R.シュトラウス : オーボエ協奏曲

R.シュトラウス フィラデルフィア管弦楽団でのジョン・デ・ランシー(左端) ジョン・デ・ランシー R.シュトラウスとランシー
 1945年、24歳の米軍の軍曹だったジョン・デ・ランシー(1922〜2002)はガルミッシュ・パルテンキルヒェンの山荘に隠遁していた老R.シュトラウスの元を何度か訪れ、ある日「あなたは『ドン・ファン』や『ドン・キホーテ』であんなに美しいオーボエの旋律を書いているのに、オーボエ協奏曲を作曲しようと思ったことはないのですか?」と訊きました。ランシーは従軍する前、実はライナー指揮するピッツバーグ交響楽団のオーボエ奏者だったのです。その時、シュトラスの答えはそっけなく「No」でした。その数ヶ月後、ランシーは南太平洋で従軍していた弟から手紙を受け取ってたまげます。沖縄米軍基地発行の新聞の切抜きが入っていて、そこには「世界は有名なR.シュトラウス、81歳の作曲家、のペンから新しいオーボエ協奏曲を受け取るであろう。あるアメリカ兵士がオーボエ作品の作曲を依頼したからである。」と。なんとあの時の何気ない会話が作曲家の心に火を灯し、後世オーボエ奏者にとって重要なレパートリーとなるこの曲を生み出すことになったのでした。

 軍務から戻ったランシーはその後31年間もフィラデルフィア管弦楽団で活躍します(左から2枚目の写真。一番左が首席のランシー)。作曲家から米国初演を申し出られながら事情があってその栄誉は他に譲っていますが、ランシーはこの曲を生涯愛し続けました。「たとえ交響詩であっても指揮者はモーツァルトの交響曲のようなアプローチすること学んで初めて細部が透けるように浮き上がってくる」と作曲家自身から言われたランシーはこの曲を小編成のオーケストラで演奏するのを好んだそうです。
 17歳でワーグナー知ってから一貫してその心酔者だったシュトラウスですが、晩年は再びモーツァルトを意識した音楽への傾斜を強め、ようやくこのオーボエ協奏曲で「芸術の成熟」=「節度への到達」というひとつの回答を見出したのでした。
現在もシュトラウスの遺族が住む家(2005年3月2日撮影) ガルミッシュ・パルテンキルヒェン駅から徒歩30分くらい、住宅群の外れにある 家の裏から後方の山を望む

ガルミッシュ・パルテンキルヒェン駅 セント・マーチン教会 駅をはさんで反対側にあるR.シュトラウス協会の中にある図書室
 この協奏曲の完成は1946年、前年に終結した第二次世界大戦が既に老境にあったシュトラウスに暗い影を落としていた時期にあたります。しかし、意外にもこの曲はとても穏やかな調子で書かれていて、牧歌的雰囲気の中をデリケートなオーケストレーションが美しい彩りを添え、透明感あるオーボエの旋律が見え隠れする魅力溢れる作品に仕上がっています。弦楽五部とフルート、クラリネット、ファゴット、ホルンが各2本に、イングリッシュ・ホルン1本を加えたオーケストラの伴奏で、3つの楽章が切れ目なく続けて演奏されます。

 第1楽章は、2小節の短い序奏の後、オーボエ・ソロが吹くラプソディー風の主題から始まります。その流れるような旋律は途切れることなく延々57小節間も続き、開始早々独奏者は大きな試練に立たされることになります。冒頭の序奏では16分音符の反復音型がチェロによって奏されますが、この音型はその後何度も様々な楽器によって繰り返され、さらには変形して別の主題になったりと全体に統一感を持たせる働きをしています。またこの音型は、1921年作のバレエ『泡立ちクリーム』における「泡立ちクリーム(ホイップ・クリーム)のワルツ」と同じであり、そのバレエがお菓子をたくさんもらって喜びはしゃぐ子供たちを描いたもので、シュトラウス自身ウィーンのデーメルのお菓子に目がなかったことも考えると、作曲家が何をイメージしてこの曲に取り組んだかを想像することができます。曲は中間部にテンポの速い部分を含む自由な3部形式と見ることができます。

 第2楽章も、つぶやくような16分音符の音型を引継ぎながら開始され、終始曲をリードするオーボエのソロが前の楽章と共通性のある旋律をゆったりと奏でます。楽章の最後に置かれたカデンツァは弦のピチカートを従えたもので、終止することなくそのまま第3楽章を導きます。

 ロンド風の第3楽章に入ると、弾けるような陽気で鮮やかなパッセージをオーボエ・ソロとフルートが掛け合い、次いで第1楽章再現部で登場したモティーフをもとにオーケストラがリズミカルに応えます。この楽章のカデンツァはいくつかの主題を組み合わせた短いもので、その後に比較的長いコーダが続き華やかに曲を閉じます。このコーダは初演後にシュトラウス自身によって書き直されたものです。
2004.12


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