チャイコフスキー:バレエ『眠りの森の美女』

チャイコフスキー  シャルル・ペロー(1628-1703)   フセヴオロスキー(1835-1909)
作品とあらすじ

 ヨーロッパの古い民話に取材したシャルル・ペローの童話を、リュリやラモーの古風な様式でバレエにしよう、と考えたのはロシア・ペテルブルグのマリインスキー劇場支配人フセヴオロスキーでした。彼の考えていたものはルイ14世の時代のオーソドックスな、言い方を変えれば「ありきたりな」作品だったようです。しかし、フセヴォロスキーが振付師マリウス・プティパとともに書き上げた台本をチャイコフスキーに託したところから、この作品の運命は変わったのです。

 チャイコフスキーは13年前の「白鳥の湖」初演の不評を気に病み、バレエ音楽の作曲から遠のいていたのですが、素朴な民話を題材としながら善と悪の対立というドラマチックな主題を内包する台本に惹かれ、バレエ音楽の作曲に再度の挑戦をこころみたのでした。その結果、シンフォニックでスケールの大きな土台の上に多彩な音楽が宝石のようにちりばめられたスペクタクルバレエが誕生しました。そしてそれは大変な好評を博し、忘れられていた「白鳥の湖」の再演とその成功をも招いたのでした。全体はプロローグと3幕からなります。


オーロラ姫の誕生を祝福する妖精たち カラボス オーロラ姫をカラボスから守るリラの精

プロローグ
 悪と善の激しい戦いを象徴するダイナミックな幕開けの音楽に続いて幕が開くと、そこはとある王国の宮廷。今しも王女オーロラの誕生がにぎにぎしく祝われようというところ。様々な招待客の中でも特別の敬意をもって迎えられたのがリラの精をはじめとする名付け親の妖精達。妖精達はオーロラの幸福な人生のために「優しさ」「元気」「勇気」「のんき」など人に愛される資質を幼子に与え、祝福の踊りを踊ります。
 しかし、そこに招待客のリストからもれて招かれなかったことに腹をたてた悪の精カラボスが乱入し、「姫は16才の誕生日に紡ぎ針に刺されて死ぬであろう」という不吉な呪詛をとなえて立ち去ります。
 驚き嘆く人々に、まだ誕生祝いの祝福を終えていなかったリラの精が「不吉な呪いを完全に消し去ることはできないが、力を弱めることはできる。オーロラは16歳の誕生日に紡ぎ針に刺されるが、死ぬことはなく、百年の間眠り続けることになるだろう」と予言します。王と王妃はそれを聞き、国中に糸紡ぎの禁止令をだし、すべての紡ぎ車と針を廃棄するように命じてプロローグは幕を閉じます。


誕生パーティー  ローズ・アダージョ


第1幕 
 美しく成長したオーロラ姫の16歳の誕生日。花をもって祝いにかけつけた村びと達がかろやかにワルツを踊り、求婚者達はオーロラ姫に薔薇の花をささげてプロポーズします。(ローズ・アダージオと呼ばれる有名なシーンですが、オーロラがずっとポワント=つま先立ちのまま求婚者たちの手を次々にとるという場面があり、オーロラ役のプリマバレリーナにとって最大の難所とされています)そこへみすぼらしい姿の老婆があらわれ、オーロラに花束を差し出します。オーロラは優しく感謝の意を示して受け取りますが、この老婆は実はカラボスの変装であり、花束のなかに隠された紡ぎ糸に指を刺されて倒れてしまいます。(この辺は色々な演出があり、紡ぎ車を見たことがないオーロラに、老婆が糸紡ぎをやってみせ、好奇心にかられて自分もやってみようとしたオーロラが指を刺される、というパターンもあります)驚き悲しむ人々にリラの精が魔法をかけ、城全体が百年の眠りについて幕となります。


倒れこむオーロラ姫  オーロラ姫の幻影


第2幕 
 それから百年後の森の中。狩りにおとずれたデジレ王子のもとにリラの精が姿をあらわし、イバラにつつまれた城の中で眠り続けるオーロラ姫の幻影を見せます。オーロラの美しさに魅了された王子はオーロラ探索を決意します。続く「パノラマ」はリラの精に導かれたデジレ王子が小舟に乗って神秘的な森の中を進んで行くシーンです。やがてイバラに包まれた城が霧の中に浮かび上がります。リラの精の力を借りてカラボスを退けた王子が、眠っているオーロラにそっとくちづけすると城にかかっていた魔法がとけ、人々が目を覚まし、城は一気に活気を取り戻すのです。


長靴をはいた猫と白猫 青い鳥 赤頭巾ちゃんと狼 シンデレラ


第3幕  《3ヶ月ほどたったある日 アンフェール関門近く》
 オーロラとデジレの結婚式。招待客たちは他の童話の登場人物たちです。妻たちを従えた青ヒゲ公、青い鳥とフロリナ王女、長靴をはいた猫と白猫のペア、赤頭巾ちゃんと狼などなど。もちろん妖精達も祝いにきており、宝石の精たちがお祝いの踊りを踊ります。最後にオーロラとデジレがグラン・パ・ド・ドウ(男性ダンサーと女性ダンサーのペアの踊り。二人で踊るアダージオ、それぞれ一人で踊るバリアシオン、再び二人で踊るコーダの4曲構成が普通です)を踊り、リラの精が善なる力の勝利を宣言して華やかなフィナーレを迎え幕を閉じます。


オーロラ姫  オーロラ姫とデジレ王子  オーロラ姫とデジレ王子  


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