレが雷に打たれて正気を失ったナブッコに対してヘブライ人の処刑を認める署名を要求するシーンの音楽。ヘブライ人の処刑にかこつけて、第2幕で愛するイズマエーレのためにヘブライ教に改宗したフェネーナ(ナブッコの実の娘)も処刑しようと計ります。この軽快さはアビガイルレが有頂天になる様を描いています。  (2000.9.27) 


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